どこにいても殴りつけてくる猛暑、五月蝿い蝉、何もない訳でもないが何があるわけでもない住宅街。そこを歩く一人の男が居た。
「…ここだろうか、渡された写真とだいぶ違うが…」
勢裕、師より与えられて久しい雅号であり、彼の通り名である。
地方都市の外れの外れ、閑静すぎる住宅街。小一時間歩き回り見つけたその店には、人の気配と木材の匂い、そして綺麗に並べられたカードのショーケースが、そこにはあった。
「…ようやく見つけた…けど…誰も居ないのかな?すいませ~ん。」
男がそれなりに大きな声を出すと奥から如何にも、吾こそ此の店の店主成といった風格の爺が出てきた。
「はいはい。すみませんね、この歳になると客が来たのにも気付けなくて。御用は何でしょ。」
爺は年季の入った眼鏡を掛けながら、優しい口調で言う。男は、
「スーパーデッキのホイル版鬼丸「覇」を買いたいんです。できれば4枚。」
「ホイルの鬼丸が4枚ね。他には?」
「あとは…「頂」の刃鬼を2枚。以上で。」
「はい、取ってきますので、掛けてお待ち下さい。」
年季の入った内装だ。カードショップ以前にもなにか商いをしていたんだろうか。不思議なことに、カードショップらしさがない。
「おまたせしました。いやーどうにも暑いですね。うちはクーラーがあるんでまだいいですが外に出るのが辛くって。買い出しにも出られません。」
「いや、ほんとに。湿気でカード曲がりそうで怖いんですよ。」
「よろしければお茶でもどうです?この時間誰も居ないので。」
「良いんですか?えっでも…ありがたいですけど、本当に良いんですか?」
「はい。見たところこのあたりの方じゃないでしょう。お疲れでしょうし、それにじじいになると話し相手が居ないとどうにも退屈で。」
「あぁ…じゃあ…お言葉に甘えて…」
「ふふっ。お菓子とお茶、持ってきますね。」
「どうぞ。どら焼きと緑茶です。お口に合うかわかりませんが。」
「頂きます…あっ、美味しいですね。好きな味です。」
「それは良かった。…お客さん、どうやってここを知ったんです?近所の子供たちと私の知り合いくらいしか知らないと思いますが。」
「ああ、実は古い知り合いに鬼丸「覇」の状態の良いホイルを扱っている店を紹介してくれと頼んだら、ここの住所と写真を渡されて。」
「ほう、誰ですかな?」
「鎌倉さんです。たしか40とかそこらの男性です。」
「ああ、あいつか。元気にやってますかな?」
「はい。元気ありすぎます。一度も勝てたこと無いんですよ。」
「懐かしいなぁ…アイツとはここがカードの専門店になる前からの付き合いでして。あいつがたしかまだ中防の頃だったか、有難うございます。このご時世に未だに固定電話なもんで、外の情報はたまに来る手紙と電話、それから近所の子供と常連からで。知り合いが寄越してくるのは、葬式と、子供か孫の結婚報告ぐらいで。」
「へぇ…昔もカードで遊んでたんですか?」
「はい。私の同級生にナナセというのが居まして、そいつとずっと遊んでましたね。」
「はぇ〜…ん?そのナナセって人、なんて字なんですか?」
「七に勢いですが。字がどうかしました?」
「それ、私のカードの師匠かもです!」
「え?」
「詳しくお話、伺っていいですか!?」