透き通るような死の線を 作:ゲマトリア「曇らせ」
昨日、日間12位に居たみたいで驚きました。
評価、お気に入り、感想ありがとうございます。
もし、土足で見ず知らずの……得体の知れない存在が自分の家に侵入していたら人はどう対応するのだろう。
警察を呼ぶ? もしくは何とか自らの手で撃退する?
それもきっとひとつの正解だろう。
だが、相手が理性的で……対話を望めるのなら?
───俺の答えは多分こうだ。
「で、お前はなんだ。なんで俺の家にいる。しかも土足で」
「クックックッ……失礼、少し驚かせようと思ったのですが……やはり、土足はマナーが宜しくなかったですね」
黒いスーツ、人というにはあまりにも逸脱しているその真っ黒に染まった顔。
──得体の知れない異形の存在を見ながら俺は拳銃を突きつける。
「聞こえなかったのか? お前は何者で、何のためにここに居る」
「おっと失礼致しました。私のことは『黒服』とでもお呼びください。そしてここに訪れた理由はひとつ、貴方に要件があったからですよ。七織 シキさん」
「───へえ?」
『黒服』などと自らの見た目そのままを名前として名乗るソイツに俺は警戒を緩めることなく、睨みつける。
──やはり、視えない。線も点も、この男には映らない。だからこそ得体が知れない。生命があるものであれば必ずあるはずのものがないのだ。不気味という他ないだろう。コイツは生きているのか、それとも死んでいるのか……それすら定義できないのだから、恐ろしい。
理解できないものほど恐怖を覚えるものはない、とはこういう事なのだろう。
「クックックッ……そう睨まないでください。その『眼』で視られてしまえば私も死んでしまいますので……少々細工をさせていただきました。そのせいで、不要な警戒を抱かせてしまったのであれば謝罪を」
「───お前……!?」
コイツは、今なんと言った? 聞き間違いでなければ『眼』で視られると死ぬ、と言った。つまり、コイツは……俺の『眼』を知っている……!?
「クックックッ……驚かれましたか? ええ、ええ。知っていますとも。
私は貴方のその内に秘めた『眼』のことをよく知っています。なにせ私は観測者であり、探索者である以前に……研究者ですので。──過去の遺産については私もよく知っているんですよ」
「過去の遺産……?」
「ええ、過去の遺産。……無名の司祭の遺産とでも言うべきでしょうか。私はそれの研究に着手しておりまして。ああ、尤も……貴方の『眼』はそれらとは無関係なのですが」
「…………」
眉を顰め、不快感を表す。明らかにこちらを弄ぶような言動。
狂言回しとでも言うべきであるような、その口振りに俺は苛立つ感情を抑えられない。
「失礼、不快にさせるつもりはありませんでした。『眼』に関して、でしたね。
……その『眼』、私はそれを『死をもたらす眼』……或いは『万象を殺しうる眼』と呼んでいます。まあ、名前などは些細なもの。それを表す記号があるとするならそれは『死』のみですので、そう呼んでも構いません」
その言葉を聞き、俺は続きを促すように視線をやる。
「続けましょう。七織さんに与えられたその眼は、その中でも最も純度が高いと言ってもいい。『神』も『神秘』も『恐怖』も『色彩』も殺すことが出来るものです。ああ、失礼。専門用語では分かりませんね。『神秘』とは即ちヘイローですよ、七織さん。心当たりがあるのでは?」
「─────」
心当たりは、ある。ありすぎて困るほどだ。ホシノやユメ先輩のヘイローには異様なまでに線や点が存在していた。それら全てが『神秘』を殺す線であり点なのだと、男は語る。
それは即ち……本当に俺は、衝動的にホシノやユメ先輩を殺そうとしていたということで───吐き気がした。 もし、少しでも耐えられなかったら……俺は取り返しのつかないことをしていた事になるのだから。
「クックックッ……その様子ではどうやら心当たりがあるようですね?
貴方は、その眼の衝動を実感した。しかし……それに抗った。実に素晴らしい」
「なにが……言いたい……!」
「言ったでしょう、『要件がある』と。今までのは全て、余談にすぎません。
……本題に入りましょう、七織 シキさん」
本題、つまり今までのは本当に俺の眼のことに関する情報開示だっただけ。
今から話すことこそがコイツの言う要件なのだと、否が応にでも理解させられる。何を企んでいるんだ。要件次第ではここで──
──確実に殺す。俺は拳銃を握り締めたまま、ポケットに隠しているカッターへと手を伸ばし……
「貴方をスカウトしたいのですよ、七織 シキさん」
「────は?」
その男から出た言葉があまりにも予想外だった故に、俺は思わず声を漏らして困惑を顔に浮かべてしまった。
「クックックッ……随分と驚かれてしまったようで」
「……なんの理由があってスカウトなんてしようとしてる。目的はなんだ」
けど、油断をするな。スカウトする理由が分かっていない。『眼』が必要だと仮定して……何の為に? 殺し? それとも、この『眼』の研究? 意図が読めない。警戒を解くわけにはいかない。
「目的、ええ、目的。確かにそれは告げておかなければ信用も信頼もできませんね。うっかりしていました。ええ、目的は単純ですよ」
───ある存在を殺すことです。
彼の言葉に、俺は息を呑んだ。
──つまるところ、殺しの依頼だった。この『眼』を使っての。
「ああ、勘違いしないでください。別に人を殺せ、と言っているわけではないのです」
「はぁ……?」
なら何を殺せとコイツは……
「先程も言いましたが貴方のその眼は『神秘』や『恐怖』、『色彩』を殺すものです。
───そして、私が殺して欲しいのは『色彩』なのですよ。七織 シキさん」
「……その色彩、ってのはなんなんだ」
「ある種の『概念』のようなものです。このキヴォトスの外にあるモノ。私たちや、貴方のような……外からの来訪者ともいうべき存在。万物へ干渉しうる恐ろしき存在です。そう、それこそ……──世界すら滅ぼせる存在」
「─────」
絶句した。つまりこの男は、俺に世界を滅ぼす存在を殺してみせろ、なんて無理難題を吹っ掛けたわけだ。
「ふ、ざけんな……! そんなの無理に決まってんだろ……!! 世界を滅ぼす存在を……俺に『殺せ』だって!? できるわけ──」
「できますよ」
「──っ……何を根拠に!?」
「貴方の『眼』もまた、『色彩』に繋がる力だからです」
「──は?」
この眼が、世界を滅ぼす存在と繋がっている……? どういう……
「物事には『死』が付随します。生命あるものから、道具。そして概念にすら。『死』というものは存在するのです。そう、万物の終わりに必ず付随する『死』。『色彩』もまた、例外なく『死』は存在します。故に、貴方はその『眼』で『色彩』と繋がっている。そして……それらを認識し、掌握し、自在に殺すことが出来るのが貴方の持つ『眼』なのですよ。七織さん」
「……そんな、でたらめ……まかり通るわけ……」
「通るのですよ。
「…………」
理由は分かった、俺の力が欲しい理由もわかった。だけど、信用できない。信じきれない。コイツが俺の眼を当ててみせたとはいえ、それだけでその商談に乗ることは出来ない。
「…………ふむ、やはりスカウトするには報酬は必要ですね。
では、こうするのはどうでしょう? アビドスの借金の……そうですね、5割程度を私が支払いましょう」
「はっ……?」
「ああ、勿論……私の目的を考えればこの程度は些細なものです。むしろ、これだけでは貴方へ支払う報酬としては不足しているほどですから」
10億に近い借金だぞ? それの半分……!? それを些細……コイツは、なんだ。
何を考えて──
「…………ああ、それだけではやはり不服ですか? それなら……カイザーPMC理事に、アビドスに手を出すことを止めるように……或いは、
「あ゛?」
───今、なんと言った? コイツは何を言った?
カイザーPMC? ホシノに手を出す。だと? コイツは──
「──ッ!!!」
「おっと」
「ぁグッ……!?」
カッターナイフを手にとりすぐさま振るった。だが、その刃は届かずに俺は床に転がり壁に背をぶつけてしまう。
「失礼、どうやら気分を害してしまったようですね。申し訳ございません。七織さん」
「お前か……! お前が、アビドスの借金を……!!!」
憎々しげに睨みつける俺に対して、『黒服』は涼しげに笑う。
「クックックッ、勘違いしてはいけませんよ。七織さん。敵は見誤ってはいけません。
借金が増えたことに我々は関与していません。もちろん、急激な砂漠化に関しても。ええ、あれは天変地異。自然災害です。我々は数多の研究を、解析を行いましたが……自然に干渉する手段は未だに持ち合わせてはおりませんので……アビドスの借金が増えたのはアビドス側の責任であり、我々ではありませんからね」
「……ふざ、けんな……! だったら、ホシノに手を出すってのはどういう──!」
「ああ、それですか。貴方がいなかった場合のもうひとつのプランですよ」
さも当然のように、『黒服』は語る。
「…………は?」
「色彩の打破には神秘と恐怖を知ることが不可欠でした。それ故に……このキヴォトスにおいて最も高い神秘を持つ小鳥遊 ホシノが必要だったのですよ。
小鳥遊 ホシノを利用して、色彩を打破するための力を手に入れるのだと。
それはまるで、少数の犠牲で世界を救うのだと豪語しているようで……
「────」
「ですが、今はそれらの解析、理解は不要になったのです。ええ、なにせ……それらの必要な過程を飛ばせる存在が此処にいるのですから」
「……俺の……『眼』」
「はい、その通りです。貴方がいる以上。それらは不要となった。貴方の『眼』は調べることになるかもしれませんが……貴方に危害が加わるような研究はしないと、保障致しましょう」
ふざけるな。なにがスカウトだ。これは
──俺が首を縦に振らなければ、小鳥遊 ホシノ達がどうなるか分からない。そういう意図での交渉。全ての決定権は既に『黒服』にある。そういう交渉だ。これは。いや、もはや交渉と言えるものですらない。
「……ああ、申し訳ございません。これでは『脅迫』ですね。
──私も貴方とわざわざ敵対する意思はありませんし、貴方の周囲へ危害を加えるつもりも既にありません。貴方が明確に、敵対すると言うのであればそうするのもやむを得ませんが……そうはならないと、信じていますので」
「……──ッ」
──この時点で、既に俺に選択肢など残されていなかった。
口が渇く、舌が回らない。……抱いたものは、2人への罪悪感。
「……わか、った……お前の、スカウトを……呑む……! 呑めば、いいんだろ……!!」
唇を強く噛み締め、血が滲む。
「クックックッ……交渉成立ですね。ええ、では……私が先に告げた報酬は全て行いましょう。そして、これは前払いです。七織さん」
コトン、と俺が蹲る床の上に……『黒服』は眼鏡ケースを置いた。
……なんだ、眼鏡ケース……? なんで、わざわざそんなものを……?
「ソレは、貴方の『眼』の力を抑えるものです。そうですね……死の眼とは、神話において魔眼とも呼ばれます。故にソレに名を与えるのなら『
魔眼……殺し……
「『色彩』を殺すよりも先に、貴方に死なれてしまっては困りますからね。『眼』に関する研究を行えば、この先、その眼を完全に封じるモノも作ることは出来なくはないでしょう。『色彩』を殺した暁には……ええ、その試作品の『魔眼殺し』ではなく、完成した『魔眼殺し』をあなたに与えると確約致します。正当な労働には、正当な報酬を。これは『契約』です。『契約』は必ず守りましょう。それが私の"大人"としての矜恃ですので。クックックッ……」
「…………」
「ええ、では……また近いうちにお会いしましょう、七織 シキさん?」
かつ、かつ……と足音が、遠ざかっていく。
───その音が、俺の心を蝕んでいく。
「……ごめ、ん……ごめん……ゆめ、せんぱい……ほし、の……ごめん……!」
口から出たその謝罪の理由は、分からなかった。
だけど、ひとつだけ……確信していることがある。
──この交渉に乗った時点で、俺はきっと……幸せな終わりを迎えないのだと。ろくでもない死に方をして、ろくでもない結末を迎えるのだと。
……それだけは……確信してしまった。
昔から、悪い"大人"に誑かされて、操られた人間がろくな終わりを迎えないというのはよくある話だ。
故に、七織 シキは……もう、戻れない──
七織 シキ
踏み込んでしまったのなら、もう戻れない。
ゲマトリア√ が 解放 されました ! ▼
黒服
いつもの悪い"大人"
交渉ではなく脅迫だったが、これでも本人的にはめちゃくちゃ歩み寄ってるつもりだし、誠意を持って対応してるつもり。
七織 シキはお気に入り。もちろん、いずれ来る"先生"とは別の方向性で。
興味本位で魔眼殺しを作っていた。
感想、評価よろしくお願いします。
モチベが爆上がりするかもしれません。