血飛沫が顔にかかる。
俺はそんなことも気にせずに二刀の小太刀を振るい、居間に攻めいって来ていた奴らを斬り伏せ、それには目もくれずに寝室へと駆け出す。
寝室の襖を開くとそこには血にまみれ、床に伏せる女と泣き続ける赤子、そして10人程の日本刀を持った男達が立ったいた。
その光景を見た俺は狂気に身を任せ、男達を斬り続ける。
やがて葵屋には赤子の泣き声以外何も音がしなくなった……。
「……夢……か。」
目を覚ますとそこは葵屋ではなく、昨日泊まったアインクラッド第五層にある宿屋だった。
遥かな昔の記憶。俺は重く感じる頭を無理矢理起こし、一階の広間へと向かう。
何故か再度見てししまった前世の記憶の中で最も思い出したくない記憶。
あの時襲ってきた奴らは京都を手中に治めようと画策していた外国人達だった。
外道な人間達ではあったが明治政府に密接に関わり、政府からの保護が無い状態になった京都は徐々に奴らの良いように遊ばれ何人もの人々が殺されたのだ。
京都隠密御庭番衆は奴らを排除すべく動き、やがて襲撃を受けて俺と息子、そして増以外の全員が殺されてしまった。
そして俺もまた奴らの元締めを殺した時に受けた銃弾でその生涯に幕を閉じたのだ。
唯一気がかりだった操紫はどうやらあの後御庭番衆を立て直し、京都で生き続けたようだ。
一階には既に皆が集まっていた。
俺達は先ず武器屋に行き、メタリックアメーバから手に入れた素材を使用してそれぞれ武器を新調し、出来うる限りの準備をした。
……俺は残念ながら武器新調を行わなかった。刀スキルが手に入った以上、刀を手にしてから素材を使用する事にしたのだ。
その後、俺達はティルネルと合流し戦場へと赴く。
そこには何百という黒エルフ達が集まっていた。
俺達はティルネルの案内で司令官の元へと向かい話を聞いた。
《敵司令官フェレストエルヴン・スピアロードを討伐し、ティルネルを守護せよ》
司令官の話では敵の討伐のみだったがクエストログではティルネルの守護も含まれている。
予想の範囲内ではある。恐らくはそろそろキリト達も……。
「姉上!!」
「な!?ティルネル……か!?生きて……居たのか……?」
「姉上、姉上……ようやく会えました……」
「ティルネル……すまない。あの時、お前を護ってやれなかった。だが何故だ?あの時、確かにお前の姿はなかった。薬師の部隊は全滅したと司令官に聞いていたが……。」
「確かに私達薬師の部隊はもうほとんどが残っていません……私も彼女が来てくれなければ死んでいたでしょう。」
ティルネルはユキナの姿を見ながら続ける。
「残った私たちも森エルフに再度狙われるのを避ける為に司令官が存在を隠蔽していましたので……姉上にも連絡できず……申し訳有りません。」
「いや、それはかまわない。お前が生きていてくれた。それだけで私は満足だ。娘よ。名を聞かせてくれ、妹が世話になった。」
キズメルはユキナに向き返り頭を下げる。
「い、いえ!私はそんな……。」
手振りに慌てるユキナに更に頭を下げるキズメル、妹であるティルネルは何故か楽しそうだ。
「キズメル、彼女が困ってるぞ。あと……ユキナさん、だったっけか?今日はよろしく頼むな。」
司令官の部屋の入り口で事の成り行きを見守っていたキリトが間に入り、それに続いて相も変わらずフードケープで素顔を隠したアスナも同じくキズメルに近付く。
「キズメル、あの人の名前はユキナよ。今回の作戦では彼女とあの長身の男の人が私達と共に戦ってくれる仲間よ。」
「アオシだ。よろしく頼む。」
「ユ、ユキナです。よろしくお願いします。」
キズメルはユキナと握手をし、再度礼をいった。
作戦開始前、当初の予定通り潜入する部隊と後方支援(名目上)部隊とに別れ、行動を開始する。
キズメルは後方支援に回るのをなかなか納得してはくれなかったが最終的にティルネルが狙われる可能性を示唆しその護衛についてもらうということで納得してもらった。
そして今、俺達はキリト、アスナと共に敵司令官のいる砦に潜入しているのだが……。
敵がいない。更にこの砦には別れ道すらないようでひたすらに一本道だ。
「妙だな。普通こういったダンジョンには敵がかなり居るし入り組んでいて迷いながら行くもんだけど……。」
「恐らくは本丸用の脱出経路以外は用意していないのだろう。本来城という物は侵入されづらくする物だ。あまりに沢山の出入り口や隠れ場所を作るのはあまり得策ではあるまい。」
「でも……こうゆう造りの砦で敵がいないっていうのは確かに妙なんですよね。」
「そうね。せっかくの侵入者対策何だから沢山の敵を配置した方が良さそうなものよね……でも……逆に考えれば数に頼らない……本当に強いのが居るとも考えられるわ。」
「うむ。恐らくはそうだろな。……広間へ出るぞ。」
広間に居たのは俺よりも更に一回り大きく、全身を鎧に包まれた騎士のようだ。盾と明らかに片手ではなく両手剣に分類されそうな大剣を片手で握っている。
『我、この間を守護する者。人族よ、我の剣の露と消えるが良い。』
固有名《ロイヤルフォレストエルヴン・アーマードナイト》
巨体に似合わぬ素早い動きの重装甲騎士はその剣にライトエフェクトを纏わせ、竜巻のような突きを放ってくる。
俺達は四散してその一撃をかわし、アスナ、ユキナの両名が閃光のような突きを放つ。
その一撃は寸分違わず重装甲騎士に突き刺さった。
しかし……敵のHPはほとんど分からない程度にしか減らず、その上硬直時間が少し長めのユキナに対して追撃のソードスキルが迫る。
その一撃をキリトが3連撃ソードスキル、“シャープネイル”で弾き、その時に出来た隙に今度は俺のOSS(オリジナルソードスキル)、黒いライトエフェクトを纏う2連撃技“後光十文字”を放つ。
この世界、このスキルを手にしてから修得した技は重装甲騎士の胸当てへとその斬撃を放つもやはり対したダメージにはならず、距離を取った。
「堅いな……」
「アオシ、お前ソードスキルを使い始めたのか?」
「この戦闘後に説明する。」
『軟弱な者共よ、我が装甲を貫けると思うな。』
そういい再度竜巻のような突きを放つ重装甲騎士を観察する。確かにほぼすべてを鎧に包まれた堅牢な騎士だが全く隙間が無いわけではない。
辺りを見るとキリト、アスナ、ユキナも頷く。
俺達は重装甲騎士の攻撃をかわし、いなし、弾きながら隙間に対して針を通すような精密な突き技を放ち続けた。
アスナ以外はソードスキルでは狙えないような細い隙間だが、確実な幅でHPを減らしていき、敵のHPもあと僅か一割ほどまで減った。
『おのれ、我を舐めるな!!』
爆散するように剥がれた鎧の中から現れた屈強な肉体の騎士はその剣を両手で握り疾風のような速度で肉薄してくる。
標的は俺のようだ。俺は流水の動きでその連撃をかわし、トドメの技を放つ。
御庭番式小太刀一刀流
“回転剣舞”
一瞬三斬のその技は騎士の残る一割のHPを綺麗に消し切った。
その後も何体かの同じ重装甲騎士と戦闘するも既に弱点がわかった俺達は特に苦戦する事もなく最奥地へと辿り着く。
途中キリト、アスナには俺の持つスキルを説明した。アスナはさほどでもないがキリトの興味は最大に刺激したらしく、修得条件などを事細かに聞いていたが現在検証中であることと、その内容を聞いて流石に諦めたらしい。
今、扉を開いた先に居るた敵エルフは全く鎧を纏っていない。薙刀のような槍を一本だけ持ちこちらをみている。
『……よくぞここまで辿り着いたものだ。だがそれもここまで、我との死合いにて貴様等はその命を散らすがよい。』
槍使いはその場で槍を構え、動く気はないようだ。
『……どうした?貴様等4人纏めてかかってくるが良い。』
キリトが、アスナが、そして俺がそのセリフと同時に掛けだそうとしたがそれをユキナが遮った。
「待ってください。先ずは私が戦います。恐らく範囲攻撃を使うための挑発でしょうから。」
確かにそれはそうだろうが……。とはいえ、そ
「ダメですよ。アオシさん。槍には槍の方が対処出来ますから。……代わりに、もし私が危なくなったら……助けてくださいね。」
俺の考えを先読みしたように告げたユキナの言葉と同時にユキナは一気に槍使いとの距離を積める。
雷のような早さで繰り出されるユキナの連突きに対しても綺麗に対処し、捌く槍使いはその槍の柄の先から更に小さな刃を出し、両刃で凄まじい連続攻撃でユキナに攻めいる。
彼女は槍全体を使いこなしてその乱舞を受けきった。
「両刃の薙刀ですか……。」
ユキナはそうつぶやくとユキナの新調した武器“セッカロウ”(何でも固有名は変わらないらしい)の柄を地面に押し当てる。
肉厚の刃が開き、十字槍のような形に変わった。
「いきます!」
再度突進し連続突きを繰り出した。先端の槍が突き技に、両側に開いた部分は斬撃を生み出す。
一撃が3連撃に変わったセッカロウを使用したユキナの猛攻は徐々に槍使いを追い詰めていく。
『調子に乗るな!!下民がぁ!!!』
槍使いのHPが黄色に入った所で衝撃波が発生し、ユキナが吹き飛ぶ。
敵槍使い、《フォレストエルヴン・スピアロード》はその名を変え《フォールンエルヴン・ロイヤルスピアロード》へと名を変えた。
その容姿も四本の腕にそれぞれ短槍を持ち、二つの顔でこちらを見据える。
「ユキナさん、流石にここからは介入するぞ。あれはプレイヤー独りで対応出来るような相手じゃない。」
キリトがそういうと俺に身を抱かれていたユキナは頷き、立ち上がった。
4人は敵エルフを囲むと一斉に攻撃を始める。
エルフの短槍は凄まじい速さで対応してくるも4人の攻撃もまた更に凄まじい物だった。
キリトの剣が四本の内の一本の腕を斬り飛ばし、アスナの細剣が違う腕の肘を穿つ。そしてユキナの槍が肩を穿ち、俺の曲刀が残る一本の腕を四つに分断する。
そして四人同時にはなったソードスキルがフォールンエルヴン・ロイヤルスピアロードのHPを綺麗に吹き飛ばした。
バカな……。その一言と共に消えた敵エルフ司令官はまるで爆発したかのようにポリゴン片に変わり、それと同時に砦も徐々に崩れ始めた。
俺達は即座に来た道を全速力で駆け抜ける。恐らくは探せば抜け道を見つけられる可能性は高いだろうが探すよりも全力で駆け抜ける方が恐らくは早いだろうという判断だ。
やがて出口にさしかかり、俺達は勢いよく飛び出すと眼前に広がった光景は気持ちの良い物だった。
数多くの黒エルフ達の歓喜の声と仲間達の出迎えを受けて俺達は黒エルフの司令官の元へと向かった。
どうやら第五層の翡翠の秘鍵のイベントはこれで終わりらしい。
キズメルはティルネルと共に三層、四層で手に入れた秘鍵を上層に運ぶべく、またも黒エルフ専用のゲート霊樹の門を使用して上層へと上がっていった。
俺達はそれぞれが報奨を貰い、またしてもボスの情報を貰った。
第五層フロアボスは《グラボイズ・ザ・ワームロード》というらしく音に反応する地底生物型のボスが三体らしい。
基本的には無敵となる地中に居るらしく足音などに反応して地中から攻撃してくるらしい。
対処方は攻撃された時に一定以上のダメージを与えることと、HPが少ないときは動かないことらしい。
尚このボスはHPが黄色になると身体から三体の地上型mobを産むらしく、そいつ等にプレイヤーがやられると取り巻きが一気に増殖するので注意が必要との事だった。
報奨の品の方は皆はブーツや隠蔽効果の高いマントなどを選んでいた中、俺は一振りの武器に目がいった。
正確には二種類存在したがその内の片方、《小太刀・小狐丸》を選ぶ。
とりあえずは今まで使用していた曲刀を使用するが今日からは刀スキルの方も熟練度を上げねばなるまい。
全ての工程を終えた俺達は主従区に戻り、今回得た情報を攻略会議にて皆に伝える。
今回はレイドの平均レベルの底上げをするとの事で、すぐにはフロアボス戦は行われなかった。
また、刀スキルの修得条件もアルゴを通じて流し、俺達御庭番衆は奴の……PoHの捜索を最優先にする。
今回、レイド人数の上限が二レイド分になり、俺達のギルドは全員が参加する予定だった。
そう、奴の手掛かりがフロアボス戦直前で見つかったりしなければ……。
フロアボス戦予定日、それもフロアボス戦討伐隊、集合一時間半前にアルゴから情報が入ったのだ。
《第三層のはずれの村付近の森の安全地帯にモルテの姿が確認されたゾ。一応知らせておくが無茶をしたりはするなヨ》
その情報を手にした俺は迷う事無く第三層へと向かおうとする。
御庭番衆の者にフロアボス戦をしてもらえば問題は有るまい。
そう考え、皆にそのことを伝える。
ほとんどの者は了解してもらえたが二名が反対した。
ユキナとナーザだ。
2人は俺が単独で動く事を良しとせず、自分達も連れて行くように言い出す。
とはいえ二人も連れていくとイスケがボス戦に参加できない以上ギルドメンバーの人数がフルパーティに届かなくなってしまう。
俺がその旨を伝えるとナーザはならばユキナだけでもと言い始めた。
ユキナもユキナで譲る気は無いようだ。
事実、対人戦に対しては俺をのぞけばユキナは最も強いだろう。
レベルこそギルド内ではイスケの次に低いがそれでも23はある。
引く気の無い2人の意見に俺は根負けしてユキナの同行を認めた。
~第三層~
アルゴから細かな話を聞いた俺は第三層メノウ村に付き、周囲のフィールドを探索し始めて1時間程たつ。つい先ほどナーザから第五層フロアボスを犠牲者0で撃破したとの報があった。
この近辺では次の村の宿屋に近い安全地帯が最後になる。……取り逃がしてしまったのだろうか……。
そう考えて居たときだった。剣と剣がぶつかり合う音が聞こえ、その足を早めて安全地帯に入った。
そこではコイフを被ったプレイヤーが他のプレイヤーに今まさにトドメとなるソードスキルを叩き込む瞬間だった。
俺がそれを確認した瞬間、ソードスキルを叩き込まれたプレイヤーの身体がブレてポリゴン片に変わり弾け飛ぶ。
コイフを被ったプレイヤー、モルテはその瞬間とても楽しそうに笑っていた。
爆散したプレイヤーの残滓が消えるとモルテの前にはWINの表示が現れる。
モルテは俺達の存在に気付くとニヤニヤしながら話しかけてきた。
「あれあれぇ~?誰かと思えば攻略組のアオシさんにユキナちゃんじゃないですかぁ??こんな所でなにしてるんです~?」
「あ、あなた、今、何をしたのか分かっているんですか!?他のプレイヤーのHPを0にするなんて……この世界ではHPが0になったら現実で死んでしまうんですよ!?」
「やだなぁ~事故ですよぉ?ここに来たプレイヤーさんと訓練してたら誤って全損しちゃっただけで故意じゃないに決まってるじゃないですかぁ~。」
モルテはそう言いながらポーションを飲み始める。HPの確認は出来ないが無傷ではなかったのだろう。
「なるほど……あくまでもお前の言い分は事故だと言うのだな。だがならば何故人を殺してそんなにヘラヘラとしている。後悔が有るようには見えぬが……。」
「自分、前向きがモットーなんでぇ。それに……茅場が死ぬって言っただけなんでぇ~本当に死ぬかはわからないですよねぇ~?実際。」
「……そうか。ならば無論俺ともデュエルを出来るな?」
俺はそう言いながら奴に完全決着のデュエルを申し込む。
「やだなぁ……完全決着なんて怖くて自分受けられないですよぉ?それにぃ、攻略組の中でもトップクラスのアオシさんに攻略を途中棄権した自分が勝てるわけ無いじゃないですかぁ。だからこうしますよぉ~。」
奴はデュエル申請を断ってきた。とはいえこのまま逃がすわけにはいかない。どうにか奴を捕らえるなりしなければ……。
「アオシさんの相手はぁ……この人がしてくれますよぉ?ま、完全決着なんてのは誰もやっちゃくれませんけどねぇ?」
そういうモルテの背後から、肉厚で刀に近い形状の片手剣を持った、同じくコイフを装備したプレイヤーが現れた。……恐らくは隠蔽スキルで隠れていたのだろう。
「ウフフ……これは確かにフロアボス戦を蹴って来た甲斐がありそうだ。いいのか?モルテ、こんな上等な獲物達貰っちまってよ。」
「そりゃそりゃもうもう。どーぞどーぞですよぉ。ジンさんは自分より強いですからぁ。楽しい相手はゆずらないとぉ。」
現れたのは……攻略組、リンドのギルド、ドラゴン・ナイツ・ブリゲード所属のジンだった。
ジンは現れてから俺達には話しかけることもせずにデュエル申請をしてくる。
モードは自由。
半減決着モードで返すとジンは不敵に笑いながら剣を構えた。
俺は武器を曲刀から小太刀に持ち帰ると奴の身体の動きに集中する。
ジンの構えは無形の位。にもかかわらず隙らしい隙は見えず、初手は全くといっても良いほどに読めない。
デュエル開始のカウントが0になる前に奴は駆け出し、その剣を突き出してくる。とっさに横にかわすも、まるで読んでいたかのようにその剣筋を横薙に変え、それをギリギリの所でかわした所でちょうどデュエル開始のウィンドウが目の前に現れる。
距離が近いが故だろう。視界のほぼ全てに現れたウィンドウは、一瞬とはいえ俺の視界を遮る目隠しになり、ジンの剣にライトエフェクトが着いたことに気付くのが遅れた。
その結果、ウィンドウが消える刹那で俺の身体を三本のライトエフェクトを纏った剣が襲い、一気に四割近くのHPを削り取られてしまった。
「ウフフ……攻略組で黒の忍と呼ばれているアオシとはこの程度の実力なのか?」
一旦距離を取った俺に対して話しかけてくるジン。……黒の忍か。柳とかいう通り名よりはマシだが誰が言い始めたのかは気になるな。
返答をしない俺に対し、尚も責め立て始めたジンだが初撃以外は5分、10分たっても追加でダメージを与える事はなかった。
「……一つ聞きたい。お前は奴が……いや。奴らが何をしているのか分かっていて手を貸しているのか?」
「ウフフ……ようやく話したな。知らんよ。興味もない。俺は人を斬れればそれで満足なのさ。その先に有るものなど興味をもてるはずもあるまい!」
急に俺から距離を取ったジンは剣を目の前に掲げて声を出し始める。
「我……不敗也!我……最強也!我…………無敵也!!」
そのつぶやきに呼応するかのように奴の筋肉が隆起していく。
これは……二階堂平法・心の一方か!?
俺の記憶では確か既に断絶した流派のはずだが……しかし、奴の身体を見る限りきっちりと術は成功している。
流石にゲーム世界で実際に筋力や速力が最大値を越えることは無いとは思うが100%能力を使いこなす事は充分あり得る。
そう考えた俺は奴の動きに最大限警戒した。しかし、次の瞬間奴は俺の目の前まで移動し、その剣を振り下ろした。
かろうじてかわした俺は戦慄を覚える。
確かに奴の一撃はライトエフェクトを纏ってはいたが、その威力は地面を穿ち、かなりの粉塵が巻き起こす程の物だった。
砂煙で姿を隠したジンは次の瞬間、またもや目の前に現れ、まるでアスナのリニアーのような速度で横薙の一撃を放つ。
俺は小太刀を使いその一撃を受け流すと出来た隙に即座に回転剣舞を放……とうとしたところに奴の剣が先程とは逆の手で放たれ、一撃を肩に受けてしまった。
ソードスキルではなかったが故に被ダメージは一割に届かない程度では有るがギリギリ勝敗が決しない……つまりは奴らにはPKを狙えるベストポイントに
なってしまった。
「ウフフ……どうだ?黒の忍、次に食らうのがもしも大ダメージを与えるようなソードスキルならばお前は死ぬぞ?ウフフ……ウフフ……ウフフフフ。」
「ふむ……確かにそうだが……だからどうした?ならば食らわねばよい。そして同じ条件に持っていけば良いのだろう?」
俺はそう言うと小太刀を逆手に構える。
そして流水の動きを併用して一気に攻め立てた。
最大まで加速された速度の移動をしながらも奴の瞬きの瞬間を狙い奴に肉迫する。奴がそれに対して攻撃を放つもその全てを小太刀で受けつつ空いた手で体術を放つ。
御庭番式体術・三角突き
拳に黒き光を纏う拳撃は奴のライフを一割ほど削る。
更に逃がさないと言うかの如く肉迫し続け攻撃を続る。
奴はなんとか対応しようとするが、そもそも奴の使った心の一方と変わらぬ身体能力を発揮できる俺とでは実戦の経験そのものが違うのだ。
奴の動きに慣れた以上、この結果は必然で有り。例え再戦しようとも現状ではもう二度と攻撃は当てられないだろう。
そして約一分後、デュエルは決着が着いた。
「ち……奴は逃げたか……。まぁいい。貴様にはきっちりと説明してもらうとしよう。この世界に痛みがないとて拷問をする事は出来る。」
「ア、アオシさん、拷問って……。」
俺は奴に着いてくるように促すとユキナと共に歩き出した。
トストス……
背を向けた俺達は一気に身体の力が抜けたようにその場に崩れ落ちる。麻痺毒のようだ……。
「くふ……うふふふふ。油断大敵だぞ。黒の忍。オレンジになっちまったが仕方ねぇ。先ずは俺に恥じかかせてくれたお礼にてめぇの目の前でその女、殺してやるよぉ!」
奴は血走った目でユキナをみると剣にライトエフェクトを纏わせ一気に突っ込んでくる。それを見たユキナが小さく悲鳴を上げたのと同時に少し重い物が地面に落ちる音と水のような物が吹き出す音が辺りに響く。
御庭番式小太刀二刀流
“陰陽交叉”
俺は小太刀と曲刀、その二振りの刀を使って奴の首を落とした。
本当ならば奴が投げたビックが刺さったフリをして取り逃がしたように見せかけ、奴らの頭であるPoHの下に案内させるつもりだったのだが……。
よりにもよって狂いだした上に俺ではなく、ユキナに攻撃を使用とするとは。
そう考えているとき、背後からプレイヤーが近付いている事に気付いた。
未だ麻痺の解けていないユキナを抱え後ろを確認すると野武士のような顔をした男性プレイヤーのその顔を見る。
男はその顔に困惑と疑念、それが8対2程で混じっているように見える。
俺は男の顔に見覚えがあった。確か……始まりの街でキリトと共に広場から抜け出た男だったはずだ。
……面倒になりそうだ。ユキナを連れ、退散するか……。
俺はそう考え、ユキナを抱えてその場を立ち去る。
一度だけ小さく声をかけられたが、追いかけてまでは来なかった。
そのまましばらく歩き、メノウの村の転移門へと向かうのだった……。
次話、MORE DEBAN組のお話になります。