スローペースにはなってしまいましたが定期的に更新するよう心掛けますのでどうぞよろしくお願い致します。
月夜の黒猫団
「キバオウ関する報告は以上だ。」
26層到達と同時にギルドでの今後の攻略に向けてのリーダー会議が始まって一時間。
前回の攻略では過去最悪の結果となった。
死者36名。
大半は安全マージンが不足していたプレイヤーではあるが、特に問題なのはフロアボスの強さだろう。
一撃死の攻撃に高威力の範囲攻撃。更には飛行。
どれも過去のボスの強さを遥かに上回るものだった。
「……当面の間はプレイヤーのレベリングやスキル向上に当たるしかないんじゃないかな?キバオウさんのギルドが抜けた以上現状では2レイドにも届かないんだ。出来る限り人数を増やさないと……。」
「ふむ……確かにリンド君の言うようにレベリング自体は必要だろう。……しかし、一度にボス戦未経験者を多数参加させれば今回の二の舞になる可能性も否定できないと思うが……どうかね?」
「私も団長の意見に賛成です。それにいくらレベリングが重要とはいえ、また何ヶ月も攻略が遅れてしまうのは避けたいですし……。」
「おれはよ、頭わりぃから意見してもとは思うんだけど……そもそも攻略に置いて重要なのは死者0なんだろ?だったらレベリングを最優先に置いてもいいんじゃねぇか?いや、そりゃ、アスナさんの言うように何ヶ月もかけてっつーのは心情的にも現実的にも厳しいっつーのはわかんだけどよ。」
「要は攻略のペースはあまり変えず、レベリングに力を入れれば良いのだろう?現状では俺達自身もまだ鍛える余地は有るだろうが……各々がメンバーのレベリングを意識して行えばそう難しい事でもあるまい。」
実際の所、レベリング自体が必要なのは当然だが攻略を遅くするのはあまり好ましくはない。
何故ならば現実での自分達の身体の方が保たなくなるであろう事が予測されるからだ。
恐らくは経管栄養などを摂り、病院のベッドに横になってはいるだろうが、どの程度身体が保ち続けるかはわからないのだ。
特に絶望感を抱き続けてしまう状況は身体に対して影響が大きい。
更に言えば社会復帰についても時間を掛ければ掛ける程に難しくなる。
それは成人以上のプレイヤーにとっては生命には関わらないと言っても死活問題と言えるだろう。
「先ずはこの層の攻略を慎重に進めようではないか。私としては恐らくは前層のボスが特殊だったと思っているのだがね。」
「団長、それはどういう事でしょうか?」
「製作者の立場になって考えてみたまえ。マージン自体が10以上はとてつもない苦労を強いる仕様だと言うのにマージンを取って尚、多数の死者が出るようなボスを今後ずっと配置するとは考えづらいだろう?」
「ですが……そもそも茅場はこの世界の創造こそが目的だったはずでしょう?なら、この世界の終焉であるクリアは簡単にはさせないのでは?」
「ふむ……では、ユキナ君、君ならばこの世界を1から作ったとしてこんな低層で攻略されなくなるような仕様にするかね?」
「それは……確かにしないと思いますけど……。」
「とはいえ油断は出来ん。万が一茅場が先にユキナが言ったようにこの先には進ませたくないと考えていたならば……この先も前層以上のボスが続く可能性もある。
少なくともこの層に限っては石橋を壊すぐらいのつもりで慎重に行くべきだろう。」
その決定で誰にも不服はなく、リーダー会議は閉会した。
レベリング自体はボスには関係なく全体的に底上げを行う事で満場一致。
また、レイドに関しても暫くは1レイドでボス戦を行い、新人は少しずつボス戦に慣れさせていくと事で決まった。
「あぁ、そうだ、アオシ君。アオシ君はPoHと言ったかな?彼の事を捜索していると言っていたね。彼の情報は何か掴んでいるのかな?」
会場を後にしようとユキナを連れ、席を立とうとした所を深紅の鎧を纏った男、血盟騎士団団長ヒースクリフに呼び止められる。
「……現時点では有力な情報は掴めていない。最後の目撃情報は知っての通り、血盟騎士団員を4人掛かりで殺した時だ。」
確かにヒースクリフにしてみれば自分のギルドのメンバーが殺されている以上、その情報は欲しいだろう。
最も……彼は感情を表面的にしか外に出さない。それ故に今、彼の顔に出ている多少の落胆とも取れる表情は果たしてどこまで本気なのかはよくわからないが……。
「ふむ、そうか……。ではアオシ君、君の考えを聞かせては貰えないだろうか?彼等はまだ最前線にいると思うかね?」
………………。
この男…………。
「……恐らく本隊は居ないだろうな。奴らの主要メンバーは顔はともかく名は知れ渡っている。攻略組と真っ向からやり合うとも思えん。最も……主要メンバー以外は残っている可能性はあるがな。」
「アオシ君の推測では既にその可能性のある相手も特定しているのでは無いのかね?」
「……あくまでも推測だ。確たる証拠も無いのでは特定とは言えないだろう。」
「ふむ……。そうだな。確かにアオシ君の言う通り特定とはならないだろう。しかし……今後警戒するためにも教えてはもらえないだろうか?」
……正直、俺はこの男は信用出来ない。さほど会話をしたわけでも無いし、行動を共にしたのも数えるほどしか無いのだが……。
あくまでも感情でしかない。この男の行動や発言には何の問題もないのだ。
その上、アスナという信用できる人間が側にいる。
隠密は徹底的現実主義者だ。感情に左右されるわけにはいかない。
「……聖竜連合のロキだ。最も怪しいというだけで一切の証拠は無いがな。」
「なるほど……いや、助かる。ではこちらでも気に掛けておこう。呼び止めて申し訳なかったね。」
ヒースクリフとの会話を終え、今度こそ会場を後にした。
まずは一足先にキリトに向かって貰った月夜の黒猫団の方に顔を出すか……。
そう考え、転移門へと向かう俺とユキナに背後から急に声が掛けられた。
「アオシ君、ちょっと待って!聞きたい事が有るの。」
「アスナか……。どうかしたのか?」
「ちょっとこれを見て貰いたいんだけど……。」
そういいアスナが差し出してきた記録映像にはジョニーとモルテ、そして知らない男が1人写っていた。
声のみしか聞こえないがPoHが撮っているのだろう。
内容は……殺された血盟騎士団員、ウキタの殺害の様子だ。
『ちくしょう!てめぇら、ふざけんな!クソッ!』
『Hei、随分元気じゃねぇか。これから殺されるってわかってねぇのか?』
『PoH、戯れが過ぎれば足がつくぞ。わざわざ記録しているんだ。早いとこ殺した方が良い。』
『まぁせっかくの手紙だしなぁ……。余計な事されて無駄になるのは避けてぇな。……ジョニー、モルテ、XaXa、やっちまいな。……イッツ・ショータイム。』
『や、やめろ!来るな!ぐわぁぁぁぁ・・・いやだ、死にたくない!助けて!助けてくれ!ろ……』
『ククク。おまえたちも楽しみにしてな。闇の忍、黒の剣士、剣巫、閃光。いつかお前たちもこいつみたいに割ってやる。あばよ。』
そこで記録は終わっていた。
殺人の記録。
数分の沈黙が流れた。
流石にこの映像が残された意味までは想像出来ないが重要な手掛かりにはなる。
「……この記録結晶はいつ頃届いた?」
「えっと……私の手元に届いたのは会議の後すぐ。うちのギルドメンバーが届けられたこの記録を確認したのは会議の直前って聞いたけど……。」
「こういう届け物って普通に届いているんですか?」
……確かに疑問だ。まぁ少なくとも奴ら自身が渡しに行くわけは無いだろうが……。
「まぁ……たまに……ね。花とかケーキとか……。」
アスナのファンのプレゼント受け取りか。
確かにその存在は有名だからな。
「……仕方ない。あのギルドに関してはヤヒコ達に任せるしかあるまい。……アスナ、受け取り担当の者に会わせてくれ。」
……まぁキリトも居るんだ。俺が出張ることも無いだろう……。
こうして俺とユキナ、そしてアスナは記録結晶という手がかりを元に捜査を開始した。
「なぁ。確かにキリトが来てくれたのは助かるけど……なんで素性を秘密にする必要があるんだ?」
「さっきキリトさんが言ってたじゃない。明らかにレベルが大きく離れてると頼りにしたりして油断をするからって。」
目の前で槍から片手剣へと転向仕様としている女性プレイヤー、サチに剣技の手解きをしているキリトを見ながらヤヒコとシリカは雑談していた。
流石にお頭アオシの推薦だけあって自分よりも剣技は上だ。
また、教え方も自分よりは優れていると思える。
「ん~……でもさ、やっぱりサチさんは片手剣に向いてないように見えるんだけど……。」
「ん、そうだな……。そもそも……戦闘職そのものが向いてないだろ?ありゃあ……。」
そう話している間にもサチの握っていた片手剣はキリトに弾き飛ばされて手から放れていっていた。
「……少し休憩しようか。一時間続けていたからな。少し疲れただろ?」
「ご……ごめんなさい……。」
2人はゆっくりとこちらに歩いて来るとキリトはヤヒコの隣に、サチはシリカの隣に腰掛けた。
「あ、あのね、シリカちゃん。シリカちゃんは短剣なんていうリーチの短い武器でこ、怖くないのかな……?」
「そうですねぇ……やっぱり最初は怖かったですよ。武器よりもこの世界に居る事がですけど……。だから……最初は始まりの街から出れませんでした。」
俯きながら答えるシリカの言葉を聞いてサチは俯いていた顔を上げ、シリカをまじまじと見つめていた。
「な、ならどうして……?シリカちゃんは今もソロで……それに私よりもずっと強くて……どうしてなのかな……?」
「最初は安全にレベルを上げてくれるといってくれた方について行きました。最初は……怖くて、怖くて自分からは何も出来なくて……一緒に旅してくれた人達にもいっぱい迷惑掛けて……でも……目の前で私の為に戦ってくれてた人の1人が死んじゃいそうになった時、身体が勝手に動いてその人を庇って居ました。それからです。戦うこと自体は怖くないって感じ始めたのは。」
「で、でも……それなら最初から戦わなかったらそんな事も起きないと思うよ……?」
「確かに私の前で死んじゃう人は居なくなるとは思います。……でも、私の知らない所で誰かが死ぬだけで何も変わらないと思うんです。」
「そんなの……全員なんて助けられないよ……むしろ自分自身が死ぬかも知れないじゃない……。」
「勿論全員なんて救えないのは解っています。でも、それでも……助けられた人も居ますから。私は誰かを助けられるように強くなりたい。」
すごく眩しい笑顔だった。明確な目標、目的を持っているシリカの笑顔はサチの心に響いてくる。
そしてその心を否定なんて出来ない。
だって実際にサチ達月夜の黒猫団を助けてくれたのはシリカだったのだから。
その上、自分達を鍛える為に知人に当たりシリカの後ろに居る2人、ヤヒコとキリトを━キリトの方はシリカの知り合いではないらしいが━紹介して貰ってこうして鍛えて貰って居るのだ。
「さて、と……。そろそろ訓練を再開するか?もしまだ疲れているならもう少し休憩しても良いけど……。」
「あ、だ、大丈夫。よろしくお願いします。」
「あ、おい、キリト!後で俺とも試合しろよな!」
「あ、私もしたい!お願いします!」
「わかった、わかった。訓練の後な。」
そういってキリトとサチはまた訓練を開始した。
やっている内容は極普通だ。片手剣のソードスキルを使用させて慣れさせる事とキリトの攻撃を剣と盾を使って防ぐ事。
キリトの剣速はサチでもギリギリ対応出来る程まで抑えてあるようだ。
ただし……サチが目を閉じなければの話だが……。
「ふぅ……サチ、とりあえず今日はここまでにしよう。ケイタ達との集合時間まで後一時間しかない。」
「あ、う、うん。」
ケイタ達、月夜の黒猫団のメンバーはサチを含めて5人居る。
サチ以外全員が男性プレイヤーでギルドリーダーで棍使いのケイタ、短剣使いのダッカー、サチと同じく槍使いのササマル、そして唯一の前衛である片手棍と盾持ちのテツオだ。
シリカが彼らの救援をしたのにはこの編成にこそ理由がある。
前衛が1人しかおらず、敵を捌けなくなっても誰か他のプレイヤーが前線を支えてその間に回復する事も出来ないのだ。
事実、シリカが救援に入った時も5体のmobと戦っており、救援しなければ全滅、良くてもテツオの死と言う結果になっていただろう。
結果、シリカの救援のおかげで誰一人死者を出す事もなく、窮地を脱する事に成功した。
その後、シリカからせめて盾持ちの人をもう1人は増やした方が良いと助言されサチの長槍から片手剣への転向が始まったというわけだ。
ケイタ達はシリカに片手剣への転向を指南してほしいと頼んだがシリカ自身盾を使わず、その上短剣がメイン装備である以上指南には適さないと片手剣使いであるヤヒコに依頼した。
……と言うのもシリカの知り合いで片手剣の使い手はヤヒコと風林火山のメンバーしか居ない……いや、正確にはシリカの追っかけをしている中層プレイヤーには片手剣使いも居るだろうが、シリカとしては知り合いとまでは思っていなかった。
以前フレンド登録をその内の1人としてストーカー紛いの被害に遭ってからは、男性プレイヤーは信用が置ける人以外とはフレンド登録はしていない。
結果として言えばヤヒコの手にも負えず攻略組の中でもトッププレイヤーの1人と名高い黒の剣士が来てくれたわけだが……。
シリカから見ても彼の技量はずば抜けて居ると思う。
他の攻略組は数人(その内2人は新聞にも良く載るトッププレイヤーだが)しか知らないとはいえ、噂と実際に見た技量から判断しても過剰な評価ではないだろう。
「ケイタ、後で少し話があるんだ。構わないかな?」
「え?うん。構わないよ。それよりキリト、今日レベリングに向かうって言っていた死者の都だけど……あそこってそんなに効率の良い狩り場なのかい?あまり聞いたことがないんだけど……。」
ギルドリーダーであるケイタは昨日から自分のギルドと合流してくれているキリトの提案で向かう事になった狩り場、死者の都について色々と下調べをしていたが、出てくる情報にはさして特筆すべき点はなかった。
敵は主にアストラル系とアンデット系、稀にドラゴンゾンビなんてのも出るようだが、この層の迷宮区に比べれば経験値の総量は下回るし、落とすコルもアンデット系やアストラル系といったホラー系mobは総じて低い。
「ここのmobはコルこそ大して落とさないがドロップするアイテムがそこそこの値段になるんだ。その上ランダム設置の宝箱も多い。勿論こっちは運次第だがそこそこ良いアイテムも手には入る。何より敵の種類が毛嫌いされるホラー系なだけに過疎ってるからな。効率もいい。」
「へぇ~、って事は俺のピッキングスキルが活躍するって事だな!?くぅ~、腕が鳴るぅ~!」
短剣使いのダッカーがはしゃぎ出すとテツオ、ササマルもその様子を見て笑い出した。
攻略組には余りない和気あいあいとした雰囲気。
実はここ20層においてはそこそこ大変なエリアに向かうと言うのにこの穏やかな雰囲気を出せるのは最早彼等の特色と言っても過言ではないだろう。
「あぁそうだ。今日からサチを前衛に出すのかな?サチが前衛に出ればテツオも大分楽だと思ってるんだけど……。」
「いや、サチには前衛は無理だよ。それに今はヤヒコにシリカも居るんだ。勿論俺もいる。だから問題はないさ。」
ケイタの提案に対してキリトが答えたのは現状ではサチには前衛は無理といったものだった。
「おう!任しとけって!ちゃんとやるからよ!」
「ヤヒコ君、トドメはちゃんと譲らないとだからね?ダメだよ?ヤヒコ君がトドメ差したら。」
「わかってるって。大体この層の奴らじゃ大して経験値入んねーしな。」
「そういえば……ヤヒコ君やシリカちゃん、それにキリトはレベルはいくつ位なんだい?いや!そりゃマナー違反なのは解ってるけど3人ともこの層ならソロで活動出来る位なんだろ?ちょっと気になってさ。」
ヤヒコとシリカの会話を聞いてレベルが気になるのは当然といえば当然かもしれない。
彼等はパーティーを組むことでこの層での狩りが出来る位のレベルと聞いている。
恐らく2~1、2といった所だろう。
「俺が今32だな。シリカは確かもっと低いんだろ?」
「う、またヤヒコ君に差をつけられた……私は今28ですよ。キリトさんは?」
「……33」
「やっぱりレベル差が結構あるんだね……3人には申し訳ないとは思ってるんだけど……少しの間よろしくお願いするよ。」
「(ねぇ、ヤヒコ君、キリトさんって本当にレベルあれ位なの?)」
「(んなわきゃねぇよ。確かアオシより上だったはずだぜ?少なくとも40は越えてんだろ。)」
ヒソヒソと話をしていた2人がキリトを見るとキリトはこちらを見て人差し指を立てて口元に持ってきていた。
レベルの事は黙っていろと言うことだろう。
実際の所、最前線でも37以上のレベルを持つ者はそう多くはない。
何故ならば各層に居るmobの適正攻略レベルは層と同じレベルだからだ。
手に入る経験値も自分と敵とのレベル差が補正としてはいるのだ。
例えば100の経験値を持つ自分と同レベルの敵ならば、1.0倍て経験値が入るが、その差が1で0.9倍、2で0.8倍、3で0.7倍といった具合に減っていき、10レベル差以降は0.01倍……つまりは百分の一まで経験値が減るのだ。
その上、レベルが上がれば上がる程、当然レベルアップに必要な経験値は多くなる。
恐らくキリトがレベルを上げるには最前線で五千体を超える数の敵を狩らなければレベルアップはしないだろう。
「しっかしそれなら3人のおこぼれ貰ってるだけでも充分レベル上がるし、マジで助かるよな~。」
「そうだよな。ダッカーはスキルも上がるし俺達はレベルも上がる。本当に助かるよ。」
「そういうササマルだって槍の使い方をヤヒコ君から教わったんだろ?羨ましいよ。ほら、俺の武器って人気無いしなかなか強い使い手には会わないし。」
ダッカー、ササマル、テツオの会話を聞いて、ヤヒコはさっきキリトが自分のレベルを低く見積もった理由をなんとなく実感できた。
いや、正確には素性すら隠している理由か……。
明らかに3人は緊迫感が薄れている。流石にリーダーであるケイタや常に戦う事を怖がっているサチからは緊迫感がしっかりと伝わるがこの3人はどこか他人事というか……そう、例えるならばこれから遊園地の絶叫マシンにでも乗る前のような気楽さが伝わるのだ。
「その前に……一応わかってはいるとは思うけどこれから行く場所、死者の都はフィールドでは一番危険度が高い。準備だけは怠らないでくれ。」
キリトは全員にそう伝えるとフィールドへと歩を進めていった。
実際の所、回復アイテム等は事前にきっちり用意している。
準備とは心の準備の事だ。多少は彼等に伝わればと発した言葉だった。
死者の都について既に3時間ほどが経過していた。
キリト達は基本的には誰一人赤の危険域まではHPを減らされては居ないが実はヒヤリとする場面は何度かある。
例えば、パーティーメンバーなのに本人も含めて全員が前衛のテツオのHPに気を配ってなかったり(パーティーに加わっていないキリト、ヤヒコ、シリカが気を配っていた事で事無く済んだ)、ササマルが自身についた毒アイコンに気を配っていなかったり(ケイタが一戦終わるごとに確認している時に発覚した)、連携中にサチとダッカーが同時にソードスキルを発動してファンブルしたりと細かく言えばキリが無いほどだ。
「なぁ……こいつら、ふざけてんのか?」
「そ、そんな事はないと思うけど……でも、ミスは多いね。」
「……今は言っても仕方ないさ。とりあえず後はここの探索をしたら戻ろう。」
その後、ダッカーの宝箱トラップによって現れたドラゴンゾンビとの戦闘で初の危険域へとHPが減った仲間が出た以外は特に何事もなく街へと戻ることが出来た。
「……ケイタ、すまないが少し良いか?」
「え?……あぁ……うん、良いよ。」
サチ達を残してキリト、ケイタは集団を離れ、それに追随してヤヒコ、シリカもサチ達4人から離れた。
「ケイタ、月夜の黒猫団はいつもこうなのか?」
「いや、まぁ確かに今日は何時もより小さいミスが多かったけど……。やっぱり君達から見るとミスが多すぎるのかな?」
「つか先ず少し危機感覚えた方が良いだろ!今までこんな綱渡りな狩りをしてたのかよ!?」
「え??いや、その……まぁ。あ、でも危険域にHPが落ちたときは即逃げてたよ。」
「あ、あの、ケイタさん。基本的にHPが赤にまで落とされないと対応しないんじゃいつ死んでもおかしくないって言うか……その……。」
「ケイタ、ケイタは今後月夜の黒猫団をどうしたいんだ?正直に言って今日の戦い方を続けるなら少なくともパーティーの平均レベルから10は引いた層で活動した方がいい。」
3人から受けた指摘に表情を険しくしていたケイタだったが、今は何かを考えるように目を瞑り下を向いていた。
時間にしてみればほんの十秒程でしかなかったが、再び目を開いたケイタは明らかに先程までとは違った表情を浮かべていた。
「色々と迷惑を掛けてしまって申し訳ないと思う。……だけど僕としてはいつかは攻略組に入りたいと思ってるんだ。だから、どうすれば良いのか指南して貰いたい。」
真剣な表情で明らかに自分よりも年下のプレイヤーへと頭を下げるケイタは真剣そのもので彼らしい誠実さが浮かんでいた。
その姿を見たキリト達3人には断る理由もなく、ケイタへと了承の返事をし、今後の方針について話し合うことにする。
「先ずは……ケイタ達自身の危機管理からだ。俺が見ている限りではケイタはそこそこ危機管理をしっかりしているが……ササマル、ダッカー、テツオの3人は正直そのあたりがかなり緩い。」
「普通、前衛だけじゃなくてパーティーメンバー全員のHPには気を配るってのは全員が全員出来て当たり前だ。つーか俺も含めて多分戦闘職になった奴なら全員が全員そこを一番気にすると思うぜ?」
「後はアイコンへの興味ですね。今回はたまたま一番弱いライト毒だったから大事には至りませんでしたがデバフアイコンは本来HPゲージと同じくらい注意が必要だと思います。」
3人が矢継ぎ早に伝えていく事にケイタは真剣に聞きながら頷いていた。
無論今伝えた事などは基本中の基本ではある。
そもそもシリカが最初に会った場所はここよりも5層下の階層であり、彼等もマージンは少なくとも5以上は取るようにしているらしい。
今回は一気に上層に上がったからこその弊害だったのかもしれない。
ケイタとの話し合いの結果、せっかく鍛える事が出来る程の高レベルプレイヤーが3人居るのだから全員のプレイヤースキルの向上を当面の目標にする事になった。
「そうだ。ケイタ、サチの事なんだけど……どうしても片手剣への転向はサチでなきゃダメか?」
「どういう事だい?キリト。何か問題が?」
「……正直に言おう。彼女は片手剣やら槍やらそんな事は関係なく、戦闘そのものが向いていない。このままだと……そう遠くない内に死ぬことになる。」
「え……………。」
今度こそケイタの表情からは余裕がなくなった。
次回は月夜の黒猫団Ⅱとなります。
ご指摘、感想お待ちしております。