江戸前騎士王   作:冬霞@ハーメルン

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飯テロは本懐じゃないんですがセイバーに美味しいごはんを食べさせたくなる。
説明し忘れてましたけど、セイバーはFGO時空もふんわり経験済みという認識でオナシャス。その他はゆる〜い感じで書いていきます。


第1話「学校でコマちゃんと話して、夕飯はチキンオーバーライス」

 東京都中央区月島近くのとある高校。

 ホームルーム前の教室では生徒たちが各々なんてことはない一日の始まりを迎えているわけだが、そこにそこで難しい顔をして考え込んでいる巫女が一人痛そうな。

 

 

「よう小糸。どうした眉間に皺寄せて」

 

「コマちゃん。いや改めて家業のことなどを、ちょっと」

 

「家業? あぁセイバー様か。そういえば火思劔(ほしのつるぎ)神社の後継ぎだったな、お前」

 

 

 横文字に様がつくと、なんか近所のおばさんたちが好きな宝塚とか、ホストの源氏名みたいで変な感じだなぁと小糸はますます眉間の皺を深くした。

 まぁそんな難しい顔すんなよ、可愛い顔が台無しだぜ、と彼女の眉間を指でほぐすのは、小糸の幼馴染である桜庭高麗。江戸っ子気質でさっぱりした性格だが、時たま突拍子のないことを始めるくせのある小糸にもしっかり付き合える、友達思いのイイ女(友人談)である。

 

 

「セイバーって、400年ぐらい前にうちの先祖が召喚した神様なんだけどさ」

 

「おう」

 

「神様じゃなくて、英霊(サーヴァント)なんだって」

 

従者(サーヴァント)?」

 

「いや、英霊って書いてサーヴァントって読むの。もう英霊って言葉の段階でよく分かんないよね。私もそこまで突っ込んだことセイバーから聞いたのは初めてだったからさ」

 

 

 セイバーはむやみやたらな散歩こそ控えているが、それでも比較的気軽に氏子の前には顔を出す。例えば商店街の面々、警察や消防、役所の職員など。また初宮参りの際には赤ん坊を抱き上げてやったりするから、基本的に彼女にお目通したことがない氏子はいない。

 他にも剣道教室の先生をやっている関係で月島は剣道の聖地とも呼ばれており、写真こそ出回りはしないが顔を知っている剣道家はそこそこ多かった。

 小糸も巫女として後を継いだのはつい先日だが、家族ぐるみの付き合いなので、セイバーとは互いに、それこそ小糸の生まれた時からよく知っている仲である。もっとも幼かった小糸がセイバーにする質問は、大概上手にはぐらかされてしまっていたのであるが。

 一方すかさず現代っ子らしくスマホを開き、検索をかける高麗。

 

 

「英霊とは、死者、特に戦死者の霊を敬っていう語」

 

「あー、靖国神社とか」

 

「そそ。ってことはセイバー様って、もしかして過去に死んだ兵士か何かってことか?」

 

「この前セイバーからもそんな説明があったような。なんかこう、英雄みたいなやつだったような。でも話したのが真夜中近くて私もう眠くて眠くてちゃんと聞けなかったんだよねー」

 

「おいおい巫女がそんな不信心でいいのかよ。ま、そういう気やすさも小糸らしーけどな」

 

 

 つまりセイバーは幽霊みたいな感じで、でも食事は摂るし夜は寝るし、摘もうと思えば頬も摘める。手も繋げる。

 結局それが一体どういうことなのか、ついに小糸は頭のてっぺんから湯気を出し始めてしまった。運動は得意だが勉強その他はからっきしの彼女もまた、江戸っ子らしい気風の良さを持っている。いや江戸っ子って別にそういう意味ではないが。

 

 

「まー、そういうことは帰ってから直接聞けばいーじゃんか。セイバー様も一度は話してくれてんだから、小糸に内緒にしてるわけじゃねーんだろ?」

 

「確かに。あ、でも他の人に内緒にしてほしい話だったらどうしよう。もうコマちゃんに話しちゃった‥‥」

 

「小糸一人分の秘密ぐらい、あたしが墓まで持ってってやるよ。いざとなったらセイバー様の前で大見栄切ってやるから、安心するんだぜ」

 

「コマちゃんすぐそういうこと言う‥‥」

 

 

 バックに花でも背負ってそうな男前なキメ顔に、思わずドキッとしてしまう。子どもの頃からの付き合いである幼馴染の、それでもこの仕草にはなかなか慣れることがなかった。

 でも確かにコマちゃんの言う通り。それこそ本人曰くオムツも替えたことがあるような関係のセイバーに対して、何か思うところがあるはずもなく。

 いやそれ以前の問題として今はわからないこと、初めて聞くことばかりで何が何やら。ならばコマちゃんが言った通り、まずはセイバーに聞いてみるのが正解だろう。

 

 

(ていうか、巫女を継ぐってなった瞬間に改まって色んなこと喋りすぎるセイバーもセイバーだよね。そりゃ巫女の修行はある程度はしてきたけど、セイバーと直接関係あるような勉強はしてこなかったもん)

 

 

 ともすれば逆ギレに近いような鬱憤を抱えつつ、一日が終わる。

 かつては陸上部に所属して大いに体を動かしていた小糸であるが、現在は巫女を継ぐことが明らかだったため、帰宅部。相変わらずの健脚を生かして月島の町をスイスイと神社へ帰っていく。

 

 

「ああ巫女さま、セイバー様におせんべい奉納したいんだけど」

 

「小糸ちゃん、これ持っていってくれないかな! 焼きたてのメロンパン、セイバー様お好きだろ?」

 

 

 通学路だから仕方がないとはいえ、商店街を通るといろんな氏子が小糸にお供物を渡してくれる。みんな子どもの頃から、いや赤ん坊の頃から、いやいや先祖代々セイバーに見守られてきたのだ。

 セイバーは神事に疎い。巫女の祝詞を畏まった様子で聞き、儀式に定められた通りの祝詞を、力強くも透き通った美声で返す。実際そこに神通力が働きご利益が生じてるのかと問うたこともあるが、実際そういう力そのものは彼女にはないらしい。

 だが400年間ずっと月島を、江戸を、東京を見守ってきた。それは疑う余地のない事実で、だからこそ彼女の存在が、月島の皆にとってどれほど心強く確かなものか。

 

 

「よう小糸、今日も元気だな」

 

「ランサーさん。今日は魚屋さんの手伝い?」

 

「おう、爺さんぎっくり腰やっちまったみたいでな。急遽助っ人ってやつだ。これから帰りか? 今日は良いハマチが入ってるんだ。小柚子に渡してやろうと思ったんだが、どうも今日は会えなくてな。セイバーに持ってってやってくれよ」

 

 

 精悍な青髪の外人、ランサーさんは毎週のようにバイト先を変えている外人さんだ。私が子どもの頃から全然歳をとった様子がないけど、ご町内の誰に聞いても昔からこんな感じらしく、いつからいるのか全くわからない年齢不詳の隣人だった。

 セイバーに聞いてみたら、『あぁ、彼は知人です。賑やかな男ですが、民草に害を及ぼすような者ではありませんから気にしないでください』なんて言ってたからもしかしたら親戚なのかもしれない。名前も似てるし。

 

 

「ちょっと、これ重すぎるよ! 大き過ぎ!」

 

「っと悪かったな。切り分けてやるから待ってな」

 

「まさか小柚子にそのまま渡すつもりじゃなかったでしょうね‥‥?」

 

 

 一体いつから修行してるのか、一匹丸ごとの大きさのハマチはランサーの見事な包丁捌きであっという間にサクに変わり、保冷剤と一緒に手際よくビニール袋へ。四人ぐらいで食べるには丁度いい量だ。初めからこっちを渡す気だったに違いない。エンターテイメント性のある奴め。

 

 

「たまには顔出せって、伝えといてくれよ」

 

 

 毎度! と外国人のくせに妙に板についた気風の良い掛け声を背中に、商店街を抜ける。

 ただいまー、と大きな声で本殿に挨拶すれば、「お帰りなさい」と不思議によく通る穏やかな返事。途中、家に寄って小柚子から渡された夕飯を丁寧によそっていく。

 小金井の家にあるものに比べればこじんまりとしているが、セイバーの生活空間である本殿にも一応、本人が使うことはないとはいえ、一通りのものが揃ったキッチンは据え付けてある。調理は小柚子が家で行い、盛り付けや洗い物は本殿のキッチンでというのが普段のルーティーンだった。

 

 

「香ばしい匂いがすると思ったら、今日は洋食ですか」

 

「うん。チキンオーバーライスって言うんだって。ニューヨークの屋台飯。最近、宅配とかで流行ってるみたいだからって小柚子が張り切ってた」

 

 

 ターメリックライスの上にサラダと、香ばしく焼き上げた若鶏。皮目はバーナーで炙ってあるが、これは危ないので小糸監督で取り扱わせたとか。いや家庭用とはいえバーナーの使い方など小糸がわかる分けないので、本当に注意して見ていただけだが。

 2人でお行儀よく「いただきます」と手を合わせ、フォークで一口。パリパリの鶏皮とたっぷりの肉汁に、小柚自慢のソースの香りがふわりと立つ。バジルと、胡椒と、チリパウダーだろうか。レモン果汁もかかっていて食事が進む。きゅうり、トマト、アボガドで作ったマリネもライスと絡んで良い感じだ。

 なお小糸の分は普通の、にしても女子高生が食べるには大きめのカレー皿によそってあるが、セイバーの分はいつも通りのセイバー専用丼である。小柚子も美的センスとのせめぎ合いに苦労したが、おかわりご飯が合うメニューではなかったため仕方がない。

 

 

「そういえばセイバー、今日コマちゃんと話してたんだけどさ」

 

 

 洗い物を終え、こればかりは和洋の違いに目を瞑って食後の番茶などを楽しみながら、小糸が切り出した。

 

 

「英霊って、なんのことだっけ?」

 

「‥‥巫女就任が決まった夜に、ちゃんと説明したではありませんか」

 

 

 夜遅くて眠かったから覚えてないやてへへと笑う小糸に、セイバーは少し大きめのため息をついた。

 とはいえ大事なことは何回でも説明して構わないものだ。ちゃんと辞書では調べただよと慌てて弁解する小糸に、魔術の世界のことが辞書でわかるわけないでしょうと追加でもう一つため息。

 

 

「英霊とは、簡単にいえば過去にその偉業を以て名を成した英雄が、死後、その存在を世界によって精霊に比する高みにまで引き上げられた存在です。それが幽霊(ゴーストライナー)として召喚、使役されるのが、本来のサーヴァントの在り方です」

 

「英雄って、例えば織田信長とか?」

 

「そうですね。彼女も一角の英霊でした。サーヴァントは召喚された土地での知名度で能力も変わってきますから、日本では群を抜いて強力なサーヴァントとされたことでしょう」

 

 

 彼女? あぁ以前とある場所で召喚された時に相対したことがあるのですが女性なんですよ織田信長。えぇ?!

 なにはともあれ小糸には英霊という概念はしっかりと伝わったらしい。なんかゲームの名前を口に出しては、あんな感じかぁと納得しているので現代っ子の適応力の高さは人類の想像力の豊かさと直結するのかもしれない。

 

 

「じゃあセイバーも昔の偉人だったってこと? まさかジャンヌダルクとか?!」

 

「彼女とも英霊として会ったことはありますが、いいえ違いますよ。私の真名は、そうですね、代々巫女継承の儀で申し渡しているのですが‥‥」

 

 

 サーヴァントカフェみたいな寄り合い所でもあるんだろうかと小糸は訝しんだが、それを見たセイバーが滅多に見せない少しイタズラっぽい顔で言った。

 

 

「当ててみてください」

 

「は?」

 

「巫女継承の儀までに当てられたら、ご褒美をあげますよ、コイト」

 

 

 はぁ?! と今度は大きな声が出た。はしたないですよ、とセイバーに嗜められるが、しかし無茶振りにもほどがあるだろうそれは。

 

 

「ヒント! ヒントは?!」

 

「そうですね、私は剣の騎士(セイバー)ですから、生前は剣を振るう身分でした。当然、私が召喚された戦国時代よりは前の時代ですよ。ヨーロッパの英霊です。名前を知らない人はいない、と言っても自慢にはならないと思いますが」

 

 

 女性で剣を持っていた人なんて、それこそジャンヌダルクぐらいしか思いつかない。いや確かに過去の偉人をモチーフにしたゲームやアニメ、漫画なんて山ほどあるから調べ物の手段には事欠かないが、それにしても範囲が広すぎるだろう。

 せめて国ぐらいは、と食い下がったが、国を代表する英雄を順番に言われたら流石にバレるとにべもない。逆にいえばそれほどの有名人ということであるが、どうも江戸っ子らしく熱しやすい性格の小糸はそこまで気が回らなかった。

 

 

「あぁ、コマちゃんでしたか。彼女の助けを借りてはいけませんよ。本来、英霊の真名とは秘匿しておくものなので、私もイエヤスの他は小金井の家の者にしか名を明かしたことはありません」

 

「えー、私一人じゃ無理だよぉ。なんでぇ?」

 

「本来、私たちは戦いを目的として召喚される身ですから。特に有名な英霊ほど弱点には事欠きません。そこを狙われては不利になるでしょう?」

 

 

 例えばギリシャの大英雄アキレウスならばアキレス腱。ヘラクレスならばヒュドラの毒。ジークフリートならば菩提樹の葉の跡など。致命的な弱点というのは、致命傷になるから有名なのですよ。いや令和の世で一体なにに用心するつもりなんですかねぇこの物騒な神様は。でもジャンヌダルクが実在してるなんて話になったらフランスから観光客が押し寄せかねないもんなぁと微妙に納得。

 まぁ周りの人たちにはセイバーはセイバー。それで良いのかなと呟けば、それで良いんですよと、どこまでも穏やかな返事。

 しかしどう調べれば良いんだろうか。いや古今東西の偉人を集めたウェブサイトなど、この時代いくらでもある。友人の助けを得られなくったって、このぐらいの試練は巫女として乗り越えられるはずだ。

 絶対当ててみせるからね、と勢いこむ小糸を前に、どこまでも穏やかに、綺麗に笑って見せるセイバー。

 果たして彼女はセイバーの真名を当てることができるのであろうか。

 知るは神様ばかりなり、と、残念ながらその神様というのも、この目の前のセイバー様に他ならないのであった。

 

 

 

 

 

 

 




書き溜め、というか盆休みが終わって書く時間がなかなか確保できないので、この後はゆっくり更新しますごめんなさい。
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