糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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呪術廻戦0編
ようこそ呪術高専へ


 4月になり、晴れて今日から俺は呪術高専生だ。

 

 村を焼かれてから今日まであっという間だった。

 俺以外の葛陰(くずかげ)の生き残りは五条家が管理している土地に移り住んで生活を始め、針さんは事件当日に外に出ていた術師と共にまとめ役になっている。

 そして俺はひとり呪術高専東京校の校内にある寮に引っ越してきた。なんで京都(一族の近く)じゃないのか聞いたら「僕、東京校の教師だからねー」というとんでもない答えが帰ってきた。五条悟、まさかの五条先生だった。

 

 そんな寮生活、当初は電動車椅子で活動するつもりだったのだが、山中にある事や校舎や寮が古い影響か、段差やら坂やらが多いわ扉や通路は狭いわで、車椅子はまともに使える状態じゃなかった。

 それに加えて車椅子に乗っているところを五条先生に見られると、キックボード代わりにして遊び始めるので非常に疲れるという問題もある。

 教師のすることか? 

 

 結局車椅子をやめて糸で足を操って歩くことにした。糸を操るには術式を回し続ける必要があるのでずっとこうして過ごすのは中々堪えるが、鍛錬の一環と割り切っている。

 ちなみに、いざというときの為に部屋に仕舞っていた車椅子は五条先生が借りるねーと、持っていったきり帰ってこない。

 本当に教師やらせてていいのか? 

 

 

 色々と有ったが今日から心機一転、いち学生としての生活を始めるべく、扉を開けて自分のクラスへと入っていく。

 

「おはようございまーす」

「おう」

「しゃけ」

「おはよう、これで4席埋まったな」

 

 ぶっきらぼうな返答をしたのはメガネをかけた女子。独特な挨拶は小柄な男子。そしてパンダ。

 

「パンダ!?」

「おう、パンダだ」

「そ、そっか……」

 

 人語を話すパンダ。呪術界に疎い俺が知らないだけで獣の呪術師も居るのだろうか。驚き方で常識知らずだと思われたりしないだろうか。

 そんな事を考えながらおずおずと黒板に書かれてる図の通りの席へと向かう。

 

「なんで納得した風なんだよ。つか、パンダなのは見りゃ分かるんだよ、結局お前は何なんだよ」

「オレはオレだ。それともあれか、哲学的な質問か?」

「ツナマヨ」

「お前もお前でさっきから何言ってんのか分かんねえよ」

 

 常識から外れてるのは俺じゃなくてパンダだというのは女子のお陰で分かった。というか、あのパンダの毛よく見たらポリエステル製だ。繊維には詳しいんだ俺。

 多分着ぐるみを着て行使する呪術とかなんだろう。

 となると、しゃけとかツナマヨとかって言ってるのも似たような理由か。語彙を絞る事で術式効果を上げるようにしてるとか。

 

 逆にそれに噛みついてる彼女は至って普通の呪術師なんだろう。

 

「なんだよジロジロ見て」

「ああ、ごめん。どんな呪術使うのかなと思って」

「術式で値踏みでもしようってか」

「そういうわけじゃないよ……」

 

 尖ってるなぁ……。チラリと他2人(?)のことを見れば、彼らも彼らでこちらの事を観察しているようだ。

 まあ、それもそうだろう。何故か俺の席だけ椅子が無く、ひとり突っ立ってるのだから。

 

「はいはーいみんな席についてるー? グレートティーチャーGOJOのお出ましだよ〜。あれ、なんでカイコ突っ立ってるの? 車椅子は?」

 

 殺伐としつつある空気をぶっ壊して登場した五条先生は俺を見るなり言い放った。

 その言葉で椅子がない理由も大体掴めた。

 

「五条先生が借りるね〜って持ってったきり行方不明です」

「そんな事もあったねぇ、すっかり忘れてたよ。椅子用意できるまで机とか床に座って良いからね」

 

 悪びれもしない五条の態度にこめかみ辺りがピキッとした。

 五条の態度にムカついたのは俺だけではないようで、女子が机を叩きながら勢いよく立ち上がった。

 

「良いからね、じゃねーよ、病人だか怪我人だかが椅子もなく過ごす横でお行儀よく椅子に座ってられるか」

「しゃけしゃけ」

「かいこ、オレの椅子貸してやる」

「わっ、ありがとう」

 

 いつの間にか椅子を持ってきてくれたパンダくんにお礼をしつつ椅子に座った。ようやく術式を止められて一安心だ。

 

「もうクラスの絆が生まれてるなんて先生感動しちゃうなぁ、もしかして自己紹介とかもうしちゃった感じ?」

「まだですよ」「オレはひとまず」「まだだ」「おかか」

 

 おかか……? しゃけツナマヨおかか……

 

「おにぎりの具か!」

「しゃけ」

 

 頷いてるし有ってるっぽい。とりあえず発言のカテゴリは分かった。依然意味は分からないが。

 

「棘は呪言師だから語彙を絞ってるんだよ」

「しゃけしゃけ」

「なるほど、呪言師」

「これまでのやりとりから察するに、しゃけは肯定だな」

「明太子」

「いきなり新ワード出すんじゃねぇ」

「こんぶ……」

 

 棘くん結構悪ノリするタイプなのか。

 メガネさんは今後もツッコミ頑張ってくれ。

 

「すっかり仲良しさんだねぇ。それじゃ棘の自己紹介も済んだことだし、次は五十音順で開己ね」

「棘くんの今ので終わりか……数少ない情報が五条先生からの紹介だったような」

「明太子」

「棘の言う通り、細かいことは気にしなーい」

 

 言う通り……? ともかくとして苗字は細かいことじゃないはず。黒板に書いてあるのだと狗巻(いぬまき)で良いんだよな。一応後で確認しとこう。

 自己紹介、棘くんは有ってないようなものだし実質トップバッターだ。ここはひとつ気合いを入れよう。

 

葛陰(くずかげ)開己(かいこ)です。出身は島根。術式は紡糸繰術で呪糸を紡げます。天与呪縛で左半身の感覚がなくて、手伝い頼むかもしれないのでそのときはよろしく。故郷の村が焼かれたので一族の復興が当面の目標かな。あとは……」

「重いわ、天与呪縛とか村を焼かれたとかサラッと出していい情報じゃねえ。もっと出す情報考えろ」

「天与呪縛で左半身の感覚ないんだよな? けどさっき、かいこ普通に歩いてなかったか?」

「すじこ」

 

 どうやら気合いを入れすぎたらしい。

 

「呪糸を使って足とか左半身を操作してるんだ」

「そうだったのか、気付かなかったぞ」

「ツナマヨ」

「オイちょっと待て、さっきこのバカ目隠しが車椅子持ってったって言わなかったか」

 

 女子に指さされた当の五条先生(バカ目隠し)はアハハと笑っている。アハハじゃないが。

 

「こんな奴が教師なのかよ」

「え〜、僕以上に教職に相応しい術師はいないよ?」

「おかか」

 

 おかかは否定なのは分かった。クラスメイトが皆ほぼ初対面の俺の為に怒ってくれるいい人ばかりで本当に良かった。

 唯一五条先生だけが人ができてない。なんで教師やれてるんだこの人。

 

「開己の自己紹介はこの辺で、次は真希の番ね」

「ああ」

 

 真希と呼ばれた生徒はスッと立ち上がり鋭い視線を俺たちに送ってから話しはじめた。

 

「私の名前は禪院真希、苗字は嫌いだから名前で呼べ」

 

 そしてすぐに席に着いた。え、呪術師の自己紹介ってこんなもん? 

 禪院ということは得意先のひとつ(御三家)のはずだけど、苗字が嫌いってことは何か有ったんだろうな。

 

「真希は呪具の扱いが得意だよ。次はパンダね」

「パンダだ」

「はいありがと〜」

 

 嘘だろ。

 

「待って、終わらないで。そもそも、それ着ぐるみ?」

「違うぞ」

「なら呪骸とか?」

「まあそうだな。ただ、詳しいところは秘密だ。どうしても知りたければまさみちに聞いてくれ」

「まさみち……?」

「カイコも会ったでしょ、グラサン掛けた厳ついおっさんだよ。グラサン集めが趣味の」

「夜蛾学長の下の名前正道だったのか……」

 

 なんでクラスメイトより校長のパーソナルデータの方が得られるんだこの自己紹介。

 

「自己紹介も済んだことだし早速始めようか」

「始めるって何を」

「そりゃ勿論、手合わせだよ。気になるでしょ、誰が1番強いか?」

 

 呪力を溢れさせた五条先生がニヤリと決める。

 それに対して俺たち4人は────

 

「あまり」「おかか」「全然」「興味ねえ」

 

 満場一致での否定だった。

 

 それからしばらく、やろうよ手合わせ〜とダダを捏ねる五条先生を前に団結して抵抗を続ける。本人は一切そのつもりは無いだろうが、五条先生の横暴さはクラスの結束を短時間で強くしていた。

 

「ガッデム!」

 

 そんな折、グラサンを掛けた明らかに堅気ではない男が教室のドアを勢いよく開けて現れた。噂の夜蛾正道学長だ。

 

「お前は、新入生を、講堂に連れて来ることも、出来ないのか!」

「これから連れて行くところだったんです~」

「ウソだ、私達に手合わせさせようとしてたぞコイツ」

「ガッ!! デム!!!」

 

 ノータイムで裏切られた五条先生に学長のコブラツイストが炸裂した。

 凄い、五条先生の無限をすり抜けた。相当な術師に違いない。

 

「新入生、今から入学式を執り行う。講堂に集合だ。パンダ、案内してやれ」

「わかった」

 

 プロレスしている2人を教室に置き去りにしてパンダくんの案内に従い一同講堂に向かった。

 術式を回して歩く俺を3人とも気にかけてくれて、こんなに優しい術師3人と出会える幸運を噛み締めた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ほら、開己、普通に歩けてるでしょ? あの子を呪具職人にするなんて勿体ないんだよ」

 

 4人が去った後、コブラツイストからスルリと抜け出した五条は夜蛾に対して得意気に言った。

 対する夜蛾はため息を吐き一部同意を示した。

 

「優れた術師なのは認めるが、呪術師として活動させるのに俺はまだ納得していない」

「ジジイ共みたいな事言うんだね、校長。じゃあこれまで通りあの子にまた()として過ごさせるの?」

「そうは言ってない。前も言ったが、家の事が落ち着くまで待つべきだと」

「そんな事してたら開己持って行かれちゃうよ」

 

 葛陰家の壊滅と、開己の存在は呪術界に大きな波乱を起こした。

 葛陰の作る呪糸やそれを元に作られた縄は、各地の神社や呪術高専で結界術の基点として活用されている。その生産が完全に停止することは各地の結界の弱体化に繋がり、結果として呪術師たちの負担が劇的に増えることが予想されている。

 そんな背景があり、現状唯一の紡糸繰術の使い手である開己は、呪術師にしておくには上層部にとってあまりに惜しい存在だった。

 

 それに加え、これは五条悟とその仲間及び葛陰家の一部しか知らないことだが、開己ひとりで紡げる呪糸は開己が生まれる前の葛陰家全体が紡いでいた糸の3倍以上である。一級品に至っては10倍以上だ。

 そう、開己さえ生きていれば他の葛陰の術師が全滅してもさしたる問題にならない。葛陰の当主らは呪糸や自分たちの存在価値を守るため、開己の存在を秘匿し、その紡糸を著しく制限していたくらいなのだから。

 

 それを知れば上層部は間違いなく開己の自由を奪うだろう、そうなってないのはひとえに五条悟のおかげだ。そしてその事実を開己は知らない。

 

「開己はいい呪術師になるよ。ほら、ボーッとしてると入学式遅れるよ、校長先生」

「誰のせいだと思ってる!!」

 

 




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