深界5層。人が人でいられる限界深度にその拠点はあった。
イド・フロント。アビスをよく知る者たちにおいては蛇蝎の如く嫌われる。しかし、間違いなく英雄と呼ばれる類の人物、黎明卿、新しきボンドルドの拠点である。
黎明卿はその日、さぞめでたいことがあったと言うように、この深さでは滅多にお目にかかれないご馳走を囲んで、新しき同胞を迎え入れていた。
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「ようこそいらっしゃいました。こここそが、あなたたちが新しく住まいとすべき場所。アビス探究の最前線、イド・フロントです。
……本来ならば、この特殊な場所についてある程度の説明も必要なのですが、しかしこの度は我らに貴方達と言う素晴らしき同朋が増えた祝いの日。堅苦しい説明で心を満たすのは心苦しい。故に、簡潔に済ませましょう。死にたくなければ階段と外へ通じる扉を進んではいけません。それはあなたたちに致命的な結果をもたらすでしょう」
そう言った私は、子どもたちがそれどころでないことを察して、言葉を続けます。
「おや、私としたことが、つまらない話に時間を取りすぎましたね。これは私たちの歓迎の気持ちです。いつもこのような食事を用意することができるわけではありませんから、せめて。今日は思い切り食べて、楽しんでください」
そう言うと、歓声を上げて子どもたちがご馳走に手を伸ばしていきます。こうして、我先にと食事を求める様も可愛らしいですね。
「おやおや、レシーマ、イリム。食べたいからと言って、取り合ってはいけませんよ。安心して、ほら、まだあそこに残っています」
そんな風に時折起こる諍いの仲裁をしながら、私も食卓を囲みます。尤も、私は白笛、食事の喜びなど遥か昔にその意義を失って久しいのですが。
ただ、可愛らしい子どもたちに囲まれて食事の様子を観察するのは、子どもたちの趣味、嗜好、そして、彼らとの絆の形成に無視できない恩恵をもたらします。
ふと、視線を移すと、賑やかに騒ぐ子どもたちと対照的に、隅で一人、食事をしている子どもがいました。あれは、確か……。
「こんな端で、どうしたのですか?ナナチ」
私の声にびくりと肩を震わせた白髪の少女は、こちらをキッと睨みつけると、そそくさと私から離れていってしまいました。
「おやおやおや」
まさか、嫌われているのでしょうか。確かに、衣食住の保証を条件に集めた孤児たちです。私個人への好悪を押し殺して、恩恵だけを受け取ろうとする者がいることも想定すべきだったかもしれません。
ただ、人を疑うことは悪いことではありません。疑うことこそが探究の始まりなのですから、
「もしかしたら、ナナチはこちら側の仕事が向いているのかもしれませんね」
そう呟いて、私は再び賑やかに食事を楽しむ子どもたちを見つめるのでした。