ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

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新年明けましておめでとうございますm(_ _)m今年もよろしくお願い致します。
今回でとりあえずサチ達、月夜の黒猫団のお話は終わりとなります。
一部オリジナルの名前等出て来ますがご容赦下さい。


月夜の黒猫団Ⅲ

「いくぞ、ユキナ。」

 

第27層主住区パンドラ。

この街にある宿屋にギルド御庭番衆は宿泊していた。

現在、攻略には一切参加していない。

理由はPoHたちの動向の調査を集中的に行うためだ。

今回、調査に乗り出した理由は血盟騎士団に残された記録結晶にある。

アスナファンクラブからのプレゼントを受け取る為の窓口にPoHからのメッセージと25層で殺害された血盟騎士団のメンバーの処刑の様子が記録されていた。

 

それが一つの手掛かりになる事などPoHならばわかっているだろうが、手掛かりを残したと言うことは逃げ切れる、もしくは決して自分には到達出来ないような方法を取ったつもりなのだろう。

 

しかし、それでもこの記録結晶がから奴につながる可能性が無いとは言い切れない。

血盟騎士団にも協力を要請し、副団長であるアスナも調査へと加わって貰っている。

 

「まちなヨ。アー坊、オレっちを置いていく気かイ?今回の調査には大分協力してるんダ。最後まで見届けないと後味が悪いじゃないカ。」

 

俺とユキナが宿屋の扉を開けた所で急に扉の横から1人のプレイヤーが現れた。

 

“鼠”のアルゴだ。

 

26層で捜査を開始した後、ほとんどすぐ調査に協力している。

実際彼女の調査能力はこのアインクラッドで最高と言っても過言ではない。

PoH達の現在の潜伏先が24層で有る事を突き止められたのも半分以上は彼女の手腕に寄るところが大きいだろう。

 

 

 

……今回、先ず俺達はアスナの先導の元、血盟騎士団のプレゼント窓口を当日担当したプレイヤーから聞き込みを開始した。

 

この窓口ではプレゼントをそのプレイヤーへと渡すとアスナへと届くという形を取っている。

無論相手も自分の名前を記入し、その上でトレードを申請する事になっているのだ。

つまり、当日の訪れたプレイヤーの名前から件の記録結晶が誰からわたったのかを特定出来る。

 

実際、名簿を見るまでは何の問題も無かった。プレゼントを受け取る本人であり、副団長でもあるアスナが窓口のプレイヤーからその名簿を受け取ったのだが、記録結晶の存在に気付いたのは半日近く経ってからという事もあり、名簿に書かれている名前は50人を超えていた。

 

……中にはオルランドやクフーリン、ベオウルフの名前まで有ったが……。

 

とはいえそれだけの人数を確認していったらそれだけで一週間以上の時間が掛かってしまう。

何せ何層を根城にしているプレイヤーかもわからないのだ。

……ちなみにアスナ自身名前までは全員は覚えていなかった。

いや、というか実際の所、贈られてきているアイテムの大半はギルドの共通ストレージに保管され、誰でも使える状態になっているらしい。

 

結果として、最終的に情報屋、鼠のアルゴに協力依頼を出したというわけだ。

アルゴは最初こそ軽い軽口を叩いていたが件の記録結晶を見せると快く依頼を受領してくれ、「オレっちに出来る事なら最大限協力してやるヨ」とまで言ってくれた。

彼女にとっても奴らは敵で有る事に変わりはないという事だろう。

 

アルゴの協力で容疑者を5名に絞り込み、更に周辺調査を行った。

御庭番衆のメンバーも総出で行い(オルランド達の張り切り方はボス戦以上だった)約10日程かけて調査した結果、その5名にPoH達とのパイプのある奴は居なかったが、その内の1人、ユダというプレイヤーに再度接触してみる事で話がつながった。

 

正確には残りの4人にも接触はしたが、その4人はアスナを見ると顔を真っ赤にしながら慌てふためいて居たのに対してユダは無反応だったのだ。

恐らくは彼が件の記録結晶を血盟騎士団へと届けた本人なのだろう。

 

彼の話ではその当日、彼が24層のNPCレストランで食事をしていると急に大柄な男が声を掛けてきたそうだ。

 

その男曰わく、血盟騎士団副団長“閃光”のアスナのファンだが以前血盟騎士団といざこざを起こしてしまいプレゼントを渡しに行けない。

どうしても閃光のアスナに謝罪をしたいから代わりにこの記録結晶を届けてほしい。

 

そう頼まれたユダは当初は断るつもりだったそうだ。

しかし、その男が出した謝礼はなんとなんとのオパールソードという売値40000コルは下らない片手剣だったそうだ。

オパールソードはその希少価値から店売り40000、オークションなら最低でも60000は下らない。

 

ただの届け物でそこまでの大金を貰えるなら……と依頼を受けたらしい。

当初、その男はその剣をそのまま渡す事でトレードにしようとしたようだが、既に以前流行った強化詐欺対策法に手渡し武器を回収する方法があった事を思い出し、トレード画面からトレードを求めると、男は色々と理由を付けてトレードを拒否していたが、最終的には折れて画面上の取引に応じたらしい。

 

 

 

「つーわけでその記録結晶は俺が渡したもんじゃねーっつーわけだ。つかアスナさん……だっけか?あんたも律儀だね~。謝罪の記録結晶の持ち主特定してわざわざ会いに来るなんてよ。」

 

「い、いえ……それでユダさん。その方の名前を教えて頂けないでしょうか?」

 

アスナがそう言うとユダは下卑た笑みを浮かべ、手を差し出してきた。

 

「タダっつーこたぁねぇよなぁ?ましてや天下に名を轟かす血盟騎士団副団長“閃光”のアスナともあろう御方がよぉ?」

 

「……わかりました。ではこちらの盾ではいかがですか?現状では最前線でのレアドロップでしか手には入らないものです。」

 

「ほほぅ……そいつぁいい。……けどなぁ……せっかく別嬪が2人も居るんだ。こんな世界だしよぉ……せっかくなら楽しいことでもしようぜぇ?」

 

舌なめずりをしながらアスナとユキナを交互に見たユダの視線に、2人は寒気が走ったかのように身体をさすって一歩後ずさった。

 

「……ユダ……とかいったな。その盾では不満か?」

 

「あぁ!?ヤローは引っ込んでろや!てめぇにゃ関係ねぇだろーが!?あぁ!?」

 

「悪いが2人を預かっている身でな。あまり悪ぶるのはやめた方がいい。それとも……死にたいのか?」

 

後にユキナとアスナに忠告されたことだが、この時の俺はかなり殺気立っていたらしい。

事実、ユダという男は素直に情報を教えてくれた。

 

 

「わ、わかった、わかったよ!チッ、ちぃっとばかしふざけただけだろーが。マジになってんじゃねーっつーの。……その男の名前はゴヘイっつー名前だったよ!無精髭に長髪の筋肉質な大柄な男さ。」

 

置かれた盾に対するトレード画面をアスナに出しながらそう言うとユダは去っていった。

とりあえずは手掛かりが繋がったんだから礼を言わねばなるまい。

 

……いや、別に構わないか……。

そう考え、立ち去るユダには特に目もやらずにメニューウィンドウを開き、早速アルゴに聞き込みと主な活動範囲の特定を依頼した。

今回は御庭番衆総出で調査に当たっている事をアルゴに伝えてあったので、今頃コタロー達も捜索に参加するはずだ。

 

「アオシさん、私達はどうするんですか?」

 

「俺達はこの層を中心に捜索を行う。先ずはゴヘイという男の捜索からではあるが奴ら自身の捜索も怠るな。」

 

「それなら3人別れての方が効率が良いわね。アオシ君、この層は確か圏外村が3つあったはずよ。先ずはそちらを中心に捜索しましょう。」

 

「了解した。では俺は望郷の里へ行く。ユキナ、お前は深淵の里へ行け。」

 

「なら私は栄華の里ね。了解したわ。」

 

この層の圏外村はそれぞれが繋がりのある一つのクエストで成り立っているらしい。

遥かな太古、栄華を極めた国が滅んだことから物語が始まり、その国にどどまって今なお過去を再現しようとする栄華の里、その国を離れ、帰れぬ故郷へ思いを馳せる者達の暮らす望郷の里、そして……故郷を滅ぼし、その時に手に入れた秘術を究めようとする者達の住まう深淵の里。

位置関係もそれぞれが一直線上に等間隔に並ぶ3つの圏外村だ。

 

「各自転移結晶は持っているな?何かあればメッセージを飛ばせ。」

 

 

2人は頷き、それぞれの担当地区へと向かう。

2人が居なくなった所で俺はある一点を凝視し続けた。

すると先程までただの壁だった場所が綻び、徐々に輪郭を現す。

 

「イスケ、もう看破されているのはわかっているだろう。用件はなんだ?」

 

綻んだ壁にそう言うとその場所からイスケが現れる。イスケの装備はその昔、俺達と同じ隠密御庭番衆だった頃から一新され、黒のロングフーデットケープ姿だった。

 

「流石はお頭。拙者の隠蔽スキルを見破るとは思わなかったでゴザル。」

 

「以前してやられているのでな。索敵はマスターした。後は勘だな。」

 

「いやはや、流石としか言いようが無いでゴザル。……拙者が集めた情報、必要ではゴザらんか?」

 

「……それはフジタの指示か?」

 

「拙者の判断でゴザル。ゴヘイ、そしてキヘイという2人組の小悪党の調査は新撰組でもしていたのでゴザル。」

 

……つまり新撰組は既に25層時点……いや、血盟騎士団の団員殺害があった時点から調べを始め、どういったルートかは分からないが俺達よりも先に奴らの尻尾を掴んだと言うことか。

 

「……そうか。ならばその情報、ありがたく聞こう。……だが一つ聞きたい。記録結晶もなしにどうやって奴に辿り着いたのだ?」

 

「偶然でゴザルよ。新撰組の大半は最前線ではなく中層で活動しているでゴザル。稀に手に入る奴らの手掛かりを追っていたらあの2人も関わりがあると言う事に辿り着いたでゴザル。」

 

つまりは奴らはこのあたりの層ではそこそこ活動していた小悪党でたまたま調査中にPoH、もしくはその仲間と共にいるのを確認したと言う事だろう。

とはいえ……アルゴもあまり知らなかったプレイヤーという事はよほど小さな事しかしていないのだろうな……。

 

「まぁざっくり説明すると主な主犯はキヘイの方で、ゴヘイに関しては使い勝手が良い駒といったとこでゴザろう。主にトレード詐欺や偽情報の売りつけを稀にやる程度ではゴザルが……PoHの知恵をつければなにをするかわからんでゴザル。」

 

「PoH自身の情報は無いのか?」

 

「残念ながら奴らの姿を確認する事は出来ても拙者達では手に負えないでゴザル。フジタ殿もオキタ殿も隠蔽は一切使えぬ故……。」

 

「……そうか。わかった。では今その2人が行る場所を教えてくれ。」

 

「この24層主従区シャンドラにここしばらくは留まっているでゴザル。狙いはわからないでゴザルが……。」

 

シャンドラ……か。つまりは圏外村ではなく堂々とこの層の中心部に居るわけだ。

……今、俺の隠蔽は400程度だったはず……。ユキナも隠蔽は取らせているが恐らくさほど変わるまい。

……万全を期すならアルゴの協力も不可欠だな……。

 

「そうか。情報感謝する。……イスケ、お前はどうするのだ?」

 

「……拙者は拙者で別の用があるでゴザル。新撰組の密書ゆえお頭といえど内容は明かせぬでゴザル。……では、御武運を……さらば!」

 

以前と同じく空間に溶けるように姿を消し、移動を始めたイスケは俺でも既にどこに居るかは全くわからなくなった。

……とりあえず、俺はユキナ、アスナ、アルゴに主従区シャンドラへと集合する旨を伝え、更に御庭番衆全体には即座に動けるようにこの層へと集結するようにメッセージを送る。

欲を言えばキリト、エギル、クラインにも協力を依頼したい所ではあるが、キリトは確か今日は望郷の洞窟にレベリングに向かっているはずだし、エギル、クラインには俺達が抜けた穴を補ってもらっているので流石に協力は依頼できまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主従区に戻って一時間。ようやく俺達は目的の人物、キヘイとゴヘイを見つける事が出来た。

ゴヘイは情報通りの姿だったのですぐにわかったが、キヘイに関しては想像とは大きく違っていた。

ゴヘイに対し、身長が半分程度しかないような小男で、その上、明らかに60はいっているのではないかと思う容貌の御老だった。

2人は若い男性プレイヤーとなにやら話をしているようで、その話の内容こそ分からないが、話を聞いている男性プレイヤーの顔が徐々に青ざめていっているのは見て取れる。

 

「アルゴ、あの男の素姓は調べられるか?」

 

「……調べるに値しないナ。彼はオレっちの常連だヨ。アー坊も間接ながら多少の関わりはあるゾ。」

 

アルゴに言われ、記憶を探していくが心当たりは無い。少なくとも会話した事は無いはずだ。

 

「……彼は月夜の黒猫団のギルドリーダーだヨ。ここ二週間はアー坊のとこのヤヒコちゃんやシリカちゃん、それにキー坊が色々と世話しているギルドだからナ。アー坊も知っているんだロ?」

 

「……残念だがギルド名のみだな。俺自身は関わっていない。」

 

「……キリト君、ボス戦に参加していないと思ったらそんな事してたのね。でも……彼が誰かと関わるような事を出来るようになったなんて……。」

 

ふと隣に佇んでいるアスナの顔を見ると、その表情からは嬉しさ半分、寂しさ半分といった様子が見て取れた。

彼女にしてみればキリトが人と関わるようになった事、それそのものは嬉しいのだろうが、同時にそれは自分自身でありたいとも思うのだろう。

実際アスナと別れてからのキリトは、俺達御庭番衆ともボス戦以外ではあまり関わらず、エギルやクラインとも必要最低限にしか関わりを持っていなかった。

 

そんな裏で彼女はずっと各方面に働きかけ、“ビーター”という蔑称を払拭しようと尽力し、今では“ビーター”よりも“黒の剣士”の通り名の方が遥かに有名になった。

無論、古参のプレイヤーは誰がこのアインクラッドで一番最初の“ビーター”となったのかを忘れてはいないし、中層、下層のプレイヤー達も“悪の黒ビーター”なる存在は周知されている。

最も、それはアスナ、そしてアルゴや俺達、その他にもエギル等によってキリト=黒ビーターとはならないように情報操作をしたが……。

 

「……アスナ、お前のしてきた事が実を結んでいるのだろう?キリトにあのギルドの指南を依頼したのは俺達だが、それでも彼が素姓を隠していられるのは間違いなくお前の功績だ。」

 

「そうですよ。アスナさん。アスナさんの頑張りは皆が知っています。知らない人なんて居ませんよ。きっと……キリトさんも薄々気付いていると思いますよ。」

 

俺とユキナの言葉を聞いて顔を真っ赤にしたアスナは、あわてた様子で早口にまくし立てた。

 

「ち、ちがっ……わ、私は、そんなつもりじゃ!?た、ただあの人は実力あるしソロでいるのは勿体ないし……と、とにかく!そんなんじゃありませんからね!」

 

顔を真っ赤にしながら慌てて否定してはいるが説得力の無いそのセリフを聞いてユキナとアルゴがニヤニヤとしながらアスナを見ていた。

 

「もう……と、とにかく、今はそんな事よりあの2人の事を調べる方が先決でしょう!……アルゴさんもユキナもニヤニヤしてないで向こうを気にして下さい!」

 

「……月夜の黒猫団のリーダーならばもう行ってしまったぞ。」

 

俺の言葉に3人がそちらを見ると、その場に居るのはキヘイとゴヘイの2人だけになっていた。

 

「ありゃりゃ。それでアー坊、この後はどう動く気だイ?とりあえずキー坊に今の情報を伝えとくのかナ?」 

 

「……いや、あえて伝えずに泳がせてみるか。奴らがもし本当にPoHと繋がっているならば下手に動くよりも泳がせている方が釣れるだろう。」

 

俺の提案にアスナ、アルゴの2人は多少懸念があるようで少し考え込んで居るようだ。

恐らくはキリト自身に危険が迫るのではないかと心配しているのだろう。

確かに釣り……つまりはキリト自身、もしくは月夜の黒猫団を囮にする以上リスクが全くない訳ではない。

しかし、俺達がこの2人を完全にマークしていればおそらくはキリト達が襲われる前に対処出来るはずだ。

 

奴らを尾行するのはアルゴに頼むより他無いが恐らくは上手くいく。

万一接触現場でPoHを取り逃がしたとしても、奴の性格上そのまま作戦を継続するとは考えづらい。

 

 

「……わかりました。……なら私は月夜の黒猫団の方の監視、護衛に回ります。キリト君ならもしかしたら気付くかも知れないけど……どうにかごまかしてみる。」

 

……ふむ。まぁ保険という意味合いでは悪くはないか。……最も最良としてはキリトにすら気付かれない事ではあるが……。

 

「わかった。とはいえ恐らくはキリトの索敵も相当に高いだろう。最低でも50メートルは距離を取るようにしてくれ。」

 

アルゴが日中奴らが動いている際の尾行。俺とユキナは奴らが宿や定位置で止まった際に張り込み、そしてアスナは月夜の黒猫団の護衛という事で決定した。

 

ナーザ、コタロー、オルランド、ベオウルフ、クフーリンには知らせが入り次第10分以内に駆けつけられるように指示を出し、作戦は開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

「サチ、大丈夫か?」

 

俺達は洞窟からこの主従区シャンドラへと戻ってからドロップ品の仕分けや装備の更新、修繕、アイテムの補充や今日の反省会等をしている。

その中で、疲れたのかサチの頭が舟を漕ぎ始めた。

 

「だ、大丈夫……ちょっと疲れただけだから……もう少しくらいなら平気だよ。」

 

「おいおい、サチ~、無理すんなって。今日の反省会っつったって結果は上々なんだしさ、少し休んどけよ。後で今居ないケイタと一緒に教えてやるからさ。」

 

「ダッカーの言う通り無理しなくて良い。別にこの後また狩りに行く訳じゃないんだし少し寝てきた方が良い。」

 

「う、うん……。じゃあ……少しだけ寝てくるね。……ごめん。」

 

サチはそう言うと宿屋の二階へと上がっていった。

ちらちらとこちらを気遣うように申し訳無さそうな顔をしていたが、やはり無理をしていたのだろう。

普段であればもう少し粘ろうとするものが素直に休んだのだから。

 

 

「さて……今回の反省点だけど……先ずは済まない……。フォローすると言っておいて君達にボス戦を任せてしまった。それは俺の落ち度だ。」

 

「へっ……なぁ~に言ってんだよ、キリト。充分フォローしてんじゃねーか。ボス戦だって、そりゃ……戦闘そのものには手助けしてくんなかったかもしんねーけどさ、的確に指示だしてくれてんだ。これ以上は俺達に対して無礼っつーもんだろ?なぁ?」

 

「そうだよ!キリトは抱え込みすぎだよ。僕達にも少しは良い格好させてくれないと。」

 

……いや、いくらダッカーやテツオがそう言ってくれても実際問題、俺の予測が甘かった事は否定できない。

今回はヤヒコやシリカ、それに他の皆も頑張ってくれたから死者は0ですんだ。でも、万一俺が自分のシャドーに負けていたら……他のメンバーがやられていたら……。

そう考えると背筋が寒くなる。

 

「それにそんな事言うなら俺とテツオなんてシャドーを一体も倒してないしな~。」

 

「ははは……僕も倒してないよ。むしろサチは2体倒してるし、ケイタもシリカちゃんのシャドーを倒すっていう大功績を上げたのにね。」

 

笑いながら沈んでいく3人を見て、不意に笑いがこみ上げ、ついつい笑ってしまった。

アスナとのパーティーを解散してから一度も心から笑えなかったのに……。

この二週間何度もこういった様子は見てきた。

正直に言えばここに入りたいと思っているのも事実だ。

しかし……それは叶わない……いや、叶えてはいけない。

彼等はいずれは攻略組へと上がるだろう。

そうなれるような指導をこの二週間してきたつもりだし、彼等自身(サチに関してはそうとは言えないが……)にも素質はあると思う。

だが、それはあくまでも俺が居なければだ。

俺が居れば恐らくは攻略組から良くは思われない。むしろ必要以上の役割を求められかねないだろう。

 

俺は“ビーター”なのだから。 

 

 

「なぁキリト、話聞いてんのか?」

 

潜っていた思考の海からいきなり意識を現実へと戻された。

どうやらササマルが何かを話しかけていたらしい。

 

「わ、悪い。何の話だったっけ?」

 

「だから稽古を付けて欲しいんだって。今までの基礎じゃなくて実戦的なやつをさ。武器だって今は同じなんだし、シャドーと戦ってた時みたいな戦い方も稽古次第で出来るようになるはずだろ?」

 

「あ、ああ……。でもあくまで動きの触り位しか教えられないぞ?やっぱりこういうのは慣れが大事だからさ。」

 

「わかってるって。でもさ、やっぱりキリトは凄いよ。あの動きにしてもなんて言うか……そう、人間の限界を超えてるみたいでさ。やっぱ憧れるし目標にしたくなる。」

 

純粋にそう思っているのだろう。ササマルの表情はまるで目指しているスポーツのプロの動きに憧れているような……そんな表情が見て取れた。

 

確かにササマルの言う通り、理論的には全く同じ動きも可能なはず。

この世界には男とか女の肉体的限界すらないのだから、同じレベル、同じ割り振りならシステム的には全く同じ動きだって出来ないことではないはずだ。

唯一、プレイヤー依存である次どう身体を動かすかとか相手の攻撃に対する反応とかが差となるとは思うけど……それも多分慣れだと思うしな……。

 

純粋な憧れを抱いてもらって悪い気なんて勿論するわけもない。

もう少し付き合うんだし、残り一週間、サチみたいに実戦形式で特訓するのも悪くないかな……。

 

そう考えていた時だった。

街に買い出しと売却に行っていたケイタが宿屋に戻ってきた。

ちなみにヤヒコとシリカはこの後、使い魔用のクエストでこなしたい物があるらしく戻るなり早々に上層である26層へと出発した。

 

「ケイタ、お疲れ。少し時間かかったな。プレイヤーショップに売却してたのか?」

 

「い、いや、なんか新しいクエストが見つかったらしいって話だったからさ、その情報も集めてたんだ。僕達向けのクエストみたいだからさ。」

 

「へぇ~!なぁケイタ!それ、どんなやつなんだ?報酬は?勿体ぶらずに教えろよ~?」

 

なかなか言おうとしないケイタに待ちきれない様子でダッカーが詰め寄り、それに呼応するようにササマルやテツオもケイタに詰め寄っていく。

 

それにしても新しいクエストか……。収集系か……それとも虐殺系か……。

まぁきっと報酬は良いんだろうな。

 

「ちょっ!?おまえ等なぁ!今教えるから子供みたいに服を引っ張るなよ!?今の所わかってるのは種類は虐殺系で報酬はやったプレイヤーの装備品と同じ種類の上位互換らしい。でもまだ情報が揃ってないから、やるのは明日以降になるかな。だから今日は出来ないってさ。」

 

ケイタの話に3人は一斉に盛り上がり、ケイタに良くやった!流石はリーダーと囃し立てていた。

確かに魅力的なクエだ。

上位互換(まぁたぶん1ランク上程度だろうけど)ならば使えない物は来ないし、確実に装備は良くなる。

もうこの辺りに来ると強化試行回数こそ殆ど変わらないが基礎スペック自体がだいぶ変わるからな。

 

その後は新しい話もなく、皆疲れているようだったので解散し、それぞれ宿屋の部屋へと上がっていった。

既に時刻は夜の8時をまわっている。

街に戻ったのが5時頃だったから3時間売却やら消耗品の補充、反省会等にかかったというわけだ。

ヤヒコ達も明日の夜には戻るみたいだし他のメンバーも床についた。

 

とりあえず……少し最前線でレベリングでもするかな。

 

そう考え、宿屋の扉を開けて歩き出して数分、俺は妙な視線を感じて辺りを見渡す。

……妙だ。確かに視線を感じる。しかし、辺りには誰もいない。

 

宿屋の扉を出てから少し感じていた視線、それが一歩進む毎に強くなっているのを感じている。

とりあえずそのまま進んでいくと今度は感じる視線が弱くなった。

 

(あの辺りか……。)

 

俺は恐らく居るであろう者から距離を取って隠蔽スキルを発動させた。

現状スキル値は500程度だが装備による隠蔽スキルブースト効果と夜闇の相乗効果で隠蔽率は88%程になる。

最も動きはゆっくりでないとあっという間に0になってしまうが……。

 

隠蔽を発動させた俺はゆっくりと先程視線が強くなった場所へと向かう。

その場所とは、……この層にもう一つある宿屋である。

恐らくは俺の姿を見て様子を見ていただけだろうとは思うが……どちらにせよどこの誰か位は把握しておこう。

もし万が一、俺……ビーターに何か怨みのあるプレイヤーだったとしたなら月夜の黒猫団のメンバーに迷惑が掛かりかねない。

 

最も宿屋のどの部屋に泊まっているのかはわからないが、幸いこの宿屋には部屋は六個しか無い。

片っ端からノックしてみればいい。

 

そう考えた俺は宿屋の扉を端から順にノックしていく。

この層の宿屋は今俺達が泊まっている方が大きく、設備も良くて安い。

また、ここと俺達の泊まる宿屋しか宿屋そのものは無いのだが、確かまだ大きい方の宿屋も空きはある。

だからだろう。ノックの結果、宿泊していたのは1人だけだった。

 

「どなたですか?」

 

ノックをした後に出てきてくれるかと思えば、部屋から出て来ず、言葉が返ってきた。

そしてその声は……。

 

「……こんな所で何をしてるんだ?……アスナ。」

 

声をかけると同時に宿屋のドアが開錠される音がした。

ドアノブをゆっくりと回し、部屋に入ると、そこには白を基調に赤の装飾を施した血盟騎士団の制服姿のアスナがテーブルに座っていた。

 

「こんばんは。キリト君。こうやって1対1でお話するのは久し振りね。」

 

テーブルにはティーカップが2つ、片方を俺に勧め、ゆっくりとした動作で紅茶?のように見える物を飲みながら話しかけてきている。

俺も円形のテーブルの対面に腰掛けると渡されたティーカップの中にある紅茶?の様なものを一口飲む。

…………昆布茶かよ……。良かった。砂糖とミルクを入れないで。

 

「ちぇっ。惜しかったなぁ。キリト君が砂糖とミルクを入れて飲んだら大笑い出来たのに。」

 

「確信犯かよ……。まぁ昆布茶は嫌いじゃ無いけどさ。それで?アスナ。こんな所で何をしてるんだ?」

 

一瞬。ほんの一瞬だけアスナの表情が強張った気がした。

 

「良い細剣の素材になる物がこの層のクエスト報酬にあるの。それを手に入れようと思って。」  

 

「へぇ……珍しいな。血盟騎士団ならそれ位仕入れそうなものだけど……。」

 

「あら。私達だって自分の分の素材集めくらいはするわ。そりゃ中には仕入れた物を使って装備のランクを上げている人も居るけど大抵は新人だけよ。」

 

そういえばアスナは自分の武器にはこだわりが有ったな。……きっと今でもウインドフルーレの血統を受け継いでいるのだろう。

 

「確かにアスナらしいな。……さてと、じゃあ俺は行くよ。……色々サンキュな。」

 

俺はそういいその場を立ち去る。アスナは何か信じられないものでも見たような表情をしていたが照れくさいので早々にその場を立ち去った。

アスナは俺とパーティーを解散してから色々と動いてくれているのは流石に俺でも気付いていた。

一番の理由はボスレイドの時だ。

実は12層、13層では俺はボスのレイドに加えて貰えなかった。

理由は単純にソロだからだ。

血盟騎士団、御庭番衆、風林火山、エギルのパーティーも一杯だった事もあり、空きのあるドラゴンナイツ、アインクラッド解放隊に混ぜてもらおうとしたが、どちらも取り付く島もなく結局その2層ではボスレイド外として参加せざる負えなかった。

 

続く第14層、やはり入れないかと思っていたが、なぜかアインクラッド解放隊からパーティーに混ぜてもらえ、それ以降は何だかんだと色々なギルドに混ぜてもらいながらレイドに入れている。

アオシとエギルは決して口を割らなかったがクラインは問い詰めたらポロリとアスナの名前を漏らし、その後、たまたまアスナが俺を入れてくれたパーティーに頭を下げているのを見かけたというわけだ。

俺個人だけではなく他のソロや少数パーティーに関してもレイドに参加できるようになっている事から全体に号令を出したのだろう。

 

……リンドやキバオウが素直にアスナの号令に従ったのは不思議だが……。

 

そんな事を考えながら最前線でレベリングをしていた俺だがなかなかこの層の敵は厄介だ。

油断しているとデバフを受けかねない。

一応ソロで活動している手前、耐毒はかなり上げてはいるが、悲しいかな……パーティーを組んだタンク程はソロでは上げられず、稀に毒や一時行動不能のデバフを受けている。

バトルヒーリングスキルの熟練度上げにはちょうど良いが、回復アイテムもだいぶ減ってきたしそろそろ良い時間だ。

もう戻った方が良いか……。

 

そう考えた俺は24層へと戻った。

 

 

『キリト、ケイタが1人でクエストに行っちまったみたいなんだ!このメッセみたらすぐに連絡が欲しい!』

 

戻って早々に届いたメッセージを見て少し驚いた。

ケイタがまさか単独行動をするとは思っていなかったからだ。

 

『今見た。今はまだ宿屋か?』

 

『まだ宿屋だ!すぐ戻れるか?』

 

『五分で戻る!全員そこにいてくれよ!』

 

メッセージを打ちながらもAGI全開で街を駆け抜ける。

この層のクエストでも収集系だったら恐らくケイタなら大丈夫だとは思うが……。

万が一、先程言っていた新しいクエストだったとしたら厄介だ。スローター系のクエストなんてほぼ確実にクリアできない。

それだけならまだしも最悪死ぬ事すらあり得る……。

 

宿屋に着くと、落ち着き無くウロウロするダッカーや涙ぐんでいるサチ、マップを見ながら考え込んでいるササマルとテツオが居た。

 

「遅くなった!ケイタはどこに向かったんだ!?」

 

「「「「「キリト!」」」」」

 

全員が同時に此方に駆け寄るとサチがケイタが残したらしいメモ書きを渡してきた。

 

『嘆きの黒衣というクエストをしてくる。皆は疲れてるだろうし休んでていいよ。』

 

嘆きの黒衣……確かあれはボス戦を含んだクエストだったはずだ。

それも難易度は恐ろしく高い……。

少なくとも俺やアスナ、アオシでもしっかり準備して行っても死ぬ可能性がかなり高い要注意クエストの1つ……。

何故そんなクエストを……。

 

「まずいな……急いで追うぞ!」

 

俺は索敵からの派生スキル、追跡を発動させた。

今の熟練度ならば一時間程度までは足跡を追跡出来る。

現れた足跡を辿り、その行く先へと急いで移動を始めた。

 

 

 

 

 

ケイタの足跡は想像の範囲内で最悪の場所へと続いていた。

このクエストはクエスト受注→情報提供して貰う為の素材集め→ダンジョン内キーアイテム獲得→嘆きの深淵でのボス戦となる。

その順番通りに足跡は進み、既に嘆きの深淵へと続いている。

 

(くそ!間に合ってくれよ!)

 

気持ちに焦りが生じる。

ボスとの対決が始まるまでに多少の会話イベントが発生するとはいえそんなのは多少の時間だ。

せめて誰かが近くに居てくれれば……。

そう考えながら先を急いでいた俺達の耳に、やがて剣撃のぶつかり合う音が聞こえてきた。

その音を聞いた俺達は全速力でその場所へと向かう。

 

 

 

「ケイタ!無事か!?」

 

飛び出した戦場にいたのは2人。1人は勿論ケイタだ。

しかし、ケイタは既に後退し、回復に回っているようだ。

ゲージは黄色の注意域に入ったところからジワジワと回復している。

ケイタの無事を確認した俺達はすぐに視線をイベントボス“ブラック・ドレス・クリミナル”へと向ける。

 

禍々しさこそ全身から吹き出すように感じるが、見た目だけで言うなら黒のドレスとフーデットケープを羽織った女のプレイヤーと変わらない。

プレイヤーと違うのは朱い眼に紫色の肌位なものだろう。

対して現在、黒衣の罪人と対峙しているのは長い栗色の髪に、透き通るような白い肌をした女性。

繰り出す超速の刺突から“閃光”の異名を持つ、血盟騎士団副団長“閃光”のアスナだった。

 

何故アスナがここに?といった疑問はあったが、彼女の劣勢を見てその疑問を棚上げにして即座に戦場へと駆け出した。

 

彼女を死なせるわけにはいかない!

 

体勢を崩し、黒衣の罪人の一撃をその身に受けそうになっていたアスナの前にその身を割り込ませ、襲いかかってきた剣を弾き飛ばす。

 

「スイッチ!」

 

俺が黒衣の罪人の剣を弾き、体勢を崩させたのと同時にアスナに叫ぶ。

しかし、それよりも早く光速とも呼ぶべき神速の連刺突が黒衣の罪人へと襲い掛かる。

 

「キリト君!」

 

更に体勢を崩した敵へと追撃のソードスキルを放つ。

俺の硬直が解ける前に繰り出された敵の斬撃はアスナが上手く捌き、二人揃って距離を取った。

 

「アスナ、色々聞きたいこともあるけど先ずはここを切り抜けるぞ。」

 

俺の言葉に対して軽く頷き、愛剣をお互いに構える。

アスナが前に立てば全ての攻撃を俺が弾き飛ばし、声をかける必要もなく前衛と後衛が入れ替わる。

俺が前に立てば俺の隙を埋めるようにアスナの連撃が放たれ、それですらも埋められなければアスナは攻撃を受け流していく。

黒と白の2人の演舞は、黒衣の罪人に反撃を成功させる事も大きく距離を取ることも許さず、そのまま追い詰めてポリゴン片へと爆散させた。

 

キラキラと青い光を放つポリゴン片の雪の中、2人の剣士は一気に疲労が来たように崩れて座り込んでいた。

 

月夜の黒猫団のメンバーは呆気にとられた様に見ているだけだった。

……流石にバレたかもな……。

“閃光”のアスナと同等の動きをした事で、少なくとも攻略組の人間だという事はバレただろう。

 

「キリト!すっげー……?」

 

数秒間呆けていた月夜の黒猫団のメンバーだったが、ようやく混乱が治まったようで、そう言いながら駆け寄ろうとしたダッカーだったが、その動きは糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちた。

 

異変に気付いたキリトとアスナが月夜の黒猫団へと振り返るとつい先ほどまでは居なかった4人のプレイヤー……PoH、XaXa、ジョニー、モルテ……が立っていた。

その足下には月夜の黒猫団全員がダッカーのように横たわっている。

キリトが慌てて仲間のHPバーを確認するとそこには麻痺と毒のふたつのデバフアイコンが表示されている。

 

「……PoH……。」

 

「Hei、“閃光”に“ビーター”。久しぶりじゃねぇか。こんな所でお前等に会えるたぁ嬉しいぜ?」

 

「ヘッドぉ、コイツ等どうします?どんな殺し方にすれば面白いッスか?」

 

「まだ、コイツ等には、価値が、ある。1人は、残さなくては、駄目だろう。」

 

「そぉですよぉ。自分恐がりですからぁ……“閃光”と“ビーター”の2人がいつ攻撃してくるか怖くて怖くて。ほらあんまり恐いから口元が笑っちゃってますよぉ。」

 

PoH達4人が立つ位置は絶妙だった。

ソードスキルを使用しようが回避は可能。しかも4人も居れば一瞬で月夜の黒猫団の誰かは殺されるだろう。

 

「……PoH。何のつもりだ?俺はこのクエやってる奴が居るっつーからフラグを横取りしようとしてるだけだぜ?そいつ等に何をしようと関係無い。俺とやり合う気が無いならそこをどけ。」

 

「フ、フフフ。“ビーター”らしいな。だが残念。もう調べはついてる。お前はコイツ等を見捨てないさ。」

 

「そぉですよぉ?もし無関係ならこの人達の誰か1人でも殺してみましょうよぉ。そしたら信用するかもですよぉ?」

 

「……あなた達ね!さっきから聞いていれば……。さっさと彼らを解放しなさい!」

 

「“閃光”、お前は、黙っていろ。それとも、俺達4人に、たった2人で、勝てるのか……?」

 

XaXaのエストックが一番そばにいるダッカーの背に突き刺さった。

流石に一撃でHPバーが消えたりはしないが背筋に冷たい物が走る。

 

「僕を……騙したのか……。」

 

その様子を見たケイタが蚊の鳴くような声でそう言うのが聞こえ、それを聞いたPoH達が高笑いを始める。

 

「あららぁ?なぁにいってるんですかぁ?自分達が騙したなんて人聞き悪い事言わないで下さいよぉ?ただ教えたのはキリトさんが黒ビーターだって事とこのクエストの報酬ですよぉ?」

 

「そうそう。この報酬ならきっと本性だして獲得に動くと思うって言っただけだもんな。ま、まさか“閃光”が同行しているっつーのは想定外だったんだけどな。良かったなぁ。生き残れて。……ま、結局死ぬんだけどな。アハハハハ。」

 

「Hei、怨むんなら“ビーター”にしてくれよな?俺達ゃお前等なんぞに興味は無いんだ。たまたま奴と一緒に居たから利用しただけだぜ?」

 

ニヤニヤと笑いながらPoHは大型のダガーを手の中でくるくると回し、ケイタへと近付いていく。

 

「く、来るな……こっちに来ないでくれ……い、嫌だ、嫌だぁー!!」

 

「や、止めろ!PoH!」

 

その光景を見て思わずPoHへと放ったソードスキル“ソニックリープ”はPoHに届く事は無く、間に居たXaXa、モルテによって防がれ、同じくアスナも駆け出していたがジョニーに阻まれていた。

 

「イッツ・ショウ・タイム」

 

PoHの振り下ろした大型のダガーは寸分違わずに首を斬り裂き、HPが黄色を通り過ぎ赤へと減りそして……0へとなった……。

 

「う、うぁぁ、あぁぁ……か、勝田……?勝田ぁ!!」

 

「ダッカー……?うそ、だろ?……PoH!!き、貴様!」

 

自分の真隣でポリゴン片となり死んでしまったダッカーの名残を実名で呼び続けるケイタを、怒りを露わに剣を振るう俺をあざ笑うかのようにPoHは高笑いをしていた。

そこに更に茂みから二つの人影が現れる。

1人は大柄で長い髪に長い口髭を生やした大男で、もう1人はその男の半分程度しか身長のない好好爺風の小男だった。

 

「Hei、遅かったじゃねぇか。キヘイ、ゴヘイ。先に楽しんでるぜ?せっかくだ。お前等も楽しむか?」

 

「すいませんねぇ。PoH様。コイツが道に迷ってしまいまして……。」

 

「そう言うなよ兄貴。所で良いんですかい?儂等も楽しんじまって。」

 

「HA、構わねぇよ。とりあえず駆けつけ一殺やっときな。」

 

PoHのセリフを聞いてゴヘイは嬉々として急いでPoHの隣に行き、その足下にいるササマルに対して腰の大刀を振りかぶり、振り下ろした。

大刀はササマルの足を深く斬り裂く。

恐怖で叫び声を上げるササマルを見てPoH達はニヤニヤと嬉しそうに笑い、再度ゴヘイは大刀を振り上げる。

 

「や、止めろ!止めてくれ!頼む!これ以上僕の仲間を……友達を殺さないでくれぇ!!」

 

ケイタの悲痛な叫び声、サチの泣き声、テツオの怯えた声、アスナの制止しようとする声、ササマルの命乞いをする声、そして俺の怒りに満ちた声が同時に《止めろ》と叫んだ瞬間、黒い影がササマルとゴヘイの間に割り込んだ。

 

「御庭番式小太刀二刀流 回転剣舞・六連!」

 

突如として間に割り込んだ黒い影はアオシだった。アオシはゴヘイの隣に立っていたPoHもろとも、黒い光を纏った二振りの小太刀の一瞬六斬の斬撃で薙払う。

 

しかし、その斬撃をPoHは何発かはダガーで、そして残りをヒルマの身体を使って防ぎきった。

 

「Hei、、“黒の忍”。何でてめえがここにいやがるんだ?」

 

3度の斬撃をその身に受けたヒルマが回復結晶を使用しHPを回復する。

 

「答える義務はあるまい?」

 

更に肉迫し、PoHへと迫るアオシだが横からヒルマによって放たれた刀カテゴリーのソードスキル“浮舟”によって距離を開けられる。

 

「き、貴様!良くもやってくれたな!儂が斬り捨ててくれるわ!」

 

「貴様などの相手をしている暇はない。失せろ。」

 

「なんだとぉ!?貴様、この儂にむか!?!?」

 

怒りを露わにし、大刀を振りかぶっていたゴヘイの怒号は突然の轟音にかき消され、さっきまで居たはずの場所からゴヘイは吹き飛んだ。

 

「阿呆が……こんな小物の話を聞く必要は無いだろう。」

 

「WOW。こりゃすげぇ。で?……お前は何者だ?」

 

「……ギルド新撰組三番隊組長フジタ。貴様の命、もらい受ける。」

 

PoHは不敵に笑い、余裕を見せながらも隙を見せず、ダガーを構えた。

 

 

 

「いや!?」

 

俺を含め、全員がアオシ、フジタ、PoHへと注意が集まっていた。

それがいけなかった。俺にはXaXaとモルテが、アスナにはジョニーが、そしてPoHとはアオシ、フジタが対峙し、ゴヘイが吹き飛んだ今でも1人自由に動けた者が居たのだ。

 

キヘイは未だ麻痺から回復していないサチを羽交い締めにし、その首元に小降りの短剣を押し当てていた。

首や頭は心臓を上回るクリティカルポイントになる。

恐らく、毒でHPが半分を下回っているサチではその一撃を喰らえばHPの全損は免れないだろう。

 

「さ、サチ……や、止めてくれ!頼む!俺が代わる。だから……だからサチは!」

 

「ケ、ケイタ……。」

 

すぐそばにいたケイタはサチの足を掴みながら、必死にキヘイに嘆願していたが、無情にもキヘイはその手を先程吹き飛ばされ、地面に斜めに立っていたゴヘイの大刀を足で踏みつけるように使い、斬り落とした。 

 

「いやいや、儂もこの体勢から変わったら瞬殺されかねないのでねぇ……。悪いがこのお嬢さんは離せないんですよ。

それとも正規ギルド……それも攻略組ともあろう御方が何の罪もない少女を見殺しにする気ですかな?さぁ……武器を下に置きなさい。」

 

「Hei、ジョニー、XaXa、モルテ、こっちにきな。」

 

PoHの呼びかけに3人は即座にPoHのそばへと戻った。

位置関係としては俺やアスナは追えただろう。

ただし……それには高確率でサチの命は無くなってしまう危険がある。

 

「さぁ、さぁ、さぁさぁさぁさぁさぁ!なにをしてるんです?この少女が死んでも良いのですか!?」

 

小さな鍔音が響き、その動きを眼で追うと1人、刀を捨てるどころか構えを取っている男が居た。

 

「阿呆が……貴様らを逃がせばそれこそ多数のプレイヤーが死ぬ事になる。必要な犠牲ならば俺は躊躇うつもりは無い。」

 

「よ、よせ!フジタ!」

 

俺は咄嗟にそう叫び、剣を地面へと突き刺した。

それが合図になったかのようにアスナも細剣を地面に突き刺す。

 

そして……一瞬視線が俺達に集まった。

次の瞬間、アオシとフジタは一気に距離を詰めるべく駆け出す。

 

「お、おのれ!ならば望み通りこの娘を殺してやるわ!!」

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る。破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威を持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!雪霞狼!!」

 

振り上げられた短剣がサチへと突き刺さるか否かの刹那、突如として降り注いだ雪霞狼の一撃がキヘイの腕を斬り落とし、サチを奪い去る。

腕が無くなり、動揺したキヘイはフジタの牙突を、アオシの陰陽交叉を受け吹き飛ばされた。

目を凝らして見るとHPバーはほんの少し残っているようだが衝撃で意識を失ったのだろう。

 

「WOW……こりゃすげぇ。いや、大したもんだぜ?」

 

PoHは拍手とともにそういうと何かを投げた。

投げつけられたユキナがそれを斬り払うとあたり一面を煙が包み込み、その瞬間4人の転移結晶を使う声が響いた。

 

「次はもう少し楽しもうぜ……。see you again。」

 

煙が晴れたときには既にそこには4人は居なくなり、無様な格好で気を失っているキヘイとゴヘイだけが変わらず転がっているだけだった。

 

「チッ……逃げやがったか……。おい、黒の忍。その二人はロープで縛って情報を引き出せ。」

 

「な!?あなたに言われるまでもありません!というかそもそもあなたに命令される筋合いは無いと思いますけど!?」

 

フンと鼻を鳴らすとフジタは立ち去って行った。アオシは無言でキヘイとゴヘイをロープで簀巻きににし、わざわざポーションを口に突っ込みHPを回復させている。

 

「アオシさん、どうしてわざわざ回復をしているんですか?」

 

「2人を持ち上げるだけの筋力値の余裕はない。それに……コイツ等からは引き出せるだけ奴らの情報を引き出すからな。……死の一歩手前ではなにもできん。」

 

そういうとアオシは2人のロープをしっかりと結び、持ち手を2つ作った。

 

「……キリト、救援が遅れてすまなかった。今回の件は全て対処に遅れた俺の責任だ。すまない。」

 

アオシはそういうとロープの片方をユキナへと渡し2人を引きずりながら去っていった。

俺は緊張の糸が切れたようにその場に座り込んでしまい、俯いた。

……助けられなかった。目の前に居たっていうのに……ダッカー……。

 

俯いている俺の肩に手が添えられる。

ふと顔を上げてみるとすぐ横に座っているアスナの顔が見えて慌てて顔を伏せる。

 

 

 

 

 

 

「何で……何で僕達が……ダッカー……。」

 

 

 

顔を上げざる終えなくなったのはケイタの悲痛な泣き声が聞こえたからだ。

サチも、ササマルもテツオも同じ様に泣いている。

たまたまダッカーが麻痺した時に落としたダガーを4人が囲み泣いている。

 

俺は地面に突き刺した剣を頼りに立ち上がり、4人の元へとゆっくりと重い足取りで近付いていく。

 

「……すまない。俺が……もっと早く対処していれば……。」

 

「……そんな事無いよ……。キリトは……護ろうとしてくれた……から……。」

 

 

 

 

 

 

「違う……。お前が……ビーターのお前が僕達に関わらなければ良かったんだ!そしたら最初からあんな奴らに僕達が狙われることもなかった!!ビーターのお前に僕達に関わる資格なんか無かったんだ!…………頼む、僕達の前から居なくなってくれ。じゃないと……僕は……僕は……。」

 

嗚咽と啜り泣く声だけがその場に響き、いたたまれなくなった俺はゆっくりとその場をアスナに任せ、ケイタの言う通りその場から……月夜の黒猫団の前から姿を消した。

 




普段の倍以上の量になってしまいました……。
いつもながら更新遅くなってしまい申し訳ないです。
一応弁明させていただくと私は別にダッカーは嫌いではありません。
しかし、今後の展開としてキリトにはやはり心の傷は必要なんだろうと考えました。
今後、黒猫団とキリトが仲直りするかは未定です。


おかげさまでお気に入り500人超えました。とても嬉しく、より精進させていただこうと思います。
次話は背教者ニコラスとなります。
感想、お気に入り、評価お待ちしております。
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