人生ずっと迷子、この小説もずっと迷子!!!!! 作:柳芽帆奈
ここはとある劇場……埋めつくす観客の視線の先には黒と赤を基調にしたゴシック衣装に身を包んだ五人の少女……いや、人形が舞台に佇んでいた。
「つまりは復活、今こそ復権の時!」
「モーティス!」
「我、死を恐るなかれ」
「ティモリス!」
「我、恐ることを恐るなかれ」
「アモーリス!」
「我、愛を恐るなかれ」
「オブリビオニス!」
「我、忘却を恐るなかれ」
「ドロリス!」
「我、悲しみを恐るなかれ」
そして、
「ようこそ、AveMujicaの世界へ」
バチッ……
ドロリスがそう高らかに宣言したその瞬間、劇場の電気が落ちた。突然の出来事に観客もざわめき始める。
「……え?」
「……ちょっと、何これ。聞いてませんわよ?」
「落ち着きましょう、きっと電気トラブルです。すぐに復旧しますよ」
「……そうですわn」
バタンっ!
「「「「「!!??」」」」」
しかし、突如扉が開け放たれた。これには落ち着きを取り戻していたメンバーも驚きを隠しきれなくなる。
『優勝だぁぁぁぁぁぁぁ!』
そこに現れたのは老若男女含めた多数の人間たち。しかし、彼らの服装は野球のユニフォームにキャップと、この瞬間においては完全に場違いな格好だった。さらに、センターにいた少女が大声で優勝の二文字を叫んだかと思えば、そのままステージの方へと向かってきた。
「な、なんですのあの方たちは!」
「あの声……どこかで聞いたことのある気が」
「ちょっと何!離してよ!誰か!何で警備員もスタッフも誰も来ないの!?」
そしてステージに乱入。哀れなAveMujicaの5人はあっけなく謎のユニホーム集団に担がれてしまった。
『優勝!優勝!優勝!優勝!優勝!優勝!優勝!優勝!』
『Here we go!』
「わ、私たちは一体どうなってしまうのでしょうか……?」
そんなオブリビオニスの呟きもむなしく、一行はスポーツで優勝した時よろしく、持ち込まれた巨大スピーカーから鳴り響く応援歌をバックに、胴上げされながら劇場を無理やり退出させられてしまう。劇場に残ったのはいまだに困惑が隠せない観客と事情を説明するスタッフと置いてけぼりにされた楽器だった……
「あ来た来た!」
「ぎゃあはははははははははは」
「おもしれーおもしれー」
「やっぱりですわ!やっぱりあのクソ野郎ですわね!」
劇場から何人とも知れない、そもそもあまりにも場違いなユニフォームを着たやつらにほかのメンバー共々担がれ、劇場の前の駐車場に運ばれていた。そこで聞こえてきたのはあまりにも見覚えのある面々の声であることに、オブリビオニス……もとい豊川祥子は感づいた。
「登さん……」
そう、我らが赤松登である。全く行動の意図をつかめず、何をやっても主導権を握れない男。人生巻き込みクラッシャー祥子にとっては友人にして、まさに最大の敵ともいえる人物であった。そして、その後ろにはMyGO!!!!!のメンバーも……
「あら?燈さんは……」
「燈?燈ならそこにいるぞ」
登が指さした先にはほかの連中と同じ格好をした燈の姿があった。実は『優勝だぁぁぁぁぁぁぁ!』のセリフも彼女が発したものである。君そんなことする人だった?
「これは一体どういう事ですの!?」
「えー、AveMujicaの皆さん。ちょっとね、事務所の人にも協力してもらって今回、連行させてもらいました!」
「「「「「ハァ!?」」」」」
「じゃあ皆さん!優勝の余韻の中、ありがとうございました」
「おう!また困ったことあったら呼んでな!」
「あの人たちは一体何ですの!」
「え?あぁ、近くのスポーツバーで飲んでた人達。贔屓にしてたチームが勝って機嫌がよかったのか、二つ返事でオッケーしてくれたんだけど」
「よくオッケーしましたわね……それで?いったい何の用ですの?折角のプレリュードを邪魔して……内容によってはただじゃおきませんわよ」
「AveMujicaァ!この前はよくもMyGO!!!!!のアニメに出しゃばってきたなァ!すっかり引導を握る気満々ではないか!今日はお前らに勝負を提案しに来た!これからのバンドリを牽くのは一体どっちか決めようじゃないか!」
と、登が高らかに宣言する。祥子はもう半分投げやりになりかけていたが、他の面々は多かれ少なかれ興味を示しているようだ。
「勝負?それって対バンですか」
「ガールズバンド名物・牛の乳しぼり対決だ!」
「斜め上の回答!?絶対しませんわよ!」
「名物……?」
「若葉さん、あれは冗談ですから」
あまりにも登が自信満々に話すので、モーティス……睦は半ば信じかけてしまっていたが、このままではとんでもない風習を根付かせてしまうと感づいた黒髪の少女……八幡海鈴が慌てて止めに入る。ちなみに止めてなかったら世界が滅んでいた。
「じゃあ人の乳しぼり対決!」
「もっとイヤですわ!そもそも誰にやらせるつもりなんですの!」
「「「「「「じゃあどうするんだよ!」」」」」」
「これがお前らが始めた物語だろうが!」
まさかの逆切れを始めたMyGO!!!!!メンバーに、ついに祥子がブチギレた。自信を隠すための仮面たるお嬢様言葉を捨てて、庶民の言葉にクラスチェンジしたのである!
「はーい、私から提案」
と、ここで黙ってみているだけだったAveMujica最後の一人、祐天寺にゃむが声を上げる。お前名前もうちょっとなんとかならんかったんか。
「各バンド分かれて動画投稿対決をするんだよ。内容は何でもありの無差別級。誰の助けも借りてもいいよ。ただし、手の内がバレないようにお互いの動画や概要欄は見ないこと。一か月後のチャンネル登録者数で勝負する。これでどうかな?」
「ほう、面白い。やってみようじゃないか」
「ふふっ。そういうノリのいい人、私は嫌いじゃないよ?」
「ちょっと登!?正気!?」
「あの人だれだか知ってるの!?」
勝負に簡単に乗った登にそよと愛音は困惑する。なんせ、この勝負を持ちかけた祐天寺にゃむは若い女子を中心にメイク動画などで人気を集める本職の動画投稿者『にゃむち』その人だったからである。
「おう、だからこそ面白いんじゃねえか。ブライトンの奇跡しかり、マイアミの奇跡しかり……いつだってジャイアントキリングは人を奮い立たせる最高のスパイスなんだよ……最も、あいつはそんな事考えちゃいないだろうがな」
「登……」
反論しようと思ったが、こいつなら主人公パワーで何とかするかもしれないという念が頭をよぎるそよ。彼女達の中には謎の信頼が生まれてしまっていた。
「じゃあ決まり!でも、はっきり言っとくね……軽い気持ちで私に挑んだこと、後悔させてあげる」
「ほー、随分とデカい口を叩きはりますなぁ……」
と、登が何やらにゃむに近づいて耳打ちをし始めた。その耳打ちに、飄々としていたにゃむの表情が一変する。
「!?」
「おしお前らァ!やるからには全力でやるぞぉ!」
「おー」
「ちょっと登!おいてかないでよ!」
「どうすんだよ!教えろよ!」
「じゃ、じゃあ、失礼します……」
滅茶苦茶やる気になっている登を筆頭にMyGO!!!!!達はそれぞれ家路へとついていく。一方で、呆然と立ち尽くしているAveMujicaの五人。特に、にゃむは顔をうつ向かせ、握りこぶしを強く握っていた。
「アイツ……なんも知らない癖に……潰す、絶対潰してやる!」
「うわ……にゃむがやる気になってる」
「やる気というより殺る気でしょうね。今の、多分トラウマになる事言われましたよ」
「……帰ってもいい?」
「めんどくさいことになってしまいましたわ……前に撮影禁止だと言ったのに」
「結果発表~~~~~~!」
どこから連れてきたのかわからないおじさんの声とともについに結果発表の時がやってきた。そのおじさんを挟むかのように右側にMyGO!!!!!、左側にAveMujicaが並んで発表の時を待つ。
「それでは、AveMujicaのチャンネル登録者の発表です!」
AveMujica・6123人
「これはもう勝ちましたわね!」
「頑張った……」
「ふん、こっちには本職の私がいるからね!話題性もノウハウもないあんたらは1000人どころか100人も無理そうじゃない?」
そこまで啖呵を切ったにゃむ。彼女の頭の中では既に絶対的勝利のイメージしか固められていなかった。確かに、開設1か月でゼロベースから6000人以上も登録者数を増やした手腕は評価に値する。初公演でトレンド入りする話題性もさることながら、これまで培ってきた動画投稿者としての経験をフルに生かしたのも並大抵のインフルエンサーではない証左とも言えるだろう。しかし……
「それでは、MyGO!!!!!のチャンネル登録者数の発表です!」
MyGO!!!!!・1万9825人
「……は?」
「という事で、この勝負はMyGO!!!!!チームの勝利です!」
「「「「「「やったーーーーーー!」」」」」」
「ちょ、ちょっと!待ってよ!何よこの数字!」
ふたを開けてみれば、なんとAveMujicaに3倍以上の差をつけてMyGO!!!!!の勝利に終わっていた。しかも、現時点でも登録者数は増えている。にゃむはあまりにも多すぎる登録者数に抗議の声を上げる。もうにゃむちとしての口調はかなぐり捨てていた。
「そうですわ!ズルしたんじゃありませんの!?」
「いやいや、正々堂々0からヤラしてもらいましたよ」
「じゃあ見せろよ!私はこの目で見るまで信じないからな!」
「?別にいいけど……」
そう言って、登は封印していたチャンネルの概要欄を表示したスマホをにゃむに渡す。それをひったくるように奪い取ったにゃむはほかのメンバーとともに食い入るように画面を見つめる。
「な、何これ……」
そこにはMyGO!!!!!チームが投稿した動画の一覧が掲載されていた。内容としては演奏動画が大半だった。これに関しては演劇調の演奏動画を中心に展開したAveMujicaと変わりはなかった。しかし、決定的に差がついていた要素が一つあった。
『楽曲復活プロジェクト・伝説の第10話のライブを再現!』
『そよりんを世界の果てに置いて行ってみた』
『まっちゃでまっちょ、らーなせんせのエクササイズ』
それは、動画のジャンルの広さと独創的な企画。演奏動画はもちろん、まるで大手のY〇uTuberがやるような企画まで短期間の間に網羅していたのだ。挙句の果てにはこのような動画まであった。
『3万人+MyGO!!!!!で歌う『あとひとつ』in宮城球場』
「これ……球場貸し切りですか!?しかもをこれだけの人数を集めるって、こんなの一体どうやって……!?」
「ちょっと頑張っちゃったよ。いろいろコネを使ってね……」
「登さん……貴方、何者ですの?」
「……負けた」
動画を見たにゃむは悟った。MyGO!!!!!には……いや、赤松登には勝てないと。絶望的な資金力にコネクションの差。球場を貸し切られてしまってはどうしようもない。これまでインフルエンサーだのなんだのと担がれ、少し天狗になりかけていた自分がいかにちっぽけな存在であるかを見せつけられたのだ。
(……でも、面白い!)
しかし、その敗北感と同時に彼女の中にはある一つの感情が浮かんだ。それは、『こいつみたいな発想力をつけたい』という憧れと『何としてでもこいつに勝ちたい』という思い。完膚なきまでに叩きのめされた祐天寺にゃむの瞳に、動画投稿者としての信念に、炎が宿る。ジャイアントキリングが一人の少女を変えた瞬間である。
「ここまで興味を持ったのは初めてだよ……赤松登!私は……私はあんたを絶対に超えて見せる!」
こうして、にゃむは登を強く意識するようになった。一方で当の本人はというと。
「そよ!やったぞ!勝利の祝いのキスだ!」
「お前がしたいだけだろうが!?こっちくんな!ハウス!ハァウス!」
「燈!アイツをひっぺがすぞ!」
「え、えぇ!?」
(……私、憧れる人間違えたかもな)
早くもにゃむの熱が冷めかけていた。しっかりしろ登。え?しっかりしてる?あっはい(察し)
数日後、にゃむの手によってAveMujicaの動画に一本の動画が挙げられた。この動画は今までとは大幅に路線を変えたものであり、皮肉にも今までの動画の中で最も多くの再生回数を記録することになってしまった。
『ようこそ、ドロリス大爆笑の世界へ』
AveMujicaの情報はまだ少ないんで、これから設定の中で齟齬出てきたらスイマセン……