糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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誤字報告ありがとうございます。誤字チェックを疎かにするという縛りで執筆速度を底上げしてます。助かります。
※原作には無いセリフや設定が飛び出します。


寿司パ

「やっほー、硝子いるー?」

「いらない」

「はは、いるじゃん」

 

 なんか“いる”の意味が2人の間で違ったような……

 

 手合わせを終えた俺たちはボロボロの状態のままオリエンテーションの名目で校内を引きずり回され、医務室に連れてこられた。嫌でもお世話になるから、と。

 

「紹介するね、僕の同期の硝子だよ」

「その情報は要らないだろ。私はここで医者をやってる家入。みんな可能な限り私に会わないようにね」

 

 校医の家入さんはやつれた雰囲気を纏うロングヘアーの綺麗な女性だ。フランクなやりとりを見るに、本当に五条先生と同期らしい。

 手にしていた資料から目を離してこちらに視線を向けた家入さんは眉を顰めた。

 

「なんか、もう怪我してない?」

「ちょっと手合わせしたからね」

「オリエンテーションで怪我人出すのは普通にイカれてるよ。ほら、君らこっちに来る」

 

 手招きされるまま家入さんに近づいていく。良かった、良識のある人だ。

 パンダも一緒について来てるけど、呪骸ってこういう外科治療要るのか? 

 

「これくらいなら湿布貼るだけで問題なさそうだね。次」

「明太子」

「口の中切れてるね。消毒薬渡すから食事の後に使うこと。次」

「ありがとうございます」

「パンダ。私、忙しいの知ってるよね?」

「ごめんなさい」

 

 パンダ隙あらばふざけるよね。

 次は俺の番か、痛いところはないけど一応診てもらおう。

 

「顔の骨折れた状態でよく平気で居られるね」

「え?」

「ほらこの辺り、触られると痛いでしょ」

 

 家入さんは左の頬辺りを触っているらしい、左側は触覚も痛覚もないので何も感じない。

 

「天与呪縛で左側感覚無いので」

「ああ、そういう」

 

 頬に触れていた家入さんの手から呪力のようなそうでないようなエネルギーが溢れる。なんだろう、術式かな? 

 

「相手を回復させる術式ってのも有るんですね」

「いわゆる一般的な術式とは違うよ。硝子がやったのは反転術式」

「負のエネルギーたる呪力をかけ合わせて正のエネルギーに転換する技術だよ。理論上は誰でも出来る」

 

 つまり反転術式は術式じゃない。なんかややこしいな。

 理論上は誰でも出来るって事は五条先生も出来るんだろうか? 

 

「うん、僕も反転術式は出来るよ。でもアウトプットが出来るのは今のところ硝子だけだね」

「いえーい」

 

 全く笑ってない顔でピースする家入さんの姿にああ、この人五条先生の同期なんだなって腹の底から納得出来た。

 どうやら反転術式は終わったようで最後に炎症を止める湿布を貼ってもらい治療は終了した。

 

「気をつけなよ。痛覚無いせいで致命傷に気付かなくて死ぬなんて笑えないからね」

「はい。ありがとうございました」

 

 

 

 忙しいからと医務室を追い出された俺たちは五条先生と別れ、一路自分たちの教室へ向かう。

 今日の日程はこれで終了、後は放課後、自由時間だ。

 

「つ、疲れた……」

 

 予定が済んだ安心からか、教室までの道すがら思わず言葉が漏れた。今日一日だけで今までの俺の半年分くらい動いた気がする。

 真希やパンダはともかく棘も平気な顔して歩いてて自分の体力の無さが恥ずかしい。

 

「やっぱ領域って疲れんのか?」

「まあそれなりに」

「かいこ、あの後長いこと動けなかったしな。呪力消費もエグいだろ」

「どちらかと言うとあれは術式の焼き切れが原因だね」

「すじこ?」

 

 領域展開した後は術式が使用不可になる。負荷の掛けすぎによるオーバーヒートが近い感覚だろうか。

 体を操る呪糸は術式によって操作してるので術式が焼ききれると右側でモゾモゾ動くしかなくなる。誰が芋虫じゃ。

 

「だからもしも領域で勝ちきれなかったら、俺ひとりの場合はそのまま負けだね」

 

 以前までは(しん)さんが居たのでその隙をカバーしてもらえた。

 

「かいこじゃなくても、領域で負けたらもう負けたようなもんだろ」

「しゃけ」

 

 それはそう。

 

 

 呪術高専広しとはいえ、雑談しながら歩いていれば教室まではあっという間だ。

 

「そうだ、忘れるところだった。寿司屋って近場に有るのかな?」

「……いや、知らねえ」

「かいこ、晩飯寿司にするのか?」

「マグロ?」

「え、みんなで行くんじゃないの?」

 

 今日の手合わせの最後にそんな話になったはず。

 

「いや、あれは流石に冗談だろ。言った本人忘れてるぞ多分」

「それにオレは外食基本無理だしな。パンダだし」

「あー、それもそっか」

 

 パンダOKの寿司屋なんか上野にも無いだろうな。和歌山ならあるかもしれないが。

 

「そうだ、なら出前にしよっか」

「名案だ、かいこ」

「場所どうすんだよ、ここで食うか?」

「はまち」

「いいね、食堂なら食器もあるし」

 

 次々飛び交う建設的な意見、やっぱみんな寿司好きだよな。これは気合も入るというもの。

 それから集合時間を決めて解散。一応発案者の五条先生にも連絡しとこう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そして約束の時間、人がまばらに居る食堂の一角を占拠して、寿司パーティは幕を開けようとしていた。

 しかし、リラックスしている開己に対して他3名は肩に妙な力が入っている。

 

(なぁ、想像してた寿司と違えんだけど)

(ああオレも言おうと思ってた)

(大トロ)

 

 開己に聞かれないように話す3人、若干名浮かれているが、想像と違ったのは皆同じだ。

 それもそのはず、出前と聞いて集まってきたら、寿司職人が派遣されていたのだから。

 その寿司職人は自分たちとは別のテーブルに陣取り黙々と寿司を握っている。

 

「内容はお任せしてるけど、希望言えば好きなの握ってくれるから、食べたいのが有ったら気軽に注文してね」

「ああ」

「ホタテ」

 

 異様な光景に偶然食堂に居合わせた高専職員も遠巻きに眺めている。

 

 

 

 

 

「おい、食いてえなら自分で頼めばいいだろ」

「そのセリフ、そっくりそのまま返すぞ」

「魚卵苦手なら先に教えてくれれば良かったのに」

「しめ鯖」

 

 緊張してたのも束の間、美味い寿司を食えばテンションが上がるもの。気付けば食堂には高校生らしい賑やかさが訪れていた。

 肉系寿司という無理難題を要求する真希、職人がなんとか用意した肉系寿司を横から掻っ攫うパンダ、出会って以来最も多彩な語彙で喋る棘。盛り上がるその様に開己はしみじみと開いて良かったと思った。

 

 しばらくすると腹も膨れ、口の用途は喋る方に傾いていく。

 

「奢って貰ってて言うのもなんだけど、かいこって金持ちなんだな」

「フッフッフッ、何を隠そう、葛陰の至宝・金の糸を吐くお蚕様とは俺のことさ!」

「マヨコーン」

「いやいや、蔑称じゃないよ。葛陰的には蚕はメチャクチャ重要な存在なんだから」

 

 アルコールは入っていないはずだが熱に浮かされ、各々の口は五条悟の態度並みに軽くなっていた。

 

「例えばこのお茶だって桑の葉茶って言ってちょっと特別なやつなんだ」

「へー。それが蚕とどう関係有るんだよ?」

「蚕って桑の葉しか食べないって聞いたことない? 葛陰ではそれを縛りとして取り入れてて紡糸繰術使える術師は毎日桑を口にしてるんだ。お陰で術式効果も高まってる、はず」

「自信ねえのかよ」

 

「物心ついたときからずっとやってるからね。比較対象ないんだ」

「……お前、どっぷり呪術漬けで良くこんな風に育ったよな」

「サーモン」

「それは褒めてる? 貶してる?」

 

 実家が御三家の真希は勿論のこと、名家の出の棘からしても開己の感性はあまりに術師らしくないと感じている。

 開己は人が良すぎる。出会って間もない3人が同じ事を思っていた。

 

「そうだ、せっかくだから聞くけど、かいこの領────」

「はいはーい、みなさんお待ちかね、本日の主役・五条先生の登場だよ」

 

 パンダの話を遮るように何処からともなく五条が姿を現した。

 

「遅いですよー。もうお開きにしようと思ってたところですし」

「ゴメンゴメン。僕ってどこ行っても人気者だからさ」

 

 4人は既に食事を終えていて、職人は開己が注文した五条用の寿司折りを残し撤収し、解散を待つだけになっていた。

 

「お、気が利くねぇ、ありがたく頂戴しようかな」

「そこは遠慮しろよ」

「そうすりゃオレが持って帰れたのに」

「びんとろ」

 

 散々な言われようだが五条は何処か嬉しそうだ。

 

 ひとしきり笑った後で五条は、ふと口を閉じ、わずかに身をかがめた。

 様子の変な五条につられて口を噤んだ4人は次の言葉を待つ。

 

「今日開己が見せた()()、概要はもちろん、使えることでさえ誰にも洩らしちゃダメだからね」

 

 五条の言う()()が領域展開の事だと、4人はすぐに理解した。

 

「縛り結ぶか?」

「そこまではしなくていいよ、遠からず知られることだし」

「そういえば、しょうこのところから教室に帰るときに話してたから聞かれたかもしれないぞ」

「すじこ、明太子」

 

 人とすれ違わなかったし、気配も無かったが絶対ではないとは棘の談。

 そんなやりとりを眼前にして当の開己はと言うと。

 

「別に大丈夫じゃないですか? 隠すようなものでもないですし」

 

 ただひとり危機感が欠如していた。

 

「高菜……」

「そんな目で見ないでよ。てか、珍しくないでしょ、りょ……あれくらい」

「ずっと言おうと思ってたけど、常識ねーな、お前」

「入学初日に学校に寿司職人呼び出すしな」

「酷くない?」

 

 腹いっぱい美味い寿司を楽しんだ後で気が強くなっている面々から容赦ない言葉が浴びせられる開己、その様が面白いのか五条は口角を上げて見つめている。

 

「開己は高専に居る間にその辺も勉強していこうね」

 

 珍しく教師みたいな事を言った五条を4人は怪訝な表情で見つめた。

 当の五条は表情の理由に気付かず話を続ける。

 

「相手の手札が分からない。これが実戦でどれだけ有利に働くかは分かるでしょ?」

「だからこその術式の開示ですしね」

「そういうこと」

 

 自身の術式の効果そして条件を開示することは相手に打開策を与える行為、自身を不利な状況に置くことで術式の出力を向上させる。術師の常套手段だ。

 それは開己も知っているが、開己が疑問に思っているのは“誰にも漏らしてはいけない”の部分だ。

 

「でも、高専に居るのは呪術師の仲間なんですし、むしろ互いの手の内を分かってた方がいざという時に有利ですよね?」

「お前……そういうとこだぞ」

 

 思わず言葉を漏らした真希以外も呆れた表情を浮かべている。

 平均的な呪術師はクズ、開己はそれを知っているが理解できていない。特に禪院家という呪術師の伏魔殿で生まれ育った真希は、開己の認識の甘さを1番危惧している。

 

「開己が家の人間以外で一番最初に出会った術師が僕だからね、勘違いするのも仕方がないさ」

 

 真希もパンダも棘も、術師にしてはマトモだが人間としてはどうかしている五条のセリフに同意を示すのにかなり難航した。

 

「というわけで、みんな開己に呪術界の常識をしっかり教えてあげてね」

「おい教師」

 

 茶を呷り、寿司折りを持って帰る五条を引き留めることは誰にも叶わなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「硝子、ちょっといいかな?」

 

 夜も更けた頃、寿司折りを持った五条は家入の元を訪れていた。場所は高専地下の霊安室。

 

「珍しいじゃん、1日に2度も顔出すなんて。何の用?」

「今日紹介した1年、開己の事でお願いしたいことが有ってね」

「あんたと違って教師じゃないし、暇でもないんだけど」

 

 言葉の通り、家入はさっきまで呪殺された術師の()()を行っており、今はその報告書をまとめていたところだ。

 高専の医療部門トップはその実、特級術師より多忙を極める。

 

「そんな時間は取らないからさ。頼みを聞いてもらうお詫びの寿司だって持ってきたんだから」

「珍しいじゃん。まあ、そこまでするなら話ぐらいは聞くよ」

 

 報告書を仕上げた家入は五条が持ってきた寿司を受け取り居住まいを正す。あの五条がわざわざ手土産まで用意して来たのだから、話す内容は相当の事だと家入は考えていた。

 ちなみに五条は偶然手入れたサビ入りの寿司を横流ししただけである。

 

「お願いしたいことはひとつ、硝子には開己の術式を受けてもらいたい」

「私、あの子の術式詳しく知らないんだけど」

 

 新入生の術式をイチイチ調べるほど家入は暇ではない。流石に攻撃的な術式ではないと予想しているが、詳細不明の術式を受けるには高級寿司といえど割に合わない。

 

「開己の術式は紡糸繰術、構築術式の一種だね。主な効果は呪力を元に糸を構築すること」

「それで?」

「今日受けたんだけど、あの子の術式、領域内だとありとあらゆるものが術式の効果対象になるんだよ」

「……続けて」

 

 新入生が既に領域を使えること、それを今日食らったこと、ツッコみたいとこは幾つか有ったが話の腰を折りたくない家入は相槌を打つのに留めて続きを促した。

 

「その時作られた呪糸には僕の呪力が宿ってた。その証拠に、それを使って補強した開己の領域は無量空処(僕の領域)と一時的に拮抗してみせた。領域の強度は僕の方が圧倒的に上なのに、ね」

「同質の呪力による相殺か」

「そういうこと」

 

 五条も領域を使ったことにツッコミを入れたい気持ちに蓋をして家入は五条の言わんとする事を理解した。

 

「つまり、反転術式(私の呪力)を内包した呪糸を作れないか試せってこと?」

「そう言うこと」

「反転術式なら五条も使えるんだから先に試したら?」

 

 家入のようにアウトプットは出来ないが、反転術式自体は五条も行える。

 真っ当な反論に五条は頷きつつも説明を続ける。

 

「勿論そのつもりだよ。ただ、アウトプットを実現している反転術式のプロフェッショナルが居れば踏み入った検証も出来ると思ってさ」

「私が居ることにあまり意味が有るとは思えないけど」

「そんなことないさ。それに、もしも成功したら硝子が1番の関係者になるんだし、説明の手間も省けるでしょ?」

 

 反転術式を宿した呪糸、それのある世界が家入の頭を過ぎった。

 今まで助からなかった命が、助かる命に変わるかもしれない。自分の腕の中で死んでいく仲間を看取る術師が、死の迫る術師を前に自らの無力を嘆く補助監督が、物言わなくなった知人を解剖する最悪の夜が、減るかもしれない。

 

「事前の連絡だけは忘れないでよ」

「うん。じゃ話も終わったし僕は帰るよ。おやすみ~」

 

 寿司を肴に今夜は一杯やろう。五条を見送りながら家入はそんな計画を立てていた。

 

「今度は酒も一緒に持ってきてよ」

「あー、それは開己に伝えて。用意したの僕じゃないし」

「五条、お前……」

 

 最悪だな。相変わらずな同期の去った跡に投げかけた言葉は霊安室にこだましていた。




同質の呪力による相殺は独自設定です。
塗り替えようとした領域が一部自身の呪力で構成されていたので塗り替えが上手く働かず、領域の塗り替えが遅れた。くらいの認識でどうか。
しかしそれがどれだけ異常かは、原作の五条VS漏瑚戦を見ればご理解いただけるものだと思います。無量空処(五条悟の領域)は出力を上げた程度で抵抗出来るものではないです。

出張寿司、調べると思いのほか安いですね。
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