今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 三回目 十六周目

高校に入って最初の中間試験のテストを改めて確認しながら、私は少し笑みを浮かべる。

 

和乃(カズノ)さん、話っていまできる?」

 

そういう声が聞こえて返却された解答用紙から目を上げると、同級生である真山(サナヤマ)くんがいた。

 

「……いいけど」

 

馴れ馴れしいんじゃないか、と一瞬思ってしまうがなんか変だ。ええと、私は彼が馴れ馴れしいと思っていると同時にそうでもないなと思っている。後者の理由はなんだろう。

 

「ちょっとここだとあれだから、廊下で」

 

そう言って親指で私から見て右側を示す彼についていきながら、少し自分の気持ちを考える。

 

私は基本的に教室ではあまり人と話さない。真山くんと話したことも記憶にはない。ただ、思ったよりいいやつだという第一印象があった。馴染みのある人、みたいな。

 

だから馴れ馴れしいと思っても、あまり嫌な感じはしなかったのか。つまりそうか、彼も隠れSFオタクだな?たぶん違う。でもなにかそういう趣味があるのかも。

 

「……和乃さん?」

 

「っと、ごめん。何?」

 

考え事をしていたらいつのまにか廊下にいた。周りに人気は少ない。とはいえ声を出せば教室の中から誰かが来るだろう。

 

「和乃さんはタイムリープって信じる?」

 

「意識のみの時間跳躍?人間の主観とかいう曖昧なものに依存しているから、タイムマシンとかを使ったタイムトラベルよりはちゃんと原理を考えるのは難しいと思う」

 

「……証拠がある、って言ったら?」

 

「未来の予言、とか?いくつか手法はあるけど」

 

「和乃さんのスマートフォンの中のアプリに、ワンタイムパスワードを作るやつがあるでしょう?」

 

そう言って彼は紙に書かれた五つの英数字を見せる。ってそれ英語の解答用紙の裏側では?

 

「……まあ、確かに証明にはなるけど」

 

もし彼の言葉が正しいとしたら、彼は既に私と何回かやり取りをしている。ワンタイムパスワードを使うってアイデアは私のものだ。たぶん。前に考えたことがある。

 

だから私がワンタイムパスワードを教えて、そこから問いかけて。まだ周が浅いのかな。

 

「三周目?」

 

「ううん、もう十五周ぐらいしてる。和乃さんの小学三年生の時の秘密も聞いた」

 

書かれた通りのコードが映るスマホを持った私は、その言葉にちょっと止まってしまう。

 

「……わかった。何が必要?」

 

「いや、話したかっただけ。確か十周目で和乃さんと最低限共有したいことはできたから、他のことをしてた」

 

「他のことって?」

 

「あまり話したことないクラスの人に、どんな人なのか話しかけてみるっていうもの」

 

「……怖くないの?」

 

たとえループしたとしても、自分の中で失敗を消せるわけではない。いや消せるって考えられる方が楽なんだろうけどさ。少なくとも私は消せそうにない。

 

「怖いよ。でも慣れた」

 

「……だから、話すのが上手なのか」

 

距離感とか、そういう私には言語化しにくいもの。それを彼はいい具合に掴んでいる。たぶん、私以外とでもこんなふうに距離を近づけられるのだろう。

 

「って待って、まだ十五周しかしてないのにそこまで手慣れてるの?」

 

「あっごめん、タイムリープ自体は何回も経験しているんだ」

 

「……なるほどね」

 

納得した。ってことはその度に誰かに声をかけてきて、ループから出たらその感覚を忘れない内にまた声をかけてとかしてるのだろう。そりゃあ強いわけだ。

 

「いつもはもっとすんなり色々な人に話しかけられるんだけど、和乃さんと話しているよりもなんていうか、似たような感じがして」

 

「ループってそういうものでしょ?世界に初期値鋭敏性があっても短い時間だと影響の拡大は少なくなるし、示せる感情のパターンは案外限られるのかも」

 

「……どういうこと?」

 

いま絶対早口になって変なやつだと思われていたよな。感情をちゃんと表情で隠せるような感じならこの顔の下に呆れとかがあるのかもしれない。嫌だ。

 

会話の失敗を引きずるような私に自己嫌悪をちょっと持ちながら、どう説明するべきかを考える。

 

「二重振り子、カオス理論、初期値鋭敏性。聞いたことのある言葉はある?」

 

「どれもない」

 

「……あとどれぐらい時間がある?」

 

「あまりない」

 

メタルバンドの腕時計を見て真山くんが言う。

 

「……ものすごいいっぱい話したい。けれども、それは次の私に任せる」

 

落ち着け。重要なのは私が楽しく話せるかじゃない。彼が必要な情報を手に入れられるかどうかだ。タイムリープをしててこの手の知識がないなんてあるのかと思ったが、そもそも知らない人は聞いたこともないしな。

 

「次の私に……ああいや、色々覚えてることも多いよね。あまり色々と言わないほうがいいかな?」

 

「大丈夫。パスワードは何周かしても思い出せた。もし駄目だったら適当なの書いて見せてもらって次の周でどうにかするつもり」

 

「賢い……」

 

なら、説明もきっと理解できるな。伝えるのは単語二つでいいか。これだけあれば私なら余裕でわかる。

 

「蝶と竜巻について教えてって言って。タイムリープの証明はしてもしなくてもいい。SFが好きって言ったら、たぶん私は調子に乗って色々と話すよ」

 

「そういう話をしている時の和乃さん、いつも楽しそうだからたぶん間違いないよ」

 

私は苦笑いをこぼす。

 

「……ちょっと恥ずかしいな、そういうふうに言われ

 

[十六周目終了]

 

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