三層に着いて初日の夜、ギルド設立クエストの方はまだ進行は半分といった所だがそれを中断するに値する事態になった。
理由は黒ポンチョ捜索に当たっていたイスケ、コタローから遂に黒ポンチョ男を発見したとのメッセージが届いたのだ。ズムフトの転移門を見張っていたコタローが発見したらしい。
男はそのままフィールドの方に向かっているらしく尾行を続けているとのことだ。
本来は名前を知ることで十分だったのだが辺りを気にも止めず歩く様子に何か目的があるように感じたらしい。
連絡を受けた俺はナーザ達には宿屋で待機するように伝え、コタローの待つ場所へと向かった。
残念ながら俺やコタローの隠蔽スキルではあまり接近できないので遠目に姿のみの確認しかできないが、イスケは既に隠蔽スキルを350程まで上げているのでほぼ確実に声を聞き取れる位置まで近づいているだろう。
イスケはゲーム開始時から最優先で隠蔽スキルを鍛えてきている。恐らく現状ではこのゲーム内でイスケの隠蔽を見破る程まで索敵が上がっている者は居ないだろう。
コタローに案内された場所から約50メートル程離れた森の中に黒ポンチョの男が立っていた。
そして俺達が着いた後数分で3人のロングフードコートを来たプレイヤーが森から出てきた。
フードコート自体はアスナが着けているものと同系統と思われるが丈が長く、足首まで隠されているせいで性別すらわからない。
奴らが合流して数分はたった。一応俺も聞き耳はたててみたもののやはりシステム上の限界を離れるとまるで聞こえない。
……これはイスケに期待するしか無さそうだ。
そう考えているといきなり上から特に変装もしていない女の子が落ちてきた。
刃が肉厚で大きめの槍を持った少女は彼らを見て急に逃げ出そうとしていたが黒ポンチョの男以外の三人が少女より早く辺りを囲み動けなくする。
そして囲っていた1人がメニューを動かすと少女の前にもウィンドウが現れた。……恐らくデュエル申請だろう。
少女はそのデュエルを受けると残りの二人はその少女を解放した。
流石に初撃決着モードだろうが……。
そう考えているとメッセージが届く。イスケからだ。
《あのデュエルは半減決着、男達には殺害の意志があるように思う。お頭の指示を請う。》
《イスケの存在を奴らに感づかれたくはない。俺が介入するから介入し次第その場から離脱し鼠に連絡を入れろ。》
俺はメッセージを打ち込むと最速でその場へと乱入する。
デュエル自体は一方的な展開だった。少女の相手は典型的な片手盾、片手剣だったのだがプレイヤー同士の戦闘に慣れているのが明らかに見て取れる。
俺が乱入したのは少女が木に衝突して倒れた所に男がトドメのソードスキルを発動した所だった。
俺はソードスキルの力の方向を飛び込みざまにそらし空振らせ、少女を抱えて後ろに追随してきていたコタローに投げ渡す。
「あれあれぇ~?攻略組のアオシさんじゃないですかぁ~。何でこんなところにいるんですー?」
「近くに来たら戦闘音が聞こえたのでな。おまえ達はいったい何をしているんだ?今のは明らかに勝負がついていただろう。」
「いえいえ~勝負がつくのはこれからですよぉ~……ほらぁ。」
少女と男の間に現れたのはドローの文字。時間切れと言うことだ。
「ならばもうこの少女には用はないだろう?」
「いやでもぉ~、こんなに暗いと危ないですしぃ、僕達がつれていきますよぉ~。」
「ふむ、任せるのも吝かではないのだがな、せめておまえ達4人の顔と名前は控えさせて貰わねばなるまい。……そうあからさまに怪しい格好をされてはな。」
俺の発した顔と名前を明かせという発言に先程までへらへらとはなしていた男が黙る。
「Hei、そんな女はほっておきな。いくぞ。」
黒ポンチョの男の声はなかなかに響きの良い澄んだ声で先程のへらへらした男のような不快感は全く感じさせなかった。
そして男の合図で後ろの2人が闇に消え、へらへらした男も消えようとする。
まずい……せめて名だけでも……
とっさに閃いた俺はメニューを呼び出し黒ポンチョにデュエルを仕掛ける。
結果、黒ポンチョの名前は分かった
《PoH》
それが俺が最も危険と判断した男の名前だ。
恐らく奴はデュエルを断り去っていくのだろうがこれである程度の対策はとれる。
《デュエルは半減決着で受領されました。デュエル開始60秒前》
「何だと……?」
「Hei、なんだい兄ちゃん、そっちからふっかけてきたんだろ?しっかり相手してやるぜ?」
好都合だ。ここで奴の足を切り落とし尋問して必要であれば殺す。
やがて二人のカウントは5秒前へなる。
5
4
3
2
1
「イッツ・ショウ・タイム」
0
PoHはカウントが0になるほんの少し前には既に動き出していた。
そのポンチョにかくして持っていた大型のダガーをソードスキル発動待機状態にしていたのだ。
元々がそこまでの距離ではなかった上しっかりとブーストされたダガーの刃が俺の首を最短で狙ってくる。
俺はとっさに前へと踏み込みその腕に体術スキル“閃打”を下からかち上げるように放つとダガーは軌道を少々ずらし、俺の頭上を多少髪の毛を巻き込みながら通過する。
その隙にこちらも曲刀を振るおうてして急遽その軌道を変更せざる負えなくなった。
ダガーはライトエフェクトを絶やさずに今度は右肩から左足を通るであろう剣筋で振るわれたのだ。
俺はそれを曲刀で受けるもソードスキルの威力に押され数メートル飛ばされる。
斬撃そのものは防いだというのにダメージが貫通し、数%程HPが減る。
「ほう。今のタイミングを防ぐのかい。なかなかやるじゃねぇか。」
「貴様……。」
今度は俺の方から仕掛ける。この世界に来てから初の使用となるプレイヤースキル“流水の動き”を使用する。緩急を着け相手の目を惑わしながら徐々に距離を詰めていく御庭番衆式の技だ。
「ほぉ……なかなか面白い動きじゃねぇか」
何体もの残像がPoHを囲む。そして背後から首筋に向かい曲刀を振るった。
「甘いねぇ……そこでソードスキルを使えばダメージは通ったのになぁ!」
PoHはダガーで曲刀を防ぎ更に反撃を放つ。しかしその反撃は俺の残像を斬るだけでダメージにはならなかった。
「Hei、逃げてばかりじゃ勝負になんねぇぜ?」
「気にするな。時間はたっぷりある。」
俺は再度流水の動きでPoHを囲む。
そして周りを何人ものアオシが動き続けた。
その状態が10秒程はたっただろうか。PoHはようやく異変に気付いた。HPが一割程減っているのだ。
「shit!!」
PoHはその場から即座に離れ俺の様子を見ている。
「なるほど、動きながら曲刀を当たらせてやがったのか!ペインアブソーバーを利用しやがるとは!THE YELLOW MONKEY如きが!shit!」
いくら悪態をつこうが状況は変わらない。奴は俺をとらえられず俺は徐々に奴のHPを削れるのだ。
奴は何を懐に手を入れたと思ったら何かをこちらに投げてきた。
それは即座に破裂し辺りを煙が包む。
やがて俺ねHPバーの横にアイコンが付いた。……毒だ。
俺は即座にベルトポーチから解毒ポーションを取り出した。……その一瞬の隙をPoHはねらったのだと気付いた時は遅かった。
常に警戒はしていたつもりだったが奴は毒煙で姿を隠しながらソードスキルを発動させていたのだ。
俺を襲った三本の光のうち二本が俺の身体を斬り裂く。
痛みこそ無いがごっそりとHPを四割程を削り取ったそのソードスキルを受けた俺は今度はかなり吹き飛ばされ後ろの木に背中を強打し更に数%ほどHPを削り取られた。
「ハッ!どうしたどうしたぁ!?THE YELLOW MONKEY!もう一撃で死んじまうぜぇ?」
「まだ勝負は着いていないだろう。もう今のような手は効かん。俺を“殺す”気ならば毒霧ももう使えまい?」
「ふん。この状況から逆転出来ると思ってんのか?なめられたもんだぜ。」
PoHは即座に俺に肉薄し距離を詰めつつソードスキルを連発してきた。
上手く硬直時間に反撃出来ないように計算された攻撃には素直に感心するが俺が警戒せねばならないのは先ほどの3連撃のソードスキルだ。あれ以外は恐らく奴は避けられるのを計算に入れて攻撃しているのだろう。
そして俺がソードスキルを使用した事がないという情報も知っていると見て間違いあるまい。
こうして剣を交えればある程度人となりはわかってくるものだが奴からは侮蔑や殺意こそ伝わるが覚悟は伝わってこない。
……つまり奴はいちいち命のやりとりなど行う気は無く自分が安全に殺すことを目的にしているのだろう。
ならばまずはその自信を崩してやる。
そう考え、今まで見てシュミレーションしていた曲刀基本技“リーバー”を放つ。
多少驚いた様子が見られるが流石に危なげなくかわされたが奴は一気に距離を取った。
「おいおい……ソードスキルは使わないのがポリシーだったんじゃねぇのか?」
「ポリシーだなどといった覚えはないのだがな。そんなことよりもそんなに距離をとっていいのか?」
言いながらも既に流水の動きに切り替え奴を取り囲む。
「shit……仕方ねぇな。」
奴はダガーを構えたまま力を抜く。
油断は出来ない。今の俺のHPならばかするだけでも負けるが……。奴は隙を見つければ命を狩りに来るだろう。
しかし……
奴の背後、そこを通るときに発動させる。
御庭番衆式小太刀一刀流《回転剣舞・朧》
三本の剣撃が背中と両側面を斬るように走るこの技は流水の動きの中で放つことで威力こそ落ちるがかわすことはかなり難しくなる。
そして実際に奴のHPバーは五割をぎりぎりの所で割らない位置で停止した。
囲むように放った斬撃の衝撃波はPoHの身体を軽く持ち上げその場で転倒させたが奴は即座に起きあがってくる。
「……Hei、今のソードスキルは何だよ?曲刀にあんな技は無かったはずだぜ?」
「わざわざ敵に手の内をさらすわけがないだろう?貴様に教えてやるのは今のが俺のソードスキルで一番弱い物だと言うことだけだ。」
俺のセリフを聞いて奴から明らかに余裕が無くなっていることが見て取れた。
しばらく睨み合うと奴は何を考えたのか急に両手を広げる。
「ハ、つきあってらんねぇな。……リザイン。」
デュエルの勝敗が表示される。奴はダガーを指先でくるくると回すと腰のホルスターに収めた。
「お前の名前と顔は忘れねぇぜ。いつかぶっ殺してやるから楽しみにしてろや。」
PoHはそう吐き捨てると闇の中に消えていった。
俺はそれを黙って見送る。正直このままデュエルを続けて奴が本気で殺す気になっていたらどうなっていたかわからない。
流水の動きや他の技もだが一度みた技に対しての受けの構えが変わっていたのだ。恐らくは対応してきただろうな……。
「……奴とは長いつきあいになりそうだ。」
俺はその場にしばらく残り奴のカーソルが俺の探索範囲外に消えるのを確認してから主従区ズムフトへと足を進めた。
久々に疲れを感じる……。
回復ポーションを飲みつつも今後を考え、イスケの得た情報を確認した後、アルゴに協力を依頼して情報を共有した方が良いだろう。
問題は攻略組に紛れ込んだ鼠をどう炙り出すかだな。
宿屋に着くとどうやら既に到着していたらしいイスケとアルゴが俺を出迎えた。
コタローに任せた少女も目を覚ましたようでナーザ達と宿屋の大部屋で待っているらしい。
大部屋に着いた俺は今回の事の顛末を話、PoHについては最大限の警戒をするように伝え、イスケからの情報を合わせた。
どうやら奴らのうち3人が攻略組に紛れているらしい。
そのうち2人は二大勢力になりつつあるリンド率いるドラゴン・ナイツとキバオウ率いるアインクラッド解放軍にそれぞれ二層結成時から紛れ、ボス戦での壊滅やレアアイテムの情報漏洩を主にしているらしい。
そして残る一人、へらへらした男らしいがそいつはこの三層から始まる大型キャンペーンクエスト中に両陣営が殺し合うように仕向けるつもりのようだ。
後、得られた情報は個人として奴らが上げた名に知っている名前が多々あったことか。
《ビーター》キリト、《お姫様》アスナ、《巨漢》エギル、《鼠》アルゴ、そして……《柳》アオシ
ちなみにキリトとアルゴ以外の通り名はほぼ聞いたことがないが奴らが勝手に付けているのだろうと納得しておく。
この五人に関しては上手くMPK、もしくはデュエルに持ち込みたいと言っていたそうだ。
これはデュエルについてもアルゴに危険性を広めて貰わねばならないな……。
とりあえず全員が状況を認識したがやはり攻略組にいる間諜については秘匿した方が良いだろう。
それとなくリンド、キバオウの両名にだけは伝えなければならないだろうが……。
問題はデュエルのようなプレイヤー同士の戦いについてだ。
基本的に今はデュエルを受けさえしなければ問題はない。
奴らも犯罪者色であるカーソルオレンジにはなりたくないから色々と回りくどい事をしているのだろうから。問題は奴らがそれを気にしなくなったときだ。
パーティーをフルで組み続けるならばともかくソロやコンビ、攻略組以外の駆け出しプレイヤー等も対応仕切れなくなる可能性が高い。
早々にコペルとも連絡をとって対人戦闘を慣れさせる様にした方が良いか。
まだ第三層、先は長いというのに……今更ながら今日仕留めておくべきだったと後悔する。
……今の日本で暮らして14年、俺も日和ってきているんだな。
最後に助けた少女について話し合った。
少女の名はユキナと言うそうだ。現在レベルは10に上がったばかりでこのあたりでレベル上げをしている所、足を踏み外して10メートル程上の崖から落下。岩壁や木を使ってどうにか事なくすんだと思っていたのに奴らに襲われるハメになったらしい。
またイスケの話では情報漏洩を防ぐために殺される所だったようだ。
ロープで簀巻きにされて放置されるのとデュエルを受けるならばどちらが良いと迫られていたようだ。
彼女についても暫くは1人にはならない方が良いだろうと行動を共にするように伝えると彼女は勢い良く頷く。
……アルゴが色々と言っているが相手をする必要はない。断じて。
やがて夜も更け、今日はこれでお開きとなった。
なんでも明日の夕方には第三層攻略会議があるらしい。
そこまでにはギルド結成クエストは済ませておきたいところだ。
明日からまた忙しくなる。そう考えながらアオシは深い眠りにつくのだった。
原作とは少しずつ変わっていきまして今回PoHさん登場です。口調とか自信ないですけど……。
今後は原作にも関わりますが基本的にはラフコフ(まだ結成前ですが)との攻略水面下でのやり合いを多く描いていけたらなぁと考えています。
駄文でしょうがお付き合いいただけるとうれしいです。
あ、ちなみに今回出てきたユキナは電撃の某監視役を見た目と中身、戦闘スタイルでモデルにしますが別人です。記憶とかは無いのでご了承下さい。