今周の予定は決まってる?   作:小沼高希

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高校一年生 第七幕間 六

「終わったの?」

 

まだ灯りのついていた自習室に入ると、真山くんが問題集から顔を上げて私に言った。

 

「なんとか、ね……」

 

鞄をおろし、適当に椅子を二つ並べて身体を横にする。かなり疲れた。腕に抱えていた外套を掛け布団代わりにしておく。

 

「……なにか、したほうがいい?」

 

「あと十分ぐらいはちょっと休ませて……」

 

「わかった」

 

今日面倒を見たあの真面目そうな子の問題は結構奥の方にあった。ここらへんの特定がかなり苦労したのである。

 

「……あの子はさ」

 

「中学の同級生でしょ」

 

「聞いたの?」

 

「まあね」

 

それに思い返せば、真山くんとちょくちょく話していたような気もする。いやよくわからないな。嫉妬するんだったら、その嫉妬を向ける相手に興味の一つぐらい持つべきだったなと今更ながら思う。

 

「……ごめんね、僕よりも和乃さんがいいって思ったんだけど」

 

「真山くんとやっている時とはまた別の頭の使い方したから、有意義ではあったよ」

 

そういえば勉強教えた相手は他にもいたな。夏休み入る前に期末試験ちろっと見てアドバイスしただけだけど。そうか、そういうのも含めれば私はそれなりに友達と呼べるような相手がいるのかもしれない。

 

「楽しかったの?」

 

「……楽しかったね。嫉妬されたって困るけど」

 

「……わかってるよ」

 

冗談のつもりで言ったのだが、なんか思ったより真山くんは私に嫉妬しているらしい。なら真山くんが教えたら良かったんじゃないかと口にしようとしたが、この時は私が嫉妬する側だな。

 

「原因は見つかったから、あとはそこから戻していくだけだ……」

 

ある程度はパターンを暗記して、手を動かしていけばなんとかなるだろう。問題集のどこらへんをコピーすればいいかなということを、頭の中で自習室の空間を思い浮かべながら考えていく。

 

なんとかなる。本当は先生とかがやってくれたほうがいいんだけれども、それができる余裕がないっていうのもわかるんだよ。

 

「あー、そうだ」

 

私は少し楽になった身体を起こしながら呟くように言う。外套が落ちた。まあ後で拾って埃を落とせばいいか。

 

「何?」

 

「真山くんじゃなくても良くなったんだな」

 

「……どういうこと?」

 

「えっとその、そう言う意味じゃなくて」

 

「元々の意味がわからないんだけれども」

 

ちょっと思考が混乱したので、一旦深呼吸をして背中を伸ばす。サイリウムを折った時ぐらいにバキバキと音がしたので、神経とか千切れていないかとかちょっと怖くなる。

 

「……夏休みの頃はさ、私の真山くんへの依存度はかなり高かったのよ」

 

もちろん会う人が少なかったというのもあるけど、もう少し精神的な意味でも。

 

「……だから、無茶をしたりしていたの?」

 

「無茶って?」

 

「泊りがけの旅行とか」

 

「……そうだね、あわよくば罪悪感とかで真山くんを引き留められれば、って考えていなかったと言えば嘘になると思う。その時の私の感情は知りようがないけど」

 

あるいはまだ自分の中でそういう感情を言語化できていなかったという可能性も十分にあるけどね。もしそうだとしたら無自覚に真山くんの精神に傷の残る行為をしていたわけだ。たぶん自覚的にやるよりもたちが悪いよな。

 

「……うん」

 

「でも、今は他の人と話したり、一緒に時間を過ごしたりすることができるようになっている。言い方は非常に悪くなるけど、真山くんで練習したおかげだよ」

 

「……誰かを練習に使うっていうのは、僕はよくしているから別に気にしないよ」

 

「まあ、それはわかる。練習の成果はちゃんと出ていると思うよ」

 

話を聞く限りでは、少なくとも前回のループ中の真山くんは私にかなりの時間を割いてくれていた。話せる相手が少ないし、自動販売機に毎回行っていたとはいえ、だ。一回ぐらいは私に飽きてもいいだろうに、健気なことだ。

 

「よかった」

 

「そういう意味で、私は真山くん以外にもちゃんと友達ができるようになったよ、ってこと」

 

「わかった。……でも、僕にとっての一番は和乃さんだから」

 

「結果として一番になるのはいいけど、一番にしようとして一番にするのは無理が出ることがあるからほどほどにね」

 

一番って言ってばっかりだな。ゲシュタルト崩壊しそうだ。まあともかく意味は伝わってくれるだろう。きっと。

 

「……もし一番じゃなくなりそうになったら、言うから」

 

「一番のままでも特別扱いがもうできない、って場合もあるからね」

 

「……できるだけ、話す」

 

「私もそうするよ……」

 

少し冷静になって自分の調子が把握できるぐらいにまで落ち着いてきたが、ストレスか何かはわからないがかなり身体が重い。このままだと体調不良になってループが私の看病で終わってしまう。そろそろそういう時期だ。

 

「……そろそろ、下校時間だよ」

 

時計を見たらしい真山くんが問題集を閉じて言う。

 

「一緒に帰る?」

 

「そうしようか」

 

こう聞いているし、こう返ってきているが、どうせいつも一緒なのだ。夜中は危ないんだからいいだろ別に。あと最近冷えてきたからちょっとくっつくぐらいは許されるよな。

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