前話、アスナの決意のキリトサイドになります。
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※10月7日修正済み
第九層、翡翠の秘鍵の最終ボス戦。
あの時、俺は彼女を失うところだった。もしも彼が介入してくれなければ彼女は死んでいただろう。
そろそろ潮時と言うことかな……。
第三層でも感じた別れをしなければという思いが強くなる。
あれから進むこと七層。もう俺の知識は役には立たない。
今後は命の危険も増えるだろう。これ以上、彼女と共にいる資格など俺には無いのだ。
彼女はきっと大きな存在になる。あの剣技、観察力、そして何よりも人を導けるだけのカリスマ性が在るのだから……。
「なぁアスナ?」
「?どうしたの?急に真剣な顔をして……。」
彼女は怪訝な表情をこちらに向けている。以前から彼女は解散に繋がりそうな会話を振られるとこうゆう表情になる。
俺はその表情は出来れば見たくはなかった。だから今まで明言まではしてきていなかった。でも……
「俺との2人のパーティーはこの層で解散しよう。」
無表情……いや、少しだけ陰りのはいった表情で彼女はゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……別にアナタと私はお互いソロだものね。……でも……理由……聞かせてくれるのよね……?」
前半は何度か聞いた調子の声、なのに後半になるにつれて弱々しくなり、消え入りそうな程に小さな声が耳に届いた。
心が揺らぐ。彼女を強く鍛え、護りたいと思っている気持ちが強くなる。
しかし……もう後には引けない。彼女だけは……俺自身のことよりも強く、死んで欲しくないと思っているのだから
「この層からはmobに巨大なのが増えるんだ。つまり、コンビで狩るのは効率が良くない。……それに君はやっぱりギルドに入った方がいい。君の力は集団を率いてこそ発揮されると思う。」
「それ、別に私とアナタが一緒に行動しない理由にはならないわよね?私、気に入らない人の下に付きたくはないの。アナタがどうしてもって言うなら私は1人で良い。」
それじゃだめなんだ……。君には生き残って欲しい。
その為には、君をパートナーにし続けるわけにはいかない。そしてソロになんてさせて良い訳がない。
「……頼む。1人でなんて言わないでくれ。もちろん俺も一緒に探す。前にも言ったろ?俺は君に死んでほしくない。もうこの層のボスからは俺も知らないんだ。」
「なら……いえ、いいわ。でも……ううん。なんでもない。」
彼女は何を言おうとしたんだろう……。
彼女は一瞬だけ嬉しそうな表情を浮かべたけど……今は何かを決意したかのような表情を浮かべている。
……まぁ、考えても分かるわけがないか……。
俺達はその後は習慣になっているクエストと定点狩りを行っている。
正直に言えば既にどちらも大した経験値は入らない。ましてやフィールドボス戦すらまだである以上、フロアボスの情報もまず無いだろう。
この狩りやクエストを行う理由は1つ、アスナの……いや、俺自身もプレイヤースキルをより高いものへとする為だ。
このゲームはボタンやコマンドを入力するようなものとは違う。
自らの身体を動かすのと何ら変わらないのだ。
それはつまり、いくらレベルが高かろうとその力をプレイヤー自身が使いこなせなければ何の意味も無いと言えると言う事だ。
その他にも見切りやスイッチ、ミスリードなどレベルやスキル熟練度ではない、いわゆるシステム外スキルと呼ばれる物も反復練習によって身につける事が出来る。そういった物を身に付け、使いこなすための習慣。
実際それを続けた事が俺達を攻略組……いや、2人組での最前線攻略を可能にし
ている。
実際の所、俺やアスナは命の危険を考えなければこの層でもソロでも通過できるだろう。
俺はまだ知識が……そしてアスナには冷静かつ的確な判断力と観察力がある。
ん?あのmobは……。
俺の視界の端に居たのはβ時代何度もやられ、この十層攻略の難易度を高めていたmobだ。確か刀スキルを使うmobで喰らうと出血状態にされる厄介なmob。
……アスナの成長を見るには最適かな。
「アスナ、もうある程度自分で弱点の予測は出来るよな?奴と戦ってみてくれ。」
アスナは俺が声を掛けると敵を見据えて頷き、腰から細剣を引き抜いて一気に距離を積めた。
敵が放つ刀スキルを紙一重でかわし、的確に弱点にソードスキルを叩き込んでいる。
本当にたったの3ヵ月ちょっとで“本物”の剣士になり、俺が教えたことも乾いたスポンジのように吸収して使いこなしているのだから恐れ入る。
出逢った頃から凄まじい完成度だった“リニアー”、それを更に昇華し、その剣速はもはやライトエフェクトの光の軌跡しか俺の目には映らず、更にその威力は最早初級などとは思えない程に重い。
……万が一ギルドが見つからなければ俺自身がギルドを作るしかないか……。
「これでいいの?」
俺がそんな事を考えていると敵を倒して
戻って来たアスナが問い掛けてきた。
「あぁ。もう俺から言うような事はないよ。見切り、観察眼、体捌きにいたるまで文句のつけようもない。」
実際、彼女の戦闘にアドバイスする程の点はない。唯一気になるとすれば見切りを失敗した時に“誰か”のフォローを必要とする事だが……むしろ俺はそれでいいと思っている。
ソロの戦い方よりもチームでの戦い方をしている方が今後安心出来るのだから。
俺はアスナに一言行こうとだけ言い、先に進んだ。
この先に有るであろうフィールドボスの生息地を目指して……。
そして案の定フィールドボスは居た。
どうやら俺達は一番早く着いたらしい。
ここの情報をアルゴに流せば明日にでも討伐戦が行われるだろう。
「アスナ、少し偵察していかないか?」
「……良いけど……あのボス、2人で相手するには大き過ぎない?」
フィールドに居るのは3メートルは有る巨人だ。
武器も巨大斧に盾とセオリー通りな出で立ちで、それ故に予測はたてやすい。
「まぁタンクが居ないのは痛いけどな。斧のソードスキルは頭に入ってるし偵察位なら問題ないだろ。」
「はぁ……ま、良いわ。あなたなら確かに直撃されたりしないだろうし。」
まぁこのボスはまだ戦った事が有るんだけどな。
こいつがβ時代と変わらないなら本当に厄介な所は攻撃力の高さではなく、大地に力強く振り下ろされる足、そしてその振動だ。ほんの一瞬とはいえスタン状態(一時行動不能)にされてしまう特殊攻撃が今回も有るのか無いのか……その情報は生死を分けうる重要な情報だろう。
俺達はほんの10分程の偵察戦を済ませると主住区に戻った。
結論から言うと地震攻撃は健在。その上、斧の振り下ろしでも発生するようになっていた。
更に取り巻きに多数の狼型mobも居るという極悪な難易度だが、唯一の救いはフィールドボスの行動範囲が狭い事だ。
これなら投剣スキルで攻めればうまく倒せるかも知れない。
「あなた、私にソロは無理とか言っていたけどあなたもあんな無茶するようじゃ無理よ!?2人居たからなんとか逃げ切れたけど、1人だったら死んでた所じゃない!」
「あはは……いや、まぁ……うん、ごめんなさい。」
アスナの目線で人を殺せるんじゃないかと思う程の睨みを受けて、俺は自然と土下座していた。
いや、まぁ確かに読みが甘かったな。
そして案の定、次の日討伐会議、討伐戦が開かれた。
基本戦略としてはタンクがボスの攻撃を受け止め、投剣スキルとリンド、キバオウによるボスへの攻撃だそうだ。
他の軽装のアタッカーは回りの取り巻きをボス戦担当に近付かせない様にする。
つまりは俺やアスナはフィールドボス戦では取り巻き担当と言うことになる。
ま、妥当な戦略だな。
「キリト、少し良いか?」
フィールドボス戦開始まで新しく攻略組に加わった3人を観察しようとしていた俺にギルド御庭番衆のお頭、アオシが声を掛けてきた。
「久しぶり……でもないけどな。何かあったのか?」
「……少し小耳に挟んだのだが……お前はこの層から先は知らないのか?」
……クラインか。俺が第十層までしかβテストで行ってないのを知るのはクラインとアスナだけだからな。
アルゴも誰がどこまで行ったのかまでは知らないはずだ。
「あぁ。より正確に言うならばこの先の迷宮区の低層までだな。」
「そうか……。それでどうするのだ?知識に頼らずに戦い抜くのか?」
「そのつもりだ。なんたって俺はビーターだからな。」
そう。俺は卑怯なビーターで居なければならない。
この層まで進んでも尚、βテスターとビギナーの確執は消えていないのだから。
実際、リンドやキバオウも俺の事を好ましくは思っていない。
明らかに目の敵にはしてこないが友好的かと聞かれればそれには違うとしか答えられないだろう。
正直な所、俺は人恋しいのだろう。だからアスナと共に居たいと思って彼女に俺の背負うべき“罪”を背負わせてしまっている結果になったのだ。
そう、彼ら“御庭番衆”も、“風林火山”もエギルやアルゴにすら本当なら関わるべきでは無いというのに……。
「俺達のギルドに入るか?必要であれば手助け位はしよう。」
アオシはそう言ってくれた。きっとクラインからも頼まれているのだろう。
でも……俺は……。
「いや、とりあえずは良いかな。もしどうしようもなくなるようなら頼むかもしれないけどさ。」
「そうか。ならばそれはそれで構わん。確かにお前達ならまだしばらくは平気だろうしな。」
「出来ればアスナにはギルドに入って欲しいけどな。とはいえアスナは自分で見つけない限り納得はしないだろうしなぁ……。」
「ふむ……。手が空いたらこちらでも調べておこう。イスケに頼めば内情程度は調べがつくだろう。」
辺りを見渡すとどうやらフィールドボス戦が始まるようだ。
アスナは……ユキナさんと会話しているようだな。とりあえず声を掛けるか。
「アスナ、そろそろフィールドボス戦が……ってどうした?顔色真っ赤だぞ?」
「※●*※!?!?キ、キリト君!?いつからそこにいたの!?」
「え?いや、今来たところだけど……?大丈夫か?体調悪いなら今回は参加しないことにするか?」
「だ、大丈夫!大丈夫だからちょっとほっといて!」
行ってしまった……。どうしたんだろう。
まぁSAOに風邪のバットステータスは無かったはずだけど……。
「キリトさん。本当に偶然ですか?まさか聞き耳を立てていたんじゃ……。」
「いや、というか何かあったのか??状況が掴めないんだけど……。」
いやいや、というかユキナさん、出来れば槍を持ってジトメされると恐いんですけど!?あ~……そういや、前にアスナにも胸ぐら掴まれて細剣を笑顔で突きつけられたっけ……。
「はぁ……まぁ良いですけどね。でも、ちゃんとアスナさんを大切にしてあげて下さいね。」
「い、いや、それはまぁ相棒として気を配っているけど……。」
うん、間違ってないよな。……なんでかめっちゃ溜め息付かれてるけれども。
「ユキナ、そろそろフィールドボス戦が始まる。持ち場に着くぞ。」
「あ、はい。……キリトさん。私の友達を傷付けたら許しませんからね?」
「え、あ、はい。わ、わかりました。」
……アオシも大変だな。というかユキナさんって実は怒りやすいんじゃ……?
その後、普段通りに戻ったアスナと狼を狩りながらボス戦の様子を見ていた。
第九層、翡翠の秘鍵の最終ボスからアスナを助け出した男だ。
タンク隊に居るようだけど見ているだけでプレイヤースキルが凄まじく高いのがわかる。
盾や剣の使い方を始めとする戦い方を熟知している感じだ。
指示を出して居るようだけど声までは聞こえないから内容はわからないな。
とはいえ指揮を取っているパーティーのHPバーをみる限り、その指揮が的確なのは見て取れる。
「たいした手練れだな。特にあの銀髪の男、何で今まで攻略に参加しなかったのか不思議だよ。」
「そうね。リンドさんやキバオウさんもここまでの経験で戦闘指揮も少しは手馴れて来ているけれど彼の指揮に舌を巻いてるみたいだし……。」
よく見ている。彼女は以前からプレイヤーの能力を正しく認識していた。
それは指揮をとる上でこの上ないアドバンテージになるだろう。
その彼女があの男を認めているのだ。
……まぁ実際凄いけどな。
あの剣捌きや盾の使い方を見るだけで彼の実力は十分に理解できる。
以前、彼女の事を助けてもらったことから人となりも悪くないのだろう。
気になるとすれば……彼の余りに余裕に溢れた表情位か。緊張は全くしていないようだし……。
まぁアオシにも似たような所はあるけど……彼はそれ以上の心の余裕が有る。
フィールドボス戦は死者は0で突破出来た。
途中リンド、キバオウがまた張り合いをしたようでヒヤリとする場面も有ったがまぁ許容範囲内だろう。
取り巻きの方はどうやらボスが倒されるまで無尽蔵にポップする設定だったようで、ボスが倒されるまでにトータルで300近い数が討伐された。
……正直な所、取り巻き担当のが激しかったんじゃないかと思える。
ほとんどの取り巻き担当が一度は危険域までHPを減らしたぐらいだしな。
激戦を終えた俺達はそそくさと2人で先に進み、迷宮区を発見したところで最寄りの街トールへと戻った。
「腹減ったぁ……。アスナ、とりあえずメシにしようぜ。」
「そうね。私も少しお腹空いたかも。とりあえず街を歩きながらレストランと今日の宿屋を探しましょう。」
飯を食べる前にと歩き始めようとした時に、急に目の前にメッセージが届いた。
街に入ると頭に直接響く電子音と視界の左上、HPバーの横にメールマークが付くようになる。
正確には圏外でもメール自体は届くのだが、戦闘中に同じようになれば致命的な隙を生み出しかねないからか音や視界には全く表示されない。
《キー坊、アーちゃん、あるプレイヤーが2人の情報、もしくは話し合いの場を用意してほしいらしいゾ。どうすル?》
どうやらアスナにも同じメッセージが届いているようだ。彼女は俺にメッセージの内容を聞くと少し考え込み、どうする?と問い掛けてきた。
「どうするって言ってもなぁ……。誰かも分からないのに応じたりする奴……居るかなぁ?」
「それもそうよね……ならさ、こっちから条件として先方の情報を開示してもらって場所も圏内の店とかに指定してみる?」
俺はそれならまぁいいかとアルゴにメッセージを送り、とりあえずレストランを探そうと動き始めるとほんの数十秒ほどでメッセージが届く。相手はアルゴだ。
思いのほか早く返事が届いた事に多少驚きつつも内容を確認する。
《キー坊はどうせアーちゃんと一緒だロ?メッセージは纏めさせて貰うヨ。先方が快諾してナ、名前は“ヒースクリフ”、今日行われたフィールドボス戦で攻略組に合流したパーティの赤い鎧を装備していたプレイヤーだナ。2人に頼みが有るそうダ。合流するなら待ち合わせの場所を決めてくレ。》
アルゴ……最近はあんまりからかいに来ないと思ったら……これは少し誤解を解かないと隣の細剣使い様の機嫌が悪くなるな……。
《了解した。俺達は今から食事だから第十層の宿屋前にあるNPCレストランで良いか?》
《確かに伝えたゾ。オレっちは忙しくていけないけどヒースクリフは五分程で着くそうダ。後で会談の内容は教えてくれナ。》
相変わらずだな。流石は“鼠”と言ったところか。ヒースクリフ……それがあのプレイヤーの名前か……。話というのも恐らくは……
「ねぇキリト君。話ってなんだと思う?」
「まぁ……十中八九パーティへの参加って所じゃないか?今、攻略組でギルド不参加な奴は少ないからな。」
「ま、そうよね。キリト君はどう考えているの?」
正直な本音を言えばあのプレイヤーが率いるパーティーやギルドならアスナに参加してもらいたいとは思っている。
わざわざ危険を犯してまでアスナを助けたくらいだ。悪い奴ではないだろう。
とはいえ……恐らくその事を彼女に伝えれば彼女は彼の悪い点を探して頑なに参加を拒否するだろう。
「……わからないな。彼の人となりも知らないんだ。判断のしようがないさ。」
まぁ実際アスナが入ってもいいと思えるかどうかや、俺自身が彼女を預ける事に納得できるかどうかはわからないのだ。
判断材料としてはまだ少ない。
俺達は当初の予定道理にー本来ならば街を歩きながら良さそうな店を見つける予定だったがーレストランののれんをくぐった。……どちらかというと定食屋だな。こりゃ……。
ほとんどプレイヤーの姿は無かったが奥の席でこちらが見える向きに座る赤い鎧を着込んだ男の姿が見える。
……遅刻はしていないぞ。
「ヒースクリフさんか?待たせてすまない。もう着いているとは思わなかったんだ。」
「いや、こちらが呼び出したのだからね。呼び出した方が待たせるわけには行かないと思って年甲斐もなく走ってしまったよ。……まぁ掛けてくれたまえ。ここの食事は私が持とう。」
……流石は大人といった所か。まぁそういう事ならばこちらが遠慮する必要もないだろう。
確かこのメニューはさほどおかしな味で食べれないという事もなかったはずだ。
比較的低層ではおかしな物は少なかったのに八層辺りからなんだか変な味の物が増えてきたんだよな……。黒パンですら安いのにおいしく食べる手段が有るって言うのに……。
まぁそのかわり手に入る食材のレア度も
上がってきたからな……。料理スキル持ちに作ってもらえば十分うまい物が食えるか……。
またアスナが作ってくれたやつ、食べたいなぁ……。
出て来たのは見た目は普通のハンバーグだ。確か味はサンマの塩焼きだったはず……。
醤油がないのは味気ないが塩味っぽくなってるだけでも満足しなくては……。
目の前に座っているヒースクリフはなにやらしかめっ面をしている。頼んでいたのは蕎麦みたいだな。
確かあの蕎麦はからしとわさびと唐辛子、更にダメ出しに胡椒の味もする激辛料理だったよな……。よくもまぁ多少顔をしかめるだけで食べれたもんだな。
俺なら吹き出す。うん、そりゃもう盛大に。
「さて、では本題に入ってもかまわないかな?」
俺達が食べ終わったのを見て、彼は自分が食べていた蕎麦を半分程残しているにも関わらず話を始めた。
「いや、そちらが食べ終わるのくらい待つよ。」
「……お気遣い痛み入るがそれには及ばない。少々私の口には合わないようなのだ。」
なんだ。ただのやせ我慢か。ま、普通の
味覚ならあれは美味しいとは思わないか。
「それ、確かわさびと胡椒と唐辛子を合わせたような味だっけ?てっきり辛いものが好きなのかと思っていたよ。」
「ふふ。私はどちらかと言えばしょっぱい物と甘い物が好きでね。辛いものはあまり得意では無いのだ。食べ物を残すなど礼儀には反するが目をつぶってくれたまえ。」
やがてNPCのウェイターがお皿を片付けてテーブルが空になった。
「さて、では改めて本題に移ろう。君達はコンビで攻略をしていると聞いているが君達からみていまの攻略組をどう思う。」
「えっと……どう……とはどうゆうことですか?」
「そのままの意味さ。私はこの層から君達攻略組に合流し、フィールドとはいえボス戦にも参加させてもらった……しかし彼等の指揮での戦いには何度もヒヤリとさせられたよ。何故彼らは互いにいがみ合って協力しないのだ?」
「彼らとはドラゴン・ナイツ・ブリゲードとアインクラッド解放隊の事だろ?あそこは互いに競い合っているからな。とはいえ、フロアボス戦ではきちんと協力しているよ。なにせ先にボス部屋に着いたプレイヤーがこの層の指揮権を得るのが通例として普及しているからな。」
「なるほど……では改めて聞くが今の現状をどう考える?」
「……良くはないな。実際、仲良しこよしなんてあり得ないとは思うけど……」
「そうね。あの二人がそんな風になったら私、大笑いしちゃうかも……。」
……あぁ、確かにそんなの見たら笑い転げるな。
「長らくここで彼等を見てきた君達が言うのだからそうなのだろうな。しかし……私はそんな現状を変えたいのだ。要はあの二つしか主力ギルドが無いことが対立の原因だと思っている。」
……いや、それだけじゃない。2人が対立している理由にはディアベルの事も含まれているだろう。
彼がそれを知らない事は仕方ない事ではあるし、実際には対立というよりは競い合っているのが現状の正しい形だろうが……とはいえ、確かに2人のギルドだけではなく第3の主力ギルドがでた場合は無茶は控えるかもしれない。
メンバーが鞍替えしないためにも……。
「ヒースクリフさん、あなたにそれができるのか?現時点で攻略組の三分の二近くはどちらかに入っているんだ。そして二つに入ってないプレイヤーも他のギルドや固定パーティに入ってるぜ?」
他にも問題はある。大ギルドとなっている2つとの人数差、そして攻略組に所属する人間そのものの絶対数の少なさだ。
「確かに現状彼らを人数で上回ることは無理だろう。こちらは今日お見せした2人に先程仲間に入ってくれた3人だけしか居ない。
風林火山の面々には合併は出来ないと断られてしまったしな。
だが……君達が入る事となれば話は違う。私は今後も有望なプレイヤーはどんどん引き抜きをしようと考えているのだ。実力のあるプレイヤーが数多く揃えば人数などはそう問題ではあるまい。」
まぁ確かに所属メンバーがALS(アインクラッド解放隊)やDKB(ドラゴン・ナイツ・ブリゲード)の半分しか居ないとしても全員が高レベルのトップクラスのプレイヤーならば第三勢力にはなりうるだろう。
「ヒースクリフさん、あんたを含めて6人全員が例えばトップクラスのプレイヤーだったとしても、俺達2人が加わって8人。既にある御庭番衆が第三勢力にならないのにあんたのパーティがそうなれるとは思えないんだけど?」
そう、人を揃えたからと言って勢力図は簡単には変わらない。
結局の所、彼の覚悟と能力次第だ。
アスナの指揮力は高くとも今までの風潮を覆してフロアボス戦での指揮を行えるとは思えない。
正直、偵察戦以外でリンド、キバオウが戦闘指揮を譲ることはまず無いし、それを変えるにはボス部屋の発見の他に他のプレイヤーを黙らせるだけの持論と実際にそれをやってのける能力は必要不可欠なのだ。
「そうかね?聞くところによると彼のギルドは対人に特化したギルドと聞いているが……。」
それが理由なだけじゃないんだ。アオシは基本的に自分のギルド以外の指揮は取らないし、ユキナさんに至っては指揮そのものがあまり巧くない。
「別に彼等は対人に特化しているわけじゃないよ。ただ攻略、更にはこの世界に生きる人達に仇なす奴らを取り締まろうとしているだけさ。」
彼の覚悟の言葉、それさえ聞ければ……そう俺が考え、彼の覚悟を表明させようとしている時だった。隣に座り、ほとんど傾聴の姿勢を崩さなかったアスナが話の流れもなく唐突に……それでいて的確に彼へと言葉を投げかけた。
「それよりも……ヒースクリフさん。私はあなたの意志を確認したいんです。キリト君が言っている様に簡単に事の進む話とは思えません。それでもあなたは今の状況を変えてみせると言えるんですか?」
アスナの言葉を聞いても彼の表情には焦りや不安、そういった物は全く浮かばない。ただただ真剣に、真っ直ぐとこちらを見据えている。
「ここに誓おう。この世界に生きる者として私は現状を変え、攻略をより確実な物へとしてみせる。……力を貸してくれ。」
彼は徹頭徹尾表情を崩していない。恐らくは覚悟の程は本物だろう。
俺はそれを見て1つの道を決めた。
「顔を上げて下さい。ヒースクリフさん。あなたの覚悟は伝わりました。私など大した力は在りませんが微力ながらお手伝い致します。」
「よろしく頼む。アスナ君。我々の力を合わせ、プレイヤー全員が一丸となって挑もうではないか。解放の日の為に。」
彼の差し出された手をアスナが握り返している。……これで今よりも彼女は安全になる。
後は……俺が覚悟を決めなくては……。
「キリト君もよろしく頼む。」
差し出された手に俺は敢えて応えなかった。
「キリト君、どうしたの?ヒースクリフさん、手を差し出してるよ?」
「……悪いが俺はアンタの下に付く気はない。いや、違うな。俺はそもそも誰の下にも付く気はないんだ。
さっきまで色々と指摘していたのは新参者がいきなり理想論を語るから悟らせてやろうとしただけさ。
別にアスナのようにアンタの覚悟を見ようとおもったわけじゃない。」
「き、キリト君……?な、なにを?」
「俺が第二層からアスナとコンビを組んでいたのは自分自身が慣れるまでの安全策だ。俺の知識は本当は第八層までしかなかったからな。ありがたかったよ。おかげで見知らぬ層でも最も効率のいいソロで生き残る自信ができた。今回アスナのギルドを探してやったのはその礼。ただそれだけの事さ。」
ズキリと胸に痛みが走る。隣に居るアスナはただただ悲しそうな表情を浮かべている。……彼女の顔を見ちゃだめだ。そう、これは本来ならば第1層ボス戦後から覚悟をしていた事なんだ。
彼の理想である攻略組をまとめる作業に俺がいればそれだけでまとまりは悪くなる。
現状であまりビーターの事を騒がれていないのは単純に俺に利用価値が有るからだろう。
今、彼のギルドに入り、知識の枯渇が露見すれば最悪の場合ギルドそのものを叩かれかねない。
「その上、アスナがアンタの所に入ることで攻略がスムーズに進むんならお互い万々歳だろ?アスナのギルド探しなんて面倒な仕事も終わるんだ。いや、本当にアンタには感謝しているよ。俺も仮にもここまで組んでいた奴に死なれちゃ目覚めが悪いからな。」
「ねぇ……キミはどうしてそれを自分には当てはめないの?私だって同じ様にキミに死なれちゃ目覚めが悪くなるのよ?」
……涙がでそうになった。彼女と別れたくない。一緒に居たかった。……でも、それ以上に……彼女には死んで欲しくないのだ。
「ふ……そういうセリフはもっと強くなってから言えよ。今のアスナじゃ何回やろうと俺には勝てないさ。なにせ俺はビーター、本当のMMOプレイヤーのベータテスターだからな。」
ハッタリだ。正直に言えば彼女を相手にして絶対に負けない自信なんて無い。
彼女は強い。無論勝てないとは思わないがいずれは俺を越えるかもしれない。
……そろそろ限界だ。これ以上アスナと問答していたらボロがでてしまう。
彼女には俺に呆れて貰わなければ……ならないのだから……。
「ま、そういう事さ。じゃあな、ヒースクリフ。精々頑張ってくれ。」
俺は席を立ち、店を出ようと足を進める。
「待ちなさい!そんな事で私が納得するとでも思っているの!?」
……頼む。納得まではしてくれとは言わない。でも、それでも今だけは……
「……別に納得してくれとは言わないさ。俺は俺の道を行く。君にも目指す場所があるんだろ?なら別々に行けばいいさ。……納得が出来ないというなら俺を見返してみせろ。」
そう言い放ち、俺は彼女を置いて店を出た。きっと納得なんてしてくれないだろう。
でも、彼女なら理解しているはずだ。それに彼のギルドに入ることを宣言しているにも関わらず俺を追うとは思わない。
……後は俺自身がどこまで通用するかだけど……。
いつかは戦場で無感傷にポリゴン片へと変わってしまうだろう。
そう考えていた時だった。彼女からのインスタントメッセージ。
フレンド登録もしていなかった相棒から届いた決別を受け入れる言葉。
そして……
《あなたの言葉、あなたの望み。それを聞き入れるよ。だから……あなたも決して死なないで。》
あぁ……俺は死なないよ。君の行き着く先、その高みを対等に見てみせる。
だから……君も死なないでくれよ。
3日後、攻略会議が開かれた。
俺はリンドとキバオウのどちらが今回の指揮権を勝ち取ったのかと思って端の方で見ていたが、壇上にはそのどちらでもないプレイヤー、(ついこの間まで俺の隣に座っていた)栗色の長い髪に凛としたはしばみ色の瞳の少女が立ち、作戦の立案と解説をしていた。
先日の偵察戦には彼女の所属するギルド、血盟騎士団と御庭番衆が参加したらしいとの話はアオシからメッセージで聞いてはいたが、そのまま本戦でも指揮権を獲得したというのは驚きだ。
説明が終わり、アスナが皆に意見を求めていた。
作戦自体も緊急時の対策も撤退戦にいたるまで隙がなく、特に意見する必要性すらなさそうだ。
「は!所詮おなごの言う事やな!撤退戦での殿をあんさんらが受け持つゆうとるがな、ワイらアインクラッド解放隊がいっちゃん人数多いんやで?最高戦力や。あんさんらよりもずっとうまくやれるんや。こっちにその役目まわしぃや!」
「それを行えば下手をすれば犠牲がでます。撤退戦では殿には文字道理最高クラスのプレイヤーを置く方が安全性が高まります。また、先陣、誘導にも手練れが居なくてはスムーズには行きません。キバオウさん達、もっと言えばキバオウさんには先陣を切っていただいた方が……。」
「じゃかぁしいわい!ワイらアインクラッド解放隊にも高レベルプレイヤー位わんさかいるんや!四の五のいわんと隊列変えたらいいやろが!」
……ここ最近の二層辺りからはキバオウは人数に過信が見えてはいたけど……随分食ってかかるな。
指揮権巡りで何かあったんだろうか……?
「アインクラッド解放隊、ギルドマスターのキバオウさん。今回は指揮権はアスナさん達血盟騎士団に委ねられているんですよね?今後は指揮権を手にしようと手にしまいとそういった物言いで押し切る気ですか?」
2人の間に割ってはいったのは御庭番衆のユキナさんだった。
彼女は槍を手に握ったまま壇上にあがるとキバオウを睨みつけながらそう告げた。
「……キバオウ、今の発言は越権行為になるだろう。指揮権を手にしたギルドの提案に対して“正当な理由がない限りはその決定に従う。”それが当時の話し合いで決めたことだ。まさか忘れたわけではあるまい?」
「んなことは覚えとるわい!せやけどなぁ、ワイらの4分の1程度の人数でボスを押さえよぉゆうたって納得出来るかい!リンド!あんさんはどうなんや!?」
「特に俺から付け加えるつもりはないな。実際の所ボス戦次第だろう。そちらの作戦に危険を感じれば独自に動かさせてもらう。それでかまわないだろう?」
……これは……リンド、キバオウは指揮権を譲る事に心底納得しているわけじゃないみたいだな……。大丈夫かよ……。
「はっきり言わせていただきます。あなた達の指揮よりもアスナさんが指揮をとる方が遥かにスムーズでした。それに彼女にも実績は有ります。それ以上絡むのでしたら“また”その剣で語ったらいかがです?」
“また”ね。なるほど。それにしても珍しいな。アスナは人に剣を向けるのは嫌いだったはずだけど……。
それ以上の議論もなく、攻略会議は幕を閉じた。
キバオウ、リンドはどちらもユキナさんの剣で語れと言われたことで黙り込み、結果最初の案のまま明日の攻略戦は行われる事になった。
その日の夜、俺はアオシから呼び出されて指定された場所へと向かった。
「お待ちしていました。」
しかし、そこにいたのはアオシではなく、ユキナさんだった。
「ユキナさん、アオシはどうしたんだ?俺はアオシに呼び出されたんだけど?」
「今回呼び出したのは私です。キリトさん、私、言いましたよね?“私の友達を傷付けたら許さない”って。説明して下さい。」
そう言う彼女の瞳は真っ直ぐで瞳が“赤く”なっていた。
「俺はアスナに死んで欲しくない。」
「答えになっていません。なぜあなたは彼女を他人に任せてるんですか!死なせたくないというならあなたが護ればいい!」
「……それを君に話すつもりはないな。それにあいつのギルドに入るのならば今までよりも安全だ。」
「……そうですか。あなたはそうやって彼女に重荷を背負わせたんですね。彼女、笑わなくなりましたよ。」
……それは……。
「今からでもあなたは彼女と共にいるべきです。大体、一人でなにが出来るつもりですか?」
……それだけは出来ない。きっと俺が加われば血盟騎士団は大きくならないだろう。そうなれば当然彼女の安全性も減ってしまう。
「悪いが俺はギルドに入る気はない。ソロで充分戦い抜ける。その効率性を捨てる気はないよ。」
「……どうしてもですか?……私にはあなたがソロで戦い抜けるとは思えません。」
「なら試してみるか?」
俺がそう言うと彼女はより一層目を鋭くし、槍を構えた。
「見せていただきます!」
彼女から出されたのは初撃決着モードのデュエル申請。俺はそれに応じ、背中から相棒となった片手剣“ナイトスカイソード”を構える。
夜闇に溶け込む漆黒の刃を携え、黒のロングコートを装備した姿は後に黒の剣士と呼ばれた男の最初の噂となった。
ビーターではなく黒の剣士と呼ばれる様になる最初の戦い。
闇夜に溶けた一振りの片手剣と銀の光を放つ槍が開始の合図と共に交差し、火花を散らした。
前話分までの修正行いました。多少読みやすくなっているかと思います。
今後もよろしくお願い致します。
次話予告
壬生狼の末裔
次は20層に飛びますのでそちらの方もご理解、ご容赦頂けると幸いに思います。
活動報告
こちらにて掲載して欲しい話のネタ等受付致します。
短編とはなりますし話の大筋を変えてしまう物は執筆出来ませんが、もし何かありましたらお気軽にご利用下さい。
今後ともよろしくお願い致します。