この作品は漫画版「五等分の花嫁」のストーリーラインに沿ってシナリオを進行しています。
今回の話の前半と後半はアニメだと二期の1話と10話に該当する部分ですが、これは大幅にストーリーを飛ばしたわけではなく、単純に漫画だとこの順番で話が掲載されていることをご承知ください。
今後もアニメ二期に相当する部分は同様のケースが稀によく見られます
「早速だがお前ら、全員同じ髪形にしろ」
いつものように風太郎が家庭教師をしに家に訪れ、リビングには全員が集まっていた。
その日はコナンも暇であったため、何となくだが同じく集まっていた。
「全員には俺も含まれてんのか?」
「そんなわけないだろ」
五つ子達は疑問に思いながらも言われた通り、同じ髪形にした。
と言っても一花や四葉のようなショートカットもいる中では出来るレパートリーも少なく、手間も好くなポニーテールにすることとなった。
窓際に五人をならべると、風太郎はその様子を凝視した。
「急にどうしたの?」
流石の五つ子達もいい加減説明がほしくなったようで、口々に疑念をぶつける。
五人を凝視している間、ソファに座っていた風太郎が立ち上がった。
三玖の前に立つ。
「なんだ二乃らしくもなく前のめりじゃないか」
「二乃は私よ」
間違えた風太郎に間髪入れず本物の二乃が指摘する。
その直後、風太郎はいきなり振り返ったと思った矢先、五つ子を左から順に指さした。
「一花! 二乃! 四葉! 三玖! 五月!」
「二乃! 三玖! 五月! 四葉! 一花よ! 髪を見れば分かるでしょ!」
「……とこのように、なんのヒントもなければだれが誰かもわからない。最近のアイドルのようにな」
フータローはソファに置いていた紙を手に取ると、テーブルの上に広げた。
急に何事かと思った五つ子とコナンに対して、風太郎は話始める。それは10分ほど前の出来事のことだったらしい。
要約すると、風太郎が最初に部屋に入った時、風呂上りで誰か判別がつかない状態の五つ子がいて、手に持っていた紙袋を投げ付けた後逃げたのだという。
紙袋の中に、例の紙が入っていたようでコナンも後ろから覗き込むと、紙は五教科全て0点の答案用紙だった。
「ご丁寧に名前は破られている。バスタオル姿でわからなかったが、犯人はこの中にいる」
(お、これは風太郎の推理が聞けるか?)
コナンが現時点で把握している情報の中で、経緯については風太郎とほぼ同様の認識だ。
先ほどまでコナンは自室に籠って本を読んでおり、リビングにはいなかった。インターホンをなる音がぎりぎり聞こえたくらいだった。その後は風太郎が一階から五つ子達にリビングに集まるよう呼びかけがあるまで、部屋の外の情報は入ってこなかった。
続けて破られた答案用紙を見る。
名前の部分が手で破いたようにして切り取られており、解答欄は全て埋められているものの、全てにチェックが付いていて0点の点数が書かれていた。
筆跡も気になったが、いくら一緒に住んでいるとはいえ姉妹同士での筆跡の違いなどといいう観点では見比べたこともなかったため、誰の字かも判断できなかった。
けれど、気になる点はあった。それを風太郎が気づけるかどうかだが……そこまで考えて風太郎を見た。
どのような推理を披露してくれるのかと期待した矢先。
「私が犯人だよって人ー?」
「……」
(おい……)
力が抜ける思いだった。ダイニングテーブルの方の椅子に腰かけていたが、思わず肩が落ちた。
「少しは自分でも推理しろよ」
「たったこれだけで何を考えろっていう話なんだが……まぁ、もし今ある情報で犯人を予想するとしたら」
すると風太郎はリビングテーブルの真ん前で座る四葉へ歩み寄る、しゃがみ込むと肩に手を置いた。
「四葉、白状しろ」
「当然のように疑われてる!」
学力が最も低い四葉を怪しんだんだろうが、安直すぎないだろうか。
コナンはため息をついた。
風太郎も一応考え続けているらしく、姉妹達から聴取をしているが、やはり顔の見分けがつかないという一点のせいで決めきれないようだった。
考える風太郎の横に、今度は四葉の方から寄ってきた。
「良いこと教えてあげます。私達の見分け方はお母さんが昔言ってました。愛さえあれば自然と分かるって」
「……道理でわからないはずだ」
自信満々に言う四葉であったが、対する風太郎は自分が見分けられない理由にこそ納得したようであった。
風太郎は今度はコナンを見た。
「そういや、お前は見分けられるのか?」
「あ、それ私も気になるかも」
同意してきたのは二乃だった。
それまで完全に傍観者モードだったが、ダルそうに頬杖を着いた姿勢はそのまま、もう片方の腕で五つ子達を左から順に指さす。
「多分だけど、四葉、二乃、三玖、五月、一花だろ?」
「うそ……合ってる!」
どうせ出来ないと思っていたらしい二乃が目を見開いた。
他の姉妹も同様に驚いており、風太郎に至っては口を開いて固まっていた。
額から汗を流しながらフラフラとコナンへ歩み寄ってくる。
「な、何故お前までわかるんだ……まさか本当に愛」
「そんなんじゃねえよ。髪の長さで大体グループ分けできるし、さっきお前が目の前で確認してくれたから、後は服を覚えておけばいいだけ。顔は同じでもそれ以外の部分はちげぇんだ。そこんところをちゃんと抑えておけば区別すんのなんて簡単だよ」
とはいえ、正直愛で見分けられるという話が眉唾であると思っているのはコナンも同様であった。
確かに、生まれた時から成長を見守っている母親や親族であれば、本当に顔や習性だけで判別できるのかもしれないが、コナンも五つ子と出会ったから半年も経っていない。流石に無理があった。
「ま、そんなわけだから、いくら俺でもまったく同じ髪、服装、装飾品を付けられたら無理だな。それでも話せば分かるかもしれねえが、性格まで寄せられたら完全にお手上げだよ」
「それは確かに……難易度が跳ね上がるな」
その時、五つ子達へ目を向けると、五人は妙な顔をしていた。まるで事件の関係者に聴取している時、何か心当たりがある時のような顔だった。
(……?)
その後も風太郎は当時の状況の再現のために五つ子に自分を変態と罵るようお願いしたり、悪ノリし始めた一花が架空の姉妹の六海の話をしだしたりと、話が妙な方向に向き始めた。
完全に違う話で五つ子達が盛り上がり始めたころ、ようやくコナンは立ち上がると風太郎の傍により耳打ちした。
「おい、おめえの推理を聞かせろよ。いくら何でも手がかりなしってわけじゃねえんだろ?」
「推理って言っても……証拠になりそうなのはこの答案くらいだぞ。まずはここ」
答案用紙の一枚を指さした。指さしたのは国語の答案で作者の気持ちを回答する設問に対して『作■者はこの』といったように書き損じと思われる部分に黒い塗りつぶしがされていた。ご丁寧に塗りつぶしたぐしゃぐしゃの上に目まで書いて、デフォルメした毛虫のようなラクガキに仕上げている。
「五月の場合は書き間違えれば消しゴムを使うはずだ。つまり五月が犯人という線は消える」
「なるほど」
「次にこれ」
次に指さしたのは社会の答案。歴史の偉人の名前を答える回答に『大熊重信』が記載されている。書かれている問題自体に対する回答として間違ってはいるものの、不審な点はない。
「この字は三玖より上手い。つまり三玖という可能性もなくなる」
「へー、お前あいつらの字、見分けられんのか」
「家庭教師をしてるからな。当然だ。次にこれだ」
三つめは理科の答案だ。回答には『鼓膜』と書かれている。
この回答にも不審な点はないし、先ほどの社会の回答と見比べても大きな筆跡の違いは感じられなかった。
「これだけじゃないが、この答案は全体的に悲しいことだが、四葉より感じが書けている」
「おい」
「四葉の場合、わからない字があれば無理して書くより平仮名を使う。だから偶然合っていたという可能性も低いと考えられ、四葉も容疑者から外れる。後これだが」
手に取ったのは四つ折りの答案だ。何の教科かわからないが、残る最後の一枚が英語であるところを見ると数学の答案だろう。
「二乃はテストを丁寧にファイリングする。四つ折りなのは不自然だ」
「あいつ意外とマメだもんな」
「そして最後がこれだ」
残る英語の答案に手を置いた。折り目もなければ書き損じをごまかした跡もない、筆跡もやはり対して違いは見えなかった。
「なんだよ、綺麗な答案じゃねえか」
「綺麗すぎるんだよ。雑な一花ならもっと紙がよれているはずだ」
「そういやこの前、四葉の手伝いで一花の部屋を掃除したら化粧台に零したジュースで真っ黒のテスト用紙があったな」
「……それは後で一花に説教だな。まあ、そういうわけで消去法でいくと五つ子全員が容疑者から外れる。見つけた判断材料も一貫性がない。こうしてみると、五つ子って意外と違うもんなんだって思わされるよ」
そう言って風太郎はしみじみとした様子で五つ子を見た。
「んだよ、そこまで分かってんだったら後一歩じゃねえか」
風太郎が驚きの表情でコナンを見た。
「なに!? まさかお前は誰が犯人かわかってんのか!?」
「ああ、この事件に潜んでる『二つの謎』のどっちも、バッチリな」
「ふ、二つ……?」
「ま、さっきも言ったけど後ちょっとなんだ。先入観に囚われずに考えて見ろよ」
くそっ、と悪態をついて風太郎は頭を抱えて考え込んだ。
正直言えばコナンは感心していた。風太郎が上げた指摘のいくつかはコナンも気づいていたが、気づいていない部分もあった。
だが風太郎は『ある先入観』にとらわれているせいで、せっかくの証拠を活用できず無駄にしてしまっている。
そこに気が付ければ、後は目の前の答案をもっとよく見て、裏を取るだけで答えは見つかるのだ。
「ややこしい! もうわからん!」
けれど、そのことを一向に理解していない風太郎は限界が来たよう机を強く叩いた。
「こうなればテストで確認するしかあるまい!」
突如告げられた抜き打ちテストに五つ子達は抗議の声を上げたが、最後まで残った者を犯人認定するという暴挙に出たため、慌ててテストに取り掛かった。
しばらくの間、粛々とテストに向き合う時間が過ぎていく中で風太郎だけが不敵に笑っていた。
その様子を再びダイニングテーブルに戻り眺めていたコナンだが、内心では風太郎に対して呆れていた。
(ったく、あんだけヒントも渡してやったのに答えにたどり着かないどころか諦めやがって……)
コナンは自分と風太郎のことを、結構似た者同士だと思っていたが、こういった辛抱強さのなさは違うと思いたいと考えた。
そうしていると俯瞰して五つ子と風太郎を見ていると、ひとりの様子がおかしいのに気が付いた。
一花だ。
一花だけは問題を解き終わったのか手を止めて風太郎を見ていた。
その顔には自分が犯人にされるかもという不安は一切なく、余裕すら浮かんでいた。
(やっぱりおめえか……)
そう光景を見て、コナンも例のバスタオル姿の人物の犯人が一花であることを確信した。
理由は先ほどまで五つ子の見分け方でも話題に上がっていた髪の長さだ。話を聞いた限り風太郎が犯人と出会ってから、五つ子がリビングに呼び出されるまで十分もかかっていない。その短時間で髪を乾かせるのは一花と四葉がせいぜい、もし四葉が犯人だとしたら先ほど断言するように言い切った風太郎の名指しを受けた時点で白状していただろう。
その時、不意に目線を移動させた一花と目が合った。
(ちょっとからかってやっか)
おそらくこのままでは逃げ切るであろう一花に対して、コナンは少し弄ってやることにした。
テストの後で推理を披露してもよかったが、風太郎のあの有様であっさり答えを教えてやるのも癪だった。
コナンは静かに、という口先に指をあてる、よくやるジェスチャーを見せた。一花の表情が赤くなると勢いよく下を向いた。
すると、一花の表情が再び変わった。何か気づきを得た反応だ。そしておもむろに筆箱から取り出すと自分の回答を消しては再び書き直した。
(……やべ! あいつ風太郎が筆跡で見分けられるのに気が付きやがった!)
余計なことをしたかと後悔した。
五つ子の連中なら筆跡なんてものを自力で思いつくことなど無いと思っていたが、侮っていたらしい。
(やっぱり後で風太郎だけでもコッソリ教えておくか……?)
面倒なことになってきたと考えている間にも、ただ書き直すだけの作業をしていた一花が終わったらしい。
「はーい、一番乗り!」
すぐさま答案を風太郎に差し出すと、採点が始まる。
どうする、今言うべきかとコナンは言い出すタイミングを伺った。
採点が終わり、一花が早々に戻ろうとした時に声をかけようと決めた時、ちょうど風太郎がテストを見終わったようだった。
「ふむ」
すると、風太郎が答案用紙を一花の頭の上に置いた。
「お前が犯人か」
(なっ……!)
「あれっ!? なんで……筆跡だって変えたのに」
「ここ、bの書き方」
風太郎が手元の一花の答案を指さした。
「一人だけ筆記体で書くことは覚えてた。俺はお前たちの顔を見分けられるほど知らないが、お前たちの文字は嫌というほど見てるからな」
「や、やられた~!」
風太郎の前で跪く一花に対して、痛快な笑い声を風太郎はあげた。
その後、続々とテストを終わらせた姉妹達が答案を風太郎に渡しては、それを風太郎が見ていく。
四人それぞれ、風太郎が記憶している特徴と一致していた。
「みんな犯人と同じ……お前ら一人ずつ0点の犯人じゃねーか!」
(マジか、風太郎のやつ文字だけで答えに辿り着きやがった……!)
風太郎の出した答えはコナンと同じものであった。
しかし、コナンの見つけたヒントでは風太郎は答えを出せなかったのと同様に、風太郎が見つけたヒントだけでコナンが真相を突き止められるとも思えなかった。
「すげえな、そんなんアリかよ」
「おいコナン、お前が考えてた犯人も同じだったか?」
「あ、ああ。まあな。でも俺が気が付いたヒントはお前とは別だよ。お前がさっき言ってた、答案用紙ごとに残ってた一貫性のない痕跡、あれは一つ一つで見ると容疑者を絞るための消去法の材料にしかなんねえが、五枚全部で見れば一つの法則性が見えてくんだよ」
「なに?」
「どの痕跡も、五枚の答案のうちの一枚にしかなく、他の用紙には同じ痕跡が残ってないってことだよ。五枚全部が同じ持ち主なら、例えば全部四つ折りだったりシワシワだったりするはずだろ? 字の直し方も塗りつぶしだったり消しゴムだったりバラバラだ。その時点で答案はそれぞれ、元々は別の持ち主が持って立ってことに気づいたんだよ。おめえは最初っから五枚全部ひとりの持ち物だって思い込みをしてたみたいだから、一枚で見つけたヒントを残りの4枚にも当てはめちまってたみたいだけどな」
「なるほど……そういうことか」
「おめえは俺より記憶力はあるみたいだし、見方が違うだけで細かいことにも気づけるんだ。後は先入観さえ取り払えば、いい探偵になれると思うぜ」
「探偵になるつもりなんか端っからない」
だが、と風太郎は続けた。
「参考にしておく」
そう言って風太郎は笑った。
「何してんのよ一花。こいつが来る前に隠す約束だったでしょ」
「ごめーん」
真相を言い当てられ、二乃が開き直った。
その様子に風太郎が再び頭を抱える。
「俺が入院した途端これか……やっぱりお前ら……」
風太郎の入院とは、先日の林間学校での風邪が原因だった。こじらせてたとはいえ普通の風邪であったが、五つ子の嘆願によって検査入院をすることとなったのだった。
その時、五月が風太郎へと話しかける。
「上杉君、今日あなたが顔の判別にこだわったのは、昨日話してくれた五年前の女の子と関係があるのでしょう? 私達の中の誰かだったと思ってるんですね」
(五年前……? 何の話だ?)
「……そうだ」
先日、五つ子が予防接種で病院に行った時についでに風太郎の見舞いもしてきたとは聞いていた。その時コナンは同行しなかったが、おそらく何か話が合ったのだろう。
五月の口ぶりからすると、何かの出来事が風太郎と五つ子の中の誰かとの間にあったということだろう。
けれど、今の一言だけで何があり、誰のことを指しているかまでは皆目見当がつかなかった。
こうなれば直接確認すればいいだけの話だろう。そう思った矢先のことだった。
「と、思ったが……この中で昔、俺と会ったことがあるよって人—?」
先ほどの犯人当てと同じような口調で問う風太郎。
さっきの騒動から何も学んでいないかのようなふるまいだが、今回に関してはコナンも情報をほとんど持ち合わせていないためありがたかった。
「何よ急に」
しかし、五つ子の反応は五人とも悪かった。
コナンはその様子を訝しんで見ていた。
風太郎に至ってはそれが予想通りであったか、願っていた展開かは知らないが、妙に納得したような顔をしている。
「そりゃそうだ。そんなに都合よく近くにいるわけがねぇ。それに……お前らみたいな馬鹿があの子のはずねーわ」
「ば……馬鹿とはなんですか!」
デリカシーのない発言に対して怒る五月に、風太郎は近くにいた人物の肩に手を置いた。
「間違ってねーだろ五月。よくも0点のテストを隠してたな。今日はみっちり復習だ」
しかし、実際に手を置いた相手はといえば、
(こいつ……マジで学習しねえな。テストの点が良いのが不思議なくらいだぜ……)
三玖であった。
「もしかして、わざと間違えてる?」
三玖は困りながら頬を膨らませていた。
「フータローのことなんてもう知らない」
「す、すまん!」
「あはは、まずは上杉さんが勉強しないといけませんね」
結局、いつものバタバタしながらの家庭教師の雰囲気に落ち着いた後、風太郎はいつも通りの授業を始めたのであった。
ただ一点、コナンだけはある疑念を残して。
(風太郎の問いかけに誰も答えなかったのが、本当に昔風太郎が会ったという人物と別人だったらいいが……嘘をついているとしたら、理由はなんだ……?)
11月23日、木曜日。勤労感謝の日となった。
祝日で学校が休みの風太郎は一日中家で勉強をする予定だった。しかし、妹のらいはから林間学校でさんざん四葉から手厚いサポートを受けていたことを指摘され、半ば強引に礼をすることとなった。
初めのうちはプレゼントの一つでも渡して終わらせようとしたのだが、突然の申し出に思いつくものもなく二人でプレゼントを求めて外へ繰り出すこととなった。
四葉が提案してきた場所には一通り回った後だった。
一件目は五月の行きつけのレストラン。風太郎の予算の軽く十倍はする値段のランチを一緒に食べたが、食べた後の感想は上手いの一言でしか表現できないといみすぼらしい結果となった。むしろ量の少なさに不満が残るぼどであった。それに対して四葉とは思えないボキャブラリーから繰り出された食レポによって、少し四葉を見る目が変わった。
二件目は三玖が会員になっているスパだった。マッサージを受けたという記憶しか残っておらず、結局どういう店かすらも分からずに終わった。
三件目は一花が出演している映画だった。はっきり言ってB級のゾンビホラー映画だった上に、一花本人は序盤で早々に死んだこともあっていまいちだった。
四件目は二乃が欲しがっていた服が売っている店。ここでトラブルがあり、一花と三玖と遭遇してしまった。実を言うと前日に三玖からは外出の誘いがあったが、その時はまだ一日中勉強に時間を割く予定であったため断ってしまっていたのだった。だというのに四葉と二人で外出しているところを見られたらどんな反応がされるか判断できなかった。
何とか店を脱出した後も、行く先々で姉妹達と出会い、やはり四葉を連れ歩いているうしろめたさから逃げるようにあちこちを転々としているうちに近所のデパートへと逃げ込むことになった。
「悪いな。ずいぶんバタバタしちまった……」
「いえ、私は別に大丈夫です」
デパートに入るまでずっと走り回ってたこともあり、風太郎の息は大分上がっていた。
呼吸を整えるため、入り口枠のフリースペースで休んでいたところだった。
「四葉に風太郎じゃねえか」
「あ、コナンさん」
「なんで今日はどこ行っても知ってる顔があるんだよ……」
入り口からコナンが入ってくるところだった。
先にコナンが二人に気が付いたようで、二人が座るテーブルの脇へ歩いてくる。
「珍しい組み合わせだな。どういう風の吹き回しだ?」
「上杉さんから、私が先日の林間学校でお手伝いをさせていただいたからお礼をしたいって仰られまして……」
「へぇ、おめえにしては殊勝じゃねえか。それでここで欲しいものを見繕うってわけか」
「い、いや、ここに来たのはその、なんというか成り行きなんだ」
よもや姉妹達から逃げてきたとは言いずらく、歯切れ悪くなってしまった。
コナンも風太郎の言い淀んだ様子に引っ掛かりを覚えたようで少し見てきたが、すぐに興味をなくしたようだった。
「まあいいぜ。それじゃあこの後はどうすんだ? 俺も用があったわけじゃねえし、一緒に回るか? 手伝うぜ」
「どうします、上杉さん?」
「いや、俺はさっさとプレゼントを見つけたら帰って勉強したいんだが」
「だったらここは好都合じゃねえか。手頃で安価なプレゼントを見つけるのにうってつけだろ?」
まあ、確かに。コナンの言う通りだった。仕方なくコナンの提案を受けることにした。
買い物をする前に、小腹が空いているから食事をしたいというコナンの後に続いて風太郎達はフードコートへと立ち寄った。
フードコートはそこそこの繁盛を見せており、空いている席がまばらにある程度だった。
風太郎は昼食の量に不満があったこともあり、ファーストフードで最安値ではあるがハンバーガーを注文した。
ファーストフードメニューということもあり、決めておいた席に一番に戻ってきたのは風太郎で、次にアイスを持った四葉、最後にうどんを持ったコナンが戻ってきた。
「さっさと食っちまうから待っててくれよな」
「気にしないでいいよ。私達もゆっくりさせてくれた方がありがたいし」
「そうか」
そういえばよ、とコナンが話題を変えた。
「この前中野さんから電話があったぜ」
「え、お父さんから?」
「ああ、この前の林間学校で雪崩にあったろ、あれでお前を助けた礼だったよ」
「あの時は本当にありがとうございました。重ねてになるけど、私からもお礼を言うよ」
四葉が頭を下げた。対してコナンは首を横に振った。
「前にも四葉に言ったけど、元を辿れば自分の失言が原因なんだよ。素直に礼を受け取る気にはなれねえし、むしろ後ろめたい気持ちが沸いちまう」
そういうコナンを見ながら、風太郎はハンバーガーを完食した。
「俺はその時寝てたから話で聞いただけだが、レスキュー隊にホテルまで運んでもらった後は普通に元気にしてたんだろ? 不死身か?」
「いやあ、巻き込まれた時は流石の私も死を覚悟しましたよ。でも、コナンさんが見つけ出してくれたおかげですから」
「偶然だよ。普通は雪崩に巻き込まれたらただじゃすまねえんだからな」
コナンはうどんをすすった。
ハンバーガーを食べ終わった風太郎に続いて、四葉のアイスも空になる。四葉は席を立つと、風太郎の前に置かれているファーストーフード店のトレーにも手を伸ばした。
「ちょっと片づけてきますね。ついでなんで上杉さんのも持ってっちゃいます」
「ああ、すまん」
「いえいえ、お安い御用です」
ニコ、と笑ってから両手でトレーを一枚ずつ持ったままフードコートの端にあるごみ箱へと向かった。
残された二人となった状況で、コナンがこちらに顔を寄せてきた。
「で? 何を買うのかは決まったのかよ?」
「あ?」
「あ、じゃねえよ。プレゼントだよ。おめえ今日の目的忘れたのか?」
コナンが眉をひそめて言った。
風太郎としても忘れたわけではない。むしろずっと考えていることだった。単純に話に切り替わりについていけなかっただけだ。
しかし、今日一日四葉と一緒にいてわかったことだが四葉自身は自分が欲しいものがないように見えた。それどころか姉妹のことを優先するようにして歩き回ったから今日もこの時間になってしまっているのだ。
いっそのこと、こっちで勝手に決めて渡してしまおうかとも何度か考えたが、女子が欲しがるものなど検討もつかないし、唯一理解があると思っていたらいはへのプレゼントも結局空振りして今もポケットに入ったままだ。
風太郎は頬杖を着いてコナンの質問に答えた。
「忘れてなんてない。だがわかんねえんだよ、あいつの欲しいものが」
「そもそも、おめえが買ってやれそうなもんなんてあいつらならいつでも買えそうだしな」
「ムカつく話だが……お前の言う通りだ。実際、今日はあいつら姉妹の金銭感覚の差を痛感させられたよ」
一花から譲ってもらった映画のチケットはさておき、その他の店での会計は全て四葉に出してもらっている。一つの店だけでも風太郎的には予算オーバーだというのに、合計金額にすると最早今日自分は四葉に会わない方が良かったのではないかと思うほどであった。
自分が金を出すつもりがその何倍もの金額を出してもらっており、すでに凹み始めている風太郎が顔をしかめた。
「そんな顔すんなって、ここで見つかるかもしれねえだろ」
「どうだかな」
「それに、何かを買ってやることだけがプレゼントってわけでもないだろ」
「どういうことだ?」
「そこから先は自分で考えるこったな」
そう言ってコナンはニヤリと笑った。
「前から思ってたけど、お前って何かと俺に考えさせようとするな」
「せっかくの謎なんだぜ、自分で解かずに全部教えてもらっちまうなんてつまんねえだろ」
「俺はお前ほど好奇心旺盛じゃないんだよ。悪かったな」
「ま、考え方は人それぞれだからな。別にお前が悪いってわけじゃねえよ。ただな」
コナンの表情が変わった。先ほどまでの人を小ばかにするような笑みではなく、真剣な面持ちだ。
「誰だってあるもんだぜ。自分自身の手で答えを出さないといけない、難問を解く時がよ」
「難問の相手はテストだけで十分だ」
妙に説教臭い話になってきた。
しかし、どこかコナンの言い方にはただのおせっかいというよりは、何か裏打ちされた経験から言っているような雰囲気が漂っているように見えた。
その時、ごみを捨てに行っていた四葉が戻ってきた。
「ただいま!」
「おう、俺も食い終わったところだ。トレー返してくるよ」
「私が持って行こうか?」
「いいって。お前は風太郎と何買うかでも話しとけ」
四葉と入れ替わるようにコナンが席を立った。その時であった。
「なんだとてめぇ!」
コナンの背後で男性の怒声がした。
振り返ると四人用の席で二人の男性が向かい合うように席から立ち上がっており、にらみ合っていた。
男性の横にはそれぞれ女性が座っている。
「もう一度言ってみろ! 田中!」
「何度でも言ってやるよ! 新井、お前は金に取りつかれてる亡者だよ!」
「てめえ!」
「新井君も田中君もやめてよ!」
口論は発展する一方で、新井と呼ばれた男性は田中と呼んだ男性の胸倉まで掴み始める。田中と呼ばれた男性の横に座っていた女性は袖を引いて止めようとしていた。
その様子を遠巻きで見ていた四葉が立ち上がった。
「ちょっと止めてきます」
「やめとけ、面倒ごとに首を突っ込むな」
間髪いれず風太郎が四葉の手を取った。
四葉が風太郎を見る。
「でも、あのままじゃあのお二人、今にも手が出てしまいそうです。とにかく、ちょっと行ってきますね!」
「おい!?」
「……あいつ、学校でも頼み事を断らないだけじゃなくってああいうのに口出しするよな」
風太郎が引き留め損ねた四葉の背中を見ながら、コナンが呟いた。
「ああ、ちょっと度が過ぎてる。四葉を連れ戻してくる」
そう言って風太郎も席を立ちあがった。
四葉は四人組の近くまで行くと、声をかけた。
「あの、事情はわかりませんが、喧嘩はやめましょうよ。周りの人たちもこちらを見ていますし」
「なんだよあんた。こっちは真面目な話をしてんだから邪魔すんなよ!」
「きゃっ!」
新井という男性が四葉を追い払うように手をふるうと、当たりはしなかったが四葉の目の前を通り過ぎ、反射的に四葉が一歩引いた。
直後、四葉と男の間に風太郎が割って入る。
「おい、危ないだろ! こっちはお前たちの喧嘩で迷惑してるって言ってんだよ! やるなら外でやれ!」
「あ、新井君……お願いだからもうやめて……!」
新井の横に座っていた、先ほど仲裁に入っていた女性とは別の、気の弱そうな女性が新井のコートの裾を引っ張った。
思わず新井が引っ張られた方向へと目を向けた時、自分の周りにいる客たちが一様にこちらを見ていることに気が付いたらしく、少しは目が覚めたのか押し黙った。
しかし、そのすぐ後で新井は「くそっ」と吐き捨てると席を立ち去っていった。
浅野という女性がすぐに立ち上がると、こちらに一度頭を下げてから新井の元へ走っていった。
残された面々の間にはしばらく沈黙が流れたが、田中が気が付いたようでこちらを向いた。
「あの、巻き込んでしまってすみませんでした……」
「いえ、首を突っ込んだのはこちらですから、気にせずに。四葉、行くぞ」
四葉の手を掴んで席へと戻ろうとした。
「あの、よければ事情を」
「四葉!」
なおも食い下がろうとする四葉を遮って、風太郎が声を強くした。
その時、風太郎達の席の方からコナンも歩いてきた。いつの間にかうどんのトレーも片付いている。
「とりあえず、俺たちも移動しようぜ。ここじゃ注目を集めすぎている。田中さんたちもいいですよね?」
「あ、ああ……」
話を振られた田中は、新井がいなくなったこともあってか先ほどよりも追い付いた様子だった。
風太郎は田中を見た。小太りでメガネをかけており、あまり喧嘩などのトラブルは多くなさそうな見た目だ。先ほどの聞こえてきた会話から考えると、金のトラブルだろうか。
田中はコナンの提案に対し、一度腕時計で時間を確認すると頷いた。
「わかりました。お詫びもしないとですし、移動しましょう。遠藤もいいよな」
遠藤と呼ばれた女性も同意した。
派手というわけではないが、身なりには気を使っていることがわかる出で立ちをした女性だった。田中と遠藤、それにさきほどまでいた二人も合わせて四人全員が、同じ年頃で二十代前半に見えた。
一同はデパートの三階にある屋外の休憩エリアへと移動した。
建物を出てからすぐにあるベンチに田中を座らせると、取り囲むようにして他の面々が立った。
視線を一身に受ける田中が申し訳なさそうにしゃべりだす。
「お恥ずかしいところをお見せしてすみません」
コナンが相手をした。
「フードコートでは随分と取り乱していましたね。あんなに取り乱して、一体何があったんですか?」
「あいつ……新井とはちょっと金の貸し借りをしてまして、さっきはその話が新井から急に出てきて、ちょっと」
「ふぅん、遠藤さんでしたっけ。お二人もそのことはご存じだったんですか?」
「いえ、私達は今日久しぶりに会ったから、全く」
浅野がそう言って首を振った。
「久しぶりに会った?」
「大学で同じサークルだった集まりなんですよ、私達。ただこうして集まるのは卒業以来だから、二年半ぶりぐらいです」
遠藤がスマホの年月日まで表示されている時計で確認してから言った。
「つまり、卒業以来初めて会うはずだったのが、新井さんと田中さんは交流があり、しかもお金のやりとりもしてたというわけですね」
コナンの確認に、田中と遠藤の二人は頷いた。
その時、建物の方から先ほど立ち去っていった新井と浅野も戻ってきた。
新井の様子は先ほどの荒れようと比べるとずいぶんと落ち着いてたが、まだ機嫌が悪そうにしていた。
浅野がいち早くこちらの集まりに気が付いたようだ。
「あれ、さっきの方たち……紗枝、どうして一緒にいるの?」
紗枝と呼ばれたのは遠藤だった。遠藤紗枝というのが彼女のフルネームらしい。
遠藤は先ほどまで風太郎達に経緯を説明していたことを伝えた。すると浅野も申し訳なさそうにしながら、また頭を下げてきた。
「その節は本当にご迷惑をおかけしました……そっちの貴女は特に」
「いえ、全然気にしていませんから大丈夫です」
四葉が目の前で手を振った。
新井が風太郎達の間をすり抜けると、田中の隣に乱暴に座った。また絡むようなことはなかったが、わざと顔を田中とは逆側に向けて目を合わせないようにしていた。
この様子では新井から謝罪の言葉を引き出すにはまだ時間がかかりそうだし、そもそもそんなことをしてもらいたいとも風太郎は思っていなかった。
これ以上は関わらない方がいいだろうと考えた。
「おいコナン、この人たちの事情もわかったし、浅野さん達から謝罪も貰ったんだから、もういいんじゃないか?」
「……まあそうだな」
コナンもそれには同意のようだった。
「ああ、ガキどもはさっさと帰れ。これからあと一人、大事なダチも来るんだからよ」
新井がこちらを見ないままぶっきらぼうに言った。風太郎が振り返ると腕時計で時間を見ていた。
新井につられて、浅野も懐から時計を取り出して時間を確認した。
「そういえば、高田君遅いね……あれ?」
時計から浅野が顔を上げた時、つまり建物の入り口を背にした状態でテラスの奥の方を見て固まった。
浅野が見ていた方向へと指を指した。
風太郎達も指先の方向へと目を向けると、別のベンチがあり男性の後ろ姿が見えた。
背広を着た、後ろ姿だけだがやはり他の四人と同じ若い男性のように見えた。
「……確かに高田っぽいな。あの野郎こっちに合流もしねえで何やってやがる」
新井が立ち上がると、その高田と呼ばれた後ろ姿へと歩み寄る。
「おい、高田お前こんなところで何してる」
新井の呼びかけに高田は反応しない。少しの間、返事を待ったが早々にしびれをきらした新井は次に方へ手をかけた。
「寝てんのかよ! おい!」
高田の体を新井が揺すった次の瞬間、その体は新井によって押されるとそのまま横へと倒れた。
一同が息を呑む音が聞こえた。
「な、新井、大丈夫か!?」
「触るな!」
慌てて高田の体を抱き起そうと、ベンチの前に回り込んでから触れようとした新井にコナンの鋭い怒声が突き刺さる。
思わず手を止めると、困惑した表情で新井はコナンを見た。
間髪入れずにコナンが新井の元へ駆け寄る。続いて風太郎と、他の面々も近寄ってきた。
コナンは倒れた高田の顔を見て、続いて手首に手を当てた。その状態で数秒程度そのままでいたかと思うと、手を離してこちらを見た。
「残念ですが、もう亡くなっています。しかもこれは、毒による死亡です」
「ええっ!?」
そう言って後ろへつんのめったのは田中だった。
続けて、浅野がスカート姿のスーツであるにも関わらず膝から崩れ落ちると、その場で泣き始めた。
遠藤がすぐさま浅野の元へしゃがみ込む。
風太郎と四葉は突然の出来事に動けずにいたが、直後にコナンから声が響いた。
「四葉、救急と警察に連絡してくれ」
「わ、分かりました」
コナンの指示を出された四葉はすぐにスマホを取り出すと、ダイヤル通話を起動してボタンをプッシュし始める。
体は動かないのに反して、一周回ってやけに冷静になった脳内で、こういった非常事態では具体的な指示が出された方が人は動ける、なんて話を本で読んだな、などと風太郎は考えていた。
警察が到着したのは、それから30分が過ぎたころだった。
四葉曰く、風太郎と勤労感謝の日のランチは「ローストされた鴨肉と柑橘類の混ぜ込んだソースの相性が絶妙」な料理らしいです。
でもメニューには特別ランチメニューとしか書いてないんです・・・食べただけでそれを読み取るのすげえっす四葉さん。
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三玖「昼食後にハンバーガーなんてフータローよく入るね」
五月「別に普通では?」
コナン(んなわけねーだろ)
※一回だけやってみたかったシリーズ