五等分の名探偵 - コナンと五つの難事件-   作:真樹

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秘密の手紙、五人で百点

 テストを受けた次の日の放課後、コナンは自分しかいない教室で机に向かって頭を悩ませていた。

 机の上には1枚の紙が置かれていた。

(……やっぱ何度見返しても、あり得ねえよなぁ)

 すでにコナンは紙に書きだしたことを何度も見返している。そして何度考え直しても、答えは見つからなかった。

「アホらし、どうせただの勘違いなんだろうな」

 そう言って持っていた紙を握りつぶすと、扉近くにあるごみ箱へと放り投げた。

「きゃっ」

「あ、わりぃ!」

 放り投げたと同時、タイミング悪く二乃が入ってきた。丸めた紙は当たるすんでのところで落ちる。

 慌ててコナンは立ち上が。

「ちょっと危ないじゃない!」

「悪かったって。考え事してたんだよ」

「まったく、何よこれ」

 そう言って二乃は足元に落ちたくしゃくしゃの紙を拾い上げると、まっすぐに伸ばした。

「あ、おい勝手に広げるな!」

「そんなに慌てて、見られたくないことでも書いて……ひっ!」

 言いながら紙面に目を落とした瞬間、二乃は紙から顔を遠ざけて短い悲鳴を上げた。

 紙にはコナンが三玖と出会ってから現在に至るまでの出来事がびっしりと書かれていたのだった。

「い、いくらコナン君でも、これは流石に……え、何、あんたまさか三玖のこと」

「ちがうちがう! そいつを書いたのにはちゃんと理由があんだよ!」

 そうしてコナンは慌てて訳を言い始めた。

 

 話は同じ日の昼休憩まで遡る。

 コナン達二年生の学年教室前の廊下で、五つ子とコナンは一緒に昼食を取るべく待ち合わせをしていた。

 風太郎を少し離れた位置におり、どうやらあれで一緒に行動しているつもりらしかった。

 五月と風太郎の二人が教室を出てきた時には、三玖以外の全員が集まっていた。

「お待たせしました、行きましょうか」

 三玖からはグループチャットが来ており、先生に呼び止められたから先に行っていてほしいとのことだ。

 一同が移動を開始して、コナンもその後に続いて廊下を曲がった時、視界の端に見知った姿が目に入った。

 三玖だ。そしてそれに気が付いたのはコナンだけのようだった。

(先生に呼びだれたんじゃなかったのか? 用が終わったならまっすぐこっちに来ればいいのに)

 気になったコナンは踵を返した。

「あれ、コナンさんどうしたの?」

「悪い、俺も忘れものを思い出した。すぐ追いつくから先に行っててくれ」

「うん、わかった!」

 いち早く気が付いた四葉に返事をすると、教室へと再び歩き始めた。

 その途中で風太郎ともすれ違うが、奴はこちらに目も向けなかった。

(無視かよ……)

 教室の前まで来ると、扉のガラス越しに三玖の後ろ姿が見える。手には半分に折られた一枚の紙を持っていた。

(あれは、上杉の席だよな。手に持ってるのってもしかして……ラブレターか?)

 三玖は手に持っていた紙を自然の流れで風太郎の机の中へと滑り込ませた。

(なにー!? 入れやがった!?)

 思わず声が出そうになるのを我慢した。

 三玖は顔を上げると、教室に入ってきた方の扉、つまりコナンがいる扉とは逆の方から出ようと歩き出した。

 幸い扉の前で鉢合わせることはないが、食堂に向かうまでの道順を考えると教室を出た後、すぐにこちらの方を向くのは容易に想像できた。

 今の出来事を見ていないことにした方が良いと考えたコナンは、他の姉妹達に教室に戻るといった手前、ここで三玖と会わなければ後で矛盾を指摘されて苦しくなる恐れがあると考え、わざと音を立てて扉を開けた。

 当然、三玖が振り返る。

「コナン……どうしたの?」

 内心でコナンは一つ、深呼吸をした。

「財布を忘れたんだよ」

「そう……今の見てないよね?」

「何のことだ?」

「別に、見てないならいい。一緒に食堂に行こう」

 ああ、と返事をしてからコナンは自分の席に行くと、三玖の視線を自分の体で遮るようカバンの前に立ってから、中に手を入れ財布を内ポケットに入れるふりをした。

「行こうぜ」

 二人で教室を出て早足で食堂へと向かってる途中で、三玖が口を開いた。

「私が教室にいた理由、聞かないの? 先生に呼ばれたって送ったのに」

 どうやら存外頭が回るらしい。コナンは用意していた答えを返した。

「先生に頼まれたプリントを運んでたんだろ? 五限目はお前んとこの担任の授業だからな。あの先行いっつも生徒をパシりにしやがるし」

 教卓の上には紙束が置かれていたのをコナンは確認していた。

 三玖としても都合よく解釈してくれるとは思っていなかったのか、逆に戸惑ったような声色で言った。

「そ、そうだよ。流石コナンだね」

「これくらい初歩的な推理だよ、ワトソンくん」

「……誰?」

 ネタが通じずコナンは肩を落としかけた。

 その後すぐ、風太郎を追い越して二人は姉妹達に合流した。

 各々カウンターで昼食を頼み終えると、同じタイミングで会計を終わらせたらしい一花、三玖、四葉と鉢合わせた。

 すでにかなり混雑しており、座れるテーブルを探していると脇から風太郎の声がする。

「よ、よう三玖」

 よりにもよって用があるのは三玖のようだ。

「350円のサンドイッチに……なんだそのその飲み物」

「抹茶ソーダ」

「逆に味が気になる!」

(俺も気になる……!)

「いじわるするフータローには飲ませてあげない」

「いじわる……」

 二人の会話を聞いていると、とてもさっきラブレターを入れた相手への対応には見えなかった。

 ラブレターだと思ったのは勘違いだろうかと、もう一度紙の正体を考え始めた時だった。

「一つ聞いていいか? 今朝の問題の件なんだが」

 風太郎がそこまで言った瞬間、三玖の無表情がわずかに崩れた。

(お……?)

 もしかして何かヒントが貰えるかと思った矢先。

「上杉さん! お昼一緒に食べませんか?」

 四葉が割って入ってしまった。

「うおっ!? ……なんだ四葉か。お前はいつも突然なんだよ」

「あはは、朝は逃げちゃってすみません~」

 朝というのは、姉妹達と風太郎は登校時にも一度顔を合わせたのだが、話は上手くいかず姉妹達が逃げたのだった。

 風太郎は諦めじと話を続けようとするのであったが、

「それで三玖」

「これ見てください! 英語の宿題!」

「さっきの話」

「全部間違えてました! あはははは!」

 四葉の邪魔で話は一向に進まなかった。

(おい!)

「ごめんねー邪魔しちゃって」

 流石にコナンでなくても見かねたらしく、一花が退場させた。

 しかし四葉はそれでも黙らずに話し続ける。

「一花もみてもらおうよ」

「うーん、パスかな。私たち、ほら、バカだし。ね?」

 あまりにも軽々しく自分を卑下する一花にを見て冷や汗を垂らす風太郎には流石に同情した。

 こうまで清々しく勉強をする気がないと遠まわしに言われれば、コナンが家庭教師でも辞めていたかもしれない。

 けれども風太郎はまだ心が折れていないらしかった。

「だからってなぁ……」

「それにさ、高校生活勉強だけってどうなの? もっと青春をエンジョイしようよ。恋とか!」

 そう言って一花はちらりとこちらへ見てきた。

 この前の蘭との電話のことを思い出しているのだろう。

 コナンが東京に彼女を残していることは、別に隠していることではないのだが説明する機会も特になく姉妹達にも言ってなかった。

 それは一花も同じらしく、すでに居候を始めてからしばらく経つというのに一花以外はコナンが彼女持ちであることを知らないのだった。もちろん、風太郎もである。

 そして、風太郎はと言えば一花の言葉は地雷だったらしく、おもむろに早口で話し始めた。

「恋? アレは学業から最もかけ離れた愚かな行為だ。したい奴はすればいい……だが、そいつの人生のピークは学生時代となるだろう」

(悪かったな、ピーク迎えちまって)

「この拗らせ方、手遅れだわ……!」

 風太郎以外の全員が可哀そうなものを見る目で風太郎を見た。

「あはは……恋愛したくても相手がいないんですけどね。三玖はどう? 好きな男子とかできた?」

「えっ」

 次の瞬間、三玖の顔が一気に高揚した。

(ナイスだ四葉!)

 コナンは一気に止めていたさきほどまでの思考を再開させて三玖の動向に注意を向けたが、対して三玖は急に駆け出した。

「い、いないよ!」

「あ、おい!」

 コナンは追いかけようとしたが、その横で風太郎だけでなく一花と四葉も固まっていて、ここで自分だけ飛び出すことも出来なかった。

 おそらく、姉妹としても予想外の反応だったのだろう。

 ただ一人、何も理解をしていない顔をしているのは風太郎であった。

「? 、急にどうしたんだ……」

「あの表情、姉妹の私にはわかります。三玖は恋をしています」

 にやけた顔で言う四葉の言葉でようやく風太郎も理解したようで、再び冷や汗をかきだしていた。

 その後一花と四葉の二人は恋バナをし始め、いたたまれなくなった風太郎は離れていくと、一人で食事をとり始めた。

 コナンも気にはなったが得意な話でもないため、耳だけ傾けてるうちに二乃と五月も合流してきた。

 三玖を抜いた五人で食事は終えたのだった。

 

 二乃に経緯を話し終えてから、反応を見ると納得した顔でいた。

「なるほどね、それでどのタイミングで三玖があいつを好きになったのか整理してたってわけね」

「そういうことだ。でも何度考えたってわからなかったんだよ」

 紙に書かれた内容を二乃も見返した。

 あくまでもコナンの主観で書かれた内容であったため、風太郎と関係のない部分も書かれていたが二乃の表情からしてそこまで見当外れのことは書いていないようだった。

「ずいぶん熱心に見るんだな」

 思って以上に真剣な表情で目を通す二乃の反応は、少し以外であった。

 姉妹の中で一番拒絶的な反応を見せている二乃ならば、興味がないと一蹴するかと思っていた。

「当り前じゃない。もし本当に三玖があいつのことを好きになんてなってたら意地でも止めなきゃいけないわ」

「そういうことかよ……」

 すると二乃はおもむろにスマホを取り出して操作をしだした。

「何やってんだ?」

「決まってるわ。あいつに直接聞くのよ」

「三玖に聞くんじゃなくてか?」

 スマホから目を上げると、二乃は「はぁ!?」と問い返してきた。

「意外と乙女心に理解が無いのね。もし本当に勇気を出して告白したなら他の人に知られたくないに決まってるじゃない」

「それも、そうだな……あいつ、お前らにも隠れて手紙を入れようとしたわけだし」

 その時、コナンのスマホが鳴った。

 取り出して見ると二乃からグループチャットへの投稿で、風太郎の場所を聞く内容だった。

 四葉からすぐに反応があり、図書室に一緒にいるという返信がきた。

「図書室……ガリ勉のあいつらしいわね。ねぇちょっと行ってきてよ」

「おめぇが話聞くっつったのに行かねえのかよ?」

「私は嫌。顔も見たくないわ」

(えらく嫌われてんじゃねえか)

 しかし、気になるのは事実だ。コナンは言われた通り、二乃と別れて図書室へと向かった。

 

 図書室に入ると、奥で風太郎は積み上げた本を読み進めており、四葉はその隣で勉強をしていた。

「あ、コナンさん来ましたね!」

 近くまでいくと気が付いた四葉が手を上げた。風太郎は無反応だった。

「教えてくれてありがとうな。それで、お前は何してんだよ」

 そう言ってコナンは積み上げた本を一冊手に取った。

(日本史の本? しかも全部戦国時代関連だ……なんでこんなの読んでんだこいつ)

「何をしていようが俺の勝手だろ」

「まあそうだな」

 直接例の三玖の手紙のこととの関係性を聞いてもよかったが、先ほどの二乃の言葉が思い出された。

 四葉がいる手前、本当に告白だとしたら二乃の三玖への心遣いを無下にすることとなりかねない。

「くそっ、やはりわからん」

「何調べてんだよ?」

 本に張り付いたまま唸る風太郎の前に座り問いかける。

「だからお前には関係……いや、お前戦国時代の逸話で、鼻水に関係することって知ってるか?」

「鼻水? なんだそれ……知らねえぞ」

「ちっ、使えねえ」

 イラっときた。しかし、こらえた。

「四葉、お前はどうだ」

「うーん、私も知りませんねえ……まあでも、そういう分からないことは調べればいいんですよ!」

「お前にしては正しい意見だ。日頃からも常にそう心掛けてほしいところだが……俺がすでにこうして調べてるっていうのに、今更お前に」

「あ、わかりました!」

「なに!?」

 風太郎が驚いて四葉へ振り向くと、四葉の手にはスマホが握られていた。ネット検索をしたらしい。

「ええっとなになに、戦国時代の鼻水に関する有名なエピソードとして、大谷吉……よし……」

「大谷吉継(おおたに よしつぐ)か?」

「それです! ……大谷吉継が、石田三成と茶席を一緒にした時に、うっかり大谷吉継が鼻水を入れてしまった茶碗を石田三成に渡したのに、光成は構わず飲んだことがある、ですって……ちょっと汚い話ですね」

「それだ! 四葉、助かったぞ!」

 そう言って風太郎は四葉の両肩を掴んだ。

「あ……は、はい! お役に立てて何よりです!」

 四葉は頭に片手を当てて照れた。

(……)

 コナンはそのやり取りに違和感を覚えた。

 結局、風太郎は放課後時間の間ずっと歴史の本を読み進めているだけ、四葉が隣に居続けたこともあって聞くことが出来なかった。

 これ以上は調べるだけ無駄かもと考えたが、一度気になり始めると答えが分かるまでスッキリしない性格が災いし帰り道はずっと考え続ける羽目になった。

(しゃあねえ、こういう話が得意なやつに聞いてみるか)

 スマホを取り出すと、コナンはそのままある人物へとコールした。

 

 一週間後、コナンは風太郎と、風太郎に呼び出された三玖の様子を物陰から見ていた。

「まさか、この一週間の間目を光らせてたら本当にシッポを出すとはな……あいつには後で礼を言っておかねえと」

 風太郎と三玖は中庭にいた。

 向かい合って何かを話しているが声までは途切れ途切れで聞こえなかった。

「くそっ、これじゃせっかく現場を押さえたのに全然じゃねえか……博士の道具さえあればこんなことにはならなかったのによ……」

 とにかく、少しでも会話を聞き取るべく集中する。

 風太郎の声が聞こえた。

「俺と勝負だ」

(勝負? ……告白の返事じゃねえのか?)

 コナンの中ではまだ告白以外の可能性も捨てきっていなかったが、相談をした『例の人』からは間違いなく告白だと告げられていた。

 この現場を押さえられたのもその人である以上、今回に限ってはその人の推理を信じてみようと思っていたのだが、早々に予想外の言葉が聞こえてきて困惑した。

 引き続き聞き取ろうとするが、やはり声は聞こえずしばらくが過ぎた後、三玖の方が逃げ出した。

(まさか断ったのか……!?)

 確かに風太郎と三玖のこれまでのやり取りを思い返せば、三玖が告白する理由もなかったが、風太郎がそれを受ける理由もなかった。

 しかし、その後すぐに風太郎も後を追った。

 普通、告白した側がフラれた場合、わざわざフッた側が後を追うことはないだろう。

「とにかく、今は後を追って確かめねえと」

「江戸川君、何をしているのですか?」

「いっ!?」

 走り出そうとした直後、背後から声がした。

 振り返ると五月が立っていた。

「びっくりさせんなよ……五月、おめえなんでこんなところにいんだよ?」

「なんでって、あなたがコソコソと上杉君の後を追うからじゃないですか」

 どうやらコナンの後をつけてきたらしい。

「三玖もいたようですが、なんですか。まさかあなたまで彼の家庭教師の仕事に裏から手を貸していたのですか?」

「ちげえよ。そんなことより、用がねえならもういいか。俺はあいつらの後を追わなきゃなんねえんだ」

「ですから、その後を追わなきゃいけない理由をこちらも聞いているんです」

 五月が頬を膨らませた。

 再び二乃の言葉が思い出される。三玖が風太郎に告白したという可能性を捨てきれない以上、五月に正直に言うわけにはいかなかった。

「だったらお前もついてこい。俺も、俺があいつらを見張らなきゃいけない理由を調べてるところだからな」

 そう言ってコナンは二人が消えた方へ走り出した。

「あ、ちょっと江戸川君!? どういうことですかー!?」

 後ろで五月の声がするが振り返らない。

 話している間に二人の姿はすでに見えなくなっていた。

 とにかくコナンは二人が曲がっていった方まで行くつもりだったが、もし曲がった先で姿が見えなければ追跡は不可能だ。

(一瞬でもいい……後ろ姿だけでも見えてくれ!)

 そう思いながら二人が下りて行った階段を降りて曲がった先へ目を向けた。

 すぐ目の前にいた。

(おっせぇ……!)

 コナンは慌てて植え込みに身を潜めた。

 こちらの想定以上に近寄ってしまったために気づかれる可能性も心配したが、よく見れば二人は良き絶え絶えという様子で走っておりそれどころではないようだった。

 すぐに再び茂みへ飛び込めるようにしながら、後を追うことにした。

 再び二人に距離を近づくと、ようやく風太郎の声が聞こえた。

「またか……ハァ、片倉小十郎!!」

(は?)

 聞こえてきたのは戦国武将の名前だった。

「ハッ、上杉け……上杉……景勝……ハァ」

「くそっ、津田信澄……ハッハッ」

「三好……ハッ、長慶……もうダメっ……!」

「ハッ、し、しま……ハッ、島津……豊久……」

(この二人、もしかして戦国武将の名前でしりとりをしている?)

 今にも死にそうな声で何故そんなことをしているのかというのは置いといて、交互に言い合う名前は全て戦国武将であった。

 そして、三玖が途中で言いかけた名前は上杉謙信のことだろう。言ったら自分が負けてしまうから、慌てて甥の名前に変えたと考えれば納得がいく。

 そのすぐ後、二人は芝生の上に倒れ込んだ。

 コナンも再び近くの茂みに隠れる。

 視界の端からは五月の姿も見えた。そこそこ息を切らしていたが、あの二人ほどひん死というわけでもなかった。

 コナンは二人に見えないように小さく五月へ合図を送ると、自分と一緒に隠れるようにジェスチャーし、五月はそれに従った。

「まったく……何なんですか一体……!」

 呼吸を整えながら言う五月。

「わかんねけどよ、とにかく見てろ」

 幸い、この位置からなら二人の会話は聞こえた。

「俺のスピードに張り合えるなんてやるじゃん」

「私、クラスで一番足遅かったんだけど……暑い」

 三玖がおもむろにストッキングを脱ぎだす。

「三玖、何をハレンチな!」

「こらえろ馬鹿!」 

 立ち上がろうとした五月の肩を上から押さえつける。

「のど乾いたな。飲み物買うか……」

 風太郎が立ち上がると自販機の方へと歩いて行った。

 三玖の方もその少し後で立ち上がると、そばにあったベンチへ腰かけた。

 風太郎が戻ってくるも、三玖はまだそれに気が付いてないらしく、風太郎は持っていた持っていた缶を美玖の頬に当てた。

「ひゃっ」

「わっすまん……!」

「……」

 風太郎の想像以上の反応だったらしい。三玖も頬を膨らませていた。

 それからしばらく、コナンと五月は二人の会話を聞いていた。

 どうやら、やはり勘違いであったようで話の流れから察するに風太郎は日本史、というよりは戦国時代が好きな三玖に取り入るために自分の方がその分野に於いても知識で優っていることを示そうとしたようだった。

(それで図書館でやたら歴史の本を読んでたのか)

 コナンの中で合点が言った。

「あの、これはどういう状況なのですか?」

 唯一、五月だけが状況をまったく理解できていないようだった。

 コナンは小声で話した。

「お前の言う通り、どうやらあいつはまだ家庭教師を続けようと躍起になってるらしいぜ」

「ええ!?」

「声がでけえって。いいからもう少し話聞こうぜ」

 風太郎達の話は例の鼻水の話になっていた。

 図書室で四葉が調べたことを伝えると、三玖の表情が途端に険しくなる。

「四葉? 私が武将好きって、四葉に話したの?」

(なに?)

 まさか武将好きなことも隠していたのか、そこまで考えた後で自分が見落としをしていたことに気が付いた。

 事の始まりである三玖の手紙、あれの中身がラブレターにせよ、戦国時代にまつわることにせよ、三玖はそれを姉妹に隠しながら風太郎に渡したのだ。

 例えどのような理由であれ、姉妹達に知られるたくない内容だったのだ。二乃の言葉に引っ張られすぎたと反省する。

 脇を見れば五月も自分が聞くべき内容ではないとだけ理解したようで、バツが悪そうにしていた。

 その後も三玖は、自分が何故姉妹に内緒にしているのか理由を風太郎に話始めた。

 同時に五月にも、コナンがなぜこのようなことをしていたのか経緯を説明した。

 一通り説明を終えた後、風太郎達へと視線を戻すと、ほんの少しの間だというのに表情がずいぶんと変わっていた。

「俺は五人の家庭教師だ。あいつらも、そしてお前も勉強させる。それが俺の仕事だ。お前たちには五人揃って笑顔で卒業してもらう」

(!!)

 それからも風太郎は自分の可能性を否定しようとする三玖に懇々と姉妹の可能性を提示した。

 五人で百点、それは五人でようやく一人前にしかなれないのではなく、五人がそれぞれ一人前になれる可能性を秘めているという話だった。

「上杉君……あんなことを考えていたのですね……」

「俺はよ五月、あいつの生徒じゃねえ」

「……」

「でもよ、この一週間俺はずっとあいつを見張ってたから分かるんだよ……あいつがどんだけ不器用かな」

「どういうことですか?」

 コナンはふっ、と笑みを零した。何故ならば……

「あいつ、この一週間の間の放課後を全部図書室に費やしたんだぜ。ああやって三玖を説得するためだけにな。それにたぶん図書館だけじゃない。家でもやってるだろうよ。なにせ図書室にある歴史の本を片っ端から借りてたからな」

「……!」

 ようやく理解したという顔で五月は大きく目をみはった。

「あいつに落ち度があんのも分かるが、お前もそろそろ協力してやってもいいんじゃねえか?」

「……嫌です」

 コナンは五月を見た。やや予想外の反応であったからだ。

「あの人のことは、まだ信用できないからです」

「なんでだよ?」

「あの人にはどうしても家庭教師を続けないといけない理由があるんです」

「理由って?」

 それは……、と五月は言い淀みしばらく思案する素振りを見せた。

「言えません……! 彼のプライバシーに関わります」

「プライバシーって、何でお前がそんなこと知って」

 そこまで言った後、五月が先日上杉を自宅まで送ったのを思い出した。

 帰ってきた後で話を聞くと夕飯も向こうの家でご馳走になったと言っていたから、家にお邪魔したのだろう。

(なるほど……昼飯を妙に安上がりにすましてるところもあるし、ありゃ家庭の事情だったか)

 初めて風太郎と出会った時のことを思い出した。金に困っているのかと指摘した時、やけに不機嫌な表情をしたが、あれは単純に初対面に対する警戒心だからというわけでもないらしい。

 下手をすれば、コナンは風太郎の地雷を踏んでいるのかもしれないと考えた。

(俺ももう少し折れてあいつに接さないとだな)

 そうこうしているうちに風太郎達は話を終えたらしく、ベンチから去っていた。

 これ以上長居する必要もないだろう。

「……俺たちも行こうぜ。そろそろ昼休みが終わっちまう」

「待ってください。江戸川君、あなたにもお聞きしたいことがあります」

「なんだよ?」

「彼が一週間ものあいだ三玖のためだけに歴史を勉強していたように、あなたも彼を調べていました。なぜそこまでするのですか?」

「別に? 気になっただけだよ」

「本当ですか?」

 五月はコナンをまっすぐ見て問いかける。

 コナンは頭をかくと、確かに少し度が過ぎていたかもしれないと考え自分自身に対して何故そこまでしたのか自問した。

 答えを得るのにそれほど時間はかからなかった。

「強いて言うなら、似ているからかな」

「似ている? あなたと彼がですか?」

「ああ。俺もあいつも、何するかわかんない奴らを見てると放っておけない所とかだな」

 コナンの脳裏には、蘭の顔が思い浮かんだ。

「……つまりそれは、私たちが放っておけないってことですか?」

 しかし、五月は当然蘭のことなど知らない。どうやら別の意味で伝わってしまったらしい。

「ち、ちげえって! あくまで考え方の話だよ! ……もしかしたら、お前たちとの出会い方が上杉と入れ替わってたとしたら、俺も今頃」

「そんなわけないじゃないですか! あなたと彼を一緒にしないでください!」

「なにぃっ!?」

 五月から飛び出した言葉の意味が一瞬理解できなかった。

 普通、その言葉は比較対象である相手側を持ち上げる意味で使われるものだ。

 だがそれでは、風太郎の方が五月と友好的であるという意味になってしまい、比べるものでもないがコナンとしては風太郎以下の扱いを受けているつもりはなかった。

「あっ……!!」

 五月はすぐに口元を抑えた。

 その表情にコナンは見覚えがあるような気がした。

「とにかくです! あなたの理由はわかりました! もういいです、教室に戻りましょう!」

 そう言って五月は早足で歩き去っていった。

 その後ろ姿を見送った後、コナンは一人ごちる。

「前々から思ってたけど、初めて会った時からあいつら姉妹には妙に懐かれてんだよなぁ……っと、そうだ今のうちに自分の用も済ましておかねえとな」

 そう言ってコナンは自分のスマホを取り出し、発信履歴からリダイヤルを押す。

 数回のコールの後、通話はつながった。

「もしもし園子か。おめえの推理は外れだったよ」

『えー!? 何よそれ! 女の子が男の子にこっそり手紙渡すなんて言ったらラブレターしかないじゃない!』

「実際違ったんだから仕方ねえだろ」

 電話の相手は園子だった。工藤新一時代の同級生だ。

『あーあ、あんたがこの前珍しくあたしに電話してきたと思ったら真剣な声で”恋愛相談があるんだが、お前こういう話得意だろ”って言ってきた時には期待したんだけどなぁ』

「そう言うなって、その後のお前のアドバイスはマジで的確で助かったんだぜ?」

『当り前のことを言っただけよ。新一君、手紙を渡すとこだけ見て推理しようとするんだもの。普通は現場を押さえるべきでしょ』

「ごもっともだ。おかげであいつらのことも少しわかったよ」

『ふーん、そっちの学校でも相変わらずのようで何よりですこと。楽しそうにしてるのはいいけど、蘭をほったらかしにすんじゃないわよ』

「わーってるって。蘭には寂しい思いはさせねえよ」

 そう言った直後、スピーカーの向こうから蘭の声で「ちょっと!」と声が入ってきた。

『あらご馳走様。よかったわねー蘭、新一君のラブラブボイスが聞けちゃって』

「お、おい! まさか蘭がそばにいるのか!? ていうか話きかせてんじゃねえだろうなぁ!? いつからだ!」

『最初っからよ。愛しの彼氏君が別の女と電話なんてしてたら心配になるに決まってるじゃない。あたしとあんたの会話はぜーんぶ蘭に共有済みよ』

(本当にこいつは、そういうことにばっかり頭が回りやがる)

 蘭にも話を聞かれているとなると、急に照れくさくなってきたコナンであったが、タイミングよく校庭にチャイムが鳴り響いた。

「わりぃ、休み時間が終わっちまった。園子、おめえには今度礼をすっからよ、ありがとな」

『はいはーい』

 コナンはスマホから耳を話すと、通話終了ボタンを押してポケットにしまい、校舎へと歩き出した。





コナン世界と五等分世界足してもマトモな恋愛識者がいないんですが、園子に恋愛相談はやめた方がいいんじゃないかな・・・
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