今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第七幕間 三

試験期間が迫ってきた。まあ赤点とかはないだろう。とはいえ勉強の手を抜く訳にはいかない。

 

「……難しくない?」

 

諦めたように言うのは真山くん。見る限り、なんとか最後まで解き終わったようだ。

 

「一応範囲内の問題のはずだけれども」

 

というわけで今日の放課後は試験対策として自習室で模擬問題を選んで解き合っている。なんかいいよね、こういうの。

 

「……和乃さんのほうは?」

 

「んー、漢字がダメ……」

 

真山くんが解いているのは情報Iの問題。共テの過去問から私が選んだやつとかだ。幸いにもこの部屋ではプリンターが使い放題である。

 

国民の大切な税金を使っていると考えると少しだけ楽しい。まあ精神性がどうしても吝嗇なのでできるだけ詰めて印刷しようとしてしまうのだが。

 

ちなみに私の方は現国の論説文だ。互いに得意な範囲から三十分ぐらいで解けそうなものを選びあうという形。

 

「答え合わせ、する?」

 

「……そうだね、これ以上やっても無理そうだし」

 

時計を見ると解き始めてから二十三分。時計を見る癖みたいなものが最近つき始めた。真山くんみたいに腕時計をつけているわけではないけれども、学校にはそれなりの数の時計があるわけで。

 

時間感覚をつける訓練というのは、結構やってみると楽しい。これをしていると、真山くんといる時間があっという間に過ぎることを改めて認識させられる。

 

そういうわけで互いに答えを書いたルーズリーフを交換して、採点をしていく。さてと、疑似プログラムを確認していく。

 

iが0のとき。1のとき。添字がずれるの面倒だよな。場合分けは問題なさそうだ。増やしていってもちゃんと動くはずだ。

 

「うん、合ってる」

 

「本当?」

 

「一応模範解答とも一致しているしね」

 

「よかった……」

 

というか改めて確認すると自分が見落としていた場所をちゃんと真山くんが考慮していた。偉い。

 

「和乃さんのほうは、漢字以外のミスは一つだけ」

 

「あったか……」

 

返された紙によれば、選択問題は問題なし。百五十字以内で書くやつでちょっと足りない部分があったわけだ。いやこれ必要か?でもまあ余裕があるし入れたほうがいいか。

 

「……今日はこのくらいにする?」

 

私は真山くんに声をかける。今の季節だと、もう五時には日が沈んでしまっている。そこから一時間ぐらい過ぎているわけで、もう外は真っ暗だ。

 

一応あと更に一時間はいけるし、居残りさせられてる先生に許可を取れば更に一時間はいける。

 

「……そうだね」

 

そう言って背伸びをする真山くん。疲れている感じだな。まあ集中したらそうもなるか。

 

基本的に、勉強というのはかけた時間に比例して伸びる。とはいえ、あまりやり過ぎても楽しくなくなるわけで。

 

真山くんと一緒にいるからまあいいや、と思えるぐらいでこういうのは止めておくのがいいのだ。

 

手早く帰り支度をしていく。電気を消して、鍵はそのまま。

 

「寒くなってきたね」

 

ちょっとだけ左側の真山くんに寄りながら言う。真山くんの家の方が学校からは近いのだが、毎回私を家まで送り届けてからUターンして彼は帰るのだ。

 

いや、別にいいんですけれどもね。少なくない割合が私と歩く時間を増やしたいからだろうし。

 

「……そうだね」

 

「手でも繋ごうか?」

 

そう言って、私は外套のポケットから出した左手をひらひらさせる。

 

「……あのさ」

 

「ん?」

 

「そういうのを誘う意味っていうのを、和乃さんはわかっていて言ってるの?」

 

「親密な関係にある人同士のスキンシップ。恋慕の感情の再確認」

 

すらすらと言葉が出てくるのは、いつもこういう事を考えているからだ。小説みたいな少女になるためには日頃からの準備は必要なのである。

 

「……わかってるの?」

 

「もし手を繋がれたりされたくないなら、そもそも言わないよ……」

 

恥ずかしいのはわかりますけどね、私だって恥ずかしいんですよ。あと出していた手が冷めてきたので戻す。

 

「……そう、なんだ」

 

「私はそういうスキンシップは好きだよ。特に真山くんとするやつは」

 

「……手を、さ」

 

「うん」

 

「繋いで、いい?」

 

「寒いから私のポケットの中に手を入れるっていうので妥協しない?」

 

「……わかった」

 

妥協なのだろうかこれ。まあいいか。真山くんの大きくてちょっと冷たい手が、私の外套のポケットに入っていく。

 

こうやって手を感じるのは久しぶりな気がするな。私より長くて、たぶんちょっとだけ太い指。それでも滑らかなんだよな。

 

「和乃さんって、手が温かいよね」

 

「心が冷たいからかな」

 

「……そういうふうに、思っているの?」

 

「そこまで人の気持ちを理解している方だとは思っていないけど」

 

なのでまあ、今思い返せばちょっと悶えるような失敗をいくつかやってきたのですよ。高校に入ってからは幸いにも派手なものは起こしていないけれども。

 

「そうは思わないな」

 

「よかった。真山くんは下手したら私以上に私を知っているところがあるはずだから」

 

歩幅を合わせながら、私は真山くんの手に指を絡めるようにする。こういういい夜が過ごせるっていうのは、とても幸運なのだろうな。

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