バーカ 滅びろ呪術界!!   作:天網恢恢

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同級生と顔合わせ!

 3月の間は本当に何もしない日々が続いた。

 朝起きて、食堂に行ってご飯を食べる。昼まで座学の予習をする。お昼になったらまた食堂に行ってご飯を食べる。その後はまた勉強に戻ったり遊んだり。夕ご飯も食堂で食べて、暗くなったら寝る。

 本当にそれだけを1ヶ月近く繰り返していた。授業や任務もなく、高専に引きこもって生活していた。

 呪術師の繫忙期は初夏である。それは呪霊の源となる負の感情が、冬から春にかけて集まり、初夏に呪霊として顕れることによるらしい。

 そのため、今の時期は呪術師も暇らしく、秤先輩も綺羅羅先輩も高専にいることが多かった。ただ、2人ともよく高専を出て遊びに行くことが多かったので話す機会はあまり多くなかった。まぁその方がこっちも楽だが。

 

 今日もそんな感じで、俺は部屋で適当に遊んでいた.

 ふと、部屋の窓を見やると、外にパンダがいるのが見えた。

 

 ……なんで?

 

 思わず二度見してしまう。……見間違いではない。間違いなくパンダである。しかも二足歩行してる。

 着ぐるみか?日本にはパンダ生息してないよな?まさか動物園から脱走してここまで来たわけでもあるまいし。

 好奇心に抗えず、もっと近くでパンダを見に行く。

 勢いよく廊下に出て玄関まで走る。靴を履き替えて、部屋から見えた通りに向かう。

 部屋から見えていた通りまで辿り着く。…いない。もうどこかに去ってしまったようだ。

 どこに行ったんだろうか。

 

 少し考える。

 可能性1、あれは何かしらの理由でここに現れた普通のパンダ。二足歩行してたのは、曲芸とかの類。

 可能性2、あのパンダは呪術関係の何か。これが本命。この場合、さらにいろんな可能性が考えられる。呪術師が術式か何かで変装している。パンダ型の呪霊。呪術師が操作している人形。このあたりか。

 

 そういえば、学長が傀儡操術の使い手だった。これか?学長が荷物運びとかの雑用を自分の呪骸にやらせている可能性。

 とりあえず、学長の方に向かう。あのパンダが本物のパンダだったとしても報告は必要だし、呪霊だったならなおさらだ。

 

 学長室にむかう。

 ノックをして、扉を開ける。

 

「失礼します、夜蛾学長に伺いたいこ、えぇ!!」

 

 扉を開くと、そこには先ほど見たパンダがいた。

 まさかの光景に絶句してしまう。

 例のパンダが学長関係の可能性は想定していたが、まさか事情を聞きに来た場所でその目的に遭遇するとは。

 

「あぁ、勅使河原か。驚くのも無理はない。彼はパンダ、私が生み出した呪骸の一人。人格を持って生まれた自己補完可能な突然変異呪骸だ。君と同学年になることになっている」

 

「えっ!マジですか!?」

 

 パンダが?同学年?いや呪骸だからパンダではないのか?

 

「よろしくな」

 

 パンダを模してるのに渋い声だ。パンダってもうちょと明るいイメージじゃない?ギャップというか違和感が凄い。

 突然変異というからには人格を持った呪骸というのは希少なんだろう。まぁ量産できたら呪術師要らねぇしな。

 にしてもパンダって。もっと他にも形あったんじゃない?というか名前がパンダでいいの?

 

「あ、あぁ、よろしく」

 

「それで、何の用だ?」

 

「あぁいや、その…学内にパンダを見かけたのでこれは何だ?と思って聞きに来たんですけど」

 

「そうか、これから共に学ぶ者同士、仲良くしてやってくれ」

 

「はい。えっと、それじゃ失礼します」

 

 学長室から退室する。

 いやー、マジでびっくりした。パンダ(呪骸)が同級生かぁ。仲良くとはいうが、何すればいいんだろうか。街の方には一緒に行けないし、ゲームでもするか?でもゲーム機持てなさそうだよな、パンダの手だと。

 まぁその辺はおいおい考えよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 こうして俺は最初の級友と邂逅した。まさか人間以外の知り合いができるとは思っていなかった。

 しかし、パンダは話してみると案外話せるやつで、ある意味で人間以上に人間らしかった。

 食べて勉強して遊ぶだけの日々に、友人との会話という行為が加わった日だった。

 

 そして

 

 4月、1年生が全員揃う日がやってきた。

 俺は期待に胸を膨らませて教室へと歩みを進める。期待といっても新たな仲間を求めてとかそういうのじゃない。これから授業が始まることへの期待だ。

 今までは任務がなかったので給料もなかったのだ。だが、授業が始まれば俺も任務へ派遣されるようになる。任務を遂げれば給料も入るようになる。高額の報酬があればこそ、俺は呪術高専に入学したのだ。

 逆に、クラスメイトが増えることに関してはあんまり気乗りしない。中学時代までは人間関係から逃げてきたので、新たな人間関係に尻込みしてるところもある。金という動機に比べれば些細な問題だが。

 

 そんな訳で、俺は今機嫌が良い。集合場所として指定された教室への足取りも軽い。

 教室の前に辿り着き、勢いよく戸を開く。教室の中には誰もいなかった。俺が一番乗りらしい。2×2で並んでいる机の内、一番奥の席に腰かける。

 数分後、パンダがのっそのっそと教室に入ってきた。

 

「おはよー」

 

「おはよー」

 

 何か声をかけるべきか迷ったが無難に挨拶をしておく。普通に返事を返してくれたパンダは俺の隣に座った。

 

「なぁ、他の新入生見たか?男一人、女一人だっけぞ」

 

「へー、そうなんだ。どんな人かわかる?」

 

「いや、わからん。俺も気配だけ感じただけだし」

 

「そっかー」

 

 2人で適当なことを話していると、また襖が開かれた。

 現れたのは白髪の少年。髪を逆立て、口元を襟?で隠している。

 彼にも挨拶した方が良いだろうか。根暗な自分としては初対面の相手に挨拶をするのは少し抵抗がある。どうしようか。

 

「おっす、おはよー」

 

 パンダが挨拶を仕掛けた。

 さすがパンダ。パンダなのに俺より人間性を持ってるやつ。

 

「こんぶ」

 

 ……こんぶ?昆布?

 今、昆布つったか?何で?

 流石のパンダも面食らっている。

 

「お、おはよう」

 

「こんぶ」

 

 間違いない。こんぶって言ってる。パンダと顔を見合わせる。出会ってからの時間は短いが、今ならパンダの考えていることが手に取るように分かる。パンダもそうだろう。

 困惑。ただひたすら、挨拶に対して謎の返事をした彼に対する困惑。今2人の心は一致した。

 

 そんな彼は俺の目の前に座った。

 

 沈黙が流れる。俺もパンダも目の前の彼も何も会話をしようとしない。すごい気まずい雰囲気。

 

 突然、勢いよく襖が開かれた。

 入ってきたのは黒髪ポニーテールの女子。

 

「っち、私が最後かよ」

 

 舌打ちするとずかずか歩いて乱暴に椅子に座り込む。

 またガラの悪い人が入ってきた。呪術師ってそういう人多いんだろうか。あんまりお近づきになりたくないタイプの人だ。

 

「おーっす、おはよー」

 

 俺とは逆にパンダはちゃんと挨拶をした。やっぱりパンダ、人間できてるなぁー。

 

「あん?、あぁ、よろしく」

 

 パンダの挨拶を軽くあしらう。

 これが彼女の素なのか、たまたま不機嫌なのか判断に迷うところだ。

 

 またもや沈黙が流れる。

 時計を見やると、集合時間を僅かに過ぎてる。早よ来いよ五条悟。教師が遅刻してんじゃねーぞ。

 

 そこから数分過ぎてようやく襖が開かれる。

 

「よーっす、ごきげんよう!みんな大好きG(グレート)T(ティーチャー)G(ゴジョ―)だよ!」

 

 廊下から飛び出した五条先生を全員が白い目で見る。

 今度は俺とパンダだけじゃなく、四人全員の心が一致した。

 「うわー、ないわー」である。

 そんな視線にもめげずに五条先生は場を取り仕切る。

 

「それじゃあ自己紹介しよっか。みんな知ってるだろうけど、僕は五条悟。君たちの担任を務める。これからよろしくね!それじゃあ次、鏑からお願い」

 

 うわいきなりか。まぁ最後よりはましか。

 席から立ち上がる。

 

「勅使河原鏑です。金目当てに呪術師なりました。よろしくお願いします」

 

 我ながら、よろしくする気が全くない挨拶だ。金目当てといっておけば、まぁ他人はいい印象を持たないだろう。そうなれば会話も少なくて済む。

 

「それじゃあ次、パンダ」

 

「オレ パンダ ニンゲント ナカヨクスル」

 

 パンダはふざけて片言で喋る。

 

「知ってる人もいると思うけどパンダは、学長が作った呪骸だけど自己補完ができるんだ。ちゃんと会話もできるよ、仲良くしてね」

「次、棘は自分で挨拶できないから、僕が代わりに紹介するね。この子は狗巻棘。呪言師の末裔なんだけど、制御ができないから語彙をおにぎりの具に絞ってるんだ。会話を頑張ろう」

 

「しゃけしゃけ」

 

 呪言師。たしか、かつてはメジャーだった、術師の一派だ。字の通り、言葉によって対象の呪う術式の持ち主だ。

 それが制御できないとは。不可解な返事はそういった事情に依るものだったのか。にしても何でおにぎりの具?別の分かりやすいのとかない?というか筆談でもよくない?縛りの一環なんだろうか。

 

「最後に真希、よろしく」

 

「最後かよ。禪院真希、呪具を使う。馴れあうつもりはねぇ」

 

「真希はね、禪院家の出なんだけど術式持ってなかったから冷遇されてたんだ。今は実家を見返すために修行中。応援してあげてね」

 

 禪院家。たしか呪術界における三大名家の一つだ。予習で知った内容からはあんまり良い噂は得られなかった。冷遇というからには扱いが悪かったのだろう。そこから見返そうと努力できるのは素直にすごいと思う。自分なら見限って逃げてる。

 でもそういうのセンシティブな話を初対面で第三者が勝手に言うのは違くない?五条先生そういうところデリカシーなさすぎでは。

 

「っち」

 

 ほら禪院さんも舌打ちしてるよ。

 

「これからこのメンバーで3年間活動するんだから仲良くしようね」

 

 このメンバーで、か。不安だ。パンダ以外とうまくやっていける気がしねぇよ。

 会話の通じない狗巻くんと喧嘩っ早そうな禪院さん。仲良くする取っ掛かりもない気がする。

 

「それじゃ今から君たちがどのくらい動けるか測るよ。グラウンドに出よっか」

 

「測るって何をするんですか?」

 

「僕と組手だね。呪術師は身体動かしてナンボだからね、ビシバシ鍛えるよ」

 

「組手、ですか」

 

「別に3人一緒でもいいよ」

 

「上等」

 

「しゃけしゃけ」

 

「やってやるか」

 

 うわー、他の3人が乗りきだ。

 

 グラウンドに集まると、五条先生が軽く柔軟をする。

 

「じゃあ、やりたい子からかかってきて。軽く揉んであげる」

 

「おい、お前」

 

 禪院さんがこそこそ話しかけてくる。

 

「全員でかかるぞ。あの馬鹿目隠しに一杯食わせるぞ」

 

「えっ、一人ずつじゃないの」

 

「あいつにタイマンで勝てるわけねぇだろ。でも腹立つから一発は食らわせるんだよ」

 

「これ別に五条先生の裏をかくものじゃなくない?」

 

「いいからやるんだよ。私がまず最初にかかるから、それに合わせて裏からこいよ。他の2人もくるからな」

 

 言うだけ言って、禪院さんは五条先生の方に向かっていく。一応、僕も指示通りに見学するのを装って五条先生の背後に回る。途中、パンダと目が合ったがパンダはニヤニヤ笑っていた。彼は奇襲からの数に頼ってのタコ殴りに乗り気らしい。パンダも狗巻くんも遠巻きに五条先生を囲むように位置どる。

 

「あれ、真希一人?さっき相談してたけど一人でいいの?」

 

 五条先生がニマニマ笑って煽るように禪院さんに話しかける。

 

「いいんだよ。先ずは私だけで」

 

 そう言って禪院さんが五条先生に掴み掛かる。それを合図と見なして2人が突進する。俺も一緒になって突撃する。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 俺たち4人は結局五条先生にぼこぼこにされた。

 初手の奇襲はあっさり捌かれて、その後も4対1で大乱闘。

 結局、4対1でも勝負にならなかった。4人ともお手玉でもするみたいにポンポン投げられまくった。いつだか本で、屋外では殴る蹴るより投げられる方がダメージが大きいと聞いたがどうやら事実らしい。痛みもそうだが疲労感で立つのもままならない。

 

「うーん、大体分かったかな。真希は上半身に意識向きすぎ、棘は逆に下半身を使う意識が薄いね。パンダは一個のことに意識が向きすぎ。鏑はまだ人を殴るのに慣れてないね、これは経験あるのみだよ」

 

 俺たちは満身創痍なのに五条先生は息一つ切れていない。さてはこの人強すぎるな?

 

「みんなの弱点が分かったところで、明日からは一緒に克服を目指してこう!」

 

 1人だけ元気な五条先生に返事を返す余裕のある奴は誰もいない。

 

「それじゃあ今日はここまで。また明日ね」

 

 五条先生が去った後も俺たちは立つことができない。

 そこから数分休憩してようやく起き上がることができた。

 

「勝てなかったな」

 

「まぁ初めから分かってたことだ。伊達に現代最強って言われてねぇな」

 

「そうだね」

 

「しゃけしゃけ」

 

 パンダの呟きに応じる。

 なんとなく分かったけど、狗巻くんの「しゃけ」は肯定の意味っぽい。

 

「というか初耳なんだけど、五条先生最強って言われてるの?」

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

「うん。なんでそんな人が教師なんてやってるの?」

 

「知るかよ」

 

「今の上層部が嫌いらしいからそれじゃないか」

 

「ふーん」

 

 パンダから情報提供された。聞いといてアレだけど、あんまり興味がない。

 上層部が嫌いだから、後進を育てる職につく。あんまり繋がんない気もするが、次世代の上層部候補を育てるとかそういうのだろうか。

 

 なんとか体力も回復してきて歩けるようになってきた。

 今日は授業も終わりだというし、もう部屋に戻って寝よう。お昼を食べる気も湧かないくらい疲れた。

 

「それじゃ俺もう部屋戻るわ。また後で」

 

「おう」

 

「またな」

 

「しゃけ」

 

 最初は仲良くできるか若干不安だったが、案外自然体で話すことができた。

 五条先生という共通の敵がいたのが良かった気がする。これなら仲良くすることもできるかもしれない。

 

 そんな風に最初の授業は終わった。

 早く任務に行って給料ほしいなぁ。

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