ソードアートオンライン~過去からの転生者~   作:ヴトガルド

30 / 30
長らく放置してしまい大変申し訳ありませんでした。

なかなか更新がすぐには出来ない状況になってしまいましたが、またちょこちょこ更新して完結させたいと思いますのでよろしくお願いいたします。


背教者 ニコラス

「いつまでこんな場所でレベリングする気なんだ?」

 

「……別に俺がここにいてもアオシには関係ないだろ。」 

 

「確かに関系はないがな。……まだ気にしているのか。」

 

月夜の黒猫団、ダッカーの殺害から半年、この半年は様々な事が目まぐるしくすぎていった。

俺達御庭番衆にとっても……キリト、アスナにとってもだ。

 

キリトは以前に増してソロに拘るようになり、殆どボス戦以外では姿を現さなくなったし、アスナは以前よりも遙かに攻略に拘るようになった。

攻略そのものの最適化、またそれに伴いプレイヤースキルを含む全体のレベリングをも彼女の主導の元、急ピッチで進められた。

 

その結果、半年という短い期間で22層ものフロアを攻略するに至った。

鬼気迫るアスナには今までの“閃光”という通り名の他に“攻略の鬼”といった通り名までつくほどだ。

事実そのペースについていけず、攻略組から身を引いた者もいる。

 

幸い、御庭番衆は今の所ついて行けて居るが、そのかわりこの半年間PoHの捜索の方は手が回っていない。

無論警戒そのものは攻略組のみならず、中層~下層のプレイヤーまで警戒するようになり、ダッカー殺害以降は殺人という報告はない。

 

中層を根城にした新撰組からの情報ではずっと潜んだままで雲隠れしているとの事だ。

また、今は牢獄にいるキヘイ、ゴヘイからの情報は半年前の主だった構成員の名前だけだった。

 

当時でも既に総員では10名、そのどのメンバーもが殆ど姿を見せず、行方知れずである。

故に軽々に情報を流出すべきではないと名前は一部の人間、ギルドのトップにしか知らせてはいない。

 

そういった理由もあり、レベリングを皆以前よりも積極的に行い、これだけの高速攻略にすらもどうにか着いていけている。

 

現在、最前線が49層。

プレイヤーの平均レベルとしては60前後といった所だ。

最高レベルとしては血盟騎士団団長、“聖騎士”ヒースクリフの72が恐らく最高レベルではないかと言われている。

……ちなみに参考までに言っておくと俺のレベルで66だ。

確かユキナがレベル64、アスナが67だったか……。

 

 

「キリト、無礼は承知で聞くが……今、レベルはいくつになったんだ?」

 

「……69。……アオシ、なにが言いたいんだ?」

 

「……。クリスマス限定クエストか?」

 

途端に隣に立っていたキリトがピリピリとした威圧感を放つ。

……恐らく図星だったのだろう。

 

「……ふぅ。……まぁこのタイミングだしな。そりゃわかるだろうな。……あぁ。そうだよ。」

 

「蘇生アイテム……か。実際、それは存在するのか……。そこに尽きるだろうな。」

 

「……存在する可能性が無いとは言い切れない。そうだろう?このゲームが“処刑”をすぐに行うかなんて茅場昭彦以外にはわかるはずはないんだからな。」

 

……このゲームが本物の命を懸けたデスゲームなのかどうか。

それは開始から半年も経たない内に既に決着がついた話だ。

 

『死なないとするのならば現実世界の人間がナーヴギアを外さないはずがない。つまりは少なくとも最初の213人は死んでいるのだ。そして新たな死者を殺さないでおく。それにメリットも無い。』

 

それが共通認識ではあるが、例えば本当に蘇生アイテムが存在し、使用できるならばキリトの予測もあながち無いとは言い切れない。

 

「そういうアオシこそイベントアイテムを狙っているんじゃないのか?」

 

「当然だろう?蘇生アイテムが有ろうが無かろうが莫大な経験値やコル、今後に備えるために必要なアイテムがあるのだ。手に入れておくに越したことはあるまい。」

 

「そう……だな。確かにそうだ。」

 

俺は蘇生アイテムを信じていない。そんな物が存在するならばこの世界を真面目に生きる者は格段に減ってしまうだろう。

それは茅場昭彦の望むところではあるまい。

 

「お前は……本当にソロで挑むのか?」

 

「………。」

 

そこで会話は途切れ、キリトは蟻塚へと入って行った。

 

「アオシさん、どうしてそこまでキリトさんを気にするんですか?」

 

「ユキナか。……いや、別に特段気にしているわけでは無いがな。ダッカーの件に関してはむしろキリトよりも俺に責任がある。……ただそれだけのことだ。」

 

「気にしない方が良いと思います。彼を殺したのはPoHです。対処を間違えたのかも知れませんが……だからといってPoHの背負わなければならない罪をアオシさんやキリトさんが背負うのは違います。」

 

……正論ではある。その言葉には説得力もある。

しかし、だからといって無条件に忘れて良いことでもない。

……結局、今出来る事は蘇生アイテムの有無の確認。それにキリトを死なせない事位か……。

 

考えているうちにゾロゾロと蟻塚から出て来たギルドメンバーを確認し、今日はこの狩り場から立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

「以上がキー坊が買ったのと同じ情報だヨ。……でもサ、アー坊。クリスマス限定クエストのフラグボスだヨ?キー坊は勿論論外だけどナ、アー坊のしようとしている事も十分危険だって本当にわかってるのカ?」

 

「承知している。いつもすまないな。」

 

「そう思うならオネーサンにあまり心配かけないで欲しいネ。全くキー坊といいアー坊といいどうしてこうも無茶をするのかナ。ユーちゃんの苦労が目に浮かぶヨ。」

 

両手を上に上げ、降参とでも言っているかのようなジェスチャーをするとアルゴはそのまま二階に居るユキナ達の所へと歩いていった。

 

アルゴから得た情報とキリトの得た情報、更に自分達で集めた情報を整理していく。

色々な層に一見すればもみの樹のように見える候補地はあるが恐らくはそのどれもが外れだろう。

あれは“もみの樹”ではない。

消去法で各層のもみの樹もどきを消していくと、35層にのみもみの樹もどきが無いことが判明した。

 

無論そこももみの樹もどきである可能性も無くはないが、もしもそこが本物のもみの樹であれば35層で恐らくは確定するだろう。

 

「……方針は決まったんですか?」

 

「あぁ。今日から明日の夜中までにギルド総出で35層を探索する。もみの樹を見つけ次第その場で待機するぞ。」

 

二階から降りてきたユキナにそう告げ、俺も準備を始めた。

ユキナは再び二階へと戻り、メンバーにも伝達しているだろう。

 

 

 

 

 

 

35層。この層の特徴としては“迷い”に重点が置かれている。

制限時間内にマップ内を踏破しなくては全く別の場所へと飛ばされ、転移結晶や高価なマップが無ければ、最悪何日もさまよったあげくに死ぬプレイヤーまで居るほどだ。

通称“迷いの森”それが俺が当たりをつけた場所だった。

この森は最前線当時、その厄介さから必要最低限の探索しか行われていないフィールドダンジョンで未だ中層プレイヤーの主流活動範囲からは外れている層だ。

 

 

探索を始めて五時間。俺達御庭番衆は目的のもみの樹を見つけ出した。

 

「ふむ……。確かにこれはもみの樹だな。……オルランド、よくやった。」

 

「いやいや。それでアオシ殿、当日まで後一日もあるがどうされるのだ?」

 

「俺はこの場に居よう。お前たちは当日の一時間前までに戻るのならばなにをしていてもかまわん。」

 

「では、我らはレベリングをして戻ろう。我らは後少しで62まで上がるのだ。」

 

「なら私はアオシさんとここに残りますね。一応回廊の出口をここに設定しておきますし、万が一迷って間に合わない時は使用して戻ってきて下さい。」

 

「かたじけない。」

 

オルランド、クフーリン、ベオウルフ、ナーザの4人はそう言ってきた道を引き返していった。

 

「さて、では拙者も装備を限界まで強化して来るでゴザるよ。何か用があればメッセージをとばして欲しいでゴザる。」

 

「俺はどうすっかなぁ……。ここに」

 

「さぁ!行くでゴザるよ。ヤヒコ殿!では、お頭、また後で。ユキナ殿、頑張るでゴザる。」

 

「お、おい、コタロー!?」

 

困惑しているヤヒコの事を抱え、コタローもまた、一気に元来た道を駆け抜ける。

 

そしてその場には俺とユキナのみが残された。

最も、監視役という名目でいつもついて回っているユキナと二人きりというのはさして珍しくもないが……。

 

「アオシさん、せっかくですし少しゆっくりお話でもしませんか?」

 

「それはかまわん。しかし……ユキナ、お前は特に準備をしたりは無いのか?」

 

「別になにもないとは言いませんが状況が状況ですし……大体出来る事は終わっています。」

 

「そうか。だが、なにもこんな寒くてなにも無い場所でただ待つだけに付き合う必要はないぞ。」

 

「私はアオシさんの監視役ですから。それを言うならアオシさんだってこの場に居続ける理由は無いのでは?」

 

「……否定はしないがな。」

 

「……アオシさんに前から一つ、聞いてみたかったことがあるんですけど……。」

 

「なんだ?」

 

「どうして初めて会ったときに助けてくれたんですか?……それに、私をギルドに入れて匿ってくれたり……何故ですか?」

 

「特に深い意味があるわけではない。単純にあの頃は奴の性格を把握していたわけではないからな。報復や口封じを恐れた。……それだけの事だ。」

 

「そうですか……。もう一つ聞いても良いですか?……マナー違反になるとは思いますけど……。」

 

「……言ってみろ。」

 

「……あなたは……現実に存在しますか?」

 

……言っている意味がよくわからなかった。俺は現実に居るのかどうか……。

答えは居るだろう。

……しかし、そんな事はユキナとて分かりきっているはずだ。

では何故そんな質問が来たのか……。

 

「いえ、すいません。忘れて下さい。きっと私の思い違いです。それはそうとアオシさん。これ、少し早いですけどクリスマスプレゼントです。」

 

ユキナは急に纏う空気を変え、話題を変えて小さな小箱を俺に渡してきた。

きっちりと包装されている所を見ると恐らくはクリスマス限定で売り出されていたアイテムなのだろう。

 

その小箱を受け取ると満面の笑みを浮かべて俺に背を向けたユキナだったが、今現在俺の頭の中は先程のユキナの質問が渦巻いている。

 

……俺は現実に存在するのか……。

 

俺……『四乃森 蒼紫』は存在はしていない。過去に生を終えている。

だが俺は今でもこの世界……人界にいる。

『四乃森 蒼剣』として。

そう。考えたことは無かったがそれならば“四乃森 蒼剣”はどうなったのだろう。

本来“蒼紫”と“蒼剣”は別人のはずで産まれてから今までの人生は“蒼剣”が経験するべき事柄だったのでは無いだろうか……。

 

「あの……アオシさん。プレゼント……気に入りませんでしたか……?」

 

背を向けたまま心配そうに聞いてきたユキナの言葉に思考を止め、手元のプレゼントの包みを開く。

中に入っていたのは深い蒼に紫がかった宝石がはまったネックレスだった。

瑠璃……確か今の呼び方はラピスラズリだったか……。

 

ネックレスを指でタップするとアイテムの説明が現れる。

『ラピスラズリ……スキル“バトルヒーリング”をスロット枠を使わずにセット出来る。初期値は200。』

 

「バトルヒーリングか……助かる。礼を言う。」

 

未だに背を向けているユキナにそう言うと俺は自分のストレージに入れていたアイテムを取り出した。

 

「礼だ。受け取れ。」

 

それをユキナへと渡す。

こちらを振り向いたユキナへとオブジェクト化したアイテム“雪の華”が装備された。

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

お互いに相手にプレゼントしたアイテムを装備した状態で隣り合って座り、ポツリポツリと会話して時間を潰した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アオシ……?どうしてここが……?」

 

クリスマスイブ深夜11時過ぎ。

俺とユキナ以外のメンバーが戻らないなか、顔を出したプレイヤーはキリトだった。

以前にまして生気のない顔で驚愕の表情を浮かべた“黒の剣士”は暗い瞳を見開き、徐々に剣呑さを増していく。

 

「他の層にあったツリーはもみでは無かったのでな。そう言うキリトも同じ推理か。」

 

「あぁ……なぁ、アオシ……悪いがここは俺に譲ってくれないか……?」

 

「悪いが譲る気はない。共同でのボス討伐ならば考えよう。」

 

「……それじゃ意味無いんだよっ……!!」

 

歯を食いしばり辛そうな顔を浮かべた黒の剣士は背の剣へと手をかけた。

そしてその剣が抜かれる直前、キリトの前にウィンドウが現れる。

それはデュエルの申請……それも半減決着モードだった。

 

「……それが最後の一線だ。キリト。」

 

俺の言葉に沈痛な表情を浮かべたキリトは歯を食いしばりデュエル申請を受けた。

 

「……アオシ、殺す気で来い……。じゃないと………………死ぬぞ。」

 

開始と全く同時に赤と黒のライトエフェクトが火花を散らしてぶつかり合う。

お互いに弾け飛ばず、光を宿したまま鍔競り合いを続ける2人だったが、やがて赤の光は黒の光を押し始めた。

 

ジリジリと押しやられていく小太刀に追加で更なる一刀が打ち込まれる。

御庭番式小太刀二刀流“陰陽交叉”

一点に対して爆発的な威力を誇る二刀流技は押し込んでいたキリトの“ヴォーパル・ストライク”を弾き飛ばした。

 

弾き飛ばされたキリトが行ったのは自ら後方にジャンプするという行動だった。

高く跳ぶことて技後硬直を空中で済ませ、着地と同時に再度アオシと斬り結ぶ。

 

“黒の剣士”ことキリトは攻略組でも屈指の実力者である。

恐らく最強のプレイヤー候補には確実に名を連ね、実際対モンスター戦では最大の火力を有するとさえ言えるだろう。

しかし……それは対モンスター戦での話だ。

 

パターン化されていないプレイヤー同士の対決ではステータスもさることながらプレイヤー自身の戦闘センスこそが最も

重要になる。

 

そして、現時点で最も高い対人戦闘能力を持つのはアオシで間違いはない。

 

体勢を空中で整え、着地と同時に再度アオシへと斬りかかろうとしていたキリトだったが、その目論見は脆く崩れ去る。

着地点、その場所へと襲い掛かる一瞬六斬の剣技が着地と同時にキリトへと襲い掛かり、キリトは吹き飛ばされた。

 

「……今の防ぐか……。」

 

着地の体勢が崩れる瞬間を狙った六斬はキリトの着地の一瞬前に放たれた剣に第一撃目が当たり、その勢いで後方へとワザと吹き飛ばされたのだ。

 

かなりの距離を飛ばされた事で体勢を完全に立て直したキリトは即座にアオシへと斬りかかる。

一刀にしてその攻撃速度、攻撃回数は脅威に値した。

アオシが二刀を使い、継続的に攻撃をしたとしても秒間12回程が限界だろう。

現時点でキリトは秒間7回は攻撃してきている。

無論防ぐことは容易に出来る。

そして反撃も出来る。

しかし……一撃に込められた重みは想像よりも重く、鋭い。

キリトの意思と覚悟の大きさに比例して。

 

約5秒間息をつかせない連続攻撃を繰り返したキリトとそれを防ぐアオシだったが、その剣は一際甲高い音が響いた打ち合いの瞬間に砕け散った。

 

「……勝負ありだ。」

 

砕け散った剣を見て茫然自失となったキリトへとそう告げる。

そして……黒光の斬撃がキリトを切り裂きデュエルも決着した。

 

そのまま後ろへと倒れたキリトは仰向けに雪の上に倒れ、茫然としていた。

 

「キリト、今のお前ではいくらやろうと俺には勝てない。そして恐らくはこのイベントのボスにもな。」

 

「……それがどうした……。俺は……ダッカーを見殺しにしたんだ!勝てなかろうが構わない!俺が……俺一人で戦わなければならないんだ!」

 

そう言い放つと同時に再度剣を手に取ったキリトは、その剣に青のライトエフェクトを宿らせ解き放った。

 

片手剣突進技

ソニック・リープ

 

一瞬でアオシとの距離を縮め、袈裟斬りを放つもその一撃は空を斬った。

 

「……今のお前は弱い。そう……かつての俺のようにな。」

 

再度振るわれた黒の光を纏った小太刀二刀はまたもや寸分違わずにキリトの剣を捉え、その刀身をへし折る。

 

「所詮お前のやっていることは死んでしまった仲間のためではなく、死んでしまった仲間のせいにして命を捨てようとしているだけだ。お前の行動は死んだダッカーをよりおとしめているだけに過ぎん!」

 

キリトの胸倉を掴み、キリト身体を持ち上げながらそう言い放ったアオシは、弱々しく俯いたキリトから手を放ち、地面に落ちてそのまま下を向いているキリトを見下ろす。

 

 

「……それでも……あいつを生き返らせる方法が有るってのに……なにもしないわけにはいかないんだ……。」

 

「イベントボスと戦うななどと言ってはいない。俺達と共に戦え。パーティーを組まなくとも十分に生存率は上がるだろう。」

 

アオシはキリトの前に一振りの剣を突き刺し、キリトへとポーションを渡した。

シンプルな拵えの剣の刀身からは雲の隙間から漏れ出た月の光が反射しキリトの顔へとその光を浴びせている。

 

「……この剣は……?」

 

「……妖剣アマノムラクモ。本来ならばオルランドにやるつもりだったが必要STRが高く装備できそうに無い。俺が折った剣の代わりにしろ。」

 

アオシはそう言うと自らもポーションを飲む。

時刻は0時まで後10分。

 

「ユキナ、オルランド達とコタロー達から連絡は?」

 

「さっきヤヒコ君からメッセージが届きました。回廊結晶を使わずにこちらに向かっていたみたいですけど、途中で聖竜連合に妨害されているみたいです。」

 

「……そうか。では自己防衛を第一に聖竜連合のこちらへの到達を阻止するように指示しろ。……キリト、お前はどうする?俺達と共にボスを攻略するか?それとも……。」 

 

「……戦う。俺は……なんと言われようともダッカーの為にイベントボスを倒さなくてはならないんだ。」

 

アマノムラクモを手に取り、その身体を奮い立たせたキリトは一気にポーションを煽る。

 

「ユキナ、時刻は?」

 

「一分前です。」

 

「……よし。各自臨戦態勢を保持しろ。」

 

各々武器を構え、イベントボス出現に備え辺りを警戒する。

やがて辺りに鈴の音が響き始め、醜悪な顔の巨大なサンタクロース風な化け物が現れた。

 

背教者ニコラス

 

巨大な体躯に巨大な両刃斧を持った化け物はキチキチカチカチとよく分からない鳴き声を出しながらその顔を醜悪な笑顔を浮かべている。

 

「各自散開!互いが互いの手助けを出来る距離をギリギリまで取れ!」

 

アオシの号令と同時にキリト、ユキナが横に広がり、そして次の瞬間にはユキナの目の前にはニコラスが距離を詰めていた。

ユキナが手元の槍を使い上手く自らの軌道を変えてニコラスの巨大斧の一撃を紙一重で躱し、そのわき腹へアオシの小太刀の三連撃が叩き込まれる。

 

更にキリトもまた背後から自身の最強の一撃であるソードスキル“ファントム・レイブ”を叩き込んだ。

 

削れたHPは五段あるHPバーの0.5割にも満たないものの、確かな幅でそのHPは削る事には成功した。しかし

……硬直のあるキリトが背後に居る事に気付かれるわけにはいかない状況でもある。

もし気付かれれば冗談では済まない返撃を受ける羽目になるだろう。

 

「キリト、回避を最優先だ!無理に大ダメージは狙うな!」

 

「了解!……とりあえず背部には弱点は無いみたいだ!」

 

キリトが使ったソードスキル“ファントム・レイブ”は片手剣の中では最大連撃数を誇る6連撃だ。

恐らくはキリトはその6発を意図的にずらして背中全面に斬撃を浴びせたのだろう。

 

その後は時間を掛けながらも安全を第一に戦闘を続け、およそ二時間な時間をかけてニコラスを撃破する事に成功した。

 

LAはキリトが取り、ニコラスはキチキチカチカチと大きく嘶いてその身体を爆散させる。

そして弾け飛んだポリゴン片はまるで雪のように俺達にふり注ぎ、莫大な経験値とコル、そしてアイテムが俺達3人に与えられた。

 

手に入ったアイテムを各々が確認していくと目当てのものはすぐに……それも予想以上に多く見つかった。

 

《還魂の聖晶石》

 

各々に一つずつドロップしていた蘇生アイテムらしきものをオブジェクト化し、その効果を読む。

 

 

 【このアイテムのポップアップメニューから使用を選ぶか、あるいは手に保持して《蘇生:プレイヤー名》と発声することで、対象プレイヤーが死亡してからその効果光が完全に消滅するまでの間(およそ十秒間)ならば、対象プレイヤーを蘇生させることができます】

 

《およそ十秒》この一言が冷酷な現実を俺達に突きつけてくる。

そう。この世界の死=現実での脳の破壊という事実がHPが0になってからおよそ十秒程で完了するという冷酷な現実を……。

 

「キリト……。」

 

その文を読んだキリトの目から光が消えたように見えたのは錯覚ではないだろう。

無論俺とて少なからず落胆している。

だが、恐らくはまだ元服したかしないか程度の……ましてや、現在に生きる少年にはこの事実は厳しい……。

 

「……キリトさん。あなたに着いてきて欲しい場所があります。」

 

「……わかった。どこだろうが付き合うさ……。もう、俺に目的なんて無いし……な……。」

 

ユキナはそう言うと俺にも着いてくるように目配せし、その足を進め始める。

 

 

 

 

途中、ヤヒコ達御庭番衆の面々に風林火山の面々とあったが、キリトの生気の失せた顔を見て一同は言葉を失い、ただただ見送っていた。

 

「キリトよぉ……おめぇは生きろよ!頼むから……頼むから死ぬんじゃねぇぞ!」

 

エリアを出る間際に響いたクラインの声は静寂を一瞬破壊するだけで返事をするものは誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここです。」

 

ユキナの先導に付いて来た俺とキリトは今、ダッカーが死んでしまった場所に来ていた。

その場には生き残った黒猫団の面々とアスナが待っている。

 

「キリト……久し振り。元気……はないね。もう少し驚くかなって思っていたんだけど……。」

 

数秒の沈黙の後、発せられたのはサチからの言葉だった。

 

「あのね……私達、今キリトがどういう状態で何をしていたのかも知ってるの。アスナさんが教えてくれたから……。それでね……キリトにこれを受け取って欲しいと思ったの。」

 

サチがそう言うと後ろで黙っていたケイタがサチの前に出てきた。

そしてメニューを呼び出し一つの結晶をオブジェクト化し、それをキリトへと渡す。 

 

「ダッカーの……いや、僕ら黒猫団全員の遺言だ。」

 

ケイタはそう言うと結晶……録音結晶を起動する。

 

 

 

『え~……今から僕らはせっかく手に入ったレアアイテムに録音をしようと思います。』

 

『おいおいケイタ~、実際に今から死ぬ訳じゃないだろ~?畏まりすぎだって。』 

 

『う、うるさいな。しょうがないだろ?むしろダッカーこそ軽過ぎなんだよ。』

 

『まぁ2人には最後にやって貰うとして……テツオです。まず僕は僕が死んでしまったとしても誰かを恨んだりはしないよ。もし死んだとしたなら皆を守った結果だろうしね。だから生き残った皆は悲観的ならないで生き抜いて欲しい。そのために僕は皆を守る盾になったんだから。』

 

『ササマルです。俺は死なない。……そう言い切ってるんだけどね。まぁせっかくの録音アイテムだし……。もし俺が死んだならきっと皆は悼んでくれると思う。でもさ、悼んでくれるのは嬉しいけど、それよりも俺という犠牲を無駄にしないで欲しいな。だから悼みつづけて塞ぎ込んだりはしないでくれな。』

 

『……サチです。えっと……こういう事今までした事無いからうまいことは言えそうに無いんだけど……。コホン……もし私が死んだならそれはきっと仕方なかったんだと思う。……きっと私はこの中で一番生きようとする姿勢が弱いから……。でもね。それでもここまで生き抜いて来れたのは皆のおかげだよ。だからもし私が死んじゃっても皆は生きてね。……それが私の願いです。そしてどうかこの世界に私達が来てしまった意味を見つけて下さい。えっと……じゃあこれで私の遺言は終わりです。』

 

『お、もう俺か~?』

 

『ダッカーはラストにしてあげるからしっかり考えろよ。と言うわけで……ケイタです。僕は皆のリーダーです。だからもしこの中の誰かが死ぬとしたらそれは僕だと思う。だから生き残った皆には絶対に死んで欲しくない。もし僕が死んだならどうか皆は生き残る事を考えて欲しい。誰かを恨んだり、憎しみにとらわれたりはしないでくれ。……さ、ダッカー、お前で締めだし、しっかり頼むぞ。』

 

『ちぇ、普通締めはリーダーがやるべきだぜ~?まぁ良いけどさ。俺が死ぬとしたらきっとポカやらかしたりなんだろうな~。というかさ、ここに遺書みたいに遺言残してるけど別に死ぬ気は無いんだよな~。だからあんまり皆みたいにしっかりした事は言えないけどさ、少なくとも皆を恨んだりは絶対しないよ。お前等は皆良い奴だからさ。だから俺がいなくてもしっかりと生きててくれよな。んでいつかこのデスゲームを終わらせてくれ。以上!……あれ?これ、まだかなり録音出来るぞ?ケイタ、どうすんの?』

 

『流石レアアイテムだな。後はキリト達3人にとって貰おうよ。』

 

『そだな。んじゃ切るな~。』

 

 

 

 

 

 

流れたのは彼らの日常的な会話な様なノリの遺言だった。

それでも……きっと、今のキリトにはもっとも心に響いたものだろう。

 

 

「僕は君を許したりはしない。君は僕らを騙したんだから。……でも、感謝もしているんだ。僕らが今生きているのはキリトのおかげなんだから。」

 

「ねぇキリト……キリトはもうダッカーに囚われないで。きっと……ダッカーもそう思ってるから。」

 

 

「でも……でも俺は……。」

 

「ねぇ、キリト君。キリト君はダッカーさんが死んだせいで自分も死ぬ気なの?……そんなの死んでしまったダッカーさんが望むわけ無いじゃない。……だから……私も一緒に彼の死を背負うから……だから……ね……。」

 

ケイタとサチの言葉に俯いたキリトの身体をアスナは抱きしめ、そう言った。

 

 

雪の降る静寂の森にキリトの啜り泣く声が静かに……しかしはっきりと響き続けていた……。

 

 

               


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。