「……静かだね」
私が目を上げると真山くん。まあさっき声をかけられたしページをめくる音がしていたからね。
「次、移動教室だから」
「わかってる」
そもそも本を読んでいるってことは十中八九ループ中だ。で、その真山くんが別に焦っていないということは気を抜いてもいいってことで。なのでさっきまでたぶん寝てました。
いや体育祭で体力使い切っちゃって回復しなくて意識がいい加減とか、そういうわけではないです。
「……つらい」
私はうつ伏せで呟く。
「体調?」
「そう」
そう言って立ち上がる。ちょっとだけ寝てしまったので眠気が出てきた。どういうことだよ。さっきまでは眠気を意識できないぐらいに余裕がなかったとか?
「……抱きしめたりしようか?」
「それで元気出るものかな……」
頭の中のどこかで出ないわけないだろみたいな考えが浮かぶが物語の読み過ぎだ。そんなほいほいテンションが上がるか。いやどうだろう。実際にやってみないとわからないな。
「自販機まで行く?」
「そうだね……」
自販機か、そうか、確かに回数覚えるにはいい方法だな。ということでなんとか立ち上がって、隣の真山くんと一緒に廊下に出る。教室の鍵は開けっ放しだ。
「自動販売機ってどれぐらい入っているんだっけ」
「一段で十二個。で、三段だから三十六かな。もちろんダブっているものがあるけど」
「今の時期は温かいやつがあるから……今周から?」
「そう」
「ちょっとぬるい時期だけどな……」
夏休みの頃みたいな殺しに来ている温度ではないが、今でも温かい日はブレザーがいらないぐらいだ。夏服とか冬服とかいう概念が役に立たない現代である。そろそろコートとか必要になる時期かな。
「あ、前の周はエナジードリンクだったんだ」
硬貨を入れながら言う。
「和乃さんは二回とも変な顔になってたよ」
「……真山くんは?」
ちょっと熱くて触れないので少し待っている。
「なんとか飲んだよ」
「そう……。ところでここらへんのコーヒーの違いってわかる?」
ちなみに今周はコーヒーだ。そしてここから五連続でコーヒーだ。種類としては三種類だけどね。
「違うの?」
「わからない」
まあそうか。でもいいな、このループが一通り終わったら真山くんはこの中で一番美味しい飲み物を知っていることになるわけで。
「……飲み比べてみて、後で感想教えて」
「わかった」
真山くんは毎回お願いされるの大変だなぁと同情はする。
プルタブを引っ張って、ワイシャツの袖の厚いところで缶を掴む。真山くんは上の部分を指で引っ掛けて吊り下げるように持っていた。
「……涼しい場所で飲んだほうがいいのかな」
呟く私。陽気とまでは行かないが、まあ秋晴れの季節だ。ちょっと上を見上げれば半分ぐらい校舎で遮られてはいるが小さな雲が浮かぶ青空が見える。
「そんな場所、ある?」
「うーん」
冷房はついてないし、日陰になる場所があればいいのだが。まあともかく一口。慣れない苦味が口の中に広がる。あまりコーヒーを飲まないからな。前に飲んだのは私の主観だとパンケーキ食べに行った時になるか?
まあそうやって、しばらく無言でちびちび飲む時間になる。熱いと口数が少なくなるのかな。冷たい飲み物の時の比較対象を知らないからわからない。
「ちょっとだけ、弱音を吐いてもいい?」
「いくらでも言って」
どうせ十中八九私には続きはないのだ。好きなだけ吐き出していくがいいさ。
「……和乃さんが辛そうでさ、色々とやってきたんだよ」
「まあそうだろうね」
「……わかるの?」
「声掛けも最低限だし、私がいい感じに動けるタイミングとかを考えていたでしょ?」
「……そこまでは、してない」
「本当?」
「本当だって」
「そっか……」
つまり私の思い違いってことか。悲しいな。
「……でも、今度からちょっと気を使ってみる」
「あまり無理しないでね」
「……うん。でもさ、和乃さんが辛そうなのは見ていると苦しいし、でも何をしても意味がないって思うと」
「その周ごとの私は感謝していると思うよ、保証はできないけど」
「……そうだと、いいな」
「まあ最終周の私に感謝されればいい、とはいかないか」
「……うん」
「頭でも撫でて褒めればいい?」
「そういうことされたくて言ったわけじゃなくて」
「されたくないの?」
「……されたい」
「よろしい」
素直なのはいいことだ。もしこういうふうにかわいい対応をしてもらわなかったら照れた私がどうにか色々ごまかそうとする面白いものが見れたんだろうけれどもね。
私は残っていたコーヒーを飲みきって、ゴミ箱に入れる。金属がぶつかり合う音。
「じゃあ、こっち来て」
身長差は十センチメートルほど。なのでちょっと私は靴から足を外してつま先立ちみたいにする。あるいは靴の踵を踏むような感じ。
無言で真山くんは私に抱きついてくる。おいおい、そこまでしていいとは言っていないぞ?まあしてもいいけどね。私も真山くんの頭を抱きかかえるように腕を回す。
体重をバランスよくかけながら、私は真山くんのふわふわの髪を撫でる。思ったより手触りは良かった。