黒ポンチョを探し始めて3日、一向に手掛かりは見つからなかった。
昼間はイスケ、コタローの2人が2人組を装いながら不自然ではない程度に色々な街を歩き回り、深夜帯は俺が人気の少なそうな酒場を探していた。
それなのにもかかわらず、全くの手掛かり無しだ。
これは長期戦になるな……。
とはいえ本日、俺は捜索を行えない。
キリトの話では今日の夕方から第二層ボス攻略戦が行われる。
日中イスケ、コタローが捜索している間に手に入れた情報を駆使し、二層フロアボスの対策をしっかりと取っているが、問題は王との交戦前に大佐と将軍を倒しきれるかどうかだろう。
その辺りは今回のレイドリーダーであるリンドの指揮次第か……。
今回のレイドはフルレイドに達している。残念だがイスケ、コタローは今回は参加できない事になってしまった。
人数の関係で2人のためにレイドを二つに分けるのは危険という判断、そして残念ながらボス戦未経験者の中ではイスケ、コタローが一番レベルが低かったのだから仕方ないといえよう。
その上、リンドも初の陣頭指揮とあっては危険を、出来うる限り排除しようと思うのも仕方ない事だ。
ちなみにイスケ、コタローは納得している。
ボス戦中はレベル上げに集中するそうだ。
パワーレベリングスポットを独占出来るので、今日一日上手くやればボス戦以上の経験値をたたき出せるだろう。
そして俺はこの行軍中、レジェンドブレイブスの面々と初の対面、そしてパーティーを組む事となった。
彼らのレベルはイスケ、コタローと変わらないが全体の武具強化度合いは1以上上回っているだろう。
実は俺もまたほぼすべての装備を最大限強化している。アスナから渡された三万コルに日中のクエスト三昧、更に深夜までのパワーレベリングを続けていた成果だ。
事実、キリトやアスナでも防具も武器もまだ最大までは強化していないようだ。そんな理由もあり、俺は同程度の強化具合のレジェンドブレイブスへと編入されたのだ。
「ふむ……お主もなかなかの武具ではないか!聞けば第一層の攻略戦にも参加したのだろう?期待させて貰おう!」
……何というかキャラ作りなのだろうが随分と不遜な男だ。
それが第一印象だった。
とはいえいかに強化がしっかりしていても、恐らくこのレイドで最も一撃の威力が少ないであろう俺は主にサポートをメインに行うほか無いがな……。
レジェンドブレイブスのほかのメンバーはリーダーのオルランド程キャラ作りはしておらず、普通で一般的なプレイヤーのようだ。
正直オルランドにしてもメンバーにしてもネズハ同様犯罪を犯すタイプの人間には見えない。
やがて迷宮区に入りキリト、アスナ、そして一層の階段で俺を見捨て、1人でアスナから逃げ出したエギルと話をする時間が取れた。
どうやらネズハは今回は間に合わなかったらしい。今朝の段階ではまだ岩を割れていないと連絡があったそうだ。
ちなみにエギルにはある程度、かいつまんで事情は説明してある。
特に黒ポンチョの男は早急に実態を掴んでおきたいという事も有り、大々的には動けないものの信用のおけるプレイヤーには協力を仰いでおいた方が良いであろうと言う判断だ。
現在、俺の知る限りでは他にアルゴとキリトの知り合いの男ークラインというらしいーも片手間で捜索してくれているらしい。ちなみにネズハの事はレジェンドブレイブスの面々には伝えていない。
無論、ネズハ自身が連絡しているかは不明だが……少なくとも俺達の事は伝わっていないようだ。
やがてボス部屋に辿り着いた俺達はそれぞれリンドの指示に従い行動を始める。俺を含むレジェンドブレイブスことG隊はリンドの最初の指示では取り巻き潰しだったのだが、リーダーのオルランドが異論を挟んだことで将軍担当に変わったのだ。
最も将軍よりも先に大佐を潰しておかねば後々の王の相手が辛くなるのだが……。
リンドは大佐の相手はH隊……つまりキリト、アスナが所属するエギルの隊のみに任せた。
無論情報に違いがあれば一度撤退し、戦略を練り直す事になっている。1部隊には荷が重いようならばもう1部隊まわすという事も条件の上でだが……。
多少リンドの敵意が見え隠れするが仕方ないだろうと納得し、ボス部屋に突入を開始した。
初期の位置は大佐が入り口付近に、そして将軍が部屋の奥に現れた。
レイドパーティーは迅速に行動し、当初の予定道理担当のモンスターを相手取る。現時点では特に変更点は無い。しかし……将軍担当のパーティーに少々問題があるようだ。
戦闘開始から15分、もっとも警戒するように言われた将軍の“ナミング”の二度受けによる麻痺者がついに10人を越えたのだ。
これの対処法はナミング発動を見切るか防具強化の二種類しかない。
大佐担当部隊には1人も麻痺者は居ないのに此方は既に4分の1の人数が麻痺を食らっているのは、恐らく経験不足が大きいだろう。実際、将軍担当の部隊の半数はボス戦未経験者だ。空気に呑まれ、とっさの判断力を欠いてしまっているのだろう。
となればやることは1つ……
「リンド、これ以上の麻痺者は不味いのではないか?撤退に支障がでるだろう。」
撤退の提案だ。ここで撤退すれば恐らく次はもっと楽に攻略出来るはずだ。
「アオシ君……ここで撤退するメリットはあるのか?残りたったの1本だぞ?」
「後1人、麻痺者が12人になった時点で撤退でどうや?皆の志気も高いことやし、そろそろナミングのタイミングも分かってきたとこや。今日逃すと明日以降になってまうしな。」
意外なことにリンドを養護したのはキバオウだった。リンドとは2層に上がってからは仲も悪くこちらに同調するかと思っていたのだが……。
とはいえ確かにこのまま押し切れる可能性も低くはあるまい。
指揮を執るリーダー、サブリーダーがそう決めた以上俺は俺の仕事をするだけだ。
そこからものの2~3分後、先程とは違う“人為的な”イレギュラーが起きた。
リンド、キバオウの両名の部隊の斧使いが同時にソードスキルを発動させてしまったのだ。本来は黄色少し手前から大佐担当のH隊を待ち、フルレイド全員の全力攻撃で一気に決める予定だった筈が高威力の両手斧の現行最高威力のスキルが同時に入ったことで完全に黄色に変わってしまったのだ。
本来将軍の残HPが六割の時点でソードスキルの一時封印が指示だったはずなのにも関わらずの使用。むしろ目算でも5.2位しかないのだから高威力ソードスキルなら単発でも黄色に落ち込んでいたかもしれないのだ。
クエストでの情報道理、ボス部屋中央から巨大な王“アステリオス・ザ・トーラスキング”が姿を現す。
その漆黒の巨躯が現れた瞬間、大佐“ナト・ザ・カーネルトーラス”が爆散した。先程、撤退を進言する際に見たときは最終バーの三割程が残っていたはずだが、ここまですぐに爆散させるとは……そこそこ無理をしたのだろう。
だがそれはこちらも同じだ。リンド、キバオウ共に迷いなく全部隊に全力攻撃をとるように指示を出した。
しかし受けた反撃はそこそこ痛いものだ。
せっかく全員が回復しきり、麻痺者が0になっていたのに、一気に8人ものプレイヤーが回避しきれずに麻痺を受ける。
後ろからの近づいてくるアステリオス王の事を考えると将軍にかけられる残り時間は恐らく20秒あるかないかだ。
そう考えていた俺の横を一陣の風が吹き抜けた。キリトだ。キリトは空中でソードスキルを発動させて見事に将軍“バラン・ザ・ジェネラルトーラス”を転倒させる。そこに残る全員のフルアタックが加えられ、バラン将軍もまた爆散し、俺の目にラストアタックボーナスの文字が浮かぶ。
そしてアステリアス王へと振り返った瞬間、俺達を包んだのはキリトの叫び声と青い閃光だった。
一瞬何が起きたのかがわからなかった。辺りを見渡すと将軍を正面から相手取っていた者と指示出しをしていたリンド、キバオウ迄が倒れている。……いや、正確には全員が麻痺しているのだ。防具の強化をしていた俺やオルランドも麻痺しているところをみると100%の確率で麻痺してしまうのだろう。
全員がノロノロと解毒ポーションを飲む中、ゆっくりとアステリオス王はこちらに向かい、その鎚を振り上げる。
頼りのキリトとアスナも抱き合う形で麻痺し倒れている。エギルもまた竦んでいるようだ。これは最早……そう考えたとき青い光を放つ何かがアステリオス王へと当たった。
その軌跡を辿ろうとするも首が動く限界の先に居るようで見えなかった。
やがて乱入者の声でネズハに気付いた。その後は回復したレイドパーティーによる総攻撃と情報通りの王冠ディレイ確定もあり、アステリオス王は20分もかからずにその身体を爆散させた。ちなみにラストアタックボーナスはキリトが手に入れたようだ。
その後、ネズハが鍛冶屋だった事、攻略組にも被害にあった者が居たこと、そして何よりもネズハ自身の自白が決め手になり、黒ポンチョの男の描いた通りの展開になり始める。
俺達は事情を知ってるが故にその場を諫めようと動き始めようとした。
しかし……。
最終的にレジェンドブレイブスがネズハの仲間であることを打ち明け、被害者に弁済する方向で決着した。
俺にとって、レジェンドブレイブスが動いた段階でこの動きは予想範囲内だったので早々に議論の場からは抜け、先程ボスに攻撃した斧使いを探す。
あの行動には違和感を感じるのだ。
リンドやキバオウの指示かとも考えたが流石におかしい。
実際キリト達が無理をしてくれなければ全滅していただろう。
黒ポンチョの男と合わせて調査を行わねばなるまい。しかし先程ちらりとみた男達はこの場には見当たらない。
……キリト達のように先に主従区に向かったのか……?
この議論が終わり次第リンドとキバオウに聞いてみるか……。
「アオシさん、次は君の番だ。どれにするんだい?」
俺が思考の海に潜っているとリンドから不意に声をかけられた。
「……俺は別に被害にあっていないが……?」
「君の仲間が被害を受けたんだろう?ネズハさんからはそう聞いているんだけど……。」
ふむ……そうゆうことか……ならば……
「ならば決める前に聞きたいことがある。少し時間をいただくが構わぬか?」
リンドは頷くとアオシを輪の中に入れ、オルランド達の前に案内した。
「オルランド、ネズハ、それに他のメンバーにも聞きたいことがある。……お前達は今後、攻略に尽力する覚悟はあるか?」
元々小声の俺の声だが、何故か急に静かになったフロアボスの部屋に響いた。
何分かたったであろうその時間を破ったのはネズハ……いや、ナーザだった。
「僕たちのしたことは許されないことです。だから僕は……いえ、僕たちは皆さんの裁きに従います。……それは勿論、攻略に貢献することも受け入れる覚悟を決めているんです。だから……だから……」
「まだ我らに機会を下さると言うのであればこのオルランド!身命を捧げ闘い、必ずやこのアインクラッドを皆様と制覇して見せましょう!!我らが英雄の名にかけて!」
ナーザの真摯な申し出を引き継ぎオルランドは真っ直ぐと俺の目を見て言い放つ。
ほかのメンバーを見ると何人かは同じ意志のようだ。
「ならば俺が受け取る分はコルとしておまえ達に渡そう。それとこれは全員に言いたい。このチャクラムだがこの俺がネズハ……いや、ナーザに渡したものだ。これは彼に返していただこう。」
俺は自らが選んだもっとも高いであろう装備とチャクラムを取り出す。特に他の者は何も言わなかった。
実はこのチャクラムはレア物ではあるが安いのだ。理由は使用条件に体術のスキルが必要だからだろう。要は装備できなければいくら珍しくても買い手がいないということである。
「アオシさんそれはここでコルを分け与えた相手に対して責任を持つ。そう言っていると解釈しても?」
「……構わん。もしも奴等が何かしら明らかに悪を働いた時はこの俺が責任を持って処分しよう。」
多少の疑惑が混じったような表情のリンドの顔を正面から見据えそう答える。
更にナーザ達に最後の確認をとるとナーザ、オルランド、クフーリン、ベオウルフの4人がコルを受け取り、残る2人は始まりの町に戻り、生産職になるとのことだった。
更にリンド、キバオウに斧使いについて聞くも仲間には誰一人斧を使うものは居ないらしい。
不穏な動きを見せた第二層攻略はより深い暗雲をかけたまま終わることとなった……。
更新遅くなりました。
1日1話を書けるよう頑張らせていただいていますが段々ギリギリに……文才がほしい今日この頃です。
9月6日修正済み