高校に入って最初の中間試験のテストを改めて確認しながら、私は少し笑みを浮かべる。
「
そういう声が聞こえて返却された解答用紙から目を上げると、同級生である
「……メキシコだっけ、どうだったかな」
私はスマートフォンを取り出して手早く検索ワードを入れる。
「ところで、どうしてそういう質問を?」
「読んでた本でそういうセリフがあって、よくわからなくて和乃さんなら詳しいって思って」
「それどんなやつか気になるな。っと、ブラジルだった」
オンライン百科事典を読み上げて、それを解説と言い張るほど私は不誠実ではないので一応噛み砕いて説明しよう。
「今から半世紀ちょっと前。ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こすだろうか、というタイトルである気象学者が講演をしたんだ」
「……どういう意味なの?」
「天気っていうのは、様々な要素が絡んでいるのはわかる?」
「あまりピンと来ない」
「例えば雲は風の流れに影響を受けるけど、風っていうのは例えば上昇気流とかで起こるのはいい?」
「温まった空気が上に行くやつ?」
科学用語の基礎がちゃんとできているのってありがたいな。小学校の範囲とはいえやっていないと忘れるものである。私だって社会の内容はあまり覚えていない。
「そうそう。で、もし雲があると太陽が隠れて上昇気流が起こらなくなるかもしれない」
「ええと、逆に言えば雲の有無で風が変化して、それが雲を動かす感じかな」
「そうだね。こうなるとハウリングみたいに、どんどん影響が大きくなる可能性があるのは?」
頷く真山くん。よしよし。ちょっと早口になっていたので一呼吸。
「で、じつは風の流れだけを見てもかなり複雑なことになっている。透明だから見えないけどね」
「ああ、だから蝶の羽ばたきなんだ」
「そう。で、それが数千キロ離れた場所の天気に影響を与えることがあるのか?って話」
「……実際、どうなの?」
「場合によりけり、かな。赤道を超えて影響が伝わることはあまりないんじゃないかとか、空気の粘り気のせいで流れがちょっと乱されてもまとまってしまうんじゃないかみたいな話はある」
「残念……」
少ししょぼんとした真山くん。表情がころころ変わるのはありがたいな。話していて楽しい。私もこのくらい上手く話せたらいいのに。
「でも、そういう事例は世の中にはいっぱいあるよ。例えば振り子の運動でも複雑になるってことがわかっている」
「振り子が?」
「そう」
「あれって、時計に使われるぐらい正確で規則正しいんじゃなかったっけ」
「一個だけならね。でも、いくつか繋げたら話は変わる」
私は手元の紙を裏返し、ちゃっちゃかと図を描く。振り子の先端におまけでもう一つ振り子をつけたご機嫌なやつである。
「多重振り子って呼ばれるもの。物理的に式を立てるのは簡単なんだけど、それを解くのが難しい」
具体的にどう動くか説明しようと腕をぶらぶらさせて、その後に動画を見せればいいことに気がついた。
「……確かに、ふにゃふにゃしてる」
「最初の角度とか、初期値っていうのだけどこういうのはその初期値の変化に敏感なの。だから、もしちょっとでも条件が変わったら結果が大きく変わってしまう初期値鋭敏性って特徴を持つ」
「そういう意味だったんだ」
「聞いたことはあったの?」
「少しね」
「……で、どういう作品なのさそれ。バタフライ効果、っと、さっきの蝶の話みたいな小さなきっかけが大きな変化を与えるって話なんだけど、それが出てくるのは過去改変とかのやつ?」
「いや、タイムリープする人の話」
「タイムリープ……どのくらいの影響が出るのかな。天気を変えることはできるかもしれないし、もし数年単位で巻き戻るなら新生児の性別が変わるとかはあると思う。でも、例えば数日以内に天気が変わるとか、台風がそれるとかはないはず」
もちろんそういうのがあっても面白いし、SFとしてその話の中で筋が通っていれば私は好きだけどね。あくまでこういうのは楽しめるかどうかが大事なのだ。正しいかどうかは、また別の問題。
「ああいや、もっと小さいことで。話しかけた人との会話が変わるかとか、その程度」
「うーん、もちろん別の内容で話しかけたら異なった反応が帰ってくるからそういう意味じゃないよね。いつ話しかけても同じっていうのはNPCのセリフみたいだけど……」
って、本題じゃないな。実際どうなんだろう。ここは物理よりも心理学の方面な気がする。もちろん証明ができないので科学の枠の中に入れていはいけないやつだけど。
「もしその人がいつも色々なことを考えていたら、話しかけるタイミングが数十秒過ぎたら返答も変わるかもしれない」
「ということは、変わらない人はあまり考えていないのかな」
「ころころ思考を変える人も考えものだよ?あっちこっちに考えが飛んで、目の前のことに集中できないから」
はい。私です。mind-wanderingって呼ぶらしい。
「でも、和乃さんと話すのはいつも楽しいよ」
おかしいな。私はそんなに彼と話した記憶がないんだけど。
「もしかして、今って何周目かだったりす