バーカ 滅びろ呪術界!!   作:天網恢恢

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初めての引率任務!

 俺は引率の二級術師の監督の下、任務に出ていた。

 というのもこれは、俺がまだ四級だからである。実際に任務をこなしてみて実績を出さないことには、どれだけ実力があっても認めてはくれないらしい。

 

 日下部さんが俺を二級に推薦して、実際にその実力があるかを別の二級術師の監視の下、任務で確認するということらしい。監督役の人は推薦者以外の人と定まっているらしく、俺は面識のない人と任務に行くことになった。

 普通は何度か任務をこなし複数の実績を以て等級の認定を行うらしいが、今回の任務で実力ありと認められれば即、二級認定が貰えるらしい。五条先生が上層部に対してゴリ押しをしたと聞いた。感謝である。

 

 事前に指定されていた集合場所へ着くと、そこには既に人影が二つあった。どうやら自分が最後らしい。一様、指定の時間の五分前ではあるのだが。

 

「遅れてすいません」

 

 目上の人を待たせることになったのだから、一応謝罪の言葉を述べておく。

 

「いえ、大丈夫です。まだ時間前ですよ」

 

「えぇ、私も先ほど来たばかりですので」

 

 返事を返したのは黒スーツの男性とこれまた黒スーツの女性。姿勢とかから察するに、男性の方が補助監督で女性の方が引率の術師だろう。

 

「では軽く自己紹介を。私は五阿弥(いつあみ)羽澄(はすみ)。今回、貴方の任務への同行役に選ばれました。貴方の実力をしっかりと見定めさせてもらいます」

 

「はい、俺は勅使河原鏑です。よろしくお願いします」

 

 同行する呪術師の方はかなり真面目そうな女性だ。黒髪ロングで清楚な雰囲気。身長は俺と同じくらい。

 

「鳴宮です。補助監督を務めさせていただきます」

 

 補助監督の方が停めてあった車に搭乗を促す。俺たちは揃って後部座席に座る。車が静かに動き出す。

 高専に来るときの伊地知さんもそうだったが、補助監督の方の運転は丁寧でほとんど揺れない。快適な運転も業務の一環なのだろうか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 車の中では、五阿弥さんから任務に関する知識の講義を受けた。

 任務のプロセス、帳の必要性、撤退の判断基準、想定外の事態に直面したときの対応、様々な知識を得ることができた。

 本来ならこういった知識は、術師の家系なら幼少期に、一般出の人間は高専で身に着けてから任務に派遣されるものらしい。俺の拙速による弊害だ。反省する。

 

「いやぁ自分の無知でお手数かけて申し訳ないです」

 

「いえ、この程度でしたら幾らでも。五条様からも貴方をお助けするよう仰せつかっておりますし」

 

「五条先生が?」

 

「えぇ、五条さまは貴方にとても期待されておりますよ」

 

 正直に言って少し驚きだ。全術師の中でもぶっちぎりの最強が、俺程度に期待するとはどういう理由なのだろう。等級昇格の件もそうだが、俺にそれだけの価値があるのだろうか。

 

「五条先生は俺のことなんて言ってました?」

 

「そうですね、いずれ自分に並ぶ術師になるだろうと仰られていました。五条様がこのように人をお褒めになるのは珍しいことですので、誇っても良いかと」

 

「!、そうなんですね。期待に応えられるように頑張ります」

 

 いや、無理だろ。何度か組手もしたけど勝負になる気配もしなかったぞ。比較の舞台に上がるのにすら何年かかるかも分からん。

 

 そこで一旦会話は途切れ、また車内が静かになる。

 俺はもう何度も読んだ任務の資料を読み返す。

 

 目的地は某地方の山中の自殺の名所。渡された資料によれば、明治時代の廃仏毀釈で破壊された寺院跡地、その奥に深い縦穴の洞窟があり、立ち入り禁止となっている。しかしそこに飛び降りる自殺者が年間十数名出ているらしい。

 そこに数日前、呪霊が発生。二級相当の案件だと判定され、丁度査定が必要だった俺にお鉢が回ってきたという流れだ。

 自殺の名所に呪霊が発生。ありきたりといえばありきたりだ。初の任務としては丁度いいくらいだろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 車が停車する。気づけば森の中。どうやら目的地に到着したらしい。車から降りる。

 

「それでは帳を張ります。『闇より出てて闇より黒く その穢れを禊ぎ祓え』。どうぞご武運を」

 

 鳴宮さんが帳を張り、夜が空を塗りつぶしていく。周囲一帯を帳が包んだ。

 これが『帳』か。初めて見た。黒い球状のドームが蓋をしたみたいだ。

 帳の効果は二つ。非術師からの遮断、そして呪霊の炙り出し。任務の進行をスムーズにすると共に民衆の不安を抑制することを目的とする。

 

「これが帳です。基本的には補助監督が張りますが、自分でてきるに越したことはありません。得意不得意がよく現れる技術ですが、結界術の修練も頑張ってください」

 

「はい」

 

 山道を登っていく。崩れて風化した階段の残骸が残っている。かつてはこの参拝道を歩く人もいたのだろう。時代の流れを感じる。

 

「「!」」

 

 雑木林の奥から呪霊がわらわらと押し寄せてくる。数は四、全身に付いた幾つもの口でギチギチと歯ぎしりをしている。気色の悪い異形たちだ。······でもこれは。

 

「低級呪霊ですね。任務目標ではありませんが祓ってしまいましょう」

 

「はい!」

 

 これは俺の適正を測る試験なので当然だが、五阿弥さんは手伝わない。この任務は俺一人での解決が求められている。

 ······よしっ。気持ちを入れ替え、気合いを入れる。

 

 この間も呪霊どもはこちらに向かって近づいている。

 こちらまで来るのを待たずに俺は突撃する。奴らの反応を許さずに、並ぶ四匹の懐に入る。そこから裏拳で右の一匹を吹き飛ばし、左側の奴にタックル。奥にいたもう一匹も巻き込んで木に押し付ける。反撃される前に右拳で二匹まとめて殴り潰す。振り返ると最後の一匹が何が起きたか理解できていないようだったので、飛び蹴りで転倒させ頭を踏み潰す。最初に吹き飛ばした一匹にトドメを刺そうとすると、そいつは吹き飛んだ先で潰れて死んでいた。どうやら牽制で死ぬ程度の雑魚だったらしい。

 四匹の消失を確認すると、五阿弥さんの方に戻る。

 

「お見事です。先へ進みましょうか」

 

 褒めてはくれたが、この程度はできて当然ということらしい。態度でそんな雰囲気を感じた。

 其阿弥さんに促されるまま、俺は山道をまた進み始めた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 山を登る道中、何度か呪霊に遭遇したが、いずれも低級呪霊で目標となる呪霊には遭遇しなかった。

 そうして、崩れた寺院まで俺たちは辿り着いた。百年以上前に破壊されたまま放棄されたとあって、その様相は惨憺であった。

 木々は生い茂り、苔むしている箇所もある。屋根や壁、床も崩れており、外から中の様子が丸見えになるくらいだった。

 

「ここ、ですかね?」

 

 目標の呪霊は山を巡る中では遭遇しなかった。一番いる可能性が高いのはこのお堂だろう。

 しかし、それらしき雰囲気は感じない。呪霊特有の怖気が走るような気配がないのだ。

 

「たぶん違いますね。ですが念のため確認しておきましょう」

 

 お堂の中に足を踏み入れる。土足だが別に気にする必要もないだろう。

 中は当然ながらボロボロで、ジャンプでもすれば床が抜けそうだった。なるべく衝撃が出ないように歩く。

 全ての部屋を回ったが、案の定このお堂には呪霊はいなかった。

 

「やっぱりここにはいなかったですね、となると後は」

 

「自殺の名所となっていた洞窟ですね」

 

 お堂から出て洞窟へ向かう。

 裏側に回ると、獣道が曲がりくねりながら伸びていた。これが呪霊によるものならば話も早いのだが、どちらかというと自殺者によるものだろう。

 獣道を通って山中を進む。方向から察するに例の洞窟まで伸びているようだった。道中にも低級呪霊が出現したのでそれもついでに祓う。

 

 洞窟に近づくにつれ、呪霊特有の嫌な雰囲気が増す。やはり洞窟に呪霊がいるようだ。

 しばらく歩くと、立ち入り禁止を示す看板が目に入った。辿り着いたらしい。

 洞窟の周りは杭と縄で囲まれているだけど、簡単に跨いで飛び降りれそうになっていた。

 呪霊の呪力は穴の底の方から感じる。

 

「この中かぁ。この洞窟って八十メートルでしたっけ?」

 

「そのくらいですね」

 

「じゃあいけるかな」

 

 軽く助走してジャンプして洞窟の中に飛び降りる。

 

「後からゆっくり来てください!」

 

 俺は骨が頑丈だから問題ないけど五阿弥さんは着地が厳しそうだから先行する。落下しながら言付けする。

 数秒の浮遊感。そして衝撃。

 底の地面はなだらかなようで無事着地に成功した。

 気を抜かずに周囲を警戒すると、足に何かがぶつかる感触がした。暗闇でよく見えないのでスマホのライトを使って地面を照らしてみる。

 

 足元に転がっているのは木材の破片だった。滑らかな曲線加工がしてあり明らかに人の手による加工が入っていると分かる

 スマホを振って光の当てる場所を変える。俺の周囲には同じような木材がいくつもの転がっていた。

 おかしくないか?ここは自殺スポットのはずだ。人間の骨が落ちてるなら分かるが、木材が落ちているのは変だ。なのに骨が一欠片も見当たらず、木材ばかりだ。

 

 どっ、という音と共に五阿弥さんが降りてくる。

 

「勅使河原さん、同行役を置いていくのはやめてください。査定ができませんし、いざという時に貴方を守れません」

 

「あっはい、すいません」

 

 五阿弥さんがこちらに歩み寄ると、何かにぶつかる音がした。何かを蹴ってしまったようだ。蹴られた何かが転がってくる。

 それに光を当てると、転がってきたのは仏像の生首だった。

 そういうことか。周囲に点在していた木材は仏像の破片。恐らく廃仏毀釈当時、仏像の破棄にこの洞窟が使われたのだろう。落下の衝撃によって仏像がバラバラになってしまっていたのだ。

 

「ところで呪霊は?」

 

 集合できたところで、周囲の確認をおこなう。

 どうやら洞窟の中はそれなりに広さがあるらしい。

 

「気配は感じるんですけど出てきませんね」

 

 濃密な呪霊の気配がこの空間に充満している。この空間にいることは分かっても、この空間の何処にいるかは分かったものじゃない。

 

「探すしかありませんね」

 

 二人で探索を進める。

 降りてきた場所から真っ直ぐ進むと、大きな仏像が鎮座していた。

 

「これは」

 

「仏像ですね」

 

「散らばってるのもそうなんですけど、なんでこんな所に仏像が転がってるんでしょう。壊れてるのは上から落としたんだと分かりますけど、こんなでっかいのどうやって持ってきたんですかね」

 

「木製にしては腐朽が進んでいないのも気になります」

 

「呪術関係の何かだったってことでしょうか」

 

「その可能性はあります」

 

 俺は仏像に近づいて触れてみる。

 

 

 ぞわり

 

 

 まずい、これは。

 

「離れてっ、こいつ呪霊です!」

 

 俺も仏像から離れようとする。が、間に合わない。

 仏像がその閉じた目を見開く。

 仏像と目が合った。その瞳は虚ろだった。ハイライトが無いという意味じゃない。仏像の目は全くの虚無で、瞳があるべきところに闇が詰まっていたのだ。

 仏像が突然動き出し、後ろに飾ってある剣を引き抜いて地面に突き刺す。

 

 

 ズズズズズ

 

 

 黒い膜のようなものが広がり俺たちを包もうとする。

 

「これはっ!」

 

 五阿弥さんは膜に包まれずに弾かれてしまった。

 

 今起こった現象など考える迄もない。これは、間違いなく領域展開だ。

 領域展開。呪術の最奥。呪力で具現化した生得領域、そこに術式効果を付与することで生まれる必中必殺の絶技。

 そこに俺だけが取り込まれた。

 不味いか。脱出は不可、結界術は習ってない。どうする。

 

 ざくっ

 

 軽い衝撃と鈍い音が背後から響いた。

 後ろを振り返ると、何かを振り切った姿勢の仏像が立っていた。

 一拍遅れて痛みが身体を走る。

 斬られた。まず、熱、痛。

 

「がっ」

 

 思わず体勢が崩れる。その勢いに抗わずに転がって距離を取る。

 体勢を低くしたまま、仏像の方へ振り返る。そこには何の感情も見せない仏像が二体、俺の方を見つめていた。

 

 上から刃が振り下ろされる。

 

「ぐっ」

 

 直前で攻撃に気付き、呪力で強化した腕を交差して防御する。後ろに新たな仏像が出現したのだと後から気付く。

 そのまま刃を持ち上げるように立ち上がり、回し蹴りで仏像を両断する。

 脆い。呪力で強化されていないのか簡単に破壊できた。

 

 今度は左右に仏像が出現し、俺の前後を塞ぐように同時に横切りする。

 俺はそれを両手で掴み、引っ張る。仏像同士を衝突させて破壊。

 

 最初の二体の方に目を見やると、俺を斬った方の仏像がこちらに突撃してきていた。

 よく見ると、領域展開前からいた方とその後に出てきた奴とではデザインが違う。最初にいた方(あっち)が本体と見てよさそうだ。

 背中の痛みを無視して俺も仏像に突撃する。勢いそのままに仏像を殴り壊して本体に接近する。

 あと一歩で本体に触れられるというところで俺を囲うように仏像が十体以上現れる。逃げ場をなくすように剣で刺突をしてくる。

 雑魚は無視。本体を叩く。

 正面の一体だけを破壊して包囲を突破し本体に向かう。呪力で強化した渾身の拳で本体を殴りつける。

 

 俺の拳と仏像の剣が拮抗する。

 クソ、こっちは固いのかよ。チンタラしてると後ろから仏像が襲ってくるので右にステップして本体から距離をとり、本体と雑魚の両方が視界に入るようにする。その瞬間背後から横薙ぎの斬撃が襲ってくる。それを受け止めて、躱して逃げる。

 雑魚の仏像どもがわらわらこっちに接近してくる。

 

 さっきの感触からして、雑魚はいうまでもなく、本体も勝てない相手じゃない。だが同時にとなると厄介だ。単に一対十何体とかなら別に問題もないが、雑魚どもは一瞬で俺の死角に湧いてくる。雑魚の防御は脆いが、攻撃は不意を突かれれば危険な程度にはある。恐らくは防御を捨てることによる縛りで攻撃力を増している。今も斬られた背後が痛んでいる。痛いのは極力なしにしたい。

 

 悪寒。

 

 直観に従って全身を呪力で強化する。直後、三百六十度全方向から仏像が出現して俺を斬り刻んだ。

 不味い、これが必中。さっきまでの攻撃は様子見か。

 右から斬撃を放った仏像を縦拳で仕留めると、その奥から刺突がとんできた。剣と拳がぶつかり、剣を砕いた代わり血が流れる。と同時に背後から縦に、左側から横薙ぎに斬撃が生まれ傷を負う。正面からは姿勢を低くした仏像が俺の足に斬撃を浴びせていた。たまらず仏像を潰す勢いで前方に飛び包囲を逃れる。

 数瞬の後着地する。すると着地した先にも仏像が表れた。また俺を包囲する。斬撃と刺突の雨が俺を襲う。捌ききれない。攻撃が呪力による防御を貫通して傷を受ける。

 ダメージと衝撃に立っていられなくなり屈みこむ。すると仏像どもは剣を持ち換えて、餅でもつくみたいにぐさぐさと俺を刺す。

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 

 ······これが領域展開、これが結界術の果て、呪術の極致、か。見誤っていた。必中と聞いていたが、俺は防御できるなら問題ないと思っていた。しかし、どうだ!。この物量!この威力!防御を意に介さないこの攻撃!なるほど、呪術戦の頂点と称されるのもよく分かる。

 しかし、だ。これじゃあ俺は死なない。この程度じゃあ俺は殺せない。こんなもんじゃあ必中必殺には程遠い。

 

 

骸骨廓(がいこっかく)

 

 

 ポケットにしまっていた俺の抜けた歯を対象として術式を発動する。歯がぎちぎちと伸びて俺の全身を覆い、骨の鎧ができあがる。

 異変に気付き、また斬撃の雨が降り始める。しかし、あらゆる攻撃は骨の鎧に弾かれて、俺に何の痛痒も与えない。

 斬撃を浴びながら、俺は悠々と本体の方へ向かう。本体の前に辿り着くと、そいつはなんだか怯えているような雰囲気を感じた。ふふっ、人々の恐怖から生まれた化物が人間に恐怖するなんてちゃんちゃら可笑しい。

 

 仏像の頭を掴む。すると、そいつはじたばたと暴れて、雑魚と一緒になって俺に斬撃を浴びせる。

 掌から刃を伸ばし頭を貫通させる。それで仏像は全員動かなくなった。

 

 ザフッという消失反応と共に呪霊が作った領域が晴れる。

 

「勅使河原さん!」

 

 五阿弥さんがこちらに向かって走ってくる。

 その瞬間、思い出す。これは試験であったと。

 

「あっ、見てないところで呪霊祓っちゃったんですけど、これって査定的には大丈夫ですか?」

 

「そんなことはどうでもいいです!それよりその血、大丈夫ですか!」

 

 随分焦っている。なんでだ?と思いながら、自分の周囲を見渡す。

 なるほど、周囲が血で赤い沼みたいになってる。こんだけ血を流してれば心配にもなるか。

 

「あー、たぶん大丈夫です。骨で塞いでるんで」

 

「大丈夫じゃないでしょう!出血が止まっていても流した分は減らないんですよ!早く高専に戻って治療しなければ」

 

 どうやら五阿弥さんに大分心配をかけてしまったようだ。正直、このくらいなら全然平気なんだけど、取り敢えずは言うことを聞いておこう。

 

「はい、じゃあ高専に帰りましょっか」

 

「本当に大丈夫ですか?肩を貸したりは?」

 

「いやいや大丈夫ですよ」

 

「でも降りた穴を昇らなきゃいけないんですよ?」

 

「いやその必要はないです」

 

 俺は鎧を延長して足元に骨のカーペットを作る。

 

「乗ってください」

 

 五阿弥さんは訝しみながらも乗ってくれた。

 

「地上へ参りまーす」

 

 カーペットから下に足を生やす。足をぐんぐん伸ばしてカーペットを地上まで押し上げる。

 

「はい、着きました」

 

「なっ」

 

「ほら降りてください。骨砕いちゃうんで」

 

 自分の鎧から足場を切り離す。ついでに鎧も崩す。五阿弥さんが骨カーペットから降りたのを確認してそれを崩す。骨密度を極端に小さくすることで負荷に耐え切れなくなった足場はバラバラになって崩れる。

 

「それじゃあ車までもどりましょうか」

 

「え、えぇ。そうしましょう」

 

 森の中を戻る途中はあまり会話がなかった。独断専行が不興を買ったのだろうか?任務はしっかり果たしたとはいえ、それは彼女が見ていないところでだ。合格をくれるといいのだが。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「お疲れ様です」

 

 帳を抜けると鳴宮さんが出迎えてくれた。……もしかしてずっと立って待ってたの?いや、たまたまだろうけど。

 俺の血だらけの制服を目にして最初はぎょっとしていたが、すぐに表情を戻して慇懃な態度で出迎えてくれた。すげぇ真面目な人だなぁ。

 来た時と同じように車に乗った俺たちは高専への帰路についた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「勅使河原さん。あなたに謝罪しなければならないことがあります」

 

 高専に到着し医務室で家入先生の治療を受けていた俺に、五阿弥さんは突然頭を下げた。

 

「えっ、何がですか?むしろ俺の方こそ謝りたいことありますけど、五阿弥さんに謝ってほしいことなんてないですよ?」

 

「いいえ、私にはあります。まず一つ、任務が想定以上のものだったことです。今回、貴方は二級案件として派遣されましたが、実際には手に余る一級以上の案件でした。私たちは、初めての任務で貴方が本来負うべき以上の危険を与えてしまいました。高専に所属する者として謝罪させてください。申し訳ございませんでした」

 

「い、いや、そんなこと言われても。五阿弥さんだって被害者ですし、実際に相対しなきゃ誰も分からなかったじゃないですか」

 

「それでも、です。そして次に、貴方を見捨てたことについてです。私は貴方が領域に取り込まれた時点で、自身の手に余る案件だと判断しました。そのため、貴方が敗北し領域が解かれた後に術式が使用できない呪霊を祓除することに決めました。貴方を捨て駒にしたのです。その判断に間違いがあったとは思いません。しかし、それで許されることでもありません。本当に申し訳ございませんでした」

 

 驚いた。本当に驚いた。彼女がそこまで深刻に考えていたとは思わなかった。帰り道で彼女が暗い顔をしていたのはそういう理由だったのか。

 正直俺は、領域展開が雑魚相手で体験できてラッキー程度にしか考えていなかった。必中必殺は一度は体験しておきたかったし。

 二級案件じゃなかったことについても、その分手当が増えるなら別にって感じだ。日下部さんから二級の実力はあるとお墨付きをいただいてはいたが、それなら全力で戦えば一級も余裕だなとは思っていた。それが今回当たってたので、答え合わせできてよかったとすら思ってる。結果論であるとは思うが。

 

「俺は本当に気にしてないですよ」

 

「謝罪だけで済ませるつもりもありません。誠意とは行動が伴ってこそだと私は思うので。何か要望があればおっしゃってください。私の力の範囲でしたら何でもします」

 

「いや、何もいらないですよ」

 

「やはり金銭でしょうか?どれ程の額をご所望でしょうか?やはり命の額ともなるとそれなり以上の金額が」

 

 この人話聞かねぇな。最初は真面目で清楚なクールレディって感じだったのに、今はもうオタクもかくやの早口だ。

 

「本当に何もいらないです」

 

「そんなことを仰らないでください。貴方に何かを返せなければ私の気が済みません」

 

「あー、あー、じゃあもういいです。わかりました。連絡先ください、連絡先」

 

「はい?」

 

「LINE教えてくださいよ。美人な女性の連絡先持ってるて言えれば中学の友人に自慢できるんで」

 

 噓だが。友人なんかいないが。

 

「······えっ、あ、はい」

 

 なんか急に大人しくなったな。金も手間もかからずに済んでラッキーじゃないのか?そんなに俺に連絡先知られるの嫌か?

 

「······あの、こちらです。どうぞ」

 

 五阿弥さんがスマホを見せてくる。QRコードの画面が出ていたのでそれを撮って、ともだち申請をする。すぐに承諾されて、俺の数少ない友達リストの欄に五阿弥の三文字が並ぶ。LINEのアカウント名苗字なのね。俺と逆じゃん。

 

「はい、これでお詫びは頂きました。これでお互いしこりなしですね」

 

「は、はい。ありがとうございました」

 

 五阿弥さんはそう言うと足早に医務室から出て行ってしまった。嫌われてしまっただろうか?

 

「君、悪い男だね」

 

 部屋の脇に座っていた家入先生が声をかけてきた。

 

「悪いって、何がですか?」

 

「そりゃ今の口ぶりがさ。『きみ綺麗だね、連絡先ちょうだい』なんて今日日ナンパでも言わないよ。箱入り娘にそんなこと言うなんて罪な男だよ、君は」

 

「いや、あんなの社交辞令でしょ」

 

「おや噓だったのかい?益々悪い男だ」

 

「いや噓ではないですよ?でも普通褒められるても社交辞令だと受け取るもんでしょう」

 

「そうかね、彼女はそうは思わなかったようだけど」

 

「いや、それはないでしょう。逃げるように帰られましたし」

 

「いいや、あれは足取りが軽いっていうのさ」

 

「はぁ」

 

「この業界、出会いも少ないからね。粉かけられたらそういう意図だって思っちゃうのさ。命の恩人なら悪い気もしないだろうしね」

 

「揶揄うのはやめてください」

 

 がらん、と医務室のドアが勢いよく開かれる。

 

「おっかえりー。報告は聞いてるよ。災難だったね鏑」

 

 下手人は五条先生だった。

 

「聞いてよ五条。さっきさ、鏑が引率だった術師口説いてたんだよ」

 

「えー、何それ!」

 

「あー、面倒くさ。俺もう部屋戻ります」

 

「逃げんなよ鏑」

 

「戦略的撤退ですー。デマには無視が一番ですからー」

 

 そそくさと荷物を纏めて部屋を出ようとする。

 

「領域展開。どうだった?」

 

 五条先生が楽しそうな声で聞いてきた。

 

「······まぁ参考にはなりました。相手が弱かったので勝つことはできましたけど、もっと相手が強かったら死んでたかもですね」

 

「そっか、それじゃ覚えなきゃね。結界術」

 

「はい。当然」

 

 医務室を出た俺は寮の自室へ向かった。

 今日は疲れた。暫く任務もないだろうし、ゆっくり休もう。

 

 ピンポーン

 

 スマホからLINEの通知が流れた。

 開いてみると、五阿弥さんからのものだった。

 内容は俺への謝罪と感謝、それからまたいつか会いたいといった内容だった。

 

 ······俺は中学生まで交友関係がほとんどなかったから分からないが、また会いたいですっていうのは社交辞令の範囲なのだろうか。もしかして本当に俺がナンパしたと思っていて、それを受けることでお詫びにするつもりなのだろうか。

 そうだったならマジで怖い。やらかしたかもしれない。

 確証がないから否定もできないし、聞いてみて違かったら羞恥に耐えられそうにない。結局俺はそのLINEに当たり障りのない返答しかできなかった。




    名前:五阿弥羽澄
    年齢:23歳
   誕生日:1月8日
    術式:釈薄呪法
    趣味:読書
好きな食べ物:フルーツ
苦手な食べ物:酒
  ストレス:親戚
  家族構成:祖母
 最近の悩み:出会いがない

 過去に途絶えた五条家の傍流、五阿弥家の出身。祖母の一つ上の代で途絶えて、一般の家庭になっていた。
 幼少期から呪霊が見えており術式も自覚していたが、他者にそのことを告げないまま成長したため高専には通っていない。大学生の際に祖母と一緒にいたところを呪霊に襲われる。それを祓ったことで祖母に呪術師としての素養が知られた。
 祖母は呪術界のことを知識と知っており、祖母経由で五条家に繋がる。五条悟の支援の下、現在呪術師の勉強中。
 二年ほどで二級に昇格してるできる子。
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