「あんのアホどもがよ……」
放課後。相変わらず
「どういう感じなの?」
そう隣から聞いてくるのは私にこの案件が回ってきた元凶の一人、真山くんである。苛ついてエンターキーを叩く指に力が入ってしまう。いやその、別に彼が悪いとかそういうのではないってわかっているんだけれども。
「ファイル拡張子がわからないとか、ネットで雑に調べた結果で注文するとか、そういうのほんとにやめて欲しいんだよね……」
まあどういうことかというと、クラスTシャツというやつである。ご存知ですか?体育祭と文化祭のときに着るシャツをクラスごとに作るんです。個人のお金で。
いや、別にそこの出費をケチるほど私は心狭いわけではないですよ。そういう一体感が生む高揚についての知識はあります。暴走すると碌でもないことになるのも知ってます。
ただね、安いからといってちょっと専門的な業者さんに投げて拡張子が違うって言われて思考停止するの本当にやめようよ。ちゃんと日本語の文章読んでくれ。
というかせめて画像ファイルを送れよ。なんで文書ファイルで送るんだ。それもスマホで撮った写真を貼り付けたやつ。その写真をそのまま送ればいいだろ!
「……できそうなの?」
「デザインを今から色ごとに起こして……ええと、明日中に送る必要があるんだよね?」
早く予約するとその分割引が効く。まるで印刷会社だな。いやTシャツに印刷しているからどう考えても印刷会社か。特別料金払えば一週間切っていても作ってくれるあたりも同じだ。
「うん……」
「……このタブレットじゃ埒が明かないな」
学校で配られるパソコンはどうしてもスペックが低い。学校の回線も遅いし、何より変なソフトウェアを入れられない。解除に必要なパスワードは今どきはちゃんと管理されているだろうから、適当に打つのも良くないだろう。
「家に帰ってやる?」
「そうだね」
ええと、この手のファイルを編集できるソフトは中学時代に卓のロゴを作ったやつでいける。画像データをトレースする機能もあるらしいから、色ごとに抽出して……よし、できるな。
「……和乃さんって、あまりこういうことしないって思ってた」
「そりゃそうだけどさ、あのラーメン屋さんを教えてくれた人を無下にはできないよ」
「そういう基準なんだ……」
「冗談だよ」
私は中学時代はそこらへんあまり楽しみませんでしたからね。青春を過ごしてみたいじゃないですか。おまけで恋人みたいな人もついてきています。完璧だな。
「……ごめんね」
「真山くんは悪くないよ、お礼は直接本人に言ってもらう」
それにしてもメール相手の業者さんは冷静だな。まあこういう中高生を相手にすることも多ければ対応も慣れたものになるか。そう考えると冷たさすら感じられる文面だった。
「それでも、話してみたらって言ったのは僕だから」
「……まあ、私から話すことはなかったからそれについてはお礼を言うよ」
そう言ってキーボード付きのカバーをタブレットにかけて鞄にしまう。ええと、今から頑張ればなんとかなるな。徹夜にならなきゃいいけど。やり方一から調べてってなると時間がかなりかかるんですよね。
「ああ、あとメールアドレス教えさせて。学校用のでもいいけど」
「そんなものあるの?」
「一応全員に学籍番号もとにしたやつがあるんだよ、これのログイン時に使っている」
しまう最中のタブレットを叩いて言う。これが配られた時の学校が作ったパンフレットに外部の人と連絡する時はそのアドレスを使いましょうってあったからな。まあネットでは最近授業で聞かれたから無料で教えてくれみたいなメールに辟易してる人の愚痴とかが流れてくるけど。
「……詳しいよね」
「まあ、得意な方ではあるから」
一応情報の授業やってるし義務教育からずっと電子機器触っているのになんでできないんだよ、と言おうと思ったが私はバレーボールが全くもってダメなんだった。中学でやった記憶はあるんだけれどもな。
ちなみにこれは全員どれかの競技には出なくちゃいけない体育祭で私が選ぶことになったやつです。スタメンではないので一回戦で敗退してくれれば動かずに済む。ここまで不純な覚悟で体育祭に挑むの、私ぐらいのもんなんじゃないか?
「……何か、報酬みたいなものがあった方がいい?」
「体育祭実行委員が別に何かもらっているわけじゃないでしょ」
「……個人的に」
「そうだね、全部終わったら褒めて」
「わかった」
「よろしく。……あと、今ちょっとお願いを聞いてもらってもいい?」
「……なに?」
「鍵閉めお願い」
「……ここは守衛さんが閉める部屋だよ」
「あっそっか」
夏休みの間は自分たちで鍵を借りて返す方式だからすっかり忘れていた。そうか、教室と違って最後の人って概念が薄いもんねここ。ちょっとだけ気が楽になったな。さて、帰って作業をしよう。