今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 六回目 八周目

「八周目」

 

真山くんの声がする。

 

「……ちょっと、待って」

 

身体を起こす。視界が暗くなっている。少しすると落ち着いたが、どうやら調子はあまり良くないようで。

 

「飲み物、買っておいたよ」

 

「……ああ、なるほど」

 

自動販売機を使ってループの回数を覚えていようってやつだな。見渡すと教室の中にいるのは私と真山くんだけだ。

 

ペットボトルの蓋を力の入らない手で開けようとして、既に開いていることに気がつく。

 

「……何してるの?」

 

ラベルを剥がしている私に真山くんが聞いてくる。

 

「変なものが溶けていないか確認」

 

「どういうこと?」

 

「蓋の空いたペットボトルをそのまま受け取るほど私は能天気ではなくてね」

 

溶け残りのようなものはなし。色も真山くんが飲んでいるものとそう変化はない。

 

「……気になるなら、こっちにする?」

 

「もう飲まれてるでしょ」

 

「だからだけど」

 

「まあ実際に考えたら動機はそこまでないか。あとどれくらい?」

 

「十分もないよ。ループ自体は三十六分と四十七秒」

 

「……随分、正確だね」

 

「二周目の和乃さんに頼まれたからね」

 

ちょっと自慢げな真山くん。結局私は自分のペットボトルに口をつけて、甘みの強い液体を喉に流し込んでいく。

 

「ぷはっ」

 

「脱水を起こしていると思うよ、教室でループ終わるまでゆっくりしたほうがいいと思う」

 

「授業をサボるようになるとは、真山くんも悪くなったものだね」

 

そう言って私は少し笑おうとしてむせてしまう。

 

「……大丈夫?」

 

「ちょっと喉の奥に入っただけ。問題ないよ」

 

「あとそうだ、本って持ってる?」

 

「ええと、今日持って来ているやつは……」

 

そう言って鞄をひっくり返すようにして紙がぱんぱんに詰まったクリアファイルとか劣化しつつある輪ゴムとかスーパーのレシートとかの中から本を出していく。全部で三冊。

 

「……これ、何で持ってるの?」

 

「いや一冊目読み終わったら二冊目が必要だし、二冊目を読み終わった後で三冊目を鞄に入れるのも面倒なので……」

 

「重くない?」

 

「慣れた」

 

「……僕のため、だったりするの?」

 

「……ごめん、そういう意図は持ってないんだ」

 

一応本を買うときとかに真山くんに紹介できるやつかなとか考えてないわけではないですけどね、でも何冊も入れているのは私の趣味です。

 

「ならよかった」

 

「いいの?」

 

「和乃さんがさ、いつ始まるかもわからないループのために毎日重い荷物持ってたとかだったらちょっと重いなって思って……」

 

「特に理由もないのに無駄な本を詰めている相手だってほうが問題なのでは?」

 

みたいなことを言っているとチャイムが鳴った。残り時間はあと少し、か。

 

「ええと、これとこれが日本語。こっちの文庫のほうは翻訳。で、これが英語だけど真山くんは読めるかな……」

 

「集中力は切れにくいからやってみる」

 

「……ループの影響?」

 

「うん、タイムリープすると調子が良くなるっていうか、その戻った瞬間の体調になるっていうか」

 

「なら徹夜したタイミングとか、今の私みたいな時に始まると辛そうだね」

 

「……うん」

 

言ってから気がついたけど、真山くんは私もループで一緒にいるって錯覚していないかな。私は確かに今辛いけど、それを受け継ぐことも引き継ぐこともないのだ。問題は真山くんにその辛さを無意識に押し付けてしまうことで。

 

「私の鞄から本は好きに取っていいよ。何か言ってくれればたぶん察せられるはず。ダメだったら、言葉を足して」

 

「わかった」

 

そう言って、真山くんはいつの間にか空になっていたペットボトルを持ってバスケットボールのシュートにも似た姿勢を取る。

 

「何するの?」

 

「ゴミ箱に入れる」

 

「……まさか、これを何回も?」

 

「教室でやるのは初めて」

 

そう言って投げられたペットボトルは概ね教室隅のゴミ箱に向かって飛んでいったが、カンの方に入っていった。

 

人差し指を立てて測定。指二本分か。

 

「左に40ミルぐらいズレたね」

 

「……なんて?」

 

「いや、気にしないで」

 

度で言ったほうが良かったかな。それだと2度とかだろうか。まあいいや。

 

「……再挑戦していい?」

 

「良いんじゃない?」

 

私がそう言うと真山くんはペットボトルを取りに行った。私が立ち上がっても良いんだけれども身体が重いんだよね。ごめん。

 

「……次は入れる」

 

「終わる頃には上手になっているといいね」

 

「頑張る」

 

そう言って投げられたペットボトルは綺麗に適切なゴミ箱に分別された。

 

「よっし!」

 

「楽しそうだね……」

 

まあ、そう言う私も多少は気が楽になったんだけれどもね。

 

「……ねえ」

 

私は真山くんに声をかける。

 

「なに?」

 

「もしかして、私が楽になるような行動をしている」

 

「……あからさまだった?」

 

「いや、大丈夫だと思うよ、もう少し隠せば最後まで私を騙しきれると思う」

 

いいのかなこの言い方で。私もちょっとだけ残っていたスポーツドリンクを飲み切って、ペットボトルをけっこう狙って投げた。そもそもそこまで届いてすらくれず、教室にプラスチックの軽い音が響いただけに終わった。

 

[八周目終了]

 

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