糸使いは大抵強キャラ   作:色埴うえお

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何故、年単位で放置していた二次創作をこのタイミングでいきなり再開したのか
何故、主人公をこの設定にしたのか

禪院真依視点でお送りします


姉妹校交流会・上

「本日交流会団体戦にて、乙骨憂太の死刑を執行する。これは呪術総監部の決定である」

 

 耳鳴りがするほどの蝉の声に遮られる事なく、淀みの無い(しゃが)れた声が漆喰(しっくい)の壁に染み込んだ。

 その言葉を予想していなかった人間はこの部屋には居ない。東京校の生徒全員を交流会の場に引きずり出すために集められたのは京都校に在籍する1・2・3年全員。

 その中には四級術師である禪院真依も含まれていた。

 

(――最悪)

 

 1番嫌な予想が的中した事に真依は内心毒づいた。

 左腕につけた自分の髪色とよく似たミサンガが不意に湧いた負の感情を吸収し、その色を濃くしていた。

 

 

 

 

 

 

2週間前、京都府立呪術高等専門学校・一年教室

 

「西宮先輩から聞いたんですけど、1年生で交流会に参加するのって滅多にないらしいですよ! 私たち期待されてるのかもしれません」

「タダの数合わせだろウ」

 

 今にも踊り出しそうな同級生の三輪を宥める、同級生の傀儡人形究極(アルティメット)メカ丸。入学から5ヶ月ですっかり“いつも通り”になった風景である。

 

「そうね、メカ丸の言う通りじゃないかしら。教師陣も準一級に昇格した東堂先輩や加茂先輩を大々的にアピールしたいだろうし、私たちは箔付けの為に声が掛かっただけよ」

「えー、2人ともネガティヴだなぁ」

「貴女が楽観的すぎるだけ」

 

 物事を都合よく解釈している三輪の考えはともかく、真依は今自身が口にした理由もまた違うと半ば確信している。

 1年3人が数合わせで呼ばれたのは間違いない。問題なのは、何の数と合わせたかだ。

 

「オレ達には来年と再来年があル。逸る気持ちも分かるガ、先輩に花を持たせるのも後輩の仕事ダ」

「だけどぉ〜」

「何かの間違いで実力以上の等級をつけられたらそっちの方が大変じゃない?」

「真依の言う通りダ」

 

 例えば、東京校1年の特級術師の様に。

 

「そうだ、私たち1年が出るって事は、葛陰くんもきっと出ますよね」

 

 手首に着けた三輪の特徴的な髪色と同じ色のミサンガに手を添えながら、三輪は3ヶ月前に出会った彼の名を口に出す。

 その名が出ると空気が悪くなるので真依やメカ丸の口からその名が出てくることはないが、気付いていないのかなんなのか、出会ってからこれまで三輪はしばしばその名を口にする。

 

「期待している所悪いガ、恐らく奴は交流会には出られないだろうナ」

「え、どうして?」

「交流会の会場に張る結界は今回は葛陰家に依頼することになったからダ」

 

 結界を張った葛陰本人が交流会に出れば不正はし放題、元々無いような公平性は建前すら維持できないだろう。

 であればメカ丸の判断は正しい。少しだけ引っかかるのは、どうやってメカ丸がそれを知ったか。

 

「メカ丸、随分詳しいのね?」

「歌姫が話しているのを偶然聞いただけダ」

「そう。流石、耳が良いのね」

 

 自身の出場が決まった時に情報収集でもしたのだろう。短い付き合いだが、メカ丸がそう言うことをするタイプだと真依は理解している。

 それについてこれ以上の詮索は不要だ。格上の術師を相手に藪をつついて蛇を出すようなマネはしない。真依はこれまでそうして生きてきた。

 

(五条家、というより五条悟と葛陰がズブズブの関係なのは明らかなのに、よく京都校のお偉方はそれを承認したわね)

 

 同じ疑問にはメカ丸も達しただろう。より多くの情報を得ているであろうメカ丸も真依と同じ数合わせと言う結論に至っている。

 

(ああ、そういうこと)

 

 基本的に交流会は同数の生徒同士で行われる。葛陰開己とか言うのが減れば京都校と東京校の生徒数はぴたりと符合する。

 つまり、何が何でも全員を交流会に引きずり出す意図が上層部にあるのだろうと当たりを付けた。

 そして真依は思い出す。東京校1年には死刑執行を無期限延期されている生徒(特級)が1人いたはずだと。

 

(交流会でその子を引きずり出してどさくさに紛れて刑を執行する……とか)

 

 そこまで考えて、自身の考えが飛躍しすぎていると自嘲した。

 つまり参加している生徒の誰かが、五条悟でなければ抑えられないような特級過呪怨霊に取り憑かれている特級術師を殺害する?

 出来る訳が無い、特級はそんなに甘いモノじゃない。

 

 自分の悲観的すぎる考えを放り投げて、真依はため息を漏らした。

 

(考えすぎ……何にせよくだらない陰謀に巻き込まれるのなんて真っ平ゴメンだわ)

 

 

 

 

 

 嫌な想像ばかりが当たるものだと真依は意識を現実に戻す。

 会合が終わり、京都校1年3人は西宮と加茂に声をかけられていた。

 

「いい! アンタら1年は東京校のヤツに会ったら迷わず逃げなさい。他の連中が呪霊じゃないとは限らないわ。東京校には呪霊を操る悪の特級呪詛師が隠れ棲んでるなんて噂もあるし、気を付けること。分かった?」

「わ、分かりました! 東京だと呪霊も高専に通えるんですね。知りませんでした」

「そんなわけ無いでしょ。ともかく、いざって時はメカ丸が囮になってくれるだろうし、私たちは先輩の言いつけを守りましょう」

「禪院……まあいイ、オレ達1年は固まって動いテ、低級呪霊を少しでも祓うのが役目で良いんだナ」

 

 西宮の大袈裟な脅かしを真に受ける三輪の純真さを利用して、京都校1年3人は上から与えられた数合わせと言う役割を安全に全うする事にした。

 既に準二級と認定されているメカ丸が側にいれば呪霊に遅れを取ることはまず無いだろうし、いざという時は傀儡であるメカ丸を囮にすれば一級相手でも三輪を連れて離脱するくらいなら可能だろうと真依は算段をつけている。

 

 メカ丸の確認に頷いたのは京都校一の良識派、加茂先輩。タメ口をいちいち咎めるような事はしない器の大きな加茂家次期当主だ。

 

「ああ、1年は無理を押して出場を認めてくれただけで十分役割は果たしている。こんなくだらない奸計の為に命を危険に晒す必要はないからな。せめて本来の交流会を楽しんでくれ」

「加茂くん。思っててもあんまり大きな声で言わない方がいいんじゃない」

「いや、こう言った不誠実にこそ声を上げるべきだ。五条悟のワガママさえなければ呪術界のこれからを担う高専生が(いたずら)に危険に晒されることは無かったのだから。東京校の生徒達には同情すら覚えるよ」

 

 加茂の言う事に真依は全面的に同意だった。今でも真依はどうして自分がこんな事に巻き込まれなきゃいけないんだと、この状況に内心毒づいている。

 

「大丈夫だ、死刑執行用の特級呪具も受領している。面倒事はすぐに片付くだろう」

 

(そうだといいけれど。……そもそも本当の問題はその後出てくる特級過呪怨霊の方、容器を壊す算段だけは立派だけれど中身への対処はお粗末もいいとこ)

 

 今回の交流会は結界の敷設を葛陰家に一任したために京都校に所属している補助監督や術師の手が多く空いている。

 上層部の計画では乙骨の死亡後の特級過呪怨霊顕現と同時に彼らが総出で封印に当たる手はずになっていると、楽巌寺学長は言っていた。

 悲観的な真依はその言葉を信じきれなかった。

 

(そもそも生徒(私たち)以外の術師は数えるほどしかいないじゃない。少しくらい取り繕いなさいよ。刑の執行後は五条悟に泣きついて祓ってもらうつもりなら、最初からそう言えばいいでしょ)

 

 そこそこの術師で数を揃えられるより、後詰めは五条悟1人と言われたほうが万倍も安心だ。

 だが、上層部の尻拭いをあの五条悟がやるだろうか。という疑問も真依の頭には湧いてくる。

 五条悟が手を出さなかったことで被害が拡大したときは責任を五条悟に突きつけられるだろうが、それをしたところで何になる。

 

生徒()たちは、五条悟に特級過呪怨霊を祓わせるための生贄……)

 

 また嫌な考えが浮かんでくる自分にうんざりする。

 結局のところ何があろうとも、とにかく自分の身だけは守る。無意識に真依はホルスターに納めた拳銃のグリップに手を添えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あぁアアぁぁあッ!」

 

 試合開始からほどなくして、辺り一面に響く怨嗟の声と、それと同じくして遥か遠くから押し寄せた昏く濁った呪力の濁流を浴びて、真依の体は言う事を聞かなくなった。

 そばに居た三輪は腰を抜かしてその場に座り込み、躯体を軋ませながらメカ丸がそこに駆け寄る。

 果たして完全顕現(これ)は予定通り事が運んで(乙骨が死んで)起きたことなのか、そうでは無いのか、真依達に知る術は無かった。

 

「成功したにせヨ――失敗したにせヨ――こうなった以上、我々、ハ……結界の外に、出るべきだ、ナ」

「それだと交流会、失格になるんじゃ」

「……そんな事言ってる場合じゃないでしょ」

 

 メカ丸は電波の悪い携帯電話のように途切れ途切れに話している、この強烈な呪詛がメカ丸の術式を阻害しているのだろう。

 三輪は口だけは呑気なものの、未だ立ち上がれずにいる。

 つまり現状は、肝心なメカ丸は頼りにならず三輪は状況判断力を失っているということだ。

 じっとりと嫌な汗が真依の背を伝った。これ以上事態が最悪に傾く前に動かなければならないと真依は胸から湧き出す不快感(呪力)を糧に体を動かした。

 

「とにかく離れましょう、メカ丸、動ける?」

「すまなイ。呪詛――が、濃すぎる影響、だろう。制御が利かなイ、置いていケ」

「分かったわ。三輪、行くわよ」

「そんな、メカ丸!」

「気にするナ。この――カラダは幾――らでも、替えが、利く――――外で待ツ、三輪は任せたゾ、禪院」

 

 返事はしなかった。人を手助けするような余裕は真依には無かったからだ。

 無心で三輪の手を取り、ひたすらに呪詛の爆心地に背を向けて歩く。

 

 臆病な自分は、振り向いたら動けなくなる。そういう思いで真依はずっと前だけを見て、歩く事に集中した。

 幼い日の姉の真似事だったが、不思議と勇気が湧いてくる気がした。

 

 時折、空が裂け、大地が揺れる。じわじわと辺りを満たす呪詛が濃さを増すに連れ、真依の呼吸は荒れ、足はどんどん重くなる。

 

 大きな衝撃が響くと辺りには静けさが訪れる。どうなったのか振り返って確認する勇気は真依には無かった。

 

(今はとにかく、離れることが最優先)

 

 現状、最も良い状況は、特級の1年が死んで、既に特級怨霊が五条悟の手で祓われていること。

 最悪なのが、五条悟は動かず、東京の特級も、他の人間も全員死んで、呪霊だけが生き残っていること。そうなれば次はきっと――――

 最悪の結果が頭を過ぎるが、今はまだそうではないと感じている。

 

(きっとしぶといアンタは生きてるんでしょうね)

 

 そこに論理的な根拠は無い、ただ自分の片割れが生きているという奇妙な確信がある。

 数秒後にどうなってるかは分からないが、少なくとも真希は今は生きていて、状況は最悪には至ってない。

 

(終わったなら終わったって伝えにきなさいよ、メカ丸でも、五条悟でも、結界を管理してる葛陰でもいいから!)

 

 濃密な呪詛にも少しずつ慣れてきたのか、心の中で他人を呪う余裕が出てきた。

 だからだろう、遠くから近付いてくる複数の呪力の接近に気付くのが遅れたのは。

 

「……ッ! 真依ちゃん、三輪ちゃん、こんな所に……!」

「西宮先輩!」

 

 聞き慣れた声と名前に、先に声を上げた三輪に遅れて真依も振り返る。

 目に映ったのは、入学以来ずっと気に掛けてくれている先輩と、それを追いかける特級過呪怨霊(呪いの女王)

 

「何でぇ逃げるのおおお」

 

 体が恐怖に慄くよりも先に、右手は拳銃を取り出し全ての弾丸を発射していた。

 効くとは思っていない。ただ少しでも時間を稼いで先輩の援護になればと思って撃った。

 

 程なく幾つかの弾丸は呪いの女王を捉えるが、それに対し、呪いの女王は何もせず、真依の行動はなんの意味も齎さなかった。

 

「最悪」

 

 思わず真依は悪態をついた。今やったのは、無力な自分を晒しただけだ。

 西宮は一度深く息を吸って転身し呪いの女王へと向かっていく。彼女がそうしたのは少しでも気を引き、後輩(真依と三輪)が逃げる時間を稼ぐ為だとここにいる全員が理解した。

 この距離で三輪に出来ることはない。真依の拳銃をリロードしていては間に合わない。

 それでも、見殺しにするのは真依の中の何かが許さなかった。

 

 

【構築術式】

 

 

 真依が呪力を振り絞ると、脳への激痛と共に、チャンバーにたった一発の弾丸が生成される。

 さっきまで撃っていた弾丸と組成は何も変わらず、きっと意味はない。所詮ただの自己満足だ。

 

「ほら、こっちを見なさい。おバカさん」

 

 ただ、ありったけの恨みを込めて引鉄を引いた。

 

 震える腕から発射された弾丸は、ただ空を舞っただけだ。

 呪いの女王に意識を割かせるどころか、かすりさえしなかった。

 術式の負荷と言う言い訳がましい自分と、これなら気付かれることなく身を隠せるかもねと言う卑怯な自分の声が聞こえた気がした。

 

「あれぇぇえ? ここに居たんだぁ」

 

 だが、こういう嫌なときほど、真依の思った通りにことが運ぶ。

 無駄な行動が癪に障ったのだろうか、目の前を飛ぶ西宮を無視して呪いの女王は真依の方へと進路を変えた。

 最悪の状況はいつも頭に浮かんでいる。その時どうすべきかも、同じだけ。

 

「西宮先輩は三輪を!」

 

 その言葉と同時に真依は走り出す。犠牲はきっと少ないほうがいい。

 

「でも、真依は!?」

「いいから!」

 

 

――――あーあ、最悪。

 

 半年前、高専に来た(家から出た)ときに世界は変わると思ってた。

 世界の何処かには私たちの居場所があって、それを見つける手掛かりがここにはあるって。

 姉とは()()()()()を歩いて高揚していた私は、心の何処かで「そんなものはない」と言う声に耳を塞いでいた。

 

 でも思ったよりも、世界は広く、思い描いていたものがそのままあったことを知った。真依の予想はいつも嫌な形で的中する。

 

 少し前、私が欲しいもの、真希(あの人)が欲しいもの、その両方全部持ってる()に出会った。

 生まれた時から当たり前に、まるでそれが当然のようにそれを振りかざすその人に自分勝手に八つ当たりする私。

 そんなことをしても意味がないのに幼稚な私はそれを抑えられなかった。

 

 そんな人から贈られた、腕に付けてるそれが憎くてたまらない。

 でも同時に私の呪力に染まっていくそれが、まるで彼の居場所を奪ってるように見えて。

 そんなことに喜ぶ後ろ向きな私が嫌いだった。

 

 お揃いですね。と喜ぶクラスメイトの顔を思い出す。

 素直じゃない私は生まれた時から常に何でも誰かとお揃い。こんなのは、それがひとつ増えただけと、斜に構えたりして。

 それでも何故か、これを外す気にはならなかった。

 だってこれは真希は持ってない、私だけのお揃いだから。

 

 

「えへへ、ざぁんねん!」

 

 

 呪いの女王の横薙ぎが、私の体を強かに打ち、近くの大樹に叩きつける。

 強烈な痛みが体の中央に深く深く突き刺さる。足は言うことを聞かない。いっそ気にする所が減ったと思って開き直った。

 

(どうせならって思ったけど……)

 

 迫りくる呪いの女王に向けて構えた銃は、銃身が折れていて、残り滓を振り絞って術式を動かしたところで最早それを撃つ事は叶わない。

 不意に左手首のミサンガ(それ)が目に入る。

 

(こんな時も嫌味な人……)

 

 そんな考えが浮かぶ私が、嫌いだ。

 

 似たような術式を自分に劣る出力で、私を嘲笑うみたいに簡単に動かす。

 その姿に妬む自分に気付いて、術師としてのプライドが有ったことに驚いた。

 

 私は私の術式(ちから)が嫌い。向き合えば向き合う程に、弱さを突き付けられるから。

 けれど、目を背け続けたその先で私はなりたかった私の輪郭に触れてしまった。

 

 あの時見た、()()()()()()()()()()()()()()()()が頭を過ぎる。

 

(決まった形、決まった素材、決まった手順、決まった位置)

 

 同じ術式だからかもしれない。1度見ただけで頭の中で歯車が噛み合った気がした。

 縛りを加えて、底上げをする。呪術の基本。私が向き合ってこなかったもの。

 

「ああ、なんで私、火薬()()()作ってたんだろ」

 

 目の前、空中に弾頭が構築される。

 火薬なんて無くとも、術師には呪力(その代わり)がある。

 

 けれど呪力で弾かれた弾丸は、見当違いの方へ飛んでいった。

 当然だ、投げた石を指で弾くようなものなのだから、普通ならこうなる前に気付くこと。私にそんな才能はない。

 

 もう一度術式を回す。

 

 そもそも、私はどうして弾丸なんか作っていたんだろう。

 私が欲しいのは、弾じゃない。

 

(欲しいのは――――銃撃)

 

 空中に思い描くは()()()()()弾丸。

 壊れた銃を捨て、空になった右手で銃の形を模す。子供みたいな真っ直ぐな仕草。

 

「バン」

 

 偽物の銃声を合図に術式は回り、弾頭と、それに備わる運動エネルギーが構築される。

 空気を切り裂き、弾丸が呪いの女王を捉えた。

 

「バン、バン」

 

 立て続けに同じ動作、同じ言葉を繰り返し2発、3発と()()を構築する。ゆらゆらと揺れるミサンガからじわりと呪いが滲み出していた。

 

 

「ねえねえ、真希ちゃぁあん、何してるのぉ?」

「……失礼ね、人違いよ」

 

 

 私の構築した銃撃は呪いの女王に影響を与えていない。

 呪いの女王に対して、今の銃撃は余りにも小さく弱い。

 

(ライフル弾なら、少しくらいは)

 

「……ははっ」

 

 そこまで考えて、思わず嘲笑が溢れた。

 

 

――――何を今更。

 

 

 もう手遅れ。気付いていた。

 さっきからずっと、お腹の辺りから私の命と熱が流れ出ている。

 目が霞んで、音が遠ざかって、私はどんどん独りに近づいていく。

 

 私は私が嫌いだ。

 臆病さが、悲観的な性格が、幼稚で後ろ向きで素直じゃないところが、弱い術式(ちから)が、足りない呪力(さいのう)が、女を自覚させられる肢体(からだ)が、鏡に映る真希と同じ(自分の)顔が、生まれた家が、世界が、運命が、嫌いだ。

 

 それでも少しだけ、やりたいことがあったみたいだ。

 真希を見返したい、真希を支えたい、真希と仲直りがしたい、真希と一緒に居たい、真希と……

 ……霞と仕事終わりに服を買う約束をしてた、西宮先輩に借りたCDもある、メカ丸の素顔にも少しだけ興味があった、術式で試したい事ができた。

 

「真希ちゃあぁあん、ばいばぁい」

 

「……ばいばい、真希」

 

――――ごめんね。

 

 最期にやっと自分を想いを口に出す、そんな私が大っ嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――里香ちゃん、もう帰る時間だよ」

 

 呪いの女王が振り上げた拳は、真依には届かなかった。気付けば、柔らかくて、温かい何かに包まれていた。

 さっきまで感じていた昏さも怖さも痛みもその中には無い。温かさの端っこを握りしめて、目の前に現れたその後ろ姿を意識を失うその時まで見つめていた。

 

 

 

 

葛陰家当主、三級術師、葛陰開己――――現着。





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