五等分の名探偵 - コナンと五つの難事件-   作:真樹

10 / 18
探偵見習い風太郎の休日(後編)

「被害者の名前は高田裕二さん。24歳。会社員。こちらのデパートの三階にある客用テラスのベンチで、座ったまま亡くなっているところを発見されました。死亡推定時刻は午後三時ごろ。死因は即効性の毒物を服用したものと思われます。第一発見者はあなた方、元大学のご友人とのことでお間違いないですね?」

 現場に到着した横溝刑事が一同に説明する。

 一同の中でも最初に被害者に話しかけた新井が頷いた。

「間違いないです。後、通報したのはそこにいる三人です」

「三人?」

 横溝が新井に言われた方向へ振り返ると、少し遠巻きに様子を見ていたコナン達と目が合った。

 こちらへと横溝が歩いてくる。

「確かあなたは、コナンさんでしたな! 先日、近くのレストランでひったくり犯を捕まえてくださった」

「ええ、お久しぶりです。横溝刑事」

 すると横溝がずいっと顔を近づけてきて、風太郎と四葉にも聞こえないような声で耳打ちしてきた。

「警視庁から、あなたが工藤新一さんであるという連絡は受け取っています。噂の高校生探偵だったとは驚きですが、よければ知恵をお借りできればと存じます」

「もちろんです。ですが、僕が協力していることはくれぐれも内密にお願いしますね」

「承知しております」

「二人で何こそこそ話してんだ?」

 話は聞こえていないようだが、目の前での内緒話は流石に怪しかったらしい。風太郎が訝し気に聞いてきた。

 コナンと横溝は勢いよく離れると、二人とも愛想笑いを浮かべた。

「い、いや、ほら。この前の事件のことでちょっとな……」

「ふうん」

 コナンの説明に納得いっていない顔ではあったが、風太郎はそれ以上は聞いてこなかった。

 横溝は続けて、四葉に目が留まったらしく、そちらへと歩いていく。

「貴女は確か、病院の事件で毛利探偵のお手伝いをされていた三玖さんでしたな? 貴女もコナンさんとお知り合いだったのですか?」

「え? えぇ!? 三玖、いつの間にあの毛利小五郎の手伝いなんてしてたんですか!?」

 横溝の話に驚愕する四葉の隣で、風太郎は思い出したような顔をした。そういえば林間学校の日に風太郎にはコナンから話をした記憶がある。

「何を仰ってるんですか。まるで貴方じゃないかのような言い方ではないですか」

「そいつは三玖じゃなくて、妹の四葉ですよ。刑事さん」

 風太郎が横から口を挟んだ。前のめり気味に四葉の顔を見ていた横溝が、風太郎へと向く。

「妹? ……確かに言われてみれば雰囲気などが違っているようにも思えますが、ずいぶんと似ていらっしゃるんですね」

「ええ、まあよく言われます……一応私達、五つ子でして他にも三人姉妹がいるんです」

「五つ子!? そんなのが本当にいるんですね!? ……おっと、ご本人を前にこの言い方は失礼ですね」

「それも言われなれてるので大丈夫です」

「しかし、三つ子ぐらいまでは聞いたことがありますが……まるで昔の漫画みたいですね」

 それは五ではなく六だろうが、風太郎と四葉はピンと来ていないらしく返事に困っていた。

 横溝は話をそこで切ると、再び被害者の友達たちの元へ戻っていった。

 手帳を開くと、書きかけのページにペンを構えて再び聴取の姿勢を取る。

「失礼。話がそれましたな。それでは、ご友人が亡くなった矢先にこのようなことをお聞きして大変申し訳ありませんが、あなた方四人のお名前やご職業、三時頃何をされていたのかをお聞きできますか?」

 横溝の誘導に従い、新井から順に話出す。

「新井直人。大学で生物学の研究室の手伝いをしてます。三時ごろは、このデパートのフードコートで他の三人と一緒に食事をしていました」

(あんなに乱暴な性格してるのに科学者かよ、この人)

 コナンは新井の話を聞いて内心で人は見かけによらないと思った。

「四人全員ともですか。皆さんも同じご認識ですか?」

 横溝が残る三人を見まわすと全員が頷いた。

「となると、全員アリバイがあるということですね。わかりました。では三時ごろのことは結構ですので、引き続きお名前などをお聞かせ願います」

 続けて残り三人が話始めた。

 遠藤紗枝と名乗ったのは、整った容姿をした女性だった。アパレルショップの店員をしているらしく、そのため日ごろから服装に気を使っているらしい。

 田中俊太と名乗ったのは、小太りでメガネをかけた新井と口論をしていた男性だった。フリーターで、今はコンビニでアルバイトをしているらしい。

 浅野恵と名乗ったのは、気の弱そうな女性だった。実家が経営している飲食店の店員らしい。それと、浅野だけはそれらの聞かれたことに加えて、自分と被害者の高田が交際していたことを話してきた。

「なるほど。確か伺った話の中で、あなた方ご友人達は大学卒業以降は初めて会うとのことでしたが、貴女だけは被害者と以前から連絡をとっていたということですな?」

「え、ええ。ただ高田君と連絡を取っていたのは私だけじゃなくて、新井君と田中君もだったはずです」

「そうなんですか?」

 何故言わないとでもいうかのような強めの口調で横溝は新井たちへ確認する。

 一瞬気圧されたものの、二人はそれに同意した。

 コナンが一歩前に出て、話に割って入る。

「そのことですが、そういえばフードコートにいた時、そちらのお二人は口論をされていましたよね。確か事情を聞くとお金のトラブルだとか」

「トラブルですか、それもお話いただけますか?」

 横溝がコナンの後に続いて聞いた。

 答えたのは田中であった。

「僕と新井、それと高田の三人は、みんなで色々とギャンブルをしていたのです。競馬とか、パチンコとか。誰かが負けた時なんかは金を貸し合ったりしていた、それで最近僕と高田は負けが込んでいて、新井に金を借りていたんです。それが返せる見込みも無くて、少し口論に……」

「ちなみに、いくらぐらいだったのですか?」

「さ、三十万くらいです」

「確かに個人間でやり取りするには、少し大きすぎる額ですな。高田さんも同じぐらいの額を?」

 すると、新井は言いづらそうに目線を逸らした。

 その変化を見逃さなかった横溝が新井へと詰め寄る。

「どうされました? 実際にお金を貸している貴方が管理していないわけがないと思いますが、言えないのですか?」

「あいつ……高田には、もっと貸していました……三百万くらいです」

「三百万!? ギャンブルにしたって何をすればそんな額になるんですか!?」

 素っ頓狂な声をあげる横溝。

 隣で話を聞いていた田中も、流石に以外であったようで目を見開いていた。

 その話に、浅野が割って入ってきた。

「高田君……公営のギャンブルだけじゃなくて、株や投資もやっていたと思います。私もやめて欲しかったんですけど、大丈夫、負けないやり方をしてるからって心配いらないって……でも最近は、元気がなくて、もしかしたら赤字になってるのかもって私も心配をしていました。でもまさか三百万円も新井君から借りていたなんて……」

「つまり、被害者は新井さんから多額の借金を負っており、その返すあてもなかった。久しぶりに遠藤さんなどの他の旧友とも合う今日亡くなられたということは、自殺してその様を見せつけようとしたという可能性も考えられますな」

「自殺って……俺はあいつが金に困ってたから貸してただけで、親切でやってたんだぜ!? それで自殺されたってんなら、もしかして俺は何か罪に問われちまうのか!?」

 横溝の推理を一通り聞いた後、新井がひどく慌てた様子を見せた。

「いえ、ただお金を貸していただけであればそのようなことはありませんが、どのようなやり取りが高田さんとあなたの間であったかにもよります。念のため、詳しい話を署までお伺いできますか?」

「俺が警察に!? ちょっと待ってくれ、まだ自殺って決まったわけじゃないんだろ!?」

「ええ、まだ部下が現場検証をしている最中です。ですので、それらが全て終わり他の可能性が出なかった場合は、ということになりますね」

「じょ、冗談じゃねえぜ……」

 新井がうなだれてベンチ開いていたベンチへと座り込んだ。

 横溝が現場へと戻った時、コナンもすでに鑑識に交じって現場の調査を始めていた。

 コナンは改めて現場を確認した。

 被害者の高田は今でこそ地面に倒れているが、最初に新井が手をかけるまではベンチに座っていた。

 高田の近くには缶コーヒーが落ちており、中身は半分以上零れていた。コナンの記憶では最初からこんな状態にはなっていなかったため、おそらく高田が倒れた時に手から落ちたものと思われる。

 缶は零れたコーヒーでできた水たまりの上に転がっているため、拾うことは出来ず遠目で観察するだけに留まった。すると、プルタブの部分に目につくものがあった。

(これは……糸か?)

 目を凝らさなければ見えないほど細い、繊維のような糸がプルタブのでっぱりの部分に着いていた。

 やはりできれば持ち上げて見たいと考えたコナンは鑑識に声をかける。万が一飲み物から毒が出れば触るわけにいかないからだ。

「すいません鑑識さん、ちょっと確認したいんですけど、毒物はこの缶からも出てきたんですか?」

「ああ、出てきたよ。毒が出てきたのは被害者の口から胃にかけて、それと缶は中も飲み口もしっかり出てきた」

「毒物ってどんなのかわかりますか?」

「正式に検査しないとわからんが、たぶんカプセルタイプだな。合致した成分で使われてるのがカプセルなんだよ」

「そうですか、ありがとうございます」

 続けてコナンは立ち上がると、別の刑事に声をかけた。大判の資料を何枚も持っており、おそらく現場の状況をまとめていると思われる刑事だ。

 刑事は近づいてくるコナンに気が付くと、資料をめくる手を止めた。

「すみません、被害者の所持品から遺書は出てきたんですか?」

「所持品ね、ちょっと待って」

 該当のページを開くため刑事が何枚か資料をめくる。

「えっと、いや、そんなのはないなあ。持ってたのはどれも普通のものだよ」

「ちょっと見せてもらってもいいですか?」

 刑事は言われた通りコナンに資料を渡してきた。

 その場で受け取ると、刑事が見える位置でコナンは内容を確認した。

 資料に書かれている被害者の所持品一覧には確かに特別なものはなかった。財布、時計、ワイヤレスイヤホン。それらを入れたポーチで全てだった。

 けれど、ある一点でコナンの目が留まった。それぞれの物品に書かれている、特徴を記した備考の部分だった。

 時計には備考で『懐中時計』と記載がされていた。

「この被害者が持っていたという懐中時計を見せていただくことはできますか?」

 コナンが聞くと、刑事は一度横溝へと確認を取った。

 問題ないという横溝の回答を受け取ると、証拠品一覧から時計を取り出し、コナンへと渡してきた。

 受け取った時計をコナンは確認した。蓋が付いているタイプの時計で、中を開くと時計は正常に動いており時間も正確に現在時刻を示していた。

 蓋を閉じて全体的に外観を確認したところ、コナンの中で一つの疑問が確信へと変わった。

「浅野さん、ちょっとこちらへ来ていただけますか?」

「え、私ですか? ……なんでしょう?」

 突如呼びかけられた浅野がおずおずとコナンの元へ歩み寄る。

「この懐中時計、確か浅野さんも同じデザインのものを持っていましたよね?」

「ええ、持ってます。彼とペアで買ったので」

「ちょっと見せていただけますか?」

「……わかりました」

 一瞬、浅野はためらう様子を見せたが懐から懐中時計を出すとコナンへ渡した。

 二つの同じデザインの懐中時計を見比べたところ、やはりデザインは全く同じであった。

 念のため、浅野から受け取った方の時計も中を開いて確認するも、やはり内側も同じデザインで時間で時計も同じように正確な時間を示していた。

 コナンは蓋を閉じると、浅野へと返そうと時計を差し出した。

「ありがとうございました。お返しします」

「え、ええ」

 時計を受け取ろうと浅野が手を出すと、懐中時計に触れる直前、一瞬手がこわばった。

(ん?)

 しかしすぐ後、浅野は時計を受け取ると隠れるように早歩きで遠ざかっていき、懐中時計をハンカチで吹き始めた。

(なんだ、あれ?)

 妙なことをする浅野に対して、疑問の目を向けるコナン。その様子に気が付いたらしい遠藤が話しかけてきた。

「悪く思わないで。あの子、潔癖症なのよ」

「ああ、だから僕が触った後の時計を受け取ろうとした時も一瞬嫌がったんですね」

「普段だったら人が触ったものに後から触る時は手袋をはめたりしてるんだけど、今は目の前にいたあなたに気を使ったんだと思うわ。ごめんなさいね」

「いえ、気にしませんから」

 気になるところは一通り見終わったコナンは風太郎達の元へと戻った。戻る途中で、コナンは高田と浅野以外のことも思い出す。

(そういえば、田中さんと新井さんの腕時計はデジタルだったし、遠藤さんはスマホで見てたっけ)

 風太郎と四葉の二人は、現場とは少し離れた別のベンチで腰かけていた。

 戻った先では四葉が少し期待をするような目をしていた。

「お疲れ様。コナンさん。何かわかった?」

「何となくな。でも肝心な部分の謎がわからねえ」

「肝心な部分?」

 風太郎のオウム返しにコナンは、ああ、と頷いた。

「おそらく今回の件は自殺じゃなく、殺人だ」

「なに!? なんでだ!」

「検出された毒物を鑑識が調べた時、カプセルに入ってる場合が多い薬品が使われてるらしいんだ。考えて見ろよ、毒じゃなくてももし自分がカプセルの薬を飲むとしたらどうやって飲む?」

 問いかけられた二人、四葉の方がイメージしながら実際に手を動かした。

 想像の薬と缶を持っている状態からだった。

「えっと、薬を口に入れて、そのまま飲み物を飲むね」

「だろ。その場合毒は胃からしか出ないが、実際は缶の中から胃までの飲み物の通り道全部で出たんだ。これってつまり一度飲み物に溶かして飲んだってことだろ? わざわざそんな面倒なことするか?」

「言われてみれば、確かに変だな……」

 風太郎も事件におかしな点があることに気が付き、考え始める。

 三人がそれぞれ考え始めた時、おもむろに四葉が立ち上がった。

「なんだか考えてたら甘いものが欲しくなってきちゃいました。何か飲み物を買ってきますね」

 そう言って四葉はテラスの端に設置されている自販機へと走っていった。

 その様子を見送っていると、自販機の前には遠藤も立っており同じく会話していたようだった。

 会話は少しの間続いた後、四葉が飲み物を渡してくる。

「適当に選んじゃったけど、これでよかったかな」

 コナンに渡されたのはホットの缶コーヒーだった。

「あちっ、なんでホットなんだよ。俺があんまり熱い飲み物得意じゃねえの知ってんだろ?」

「ごめんねー、ホットしかなかったんだもん」

「ったく、しゃあねえな。飲めねえわけじゃねえし我慢するよ」

「意外とガキなんだな」

「うっせ、猫舌はガキと関係ねえだろっ」

 小馬鹿にした目で見てくる風太郎に思わずコナンは口を尖らせた。

 すると、四葉がそう言えば、と言った。

「遠藤さんとちょっとだけお話したんだけど、高田さんも猫舌だったらしいよ。だからホットしかない缶コーヒーをわざわざ買ってたの、ちょっと意外だったんだって」

「なにっ!? 四葉、それ本当か!」

「え、う、うん……」

 突然立ち上がり四葉の肩を掴んだコナンに、四葉はびっくりしながら頷いた。

「どういうことだコナン、何かわかったのか?」

「詳しい話は後だ、お前らもちょっと来い!」

 コナンはそう言いながらも、横溝たちの方へと駆けていった。 

 

「横溝刑事!」

「コナンさん? どうされましたか?」

「高田さんのご友人の方たちをこちらに集めていただいてもよろしいですか?」

「それは、構いませんが、どうしてですか?」

「分かったんですよ。今回の、時間という不可逆なに流れるものを操って、アリバイを巧妙に偽装した殺人の真相がね」

「殺人ですって!? ……わかりました、すぐに集めてきますので少々お待ちください!」

 横溝の声掛けによって、新井、田中、浅野、遠藤の四人が集められた。

 視線の先にはコナンが立っており、脇に横溝が控えている。

 風太郎と四葉は、コナンの更に後ろに立っていた。

「急にまた集まってくれだなんて、どうしたんですか? 刑事さん」

 当然の疑問を言ってきたのは遠藤であった。

 それに同調し、田中も声を上げる。

「僕たちが知ってることは全部話しました。それにさっき休憩していいって言った時には、自殺かもって言ってたのに、僕たちに何をさせようって言うんですか?」

「いいじゃねえか田中。刑事さんが何か分かったって言ってるんだ。聞いてやろうぜ、真相ってやつをよ」

 唯一、流れに反して横溝の肩を持つような発言をしたのは新井であった。このまま自殺で片づけられてしまえば、自分だけが署まで事情聴取で連行されてしまうことを恐れているからだろう。

 最後に浅野だけは何も言わず、こちらの様子を伺っていた。

 全員が静かになったことを見届けると、横溝が話始める。

「皆さんおに集りいただいたのは、実は私ではなくこちらのコナンさんからお話があるからなんです」

 横溝はコナンを紹介するように手を指し伸ばした。

「さっきから現場をうろうろしてるガキじゃねえか。話ってなんだよ」

「そう急かさないでくださいよ新井さん、あなたの疑いを晴らすための説明でもあるんですよ?」

「俺の? ……ってことは、あんたがこの解いてくれたのか! 高田が死んだ理由を!」

「ええ、まず初めにお伝えすることは、今回の高田さんの死は自殺などではなく、殺人だということです」

 ええ、と一同にどよめきが生まれた。

 そのままコナンは四葉達にしたのと同様に、毒が服用されるまでの流れに対する矛盾点を説明する。

 隣に立っていた横溝が話を聞きながら四葉同様にフリをしてくれたおかげで、他の面々も理解してくれたようであった。

「つまり、毒は高田さん以外の別の人物が毒を入れ、それを飲ませたということになります」

「しかしですねコナンさん。毒が検出されたのは缶コーヒーですよ? 当然ですが缶コーヒーは飲む直前まで密閉されていますし、普通は飲む直前に缶を開けます。ということは毒が入れられたのは死亡推定時刻の三時とほぼ同じということになりますよね?」

「その通りです。毒物は缶が開けられてから入れられました」

 だとしたらおかしい、と言って横溝は手帳を何ページか遡るようにめくった。

 そして見せてきたのは新井達のアリバイだった。

「ここにいる四人の方々は、全員三時ごろはフードコートで食事をしていたと証言されています。それは口論を目にしたコナンさんも間違いないと仰っていたじゃないですか」

「ええ、それも間違いありません。僕達は午後三時に、間違いなくこの方々四人全員を目撃しています」

「だとしたら、犯人はまったく関係ない第三者というわけですか?」

 いいえ、と横溝の推理をコナンは否定した。

「毒物を入れた犯人は間違いなくこの四人の中にいます。そして毒を入れることが唯一可能だったのは、恋人であった浅野恵さん。あなたです!」

 そう言ってコナンは浅野へと指さした。

「恵が!?」

 隣に立っていた浅野がまさか、という顔で遠藤の顔が驚愕に歪む。他の男性二人も同様に驚いていた。

 浅野ただ一人が、表情を固まらせて立ち尽くしていた。

 コナンは説明を続ける。

「浅野さん、あなたは実は遠藤さんなど他の三人と合流する少し前からこのデパートに来ていたのではないですか? それも、被害者の高田さんと一緒に」

「ち、違います! そんなことありません! 確かに私は三時ちょうどぐらいにデパートに着きましたけど、その時には他のみんなも集まってました! そうよね!?」

 浅野の必死さが伝わってくるような同意に、三人は肯定するように頷いた。

 続けて浅野は話す。

「それに、もし高田君と少し早くここにきてたとしても、高田君が死んじゃった三時にみんなと一緒にいたという事実に変わりはない! あなたの説明は矛盾してます! そこをちゃんと説明してください」

「順を追ってきちんと説明しましょう。まずあなたは集合時間である三時少し前に高田さんとこのテラスに来て、時間まで待った。そして三時になると高田さんを置いてデパートの入口へと向かったんです。ただし、高田さんには『まだ時間まで少しあるから散歩をしてくる』などと嘘を言ってね」

「嘘……ですか。ですがコナンさん、そんな嘘をついたところで被害者も時計を持っていたのですから、すぐにバレるのでは?」

 横溝の質問に対して一つ頷くと、コナンは後ろへと目をやり風太郎へと声をかける。

「風太郎! おめえならわかるんじゃねえか? 高田さんも含めた五人の中で、高田さんだけが時間の認識を間違える可能性をよ」

 

 なぜ急にこちらに振るのか。風太郎は非常に困った。

 完全に聞くモードに徹していたというのに突如話が飛んできた上に、すでに全員の視線がこちらに集中している。

 何か答えなければと考え、急いで頭の中で情報を整理する。

 被害者も含めた五人の中で高田だけが時間を間違える可能性があるとすれば、時計を見間違えたりした可能性だ。

 五人はそれぞれ時計を携帯している。高田と浅野は懐中時計。遠藤はスマホ。新井と田中は腕時計だった。

 四葉が飲み物を買ってくるまでの間にもコナンから少し時計周りの話を実は聞いていたが、確か新井と田中の時計はデジタル時計で、最近のは電波時計になっているものが多いと聞いた。

 その時だった。風太郎はあることを思い出した。

 先日の0点の答案用紙の持ち主を探した時の、コナンからの言葉だった。

『一貫性のない痕跡、あれは一つ一つで見ると容疑者を絞るための消去法の材料にしかなんねえが、五枚全部で見れば一つの法則性が見えてくんだよ』

 一つ一つではなく、五つ全部で見ると見えてくる方向性。その時、風太郎は五つの時計の中で、仲間外れがあることに気が付いた。

「……そうか、懐中時計だと、時間が弄れるのか」

 

「正解だ、風太郎」

 コナンは四人へと向き直る。

「通常スマートホンは、特殊な設定をしていない限り時計はインターネットから時間を受信して自動更新されます。腕時計も、アナログ式でないなら電波時計になっている場合がわりと一般的です。しかし懐中時計だけは、上部についているネジを弄ることで時間の調整が可能なんですよ。そして浅野さんならば恋人である高田さんの懐中時計を少し弄るくらい、出来たんじゃないですか? あなたはあらかじめ高田さんの時計を十分程度、遅めにずらしておいたんです。すると、午後三時になったとしても高田さんの時計ではまだ二時五十分。集合時間まで余裕ができます。ずらした時間は、亡くなった高田さんの見て動揺している我々の隙を見て戻したのでしょう」

「それが何だっていうのよ!」

「浅野さん。高田さんが猫舌であることは、恋人であるあなたならご存じですよね?」

「猫舌?」

 次々と話が移り変わるコナンの説明に、ついて行けない横溝が同じ言葉を繰り返す。

「あなたは他の三人と合流する時、そこの自販機で缶コーヒーを買って、待っている間飲むように高田さんに勧めたはずです。しかしここの自販機はこの季節になるとホットしか売っていない。彼が猫舌であることを知っているあなたはやむを得ずホットしか買えなかったと説明し、少しでも冷ましてあげようという親切心を見せるフリをして缶の封を開けて渡したんです。その時、毒も一緒に入れてね」

「そうか! 高田さんが猫舌なら、開けたばかりのホットコーヒーは飲めない。だからしばらく冷ましてから飲むはず!」

「そう、しかも多少はすぐに口をつけるかもしれない可能性まで考えて、解けるのに時間がかかるカプセルタイプの毒にまでする徹底ぶりでね。すると、浅野さんが他の方々と合流した時に、屋上では高田さんが毒入りのコーヒーを飲み、死亡するというカラクリです」

 どうでしょう、合っていますか。と確認したコナンに対して、浅野はしばらく黙っていたが、もう一度顔を上げた。

「証拠は! 証拠はあるんですか!? 今の話は全部想像です! 私が毒入りのコーヒーを飲ませたという証拠を出してください!」

「証拠ならそこに落ちてますよ。高田さんが最後に口を付けた、缶コーヒーにね。横溝刑事、缶コーヒーのプルの部分を見てもらえますか?」

「分かりました」

 横溝が缶の傍でしゃがむと、言われた通りにする。初めは何のことかわからなかったみたいだが、目を凝らしていくうちに糸が付いていることに気が付いたようだった。

「何やら、衣服の繊維のようなものが付着しています!」

「おそらくそれは、浅野さんの手袋のものです。僕があなたから借りた懐中時計をお返しした時、遠藤さんが教えてくれたんですよ。あなたが潔癖症であることを」

「!!」

「潔癖症のあなたが、どこの誰が触れたかもわからない自動販売機や、缶に触れることは大変な苦痛のはずです。だから高田さんに手渡す直前まで、あなたは手袋をしていた。そして、缶のプルタブを開けるような細かい動きを手袋でするには苦労したはずです。だから何度も試みているうちに、残ってしまったんですよ。手袋の繊維がね」

 さて、とコナンは一息ついた。

「被害者が死ぬ直前まで手にしていた缶コーヒーに、あなたの手袋の繊維が付着している理由を説明してもらえますか。あなたが本当に犯人ではないのならね」

 そこで全てを話し終えたコナンは浅野の反応をまって押し黙った。

 しばらく沈黙が流れた中で、空気に耐え切れなくなった遠藤が浅野の名前を呼んだ。

 すると、ポツリ、ポツリと浅野が語り始めた。

「あの懐中時計は、彼との思い出の品だったんです」

「浅野……」

「お前、まさか本当に高田を……!」

 突如語り始めた浅野の様子に、犯行を認めているのだと理解した田中と新井は信じられないものを見るような顔をした。

「だけど、知っての通り高田君は新井君から借金をしていて、最近はどんどん身の回りの物を手放し始めていってたんです。最初のうちは自分のものだけだったんですけど、だんだん私のものまで手を付けるようになってきて、最後には私と高田君の一番の思い出の品だった、この懐中時計まで……その時、気づいたのよ。もうこの人に私に対する愛なんてないって。あったとしても、簡単にお金に換えられるものだったんだって。だから教えてやろうと思ったの! この時計を、私の愛を軽く見るとどうなるかね!」

 最後はほぼ叫ぶようにしながら、全ての動機を話し終えると、浅野はその場で蹲って泣き始めた。

 

 浅野は県警へと連行されていった。

 他の面々も解散となり、新井だけは去り際に横溝から度が過ぎたギャンブルや金貸しはやめるよう厳重注意を受けていた。

「すみません、去年の暮れごろに大きな臨時収入があってから、金銭感覚が狂ってしまったようです」

「臨時収入ってなんですか?」

 脇で聞いていただけだったコナンだが、思わず口を出してしまった。

「うちに連絡があったんだよ。研究成果を連携してほしいって、有償でね。その額が一千万円とか凄くて」

「そんなこと、大学の研究室ではよくあるんですか?」

「とんでもない! 教授も初めてだって驚いていたよ。それで、教授と生徒たち何人かで分けてたらってわけなんだ」

「差し出し人に心当たりは?」

「確か、長野にある別の大学だったかな。それがどうしたんだ?」

「あ、いえ。なんでもないです。教えてくれてありがとうございました」

 コナンが礼を言うと、新井も他の面々の元へと戻っていった。

 残ったのはコナン達三人と、横溝だった。

「今回もお手柄でしたねコナンさん! 流石は高校生探偵!」

「高校生探偵?」

「こ、高校生探偵みたいだっておだてても何も出ませんよ横溝刑事!」

 口を滑らせた横溝を裾を、風太郎達の視線からは自分の体で遮るようにしながら引っ張った。

 横溝も失言に気が付いたようで、一瞬顔を青くした。

 コナンは慌ててフォローする。

「ほら、ニュースでたまに出るだろ? 西の服部平次、東の白馬王子とかな」

「知らん。前も言ったが俺はニュースを見ないからそういう有名人のことは知らないんだ」

「私は知ってますよ! どっちも有名な高校生探偵の名前ですね! ……あれ、でも東の探偵って別の名前だったような……」

「気のせいだって!」

 間一髪というべきか、風太郎は元々そういう事情には詳しくなく、四葉もすぐに工藤新一の名前が出るほど業界に精通しているわけではないようだった。

(あぶねー……)

 ジロリと横目で横溝を見ると、横溝が申し訳なさそうにしていた。

 今回も感謝状などは遠慮する旨と、もう一度工藤新一の件や、コナンの名前であっても事件を解決したという情報が吹聴されないよう横溝に念押しをしてその場は解散となった。

 横溝が去った後、残された三人は顔を見合わせた。

 全員揃ってスマホで時間を確認すると、五時を回ろうとしていたころだった。

 11月の秋の空となると、この時間でも大分暗くなっていた。

「なんだか買い物って雰囲気でもなくなっちまったな。一応閉店までまだ時間あっけど、風太郎達はどうすんだ?」

「俺も何だか疲れたからな……それに人が亡くなった店で買い物って言う気にもなれん。とりあえず場所を移動するわ。四葉もいいか?」

「はい、大丈夫です」

 コナンは帰ることを伝えると、三人ともデパートを出て店の前で解散した。

 去り際に、コナンは一言二人の方へ見ると聞こえるように言った。

「頑張れよ」

「……おう」

 振り返ったのは風太郎だった。軽く手をあげると、四葉に連れられてどこかへと歩いて行った。

 その後、二人がどこへ行ったかは知らないが、家に四葉が返ってきた時には手に英単語帳を持ちながら、妙にご機嫌だった。

 

 

 

 勤労感謝の日から数日後のことだった。

 家庭教師をしに来た風太郎だったが、いつものように二乃と五月には逃げられ、四葉も用があるとかで出かけてしまった。

 いつもであれば一花と三玖の二人だけでも勉強をするのだが、今回は珍しく別の客人がいた。

 一花が所属するプロダクションの社長の娘で、菊ちゃんという子供だった。

 コナンもいつも通りダイニングテーブルで勉強している様を眺めながら、自分の自習……というよりは二度目の高校二年生だから復習なのだが、するかと思っていたところだった。

「おいお前。お前、アタシの遊び相手になれ」

 唐突な無茶ぶりが風太郎に振られていた。

 風太郎にしては流石というべきなのか、即座に人形遊びを始めようと取り出したよくわからない生物に人形は菊によって叩き落されていた。

 菊の要望により、おままごとをすることになった。

(ガキってこういう遊び好きだよなぁ……歩美ちゃんはあんまりしなかったけど)

 自分が小学一年生だったころを思い出すと、周りでそういう遊びをしている女子は多かったが意外と自分の周りでは少なかったことを思い出した。とはいえサンプルになるのがどちらかというと元太や光彦など男子と絡む機会が多いせいか男子向けのコンテンツが好きだった歩美と、今では本名で立派に大学に通っている自分と同じ偽小学一年のあいつだったから参考にならなかった。

 そう思っている間にも菊によって配役が決められていく。

 風太郎を指さすと、

「お前、アタシのパパ役」

 自分を指さし、

「アタシ、アタシ役」

 一花と三玖を指さすと、

「二人はここの事務員さん。二人ともパパに惚れてる」

 という流れになってきた。

(おい、この流れまじぃんじゃねえか……)

 早々に席を立って自室へ戻ろうとしたが、菊は当然コナンにも指さしてきた。

「お前は営業。事務員の二人に惚れてる」

「!!」

 一花か三玖のどちらからか息を飲む音が聞こえたが、それどころじゃない。

「お、おいおい。流石に二股はダメなんじゃないのかなぁ菊ちゃん。一人だけを好きにならないと」

「アタシのママはパパがいるのに浮気相手作った」

(おっも……)

 菊自身若干ダメージを受けてる顔をしていた。

 初めから言わなければいいのにと直接言うほど子供相手に容赦がないわけではないと自問自答した。

 最初に始めたのは三玖であった。風太郎にこれでもかと近寄る。

「社長、いつになったらご飯連れてってくれるの? 今夜行こう、今夜」

 その後、チラリと一花へと目線を向ける。

 しばらく黙った一花であったが、一つ深呼吸をすると表情が切り替わっていた。

「菊ちゃん、新しいママ欲しくない?」

 どうやら役者の血が騒いだらしい。完全に演技モードに入っている。

(え、これ俺も何かやんねえとダメなのか?)

 固まっている間もままごとはドンドン進んでいく。

 けれど、三玖からのとある質問によって空気が変わった。

「菊ちゃんはどっちのママがいいと思った?」

「アタシは……ママなんていらない。寂しくないから……ママのせいでパパはとっても大変だった。パパがいれば寂しくない」

 そういう菊の顔はうつむいてよく見えなかったが、声はわずかに震えていた。

 風太郎は菊の元へ歩み寄ると、突然菊の頭を掴む、というような表現の方が適切な勢いで撫でた。

「お前みたいな年の女の子が、母親がいなくなって寂しくないわけがない。ガキらしくわがまま言ってりゃいいんだよ」

 菊の目には涙がうるみ始めていた。

 それからも風太郎は菊の頭を座り込んでぐしゃぐしゃと撫で続けたが、乱暴な扱いにも関わらず菊はそれを拒まなかった。

 すると、そこへ三玖が近寄り同じくしゃがみ込むと、風太郎の裾を引っ張って言った。

「フータロー、私と付き合おうよ」

(はっ!?)

 寝耳に水であった。三玖が風太郎をどう思っているのかは林間学校の時点で何となく予測できていたが、まさかこんなにストレートに、しかも人目を気にせずに行動に出るとは思わなかった。

 一花を見れば同様に、同様に驚きの表情を浮かべていた。

 ただ一人、風太郎だけが動じずにいた。

(コイツのことだ、どうせ想定外の出来事すぎてまたフリーズしてんだろ)

 風太郎の様子にそう推測を立てた。けれどそれは大きく外れることとなった。

「付き合おうって、何言ってんだ。違うだろ。結婚しよう!」

「ええっ!?」

(ええっ!?)

 三玖と同じ反応が内心で出た。

 考えても見れば、最近よく五つ子の恋愛事情に触れることが多かったが、風太郎自身が誰をどう思っているのかはあまり考えたことがなかった。

 まさか風太郎の中ではすでに三玖のことを? 、そこまで考えたころ、それがすぐにままごとの演技の中から出てきた台詞であることがわかった。

「菊! これでママが出来たぞ、よかったな。といっても、ままごとの中だけどな」

 その後、他の姉妹達も帰ってきて、七人で菊の相手をすることとなった。

 なんだか変に動揺される日だと、妙に疲れたコナンの一日であった。

 





自分の作品は割と原作の流れそのまま汲んでることが多いので、規約の原作の大幅コピーに該当しないか震えながら台詞をちょこちょこ変えてる今日この頃です。

事件後のオマケ話は一部のテレビチャンネルで先週土曜日にアニメでも放送された回でした、漫画でも話がありオリジナルストーリではないです。
アニメ二期はどうしてカットしちゃったのやら。

コナンが猫舌気味なのは今年の映画からです。
念のためネットで調べたら出てきた情報なので、私が見た時はそんなシーンあったっけというのが正直なとこなので、レンタル開始かサブスク配信開始したら確認したいです。

Next Conan's HINTは好評の声を直接いただけるほどだったので、またやるかもです。

今日は後書き書くこと多い・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。