試験が返却されて、また授業の日々が始まる。いや、正確にはちょっと違うな。
ホームルームとかが退屈だったので本を読んで過ごしていたのだが、実は夏休み前には文化祭で何を出すかが決まっていたらしい。お化け屋敷。
まあそう失敗することもないだろうというアイデアなのだが、ともかくそういう文化祭の雰囲気が近づいてきたのだ。そんな肌感覚がある。
「次のループの予定でも練るか……」
そんな事を考えながらの休み時間である。ちなみにさっきの歴総の先生は平均点が悪かったことを悔しがっていた。なんともまともな先生である。普通は生徒の方を責めたりするだろうに。
「和乃さん、少しいい?」
「はぇっ」
意外なことに声をかけてきたのは真山くんではなく同級生の真面目そうな子だった。ええと、名前はわかるよ。大丈夫。でもあまり話したことはないはず。
「……あのね、和乃さんって試験の点数良かったんでしょう?」
「……勉強、しているからね」
「教えてもらえないかな、私今回数学とかで赤点取っちゃって」
複数科目で三割以下。そんなことあるんだ。まあ私だって真山くんと一緒に勉強してなかったら危なかったなとかいう大問はあった。それを思い出して、相手を見下したりしていないか考えて、深呼吸。
「……いいよ」
別に断ってもいいとは思ったのだが、まあ人間と関わるもの悪くなかろうとかいう判断である。あとは真山くん相手だと理解が速すぎて教えているという感覚が少ないのもある。
「いいの?」
「いや、困っている同級生を助けるぐらいはするよ」
それでTシャツのやり取りとかもしたんだからな。というか私は私を頼ってくる人を断れないだけである。
「ほんっとうにありがとうね、今度なにか奢るから」
「……ちゃんと点数が上がったらでいいよ、私はそこまで教えるの上手じゃないから」
「でも真山くんが上手って褒めてたよ?」
きょとんと彼女は言う。ああ、この人は他人の評価を素直に信頼する人だ。いいことである。
「……そう」
「真山くんにも頼んだんだけどさ、和乃さんのほうが理系教科は得意だって」
「……そう、かな」
「真山くんが言ってたもの」
へえ、この子は真山くんのことをそんなに信頼しているんだ。いいことである。
「……真山くんとは、どういう付き合い?」
「いや普通に中学からの同級生だよ?」
「そっか」
なんだ、いいやつじゃないか。私の中での彼女の評価はかなりくるくるしている。たぶんこれ第一印象が正しいやつだな。
「ひとまず今回の試験内容を見せて。あとノートも。できれば宿題もだけど……残ってる?」
「大丈夫だけど……必要なの?」
「どこまで理解しているか、どこで詰まっているか、それを確認したい。もちろん、見た秘密は守るよ」
これぐらいの守秘義務は当然である。まあ別に私はプロの教師ではないので、適宜専門家にアドバイスを貰ったりはするだろうけどその時もできるだけ伏せますよ。
「……ありがとう。あと、真山くんのことだけど」
「……彼が何か?」
「中学生の頃はね、もっとこうなんていうか、孤独、って感じだったの。一応人付き合いしないわけじゃないけど……」
前に真山くんから聞いた自己評価とちょっと食い違うな。そう考えると私たちの関係を第三者目線で評価してくれる人は必要かもしれない。
「まあそういう性格だからね、あまり人と仲良くなりたがらない、みたいな」
「そうそう。それなのに最近は和乃さんと楽しそうで、何か秘密があるのかなって」
秘密ねぇ、特大のものがありますとも。私が小学生の時に本を盗んだ事があるのを知っているとかな。そっちじゃないって?
「……私も真山くんも本が好きだった。それで仲良くなったの」
「そうなんだ。私はあまりそういう趣味持ってないからな……」
なんかこの感じだとかなり素直に信じているな。うん、今になって白状しますが私はさっき彼女に嫉妬してました。今では面倒見てあげなきゃなって感じになっています。
「放課後の教室でいい?」
「教えてもらうの?」
「そう」
「構わないけど……真山くんとは?」
「どういうこと?」
「いつも放課後は真山くんとの時間じゃないの?」
どこまで私たちの関係を知っているのかは知らないが、別に囃し立てるとかじゃなくて純粋に相手が予定ブッキングしてないか心配しているだけだな。こういう人は話していて楽だ。
「いいよ、真山くんには私から言っておく」
「……ありがとう。本当に」
「お礼は問題解けるようになってからでいいよ、あと特に数学は今後難しくなるから」
統計学の部分は私もそれなりに手を動かさないと慣れなかった。そういう経験も生かせればいいな。
なんて話をしていたら休み時間が終わってしまった。さて、次の授業が終わったら真山くんに一言声をかけておくか。そういえば、学校でこういう会話を交わすのは真山くん以外では珍しい気がする。
なるほど、これが高校デビューってやつですか。もう始業式から半年は経ってしまったんですけれどもね。