糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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予約投稿する→公開時間前に読み返す→書き直すを繰り返していました。あまり時間をかけるのも良くないので投稿します。


────ま、本当の実力は交流会(9月)をお楽しみにって事で


姉妹校交流会・中

「かいこ嫌ぁい」

「ひどいなぁ。俺たち友達でしょ」

 

 会場の外から一直線に飛んできた開己は油断なく里香と対面しながらも、術式を全開で稼働し感知糸を()り、会場内へと広げていた。

 

(呪詛が濃すぎて状況が掴めない。憂太は何処だ)

 

 憂太と里香の呪力が同一であるため、この呪詛だらけの場所では憂太本人を感知糸で見つける事は不可能だが、きっと憂太の周りにはクラスメイト達が居る。

 彼らが固まっていればそこが憂太の居場所だ。

 

(憂太がいなければ里香ちゃんはいつまでも引っ込まない。ここに憂太が居ない以上、領域は、使えない)

 

 祈本里香の顕現は基本的に乙骨憂太の許に帰ることで終了する。

 領域で2人を分断すれば、里香にその気があったとしても顕現が終わることはない。

 故に開己は自身の最も得意にして最大の技である領域展開を封じられたまま特級過呪怨霊と対峙しなければならなかった。

 

「ま、何とかなるさ」

 

 半ば無意識にそう口にした。開己の思い描く最強は、そう言って笑うだろうから。

 

「かいこが憂太を隠したんでしょ!」

「そんなことしないよ、俺だって憂太を探してるんだから」

 

 開己は迫りくる里香を前に呪力を滾らせ身を固める。

 里香の攻撃は込められた呪力量からいずれも必殺の威力を持っている。生半可な防御は意味を成さず、開己も可能な限り、躱すか受け流すことで身を守っている。

 

 だが、この瞬間はその方法を選べない。

 

(俺の背後には、真依さんがいる)

 

 開己がここに来た時点で意識を失いかけていた京都校1年、禪院真依。

 その体から呪力が全く感じられなかったため、開己は最悪を想定し持ち込んだ結界布とありったけの転術糸をすぐさま使用した。

 

 現在は意識を失っているものの、呼吸をしており、繋いだ糸は彼女の拍動をこの瞬間も伝えている。

 

 もし開己が回避や受け流しをすればその攻撃の余波は辺りに撒き散らされる。

 運悪くそれが真依に直撃すれば、今度こそ、死は免れない。

 

(痛いのはいつぶりだっけ)

 

 里香の拳が迫る中、かつて辞めるように強く言われた悪癖である、「動きを止めて全力で防御を固める」ことを意図して開始した。

 

 インパクトの瞬間に呪力を炸裂させ威力を相殺する。全身に巡らせた呪糸を通して足元や周囲へと衝撃を受け流す。など、開己は今取れる防御手段の全てを講じて里香の拳を真正面から受け止めた。

 

 叩きつけられた拳はあらゆる防御をものともせず、開己の体の芯を衝撃で貫く。

 

(痛い。痛いけど、痛いだけだ)

 

 左半身に張り巡らせた糸で壊れた場所がないことを確認し、久々に体を襲う痛みに耐える。

 

 開己は普段から『左半身を犠牲にし、感覚の生きている右半身への被害を減らす縛り』を使用している。瞬間的な痛み等で術式の制御が緩めば、より悪い状況に陥るからだ。

 縛りを使うと受けるダメージはむしろ増える。両腕で受ければ“痛い”だけで済むダメージも縛りによって左腕の骨折等へと置き換えられる。そこまでやってはじめて足し引きが釣り合う。

 普段であれば、縛りによって割り増しで受けたダメージは、服に仕込んだ転術糸によって半自動的に治療が行われる。

 そうすることで縛りのデメリットを踏み倒し、痛みを消すというメリットだけを享受する事が出来る。

 

 だが、縛りのデメリットを踏み倒す為の転術糸は生死不明の真依にほぼ全て使ったために手元に残っているのは残り僅か。

 痛みを消すために縛りを使えば、それにより増幅した骨折や失血などの影響は必ず開己を襲う。それも開己の気付かぬ内に。

 そんな致命的な隙は今この場では晒せない。

 

 痛みは受け容れ、耐えるしかない。

 

 転術糸のほとんどを使いきった事を開己は後悔していない。

 状態が分からなかった以上あの瞬間では正しい判断だった。

 繋いだ糸から伝わる微かな鼓動は開己を鼓舞している。

 

「かいこ、今日は逃げないんだねぇ」

「そっちの方が里香ちゃん楽しいでしょ」

「うん!」

 

 楽しげな里香が両腕を組んで開己に叩きつける。

 さっきまでとは比べ物にならない衝撃が開己を襲った。呪力と呪糸、術式も総動員して防御を固める。

 その余波は辺りに衝撃を撒き散らし風が周囲の木々を揺らす。

 

(いつもみたいに煽ったのは完全に失敗だ、転術糸も無いってのに!)

 

 受け止めた際に拉げた左腕を見て、急を要する負傷でないと判断し、無視を決め込んだ。

 

「あれ、真希ちゃんだ! 寝てるのぉぉ?」

 

 先ほどの衝撃で真依を覆っていた結界布が外れ、その姿が露わになる。

 開己は思わず舌打ちをした。無意識で、自分の知ってる最強のように振る舞っていたことを自覚した。

 

(自惚れだ、俺は五条先生(最強)じゃないだろ)

 

 双子は呪術的には同一人物だ。里香(呪いの女王)にとってもそれは同じ。里香は真希(真依)の事が開己よりも嫌いだった。

 

「人違いは良くないな、里香ちゃん!」

 

 制服の一部が解れ右拳に巻き付いた、さらに自身の呪力をそこに載せて渾身の一撃を里香に叩き込む。

 今日初めての開己から里香への攻撃は里香の顔を捉え、里香を大きく退かせた。

 

 四級呪具【元ハンガーラック】から着想を得て開発した“受けた衝撃を一時的に溜める呪糸”を用いた、これまで受けた攻撃が力となる強烈なカウンター攻撃だ。

 どんな強者でも、得てして自身の攻撃というのは通じるものだ。一部例外を除いて。

 

「痛いなぁあもう!」

 

 吹き飛ばされた里香は怒りに震え、真依(嫌いな女)の事などすっかり忘れたように攻撃をしてきた開己へ敵意を剥き出しにする。

 そんな里香の懐に敢えて開己は飛び込んだ。

 

 少しでも真依から遠ざかるため、真依を里香(危険)から遠ざけるために。少しだけ惜しみながら、鼓動を伝えていた(つながり)を手放した。

 

 伸ばし続けている感知糸に未だクラスメイトは誰一人かからない。

 術式を回し、捜索の手を広げ続ける。この状況を終わらせる為の鍵を求めて。

 

(何処に居るんだよ、憂太)

 

 

 

 

 

 

「起きろ、憂太!」

 

 開己と里香の交戦箇所から東に約800メートル、意識を失っている乙骨憂太の周りには東京校1年真希・パンダ・棘の3名が揃っていた。

 

 

 時は少し遡り団体戦の開始数分後、一拍の拍手と共に乙骨は3人の目の前で姿を消し、その直後、祈本里香が完全顕現を果たす。

 高専観測史上最大濃度の呪詛に対し、真希たち東京校1年3名は五条の指示で供与されていた結界布を使用し身を守る。

 乙骨及び里香の呪力を元に作成された結界布は里香が発する呪詛の影響を遮断し、里香の呪力探知から姿を隠す事が出来た。

 

 その状態で里香の顕現地点に移動した3人は、呪具によって心臓を穿たれ()()()()()()乙骨憂太を発見する。

 

 里香の絶叫と破壊音が辺りに響き渡る中、3人は迷うことなく胸を貫いていた呪具を引き抜き、それと同時に所持していた転術糸全60本の使用を決断した。

 

 遺体発見から23秒後、乙骨の心臓は再生する。

 

 転術糸の治療と並行し、絶え間ない心肺蘇生を行い、絶命から2分41秒後、乙骨憂太は自発呼吸を開始、蘇生を果たす。

 

 時を同じくして祈本里香は鎮静化、しかし、程なくして飛行している京都校生徒(西宮桃)を発見し暴走を再開。

 残された東京校1年3人は乙骨の意識を取り戻すためあらゆる手段を講じ続け、今に至る。

 そんな折、パンダの嗅覚がよく知る相手の気配を捉えた。

 

「かいこの呪力(匂い)だ。あっちで里香と戦ってるの、かいこだ」

「しゃけ」

「悟じゃねえのか、こんな時に何やってんだアイツは! さっさと起きろ、憂太! いつまでも寝てたら開己が死ぬぞ!」

 

 呼びかけに対し、乙骨憂太は反応を示さない。乙骨の意識と魂は未だ最も死に近い場所にいた。

 

「ツナマヨ」

「うん、それしか無いよな」

「なら憂太は私が背負う。パンダは先行して道案内、棘はなんか有ったら呪言でサポートをたのむ。いいな」

「おう」「しゃけ」

 

 棘の提案で、憂太を開己たちのもとに連れて行く事を決めた3人は素早く準備を進める。

 開己が負けるとは誰ひとり思っていないが、勝つためには憂太が必ず必要だと言うことも全員が理解している。

 

(無事でいろよ開己────真依)

 

 

 

 

 

 

「五条、アンタなんで動かないの! 生徒を殺す気!?」

 

 特級過呪怨霊・祈本里香の完全顕現から2分後、五条悟ら教師陣は交流会団体戦会場脇に居た。

 歌姫はつい先程「里香ちゃんの所に飛ばす。頼んだよ」と言って葛陰を送り込んで以降、会場内に足を踏み入れようとしない五条に対して怒りを露わにしている。

 

「動かないんじゃなくて、動けないんだよ。おじいちゃん、何か言うことがあるんじゃない?」

「言う事なぞない。この状況で動けないなど、特級といえど呪いの女王が怖いのか?」

 

 五条、楽巌寺の両名には今回の交流会に際して口外禁止を含む複数の縛りが課せられている。

 その縛りにより、五条悟は団体戦終了まで参加生徒への干渉及び会場内への侵入が禁じられている。結界の設営と管理を葛陰開己に一任させ乙骨憂太の出場を可能とさせる代わりに飲んだ条件だった。

 

「五条に動く気がないのであれば、我々でアレに対処する他ない。行くぞ」

「は、はい!」

(白々しい。上はともかく、楽巌寺が生徒の犠牲を許容するとはね。ちょっと買いかぶってたな)

 

 縛りに始まり、乙骨憂太の出場を半ば強制するような京都校1年の動員など、陰謀が蠢いていることは百も承知だった。

 それでも同じ教育者として、自身の教え子の危険は最小限に抑えるだろうと、五条は楽観していた。

 それに対して、五条は東京校の生徒に対してできる限りの備えをさせている。

 

 だが、その結果がこれだ。

 

「これまで見たことない呪いの濃さだ。きっと憂太の身に何かあったんだろうけど、糞爺(おじいちゃん)、心当たりある?」

「……」

 

 結界に足を踏み入れた楽巌寺に対し五条は最後にもう一度声を掛けた。

 楽巌寺が団体戦の終了を宣言すれば五条の介入が可能になる。それが現状唯一かつ最善の策だ。

 誰もがまず思い付きそうなそれをしないのは楽巌寺が思っていたよりも腐っているか、五条と同様何らかの縛りを結ばされているかだ。それを追及する時間は今じゃない。

 

「あっそ。歌姫、これ好きに使っていいよ」

「これって……」

 

 五条は持っていた転術糸全てを歌姫に投げ渡す。事が終わるまで中に入れない五条の手元に有っては、文字通り宝の持ち腐れだからだ。

 

「僕の出る幕が無いのが理想だけど……でもま、大丈夫かな」

 

 歌姫らを見送り、この場で打てる手を全て打った五条はストレッチをしつつ何の気なしにそう言った。

 送り出すときに返ってきた「任せてください」という教え子の言葉を信頼しているからだ。

 

 

 

 

 

 

(五条先生は生徒の危機を見過ごす人じゃない。何かしらの動けない理由が有って俺を送り込んだ)

 

 里香と開己の攻防はしばらく続いており、膠着状態が続いていた。

 五条が動けるならばそもそも開己を送り出す必要はない。この局面を自身の力だけでなんとかしなければならない事を改めて胸に刻んだ。

 

「里香ちゃん、そろそろ憂太のところに帰ろう!」

「うるさい!  うるさい!  うるさあああい!」

 

 癇癪を起こした里香は大振りの連撃を繰り出す。

 自身を糸で操り、人体構造を無視した動きで開己は付かず離れず里香の攻撃を躱し続ける。

 

 それと並行して術式を回し、粘着性の高い糸を作っては里香に浴びせ続けていた。

 糸は里香の動きを止めるほどの強度はない。僅かな動き辛さと不快感を与えるだけで、浴びせかけたそばから呪力放出で消し去られる。

 里香の呪力は底なしだが、呪力を放出するとその分だけ落ち着きを取り戻していく。この戦法は里香をあまり刺激せずかつ素早く落ち着かせる方法として非常に効果的だった。

 

 これまで繰り返された攻防と感知糸の構築で開己の服に仕込んだ呪糸は大きく損耗している。外付けの呪力タンクであった呪糸も呪力を吐き切り7割ほどがただの糸と化している。

 しかしその甲斐あって、開己自身の肉体には大きなダメージは無く、まだしばらくは膠着状態を維持できる余裕があった。

 里香も、真依(嫌いな女)の事は意識からさっぱり消えたようで自分を虐めてくる開己に集中していた。

 

(ひとまず急場は凌いだかな)

 

 好転している状況に開己は僅かに安堵していた。

 

 里香が自分のみに集中してくれているため、回避による対処が行えているからだ。

 あらゆる方向に向けて“術者と最初に触れた物体以外が触れる事が出来ない呪糸”を伸ばし、その糸で自身を引っ張る事で行うワイヤーアクションの様な立体的な回避を可能にした。

 これにより、超至近距離で里香の猛攻を回避し続けることを可能にしていた。

 

 そうして戦っている間に会場全域に広がった感知糸は既に多数の高専生を捕捉しており、確認した限りで死者はゼロ、重傷を負っていた者も歌姫や楽巌寺によって転術糸での治療が施され一命を取り留めている。

 

 現状、感知糸及び外周の結界によって脱出を検知出来ていないのは東京校1年4名のみであり、これだけやって見つからないのであれば、感知糸では彼らを見つけることは不可能だと判断し、開己は感知糸との接続を解除する。

 

(感知糸で見つからないのはこの呪詛と結界布によるカモフラのせいだろうな。そして結界布を使ってるってことは、事態収束の為に動いてくれてるってこと)

 

 里香の連続攻撃を冷静に捌きながら、開己は今後のプランを組み立てる。

 

 里香の特性はクラス全員が把握している。里香を帰すには、憂太が必要なこと、憂太の意識がなくとも里香は出入りできること、そして里香を落ち着かせる必要があること。

 

「もうやだ、憂太ぁ…どこぉ…」

 

(里香ちゃんは落ち着いてる。後は憂太が来れば……)

 

 すっかり攻撃が当たらなくなった開己に嫌気が差したようで里香はすっかり落ち込んでいた。

 

 あとは憂太さえいれば、そう思った矢先、開己の視界が結界布を纏った人の影を捉えた。

 最高のタイミングで来てくれたクラスメイトに開己は思わず破顔する。

 

「最高。やっぱ頼りになる」

 

 結界布を掛けた憂太らしい人影を木にもたれ掛けて、3人はその場を離れる。

 去り際のパンダのサムズアップに感謝の意を込めた相槌を返した。

 開己は糸を伸ばし、それが憂太であることを改めて確認する。

 

(脈はある。気を失ってるけど、里香ちゃんはこの上なく落ち着いてるし、大丈夫なはず)

 

「里香ちゃん、憂太見つけたよ」

「憂太ぁ、どこぉ?」

 

 緊張状態が続いて居たからだろう。ようやく終わりが見えたことで油断していたからかもしれない。

 里香の視線の先で結界布を勢いよく剥がすと、血塗れの憂太が現れた。その瞬間、開己は自身の失敗を悟った。

 

「あ、あぁあ、あぁぁぁああぁぁぁ、憂ぅ太ぁああぁぁ!」

「────俺のミスだな」

 

 焦らず顔だけにしておけば、そんな後悔をしている開己を余所に、目にも留まらぬ速さで移動した里香は憂太をその手で抱き締める。

 そのまま憂太が生きている事に気付いて、引っ込んでくれと開己は願うも、その願いは届かない。

 

「憂太、しんじゃった……」

「里香ちゃん! 憂太は寝てるだけだよ! よく見て!」

 

 開己の言葉は届かず、里香の額に巨大な瞳が浮かび上がる。

 ギョロギョロと辺りを見回すそれは、ここから遠ざかろうとする自分の呪力(匂い)を纏った3つの人影を発見する。

 そこから感じる自分の呪力(匂い)の中に、よく知る呪力(匂い)が紛れている。

 抱きしめている憂太からも匂う、里香が嫌いな真希()呪力(匂い)だ。

 

「お前がぁ、憂太をヲヲォ゙!」

 

 里香の怒りと憎しみが呪力の塊となって形を成していく。

 

 その瞬間、開己は迷いなく淀みなく憂太が来たことで(皆のお陰で)解禁された十八番(おはこ)を切った。

 

 

【領域展開・大宜都桑園(おおげつそうえん)

 

 

 四方を取り囲む糸車の金切り声が里香の慟哭を切り裂いた。




使用された転術糸、計22セット
(希望取引価格1セット700万円※値下げしました)

乙骨:生死の境
五条:縛りにより動けず
乙骨を攫った犯人:里香の顕現と同時に握り潰される(他の生徒だったら即死していた。何故か生きてる)
里香:呪力の制限解除

京都校3年の高身長スレンダーがタイプの男が事前に縛りを結び、術式で乙骨を攫わせました。
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