今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 六回目 二十三周目

「本、借りるよ」

 

チャイムが鳴っても動く気力がなく机にうつ伏せになっていると、真山くんの声が聞こえてから私の鞄を漁っているらしい音がした。

 

「……何周目?」

 

「二十三」

 

「そんなに……」

 

となると数時間とか数十分とかのスケールだろうな。なんとか目を上げると、真山くんは本のページをめくっていた。

 

ぼんやりした頭で開いているページの場所を確認する。たぶん終盤だ。

 

話しかけることも難しいなと思ってあたりを見渡すと、どうやら次が移動教室らしくどんどん人が廊下に向けて出ていっていた。

 

「化学基礎の実験だっけ」

 

「そうだけど、ループ終わってからでも間に合うよ」

 

「なるほど」

 

ということは今周が終わるまであと十五か二十分といったところだろうな。

 

「どうしよっかな」

 

時間ができてしまった。何かやってもいいが、どうせなら楽しいことをしたい。

 

「……いいところまで読み終わったら、自動販売機に行かない?」

 

「なるほど、いいよ」

 

では移動のために準備として身体を動かしておく。息切れはかろうじてしないが、それでも全体的に怠いし重たい。

 

「……ここまで」

 

「行こうか」

 

一応タブレット端末を持っていく。真山くんも抱えていた。

 

「まだ私はあれ読んでないんだけれども、面白い?」

 

「内容について話したいから早くループが終わって欲しい」

 

「どうせ時間かかるんだからゆっくりしなよ、あとたぶん明日になるかな……」

 

徹夜して本を読むのが健康とかに良くないことはよくわかっているが、好きな同級生と話せる共通の話題を手に入れること以上に大事なことは私みたいな思春期の少女にはそうそうないのですよ。

 

「……うん」

 

「あとまあ、辛くなったら適当にスキンシップとかしなよ?」

 

ストレス軽減の役に立つ、なんて話はよく聞くのだ。ええ、決して身体がだるくてよくわからないイライラがあって真山くんにくっつきたいとか、そういうのではないです。

 

「……そうしてる」

 

「ならいいけど」

 

というわけで自販機。ええと二十三ってことは、もう冷たい飲み物も次で終わりか。ボタンを二連続で押して選ぶはエナジードリンク。

 

「……飲んだことある?」

 

真山くんがちょっと不安げに聞いてくる。

 

「ない」

 

私はきっぱりと答える。こういうのに頼ると良くないってネットで見た。

 

「……行こうか」

 

「そうだね」

 

真山くんに一拍遅れてプルタブを引き、缶の中身を口の中に注ぎ込む。

 

舌にまず触れたのは変な甘さ。そして口の中にフルーツと呼んではいけないような奇妙でジャンキーな香りが広がる。

 

一拍遅れて炭酸の焼けるような感じが喉の奥に来た。なんとか涙目になりながら口の中にあった分を飲み干して、咳き込みながら二酸化炭素を吐き出す。

 

「なにこれ……」

 

そして少しだけ残る苦味というか薬っぽい味。なるほど、これを隠すためにあの甘さと匂いと炭酸があるのね。くるりと缶を見るとなんかよくわからない化学物質の羅列。

 

いやわかってますよ、保存料とか着色料とかの使用される範囲は問題が起こると知られているよりもずっと低く制限されているってことぐらいは。ただ、それはそれとして、だよ。

 

そしてその中にある砂糖類とカフェインの文字。うん、良くないねこれ。

 

「……あのさ」

 

絶望混じりの声で真山くんが言う。

 

「なに?」

 

「……次も飲まなきゃいけない?」

 

「美味しくなかった?」

 

「いや、飲める。飲めるのが怖いというか……」

 

「そっか……。ご褒美になるかはわからないけど、残り、飲む?」

 

あと何口か分はまだ私の缶に残っている。

 

「……その、それは、自分で飲みなよ」

 

「はい」

 

まあループが終わるまで先延ばしにして、もし終わらなかったら飲み干すとかでもいいのだが。

 

「……僕は飲むよ」

 

意を決したように真山くんは言って、辛そうな顔で液体を胃袋に流し込んでいた。

 

「えらい」

 

私は苦手な食べ物とかはこっそり避けたりしてしまうが、真山くんはちゃんと正面から立ち向かえるのか。

 

「うーん……」

 

「大丈夫?」

 

「ループが終わらずに次に行けば大丈夫……」

 

「……精神的なダメージは残るんだから無茶しちゃダメだよ」

 

「無理してない……」

 

「別に自動販売機は周の数を覚える助けであって、全種類飲まなくちゃいけないってわけじゃないからね」

 

「……うん」

 

「よろしい」

 

まあ私も飲んでしまうか。そう言ってまた一口。いやこれありかもしれないな。炭酸が痛いけれども、それ以上に甘さと風味がある。

 

いやダメだろ、炭酸を上書きしてくる甘さと風味ってなんだよ。一応なんとか飲めた。胃袋が変な感じになっている。

 

「よっ」

 

真山くんがを投げた空き缶は、ゴミ箱の正面からまっすぐに入れた場合にしか入らない入り口にカコンと当たって跳ね返った。

 

「……拾おうか?」

 

「……自分で拾うよ」

 

「ちゃんと手で捨てたほうがいいよ」

 

「ペットボトルだとかなり上手くいくんだけれども、この形の缶は初めてで……」

 

自分の手の中の缶を見ると、確かに妙に細長い形をしている。

 

「……私もやってみよう」

 

コントロールが下手くそだったので、缶は真山くんの脇をすり抜けてぜんぜん違う場所に飛んでしまった。

 

[二十三周目終了]

 

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