透き通るような死の線を 作:ゲマトリア「曇らせ」
おじさんを曇らせたかった。
その2つを混ぜ合わせた作品となります。
よろしくお願い致します。
……これはきっと私を責める悪夢。
あの日、あの時……間に合わなかった私への──
───
「……うへぇ、暇だ」
「何が暇ですか、そんな戯言を言う暇があったら手を動かして」
「俺に対して当たり強くない? 小鳥遊さん?」
書類を書く手を止めると隣に座っていた少女から厳しいお叱りを受けてしまう。
……いやまあ、これには色々訳ありなのだが。
俺たちの通うアビドス高等学校は訳あって借金塗れ、廃校寸前なのである。
そのせいか、生徒は既にほとんど居らず……いや訂正しよう。職員は愚か、近所の住宅に住民はほとんどいない。訪れるのは、ヘルメット団と呼ばれる不良グループぐらいだ。
そしてこのアビドスにいるのも、俺、小鳥遊、そして生徒会会長である三年生の先輩1人……俺たちを含めても100にも届かない……2桁程度の生徒しかいないのだ。
うん、改めて考えても詰んでんなこれ!! どうやって廃校撤回すりゃいいんだよこれ!!
「……当たり前でしょ、生徒会書記がそんなだらしないところ見せてどうするの。せめてやれることはしたらどう?」
「うへえ、これ以上ない正論だなぁ。とはいえ……やれることなんざ、限られてくるだろ。……借金の返済のためのアルバイトか、カイザーコーポレーションに媚びへつらうかだろ?」
「
言い方をどうにかしろ、と言わんばかりに小鳥遊はこちらを睨んでくる。
ここに関してはやっぱり彼女とは平行線だ。自然主義というべき俺とは真逆に近い。
廃校になってしまうならそれも仕方のないことだと思っている俺を見るのはやはり彼女としてはどうも腹立だしいのだとは思うけど。
「……人はめっきり減った、借金返済の目処もたたない。これでどうしろって? それこそ無茶、無謀ってやつだろ。大人しく連邦生徒会が提案した合併に賛同した方が身のためだとは思うけどな」
「っ……! 七織はこのアビドスに何も思うところがないって言ってるの?」
「……そういう訳じゃないさ。ただ、自然現象……人の手では抗えない災害でこうなってる以上、抗うだけ無駄な労力を割くだけだろ。事実、その無駄のせいで借金が増えてアビドスはご覧の有様。俺たちみたいな1年生にまで余計な飛び火してるんだ。いわば俺らトカゲの尻尾切り要員だろこれ。先輩や小鳥遊も含めてさ」
「それはっ──」
何かあった時の責任を追求される立場。そして責任を背負わされる身。
それが今のアビドス高等学校における生徒会の現状の姿と言うべきだろう。
まあやっぱりこういう所は俺と小鳥遊は相性が悪い。
だからこそ、こうして一触即発みたいな空気になりやすいのだが……
「ただいまー! ……あれ、2人ともどうかしたの?」
「っ、おかえりなさい。ユメ先輩。……別に、なんでもないです」
「おかえりなさーい、先輩。なんでもないですよ? ただちょっと意見交換してたら、一触即発みたいな感じになっただけです」
「ちょっ……七織……!」
「またしてたの!? 2人とも喧嘩はダメだってばっ!!」
こんな感じで、やってくる彼女に喧嘩になりそうな度仲裁されてしまうから俺たちは今のところ酷い大喧嘩はしたことはなかった。
──薄い水色の長い髪に
苗字で呼ぼうとしたこともあったのだが、そう呼ぼうとするとユメって呼んでね? と圧をかけられて以降俺は彼女をユメ先輩と呼んでいる。
あの時の圧はマジで怖かった。うん、怖かった。
「シキくん、どうかした? 私の顔になにかついてる?」
「いえ、なんでも。ただいつも通り綺麗だなー、と」
「え!? そ、そうかな!? えへへ、嬉しいっ!」
「いつも天真爛漫で綺麗ですからね、ユメ先輩は。……それに比べて──」
小鳥遊は貧相だし、小柄だし、トゲトゲしてるし。ユメ先輩とはえらい違いだよなぁ。
「ふんっ!」
「うごぉっ!?」
「ホシノちゃんっ!?」
ぐおおおっ……このピンク髪……! 思いっきり俺の腹に肘打ちしやがった……!
てめ……この……俺はお前らヘイロー持ちと違って頑丈じゃねえのに……!
思わず腹を抱えて蹲りながら、彼女を涙目で睨む。
「七織の考えてることぐらいはお見通し。貧相で悪かったですね」
「……う、ぉおお……!」
「ほ、ホシノちゃんその辺でストップ!! シキくんが死んじゃうから!!?」
「コイツはこの程度でくたばりませんよ、先輩。余計なこと言って痛い目みてもだいたいすぐにケロッとするじゃないですか」
「それでもだよっ!?」
たかなしぃ……覚えとけよお前……いつか絶対お前に勝って分からせてやるからなぁ……ガクッ……
「ふんっ……」
「し、シキくぅうううん!?!?」
憐れ、俺はこうして息を引き取ったのである。
──嘘です、気絶しました。
────
「……ん、ぅ……ユメ先輩……?」
「あ、起きた? おはよう、シキくん。遅いお目覚めだね?」
目を覚ますと……くすり、と女神が俺の目の前で微笑んでいた。
……うん? というか目の前……? たしか俺、小鳥遊に思いっきり腹に肘打ちくらって……そんで気絶して……? はて、この頭に感じる柔らかい感触は? そしてなぜ目の前には巨峰と美しい女神の顔が広がっておりますの?
「あの、ユメ先輩」
「なあに? シキくん」
「これ、膝枕というやつでは?」
「ふふ、せーかい♪ どう? 私の膝枕?」
「────」
マジか。マジかよ。堂々と膝枕してきたよこの先輩。嘘だろおい。
しかもどうかって感想まで聞きに来たよこの人。メンタル強すぎるでしょ。仮にも異性相手に堂々としすぎ──
「ッ…………」
ではないな、これ。めっちゃ顔赤いじゃん。肌の白さとは正反対みたいに茹で上がってるな先輩。可愛いかよ畜生。ありがとうございます。
「……その……めちゃくちゃ柔らか──違うな、眼福──でもねえな……嬉しいですけど……簡単に男にこういうことしないでくださいよ……勘違いしますよ?」
とくにこの人の場合、無防備というかノーガードというか……遠慮なく俺に対しても踏み込んでくる人だし。
「……ふふ、シキくんになら勘違いされても悪くないかな?」
「うへ……勘弁してくださいよ……俺が小鳥遊にゴミみたいな目で見られるだけじゃないですかそれ……てか、何時です今?」
「うん? 時間? ああ、それならもう放課後だよ?」
「──マジです?」
「マジマジの大マジ」
どうやら俺は随分と気絶してしまっていたようだ。やりすぎだろ小鳥遊。もうちょい加減しろよ畜生。俺はお前らと違って頑丈じゃねえし怪力でもねえんですけど。
「……もしかして書類って」
「ホシノちゃんが全部片付けてくれてたよ? あ、でも私もちゃんと手伝ったからね!」
「マジかァ……」
小鳥遊に余計な借りを作ってしまったらしい。いや、でもこれ小鳥遊が原因で俺がやってた書類進まなかったんだし俺悪くなくね?
「シキくん?」
「アッ、スミマセン。全面的に俺の失言が悪いですハイ」
ユメ先輩のにっこりとした微笑みに俺は萎縮しながら反省する。こっわ。
ユメ先輩普段はぽわぽわしてるのに、怒るとマジで怖いんだよなぁ……。
「なんでシキくんもホシノちゃんもそんなに喧嘩しちゃうかなぁ……」
「…………まあそこはすみません。でも、単純に相性悪いですから。アイツとは」
「……そうかな?」
「そうですよ。犬猿の仲って言ってもいいです」
殆ど諦めてる俺に対して、小鳥遊のヤツは往生際が悪いといっていいほどに諦めが悪い。異性だからってのもあるんだろうけど、俺の堕落したような怠惰な雰囲気とか、自然主義なところとか。きっと彼女の癪に障ってしまうのだろう。
俺自身はまあ……苦手でも嫌いでもない。アイツが突っかかってくるから相手はするけど、個人的には好ましいとは思う。
ああいうヤツは、きっと何処にいても必要とされる。もちろん、あの性格のままだと敵を余計に作って孤立しかねないところはあるけど……少し経てばアイツ自身も自分の性格に折り合いをつけたりできるはずだ。多分。アイツは意固地だが、馬鹿ってわけじゃあないしな。
「そうかなー、傍から見てるとすごく仲良さそうだけどね? ほら、あれっ! えーっと……喧嘩する……喧嘩するほど……?」
「『仲が良い』?」
「そう、それ! ホシノちゃんとシキくんって、基本的にそういう感じだと思うよ?」
「……どこ見てそう言ってるんですか。あれはどう見ても俺のこと嫌いでしょ」
じゃなきゃ手とか出してこねえし辛辣に振る舞ったりしないって。
第一、俺とユメ先輩相手じゃ態度が全然違うじゃないですか。
「……ふふ、ほら。そういうところ」
「え?」
「……傍から見たら、私への態度もシキくんへの態度もあんまり変わらないよ? でも、シキくんには全然違うって見えてるなら……ホシノちゃんのこと、よく見てるし気にかけてるんだなー、って分かっちゃうよ」
「─────」
1本取られたような、完膚なきまでに叩きのめされたような。反論のしようがないことをユメ先輩に言われてしまった。
さっきも言ったが、俺は別に彼女が嫌いというわけじゃないし、好ましいとは確かに思っている。
……気にかけているのも否定はできなかった。彼女はなにせ責任感が強い。
だからこそ、そのうち重圧に押し潰されて壊れてしまうんじゃないか、と不安にもなる。
……そう考えていると、自然と彼女のことをよく見ていたのだろう。
それが同級生の馴染み故だったのか、は俺自身もよく分かっていないけれど。
「先輩、お気楽そうに見えて色々ホントに見てますよね」
「ふふ、先輩ですからっ。君たちより2年分人生経験も豊富だってこと忘れちゃいけないぞぅ?」
ふんす、と胸を張るユメ先輩。
これまた眼福──じゃないな。本当に敵わない。
「……降参です。まあ、以後は気をつけます。小鳥遊となるべく折り合いつけられるように」
「うんっ、よろしい。それじゃあ改めて……」
「……?」
「このまま一緒に寝ちゃったりする?」
「勘弁してください」
──それだけは本当に。
小鳥遊にバレた時が怖いですし、何より……
俺が貴女のヘイローを殺さないままで居られる自信が無い。
口には出さなかったが俺は心の中でそう思った。
……この視界に映る、おびただしい程の「青白い線」と「青白い点」
それはユメ先輩の身体のあちこちにあって。……その全ての「線」……それを繋ぐ「点」は彼女の頭に浮かぶ
「
ただ、それでも……本能的に、これは「よくないもの」だと訴えている。触れてはいけない代物なのだと。
なにより……この「線」が見える時。衝動的に、それでいて本能的に。
彼女や小鳥遊のヘイローを……その綺麗な腕を、首を、脚を……切り刻みたくなってしまうのだ。
そんなおぞましい衝動を、バラすわけにも……教えるわけにも……いかないのだから。
だから俺はいつものように、嘘は言わず、言葉を伏せて──本当の事を言う。
ただ、言っていないだけ。そう、彼女たちにこのことは決して伝えない。
この「眼」のことは。俺1人が抱えればいいことだから。
─────
血塗れた身体が黒い盾と共に横たわっている。
ナイフで切り裂かれたような少女の身体が砂漠で倒れている。
本来触れられるはずのないヘイローが無惨なまでに切り裂かれている。
「──ああ、ここにいたんですね。探しましたよ、⬛︎⬛︎先輩」
桃色の髪の少女は、その身体を見つめながら。そう呟いた。
七織 シキ
この作品の主人公。アビドス高等学校1年生、アビドス生徒会書記。
このキヴォトスにおいては異例とも言えるヘイローを持たない男性生徒。
しかし、ヘイローを持たない人間にしては身体能力が高く、不思議な「眼」を持っている。
声があるとするなら「野○健児」か「金本○介」の声で喋る。
小鳥遊 ホシノ
みんな大好きおじさん。の過去の姿。
まだ髪は短いしツンツントゲトゲしてる。
ユメ先輩
みんな知ってるパイセン。
ホシノのことが好き、シキのことが好き。
この世界ではろくな結末を迎えないかもしれない人。