五等分の名探偵 - コナンと五つの難事件-   作:真樹

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八つ目のさよなら_四葉の場合

 12月08日 金曜日 6時

 昨日の晩はよく眠れなかった。

 二週間後に迫った一人暮らし用の引っ越し先の見繕い。コナンの命を狙っているだけのはずの連中が、何故か五月を狙ったという謎の行動の真意。そしてそれらを全て隠して潜伏するために被っている江戸川コナンというガワが二乃によって剝がされかけている状況。中野姉妹の喧嘩の仲裁。おまけにそれによって摩耗している風太郎の精神状態のケア。

(数え上げたらキリがねえな……)

 解決しなければいかない問題の重大度で考えるのならば、正直いって登校している場合などではないのだが、引っ越しにはまだ期限がある。

 裏社会の連中も自分が動いてどうにかできる問題ではない。むしろ今首を突っ込めば今度こそ安室によって独房行きにされかねない。

 となると残るは中野家側の問題解決となるが、二乃とは昨日の一件から顔を合わせづらい。

 喧嘩の仲裁は渦中の人間である風太郎に任せるとして、問題はその風太郎自身を心配する必要がある。

 よって、今日はいつも通り学校に登校し風太郎の様子を確認しておこうと思ったのだが、思った以上に大丈夫そうだった。

(いや……どちらかといえば)

 明るすぎる、とも言えた。

 昨日のホテルから二人で帰った時のやつのしょぼくれようといったら見ていられないほどだった。

 三玖とすれ違った時も、あの三玖ですら話をそこそこに切り上げていってしまうほどだった。

 しばらく様子を伺っていると、風太郎の方は昨日の今日で二乃と話そうとしているところだった。風太郎の隣には五月も着いてきていることから、五月側のメンタルは大分落ち着いてきているのだろう。

 しかし、二乃のクラスで他のクラスメイトに取り次いでもらおうと頼んだところ、二乃は休みということだった。

 すると風太郎は次の問題児をところへ行くと言い出して移動を開始し始めて。

 二乃と五月以外の問題児とは誰のことか、気になったコナンもそこで二人の後を追うのをやめて素直に合流することにした。

 三人が向かった先は下駄箱だった。そこには四葉も交えた陸上部の面々がいた。

 グループの中心と思われるポニーテールをした日によく焼けている女子、おそらく確か江場部長だったはず、が言った。

「来週はいよいよ高校生駅伝本番だ! あなたがいなければ参加できなかった! 走りの天才を頼りにしてるよ」

(駅伝? 今ってテスト期間中だろ? まだ練習やってんのかよ)

 なんとなく事情は見えた。大方お人よしの四葉が付き合わせれているということだろう。

「お前が天才とは世も末だな」

 四葉と江場の会話に風太郎が割って入る。四葉は近づいてきているのに気づいていなかったようで驚いていた。

「あんたが部長か? 期末試験があるのに大会の練習なんてご立派だな」

「うん、大切な大会なの。試験なんて気にしてらんないよ」

「あ? 試験なんて?」

 その試験なんかのために神経をすり減らしている風太郎の地雷を踏んだようで、元々目つきの悪い風太郎の期限が更に急転直下していくのを江場以外のその場にいる全員が感じとった。

 四葉が冷や汗をかきながら二人の間に割って入った。

「わー! 大丈夫です! ちゃんとやってますよ!」

 結局四葉は陸上部の練習に参加する意思に変わりはないようだった。

 また口論になるかと身構えた時、意外にも風太郎の方は落ち着いた様子に戻っていた。

 最初から見越していた展開だったかのようだ。

「まぁ、四葉がそう言うのなら止めねえよ」

「ちょ、ちょっといいんですか?」

「おめえなら引きずってでも連れて帰るとか言い出すと思ってたぜ」

「そんなことはしない」

 すると、風太郎はワイシャツをその場に脱ぎ捨てた。見ればその下には体操着が着こまれている。

「俺も一緒に走ろう。それなら邪魔じゃないだろ」

 自信満々に言ってのける風太郎に対して、四葉は意外そうな顔をしながら目を輝かせていた。

 対してコナンは、風太郎の後ろで半目になっていた。

(それは無理があるんじゃねえのか……?)

 風太郎が女子陸上部と一緒にウォーミングアップであるグラウンドのランニングを始めてからすぐのことだった。最初の数週を走りきった時点で風太郎は今にも死にそうな表情で良き絶え絶えになっていた。

 グラウンドの周回くらいなら男子の体育の授業でもよくやっている。風太郎は比較的体力がない方だが、それにしたって息が上がるのが早すぎだ。しかしそれも納得な話で、あの貧弱ガリ勉はただでさえ体力的に自分の方が劣っているはずだというのに、ただ走るだけではなく四葉に対して試験範囲の問題を出題までしていたのだった。

 そして無理を押して走っているとついには

(あぶねっ!?)

 風太郎が自分の足を絡ませて転びそうになっていた。

 間一髪、四葉がそれを支えた。

「無理しちゃだめですよ。もう休んでてください。私は平気です」

 ふらつく足取りの風太郎を支えながら、グラウンドの隅で様子を見ていたコナンと五月の元へ四葉が風太郎を連れてきた。

 四葉がゆっくりと手を離すと風太郎は崩れ落ちるようにその場にへたり込んた。

「くそっ……俺は、まだ……」

 未だに恨めしそうに再び練習に戻っていく四葉の姿を眺めながらぼやく風太郎。このままでは息が整い次第再び走ると言い出しかねなかった。

 五月も心配そうに風太郎を見ている。

(……ったく、しゃあねえな)

 見ていられなかった。

 コナンは立ち上がると、ポケットから探偵団バッチを取り出して風太郎に放り投げた。

「それ、ONにしてあるからそのまま持ってろ」

「花火大会の時のお守りか……? はぁ……ONってなんのことだ」

「トランシーバーになってんだよ。それ」

「はぁ? なんだそれ」

「いいから。もう一つ俺は持ってるから、俺と四葉の会話をよく聞いとけ」

「四葉のって、どういう」

「おめえのバカな作戦に乗ってやるっつってんだよ。俺のテストと体育の成績、お前も知ってんだろ?」

「まさか」

「臨時家庭教師、やってやるよ」

 そう言って四葉の元へとコナンは走りだした。

 走りながら首元に付けたバッチに向かってコナンは話す。

「俺がテスト範囲っぽいところから適当に出すから、そもそも俺自体も間違ってたり出したい問題があれば言ってくれ」

『言ってくれって……どうやって応答すりゃいいんだこれ』

「ONにしてるっつったろ。もう聞こえてるよ」

『……わかった』

 しばらく走るうちに四葉達のグループに追い付いた。

 後ろから走ってくるコナンの存在に四葉も気が付いたらしい。

「え、今度はコナンさん? まさか上杉さんに頼まれて」

「俺からやるっつったんだよ。んなこたどうでもいいから、四葉、まだ走りながら問題解けるか?」

「う、うん」

「よし、なら始めるぞ」

 それからウォーミングアップが終わるまで、コナンは四葉の後ろに続きながら問題を出し続けた。時々風太郎から問題の出し方や回答の指摘をもらいながら、出題は進んでいった。

(いや、これ普通に非効率すぎるだろ……)

 グラウンドの周回が終わったころ、流石にウォーミングアップだけとはいえ陸上部の走りに素人が付いてくるとは思っていなかったようで、江場が困った顔でコナンの元へ寄ってきた。

 ハッキリ言って、これ以上は練習の邪魔だということだ。

 コナンはバッチにそのまま伝えて、これ以上は部活の練習も勉強もどっちつかずで両倒れになるかもしれないと進言したところ、薄々それは風太郎も感じ取っていたようでその日は退散することになった。

 

 同日 午後11時

 その日の晩、一花からSNSを使ったグループ通話の提案が来た。

 通話のあて先は二乃と四葉を抜いた姉妹に、風太郎とコナンだった。コナンは自室のベッドから電話に参加していた。

 コナンがリビングで頭を抱えていたところを一花に見られてしまい、普段飄々としているコナンが悩んでいるのを見過ごせないと半ば強引に聞き出されてしまった。

 とはいえ、それでも話せたのは中野家側だけの事情だ。流石に一花も四葉のことや金太郎の件のことは知らなかったらしい。

 一花の号令によって即座に家族会議も開催され、瞬く間に三玖と五月にも事情は共有された。

『だとしたら、やらないといけないのは二乃のフータローに対する心象の改善と』

『四葉の部活だね。あの子から聞いたけど、今日いきなり言われて明日には土日をかけて合宿に行くって言ってたよ』

 三玖と一花が言った。

『なんだと!?』

 風太郎側が逆に合宿のことを初耳だったらしく、語調を荒げた。

『どうしましょう。私にはどちらも解決策が思い浮かびません……特に、二乃の方は私が何とかしようとしても状況を悪化させてしまいそうですし』

『私が行く』

 五月の困惑気味な声に、三玖が答えた。

『元はと言えば二乃が出て行った日のことは、私も関係してる。何を言ったらいいか正直今もわからないけど、とにかく行ってみるよ』

『なら私は四葉の方だね。フータロー君と五月ちゃんは二乃とは顔を合わせられないから、コナン君は三玖と一緒に二乃のところに』

「わりい、それは無理だ」

『え?』

 一花が意外そうな声をあげた。

 風太郎の変装がバレた日の出来事の説明の中に、コナンの変装までバレた可能性を説明していなかった。

 正直言えば、自分が行って確認と、他の姉妹へ黙っていてもらえるように頼みに行きたかったが、一花の言う通り取り合ってもらえるか自体怪しかった。半分掛けになるが、ここは三玖に任せるしかないと考えた。

「ちょっと行けない事情があるんだよ」

『うーん、そうなるとバランスが悪いし、私が二乃の方に行こうかな』

『大丈夫。私に任せて』

 そう? 、とやや心配げな声を上げたが、少しの沈黙の後、議長の一花が承諾した。

 続けて四葉をどうするか、という話題に関してはそもそも四葉本人が試験と部活に対してどのように考えているのかを確認しようということになった。

 ちょうど通話の最中、部屋の廊下が開いた音と階段を下っていく音がする。

 中野家におり、そして電話に参加している面々の誰でもないことを確認するとおそらく今降りたのは四葉だろうと三玖が推理した。

『あれは多分歯磨きだね』

 一花もそれに同意した。

 タイミングが良いと言わんばかりに一花が確認してくる言うと、もう一度、コナンの部屋からだとさっきの音より遠い場所で扉の開閉音と足音がした。

 一花の予想通り洗面台にいたらしく、しばらく一花と四葉の会話が聞こえた。

 最初の内は代わりに歯磨きを代わりにしてあげていたりと、家族+野郎二人が通話越しに何を聞かされているのかという気になったが、全て一花の計画通りだったらしく自然に話は本題へと移っていった。

『お姉ちゃんを頼ってくれないかな』

『……私、部活辞めちゃダメかな……』

『辞めてもいいんだよ』

『やっぱだめだよ! みんなに迷惑かけちゃう! 勉強とも両立出来てるんだ。一花がお姉さんぶるから変なこといっちゃった。同い年なのに』

 話を聞きながら、四葉の勉強状況を思い出す。確かに四葉は部活練習で遅く帰ってくるわりに、それ以外の時間は試験勉強に当てている節はあった。両立出来ているというのもあながち嘘ではないだろう。

 コナンが風太郎の作戦に乗ったり、四葉の今回の話に参加しているのもどちらかと言えば風太郎のサポートが目的であり、四葉本人に対してはさほどの心配はしていなかった。

 しかし、今の話を聞いていて気持ちは変わった。四葉は部活を辞めたがっている。

 今回の通話で最も確認すべき部分を確認できたのだ。

 それは電話先の一花も同様の考えなのか、先ほどまでの心から心配する声色から一転した明るいトーンが聞こえる。

『あはは、こんあパンツはいてるうちはまだまだお子様だよ』

『わーっ! しまっといて! 上杉さんが来たときは見せないでね!』

『はーい』

 直後、一回から駆け足気味の音が昇ってくると二つ扉の部屋へと飛び込んでいった。

 少し四葉がかわいそうになった。

 最後のやり取りは本当に必要だったのだろうか。

『ちゃんと聞こえてた?』

 しかけた本人はまるで悪びれることもなく、ぬるりと話を本題に戻してくる。

『お子様パンツ』

『よかった』

(よくねえよ)

『明日陸上部のとこに行こうと思う。君たちはどうする?』

『行くに決まってる! 四葉を解放してやるぞ!』

『わかった。コナン君も来てくれるよね?』

『ああ、もちろんだ!』

 

 12月09日 土曜日 8時頃

 今頃二乃のホテルでは三玖が説得を試みているところだ。

 コナン達は駅前の歩道橋に集合しており、眼下には四葉も含めた陸上部が集合している。

 どうやって仕掛けにいくか相談していると、一花のスマホが鳴動した。三玖からの電話のようだった。

 電話を取りしばらく話を聞いていると、一花が驚いた様子で言う。

「え? どうしたの三玖。助けてほしい?」

 説得が上手くいっていないのだろうか。一花が不安げな顔で話を続けている。

 それを横目に風太郎は手すりに両肘を付けてもたれかかっている。コナンもその横で、肩ひじだけついて頬杖をついていた。

 風太郎が一花に聞かせるわけではなく、愚痴るように言う。

「何やってんだ。陸上部の奴らがもうすぐ合宿に出発しちまう……ったく、試験前だってんのにとことん勉強をおろそかにしやがって……」

 一花が電話をしている間、五月とも作戦を練っていると、風太郎が何かを思いついたようだった。

「丁度いい。そのまま三玖を連れてきてくれ」

「でも……」

「これは四葉のためでもある。急いでくれ」

 おそらく三玖に四葉の代わりをさせる作戦だろう。

(その作戦を昨日の時点で思いついていれば、面倒なことにならなかったじゃねえか?)

 そう思ったコナンであったが、思いつかなかったのはコナンも同罪なので何も言わないことにする。

 一花も同様のようで、いまいちな顔をしていた。

「……」

 しかし、他に案があるというわけでもなく、

「わかった! 待ってて!」

 一花は走り去っていった。

 残された三人の中で、唯一作戦の内容を理解していない五月に風太郎は説明した。やはり入れ替わり作戦のようだった。

 三玖の到着を待とうともしたが、タイミングの悪いことに陸上部たちが眼前で移動し始めるのが見えた。

 焦る気持ちを前面に出しながら風太郎が考えると、一つの妙案を更に思いついたようだった。

 風太郎は五月を見た。

「え…………」

(いや、それは愚策だろ……)

 少しした後には、四葉のリボンを付けてジャージを着ただけの、エセ四葉(五月)が爆誕していた。

 

 同日 同時刻

 三玖は二乃の新しいホテルへと入り込んでいた。

 風太郎の正体がバレた日、コナン達が帰った後、入違いでホテルに入った三玖は二乃がチェックアウトする姿を目撃しており、なんとか居場所を特定していたのだった。

 しばらくの雑談の後、三玖は二乃に問いかけた。

「フータロー達と何してたの?」

「一昨日のことを一言で表すなら、最悪。あいつら……絶対に許さないわ……」

「どんな酷いことを……」

 自分から聞いたことのはずなのに、憎悪という感情すら見えるほどに顔を歪める二乃に思わず引いてしまう三玖だった。

 それに対して二乃は声を荒げて言った。

「聞いて驚きなさい! あいつら、変装して騙してたのよ!」

「なんだ」

 三玖は緑茶を啜った。

 わずかの間、沈黙が走った。

 三玖はもう一口啜った。

「薄ーっ!! 酷いんだから! もっと反応しなさいよ!」

「だって、私たちがいつもしてることだし」

「そ、そうだけど……」

 言われてみれば、と二乃が言い淀むのを見ながら、三玖が先ほどの二乃の言葉のある点に気が付いた。

「変装してたの、あいつらって言った?」

 あの日、三玖がすれ違ったのは風太郎とコナンの二人だ。

 昨晩の電話で風太郎が変装をしていたのは聞いていた。正直言うと反応が薄くなってしまったのも知っていたからだった。

 しかし、コナンの方はなんのことかわからない。そんなこと、昨日のコナンからの説明ではまったく言っていなかった。

「コナンも誰かに変装してたの?」

 単刀直入に二乃へと問いかけた。

 その問いに対して、振り返って言った二乃の回答はこうだった。

「違うわ。"コナン"って姿の方が変装だったのよ……確かに今までメガネを外した顔を見たことなかったけど、なんで気づかなかったのかしら。有名人じゃない」

「誰のことを言ってるの?」

「工藤新一、それがあいつの正体よ! あんたもテレビで見たことくらいあるでしょ!? 東京で活躍してたっていう、二年くらい前までよくニュースになってた高校生探偵!」

「え……?」

 三玖の思考が停止した。まったく予想外の名前であったからだ。

 二乃の今度こそは三玖が自分の予想通りの反応をしてくれたようで、やや満足そうな顔を一瞬したが、不機嫌そうな顔にすぐ戻る。

 それからはずっと信じられないだの、ずっと騙してたなんてだの、ぶつぶつと恨み言を言っていた。

 そのうち、徐々に冷静さを取り戻してきた三玖が更に話の中の違和感に気が付く。

「待って二乃。工藤新一がニュースになってたのって、二年前だよね?」

「そうよ。だからどうしたの?」

「私たちも、"二年生"だよ?」

「!!」

 三玖の言わんとしていることを二乃も理解したようだ。

 今現在、コナンと五つ子は同じ学年、学級に通っている。つまりは高校二年生ということだ。

 しかし、三玖たちが新一のニュースを見た時、彼は既に"高校生探偵"として世間に姿を晒していた。つまり、五つ子達が中学生だったころに、同学年のはずの彼はすでに高校生だったのだ。

 二乃が顎に手を当てて、考えた後、まさかという顔をした。

「もしかして彼、バカで留年したんじゃ」

「それはないと思う」

 三玖は一刀両断した。

 コナンの成績は五月から聞いている。というより普段から生活している中で成績の話くらいする。

 それによればコナンの成績はかなり優秀だ。風太郎のオール満点には及ばなくても、学年順位は上から数えた方が圧倒的に早いほどだ。

 だとしたら留年の可能性はありえない。

 それに気になる点は他にもある。

「工藤新一って、二年前にニュースで一時期凄い話題になったけど、それからパタッと聞かなくなったよね」

「そういえばそうね……だんだんテレビで取り上げられなくなってきたんじゃなくて、急に聞かなくなったわ」

「もしかして、ニュースに出来ない事情があったとか?」

「探偵がテレビに出れなくなることなんて言ったら……まさか事件?」

 三玖はこれまでのコナンとの出来事を思い出す。

 この半年くらいの期間の中でも、コナンはいくつもの事件を解決している。それは探偵としての彼が呼び寄せている気質なのか、自ら事件に関わっていこうとする彼の性分なのかは定かではないが、どちらにしても今まで犯罪なんてものとは縁遠い生活を送っていた三玖からしたら激動という言葉を使っても差し支えなかった。

 そして、コナンが意図的に事件解決の立役者として名前を公表しないようにしているのは三玖もひったくり事件の時に見たことがあるが、記憶の中のニュースで見た工藤新一が解決した事件と比べれば、ニュースにされたっておかしくないレベルの事件だってあった。

 三玖が見てきたように、これまで実は陰で活躍して、しかし名前だけは伏せていたのだとすれば理由はなんだろうか。そこだけが検討も付かなかった。

「考えられるとしたら、コナン……ううん、工藤新一は凄く危険な事件に関わっていて、世間に公表できないから身を隠している……?」

「何それ……何よそれ!? そんな危ない奴が今まで家にいたって言うの!?」

「ま、待って。まだ決まったわけじゃない……」

「でも、全部説明つくじゃない! 彼が普段使ってるおかしなアイテムも、私たちの目の前で解決した事件を手柄にしないのも、全部自分の身を守るためだったとしたら……」

 すると二乃は踵を返して固定電話へと向かった。

 三玖が慌てて立ち上がる。

「どこに電話する気!?」

「決まってるわ。彼の居候を決めたパパのところよ」

「私たちに内緒で決めたんだよ? 素直に話してくれるかわからないし、もしかしたらお父さんだって知らない話なのかも」

「だとしたらなおさら伝えなきゃダメじゃない!」

 すでに二乃の手は受話器を取っており、ダイアルを押し始めている。

 三玖も正直言って、今までの話で不安になっていないわけではなかった。

 それでも、この話の流れはなんとなくマズイ気がした。このままではコナンは危険人物として、家から追い出されかねないと考えたのだ。

 その考え自体は間違いない。だとしたら、どうして自分はお父さんへ連絡しようとしている二乃を前に焦っているのだろうか。そう自問した時、答えが見えた。

「二乃! コナンのこと、本当に危ない人だと思ってる!?」

「……!」

 二乃の手が止まった。

 電話のダイアルは大分押されている。後一、二プッシュすれば電話はかかってしまうだろう。

 言葉を間違えて二乃に発破をかけるようなことをすればアウトだ。そう思い、三玖は内心で必死に言葉を組み立てた。

「私たち、コナンともう半年は一緒に住んでるんだよ? 一緒にご飯だって食べたし、休みの日は遊びに行ったりもした。少なくともその中で、私はコナンが危ないだなんて思ったことない」

 一度だけ、病院で事件があった時に自分も関わったことがあるのを思い出した。しかしあの時は三玖の方から関わろうとしていた。

 最初のうちはコナンも捜査の協力を快諾してくれたが、殺人犯が病院内の人間だと分かった時には警察の人が守ってくれる時でないと参加させてくれなくもなった。

「二乃だってそうだよね。コナンの方から事件に巻き込もうとしたり、危険なことをしようとしたことなんて一度もない。それどころか、事件の時以外だって私たちを守ろうとしてくれてた。花火大会の時だって」

「……!」

 二乃の肩が震えた。

 花火大会の時のコナンとの記憶は、二乃の中でも忘れられないものになっていたらしい。

 しかし、それでもだ。

「それでも、彼自身が悪人じゃなくても、彼と一緒にいるだけで事件に巻き込まれるかもしれないことに変わりはないわ」

「なら、私たちのことをどう思ってるのか、コナンに確認してからでも遅くないんじゃないかな」

 コナン自身が危険な存在であるというのならば、金輪際合わない方が身のためだろう。しかし、やがていつか来るであろう危険のために、善人を遠ざけるのは話が違う。

 確かに、身に降りかかってくる火の粉の数は増えるかもしれないが、たとえコナンという存在を取り除いたとしても火の粉の数はゼロにはならないのだ。

 社会で生きていく以上、事故だって起きる。そんなことは小学生だって知っていること。

 そこまで言うと、二乃は一度大きく息を吸った。

「分かったわ。判断は、彼から話を聞いてからにするわ」

「もしそれで私たちを守るつもりもないってわかったらその時は」

「私がパパの反対を押し切ってでも追い出す」

 最終的に二乃が出した結論に、三玖も同意した。

 しかし、不安はなかった。

 三玖は薄く笑って言った。

「大丈夫だよ。コナンは良い人だから」

「良い人……ね。あんたはアイツのことを"良い人"としか思っていないのね」

「どういうこと?」

「分からないならいいわよ」

 最後の二乃言葉だけは三玖には理解できなかった。

 しかし、二乃には二乃なりに何か感じているものがあるのだろうということにした。

 どうにかコナンのことがお父さんに通報されることは避けられたと思い、安心すると、落ち着いた頭の中で一つ更に気づいたことがあった。

「フータローはこのこと知ってるのかな」

「どうかしらね。あいつら、二人で私のホテルに来てたわけだし。よくよく考えればあいつらが居候と家庭教師に来たのも同じ時期じゃない。もしかしたらグルかも」

「でも、落第しかけたせいでフータローの学校に転校することになったのは、どちらかと言えば私たちのせいだし、そこは偶然かも」

「偶然ね。そんな都合のいい偶然なんてあるのかしら」

 それについても今考えて答えの出ることではないだろう、と三玖は考えた。

 考えをもとへと戻す。元々自分は二乃の家出をやめさせるためにここに来たのだ。

 ホテルでの出来事は、その足掛かりでしかない。

「それで、変装してた以外には何もなかったの?」

「それ以外……工藤新一……この名前で言うのも違和感あるわね。とりあえず今はコナン君でいいわ。コナン君には、私の悩みを聞いてもらったわ」

「どんな悩み?」

「私が家を出た理由よ。私自身も分かってなくて、モヤモヤと黒い霧がかかっててイライラしてたところを言葉にしてくれて、なんだかスッキリしたわ」

「そうなんだ」

「だから正直、もうあんまり嫌な感情は残ってないのよ」

「フータローは?」

「アイツは……五人でいてほしいって言われた。試験とか関係なしに」

「フータローがそんなことを……」

 その言葉は三玖も以外であった。まさか風太郎の口から『試験とか関係なしに』などという言葉が出るとは思いもよらなかった。

「私の都合を聞いたうえで、自分勝手よ」

 ここまで話を聞いた時点で、三玖の目から見た二乃は最早かなり落ち着いているように見えた。

 後は何が理由で帰りたいのか、理由すら見えない。

 もしかして、本当は帰りたいのにきっかけを見失っているだけなのではないか。そんな風にさえ思えた。

「二乃はうちに戻りたくないの?」

「なんで戻んなきゃいけないの? いるだけでストレスが溜まるわ。昔と違って好き嫌いも変わっていってすれ違いも増えたわ。バラバラの私たちがそこまでして一緒にいなきゃいけない? 一緒にいる意味って何よ? 私には、五人一緒なんて私自身を繋ぎとめる枷になってるとしか思えないわ。五人でいたとして、私も変われる、そう思える何か答えがないと帰ろうとは思えないわ」

 二乃がそんな風に思っているとは考えてもいなかった。

 誰よりも姉妹思いで、だけど横暴なのに勝手に傷ついて、一番姉妹を振り回しているのは二乃じゃないかとすら三玖からすれば思っていたのに、いざ本心を聞いていれば自分以外の姉妹みんなが変わってしまった? 

 そんなことは、ない。

 それに、二乃の問いには、三玖には三玖なりの答えがある。

「家族だから、だけじゃ変かな」

 三玖は説明した。

 二乃だって変わっている。

 好きな飲み物も。

 得意な教科も。

 だから教えてあげた。自分は社会が得意だと。戦国武将が好きだから得意になれたと。

 そして紅茶の味なんて、二乃がいなければ自分は知ることもなかったと。

 自分たちは一人20点のバカかもしれないけど、五人がバラバラのことを経験して、また一つに集まって、そうやって100点を取るような存在だと。

 風太郎のように一人で勉強に関してだけだが100点を取ってしまうような人や、コナンのように全て90点近くとってしまうような凄い存在じゃないと。

 でも、それでいいんだと。

 私たちは一人前を五等分にすることが大事だから、五人で500点よりもきっと五人で100点を取った方が、そこに私たちにしかない"特別"な何かがあるのだと。きっとそれは、風太郎もコナンも持っていない何かだと。

 話を一通り聞いた後、二乃は席へと戻ると、一言断ってから三玖の緑茶を飲み干した。

 しかし、三玖が紅茶の甘さに撃沈したように、二乃も緑茶の苦さに顔をしかめた。

 話はいつの間にか紅茶と緑茶、どちらが優れているのかなんていう話に変わっていった。

 途中で何をしにきたのかとも思ったが、その感じがどうにも今までの生活に戻ったようで心地よく、つい続けてしまった。

 最終的には紅茶も緑茶も、どちらも同じ葉であるなんていう雑学まで手に入れてしまい、思わず笑ってしまった。

 すると二乃がまた立ち上がった。

「過去を忘れて、今を受け入れるべき。いい加減、覚悟を決めるべきなのかもね」

 そう言って棚から取り出したのは、大きめのハサミであった。

 慌てて三玖が一花にヘルプの電話をしたのはそのすぐ後、一花が到着したのも少しした時だった。

 

「三玖! 大丈夫!?」

 部屋に飛び込んて来た一花は、部屋に入るなりその惨状に驚いていた。

「えっと、これはどういうことなのかな……」

 一花が視線を床へと向けながら言う。

「別に、ちょっとケジメをつけただけよ」

「もしかして、失恋とか?」

「ま、そんなとこ」

「嘘ほんとに!? 誰と!? 三玖、知ってる!?」

「……知らない」

 知らないわけがないのだが、テンションが上がった一花は気が付いていないのだろうか。

 そう思った直後、一花も思い当たったようで『あー』という顔をしていたが、流石に具体的に聞くような無粋な真似はしなかった。

 そして三玖は話した。一花を呼んだのは他でもない。この床の惨状をどうにかしてほしいためであった。

「なるほどね……結構向こうもマズイ状況なんだけどなぁ」

「向こうって?」

 二乃の疑問に一花は回答した。四葉が試験前最後の土日である今日と明日、部活の合宿に連れて行かれそうになっているっということだ。

「何それ、なんで止めないのよ!?」

「私たちだって止めたいよ! でも、今向こうには五月ちゃんとフータロー君とコナン君しかいないから、止めようにも止められなくて……」

「もしかして、無理してこっちに来たのは私に四葉の代役をさせるため?」

「さっすが! 話が早くてお姉さん助かる!」

「なら急いで行かないといけないわね」

 そう言って二乃と三玖が走り出そうとする。

「待って! もしかしてここの片づけ私一人でやるの!?」

 けれど二人を止めたのは一花の悲痛な叫びで会った。

「あ、そっか」

「そっかじゃないよ! 私家政婦さんじゃないんだよ!?」

「どうしよう……時間もないし」

「三玖、四葉達のグループが合宿に行く時間は?」

 三玖は時計を見ると、聞いていた電車の出発時間から逆算して残りの時間を伝えた。

「何それ! もうすぐじゃない! ……三玖、あんたが残りなさい。あんたの足じゃきっと間に合わないわ」

「でも、それじゃあ」

「ここにもう一人、四葉の代わりが出来る人間が増えたでしょ」

 あ、っと気が付いた三玖。

 そういうことだからと言って二乃が再び部屋を出ようとしたところで、もう一度だけ二乃は足を止めた。

 一花へと振り返ると、一つ質問をした。

「そうだ一花。一応聞いておきたいんだけど、あんた工藤新一って知ってる?」

 

 同日 同時刻 駅前の続き

「一身上の都合により、退部を希望します」

 そう退部の宣言をしているのは、エセ四葉、もとい五月であった。

 五月の前では風太郎が腕組みをしている。コナンは脇でそれを見ていた。

「違う! もっとアホっぽく!」

「ぶ、部活を! 辞めさせていただきたく!」

「違う! もっとアホっぽく!」

(それしか指示出来ねえのかよおめえわよ……)

 すでにそんなやり取りを先ほどから何度もしている。

 しかし、風太郎の指示も悪ければ五月も本当に姉妹として日ごろから四葉を見ているのかと疑いたくなるほど改善が見られない。

 ついには五月が限界を迎えたらしく、

「無理です! こんな役目もう辞めたいです!」

「それそれー!!」

 ギブアップ宣言をしたにも関わらず風太郎的には合格だったようだ。

「いやどう考えても今のは演技じゃねえだろ」

「しかしだコナン。今はこいつに賭けるしかないんだぞ! 今の現状で、見た目がそっくりなのは五月だけだ!」

 そして風太郎は自分の作戦を説明した。

 説明の内容はシンプルで、四葉を陸上部から引き剝がした後、五月を入れ替わりで投入するというものだ。

「引き剥がすったって、どうやるんだよ」

 案は理解したが、具体的に誰が何を担当するという話が出てこなかったため浮かぶ当然の疑問に対して、風太郎は説明ではなく行動で示した。

「痴漢だ! 痴漢が出たぞー!!」

「!?」

「いいっ!?」

 風太郎が叫ぶと同時に、歩道橋へ駆け上がっていった。

 そういうことかと理解したコナンは、とりあえず五月と一緒に陸上部とは反対側の歩道橋の階段の裏へ隠れた。

 直後、四葉の「止まりなさーい!」という声と共に凄まじいダッシュ音が階段を上っていった。

(ありゃ長くはもたねえな)

「五月、行け」

 コナンは五月の背中を押した。

「本当にやるんですか?」

「おっぱじまったからにはやってみるしかねえだろ。ダメだったらフォローするから行ってこい」

 五月は覚悟を決めた表情をすると、しぶしぶと陸上部の方へと歩いて行った。

 影から隠れたままのコナンは風太郎と五月の様子を両方見ていた。

(あ、捕まった)

 しかし見るまでもなく、速攻で風太郎は捕まった。

 続けて五月を見る。

(あ、バレた)

 これも一瞬だった。

(ダメダメじゃねえか……)

 とりあえず合流すべくこっそりと歩道橋を上がる。

 橋の上に登り切ったころには、いつの間にか取り押さえられているはずの風太郎が逆に四葉を取り押さえていた。

「風太郎、お前まさか本当に痴漢を」

「そんなわけあるか! 離したらこいつが行っちまいそうだから捕まえてんだよ」

 コナンは半目を四葉へ向ける。

「犬かよお前は」

 そうしている間にもちゃくちゃくと五月が陸上部部長の江場に論破されていく。

 もう完全にバレているというか、逆に邪魔をする理由を問い詰められるフェーズに入ろうとしている。

 すると、様子を伺うのに夢中になっていた風太郎の手をすり抜けて四葉が脱出した。

(わかる、隠れて人の会話の盗み聞ぎに夢中になると他がおざなりになるよな……)

「私のためにありがとうございます。でもすみません行きます!」

「お、おい待て!」

 コナンは一瞬だけ周囲を見た。三玖を呼びに行った一花が戻ってきていないかという確認だ。

 しかし、人影はこの場にいる人間以外には影も形も見えなかった。

 仕方ないと思い、四葉の前に立ちふさがった。

「待てよ」

 そういえば、一昨日はここから二乃に押し飛ばされたっけ。

 四葉のパワーなら二乃以上に力が入るだろうと思い、腰を落として力を入れる。

 けれど四葉はそんなことはせずに、大人しく立ち止まってくれた。

「ごめんどいてコナンさん。私ほんとにもう行かないと」

「おめえが心配してるのは、やめればあいつらに迷惑がかかるだったな」

「そ、そうだけど」

 コナンは二つ、四葉に物を渡した。

 受け取ったものの一つはいつもの探偵団バッチだと理解したようだが、もう一つの受け取った物を四葉はそれをしげしげと見る。一センチ程度の半球型をしたスピーカーのようなものだった。

「リモートのスピーカーだよ。俺が説得してやる。お前は俺の言った事に合わせて動けばいい」

 しかし、四葉はコナンを困惑した目で見た。

「でも、私がいなかったらそもそも駅伝だって」

「いいから、任せろ」

 それだけ言うと、不安がなままではあったが、胸にスピーカーを付けて歩道橋を降りて行った。

 四葉が陸上部たちの元へ戻るのを確認すると、ダイヤルを合わせておいた蝶ネクタイ型変声期で話始める。

「すみません! みなさんご迷惑をおかけしました!」

『中野さん』

『今度は本物ですよね』

「あはは、ちょっとしたドッキリでした。五つ子ジョーク」

 どうやら上手く騙せているらしい。他の部員たちはすっかり胸を撫で下ろしていた。

 横で見ている風太郎がものすごい顔で見てきているが気にしない。というか本当になんだその顔。後でぶっ飛ばす。

 しかし、問題の江場だけが表情を崩さないでいる。

『なんだ、冗談だったんだね。でも笑えないからやめてよ。中野さんほどの才能を放っておくなんてできない。私と一緒に高校陸上の頂点を目指そう』

「まぁ、私が辞めたいのは本当ですけど」

 四葉を通したコナンが言った瞬間、江場と、側にいた五月も固まった。

 先に我を取り戻した江場が震える声で言う。

『な……中野さん? なんで……』

「なんでって、そもそも前日に合宿決めるなんてありえませんよ。それに部長が困っているのは駅伝当日だけですよね? 私がこの合宿に参加する理由って何ですか?」

 一拍、コナンは言葉を溜めた。

「教えてくださいよ。助っ人である私が、テスト期間を犠牲にしてまで合宿に参加する理由を、じゃなきゃマジであり得ないですから」

 思わずセリフがノッてしまったコナンが顔だけ歩道橋の手すりから覗かせる。

 江場の反応から上手くはいっているのだろうが、四葉がちゃんと話の流れにあわせてくれているのかと思っていたのだが、覗いた先ではイメージした通り四葉が江場に圧をかけていた。

(あいつ、演技結構うめえじゃねえか)

 普段、嘘がド下手であることを知っているから意外であった。

 しかしそのおかげもあってか、江場はその場にへたり込んだ。

『はい……ごめんなさい……』

(さて、ここからどうすっかだな)

 後は自然な流れでこの場を去るように話そうと思った矢先であった。

 四葉がくるりとこちらを振り返った。

(なんだ……? まだ何も言ってないぞ?)

 続いて手を口元へと寄せると、一度大きく息を吸った後で、それを吐き出すようにしながら、

「コナンさーん! ありがとうございます! でもこれ以上はちょっとかわいそうなので、自分で話しまーす!」

 そう言ってきた。

「な、かわいそうって……! おめえのためにやってんだぞ!?」

 あえて変声期とスピーカーの接続を切って四葉と向こう側の人間には聞こえないようにしてから文句を垂れた。

 横から風太郎が「いや」と割って入ってくる。

「お前、結構恐ろしい怒り方するんだな……というかお前も結構怒ってたのか」

 若干風太郎が引いていた。

 それからは四葉本人が江場と話始めた。その脇で、五月がこちらへと戻ってくる。

 さらに同時に、歩道橋の反対側からは一花、二乃、三玖がこちらに走ってくるのが見えた。

「ごめん! 今どういう状況!?」

「下で四葉の代わりになろうと思ったけど、もうちゃんと断ろうと話し始めてるじゃない!」

「つ、つかれた……」

 三人がそれぞれ言っている中で、しかし対するコナン達三人はある一点に目がいっていた。

 二乃の頭だった。

 二乃の髪が、腰まで伸びてた長髪がバッサリと肩の上まで切られていたのだった。

「二、二乃……お前、その髪」

 風太郎が震えた声で言うと、二乃が風太郎の眼前に迫った。

「言っとくけど! あんたじゃないから!」

「お、おう?」

 それだけ言って踵を返す二乃。続けてコナンの方を見た。

 その目は睨んでいるような、見つめられているだけのような、何とも言えない表情だった。

(やっぱり俺は疑われてるんだな……)

 その話もいつかはしないといけないと思った。しかし、少なくとも今ではないだろう。

 二乃はその足のまま、今度は五月の前に立った。

 そのまま見合ったかと思うと、じれったくなったらしい風太郎が口を挟もうとしたが、すんでのところで一花と三玖の二人に連行されていった。

 コナンもその後に続き、二乃と五月の会話は聞こえないようにあえてしたが、どうやら遠目で見ていても上手く和解できたようだった。

 

 四葉が戻ってきた後、コナンはこっそりと耳打ちをしていた。

 話の内容は、先ほどの風太郎と二乃の一幕だ。

 髪をバッサリと切ってきた二乃。そして直後に風太郎に対しての余計のように見える念押し。

 もしかして本人も自覚していないだけで二乃は、風太郎のことが、そう思っての行動だった。

「そうなんだ。二乃もなんだ……これじゃあ、これじゃあ三玖が大変だね」

 そう言って四葉は笑みを浮かべた。

 それはコナンから見ても、予想外の反応だった。

 三玖が風太郎のことを好きであることを知っているからではない。

「いいのか?」

 何故ならば、

「四葉、お前も風太郎のこと好きじゃねえか」

 四葉もまた、風太郎に恋する人物の一人であることをコナンは知っていたからだ。

 

 

 

 8月26日 土曜日 正午

 コナンが引っ越してすぐのころだった。

 まだ五つ子が旭高校に転入する前、夏休み期間を使って一時的に五つ子の勉強を見ていた時期があった。

 その最中、四葉の自室で勉強を教えている時に、コナンは一枚の写真を見つけていた。

 そこに映っていたのは、金髪の少年と、長髪の女の子。

「それは、私にとって大事な思い出なんだ」

「大事って、ずいぶん昔の写真じゃねえか」

「その人と大事な約束をしたんだよ。いつか大きくなって、たくさん稼げるようになって、家族を裕福にしてあげるって」

「裕福って、十分今も裕福だと思うけどな」

「とにかく! そういう約束なの」

 そうかよ、と言って写真を四葉へ返した。

 受け取った四葉はその写真を眺めると、自然と頬が赤らんでいった。コナンはすぐにピンときた。

「もしかして、今でも好きなのか。そいつのこと」

「うん、ずっと、ずっと……好きだよ」

「ならそいつは幸せもんだな。なんで今合ってないんだよ」

「どこに住んでるかも知らないし……」

「名前くらいは?」

「それならわかるよ! 名前はね、上杉風太郎って言うんだ!」

 

 

 12月06日 水曜日 午後5時頃

 公園の池でボートに乗る謎の少女と風太郎を見ながら、それを眺める四葉へと合流した。

「あ、コナンさん」

「一緒に乗ってるあいつは誰だ?」

「さあ、誰かな」

「知らない奴なのか?」

「……」

 木の影に隠れながら、普段の四葉らしからぬ気迫の無さでただ眺めているだけの四葉であった。

 その様子をみて、コナンは一つ溜息をついた。

「おめえ、せっかく俺がずっと手を貸してやってるっつうのに全然仕掛けねえじゃねえか」

「あはは、それについては非常に申し訳なく……」

 ようやく愛想笑いだが、笑みを浮かべると四葉は頭をかいた。

 手を貸しているというのは、これまでの学校生活のことだった。

 

 初めて学校に行った日、つまり学校見学で五月と風太郎が鉢合わせた日だ。会話を遠巻きに聞いていると、どうやら男子の名前は上杉風太郎というらしい。

 少し前に四葉から聞いたばかりの名前だ。すぐにピンときた。転校先でこんな運命的な再開があるのかと。

 しかし、そんな運命はどこ吹く風とでもいうのか、風太郎の失言によって五月との仲は最悪なものへ。事前に彼が家庭教師をするという連絡だって受けていたというのにこの始末では、四葉の幸先が思いやられた。

 だから手を貸すことにした。

「お節介を承知で言うけど、今のうちに謝っておいた方がいいんじゃないか?」

「なんだ、あんた」

「別に? ただの転校生だぜ?」

 

 林間学校の時だ。

 風太郎の肝試しの仕掛けに驚いた二乃と五月を探しに行った時、偶然にも一花と三玖の話を聞いてしまった。

「一花はフータローのこと、どう思ってるの?」

(もしかして、一花と三玖の二人は……風太郎のことを……)

 結局、その予想は片方正解で片方間違い。一花のことはさておくとして、三玖は見事に風太郎に惚れていた。

 この時点で風太郎に二本の矢印が向いていることに気が付いたコナンは、風太郎がどういう答えを出すのか不安になっていた。

 だというのにあのボンクラときたら。

 

 0点のテストの犯人捜しの時だ。

「私が犯人だよって人ー?」

「少しは自分でも推理しろよ」

 勉強以外のこととなるとトンと深く物事を考えない性格であることを知った。

 このままでは三玖と四葉の二人、どちらにするかも適当に決めるんじゃないかとすら思えた。

 だからまた手を貸すことにした。とはいえ、三玖も四葉もどちらも大事な同居人だ。片一方だけに手助けをするのはフェアじゃない。

 だからせめて、後悔のない青春になればと思い、風太郎に定期的に問題を出しては考えさせるようにした。

「誰だってあるもんだぜ。自分自身の手で答えを出さないといけない、難問を解く時がよ」

 あえて風太郎が意地になるように、謎、ではなく難問と言ったのも、多少は効果があっただろうか。

 

 その他にも何度か三玖と四葉の二人を手助けしたことがあった。

 風太郎の気持ちが結局今、どちらに傾いているかはコナンの目からではわからなかったが、客観的に言えることがあった。

 四葉の圧倒的な劣勢だ。

 三玖はすでに風太郎に対して自分の感情を徐々に感じさせようとし始めている。対して四葉はどういうつもりか一向に動かなかった。

 あれだけ好きだと言ったのに、何故かだ。

 そして今、目の前の池では新しい女を前に風太郎が今まで見たことが無いほどの笑顔を浮かべている。非常にマズイとコナンは思ったのだった。

 だというのに、当の本人である四葉はといえば。

「すみません、部活の練習があるのでこれで」

 そう言ってこの場を去ろうとしていた。

 再びランニングを開始しようとする四葉にコナンは言った。

「お前がそう選択するなら好きにすればいいさ。でもよ、後悔のない高校生活にしろよ」

「……」

 

 

 12月09日 土曜日 10時頃

 話は陸上部の合宿を断念させた日まで戻る。

 中野家へと戻った五つ子達はいつも通りの風景にあっという間に戻っていった。

 一つだけ違うところがあると、その輪の中には風太郎もいて、五つ子たちが勉強に取り組むその姿は笑顔であったということだ。

 コナンの目から見れば、風太郎がどれほど家庭教師に努力をしているかは五つ子達と同じ程度しか知らない。

 けれど、それでも風太郎の努力は決して生半可なものではないと理解している。

 四葉のことも気にはなったが、本人が心底楽しそうにしているは見て分かった。これ以上は、三玖と四葉二人の問題だった。

 だからこそ、コナンもいつものようにリビングテーブルで賑わる五つ子と風太郎とは少し離れ、ダイニングテーブルの方に腰を掛けながら、今はその光景を眺めていた。

(この家を去る前に、この光景を見られてよかったぜ……)

 

 




今回場面転換多めです。なるべく分けて読めるようにしましたが、読みづらかったらすみません。

何かイイハナシダナーな雰囲気ですが、全然まだまだ終わりません。

追記
四葉絡みの過去話は基本台詞コピペなんですが、おかげで一話の初めてのコナンの台詞に誤字があることに気づきました。草
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