おっす、俺の名は
容姿も能力もある事を除いて普通のどこにでもいる男子だ。
普通じゃないのは俺が、魔力的なサムシングを用いて摩訶不思議な現象を起こせるという事と、普通の人間は見ることができない化け物を見ることができるということだ。
具体的に言うと、学校とかビルとか墓地とかにキモカワだったりガチキモだったりするちょっと人っぽい畜生どもが見えるのだ。
この超常的な能力を知れば羨ましがる人間もいるだろう。思春期における他の誰も知らない特別なものというのは、より一層の価値を持つように感じられるのだし。体感だが訓練すれば身につけられそうな感じがするので、自分も欲しいと誰かに言われれば訓練に付き合うくらいはしてやってもいい。
しかし俺はそれを推奨しない。なにも勿体ぶっているとか人に教えるのが惜しいとかそういう訳じゃない。単純に、この能力がほとんど役に立たないカスの能力だからである。
先にも供述した、普通の人には見えない化け物。こいつは色んな所に出没するし、サイズも様々だ。
手のひらに乗るくらいの小さい奴から建物を丸呑みするような馬鹿でかい奴までいる。こいつらは明るいうちは姿を見せなかったり、暴れなかったりする。まぁホラーとかによく出る幽霊とかと一緒だ。あくまでも傾向だが。
しかしそれにも例外がある。それはこちら側が化け物を見れていると化け物が気づいた時である。これが俺がこの能力をカスだと断じる理由である。
つまるところ、わざわざ幽霊が居そうなところに近づかない場合、普通の人間は化け物に襲われないのに、この能力がある人間は襲われるのである。
まぁ、クソである。持ってる人間が損をして、持ってない人間は何もない。これをババと言わずしてなんと言うのか。
手のひらサイズの化け物(化け物と言えるか怪しいレベルではある、珍獣とかでは?)に襲われたところでどうでもいいが、人間大以上のサイズの奴らに襲われるのは非常に面倒である。普通に命の危機であるし、周囲に被害が発生すると隠蔽などの処理が発生する。というか、醜悪な獣畜生以下の化け物が視界に存在するだけでQOL的に大きめのディスアドだ。
この能力にも一応、良い所がある。それが魔力的なサムシングとそれによる超常現象である。
端的に言うと、魔力を身に纏うとパワーが上がるのである。ファンタジーではよくある奴。そして、身体の中にある回路的な何かに魔力を流すと摩訶不思議な現象が発生するのだ。
それは人によっては炎であったり雷であったりする。
ここで注意したいのが、起こせる現象が個人固有であるということである。ゲームよろしく同じ人間がメラとデインとザキを打ったりはできず、それぞれ一人一種類しか打てないということだ。メラと一緒にメラガイアーとギラは打てそうだが。
化け物の中に偶に固有の能力を持っている奴がいるし、そいつらを倒してきた経験からしても、この推測は間違っていないと思う。
そして俺の場合、起こる現象は骨の操作なのである。
はいココ、10カスポイント追加。
もう一度言う、「骨」の操作なのである。骨を固くしたり柔らかくしたりできるのである。
別になくても困んねぇよコレ。骨折しないのは嬉しいが、普通の人間の大半も人生で1度も骨折しないのである。それに魔力で身体強化したら骨なんかまず折れないし。
操作というからには骨を伸ばしたりもできる。しかし、これもとんでもない欠陥が存在する。当たり前だが、骨が急激に伸びると滅茶苦茶痛いのである。
マジで要らねぇ。
一応、他人の骨にも干渉できるが、同じ理由で不要である。
魔力による身体強化で十分だ、という考え方もある。まぁ確かにちょっと強化するだけで100m9秒を余裕で切れるようになるし、十分と言えば十分だ。
しかしだ、その能力をいつ発揮するというのだ。スポーツや競技会で使ったとしても、明らかに異常な身体能力を見せれば、ドーピングを疑われた後は研究所行きだ。
そもそも正々堂々競い合う場にズルをして入るのはダメだろう。
有り余った身体能力をこの現代社会でどこに使うのか。かの井森洸一くんも言っていたが、人間は日常生活を過ごすのと引き金を引くのに不足がなければそれ以上の力は不要なのだ。
勿論、俺の骨の操作とかいうクソカス能力とは違って、便利な能力を獲得する人もいるだろう。未来予知とか時間停止とか瞬間移動とかそんな感じの。
でもそんなのはかなり少数派だろうし、そのガチャの代償が日常的な命の危機の可能性というのはリスクが高すぎる気がする。
だから俺は、この能力は習得しない方がいいと声を大にして言いたい。
と、自分の持つ特別性が無用の長物であることを長々と述べてきたが、今そこに新しい理由が加わろうとしています。
「お前、
学校からの帰宅途中、背後から声をかけられた。夕焼けに照らされた影が背後から俺の足元まで伸びている。
……滅茶苦茶嫌な予感がする。かけられた内容から察するに、後ろの奴も例の化け物が見えて魔力を扱える人間、少なくともその存在を知っている人間だと分かる。
それ自体は別にいい。人混みの中を歩いていると、偶に「あっ、こいつも持ってるな」と分かる人を見かける事がある。なんというか、身体に纏っている魔力が洗練されてる感じがあるのだ。背後から感じる気配もそんな感じだ。
問題なのはそんな輩に呼び止められたということだ。どう考えたって俺の持つ能力関係の話だ。後ろの奴が友好的にせよ敵対的にせよ面倒なことなるのは間違いない。
「だ、誰です?」
うん、誤魔化して逃げよう。
そう決断し、振り向きながら誰何する。
「あー、呪術高専から来た日下部だ。呪術って分かるか?」
振り向いた先には茶色いコートをはおった黒スーツのおっさんがいた。
今は7月なのに、30度を超える真夏日。季節を先取りした暑さなのに冬からやってきたのかと疑うくらいの厚着をしている。絶対、変人だろう。
「じゅじゅつ?呪いってことですか?」
「あぁ、そうだ。お前にも見えてる筈だ。俺たちの身体を流れる力、そしてその力を振るう人ならざる化け物が。呪術高専はその化け物を祓うために活動している。スカウトだ。お前も高専に入らないか」
このおっさんの言っていることをかみ砕いてみる。
俺が魔法だと思っていたものは呪術というらしい。まぁ確かにこの力は澱んだ雰囲気がするし魔法使いというよりは陰陽師的な感じだと言われれば納得かもしれない。
で、このおっさんは呪術高専なる組織は例の化け物を退治する活動をしていて、それに俺をスカウトしたいと。
なるほど、絶対に嫌だ。何を好き好んで、あんな化け物に自分から好き好んで近づかなければいけないのか。
「それって意味あるんですか?ほっときゃいいのに」
俺の返答を聞くと、おっさんは微妙な顔をした。どういう感情なのかは読み取れなかった。
スカウトを諦めてもらう為に俺は言葉を連ねる。
「別に特別害があるわけでも無いんだし、わざわざあんな気色の悪い化け物に近づく必要あります?」
すると、おっさんは啞然として
「はぁ?、害あるだろ。人を襲うし、一般人はそれに対応できねぇだろ」
うん?
「いや、見えなきゃ連中、人を襲わないでしょ」
おっさんはもう一度顔を歪ませた後、どこか納得したような表情をした。
「あー、そういうことか。中途半端な知識だけ持ってるタイプかよ。あー、めんどくせぇ。」
頭をガリガリと掻くと、おっさんはため息を吐いた。
「いいか、あの化け物は呪霊ていって、人の負の感情から出来てる。んで、確かにこっちが呪霊を認識してると気付くと攻撃してくる。でも別にそれは傾向であって、無差別に人を襲うやつもいるんだよ。お前が会った呪霊でそういう奴が居なかったのはたまたまだ」
えっ、そうなの。
「全国での怪死・行方不明者は年平均一万人を超える。その殆どが呪いによるものだ。俺たちはそんな人たちを少しでも減らす為に活動している。そのためにお前の力を貸してはくれないか」
普通に嫌だ。断りたい。
「いやー、俺まだ中学生だし」
「呪術高専は教育機関としての側面も持っている。正式名称、呪術高等専門学校。全国に東京と京都の二校しかない学校だ。学費もねぇし国からの認可も下りている。高専に所属しながら大学に進学することもできる」
えっ、国も絡んでるのこれ。
「たぶん俺じゃあ力不足だし」
「呪術師は万年人手不足、猫の手も借りたいくらいだ。実力に応じた任務が与えられるから必ずしも危険というわけじゃないし、高専も最大限バックアップを行う。力が足りなくとも「窓」という下部組織や補助監督として呪術師のサポートを行うこともできる。お前の力がきっと誰かの助けになる筈だ」
さっきから勧誘文句があからさまだ。こういう話には大抵裏がありそうな気がする。
「うーん」
いやまぁ、何が何でもやりたくないという訳ではない。命の危機がどうこうとは言ったがたぶん自分大抵のことでは死なないと思うし、何か特別やりたいことがあるわけでもない。
単純に突然のことだから戸惑っているのと、胡散臭くて信用ができないというだけだ。
「呪術師には危険の対価として十分な報酬が与えられる。大体の呪術師は2級で頭打ちになるが、2級でも1000万は固い。任務を増やせばもっと上も狙えるな。1級ともなれば億以上もざらだ。勿論これ非課税な」
「やります!呪術師やります!やらせてください!」
マジかよ呪術師、最高だな。学生のうちから年数百万稼げるのかよ。防衛大学なんか目じゃねぇぜ。
適当に稼いだ後に呪術師辞めてFIRE一択じゃん。
さっきまでまるでやる気がしなかったが、そんだけ稼げると分かれば話は別だ。胡散臭い「呪術師」の3文字が今は輝いて見えるぜ。
「乗り気になってくれて嬉しいが、簡単に決めすぎじゃねぇか?親とかに相談しねぇのか?」
「平気っす。親2人とも俺に興味ないんで」
「……そうか、ならいい。これ入校手続きの書類な。名前と住所さえ書けば後はポストに入れるだけになってる」
そう言って、おっさんが茶封筒を手渡してくる。
「あざっす。了解っす」
軽く頭を下げて、それを受け取る。
たぶん相手も用は済んでるが、このまま解散というのも据わりが悪い気がして気まずい空気が漂う。
「一応、名前聞いとくか。俺は
「勅使河原鏑です。よろしくお願いします」
「おう、じゃあな。また高専で会おうや」
おっさん、改め日下部さんは踵を返して歩き出す。
今更になって疑問が湧きだした。
「あの」
「なんだ」
「なんで俺をスカウトしたんですか?東京の方とか歩いてれば他にも持ってそうな人結構いるじゃないですか」
ちょっと前に修学旅行で東京に行ったとき、こっちの方じゃ殆ど見かけない
「いや、そんなに居ねぇよ、呪力が見える奴。あとスカウトをした理由は簡単、即戦力だからだ。前、東京いた時、お前が呪霊祓ってるの見たんだよ。自分じゃ力不足とか言ってたが、ありゃ2級相当の呪霊だ。お前はもう十分な戦力として数えられるんだよ」
……あー!あの時の!ホテルの隣のビルの奴!あれが2級なんだ。じゃあ俺もう年収1000万狙えるってことじゃん!やったぜ、
ん?
「えっ、てことは、学ランから俺を特定したってこと?怖」
「高専にはそういうの調べるのが得意なやつがいてな」
ストーカーが在籍してんのかよ、高専。まぁいいや、高専に入ったらそいつも仲間ってことだし。俺の嫌いな連中の弱みとかも握ってくれるかもしれん。
「質問は終わりか?なら俺はもう帰るぞ」
「あ、はい。それじゃあまた。ありがとうございました」
そうして俺と日下部さんは別れた。
ほんの数分程度の会話だったが、俺の将来設計が随分と変化した出会いだった。俺は中学卒業したら近くの高校を受けて、高校も卒業したら適当なところに就職して家を出るつもりだった。高卒じゃ碌な会社にも受からないだろうし、割と悲惨な将来も想像していた。
でも今は違う。あと半年もしたら家を出て、高額年収まで見えてる。
なんだか嘘みたいだ。受け取った茶封筒を開いたら白紙で、今の会話は質の悪いイタズラだった。そんな不安に襲われる。
封を切って書類を出してみる。
質素なパンフレットと小さい文字がびっしりと並んだ書類数枚が入っていた。
……嘘じゃない。
まだ確定した訳じゃないが、ホッとした。
いつもは重い足取りが今日は軽い。
父親はまだ帰っていないだろうが、母親は家にいる筈だ。
とっとと進路が決まったことを報告して寝よう。
いつも見てる景色が今日は無性に綺麗に見えた。夕焼けに照らされる住宅街を見てそんなことを思った。
予想していた通りだったが、高専入学は母親に簡単に受け入れられた。
あと3年は居ると思っていた厄介者が早々にいなくなると知って喜んでいるくらいだった。こちらとしてもあと3年は拘束されると思っていた家から解放されるので嬉しいのだからお相子だが。
だからといって、普段の生活の何かが変わるわけでもない。いつも通り、家の中では一切会話をせず、学校に通っては寝るだけの生活を送った。
そうして俺は中学を卒業し、高専に入学した。
主人公:勅使河原鏑
年齢:14歳
誕生日:9月10日
術式:編骨呪法
趣味:ゲーム
好きな食べ物:甲殻類
苦手な食べ物:濃厚なクリーム
ストレス:両親
家族構成:父、母、妹
最近の悩み:敬語が難しい