九月。学校生活がまた始まる。制服を着るのはもうとっくに慣れているし自習室に行く時に着ていたけど、やっぱり久しぶりのクラスメイトに囲まれるという体験は新鮮だ。
「……夏休み、終わっちゃったね」
体育館での全校集会の帰り、隣を歩く真山くんが私に声をかける。
「まあでも無事に終わってよかったよ、少なくとも私たちのクラスでは欠席どころか遅刻もいない」
「そうなの?」
「椅子空いてなかったでしょ」
「よく見てるね……」
「それと宿題をギリギリに終わらせて寝坊した人がいないのも何より」
ちなみに私はこれを中学三年生の頃にやりました。まああの頃はちょっと遅刻も多かったからな。そう考えると高校デビューに成功したんじゃないか?
「そういえば和乃さんって、宿題ちゃんとやった?」
「もちろん」
まあ真山くんへのちょっとした対抗心がなかったらまだ終わっていなくてもおかしくなかったけどね。
「……写させてもらえばよかったな」
「先生がちゃんと採点してたらわかるよ?」
「計算問題とかは答えはそう変わらないから大丈夫だよ」
「そのくらいだったら写す方が手間では?」
まあそんな話をして、教室でまたホームルームをして、クラス委員が頑張ってワークとかを回収していく。まあ一部は既にファイル形式で提出してあるし、それは今日の日付が変わった瞬間に採点されて戻ってきたけどね。
「あー、もう疲れた……」
涼しい教室から出たくないとばかりに私は机に倒れ込む。気がつくと人がほとんどいなくなっていた。
「鍵、閉めようか?」
力の抜けている私に真山くんが言う。
「おねがい……」
「そのためには出てもらわないといけないんだけれども」
「気合い入れるか……」
机を手で押してなんとか立ち上がる。なんだろうな、真山くんと二人きりで毎日自習室に行っていた時とそう違いはないどころかむしろ今日の方が動いていないはずなのに精神的な疲れみたいなものがある。
「明日から授業だね」
「もうちょっと余裕ってものが欲しいよね」
渡り廊下を歩きながら言う。こういう時に私は鍵を手の中でくるくるさせて三回に一回は落とすのだが、真山くんはそういうことをしない。つまらなくないのかな。別に鍵回しが楽しいわけじゃないけれども。
「鍵です」
真山くんが渡した鍵は無言で先生に回収される。まあ、休み明けで気合が入らないのは先生も同じか。ちょっと会釈しておこう。
さて、今日は午後がまるまる空いているわけである。健全な少年少女が半日暇があったら何すると思いますか?途中まで一緒に帰るんだよ。
「お昼どうする?」
「お腹空いたけど……どこか行く?」
一応我が校は買い食いとかについては特に何も言われていないのである。別の学校にはあるらしいけどね。
「早くしないとランチタイムは終わっちゃうしね」
午前中いっぱいに色々やったせいで、終わって帰るとまた微妙な時間になってしまう。まあおやつの時間よりは早いからいいんだけれども。
「……そういえば、和乃さんとなにかを食べたことってあまりなかった」
「そうなの?」
「ループの時とかはよく食べたけど」
まあ旅行とかしたら食べる必要があって、そうなると一緒に食べることになるからね。
「私はお昼、学食だからなぁ」
「僕はお弁当。今日はないけど」
「なるほど」
今まで気にしたこともなかった。そう考えると私は真山くんのことをよく知らないんだよな。真山くんも私の秘密を知っていない以上同じようなものか。
「……で、どこにする?」
「……学生料金のあるラーメン屋があるってこの前友達から聞いたんだけれども」
「ラーメン。あまり食べたことないな……」
そりゃたまに親がいない時とかインスタント麺で済ませちゃうことはありますよ。あの駄な感じはいいよね。でもあまり出かけて食べるってことはない。
「行ってみる?」
「いいね。場所は?」
「ちょっとここから逆方向なんだけれども」
そう言った真山くんと一緒に止まって右向け右。さっきまで歩いてきた道を戻っていく。
「……というか、その友達と話したのっていつ?」
「……気になるの?」
「いや、最近まで夏休みだったわけで」
「……それでも呼ばれたら会ったりするんだよ」
「休日の話?」
平日は基本的に高校の自習室で私といたはずなのだ。
「……うん」
「……変な罪悪感とか持ってないよね?」
なんか後ろめたい雰囲気を感じたので確認しておく。
「……ない、はず」
「別に私のためにそこまで時間を使わなくてもいいし、他の人たちと遊ぶのも大切だからね?」
「……和乃さんって、結構嫉妬するタイプだよね」
「そんなことないが?」
そう言ってから少し考える。うーん、結構嫉妬するタイプかもしれんな。
「……そう」
「いやごめん、します。なんだかんだで私は真山くんに対して独占欲があるし不当に権利を制限したいと思っています……」
「そういう言い回しされるのは初めてだな……」
「……普通の言い方すると、恥ずかしくて頭が止まっちゃうから」
「ああ、なるほどね。あとここ曲がるから」
一歩余計に踏み出していた分を戻って、私はあまり通らない交差点を曲がった。