12月10 土曜日 午後9時頃
四葉が陸上部の助っ人を断った日の晩だった。
相も変わらずマルオは病院の自室で仕事に精を出していた。
積みあがった紙は先日コナンが来た時にあったものは全て処理されているはずだというのに、積み上がりの高さはまるで変っていない。
今日は電子作業をしていたようで、ノートパソコンが開かれているが、何か処理を走らせているようで操作をしていないにも関わらずファンの音がうるさかった。
マルオがパソコンを操作していないのは、机越しに立っている客人の対応をしていたからだった。
いや、客人というよりはマルオが呼びつけたという方が正しかった。
「そういうわけだから、彼にはあの家を出て行ってもらうことにしたよ」
マルオがそう言った相手は、自分の娘であった。
「……」
その子はマルオが決めたコナンへの退去指示に対して、目を見張って固まっていた。
それを知っていながらなのか、マルオは話を続ける。
「そういうわけだから、君からあの子達にも伝えておいてくれ」
「……お父さん」
「なんだい」
「私からもお願いがあります。彼に、シンイチ君に全て話すべきなんじゃないかと思うんです」
~三玖の場合~
12月16日 土曜日 午後0時
五つ子達はリビングに集合していた。
コナンはいつものダイニングテーブルにはおらず、今日は朝から用があると出かけていた。
テーブルの上には細い帯状になっているテストの点数を記した紙が五人分広げられていた。
点数は五人全員芳しくなく、少なくとも一教科は赤点がどの紙にも存在していた。
「これは酷い……」
「あんなに勉強したのにこの結果かー」
ぼやいたのは五月と一花であった。他の三人も無念の言葉をそれぞれぼやいていた。
そうしているうちにそろそろ風太郎がいつものように家庭教師に来る時間となり、タイミングよくインターホンが鳴った。
応対に出たのは五月であったが、残念そうに姉妹達に振り返った。
「上杉君じゃありませんでした」
来客の正体は江端であった。マルオの秘書兼運転手で、林間学校に遅れて行った時も彼が運転してくれた。
そんな白いスーツを着た老年の男性が、リビングまで入ってきた。
「失礼いたします」
てっきり風太郎だと思った姉妹達がくちぐちにあいつはどうしたと不満を上げる中、五月が江端に聞いた。
「江端さんはどうしていらしたのですか?」
「本日は臨時家庭協として参りました」
五つ子達の視線が江端へ集中した。
「そ、そうなんだ」
「江端さん、元は学校の先生だもんね」
「あいつサボリか」
「体調でも崩したのかな」
風太郎が遅れているのではなく、家庭教師として今日は来ないことを知ると更に不満を言い始める五つ子達に対して、江端が告げた。
「お嬢様方に、お伝えしなければなりません。上杉風太郎様は家庭教師をお辞めになられました」
それと、と言って江端は続けて言った。
「江戸川コナン様も本日をもって、この家を退去されました」
「え」
五月だけが沿う言葉を漏らし、そして他の姉妹達も含めて一瞬、何を言われたのか理解できない顔をした。
沈黙が続く中で、江端が淡々と話を続ける。
「そこで、新しい家庭教師が見つかるまで私が勤めさせていただきます」
「待って待って……何かの間違いだよね」
そう言ったのは三玖であった。その表情は引きつっており、脂汗が額に浮き始めている。
けれど、江端はあくまで冷静だった。
「事実でございます。旦那様から連絡がありまして、上杉様は先日の期末試験で契約を解除なされました。また、江戸川様もすでに新しい住居へと引っ越しされています」
「そんな、だって彼は今朝だって……」
江端の言葉になんとか反論しようと、五月が朝の出来事を思い出しながら言った。
五月の言うことは本当で、三玖も確かに朝、『ちょっと出かけてくる』といって家を出て行ったコナンの姿を見た。
いや、逆に言えばそれがコナンを見た最後の姿だ。
「!!」
五月がバンッ、と机を叩いて立ち上がると二階へと駆けあがっていった。
そして向かった先はコナンの部屋だ。勢いよく扉を開くと、五月の目に飛び込んできた部屋の光景は枕も布団もない、マットレスだけでベッド以外何一つない、もぬけの殻の部屋だった。
「そんな……どうして……」
扉の縁を掴みながら、それでも力なくずり落ちる五月。
一階では江端が他の姉妹に対して、補足の説明をしていた。曰く、風太郎とコナンの家への侵入を一切禁ずる。コナンの新しい住所は教えられないというものだった。
現実を受け止めきれない姉妹達の中で、何とか三玖が立ちあがるとせめて風太郎からだけでも話を聞こうと部屋を出ようとした。
けれどそれを江端が阻んだ。
「江端さん通して」
「なりません。臨時とはいえ家庭教師の人を受けております。最低限の教育を受けていただかなければここを通すわけにはいきません」
結局五人は、江端の用意した問題集を解くこととなった。
問題は比較的解ける内容であったが、それでも難解で特にはかなり苦労した。
それは三玖だけでなく、他の姉妹も同様に各々が苦悶の声を上げていた。
すると、江端がお茶を準備しにキッチンへと消えていった隙を見て五月が小声で提案してきた。
「カンニングペーパー見ませんか?」
それは風太郎が最後に残した苦肉の策であった。元々は期末試験対策として五つ子たちに準備させたものであったが、結局使う時は来なかった。
それを今使おうというのである。
風太郎から渡されていた一巻きの小さなロール。それを五人一斉に見ると、そこに書いてあったのは問題の答えなどではなかった。
『安易に答えを得ようとは愚か者め→②』
それはメッセージであった。
「なーんだ、初めからカンニングさせるつもりなかったんじゃない」
「でも……フータローらしいよ」
そう言って、答えを得られたわけでもないのに三玖と一花が笑みを浮かべた。
そしてその後に気が付いた。メッセージの最後に数字に。
数字が意味するであろうことから、二乃が続きを読んだ。そして三玖、四葉、五月の順へと。
『カンニングする生徒になんて教えてられるか→③』
『これからは自分の手で掴み取れ→④』
『やっと地獄の激務から解放されてせいせいするぜ→⑤』
『だが、そこそこ楽しい地獄だった
じゃあな』
最後まで読み終えた時、四葉がポツリと呟いた。
「私、まだ、上杉さんに教えてもらいたいよ」
「私だって……フータローなしじゃ……もう」
同意したのは三玖だ。そんな三玖をかわいそうな目で見ながらも、二乃が言った。
「そうは言っても、あいつはここに来られないの。どうしようもないわ」
どうしようもない。その一言が言葉通りの意味としてのしかかり、全員が何か案を出そうと言葉を紡ごうとするが、結局沈黙だけが続いてしまった。
「ねえ」
その沈黙を破ったのは一花だった。
「みんなに……私から提案があるんだけど……私たちもこの家を出ない? それで、コナン君の新しい家の近くに住むの」
「え……」
「それ、本気?」
流石に予想外であったようで、四葉と二乃も困惑していた。
「うん、ずっと考えてたんだ」
「でも、江戸川君の新しく住む場所は教えられないと」
「きっと近くだと思うんだ。コナン君、学校にはまだ通い続けるみたいだから」
五月の疑問に一花が答えた。続けて四葉が一花へ質問する。
「どうして一花がそれを知ってるの?」
「ちょっと心当たりがあってね」
「でもそれが本当で近くだとしても、どこに住んでるか見つけるなんて……」
「それなら、私に考えがある」
次の四葉の疑問に答えたのは三玖であった。
三玖の脳裏には、その時自分がここまでする必要があるのかという考えが浮かんだ。
先日、二乃とも話したコナンの正体。そしてコナンの回答次第では、自分たちが彼を追い出そうとしていること。
そこまで考えたものの、三玖としてはそんなことは些細なことだとすぐに結論付けられた。もしコナンが信用に足らないなら、違う場所に住めばよいだけだった。
それよりも家を出ることが先決だった。風太郎と会えなくなることの方が、三玖にとっては何倍も大きな問題であった。
「じゃあ、細かいことは後で決めるとして、部屋を借りるにしても私たちは未成年だから、協力者を手に入れないとね」
他に懸念がある人もいないことを確認すると、一花が行動に移すべく総括した。そして立ち上がると、一花が協力を求めたのは江端であった。
「江端さんもお願い、協力して」
一花の後ろに、他の姉妹も続いた。
その様子を見て、江端の頬がわずかに緩んだ。
「大きくなられましたな」
12月17日 日曜日 午前10時
この日、五つ子達は役割分担をして行動を開始した。
一花は仕事。四葉は陸上部が出場する駅伝本番のため、元々の約束通り出場。
残った三人の中で、三玖がコナンの新居探し。四葉、五月は物件探しだ。
三玖以外の全員が外を出かけた後、三玖は一人リビングにいた。
スマートホンを取り出すと、電話帳を起動する。
電話をかける相手は五十音でもかなり後の方であるため、画面を下へ下へとスクロールしていく。そしてようやく目的の人物を見つけた。
三玖はその人の名前をタップすると、コールが始まる。
耳に当て、数コールが鳴ったのち、電話先の人物が出た。
「もしもし、毛利探偵事務所ですか? 毛利小五郎さんにお取次ぎいただきたいのですけど」
小五郎はその日、いつものように事務所のデスクにだらしない格好でもたれかかってり、競馬の中継を見ていた。
電話を応対しているのは蘭であった。
「はい……はい、今代わります。おとうさーん! 中野三玖さんっていう人からお父さんに電話ー」
「あー? そんなのまたかけ直すって言っておけー。今いいところなんだ……いけ! そこだ! 最後のストレート!」
小五郎が体を起こして拳を振り上げた。テレビでは丁度競走中の馬がゴール前の最後の直線をかけている盛り上がらいの時だった。
蘭は電話の送話口に手を当てて相手側に聞こえないようにしてから、小五郎を怒鳴った。
「もう! いい加減にしてよ! この前だって夜中にわざわざ私が飲み屋まで迎えに行ったのよ! いい加減お酒やめてよ! ……じゃないと、今月のお小遣い減らすわよ」
「そ、それだけわぁ!? ……わかった、こっちに回せ」
言われた通り蘭が電話を操作すると、小五郎のデスクに置かれている子機へと転送した。
小五郎は子機を手に取ると、椅子に一度座り直してから通話のボタンを押した。
「あー、お電話代わりました、毛利小五郎です」
『あ、お久しぶりです。中野です。先日、病院で起きた脅迫状事件のお手伝いをさせていただきました』
「病院? ……あー、あの時の……ちょっと待っててくださいね……蘭、悪いがちょっと部屋へ上がっててくれ」
「え、何で?」
「お客さんと大事な話をするからだよ」
小五郎が蘭を事務所から遠ざけようとした理由は嘘であった。実際にはこの時点で、小五郎は先日の事件のことを思い出している。
中野三玖と言えば、愛知県まで出張した時に警察から要請を受けてついでに解決した、病院の院長に向けて出された脅迫状について調べた時に会った少女だ。探偵坊主のツレとして連れてこられたその子と話をするとなればやつの話題も出るかもしれない。蘭の目の前で話をすれば間違いなく反応するだろう。
蘭のような一般人に対しては、新一は中野という民間人に対して下宿しているのではなく、一人暮らししているという嘘の情報が伝えられている。これは事情を知っている一般人から新一の所在の情報が洩れることを防ぐためであった。
また、つい先日、中野家から追い出され本当に一人暮らしを始めたという連絡も受けている。それを全て説明する羽目になるのがはっきり言って面倒くさかったのだ。
「何よ、普段は私がいても平気で話すくせに。まさか電話の相手が女の人だからって変なこと考えてるんじゃないわよね!?」
「ばーか、電話の相手はお前より年下のガキだよ」
「なんでお父さんが年なんて知ってるのよ!」
「別の事件で会ったことがあるんだよ! いいからさっさと出てけ!」
「……はいはい、分かりました! お邪魔虫はどっか行きますよーだ!」
そう言うと蘭はドスドスと足音を響かせながら事務所の扉を出て行った。バンッというけたたましい音を立てて扉を閉めた後も、三階の自室へ繋がる階段を上る音が小五郎まで聞こえていた。
小五郎は蘭が本当に部屋に戻っていったのを音で確認すると、意識を電話の相手、三玖へと戻した。
「……失礼、騒がしかったですな」
『あの、かけ直した方がよかったですか』
「構いませんよ。それで、アタシにどういったご用件で?」
『工藤新一君の新しい住所を知りたいんです。仲のいい毛利さんだったらご存じかと思って』
(別に仲良くなんかねーよ)
小五郎は新一の新居の情報も聞いていた。とはいえ覚えているわけではないので、先日警察から届いた手紙をキャビネットから取り出す必要があるのだが。
それに疑問もあった。新一が中野家から追い出された理由も知っている。先日、新一の迂闊な行動によって電話先の彼女の姉妹と一緒に襲われたためであった。当然、父親は激高しているということだ。姉妹も当然、家族を危険に巻き込んだと怒っているものだと考えていた。
中野父とやり取りをしているのは新一の父親と警察なので、今回の引っ越しにもどのような条件が提示されているかは小五郎は知らない。
そのため、わざわざ姉妹の方から連絡してくる理由に心当たりがなかった。
「あの探偵坊主の? 先日おたくのところから出て行ったばかりでしょう。いったい何の用が?」
『……忘れ物があって。大事って言っていた本を忘れたらしいから、届けるだけしてあげようかと』
「ほーん、忘れ物ねえ」
『……』
一人ごちる小五郎に、三玖は何も言わなかった。
(あの小僧が忘れ物なんて、本当に腑抜けちまったんじゃねえのか?)
そもそも潜伏中の新一が米花町に帰ってきたということ自体が一つの間違いだというのに、これで何度目のミスだろうと内心で思った。
(ま、いいか)
「分かりました。一応お教えしますが、荷物を送ること以外に使わんでくださいよ。仮にも一緒に住んでいた貴女だから、個人情報だけどお教えするんですからね」
『わかりました』
小五郎は面倒に想いながらも新一の住所が書かれた手紙を取り出すと、文面を読み上げた。
「ええっと、住所は愛知県——」
「ありがとうございました。失礼します」
小五郎から住所を聞き終わった後、三玖は電話を切った。
リビングテーブルの上にはメモ書きが置かれており、そこには今小五郎から聞いたばかりのコナンの住所が書かれている。
それを見ながら、緊張が解けた三玖は一つ溜息をついた。
「ふぅ……知りがたきこと、影の如く」
小五郎から自然な流れで情報を聞き出すためとはいえ、短い会話の中でこれほどまでに沢山の嘘をついたのは初めてだった。
しかし、そのおかげで重要なことも確認できた。コナンの住所、そして彼のことを『工藤新一』と呼んで普通に通じたこと。
「やっぱり、コナンの正体は、工藤新一……」
12月18日 月曜日 午後6時
三玖にとっても予想外なことがあった。風太郎とコナンの出入り禁止が言い渡されてから最初の登校日、ただ単純に家庭教師を辞めた風太郎はともかく、理由も言ってもらえないまま追い出されたコナンが普通に学校に来ていることだった。
期末試験も終わり、今週いっぱいで二学期も終わりを迎える消化試合のような空気が漂っている学校も終わり、各々が部活に向かったり帰宅し始めたりしていた。
三玖もまた、帰りのホームルームが終わるなり急いでカバンを取ると教室を飛び出した。
廊下から別の教室がある方へ見ると、同じタイミングで二乃も飛び出して来ていた。
二人で目を合わせて頷くと、一組の教室へと向かった。
教室の中を覗けば、目的の人物がいた。コナンのことだ。
ちょうどコナンも帰ろうと、のそのそとした動きで立ち上がり教室を出ようとしたところで、出口に立っている二人に気が付いたようだ。
「……どうした二人で。五月を待ってんのか?」
そういうコナンは気まずそうにしているが、平静を装うとしているようだった。
あくまでも白を切るつもりだというなら、三玖もそれに乗ることにした。
「ううん、今日はコナンと一緒に帰ろうと思って」
「俺と?」
きょとんとした顔をコナンはした。普段から一緒に帰ることはよくあるが、わざわざ教室の前で待ち伏せしてまで帰ろうとしたことはなかったから意外なのだろう。目線を逸らし、頭を掻いていた。
「わりいけど、今日は行くところがあるんだ」
「なら付き合うわ」
即答したのは二乃だ。
その二乃に対して、コナンは横目でこちらを見てくる。何を考えているのか図ろうとしているのだろう。
「個人的な用事なんだ。勘弁してくれ」
「話があるの」
このままでは有耶無耶にされて退散されそうであったため、三玖が本題を切り出した。
「すぐ終わるから、途中まで一緒に歩こう」
「……わーったよ」
三人は下駄箱で靴へ履き替えると、いつもの帰り道を歩いた。
学校の敷地から離れ、他の生徒の姿も見えなくなってきたころに二乃が話を切り出した。
「コナン君、私たちに何か隠していることはないかしら」
「藪から棒になんだよ。んなのねえよ」
「うそよ」
まっすぐにコナンの目を見て話す二乃に、どうやら何か確信があっての発言であるとコナンも気が付いたらしい。
コナンが歩みを止めた。
「何の話だよ。聞きたいことがあるんだったら素直に言ってみろ」
「じゃあ、はっきり聞くね。工藤新一って人、知ってる?」
「……ああ、知ってる」
コナンの表情は変わらない。いや、ポーカーフェイスを心掛けているようだが、目が細まったのを三玖は見逃さなかった。
言葉通りの意味だけではない、そう思った。
三玖は追撃をする。
「二年くらい前から話を聞かなくなった有名な高校生探偵。でも、二年前のニュースとかを漁れば普通に写真とかは出てくる」
「その写真に映っている彼の顔が、あんたとソックリなんだけど、親戚か何かかしら?」
「……ああ、実はそうなん」
「言っておくけど、私はついこの間、あのガリ勉に同じ嘘をつかれて騙されたばかりなのよ。同じ手は通用しないと思うことね」
「……」
話に同調しようとしてコナンの声を遮って、二乃が言い切った。言うつもりだった言葉を潰されて、コナンは続きを言えなかった。
三玖が言った。
「工藤新一、それがコナンの本当の名前じゃないの?」
「姿も、声も、推理力まで全部そっくりな別人だって言うなら、それを証明できる証拠か、説明をすることね」
三玖の後に続いて二乃が言った。言い回しは以前からよく聞く、コナンが犯人を追い詰める時のものを真似ているのだろう。
コナンはその場でしばらく黙り込んだ。
言い訳を考えているのか、何かを言おうとしては辞めて、そんなことを二、三度繰り返した後、観念したように一つ溜息をついた。
「わかったよ。全部正直に話す。実はな……」
そうコナンが話始めた時であった。
全く予想外な声が、三人の背後から声がした。
「中野さん」
振り返った先にはスーツを着た若い女性が立っていた。一花と同じくらいの長さの短髪で、ボーイッシュな雰囲気を漂わせたその女性は二乃の方を見ていた。
スーツの内ポケットに手を入れると、そこから取り出したのは手帳であった。
「警視庁の佐藤です。少しお話をよろしいですか?」
「警察……」
「えと、私になんのご用ですか?」
流石に突然の警察からの呼びかけに困惑気味な二乃。
対して佐藤と名乗った刑事は見せ終わった手帳を開き、片手にペンを持った。
「実は先日、この近くで強盗があったようで、その現場の近くにある不動産であなたの姿を見たという証言があったんです」
「ちょ、ちょっと待って。まさか私が容疑者に」
「あ、いえそう言うわけじゃないんで安心してください。何か目撃されていないかお聞きしたいだけなんで」
「そうですか」
二乃は露骨に胸を撫で下ろした。落ち着いた様子を取り戻すと、佐藤刑事へと向き直った。
正直、同じ心配をしていて三玖も思わず二乃の方を見てしまっていたのだが、二乃と同様に佐藤刑事へと視線を戻した。
そこでようやく気が付いた。佐藤刑事の後ろにもう一人、人影があることに。
「それじゃあ、質問をさせていただきますね。とは言っても、実際に聞くのは私じゃなくて」
佐藤が一歩横へとどいて、後ろの人物の姿が見えた。
「捜査に協力していただいている、こちらの高校生探偵、工藤新一さんからなんですけど」
その姿は、コナンと瓜二つの姿をした青年であった。
青いブレザーに赤い蝶ネクタイを付けたその青年は、マスクを付けていたがそれを一度外し、一礼をした。
そしてマスクを付け直すと、ようやく話し始めた。
「初めまして。工藤新一です。早速事件のことをお聞きしたいですが、貴女のような麗しいお嬢さん方とお話できるのなら、その一点に限っては犯人に感謝しないといけませんね」
そう話す工藤新一の声までもが、コナンとそっくりであった。
三玖が慌ててコナンへと振り返ると、その場にいる誰よりもコナンが驚愕していた。
その様子からして、彼が仕組んだわけではないのは理解できた。
続けて二乃を見ると、初対面からいきなり歯の浮くような言葉を投げかけられたせいかどぎまぎしながら応対している。
その様を観察しながら、もう一度、工藤新一を凝視する。見れば見るほど、コナンとは瓜二つだ。工藤新一も途中で三玖の視線に気が付いたらしく、視線だけをこちらへ向けるとウインクをしてきた。
(……! ダメ、私にはフータローがいる……)
これはコナンには内緒にしている話だが、コナンの顔がなかなかイケていることは姉妹では鉄板ネタであった。
その感性自体には三玖も同意するし、恋愛経験のない三玖にはちょっとだけ、本当にちょっとだけ高鳴るものがあったが、既に心に決めた相手がいることもあり内心だけで深呼吸をして落ち着きを取り戻した。
そうこうしている間に二乃への事情聴取を終えたらしく、話終えた工藤新一が一歩下がった。
「お聞きしたいことは以上です。ご協力ありがとうございました。それとそっちの俺のそっくりさん」
「……あ」
「なんだよそのマヌケ面は、だっせーな。こんな美人二人とご一緒なんだ、俺の代わりにしゃんとナイトをしてやれよ。行きましょう、佐藤刑事」
コナンの返事を待たず、工藤新一は言いたいことだけを言い終えると佐藤刑事と顔を見合わせてその場を去っていった。
残された三人は、工藤新一が来る前までに話していた会話を続けることもできず、顔を見合わせるだけだった。
いたたまれない沈黙がしばらく続いた後、三玖がなんとか口を開いた。
「やっぱり聞きたいこと、なくなったかも」
~一花の場合~
12月23日 土曜日 午前10時
コナンの新居はそれまで暮らしていた中野家のマンションとは比べ物にならないほど質素なアパートだった。
六畳が二間あり、キッチンが分かれている一人暮らしにしては広い方の部屋だが、建物は年季が入っている木造で歩くと床がきしむ場所などもあった。
先週の平日の内に五つ子達には内緒で引っ越しを済ましていたコナンは、居間の中央に置いてあるテーブルに肘をついてずっと考えていた。
考え事の内容は、先日あった自分そっくりな人物であった。あの人物のおかげで自分は間一髪、正体を明かすことを回避できたが今度はその正体が気になってしかたなかった。
一度はマスクを取って素顔を見せたそれは、間違いなく自分と同じ顔、そして同じ声をしていた。
当たり前だが自分は双子などではない。考えられるとしたら誰かの変装だが、過去に自分に変装したことがある人物などあのキザなコソ泥か服部ぐらいしかいなかった。
技術的に可能と言えば、今は塀の中にいる黒の組織の一味、ベルモットと自分の母親である工藤有希子くらいだ。
けれど、今挙げた人物の中で服部と有希子には直接電話したが、知らないとのことだった。警察に確認し、ベルモットが服役していることも確認済みだ。
となれば残る選択肢はヤツしかないわけだが、ヤツがこのタイミングで自分を助けるように動く理由がわからない。
そこまで考えて以降、推理は一向に進展を見せなった。
その時であった。部屋のインターホンが鳴った。
「誰だ? 俺に客人なんて、警察か……まさか、俺を追ってきたやつらか……?」
コナンの背筋に冷たいものが走った。もしも襲撃者であるならインターホンを押してくることもないはずだが、ここ数日の度重なる失敗に流石に自分も反省をしている。
万が一の可能性を考えて、次はミスをしまいと意気込むと、たとえ正面から襲われても回避できるように構えながら、扉脇にある格子付き窓ガラスから扉の外を見た。
「あいつら、なんでここに……!?」
扉の前で立っていたのはコナンの予想のどれでもない、五つ子たちであった。
コナンは玄関の扉を開けた。
「お前ら、なんでここにいるんだよ!?」
「えへへ、引っ越し挨拶でーす。これ、つまらないものですが」
真ん中に立っていた一花があからさまな作り笑顔を浮かべながら包みを押し付けてくる。
続けて一花からの説明で五つ子が本当に隣の部屋へ引っ越したことを知った。
一花の説明が終わると、五月が一歩前に出てきた。
「江戸川君。貴方があの家を追い出されている理由には心当たりがあります。先日、私たちが襲われたことと関係しているのでしょう?」
五月の話に、他の姉妹は反応しなかった。おそらくすでに共有されているのだろう。
コナンはもしや自分の正体や事情がやはりバレているのかと考えた。けれど、それは杞憂であった。
「ですがあの出来事は、貴方だって被害者です! むしろ私たちの喧嘩に貴方を巻き込んだせいであんなことになってしまったのですから、非難されるべきは私たちのはずです!」
どうやらコナンと五月に対する襲撃を、無差別なものだと思っているらしい。
「ですから、お父さんとは先日、一花が話をしてくださり貴方との接触禁止だけは解除してもらいました」
「でも、君をあの家に連れ返してあげることだけは出来なかったんだけどね」
一花は面目なさそうな顔をした。しかし、コナンからすればそれだけでも、むしろどうやってマルオを説得したのだという気持ちであった。
だがおかげ納得できたこともある。コナンがマルオから言い渡されていたことは、二つあった。一つ目はあの家から出て行くこと。二つ目は五つ子達とも関わらないことであった。しかし、先週の日曜日にマルオの秘書の江端から突然電話があったかと思えば、学校の退学と五つ子たちとの接触禁止だけは取り下げを伝えてきたのであった。
なぜ急にマルオの考えが変わったのかは謎のままであったが、まさか一花の計らいだとは。
しかし、他にも疑問はあった。
「じゃ、じゃあどうやってこの家を知ったんだ? それも中野さんが教えてくれたのか?」
「それは私が調べた」
応えたのは三玖だ。
三玖はスマホを取り出すと、小五郎のアドレス帳を見せてきた。
「この前の事件の時、手に入れておいたのが役に立った。毛利小五郎と知り合いなら、もしかして知ってるかもと思って、聞いてみたら教えてくれた」
「いつの間に……」
三玖はスマホを顔に寄せて、まるで探偵のように不敵に笑って言った。
「これも初歩的な推理だよ。ワトソン君」
でも、と三玖は続ける。
「正直、私はこの前聞けなかったあの話、まだ完全に納得したわけじゃない。まだ私の中で納得できてない謎がある」
その話は三玖と二乃しか知らないらしい。四葉が「何の話?」と聞いていたが、三玖は「内緒」とだけ言って答えなかった。
「だけど、今はっきりさせなくてもいい。私たちがここに引っ越してきたのは、他にも理由があるから」
そうして三玖が教えてくれた。先週の土曜日の朝に中野家を出て行ってしまったコナンは知らなかったが、あの日、風太郎も家庭教師を退任し家への立ち入りを禁じられたと。
そしてこの引っ越しは、そんな父親の横暴への抵抗であると。だから明日、風太郎を再び家庭教師として続けさせるべく、迎えに行くと。
三玖が説明を終えると、最後に二乃がコナンの前に立つと、指を突き付けてきた。
そんな二乃を前にしているうちに、コナンは心の中で一つ、決心を固めると笑みを浮かべた。
「上杉もあんたも勝手なのよ! 急に現れたと思ったらまた急にいなくなって……私たちのことなんだと思ってるのよ! あんたがそんなに勝手なことするなら、私たちだって同じことをしてやるわ!」
「……まったく、おめえらが勝手なのは最初っからだろうが。だけど、今はその身勝手がありがてえよ。ここに一人で暮らすようになってから、ずっと静かさになれなかったんだ。どうやらおめえらの騒がしさにいつの間にか慣れちまったらしい」
「また、一緒ですね。江戸川君」
「ああ……!」
話が終わり、姉妹達も部屋へと戻ることとなった。コナンも同じく、部屋へと戻ろうとした時、一花が呼び止めてきた。
「一花、まだ江戸川君に話があるのですか?」
「うん、大した話じゃないんだけど、ちょっとだけね。みんなは先に部屋へ戻ってて」
一花の返事を聞いて、他の姉妹達は言われた通りに部屋へと戻っていった。その光景を見送った後で、一花が扉にもたれかかるコナンへと向き直った。
このタイミングで他の姉妹を追い払っての話とはいったい何かと、コナンは思案した。
聞いたところによると部屋の借主は一花ということらしいから、先にこのアパートに住んでいるコナンに対して居住ルールの確認といった事務的な内容だろうか。
それとも……
とにかく聞いてみることにした。
「それで、話って?」
「いやあ、本当に大した話じゃないんだけどね。きっとこれからお互い大変だろうから、少し共有しておこうと思ってね。コナン君……ううん、工藤新一君にね」
「な……!」
一花からその名前が出てくることは完全に想定外であった。二乃や三玖のように疑われるような出来事が一花に対してあったわけでもない。もしかして二人から聞いているのだろうか。
あらゆる可能性を考慮し、この場で否定すべきかどうかを思案していると、その考えを呼んでいるかのように一花が続ける。
「隠さなくても大丈夫だよ。私だけ元々、お父さんから全部聞いてたんだから」
「全部……?」
「お父さんからこういわれてたんだよ。『高校生探偵の工藤新一という少年が大きな犯罪組織を壊滅させた代わりに命を狙われるようになってしまった。工藤新一のお父さんは、私の恩人だから彼を匿うようお願いされていまった。君には彼が妹たちに危険が及ばないように監視をしてほしい』てさ」
「……」
空いた口がふさがらなかった。一花の言っていることは何一つ間違っておらず、そして今まで必死に隠しているつもりだったことだ。
それを一花は初めから知っていたというのだ。けれど、そう考えればここ二週間ほどの奇妙な出来事の数々にも想像がつく。
コナンはそれを一花の話と合わせながら、まるで答え合わせをするかのように聞いていた。
12月02日 土曜日 午前10時
家を飛び出した五月を追いかけて、コナンが出かけて行った。
その時、二乃はまだ家にいたが去り際に妙なものを取り付けているのも一花は目撃していた。
コナンにバレないように後を付けると、マンションの前ですぐに五月を捕まえることに成功したようだが、何事か話した後に家に連れ戻すのではなく別の場所へ移動をし始めたのだった。
そうしてたどり着いたのは新幹線の乗り口。東京行の切符を買ったのも確認している。
だから一花は自分の役目を全うするために、父にコナン達のことを電話すると自分の後も追った。
コナンが巨大な屋敷へと五月を連れ込んだ後、しばらく建物を外から観察している時であった。
コナンから預かったままの探偵団バッチが突然音を拾い始めたことには驚いた。
『ま、まあまあ、そいつにはマジでお世話になってたからな。俺は感謝してるぜ博士』
初めのうちはコナンが日ごろ使っているアイテムの説明ばかりだったため、この場所がアイテムのルーツであることを知った。
しかし、そういった話は正直一花にしてみればどうでもよかったのだが、その後に驚く話が飛び込んで来たのだった。
『中野医師、つまりあの子の父親はAPTX4869の開発に関わっているわ』
それは灰原と呼ばれている女性の言葉であった。
APTX4869がどういう薬なのかまでは話していなかったが、それがコナンが壊滅させたという組織によって作られているのは会話の流れから理解できた。
なぜ灰原という女性が組織側の人間の目線で話しているのかは、この時点ではまだ疑問だった。
そしてその日の晩、五月を保護出来たのは幸いにも完全に偶然であった。
12月03日 土曜日 午前8時
『御用があるのは、そちらの……灰原さんに』
コナンが一人だけ警察に連れられて家へと帰ったのは、朝早くに父から連絡があって知っていた。
五月は自分が宿泊しているホテルに泊めてあげているが、なるべく早く返した方がいいとは思っている。
けれど、せっかく自分も東京にいるのだからと、一花は昨日の晩の疑問を解消すべく阿笠博士の家へと尋ねたのだった。
灰原と阿笠博士は一花も事情を知る側の人間だと話すと、協力的になって離してくれた。
そこで灰原から聞かされたAPTX4869というとんでもない代物の存在も知った。
二人には近々自分から打ち明けるから、一花がコナンの正体を知っていることは黙っておいてもらうようお願いしておいた。
12月09日 土曜日 午前8時頃
『そうだ一花。一応聞いておきたいんだけど、あんた工藤新一って知ってる?』
四葉の部活の合宿を止めるべく、みんなで動いていた時のことだ。
三玖からの助けの連絡を受けて二乃のホテルへ来た一花に対して、二乃がそう問いかけてきた。
(どうしてこの子からその名前が出てくるの……!?)
状況は知らないが、そんなピンポイントで工藤新一の名前が会話に出てくるということは、コナンが疑われている可能性を一花も疑った。
だから適当に話を合わせようとしつつも、二乃と、そして三玖も確信に近い気持ちで彼のことを疑っていることを知った一花は、状況の打開を考え始めたのだった。
12月09日 土曜日 午後9時頃
『私からもお願いがあります。彼に、シンイチ君に全て話すべきなんじゃないかと思うんです』
最初に行ったのは父の説得であった。一花は自分の正体を話し、彼の潜伏に手を貸すべきだと話にいったのだった。
けれど、この時にはすでにマルオはコナンの退去を決心しており、一花の提案は即座に却下された。
だから一花はいざという時のために取っておいたものを見せた。
取り出したのはスマホで、ボイスレコーダーのアプリを起動すると、録画した音声をマルオへ聞かせた
そこには灰原から聞いたAPTX4869についての情報と、どのようにマルオがそこに関わっているかだった。
『君は父親を脅迫する気かい?』
『そんなつもりない。お父さんが組織に関係ないのも、提供した情報が法に触れるような内容じゃない純粋な医学としての情報も全部知ってる。だけど、お父さんが協力したことによって恐ろしい薬が作られてしまったのも事実だよ。まさか、"こんなことになるとは思わなかった"なんて言って、"あの人"がお母さんから逃げたのと同じようなことをするつもりじゃないよね?』
マルオの眉間にしわが寄る。あえて琴線に触れるような言い方をしたのだから、予想通りの反応であった。
"あの人"、マルオではなく、一花と血がつながっている実の父親の方。それが起こした出来事は自分達五つ子ならば誰もが許していないことだった。そしてそれは、当時からお母さんを好きだったマルオも同様のはずだと踏んだのだ。
『わかった。許可しよう。ただしあの家へ帰ってくることは認めない。彼と同じ家に住むことの危険性は、君だって理解できるだろう』
露骨な妥協案であった。だが言っていることも正しい。
コナンの協力をしたいならすればいい、ただし今まで通り日ごろから行動を共にするようなことは、姉妹にだって被害が出る可能性がある。一花だって女優の仕事もしっかりしているわけだし常に監視できないのだから、落としどころとしてはよいのだろう。
けれど一花はそれすらも理解はできていても納得はしていなかった。コナンと離れ離れになることなど、自分の心が許さなかった。
だが、今の時点ではこれ以上交渉の材料があるわけでもないため、この時から一花は自分たちがあの家を出て行くことを考え始めたのだった。
この時点で一花には、コナンの新しい住居へと自分も行くことと、二乃と三玖のコナンに対する疑いを晴らす二つの問題を抱えていた。
一花は後者の方を先に解決することとした。
12月10日 日曜日 午前10時
一花は自分が所属するプロダクションの事務所へといつものように出勤すると、マネージャー兼社長の織田に確認をした。
『工藤有希子さんという元女優に連絡を取ることって出来ますか?』
12月17日 日曜日 午前10時
一週間という長い時間をかけて、なんとか工藤有希子と彼女の家で面会することが出来た。
彼女とのアポをこぎつけた理由は一つ、彼女の変装技術を狙ってのことだった。
これは先日、二乃と三玖の疑いを晴らすためにどうすればよいかと考えた時に思いついた案だった。今の状態のコナンで工藤新一であることを疑われてしまうと、こうなればもう外見も声も性格も同じ人間をコナンの前に立たせるしかなかった。
組織の存在など、自分が経験したこともないような裏社会のことまで知っている阿笠博士ならば変装術長けた人物に心当たりがないか聞いたところ、まさか新一のお母さんが紹介されるとは思わなかった。
けれど、彼女の変装術には弱点があり、声が変えられないということだった。そのため一花は再び、工藤有希子と会った足でそのまま隣にある阿笠博士の家に伺うと、マスク型の変声期を借りることとなった。
工藤有希子から即席でコナンの姿専用の変装術のレクチャーを受けた。その時、工藤有希子からは自分がやってもいいのだが、と提案をもらったが丁重にお断りした。
『これは私たち姉妹と、シンイチ君の問題です。だから、なるべく自分の力で解決したいんです……工藤さんに比べればまだまだですけど、私だって演技には自信がありますし』
『ふぅん、あの子も隅に置けないわね。蘭ちゃんっていう可愛いガールフレンドがいながらこんな可愛い子にここまでしてもらえるなんて』
『……』
『私もっ今回のあの子の失敗にはちょっとガッカリだけど、だからってそれだけで家を追い出すのはあんまりだと思ってたのよ。元々、私たちの家で一人暮らしをさせるのが危ないからってあなたの家に行ってもらったのに』
『私も、シンイチ君には出来る限り協力します』
『ありがと……だけどね、気持ちはすごくうれしんだけど、あの子には蘭ちゃんがいるんだからそれだけは忘れないでね』
『……はい』
12月17日 日曜日 午後3時
工藤有希子と別れた後、今度は一花は警視庁へと向かった。事前に伺う連絡はしてある。
そこで目暮警部というコナンの警護を担当している人間と話をして、協力してもらうことにした。
『確かにコナン君が襲われたのは、彼の軽はずみな行動がきっかけだったかもしれません! あなた達警察も出来ることと出来ないことがあるのも理解しています! でも、だからって結果的に彼を孤立させてしまうのは最初の目的から矛盾してます! あなた達は警護する相手を死なせたいんですか!?』
『……確かに君の言う通りかもしれん。あの時はワシも頭に血が上っておったかもな。我々に彼を元の家へと連れ戻す権限はないが、せめて出来ることはしよう。佐藤君、協力してあげてくれたまえ』
『はっ!』
12月18日 月曜日 午後6時
そうして一花は、工藤新一の姿となり、声をマスクの変声期で変えるとコナン達の前に姿を現したのだった。
どうやらコナンの正体を問い詰められていたらしく、間一髪だったとマスクの下では冷や汗をかいていた。
佐藤刑事という女性とでっち上げた嘘っぱちの事件で偽の事情聴取をした後、長く会話すればするほどバレる可能性もあるため早々に退散した。
そして、現在に至る。
一花の話はコナンの想像を超えていた。
事情を知っているどころではない、コナンにとって一花は救いの女神のような存在となっていた。
その溢れる行動力にはただただ脱帽するしかなかった。
「どうしてお前は、そんなに俺のためにしてくれるんだ?」
思わず出た言葉であった。
それは姉妹達と一緒に住むようになってから何度も繰り返されてきた問いかけ。
それに対して一花は、答えなかった。
ただ、一瞬の間だけ一花はコナンの目を見ると、踵を返して部屋へと歩き始め、茶化すように言った。
「これもお姉さんの務めだよ」
部屋に戻るまでの数歩。一花は脳内でコナンの問いを思い出していた。
『どうしてお前は、そんなに俺のためにしてくれるんだ?』
(そんなの決まってるじゃん)
それは封印したはずの気持ちだった。
林間学校の時に、気の迷いだと決めた感情。
だけど、コナンが二度と帰ってこないと告げられた時に、濁流のようにあふれ出た感情。
それはもう、一花自身ですら止められないものだとようやく理解した。
(好きだから、だよ)
高木刑事「Next Conan's HINT!」
コナン「『バット』
次回は長野の大学で事件発生!」
高木刑事「ついに僕にも出番が!?」
風太郎「ないらしいぞ」
コナン(お前もな)