透き通るような死の線を   作:ゲマトリア「曇らせ」

2 / 8
いきなり戦闘だけどキヴォトスじゃ日常茶飯事だし問題ないでしょ。そんな2話です。

早くおじさんを曇らせたいぜ……
おじさん視点もそのうち書きます。


2話 アビドス生徒会 その2

 銃撃の音が鳴り響く。

 ……なんてことない、キヴォトスでは当たり前のこと。

 それでもアビドスではめっきり減ってしまった音。それが砂漠付近の……アビドスの今の校舎でよく鳴り響いていた。

 

「おらおらァ! アビドスなんて取り壊しちまえー!」

 

「ヒャッハー!」

 

 ヘルメットを被った不良たちが銃を撃ちながら侵攻してくる姿を見ていると思わず余計な感想が頭に浮かぶ。

 

「……見るからに世紀末なんだよな」

 

「七織、口を動かす前に手を動かして! ヘルメット団が来てるんだから!!」

 

 愛用のショットガンを手に持ち……遮蔽物に身を潜めながら、小鳥遊がこちらに叫ぶ。

 彼女の強さならある程度、ヘルメット団を撃退できるだろう。ただ、それにも限度というものはある。

 1回目で撃退されたのなら更に多くの人員を、2回目でも撃退されたなら更に更に多く──といった感じでヘルメット団の人数は回数を重ねる毎に増えている。

 全てはおそらく、小鳥遊 ホシノを確実に倒すため。

 

 彼女は今のアビドスにとっては要といっていい戦力だ。彼女が倒れれば一気に戦況は傾くだろう。それを相手も理解しているからこそこんな手法を使っているのだろうが。

 

「分かってるっての……!」

 

「あーもう……! こんな時にユメ先輩はどこに……!」

 

「カイザーのところだ! 今日は交渉中だろ! まあそんなタイミングでヘルメット団が来るのはどう考えても狙って……いや繋がってるんだろうけどな!!」

 

「いちいち言わなくても分かってる!!」

 

「じゃあ聞くなよ!?」

 

 思わずそう叫んでしまったが俺は悪くないはずだ。

 自前のスナイパーライフルに弾を込めながら、俺は改めて戦況を見直す。

 

 ヘルメット団の数は少しずつ減ってるが、それでも未だに健在だ。

 ……小鳥遊が得意とする近接戦に持ち込めないように遠くから射撃されている。

 

 見事に策に嵌められてんなこれ。

 

「こっちからの狙撃でも減らせる数には限りが────は?」

 

 スナイパーライフルのスコープを覗き、視界に捉えたその代物に俺は素っ頓狂な声を漏らす。

 おいおい、嘘だろ……マジかよアイツら……! 

 

「七織! どうしたの!?」

 

「アイツら、戦車持ってきやがった……! 

 

「───は?」

 

 俺の言葉に、小鳥遊も思わず驚いたような声を漏らした。

 当然だろう。そんな代物を持ち込むなんて正気の沙汰じゃない。たかが廃校寸前の学校に? 何故? そんな疑問が浮かぶ。奴さん、どうしても此処が欲しいらしい。

 

「こうなったら……!」

 

「ちょ……っとまてっ!!」

 

「あぐっ……!? 何するの七織……!?」

 

 遮蔽物から身を乗り出し、戦車にショットガン1本で立ち向かおうとした小鳥遊をみて俺は慌てて、服の襟を掴んで引き戻す。

 

「何するもなにも、お前こそ何しようとしてんだ!?」

 

「そんなの決まってる! 戦車を壊す!」

 

「でしょうね!! だから止めたんだよ、バカ! いくらなんでも無謀すぎる! 死んだらどうすんだお前!?」

 

「この程度で死んだりしない! 怪我はするかもしれないけど、七織と違って私は頑丈だから!」

 

「知ってるよヘイロー持ちのしぶとさは! 今現在進行形で味わってるしな!!」

 

 改めて聞いても戦車の砲弾食らっても死なないってどういう作りしてんだよ、とは思うがそこら辺は言及するだけ無駄というやつだろう。今に始まったことじゃないし。

 

「怪我で済むかもしれないけどそれは却下だ! しかも第一……そのショットガンで確実に壊せる保証はねえだろ!?」

 

「それはっ……」

 

「ほらないじゃん!! 却下却下! 成功するかも分からん作戦には乗らないぞ俺は!!」

 

 言い淀んだ小鳥遊を見てすぐに却下する。こいつ戦闘面はマジで脳筋みたいな戦術組むからシャレにならん! 多分コイツなら成功させるんだろうけどそこに至るまでに確実に負傷はするだろうし、その負傷が原因で作戦が失敗する可能性も有り得る。

 おそらくその事を彼女自身も理解しているからこそ言い淀んだのだろう。

 頭良いのにそういうところ考慮しないよねお前!! 

 

「じゃあどうするの!? このまま黙って戦車に壊されるところ見ろって!?」

 

「そうは言ってねえよ! 方法ならある!」

 

「……え?」

 

 そう、方法ならある。──俺が無茶しなきゃいけないし、無謀であることも分かっている。だが、それでも確実にあの戦車を潰すのなら。

 ───この「眼」を使って殺せばいい

 

「だから信じろ。すぐ終わらせる」

 

「なにを……言って……!? ヘイローのない七織が挑んだってそれは──」

 

 死ぬだけ。多分、俺の「眼」を知らなければそう思うだろう。

 俺だってそう思う。てか実際確実に殺れると分かっていても一歩間違えたら死ぬの確定してるし。いわばこれは初見殺しだからこそできる荒業だ。二度は通じない。この一回のみ。

 

 だが、その一回がアイツらにとっては恐れになるし、抑止力になる。

 早い話、不気味な奴がこのアビドスに居ると知らしめればいい。それは恐怖として伝達し、ヘルメット団への圧になる。

 

 だからやれる。行ける。

 

「大丈夫、小鳥遊。──勝ってくるから」

 

「───」

 

 制服のポケットの中に突っ込んでいたカッターナイフを手に取る。スナイパーライフルは……ああ、いや……必要か。さすがに。

 

「行ってくる」

 

「待っ──……」

 

 ライフルを背負ったまま、カッターを手に俺は遮蔽物から飛び出た。

 小鳥遊の制止する声が聞こえた気がするけど、まあ多分、気の所為だろ。アイツ俺のこと嫌いだし。

 

「団長! 遮蔽物から1人出てきました! ヘイローなしです!」

 

「あぁ!? ヘイローなしだァ!? 気にせず撃ちな! ぶっ飛ばしとけば他のアビドスの連中も黙るだろ!」

 

 ──そんな声が聞こえる。

 随分とまあ、舐められたものだ。いや当然だけどさ。俺はこのキヴォトスという学園都市においては圧倒的に弱い。ヘイローを持つ少女たちの仲で最も弱い存在よりもきっと弱いだろう。

 俺が死ねば、大怪我すれば確実に決定打になるという確信が向こうにはある。

 

 その確信を、慢心を打ち崩す切り札があるなんて思いすらしていない。

 だからそこを切り崩せば、アイツらの前線は崩壊する。

 

 つまるところ。まあ、アレだ。

 

「さて……(われ)面影糸(おもかげいと)を巣と張る蜘蛛。

 

 

 

 ———ようこそ、俺の領域(なわばり)へ」

 

 

 ここからは一方的な蹂躙ってやつ。

 

 ───

 

 なんだ、これは。なんなんだこれは。

 こんなもの聞いていない。こんな怪物がいるなんて聞いていない。

 

 ──ヘイローなしのクセに、このヘルメット団を圧倒する怪物がいるなんて、聞いていないッ!! 

 

「な、なんだこいつ!? 弾が当たらない!?」

 

「当たってるんだよアイツ!! いや当たってるんじゃない!! ──アイツ、銃弾を()()()()()()!!」

 

 黒い閃光が、こちらへと接近してくる。あまりにも速く。あまりにも鋭く。

 ヘイローなしだとは思えない程の速度で近付いてくる。

 

「何してんだ撃て! 当たればいい! 1発でも当たればあの化け物だって止まるだろ!!」

 

 そうだ、1発でいい。1発当たれば確実にあの男は止まる。如何に得体の知れない怪物であったとしても……アレはヘイローを持っていない、虚弱な人間だ。1発でも被弾すればそれだけで立ち止まるはずだ。

 

 なのに──それで止まるという確信が得られない。

 

「は、はやっ……がっ!?」

 

「悪いな」

 

「ぎゃふんっ!?」

 

 アイツ、うちの連中を踏み台にして最速で……戦車の方向に!? 何をするつも── まさか、戦車を壊す算段がある? あの狙撃銃1本で? 幾ら銃弾をカッターで斬るなんて規格外の防ぎ方ができているとしても、それで戦車を壊せるわけがない。はずなのに。嫌な予感が、拭えない。奴が近付くことそのものがまるで「死」そのものであるかのような……

 

「──ッ……!」

 

「しまっ……! ひっ……!?」

 

 目が合った。接近していたあの男と。アビドスの生徒会のひとりであろうこの男と。

 瞬間、感じたのは「恐怖」だった。──殺される。そんな感覚。本能的にそう感じて恐れてしまった。

 その漆黒の瞳に捉えられたその瞬間、明確な「死」が訪れたようなそんな錯覚をして──

 

「安心しろ、殺しはしないさ」

 

 そう言って、ソイツは目を閉じて私を狙撃銃で殴り飛ばした。その姿を私は視界に捉えたまま……意識を失った。

 

 

 ────

 

 

「ああ、ホントこの視界は不便だな」

 

 殺さずに動くことの難しさを嫌というほど理解させられる。連中が撃ってくる銃弾を文字通り衝撃ごと「殺す」のは簡単だが、撃ってきている当人たちだけは殺さないように立ち回るのだけは本当に面倒だ。

 

 ──いっそ、殺してしまおうか。と考えると……どうしても、よく知る顔が思い浮かんで踏み止まる。

 

 その度に俺は目を閉じ、無理矢理その境界線を遮ってヘルメット団の連中を気絶させる。

 いやライフル持ってきてよかったな。殴るのに便利だ。用途としてはめちゃくちゃ間違ってるけど。銃口の方掴んで思いっきり連中の身体をぶん殴ってるからね。俺。

 

 もちろん、これで連中が完全に倒れることはない。奪えた意識もきっと一瞬のようなものだろう。だから短期決戦で済ませなきゃいけない。

 最速で、最短で、戦車に辿りつく。

 そのためにはこの銃弾の雨を直進する他にない。銃弾がどう飛んでくるかは分かる。何処にくるかも分かる。だからその軌道を、勢いを、衝撃を、弾丸そのものを「殺して」俺は戦車まで一直線に走る。

 

 息が上がる。まあ結構無理してるし仕方ないけど。

 身体が軋む。当然、銃弾より速く動こうとしてるんだからそうもなる。

 

 ──それでも止まる理由にはならない。

 

 戦車までは、あと10mもないだろう。だが、その10m。

 ──ヤツらが砲撃をするには充分な猶予。

 

 故に。

 

 ──ドガン! と、大きな音と共に戦車のその砲塔から、砲弾が出たことを確認する。

 狙いは俺、喰らえば死だ。肉片ひとつも残さないだろう。

 

「七織──!!!」

 

 ──ああ、だけど。

 

「大きすぎて、殺しやすいな。これ」

 

 さっきまでやってた銃弾を「殺す」よりは簡単だ。的がデカいし。

 視界に意識を集中する。視える「線」を、「点」を、明確に捉えるために。

 

 砲弾の「線」を捉える。

 

 ──いける。殺せる。俺の視界にその「線」を捉えた以上。不可能ではなくなった。ならばあとは、実行するだけ。

 

「────疾ィ……!」

 

 カッターナイフを俺は強く握りしめ、こちらに向かってくる砲弾に向けた。

 そのあとにすることは、砲弾に浮かぶその線をなぞって「殺す」のみ。

 

「───は?」

 

 誰かの困惑したような声が聞こえた。

 まあ、当然だろう。だって、俺の前で、砲弾は着弾することも、起爆することもなく──無惨に切り裂かれたのだから。

 

 ───戦車まで3m。

 

 意識を更に視界へと、深く潜らせる。より鮮明に、戦車の「点」を捉えるために。

 

 ──戦車まで2m。

 

 1番デカい「点」を穿つほかにこの戦車を止める方法はない。砲塔を「殺す」だけではダメなのだ。戦車そのものを「確実に殺す」しかない。その為には、一際大きな「点」を穿つしかない。

 だから、全神経を眼に集中させる。その他の余分な意識は全て霧散させる。ただこの一刀に、全てを篭めるために。

 

 ─戦車まで、あと1m。

 

 砲塔が再びこちらを向く。撃たれれば死ぬ。──だが、もう遅い。

 既にここは、俺の(なわばり)の中だ。

 

「悪いね、俺……こういう時、慈悲はないんだ」

 

 戦車まで0m。

 

 視界に捉えた戦車に浮かぶ「大きな点」、そこに向けてカッターの刃で穿つ。

 

「あとついでだから教えといてやる。これがモノの殺し方だ」

 

 やっべえ、今の俺めちゃくちゃ悪役っぽい。なんてそんな関係のないことを考えながら。

 ──俺は戦車を「殺し切った」。

 

 その瞬間、戦車は物言わぬ屍……スクラップになった。

 

「な、なんで動かないんだ!?」

 

「キャタピラも全部動きません! なんで……!?」

 

 そんな声が耳に入る。まあ当然だろう。見た目は綺麗でも、俺が殺したしな。

 あとついでだし、砲塔も殺しておくか。

 

「──は?」

 

 カッターナイフでスパッ、と砲塔を「殺す」とヘルメット団の連中から素っ頓狂な声が漏れる。

 威圧するならここかな。

 

「さぁて、ヘルメット団さん。お前たちの戦車はこの通り、俺が『殺した』わけだが。

 ──まだやるなら、相手はするつもりだぞ?」

 

 そう言って俺が笑うと、彼女たちは竦んだ様子で1歩後退りする。

 

「ッ……!?」

 

「お、覚えてやがれ────!!」

 

 そんな三下みたいな言葉と共に、ヘルメット団が逃げ出した。

 もちろん、戦車の中にいた連中もスタコラサッサと逃げ出していた。

 

「……ひとまずは、撃退できたか」

 

 アイツらもビビってくれたし、しばらくは襲撃に来ないでしょ。連中! 

 

「こんの……馬鹿七織ィ───!!

 

いっっっでええ!?!?

 

 めちゃくちゃ聞き覚えのある声と共に、既視感のある衝撃が俺の後頭部を襲った。

 

「馬鹿なの、七織は!? あんな……あんな、無茶して!! 死ぬかもしれないような特攻かまして……!! どういう思考回路したらそうなるの!?」

 

「いっっっづぅ……ああ!? こうしてちゃんと戦車ぶっ壊したし、俺の作戦通りに全部上手くいっただろ!? なんか文句あるわけ!?」

 

 後頭部にやってきた衝撃に頭を抱えて、しゃがみこみながら俺は件の元凶と揉めるように話す。

 

「文句ならあるに決まってるでしょ!? せめて作戦ぐらい伝えて!! あんな芸当ができるのも聞いてないし、そもそもあれはなに!? カッターナイフだけでどうやってあんな神業を……そもそも、下手したら本当に七織が……!」

 

「なんだっていいだろ!? ともかく全部上手くいったし、ユメ先輩が帰ってくるまでに守りきれたんだからそれで良──……小鳥遊、お前」

 

 言い淀む。彼女の……小鳥遊 ホシノの顔を見て、押し黙ってしまった。

 ──泣いていた。あの涙と縁なんてないような、辛辣で、辛口で、厳しいという言葉を体現したような少女が。涙を浮かべて、目元を赤くして……俺を見つめていた。

 

「なにっ……!?」

 

「……いや、悪かった。せめて、もうちょっと言っとくべきだったな。すまん」

 

 そんな顔されたら、さすがに何も言えなくなる。確かに、全面的に悪いのはきっと俺だろう。──自分を省みない戦い方だった。

 ……まあ、こんな眼を持ったヤツ死んだ方がいいとは思ってたし、そこはきっと変わらないんだけど。

 

 ──さすがに、泣かれたら。罪悪感の一つや二つは浮かぶというものだろう。

 

「……二度としないで、私の前でも先輩の前だとしても」

 

「……悪い。次からは善処する」

 

 彼女が俺の制服を掴み、涙を隠すように顔を下に向け……俺の腹に頭を預けてそう告げる。

 

「それは善処しない奴の言い方……」

 

「……やりません。二度と」

 

「ん……」

 

「……ごめんな、小鳥遊」

 

 彼女の頭を撫でる。こんなにも、彼女は小さくて弱い少女だっただろうか。

 なんて……そういう感情を抱いて。

 

「次やったら、脚と手をへし折ってでも止めるから」

 

「……はい」

 

 訂正、やっぱ逞しいわこいつ。そういう言葉出る辺り実は余裕あるだろお前。

 ちょっと引き気味になりつつも……意外と可愛らしいところもあるのだな、ともう一度彼女を安心させるように撫でようとして───

 

ぁ───

 

 ドクン、と心臓が脈打った。

 視界に無数の「線」が、「点」が入った。

 

 小鳥遊の小さな身体に……

 その、鷹の目のような桃色のヘイローに。

 おびただしい数の線と点が()える。

 

 なんだ、これは。ユメ先輩でも()()()()()()()()()()()

 彼女もヘルメット団と比べれば多い方だったが、それでもこんなに多くはなかった。

 

 ─────ダメだ、これは。

 

 視えてはいけなかった。視てはいけなかったものだ。

 ────なのに、それがとても美しくて(おぞましくて)綺麗で(醜悪で)

 

 

 ──これを殺したらどんなに綺麗に視えるのだろう。

 

 

 なんて。そんなおぞましい考えが俺の思考に過ってしまった。

 

「ッ───」

 

「きゃっ……!? ちょっと七緒!? 何を──七織……?」

 

 慌てて彼女を突き飛ばす。俺の手が届かないところに。じゃないと、「殺してしまう」と。そう確信してしまった。離れなければ、遠ざからなければ……俺は小鳥遊を「殺す」。そんな確信があった。

 

「は……ァ───……」

 

 ダメだ。抑えろ。抑えつけろ。そんなものを抱くな。そんなものを持つな。

 ──殺してはいけない、殺したい殺さなきゃ、殺すわけにはいかない。

 

 息が詰まる。呼吸が整わない。思考が纏まらない。視界が正常にならない。

 

「七織!? 私が分かる!? ちゃんと見えてる!? しっかりして七織──……! 七──……!  ──織……!! 

 

 意識が、視界が暗転する。その時……うっすらと見えた彼女の顔には涙が浮かんでいて。

 

 ──ああ、泣かせてしまったな。なんて、そんなどうでも良いはずのことを考えて……俺は意識を失った。

 

 

 ────

 

 

「ほう……クックックッ……ああ、いえ失礼、思わぬ収穫があったことについ笑みが零れてしまいまして」

 

『─────!』

 

「ええ、もちろん。私たちはビジネスパートナーです。『契約』は必ず遂行致しますとも」

 

 ある場所で、黒いスーツの何者かが誰かとやり取りをしている。

 

『─────!』

 

「ええ、ええ。勿論。それは必ずや。安心してください。私も少し……興味を持ったことがありまして。はい、心配はいりませんよ。カイザーPMC理事長」

 

 その者が話していた相手はどうやらカイザーコーポレーションの社長であったらしい。

 

「…………クックックッ……まさか、いやいや……本当にまさか。このような形で、興味を唆る存在が見つかるとは思いませんでした」

 

 その男は、画面に映った……七織 シキの姿を見て笑みを浮かべる。

 

「死を()る眼。いえ、()()()()()()()()とでも言うべきでしょうか。

 ────『根源』……否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。既に喪われた過去の遺産だとばかり思っていたのですが……クックックッ……本当に、思わぬ拾い物ですね。こればかりは」

 

 男は歓喜にうち震えるように、そう口にする。

 そう、男にとっては悲願でもあった。敵対すべき存在。いずれ訪れる脅威。

 それを真の意味で打倒しうる可能性を持った存在を今、この時『観測』したのだ。

 

 彼が興味を抱くのは当然のことだった。

 

「ああ……嗚呼、本当に興味が湧き出てたまりません。

 貴方の『眼』は『神秘』を、『恐怖』を、『色彩』を、どう映すのか。

 ──七織 シキさん。ああ、是非……是非。貴方と会って話をしたい。そしてもし、私の望みが叶うのだとわかったのならその時は──!」

 

 冷静沈着、紳士、そう見えるその姿の男は珍しく興奮したように、笑って。

 

「────是非、貴方を迎え入れたい。()()()()()()()()()

 

 告げていた。仲間に引き入れたいと。

 そう告げる男の顔は……人ならざる、黒い異形であった。




某黒い服さんがアップし始めました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。