糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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姉妹校交流会・下 「極ノ番」

 風もなく絹布が靡き、四方と中央上部に配置された5つの糸車が軋むような金切り声をあげている。

 大宜都桑園(おおげつそうえん)、開己の持つ紡糸繰術の極致だ。

 

 大宜都桑園の必中効果は至って単純、紡糸繰術の術式対象を『自身の呪力』から『領域内に存在する全て』に拡張する。

 それは里香が纏う呪力であり、里香が溜めている力の塊であり、里香そのものだ。

 

「対象選定、出力最大」

 

 開己は必中効果の対象を里香の溜めている呪力の塊に限定し、収束させる。

 糸車の金切り声は更に音を高くし、笛の様な美しい音を奏で始めた。

 

 里香の眼前の禍々しい光はみるみるうちに糸車に巻き取られ、(しぼ)んでいく。

 

「邪魔するなァぁあ!」

 

 溜めていた呪力を奪われたと気付いた里香が怒りを込めて残っていた呪力を散弾の如く飛び散らせた。

 それに対し、開己は自身に迫るものだけに必中効果を発動する。散弾程度では領域の外殻は揺るがない。

 

 大宜都桑園は膨大すぎる呪力消費という紡糸繰術のデメリットを強制的に相手に押し付ける紡糸繰術唯一の直接攻撃手段だ。放たれた小さな呪力程度であれば瞬く間もなく糸へと変換される。

 この領域内では術師であろうと呪霊であろうと呪力切れを強いられる……たったひとつの例外を除いて。

 

 かつて開己は、五条の協力のもと、大宜都桑園を用いて里香の呪力を全て奪うことで強制的に顕現を終了させられないか試した事がある。

 呪力タンクも総動員して挑んだその結果、試みは失敗し、その代わり祈本里香が『底なしの呪力の塊』であることが判明した。

 

 ────祈本里香は、大宜都桑園の天敵であった。

 

「憂太……憂太ぁ……憂太あぁぁああっ!」

 

 先程の焼き直しのように、里香が呪力を収束し、開己が必中効果でそれを糸に変換する。

 

「なんで邪魔するのぉ!」

 

 里香は開己の妨害に対し、呪力を収束をすることをやめ、固めたそばから連続で発射しはじめた。

 

「やらしい攻撃を」

 

 開己は必中効果を発射された呪力塊ひとつひとつに適用しなければいけない。さもなくば里香が抱えている乙骨にまで必中効果が及ぶからだ。

 

 呪いの女王による乱暴で幼稚な呪力の基本攻撃は無尽蔵の呪力に裏打ちされ、残り滓を放っただけの先程の散弾とは打って変わって、1発1発が致命的な威力を持っていた。

 そんな呪力塊の連射が30発を超えた辺りから、糸への変換が追いつかなくなり、幾つかの弾が開己の近くを掠めだす。

 

 里香の呪力は無尽蔵だが、開己は領域の維持、術式の発動に呪力を消費し続ける。

 真綿で首を絞められるかのように、開己は少しずつ追い詰められていた。

 

「なんで当たらないのぉぉお」

 

 一方の里香は呪力塊を発射しつつ呪力を溜めるといった工夫を行い始めた。

 開己の額を汗が伝う。

 

(アレは不味いな……)

 

「かいこなんて、死んじゃえばいいんだ!」

 

 鋭く精錬された呪力の杭が解き放たれる。

 速く、硬く、濃密なそれは全力の必中効果であっても消すことは叶わない。

 避ければ領域の外殻に無視できない破壊が齎されるため、開己には受け止める以外の選択肢はなかった。

 

 開己は領域と並ぶ、紡糸繰術におけるもうひとつの奥義を切る。

 

「紡糸繰術、極ノ番『織織織(しきおりおり)』」

 

 瞬間、開己の眼前に2枚の結界布が現れる。

 予め用意していたものではない。そのどれもがたった今作成されたものだ。

 

 極ノ番『織織織』は、(つむ)ぎ、()り、()り、仕上げといった紡糸繰術によって行われる4工程を省略し完成品を即座に作り出す紡糸繰術のもうひとつの極致。

 莫大な呪力消費を代償に、尋常を超えた早さであらゆる構築を完遂する。

 必中効果によって作られた呪糸を流用することで前2工程が省略されたそれは、瞬きよりも早く──時間にしてわずか0.08秒で2枚の一級呪具をこの世に生み落とした。

 

 

 放たれた杭と、それを受け止めた防壁はその内包された呪力を炸裂させる。

 

 

 強烈な爆発音が領域に一時的な静寂を齎した。

 役割を終え、霧散していく結界布の向こうから現れたのはより黒黒とした呪力を集積する里香(呪いの女王)

 

「まだダメか……」

 

 開己はこれまで幾度も里香と交戦してきたが、大抵の場合、呪力による砲撃を行った里香はほどなく顕現を終了している。

 1度の顕現で呪力砲は多くとも2発。だからこその極ノ番であったが、相対する里香は底なしの呪力を笠に着て同時に4本の杭を鍛造していた。

 

「もっともっとぉ!」

(里香が自分から帰ることは諦めたほうがいいかもな……)

 

 大きく息を吐き開己はプランの変更を考え始める。底が見え始めた自身の呪力を感じ、不意に数ヶ月前の出来事が頭をよぎった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「五条先生って呪力も無限なんですか?」

「いや、そんなことはないよ」

 

 日課のシゴキを終えた開己は焼き切れた術式と襲いかかる疲労感に大の字になりながら五条と雑談をしていた。

 呪力切れで大息を吐いている開己とは対照的に、五条は涼しい顔で凪いだ呪力をまとっていた。

 

 その日の訓練では、開己は五条に対して必中効果を全力で発動していた。

 

 対する五条は大人しく必中効果を受ける訳がなく、御三家秘伝・落花の情や簡易領域、領域展延、果ては古の技術である彌虚葛籠(いやこつづら)などを組み合わせ、必中効果を無効化して戦っていた。

 当然開己も負けじと身に付けた呪具や糸を使って応戦する。

 

 呪力消費の大きい落花の情、動けぬ簡易領域、無下限が使えなくなる領域展延、両手の塞がる彌虚葛籠、それぞれが抱える弱点を突きながら奮闘するも、五条の吸引を伴う不思議な腹パンに開己は敗北を喫した。

 

 領域対策技術にリソースを割かせるために領域の出力は常に全開だった。ほとんど糸は紡がれていないが開己の呪力は大きく削れ底が見えていた。

 対する五条の呪力は戦う前とさほど変わらないように開己には感じられた。

 

「実はカッコつけて涼しい顔してるだけだよ。それより開己、術式の効率もっと上げられない?」

「うーん……そうしたいのは山々ですが」

 

 衣服に仕込んだ呪糸を呪力を通して操作し、開己は体を起こした。

 

 一般的に構築術式は効率が悪いと言われている。

 その主な理由は、『術式を回すための呪力』と『物質化される呪力』の両方を同時に消費するからだ。

 大きな物を作れば物質化により多くの呪力を必要とし、複雑な物を作ろうとすれば術式を回すための呪力が増えていく。

 

 今回糸が紡げていないにも関わらず呪力が失われているのは、術式を回す方の呪力を消費し続けていたからだ。

 

 術式の精度を上げるためにより多くの反復訓練を要するが、その呪力消費の大きさがそれを阻む。

 太古から構築術式が扱い難い術式と言われる所以である。

 

 そのため、多くの構築系術式の使い手は材質か形状或いはその両方を縛り、術式の効率を高めている。

 葛陰の相伝・紡糸繰術はその最たる例だろう。一族全体で「絹」でできた「糸」のみを作成するという縛りを代々重ね術式効果の底上げを行ってきた。

 その最終到達点こそ、葛陰の至宝、当代当主である葛陰開己だ。

 

「これまで先祖代々積み上げてきた縛りを捨ててでも、それ以上の効率が得られる確信が有ればいいんですけどね」

「それはまあ、ちょっと難しいかもね」

 

 例えば、領域展開中に相手の呪力を糸にするのであれば消費するのは術式を回すための呪力のみとなる。

 領域の維持コストに目を瞑れば、呪力出力や術式効果の向上と相まって、領域内での呪力効率は他多数の術式と比較しても大きな差はない。

 それでも複雑なものを作ろうとすれば呪力消費は嵩んでいく、それを解決する方法は今の開己には思いつかなかった。

 

「物質化と同様に、術式を他人の呪力で回せれば良いんですけどね……」

「それは流石に無理だね」

「ですよねぇ」

 

 五条の言う通り、生得術式の起動には基本的に当人の呪力を要する。

 もしも他人の呪力で術式が起動するのであれば、今頃呪術界は死体に呪力を流して使っていただろう。

 膨大な呪力量でその問題を解決する事は一応可能であるようだが、今度はその量の呪力を流される()の方が保たない。

 

「いや待てよ、体の方が保たないなら、術式を頑丈な何かに外付けしてしまえば、膨大な呪力を流し込んで無理やり術式を動かせるかも……!」

 

 その瞬間、自分は天才だと思った開己はたった今焼き切れから回復した術式を回し、思い描いた物を構築していく。

 外付けの術式さえ出来てしまえば、底なしの呪力は身近にある(いる)

 

 思った通りのものが作れればあとはそれを誰かに提供し、開己自身は不労所得で五条悟に襲われる(こんな)生活ともおさらばできる。などという、謎の論理飛躍までしていた。

 呪糸生産から解放された開己を五条がどうするか本人も大体見当がついているが、全力で目を背けている。

 

 構築術式は複雑な物を作成しようとすればそれだけ多くの呪力を必要とする。

 そのことを完全に失念していた開己は瞬く間に呪力切れを起こし術式は停止、作りかけの端切れがひらひらと舞い、開己は再び大の字になって地面に倒れた。

 

「うーん、それ作るのに使う呪力の方が多いんじゃない?」

「確かに……」

 

 開己は自分は天才ではないと悟った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 その時に閃いた、術式搭載型呪具・羽織(仮称)には多くの問題がある。

 作るのに多大な呪力を消費するのは大前提として、術式を搭載するにはその術式の回路と呼ぶべきものを物理的に再現しなくてはならず、十分に解析できている術式──つまり自分の術式くらいしか搭載する事は出来ないということだ。

 

 その上、肉体に備わっている術式と違い、再現された術式は装備者からのコントロールをほとんど受け付けず、予め設定された一定の結果しか出力出来ないという欠陥品と言っていい代物だった。

 その時々に応じて様々な物を作り出す紡糸繰術とは致命的に相性が悪く、それが判明したときは使い途は無い、そう思った。

 

「ううっ、憂ぅぅ太ぁあ……」

(やっぱり終わらないか……)

 

 4本の杭を発射し終えた里香は涙を流しながら既に呪力の収束を開始していた。作り出されている杭は8本、明確な殺意がそこには込められている。

 なんとか杭4本による攻撃を凌ぎきった直後に見せられたさらなる殺意に、最早必中効果でその威力を減衰させることすら開己は諦めた。

 

 依然里香が消える気配はなく、憂太が目覚める予兆はもっとない。

 爆音や衝撃、暴れる里香にあれだけ振り回されているにも関わらず、意識が戻らないのだ、乙骨が目を覚ます事は当分ないだろう。

 

 だから、開己はプランを実行に移すことにした。

 

 そのプランとは、里香にダメージを与え、強制的に顕現を終了させること。

 制御の利かなくなった里香に対して度々五条が行っている暴力的解決法だ。

 

(ぶっつけ本番だけど、やるしかない)

 

 現在里香が作り出している杭が放たれればまず防ぎ切ることはできず領域の外殻は貫かれる。

 故に領域が崩壊することを受け入れ、その杭が領域を貫いた先で周囲に被害をもたらさぬよう、頭上から糸を垂らし自身を空中へと吊り上げた。

 

(まだ、糸が足りない)

 

 これから行うことの成功率を高めるためには少しでも多くの呪力(呪糸)が必要となる。開己は残る呪力を術式に流し込み、里香に対して必中効果を最大強度で発動する。

 里香の杭が次の瞬間に放たれそうになっている今、もう呪力の節約を気にする必要はなかった。

 領域が崩壊すれば術式は焼き切れ、どうせ呪力も役に立たなくなるからだ。

 

 やがて呪力の杭の鍛造を完了した里香が上空に浮く開己目掛けてその全てを発射する。

 最小限の呪力消費でそれを凌ぐため、開己は自身を吊っていた糸を切り離すと、領域外周部の糸車から糸を伸ばし自身を急激に引っ張ることで空中で急制動を掛けた。

 そして、プランの第1段階として極ノ番『織織織』を発動した。

 

営繭(えいけん)!」

 

 営繭は、呪糸もしくはそれによって作られた布によって構築される個人用防御結界だ。

 それは五条悟の『赫』からも身を守ることが可能な開己の持つ最大の防御法のひとつ。

 

 営繭の発動には本来開己が直接触れる必要があるが、開己の領域内に存在する全ての物体は開己が触れている場所と同義となる。

 営繭で守るのは開己自身ではない、里香に抱かれている乙骨こそが開己の狙いだ。

 

 極ノ番の術式効果により、瞬きする間もなく、里香に抱かれていた乙骨の体は、堅牢な防護壁に包まれた。

 里香の呪糸で作った上、そのあまりの構築速度は抱いている里香に乙骨の変化を悟らせなかった。

 

 営繭の作成によって乙骨の保護に成功し喜んだのも束の間、里香が発射した杭のひとつが開己の左脇腹を捉えた。

 

(痛みはない……この際、ここは捨てる!)

 

 杭が自身に着弾した瞬間に開己は呪力防御を解除した、無意識下に行われた縛りにより命中箇所以外への被害は抑えられ、里香の放った杭は炸裂せず、開己の体内をただまっすぐ貫通した。

 

 放たれた8本全ての杭が領域の外殻に着弾、貫通し、領域に孔を穿った。

 

 

 ────そして領域の崩壊が始まる。

 

 

 数秒後には領域は完全に崩壊し、開己の術式は焼き切れるだろう。

 だが、それだけあれば十分だった。

 

 呪力放出と呪力強化によって地面に軟着陸すると同時に、術式発動の準備に入った。

 頭の中にとある設計図と更にそれを内包した設計図を思い浮かべる。それは極ノ番・織織織の発動に必要な準備だ。

 

(足りない呪力は縛りで補う)

 

 呪力の不足を悟った開己は自らに縛りを課し呪力の確保を行った。

 

 縛りの内容は『向こう2週間は完全休暇とし、呪力出力上限は平時の3%かつ術式は封印。更に現在装備している自身の呪力が籠もった呪糸及び呪具の全消失』だ。

 

 デメリットの履行は次回術式完了後。

 その時失われる呪糸と呪具は総額8億3000万円を超える。開己にとっても手痛い出費であり、だからこそ縛りとして効果がある。

 

 

 必要な呪力が縛りによって補われたことを認識するやいなや、開己はそれらすべてを費やし術式を発動した。

 

 

 

「紡糸繰術、極ノ番『織織織』!」

 

 

 

 領域は崩壊しつつあるが、その最中であっても領域効果による術式対象の拡大は生きている。

 極ノ番の術式対象を自身の呪力から、里香本体へと変更する。

 そうすれば呪力消費は術式を回す分だけで済むからだ。そこまでしなければ、目的のものは構築できない。

 

 術式の完遂と領域の完全崩壊は同時だった。

 縛りにより開己の制服に仕込まれていた呪糸と呪具が消え、術式は焼き切れ、呪力も失われた。

 

 術師として自分が持っていたほぼ全てを失った代わりに、開己は濡羽色(ぬればいろ)の羽織を手に入れる。

 

 

「羽織……いや、名付けて【紋付羽織(もんつきばおり)葛陰(くずかげ)】」

 

 

 その羽織の背と両胸、両袖の5箇所には葛の葉と花の意匠の家紋、葛陰家の家紋が刻まれている。それは五つ紋、最高格式の礼装である。

 縛りによりほんの僅かに残った呪力を右半身の強化に回し、なんとか転倒を免れる。最早立っているというより、倒れていないだけの状態だった。

 

「かいこ!」

「明太子!」

 

 領域を出た開己は聞き慣れたクラスメイトたちの声の方へ振り向く、そこには開己を呼んだパンダと棘、その向こうに真依を背負ってこの場を離れる真希の姿が有った。

 

 

「見ぃ~つけた」

 

 

 呪いの言葉が、静かに響いた。

 

 放たれた極大の重圧に最も遠くにいたはずの真希は思わず振り返る。 

 それに対し棘は口元を露わにし、パンダも虎の子トリケラトプスモードを使用し迎撃態勢を取った。

 

 そして里香は呪力の収束を開始する。

 

 棘とパンダはそこから移動せず、仲間を守るべく、真希たちと里香の間に立ちはだかる。

 開己はそこに駆け寄ろうとして、言うことを聞かない左足によってバランスを崩した。

 重力によって地面に引っ張られる開己は棘を見つめ声を張り上げる。

 

「棘、俺をそっちに呼んでくれ!!」

 

「来い!」

 

 相槌すら省いて棘が即座に呪言を放つと、倒れかけていた開己の体が棘のもとへと引っ張られる。

 向かう先ではパンダが待ち構えており、受け身を気にする必要はなくなった。

 

 

 そして開己は装備している呪具【紋付羽織・葛陰】に意識を集中し、備わった外付けの術式に火を入れた。

 

【紋付羽織・葛陰】に搭載されている術式は言うまでもなく紡糸繰術。

 設定した結果は極ノ番『織織織』による呪具の作成。

 

 

 今から作ろうとしているものは開己自身では作ることができない。

 

 その複雑怪奇な構造を作るためには術式を回しきるだけで開己の総呪力量を大きく上回る呪力を消費する。

 仮に外部から呪力を補ったとしても、それだけの呪力を一度に流せば──たとえそれが自分自身の呪力であろうと──開己の体と脳は耐えられない。

 

 その為の外付けの術式(紋付羽織)

 

 術式を動かす為の燃料は、領域内で作成し続けた全長80キロメートルにも及ぶ祈本里香の呪糸。開己の総呪力量の10倍を超える呪力の小宇宙である。

 それらは極ノ番にて高度に圧縮され紋付羽織へと組み込まれている。

 

 術式を回し始めると、呪力の濁流が紋付羽織を駆け巡る。至る所でギチギチと異音が鳴り、呪力がスパークしていた。

 膨大過ぎる呪力に紋付羽織は耐えきれず自壊を始める。

 

 パンダが飛んできた開己を受け止めたと同時に、紋付羽織は組み込まれていた全ての呪糸を平らげた。

 

 過負荷により、紋付羽織は音もなく崩壊し、霧散していく。

 失敗した。開己がそう考える暇すらなく、まるで最初から着ていたかのように、再び紋付羽織が開己に装備されていた。

 

「死ねぇえぇぇェ!!」

 

 集積を終え里香が放った極大の呪力砲は立ちはだかっていた3人に直撃し、周囲に破壊を撒き散らした。

 

 

 

「……間に合った」

 

 

 

 呪力の靄が晴れると、無傷の開己とそれを支える仲間たちがそこには立っていた。

 開己を除いた誰ひとり、里香も含め、今何が起きたか理解できていない。

 

「なんで……なんでなんでなんで!」

 

 最早呪力放出(これ)ではダメだと悟ったのか、里香は直接攻撃に移った。

 目にも留まらぬ早さで接近すると、まず邪魔をしている3人を蹴散らすべく、乱暴に拳を叩きつけた。

 

「な、何が起きてる?」

「高菜……」

 

 眼の前で何かに阻まれたように急停止した里香の拳を見つめパンダと棘は声を漏らす。

 開己が身につけている紋付羽織が呪力を吸い静かに術式を発動していた。

 

 

 

 現在開己が身につけている紋付羽織は先ほど領域直後に身に付けていたものとは僅かに異なっている。

 

 かつて葛陰の家紋があった5箇所にはそれぞれ、3本の松の木が描かれた家紋が刻まれている。

 

 

 荒枝付き左三階松。菅原道真直系、五条家の家紋である。

 

 

「今里香ちゃんが触れているのは、俺たちと里香ちゃんの間にある無限だよ」

 

 

 構築された呪具の名は、仮想特級呪具【紋付羽織・五条】

 

 

 紋付羽織・五条に搭載されている術式は言うまでもなく、五条家相伝・無下限呪術。

 

 定まった結果を機械的に出力するこの呪具に、六眼の補助は必要ない。

 設定された効果のひとつ「不可侵の壁」は間違いなくそこにあり、里香の攻撃を阻んでいた。

 

 備わった無下限呪術を動かす為の燃料は開己が所持している呪糸から供給されている五条悟の呪力そのものである。

 呪力の前借りのために課した縛りで失ったのは『開己の呪力が籠もった呪糸と呪具』のみ、懐に忍ばせていた『五条悟の呪力が籠もった呪糸』は縛りの対象ではない。

 

【紋付羽織・五条】が()()()を燃料にもうひとつの効果を出力する。

 

 

 

「位相、波羅蜜、光の柱────」

 

 

 里香は何度も自分を壊したそれを見て、抱えていた乙骨を足元に置くと庇うように前に飛び出した。

 

 

「……ごめんね、里香ちゃん」

 

 

 

 

 ────術式反転【赫】

 

 

 

 完全詠唱と共に放たれた最強の力が、祈本里香の体を跡形もなく消し飛ばした。

 





仮想特級呪具【紋付羽織・葛陰】【紋付羽織・五条】

術式行使後も破壊されない限り半永久的に残る構築術式の特性を捨て、存在する時間を272秒に縛ることで辛うじて構築を可能にした仮想の特級呪具である。
ちなみに272秒とは開己のこれまでで最も長い術式の焼き切れ時間である。

当初は領域終了後の術式焼き切れ状態をカバーする目的で設計していたが、本文にある通り様々な問題が判明したためその使用方法は諦めている。

【紋付羽織・葛陰】であれば、開己の総呪力量を全て使うことで作れるが、【紋付羽織・五条】は搭載されている術式の複雑さから総呪力量の実に3倍以上の呪力を要する。
外付けの呪力タンクなどで補ったとしても、その量の呪力を一度に流すと体と脳の方が耐えられない。
つまり、【紋付羽織・五条】は通常の方法では作成は不可能。

そこで開己は【紋付羽織・五条】を作るためだけの【紋付羽織・葛陰】を作れば良いと考え、実践した。

紋付羽織においても術式を動かすには本人の呪力など術式に適した呪力でないと効率や出力が大きく低下するのは変わらない。

ちなみに、開己の呪力総量は五条悟より劣るが、外付けの呪力タンクなどを総動員することでその差は埋められる。

解呪後乙骨を10とすると、五条が8、開己が7くらいのイメージ。宿儺は25くらい

色々と気になる点はあると思うので、感想等で聞いていただければと思いますが、今後描く予定のものへの言及は避けさせていただきます。書いていただくのは勿論構いません。



次回は交流会の顛末と後処理です。昇級もあるかも。
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