『くうー、疲れました。予選は強敵でしたね』
「そうだな」
主に会場が地味に遠かったりした時の移動が強敵だったな。
2回ぐらい精霊が見える人がヴェノミナーガさんを見て声を上げたりしてな。
それは兎も角、現在、俺は本大会の選手控え室にいた。
ちなみに父さんは今、選手の親族用のVIPルームにいる。
俺に激励したりすることはまず無いだろう。父さんはそういう人間だからな。
決して厳しいからというわけでも、無関心だからというわけでもない。
公の場での過度な期待や、励ましの言葉というものはかえって重圧になることを知っているからだ。本当に良くできたデュエリストだ…。
それにしてもここまで長かった……主に予選期間が。
なんというか……デス・ガーディウスを出すとサレンダーする奴が現れたりして到底デュエルと呼べるものが少ない予選だった……。
あれはデュエルじゃなくていじめだったな、うん。
気を取り直して……大会はAブロック16人、Bブロック16人のトーナメントだ。
両方で勝ち残った選手が最後に戦い、頂点が決まるそうだ。
まあ、ごく普通だな。
『マスターはAブロックの第一試合ですね』
「ってことはもうか」
『ちなみに対戦相手はマスターの1つ下で……』
そんな話をしているとデュエルリングに出てこいとのアナウンスが流れてきた。
「行くか」
『レッツらゴーです』
ちなみにヴェノミナーガさんと長く居すぎて俺の感覚が狂っていたのだろう。
普通の精霊は常に側に居続けたり、ご飯を三食要求したり、勝手にポテチ漁り出したり、日本から輸入した炬燵を占拠したり、テレビを見ながらゴロゴロ(物理)したり、布団に勝手に入ってきたりしないらしい。
デス・ガーディウスもとい普通の精霊の行儀の良さをみてスゲービビったのは記憶に新しい。
◇◆◇◆◇◆
デュエルリングに上がり、所定の位置に付くのとほぼ同時に対戦相手も出てきた。
ツンツン頭でマツゲの特長的な子だ。
それはそうと右を見ても、左を見ても客席に座る人、人、人。
よくもまあ、これだけ暇人が集まったもんだ。
俺はデュエルディスクを構えた。
向こうもそれに遅れて構えてくる。
『Aブロック第1試合、リック・べネット対五階堂 宝山』
天井の装置から声が聞こえてきた。
おいやめろ。俺の姓を晒すな。
『残念だったなぁ、トリックだよ』
後で覚えてろ蛇……。
『開始』
その言葉と同時に俺と男の子は声を張り上げた。
「「デュエル!」」
リック
LP4000
男の子
LP4000
「ドロー」
手札5→6
「俺は"切り込み隊長"を召喚」
切り込み隊長
星3/地属性/戦士族/攻1200/守 400
このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は他の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
切り込み隊長
ATK1200
「"切り込み隊長"の効果で手札から仮面呪術師カースド・ギュラを特殊召喚」
仮面呪術師カースド・ギュラ
星4/闇属性/悪魔族/攻1500/守 800
呪いの呪文で相手を念殺する、仮面モンスター。
仮面を付けた亡霊のようなモンスターが現れた。
「2体を生け贄に"仮面魔獣デス・ガーディウス"を特殊召喚」
『グギャギャギャギャ!』
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK3300
召喚されて喜んでいるデス・ガーディウスのケタケタと笑う声とその姿と火力に会場の歓声が一時、止んだ。
「1ターンで最上級モンスターを……」
「カードを2枚セットしてターンエンド」
リック
LP4000
手札1
モンスター1
魔法・罠2
「ぼ、僕のターン……ドロー」
手札5→6
男の子は青い顔をしている。デス・ガーディウスを仕留めるカードが無いのだろう。
ふむ……顔に出るのは良くないなぁ。
「俺は罠カードを発動。"見下した条約"」
「え!?」
知らないのか? けっこう使えるカードだがな。
「このカードは相手のターンにのみ発動する事ができる。相手はデッキからレベル4以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。だがその場合、俺はデッキからカードを2枚ドローする。お前が効果を使用しなければ俺は1000ポイントのダメージを受ける。さあ、どちらか選べよ?」
ダメージか特殊召喚か?
まあ、あの様子なら答えは出ているな。
途端に表情が明るくなった。
「僕はデッキから"不死武士"を特殊召喚!」
不死武士
自分のスタンバイフェイズ時にこのカードが墓地に存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードを墓地から特殊召喚できる。この効果は自分の墓地に戦士族以外のモンスターが存在する場合には発動できない。このカードは戦士族モンスターのアドバンス召喚以外のためにはリリースできない。
不死武士
ATK1200
「なら俺はカードを2枚ドロー」
手札1→3
「さらに不死武士に"グレード・ソード"を装備!」
不死武士が西洋剣を持った。
不死武士
ATK1200→1500
「"グレード・ソード"は戦士族のみ装備可能! 攻撃力300ポイントアップ! さらに装備しているモンスターは1体で2体分の生け贄になる!」
ほう……。
「僕は"ギルフォード・ザ・レジェンド"を召喚!」
ギルフォード・ザ・レジェンド
星8/地属性/戦士族/攻2600/守2000
このカードは特殊召喚できない。このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する装備魔法カードを可能な限り自分フィールド上に表側表示で存在する戦士族モンスターに装備する事ができる。
ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK2600
「ギルフォード・ザ・レジェンドの効果で墓地の"グレード・ソード"を装備!」
ギルフォード・ザ・レジェンドの剣がグレード・ソードに変わった。
ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK2600→2900
「さらに手札から神剣ーフェニックス・ブレードを装備! 攻撃力300ポイントアップ!」
さらに柄がフェニックス・ブレードに変わる。
ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK2900→3200
「さらに執念の剣を装備! 攻撃力500ポイントアップ!」
ギルフォード・ザ・レジェンド
ATK3200→3700
そしてに執念の剣の黒紫色のオーラを剣に纏った。
「バトル! "ギルフォード・ザ・レジェンド"で"仮面魔獣デス・ガーディウス"を攻撃」
ギルフォード・ザ・レジェンドの剣がデス・ガーディウスの身体を縦に切り裂いた。
リック
LP4000→3600
「やった!」
男の子は勝ち誇ったような顔をしている。
それを見ながら俺はもう片方のカードの効果を発動させた。
「おめでとう」
「え……?」
男の子は俺の賛美に驚いたのだろう。
「これはプレゼントだ」
『ゲヒャヒャ……ゲヒャ! ゲヒャ! ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!』
半分になったデス・ガーディウスが尚、笑い声を上げながら自分の残った半身の心臓の部分に腕を突っ込んだ。
血が吹き出し、肉が裂ける音が響くがそれでもデス・ガーディウスは笑い続ける。
そして、引き出された腕にはおぞましい赤い仮面が握られていた。
それをギルフォード・ザ・レジェンドに投げつけるとデス・ガーディウスは溶けるように消えてく。
最後にその仮面はギルフォード・ザ・レジェンドの顔に張り付いた。
「な……」
その異様な光景に絶句する男の子。
そして――。
『フフフ……』
「ギルフォード・ザ・レジェンド?」
ギルフォード・ザ・レジェンドの様子がおかしい事に気がついたのだろう。
だが、手遅れだ。
『ゲッゲッゲ……』
ギルフォード・ザ・レジェンドはデス・ガーディウスと同じようにケタケタと笑い始めた。
「…………!?」
それにどうしたらいいかわからず男の子は軽く涙を浮かべていた。
「"仮面魔獣デス・ガーディウス"の効果。このカードがフィールドから墓地に行った時、デッキから"遺言の仮面"1枚をフィールド上モンスターに装備させ、デッキをシャッフルする。装備対象はもちろん"ギルフォード・ザ・レジェンド"」
「……な!?」
「そして、"遺言の仮面"の効果。"仮面魔獣デス・ガーディウス"の効果を使用した場合は装備カード扱いとなる。装備モンスターのコントロールはその時点のコントローラーの対戦相手に移る」
「ということは……」
ギルフォード・ザ・レジェンドは歩いて俺のフィールドまで移動すると男の子の方を向いた。
遺言の仮面はどこかデス・ガーディウスに似ている。
「さらに俺は"仮面魔獣デス・ガーディウス"が破壊された時、カードを発動している」
「それは……」
男の子は既に発動している俺の罠カードを見た。
開かれた罠カードから巨大な扉の付いた鉄釜のような機械が現れた。
「"時の機械-タイム・マシーン"」
タイムマシーンは蒸気を吹き上げながら動き出し、暫くするとチーンとレンジの温め終わりのような音が響いた。
その次の瞬間、鉄扉と鉄扉の間から8本の鉤爪がはみ出し扉と扉を掴む。
そして、強引に鉄扉を開きながらデス・ガーディウスが這い出てきた。
『ゲッゲッゲ…』
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK3300
1度召喚条件を満たした仮面魔獣デス・ガーディウスは墓地からの蘇生が可能だったりする。
「そんな……」
「まだお前のターンだぞ?」
「た、ターンエンド……」
装備で伏せカードは使いきったと言ったところか……。
男の子
LP4000
手札2
モンスター0
魔法・罠3
「俺のターン。ドロー」
手札3→4
「俺は"巨大化"を"仮面魔獣デス・ガーディウス"に装備」
デス・ガーディウスの大きさが倍ほどになった。
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK6600
「6600…」
「バトル、"仮面魔獣デス・ガーディウス"。ダーク・デストラクション」
『ゲッゲッゲ……』
遥かに長く太くなったその腕をその場で振り上げ、鉤爪に黒いオーラを纏わせた。
『タヒ!』
妙な声を上げてからデス・ガーディウスは鉤爪を降り下ろした。
「うわぁぁぁぁ!?」
男の子
LP4000→0
◇◆◇◆◇◆
「そんなに強くはなかったなぁ……」
控え室で俺は呟いた。
『マスターそんなこと言って……可哀想じゃないですか。まあ、雑魚は雑魚ですけどねー』
「ヴェノミナーガさんの方が酷い」
『真面目な話、仕方無いですよ。そのデッキはプロデュエリストが使っててもおかしくないデッキですから。しかも精霊憑きですからね』
『ゲッゲッゲ……』
ヴェノミナーガさんの言葉につられてか、デス・ガーディウスが出てきた。
控え室に入らない大きさのため、床に首だけが生えている。けっこうホラーだ。
「まあな」
ぶっちゃけ精霊が憑いているというのが一番デカイだろう。
最初の手札には必ず1枚入ってるし、欲しいときに引けるし、遺言の仮面はこれだけデュエルしてるにも関わらず1度も手札に来ないしと非常に万能である。
『そ・れ・に……』
ヴェノミナーガさんが俺の前に出てきた。
『デュエリストたるもの、どんなに弱かろうが強かろうが常に全力で掛からないと相手に失礼というものです。キラッミ☆』
イラッ……。
正直、大会の人間なんかよりヴェノミナーガさんの方が1000倍強い……。
ヴェノミナーガさんアレ以外にもデッキ持ってるんだけど…ソリティアしないデッキが存在しないし。
「そんなこと言ってもヴェノミナーガさんのデッキは流行らないし、流行らせない」
『ヒドイ!?』
そんなことを話しながら次の対戦まで暇を潰していた。
リック流戦術"上げて落とす"