高校一年生 六回目 二周目
「和乃さん、二周目」
無理やり立ち上がると眼の前がチカチカとする。血が頭から抜けていく感覚があって、思わず身体の力を抜いてしまう。
「……うぅ」
「大丈夫?」
床にぺたりとなってしまった私を真山くんは抱きかかえるように起こしてくれる。かなり体重をかけながらだけれども、なんとか立ち上がることはできた。
「……現状把握からいこう。次の周の私が今よりマシとは限らないし」
「辛そうだけど、いいの?」
「休み時間で運が良かった」
「……実際は、授業中からだけど」
「なら、保健室とかに連れて行ってくれてもいいからね」
呼吸が落ち着いてきた。心臓の高鳴りはまだ終わっていないがこれはそうです、真山くんの熱をさっき感じたせいです。決して体育祭の疲れとかではないです。いや後者かな。体力の無さを認めたくない。
「ええと、ああ、そっか、次は理科室か」
見渡すと教室にはあまり人がいなかった。止まっていた頭が動き出した感じがある。少しだけジャンプ。血圧を上げて脳に回る血を増やそう。
「……でも、行かなくていいよ」
「そんな短いの?」
「三十五分ぐらいかな。授業開始から十分もせずに終わる」
「ふむ……」
ということは授業の終わり際がスタート、休み時間の間はループ期間で化学基礎が始まってからしばらくしたらループの一周が終了か。なかなか今の判断力は悪くないな。メタ的に自分を見るぐらいの事はできている。
「和乃さんが辛いようなら、声はかけないけど」
「推定で何周?」
「……五十?六十?そのくらいのはず」
「わかった。今周の私からのお願いは正確な時間と周数をカウントすること」
「……やってみる」
「ま、裏技は用意してあるけどね。自販機行くよ」
「……どういうこと?」
ふらつく私は鍵も閉めずに教室を抜け、廊下を進み、階段を降りる。時間的には余裕があるはずだ。歩きながら自分のプランを考えていく。
「飲み物を奢るよ。ただし、飲み物は真山くんが選んで」
ポケットの中で財布を開け、小銭入れの場所に指を突っ込んで硬貨の枚数を確認。大丈夫だ。あの中で一番高いエナジードリンクを二本買えるだけのお金はある。何なんだろうなあの値段。ちなみに飲んだことはない。味の感想は終わったら聞けるから楽しみにしておこう。
「……もしかして、飲み物と今が何周目かを対応させるつもり?」
「よくわかったね、それならなんとかなるでしょ?」
「確かに」
そうこうしている間に目的地に到着。左上から一つ、二つ。右手に掴んだ硬貨を突っ込み、ミネラルウォーターのボタンを押す。がたんという音。おまけでもう一回。この自販機が連続購入対応タイプでよかった。なおあたり機能はついてない。別の場所にある自販機にはある。
「……ほら」
私はペットボトルを手に取って、真山くんに渡す。もう表面が湿ってきていた。もう十月で、一応は秋だぞ。
「……ありがとう」
「どういたしまして。次から自販機で飲み物を買うから奢ってって伝えてくれればたぶん私はこのアイデアにたどり着くから」
想定していた短時間ループのシチュエーションの一つだったが、使える条件がそれなりに限られていたのであまり練っていないアイデアだ。とはいえちゃんと機能はするはず。
問題として考えられるのは記憶のリセットとかかな。それでも視覚、嗅覚、味覚の三つは使えるし、それでうまく上書きされてくれればいいが。でも同じ飲み物が連続するときもあるから、その時は場所を覚えてもらう必要がある。
「……水だね」
「まあそういうものだからね」
私も飲むべくキャップを開けようとするがどうにも滑ってしまう。手をブレザーで拭いてリトライしてもうまく行かない。
「開ける?」
「お願い……」
渡すとぺきりと彼は軽く開けてくれた。なんならもう開いている方でもいいんだけれどもね。
もらった水を一口。あれ、全然喉が潤った感じがしない。ごくごくと飲んでも、胃袋に流し込んでいるだけな感じがする。
「……おいしい?」
「脱水かもしれないね」
一息で半分強を飲み干してしまった私はなんとか言う。このままだと小さいペットボトルのジュースとかだと一瞬で消えてしまうな。
「……もしかして、身体だるいのって」
「……かもしれない」
そんな感じで時間を過ごしているとチャイムが鳴った。授業が始まって、この場所に来る生徒はまずいなくなるわけだ。
「どうする?」
真山くんが聞いてくる。
「サボろうか」
ゴミ箱にからのペットボトルを投げながら私は言った。プラスチック同士がぶつかって、軽い音が何回か響く。
「……入ってないけど」
「入るまでやるんだよ!」
ゴミ箱の構造的に、かなり真正面から入らないといけないやつだ。改めて拾い直して、腕を構える。
「よっ」
全然ダメだ。どうしようもない。
真山くんも無言で投げたが、狙いはいいのに角度が悪かったのか跳ね返されてしまった。
「……練習する」
「私との貴重な時間をそんなことに使っていいの?」
「……うん」
「まあいいか」
結局私たちは、時間も忘れてペットボトルを投げ続けた。なおどちらも一回も入らなかった。