じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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大会その終

決勝が終了し、現在は残りの敗者の順位決めの対戦中であるため、俺は控え室でうだうだしていた。

 

『ぐすん…ヒドイです…ヘル・テンペストとか…インチキ効果もいい加減にしてください…』

 

「自業自得…ってかお前が言うな」

 

『失礼な! ラスボスとしてシャドール使ってマスターとデュエルしただけで、視聴者のヘイトを稼ぎまくってしまったメインヒロインの身にもなってくださいよ!? ウザいとか言われてるんですよ!?』

「知らねえよ」

 

視聴者がイジメるぅ…とか言いながらヴェノミナーガさんは部屋の隅っこで丸くなった。

 

シャドールはそんなに観客受けが悪かったのかよ。

 

デス・ガーディウスよりは悪目立ちしないと思うけどなぁ…。

 

「ところでヴェノミナーガさん」

 

『はい?』

 

「今度は手加減しないでくださいね」

 

『………………』

 

ヴェノミナーガさんは鳩が豆鉄砲食らったような顔になった。いや、この場合は蛇か。

 

これまでかなりの数十回ヴェノミナーガさんとデュエルしているが……1ターン目で手札増強カードを使われなかった試しがないからだ。

 

多分、初手で残った手札の片方は宝札かなんかだったんだろう。

 

『あれは本気でやった結果ですよ。手加減なんてしていません。していませんよー』

 

そう言うとヴェノミナーガさんは部屋の隅から俺の座るソファーの隣に戻って来た。

 

ふむ、機嫌は直ったようだな。

 

「そういや、ヴェノミナーガさん。そっちのBブロック決勝の相手ってどんな感じだった? ツァンちゃんが対決が残ってるから」

 

『大したことありませんでしたよ。六武衆なら余裕でしょう。まあ、私は確実にマスターの元にBMGが行くように、マスターの居ないBブロックを叩き潰すのが目的でしたから苦戦すらありませんでしたが……ってツァンちゃん? いつの間に名前を呼び合う関係に?』

 

「ついさっき」

 

な、名前で呼びなさいよ…バカ…とか言われたので名前で呼ぶことにした。

 

俺? みんなにリックって呼ばせてるに決まってるじゃないか。

 

べネットって呼ばれるとどうも調子が狂う。

 

『あの淫ピ! 見ないうちに抜け抜けとぉ! 今から行って実体化して闇のデュエル挑んできます♪』

 

「おいやめろ」

 

ヴェノミナーガさんの尻尾の先を掴み、止めていると控え室のドアが開いた。

 

「お邪魔するわ」

 

ヴェノミナーガさんをどうやって止めようか考えていると、聞き覚えのある声をした方を見ると藤色の髪をしたツインテールの少女がドアの前に立っていた。

 

見覚えがあるような…。

 

「こうすればわかるかしら?」

 

少女はツインテールを解いた。

 

「あ」

 

ヴェノミナーガさんの中の人じゃないか。いや、寧ろ外の人?

 

『おー、ゆきのんさん』

 

「こんにちは、ナーガさん」

 

うわ、なんかスゴい親しそう。

 

確か…藤原 雪乃と言ったかな?

 

「これ、返すわ」

 

『どうも』

 

藤原はデッキをヴェノミナーガさんへ渡した。ああ、シャドールデッキか。

 

すると藤原は俺の隣へ移動し、俺の顔を覗き込むように身を乗り出してきた。

 

「………………」

 

「………………」

 

互いに見つめ合う時間が暫く過ぎる。

 

間違えなく将来凄まじい美人になるだろうな、なんて事を考えていると藤原が身を引いた。

 

「私は女とデュエルを磨いてあなたに釣り合うぐらいになるわ」

 

そして、笑みを浮かべながら言った。

 

「だから、それまで輝いていてね?」

 

それだけ言うと藤原は部屋から出ていった。

 

「なあ、ヴェノミナーガさん?」

 

『はい?』

 

「憑依先はどうやって決めたんだ?」

 

『正直、誰でもよかったので、キャラの濃さです。そっちの方が憑依(つい)てて楽しいですから』

 

「納得」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

全ての対戦が終了し、表彰式が行われた。

 

ちなみに順位だが…。

 

 

1位リック・べネット

2位藤原 雪乃

3位ツァン・ディレ

5位茂木 もけ夫

9位万丈目 準

 

 

だったようだ。万丈目と茂木が2段と3段のトップになっているあたり、あいつらやっぱり強かったんだな。

 

あん? 表彰式の様子? ねぇよそんなもん。

 

トムくんのようにペガサス会長からトロフィー貰ったぐらいだな。トロフィーは父さんに預けといた。

 

それで今は優勝賞品を受け取るためにペガサス会長の後について部屋に入ったところだ。

 

俺はヴェノミナーガさんとちょうど部屋の中央に立っている。

 

ペガサス会長は部屋の机の上にある小さめのジュラルミンケースを拾い上げると俺に向いた。

 

銀髪の長髪、黄色の目、目に優しくない赤スーツ。

 

どこからどうみてもペガサス・J・クロフォードその人だ。

 

「改めて言いましょう。リックボーイ、素晴らしきデュエリストよ。よくぞ、この大会を制しましたね!」

 

生ペガサス会長。本来なら感動するところだろう。

 

『ほー、この人。見えない人ですね』

 

俺の目の前のペガサス会長へ、尻尾を絡み付かせているヴェノミナーガさんがいなければ俺だって感動しただろうな…。

 

俺、絶賛苦笑いである。

 

「表情が固いのデース。リックボーイはジュニア最高の名誉を手にしたのデース」

 

「は、はい」

 

『ほうほう、この人、片目義眼入れてますね』

 

…………それにしてもどうすればこういう喋り方になるんだろうか…?

 

「まあ、いいでしょう」

 

ペガサス会長は小さいジュラルミンケースを俺に差し出した。

 

「優勝賞品のコレクターズレア加工、ブラック・マジシャン・ガールを差し上げマース」

 

ペガサス会長から小さいジュラルミンケースを受け取った。

 

開けてみるとキラキラと光に反射して光る後ろに魔法陣が描かれ、帽子を押さえているブラック・マジシャン・ガールのカードだった。

 

「そのレアリティのブラック・マジシャン・ガールは世界に1枚のカードデース。さらに言えばこれ以上作る気もアリマセーン。大切にしてくだサーイ」

 

なにそれ使いづらい…。

 

『でも使うんでしょう?』

 

俺の背後に戻ってきたヴェノミナーガさんがそんなことを言ってきた。

 

まあ、使わない選択肢は無いが。

 

「そして、リックボーイのプロデュエリスト入りを我がインダストリアル・イリュージョン社がスポンサーとなり、支援いたしマース」

 

は? え? なにそれ知らない。

 

俺はどういう事か理解出来ないでいると、ヴェノミナーガさんがペガサス会長の後ろに回り、何かの紙をこちらに向けて来た。

 

それはいつかヴェノミナーガさんが持ってきた大会のチラシの拡大コピーだった。

 

そこには優勝賞品 コレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"という文字が書かれている。

 

だが、拡大コピーにはその下に余白がかなり、残っていた。

 

まさかと思いながらヴェノミナーガさんが余白をなぞると長い文章が出現した。

 

それを要約すると…。

 

"インダストリアル・イリュージョン社のスポンサー権利"

 

というプロデュエリスト垂涎のモノだった。ちなみに期間はプロ入りから引退までらしい。

 

なるほど……日本から参加者の質がおかしい上、数年に1度しか開催されないと思ったらそれだったわけか…。

 

ヴェノミナーガさんは紙を見せ終わると俺の背後に戻ってきた。

 

ヴェノミナーガさん…最初から俺を…。

 

まあ、確かにそんなのついてたら俺が渋っただろうからな…特に理由もないが。

 

『マスターのためですよ。これ以上の条件はありませんし。ちなみにお父様はもちろんこの事を知っています』

 

はいはい、わかりましたよ。俺もいつかはプロデュエリストになりたいと思ってたしな。

 

ペガサス会長を見ると、握手をするために俺に手を伸ばしていた。

 

まあ、もっと面白いデュエルが出来るなら最高だな。

 

それに応じるために俺は手を伸ばした。

 

『あ、マスター待って…』

 

「ん?」

 

ヴェノミナーガさんが静止の声を掛けたが、その時は微妙に遅く、俺の手が止まったのはペガサス会長と手を繋いだ瞬間だった。

 

「………………」

 

するとさっきまで笑顔を浮かべていた急に曇り、目を見開いていた。

 

手に加えられている力も強まっている。

 

『あーあー』

 

ペガサス会長はどうやら俺より上の場所を見ているようで、目線を辿ると俺の背後のヴェノミナーガさんへと辿り着いた。

 

「あ…」

 

「あ?」

 

『あ?』

 

「アンビリーバボー! ナイトメーアー! モンスター!」

 

『誰が、悪夢で化け物ですか!?』

 

どう見ても悪夢に出そうな化け物だよヴェノミナーガさん……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これがデュエルモンスターズの精霊…イッツァ・ミラクル! エクセレーント!」

 

ペガサス会長はさっきの絶叫は何処へやら、今度は俺の手を握り締めながら俺の近くに浮くヴェノミナーガさんと、部屋に入り切らないので床から上半身だけ生えているデス・ガーディウスに対して歓喜の声を上げていた。

 

『マスター、まだ自分の力を中途半端にしか制御出来ないんですから人に触れたら、触れてる間ぐらいは見えない人も見えちゃうんですよ?』

 

『ゲッゲッゲ…』

 

ヴェノミナーガさん曰く、今の現象はそういうことらしい。

 

そろそろ手が痛くなってきた。せめて肩にして欲しい。

 

「ユーらは精霊なのですね!」

 

『はい、私は喋りますがそっちのは喋れないので何か聞きたければ私に聞いてください。こう見えてもあなたの百倍以上生きてるので、デュエルモンスターズに纏わることならどんな質問にも完璧な答えを用意して差し上げましょう。私は知らない答え以外は、天地万物、森羅万象、一切合切、有象無象、全て知り尽くしていますわ』

 

「実に頼もしい限りデース! それなら…」

 

目がキラッキラッしてるペガサス会長はヴェノミナーガさんに質問を始めた。

 

あ、ダメだこれ長くなるわ。

 

ってかペガサス会長よく、この凶悪な見た目の2体に普通に接せれるな…。

 

流石に創始者なだけは…………いや、ペガサス会長の切り札って中々アレな造型のサクリファイス系だったなぁ…。

 

ってかヴェノミナーガさんそれって要するに知ってることを答えるって事だよな?

 

そんなことを考えながら俺は考えることを放棄していた。

 

 




次回は時間が飛ぶかもですね。設定は後付け後付け。

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