糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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お手柔らかに

 入学式を終え、俺たち4人は再び教室に戻ってきた。

 校長からの挨拶だったり、呪術総監部から来たというお偉いさんのお言葉が有ったりと(五条先生がふざけている以外は)至って普通の入学式だった。

 

 戻ってくるとちゃんと教室には椅子が4脚用意されていて、各々自分の席に着くことが出来た。

 机の上には今日の日程が記されたプリントが各1枚ずつ置いてあった。それによるとこの後は教材や各種資料の配布らしい。

 

 プリントを眺めていると扉が勢いよく開き、五条先生が姿を現した。

 

「はいはーい、それじゃ入学式も終わったので皆さんには呪い合いをしてもらいまーす」

「プリントによると教材等の配布の様ですが」

 

 五条先生の扱いは大体分かってきた。真希さんやパンダくんも五条先生からの発言を無視してプリントを読み進めている。

 

「そっか、でも見ての通り教材なんて持ってきてないから配布の時間余っちゃうねぇ。そうだ先に学校案内してあげるよ」

「絶対、手合わせさせてくるだろうな」

「すじこ」

 

 いきなり校庭に案内して「じゃ、ここで軽く運動しよう」とか言い出す未来が明確に見えた。

 とはいえ、時間が空いてしまったのは事実。結局は五条先生の言うことに従う羽目になるだろう。

 

 そう思っていた矢先、短髪の男性がダンボール箱を抱えて教室にやってきた。

 

「五条先生、忘れ物です。学長から」

「あー、悪いね」

 

 絶対悪く思ってないやつだ。荷物を持ってきた人はシャツにスラックスと普通の格好で、入学式でもその姿を見たのでおそらく呪術高専の教師だろう。

 彼が置いていった荷物の中から五条先生がカードのようなものを取り出した。

 

「ではでは、お待ちかねの学生証の配布を始めまーす。みんな早くこっち来て」

「待たされたのはさとるのせいだけどな」

 

 ため息混じりに全員で五条先生のところへ学生証を受け取りに行く。

 

「そこに術師としての等級も書いてあるから確認してね」

 

 言われるがまま学生証に視線を落とし、自身の等級を確認する。

 

 ────葛陰開己・三級術師。

 

 実戦経験無いからこれが相応しいか分からん。他の人はと言うと……

 

「四級か」

「オレ、三級だった」

「ツナマヨ」

 

 棘くんが最も高い二級術師だった。なんとなく実力は横並びだと思っていたがどうやら違ったらしい。

 

「等級だけが術師の格を決めるものじゃないよ。それに、今回与えられたのはあくまでもお偉方が勝手に付けた等級だからあんまり当てにならないし」

「特級に言われてもな」

「それは確かに」

「さとるからしたら術師全員どんぐりの背比べだろ」

「まぁね」

「すじこ……」

 

 ここで否定しないのが五条悟クオリティ。

 それから数学英語等の普通の教科書と呪術にまつわる参考資料を箱から取り出して皆で分け合った。配れよ。

 

「よーし、面倒な事も済んだし次行こう」

「次はオリテンだけどちげーんだろうな」

「明太子」

 

 大方の予想通り、五条先生に連れられて来たのは校庭。

 手合わせ、することになるんだろうな……

 

「じゃ、パンダと真希からね。真希はこれ使って」

「仕方ない。やるか、真希」

「そうだな。てか、この用意だけは良いのかよ」

「先に一本取った方の勝ちね」

 

 パンダくんが青いナックルダスターをつけ、真希さんが五条先生から棍を受け取ってからそれぞれ向かい合う。

 術師同士の手合わせなんて見る機会がほとんど無かったので。ちょっとだけワクワクしている自分がいた。

 

「それじゃ、始め」

 

 合図と同時に飛び出したのは真希さんだ。見たところ呪力による強化なしなのにその速さと力強さは目を見張るものがある。

 対するパンダくんはオーソドックスな空手風の構えを取っている。こちらは呪力を滾らせている。

 

 間合いに入ると真希さんは回転を加えた横薙ぎをパンダくんに放つが、パンダくんは上手いこと凌いで間合いを詰める。

 格闘の間合いに入ったと思った次の瞬間────

 

「足元ガラ空きだ」

 

 回転を更に加速させた真希さんがパンダくんの踏み込んだ足を払い、棍の先端を突き立てた。

 

「真希の勝ち〜パチパチパチ」

「完敗だ。呪力の流れが全く分からなかった」

「そりゃあな」

 

 倒れたパンダくんに手を貸し軽々と立ち上がらせた真希さん。

 驚くほどの動きのキレを見せた2人の立ち会いを見て俺が思ったのは────

 

「呪術とは一体……術式どころか呪力の放出もほとんどしてないですよね」

「そうだね、パンダの術式はちょっと特殊だし、特に真希はある意味特別だからね」

「へーそうなんですか」

 

 砂埃を払いながらパンダくんと真希さんが歩いて戻ってきた。

 

「天与呪縛だ。お前と同じ」

「そうだったんだ。ちなみに何処が? 目が悪いとか?」

「呪力が非術師程度にしかねーんだよ」

「え、ならなんで呪術師になんか……」

「あ?」

 

 鋭い殺気を感じた時には既に真希さんは手に持った棍を振りかぶっていた。

 呪糸を纏うのは間に合わない。呪力で全身を強化して受けるダメージを最小限に……

 

「フッ!!!」

「ぐえっ」

「ははっ開己、デリカシー無さすぎ」

 

 頭に打撃を受けて吹き飛んでいく最中、五条先生の笑い声が耳に響いた。

 呪力強化無しの攻撃なのに痛すぎる。あの棍は呪具でもなんでもないただの棒切れなので、シンプルにパワーで殴り飛ばされたということだ。

 怖すぎる。今後真希さんに逆らうのはやめよう。

 

 地面との衝突を避けるべく服に織り込んである呪糸を伸ばして拡げクッション代わりに軟着陸した。

 俺以外の呪力や術式を受けた時に溜め込んだ呪力を放出し相殺するよう制服に術式を編み込んだけど、今後は呪力を伴わない物理攻撃にも反応するように編まないとマズそうだ。

 

「ごめん、悪気は無かったんだ。ただ、理由が気になって」

「別に気にしてねえ」

 

 ひとまずフルスイング一発で許して貰えたようだ。殴られたところはしっかりと痛む。

 

「フルスイングしといて気にしてないはウソだよな」

「しゃけ」

「うんうん」

「よーし、お前らも一発ずつ入れてやるよ」

 

 突発的に真希さんが鬼の鬼ごっこが開始された。参加者で1番イキイキとしてるのは五条先生だ。

 あ、パンダ捕まった。

 

「ゴリラモード!」

「ゴリラモード!?!? お前、パンダじゃねーのかよ!」

 

 突如パンダが白黒のゴリラに変身し真希さんの棍を受け止めた。

 あれはパンダくんと呼んで良いのか? 

 

「ゴリラモードは短期決戦のパワータイプ。さっきまでのオレとは一味違うぜ」

「術式の開示までしやがったなこの畜生」

「明太子」

 

 なんやかんやで棘くんも臨戦態勢。高みの見物を決め込んでいたら校庭でフラフラしてたはずの五条先生がいつの間にか俺の真横に居た。

 

「ほら、開己も参加しないと真希が2人に負けちゃうよ」

「えっ」

「負けねぇ……っよ!」

 

(暫定)ゴリラくんのパワーはさっきまでとは比べるべくもなく、敏捷性や瞬発力も上がり、真希さんは防戦一方になっていた。

 いや、呪力強化無しでしのぎきれる真希さんも大概だな。俺なんか遠くから見てるのにゴリラくんを目で追うので精一杯だぞ。

 

「よし、それじゃ今から真希・開己ペア対パンダ・棘ペアでチーム戦にしよう。勝った方には回らない寿司をプレゼント」

「しゃけ!」「よっしゃ」

「葛陰さっさと来い!」「了解!」

 

 皆好きだな寿司。俺も好き。

 

「動くな」

 

 ひとまず真希さんの近くまで行こうとした瞬間、棘くんの呪言が飛んできた。

 

「体が……!」

「やべ」

「まずは~、まき!」

 

 ゴリラ型パンダくんの攻撃が真希さんに迫る。

 

「真希さん!」

 

 パンダくんの攻撃が命中する前に、糸を伸ばし、体の自由を奪われている真希さんを引っ張った。

 動くなの対象に術式が含まれなくて良かった。

 

「ナイス、開己!」

「呪糸だけを動かしたのか、器用だな」

「明太子!」

 

 俺自身、体の自由は利かないが、そんなもの無理やり糸で操ってしまえば良い。

 天与呪縛で呪力の少ない真希さんは未だ動けないし、そのまま糸で後方まで運んどこう。

 

「守りながら戦うのは無理! 向こうで回復を待って!」

「悪ぃ!」

 

 振り向けば、既にパンダくんが直ぐ側まで迫っていた。

 避けるのは間に合わない! 

 

 簡易結界【巻糸(まきいと)

 

 左腕に這わせているものや制服に仕込んでいる糸を半径2mの円筒形に配置し、他者の侵入を一時的に拒む結界を張った。

 

「結界か!」

 

「眠れ」

 

「そう来るよね」

 

 すかさず放たれた棘くんの呪言を耳から脳に掛けてを呪力で強化することで抵抗。言葉自体が弱いおかげでなんとか耐えることが出来そうだ。

 その間もパンダくんは結界に攻撃を加えて……おらず、俺の背後に向かって駆け出していた。狙いは────

 

「真希さんか!」

「せーかい。結界に引きこもってる相手を馬鹿正直に攻撃するかよ」

 

 悔しいが正しい判断だ。だが、前衛のパンダくんがいなくなった事で結界を維持する必要もなくなった。

 結界を解いた事で空いたリソースを真希さんに巻きつけている糸の操作に回す。

 

 真希さんが一度目の呪言を受けてからまだ2分も経ってない。回復は厳しいだろう。

 

「って棘くん!?」

 

 気付けば棘くんが眼の前に迫っていた。え、呪言師なのに接近戦も出来るの!? 

 

「五目!」

 

 驚きのあまり避けることも出来ず顔面に右フックを食らい、盛大に倒れた。

 

「止まれ」

 

 今度こそ呪言を食らって俺の動きは停止した。どうやら呪力操作や術式もまとめて停止させられたようだ。

 ニヤリと勝ち誇る棘くん顔が眩しい。蛇の目に牙の刺青、口元そんな感じだったのね。

 

「くっそー、負けたか」

「しゃ……ゲッ」

「勝手に負けに、すんじゃねえ!」

 

 弾丸みたいな速度で飛んできた棍が狗巻くんの鳩尾に突き刺さり、視界から棘くんが消え去った。食らったのが俺でなくて良かったとしみじみ思った。

 体が動かないので確認出来ないけど、棘くん死んでないよね? 

 

 その直後鈍い音が響き、その後何かが倒れる音が2回聞こえた。

 

「みんなおつかれー。いやぁ、良かったよ」

 

 俺たちの中心で拍手しながら五条先生は呑気に言った。それに対して返事を出来るものは誰も居ない。

 

「ちなみに、引き分けだから寿司はナシね」

「「「「は?」」」」

 

 拳を交え気持ちが一つになった俺たちはその横暴に全力で反抗することを言葉もなく決めた。棘ですら語彙がおにぎりの具じゃない。相当だぞ。

 呪言の影響で体は動かないが術式は回せるようになったので、いっそのこと左側の制御を破棄し、天与呪縛に更に縛りを加えて全力で術式を回した。やるのはもちろん────

 

「領域展開」

 

 たった今織った右手の紋を中心に結界が拡大し世界を塗り替えていく。

 

大宜都桑園(おおげつそうえん)

 

 そこは、練色の幕に囲まれた静かな領域。何処からともなく風が吹き、帳幕がなびいてその向こうにある糸車が姿を見せる。

 外縁には桑が茂り、おぼろげな境界を敷いている。

 

「これが開己の領域か。展開速度も十分だしちゃんと閉じてる。良く出来てるね」

「術式の開示なんてしませんよ」

「大丈夫、必要ないから」

 

 目隠しを外した以外は五条先生は至っていつもの調子だ。舐められてるな……

 

「なぁ、おれたち巻き込まれてないか?」

「しゃけ」

「ていうか開己、領域展開できんのかよ」

 

 わざわざ言う事でもないが、もちろん3人への必中命令は消している。そうしなければ今頃大変な事になってるし。

 周囲の糸車が高速で廻り、必中効果が五条先生に襲いかかっているはずが効いている様子はない。おかしい。

 

「なんで必中効果が効かないんですか……領域の押し合いは発生してないはずです」

「領域の押し合い以外にも必中効果を中和する方法は幾つか有るんだよ」

 

 ぐぬぬ、まさか領域展開もせずに凌ぐ方法が有るとは思わなかった。

 

「僕が今使ってるのは領域展延と言ってね、術式効果を乗せていない領域を纏うことで相手の術式や必中効果を中和するんだ」

「そんなのズルじゃないですか、使いっぱなしにしておけば術式食らわないってことですし」

「そんな便利なものじゃないよ。中和の速度や量には限界があるし、展延中は生得術式を使えないっていう大きなデメリットがあるんだ」

 

 つまり俺の領域は展延で中和出来る程度の効果しかないってことか。万一が有ったらマズいと思って出力下げたけど、もっと上げて良かったな。

 もう意味ないし領域解いちゃうか……

 

「かいこ、もうちょい領域出しっぱにしてくれ」

「良いけど……」

 

 起き上がった3人が一斉に五条先生に向かって走り始めた。まさか接近戦を挑むつもりか? 

 そんな事したって五条先生にはバリアが……

 

「さっき展延中は術式使えねえって言ったよな!」

「言ったね。ということはつまり?」

「不可侵が消えてる!」

「正解!」

 

 五条先生の強さを支える絶対防御。それが不可侵だ。

 無下限呪術で作り出した無限を周囲に展開することであらゆる攻撃の到達を不可能にする最強の防御能力。

 それが今、解かれてる! 

 

「バカ目隠し殴れるまたとないチャンスだぞ!」

「しゃけ!」

「みんな凄くイキイキしてるねー」

「食べ物の恨みは怖いんだぞ」

 

 パンダと真希が主体となって五条先生を攻め続けているが、それを五条先生はひらりひらりと躱している。

 無敵のバリアを持ってる人ってそれに頼り切りで防御がおざなりになるもんじゃないのか。

 

 それからしばらく経っても結局一発もクリーンヒットは出せず、それぞれ一発ずつカウンターを食らってダウンしていた。

 

「……なんで、当たんねえんだよ」

「ちょっと見込みが甘かったな……」

「すじこ……」

 

 3人とも立ち上がる事が出来ず、いっぱいいっぱいのようだ。

 

「もうギブアップでいいかな。それじゃ、終わりにしようか」

「展延を解いた!?」

 

 まさかの行動に驚いている俺を余所に、展延を解いた五条先生が必中効果をものともせず掌印を結ぶ。あ、終わった。

 

「────領域展開」

 

 俺の領域内に五条先生の領域が出現し必中効果が中和された。なんとか耐えようと踏ん張ってはいるが、精度も出力も段違いで領域の押し合いは始まってからずっと押されっぱなしだ。

 

「お、結構耐えるね」

「涼し気な顔で言わないでくださいよ……!」

 

 五条先生が展延を解いた一瞬で得た呪糸で領域を補強してなければもう押し負けていただろう。五条先生の呪力で紡いだ呪糸どんだけ強いんだよ。

 それでもどんどん俺の領域は塗りつぶされていき、結局一度も押し返せず、完全敗北を喫した。

 

「はい僕の勝ちー」

 

 押し切りを終えると同時に領域を解いた五条先生、俺たち4人は全員疲労困憊で立って居られなかった。

 

「僕が勝ったから今夜は開己に奢ってもらおうかな」

 

 生徒に集る教師のクズがよ……

 呪力切れでヘロヘロの俺は声にならない声で反論を試みた。

 




簡易結界【巻糸】
呪糸を自身の周囲に円筒状に配置して構築する結界。内と外のあらゆる物体の通過を阻む。外周と内周にそれぞれ必ず糸口が存在し、それを引くと結界は解ける。また、直上には結界効果が存在しない。それらの縛りによって素早い展開速度や少ない呪力消費に比して大きな強度を実現している。

領域展開【大宜都桑園(おおげつそうえん)】の術式効果の開示はしません!効果自体は大体察しがつくと思いますが、お待ち下さい。
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