じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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悪夢

大会から約半年後。

 

俺は現在、日本の海馬ドーム内で他のプロデュエリストとデュエルしていた。

 

リック

LP4000

 

佐藤 浩二

LP800

 

ターンは俺でライフは優勢だが、俺のフィールドのモンスターはガラ空き。

 

そして対戦相手のフィールドは…。

 

 

スカブ・スカーナイト

ATK0

 

仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー

ATK3200

 

 

マスクド・ヘルレイザーをパクられた。

 

『さあ! 挑戦者、佐藤 浩二の"スカブ・スカーナイト"が"悪夢(ナイトメア)"の一柱、"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"のコントロールを奪ったぞ!』

 

MCの熱の入った実況はぶっちゃけうるさい。

 

ちなみにスカブ・スカーナイトはこんな感じのステータスと効果だったな。

 

スカブ・スカーナイト

攻撃力0/守備力0/闇属性/戦士族/星4

このカードと同名カードが存在する場合、このカードを破壊する。攻撃表示で存在する相手モンスターは、このカードに攻撃しなければならない。このカードは攻撃表示で存在する限り、戦闘では破壊されない。攻撃表示のこのカードと戦闘を行ったモンスターに、スカブカウンターを1つ乗せる。バトルフェイズ終了時、スカブカウンターの乗ったモンスターのコントロールを得る事ができる。このカードが表側表示で存在する時、お互いのプレイヤーのライフポイントを回復する効果を無効にする。フィールド上の全てのモンスターを破壊し、互いのプレイヤーは破壊したモンスター1体につき、500ポイントのダメージを受ける。

 

なんつう、ピーキーカードを使うもんだ。最初と最後の効果が噛み合ってないじゃないか…まあ、俺も人の事は言えないがな。

 

そんなことを考えているとMCがまた解説を始めた。

 

『 "悪夢(ナイトメア)"の異名を持ち、プロデュエリストの超新星にして不戦敗を除けば公式戦無敗の少年リック・べネット! 彼のデュエルスタイルとは逆の展開だ! これは流石の"悪夢(ナイトメア)"も動揺を隠せないか!?』

 

眉ひとつ動かねぇよ。昔ならモンスターの強奪なんて日常茶飯事だ。

 

どれだけのモンスターをシンクロやエクシーズの素材にされたか…。

 

「モンスターを奪われるのは初めてかい…?」

 

そう言いながらも対戦者は咳をしていた。

 

対戦者の目は俺には曇っているように見えた。

 

「…デュエルしてて楽しいか?」

 

真っ当な疑問をぶつけてみた。

 

少なくとも俺に挑戦してくる人はもっとマシな目をしているからだ。

 

「楽しい…? 私は……自分のためにデュエルしたことなど1度もない」

 

「そうか」

 

俺はモンスターカードを対戦者に向けた。

 

それを見せた瞬間、対戦者の顔が歪んだ。敗北を確信したのだろう。

「そ、そのカードは…」

「ならあなたのような下らない人間は、俺に一生掛かっても勝てないよ」

 

俺がカードをフィールドに置くのと同時に相手フィールド上の2体のモンスターが消えた。

 

「俺は相手フィールド上の"スカブ・スカーナイト"と"仮面魔獣マスクド・ヘルレイザー"を生け贄に捧げ、"溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム"を相手フィールド上に特殊召喚」

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム

星8/炎属性/悪魔族/攻3000/守2500

このカードは通常召喚できない。相手フィールド上のモンスター2体を生け贄にし、手札から相手フィールド上に特殊召喚できる。自分のスタンバイフェイズ毎に、自分は1000ポイントダメージを受ける。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。

 

対戦者が檻に囲われ、対戦者の背後に巨大な溶岩のゴーレムが現れた。

 

「"溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム"はコントローラーのスタンバイフェイズ時に1000ポイントダメージを与える。つまらないデュエルだった。沈め…」

 

「う…あ…」

 

俺のターンエンド宣言と共に相手にターンが移る。

 

まあ、尤も…完全に詰みだが。

 

「さあ、ドローしろ」

 

「……………………………………………ドロー…」

 

ドローの一部始終を見終えたラヴァ・ゴーレムは檻の中の対戦者へ、輪郭の崩れた笑みを浮かべると、灼熱の吐息を吹き掛けた。

 

あ、これ後攻ワンキルモドキだ。

 

「うわぁぁぁぁ!!!!」

 

佐藤 浩二

LP800→0

 

 

 

終わった瞬間、会場の空気は完全に止まっていた。

 

が、数秒後…会場は大歓声に包まれた。

 

『強い! 強すぎるぅ! プロランク4位"悪夢(ナイトメア)"! これで50勝4敗! その4敗は何れも不戦敗! 実質50連勝だぁぁ!』

 

『キャー! リック様ー!』

 

『いいぞー! もっと刺激的なデュエルをー!』

 

『マスター抱いてー!』

 

俺は倒れて運ばれている対戦者を尻目に踵を返し、来た道を戻った。

 

当たり前だが最後の声援はヴェノミナーガさんである。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

「いや、相変わらず君のデュエルは素晴らしい。非番に見に来た甲斐がありましたよ」

 

「そりゃ、どうも」

 

控え室に戻る途中で、壁に背中を預けながら俺に拍手を送る眼鏡を掛けた細身の男性がいた。

 

「見たでしょう? 対戦者のラヴァ・ゴーレムを見せたときの顔…そして、その後の絶望した表情…! 最高でした…」

 

彼の名はエックス。

 

プロランク5位のプロデュエリストである。まあ、見ての通り、サディストだ。

デッキ破壊デッキを使い、ライフを0にして勝利するのではなく、デッキ切れによって勝利する戦術を取るため、恐らくプロデュエリスト1の嫌われ者だ。

 

彼と戦った相手はデュエリストとしての誇りやデュエルへの情熱を失くし、二度とそのデッキを手にしなくなるという。

 

俺に言わせりゃどんだけ豆腐メンタルなんだって話だ。

 

デッキ破壊も普通に歴とした戦術の1つだろ。寧ろ、中々デッキ破壊をするデュエリストに出会えなくて困ってたんだぞ。

 

その事を本人に言ったところ。

 

酷く驚かれ、一言。

 

"変わってますねぇ…"と言われた。

 

解せぬ。

 

そしてそれ以来、交流が続いているのである。

 

ちなみに俺と戦うまでは初めて戦った相手には負けたことがなかったらしい。

 

ちなみにその時は…。

 

 

これでお前のデッキは半分を切った! 高レベルモンスターを主軸にするそのデッキでは2ターンも持つまい!

墓地利用、大回転☆

バカな…この私が…orz…

 

 

という酷い試合になった。

 

ちなみに隠れ甘党である。

 

まあ、不気味なオッサンが普通にファミレスでパフェ喰ってたら絵にならないわな。折角、素だけどキャラも定まってるわけだし。

 

『後、ヤザン・ゲーブルに声が似てますね』

 

似てるけどそれどうなのよ…。

 

エックスさん曰く、俺とは同じ穴の狢らしい。無関係に見えても根は同じ、或いは同類or仲間って意味だ。

 

まあ、否定はしないがな。

 

「これはいいモノを見れたお礼です。どうぞ受け取って下さい」

 

エックスさんはそう言って笑顔で俺にカードを渡してきた。

 

文字もカードも光っている。ウルトラレアだ。ウルトラレアなのだが…。

 

 

 

魔王ディアボロス

星7/闇属性/ドラゴン族/攻2800/守1000

このカードは特殊召喚できない。このカードを生け贄召喚する場合、生け贄にするモンスターは闇属性モンスターでなければならない。相手のドローフェイズのドロー前に発動する。相手のデッキの一番上のカードを確認してデッキの一番上または一番下に戻す。また、このカードはフィールド上に表側表示で存在する限り、カードの効果では生け贄にできない。

 

 

 

うわぁ、ディアボロス。リック、ディアボロスだーい好き……ふう…。

 

「……いつもどうも…」

 

「ククク……いえいえ、それでは私はこれで…」

 

それだけ言うと歩いて俺の前から姿を消した。

 

「なんで毎回こう…微妙なモノをチョイスしてくるんだろうな…」

 

チラ見魔王様……。

 

『それを受け取った時のマスターの微妙な表情を楽しんでいるからじゃないですか?』

 

「ですよねー」

 

ホント徹底してんな、あの人。まあ、人の心をへし折るには悪くないカードなのだが…。セルフディスティニードロー潰せるし。

 

『この辺まで来れば大丈夫でしょう。そろそろ家に帰りましょうか』

 

「そうだな」

 

ヴェノミナーガさんが宙をなぞると、空間が裂けた。

 

裂け目には家の見慣れたリビングが見えていた。

 

数千kmを平面に繋げて、移動の超短縮が可能なヴェノミナーガさんは流石神様ってところか。

 

『早くしないと閉じちゃいますよー』

 

「はいはい」

 

俺はそのまま、そこへ入って行った。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

『マスター、マスター。ちょっと見てくださいよー』

 

「ん?」

 

とある日、自宅にてヴェノミナーガさんが自分のスマホを見せてきた。

 

それは過去から現在に至るまでのプロデュエリスト達の記録が書いてある最も人気のファンサイトだった。

 

『マスターのもありますよ』

 

あ、ホントだ、なになに……。

 

 

 

 

リック・ベネット

プロ戦績

50勝4敗(敗北は全て不戦敗)

プロデュエリスト男子最年少の12歳にしてプロランク4位の座にいる若き天才デュエリスト。数度勝ち越した相手に対し、"やるだけ無駄だから勝ち点はやる。もう挑戦して来るな"という理由で不戦敗をしなければDDに並ぶとさえ言われている実力者。ジュニアI2大会にて優勝するまでにも大小多数の大会を制覇。

 

エースモンスターはブルーアイズさえ凌ぐ攻撃力を持ち、バトルシティでデュエルキング武藤 遊戯とKC社長海馬 瀬人のタッグを敗北寸前まで追い込んだ逸話を持つ伝説級の絶版悪魔族モンスター"仮面魔獣デス・ガーディウス"。

 

伝説級のカードをエースモンスターとして使っているにも関わらず、それを自ら破壊するなど捨て駒のように扱う事。

"仮面魔獣デス・ガーディウス"の"遺言の仮面"により、相手自身のエースモンスターを奪い取った上でのオーバーキルを頻繁に行う事。

彼がつまらないと言っているのにも関わらず、何度も挑戦する相手に対し、相手のエースモンスターをハンバーガーにしてしまう恐ろしいデッキを使用し、心を完全に折る事。

それらの行いから付いた異名は"悪夢(ナイトメア)"。

 

ちなみに彼のデッキのレアカードは"仮面魔獣デス・ガーディウス"だけに留まらず、過去、KCすら越える勢力を持っていたパラディウス社で1枚ずつしか製造されていない幻のレアカードである"創世神"、"ダーク・クリエイター"などがある。そして、世界唯一のコレクターズレア"ブラック・マジシャン・ガール"を所有している。

 

今や、美術的な価値すら出てきているパラディウス社製の特注生産デュエルディスクを愛用する数少ないデュエリストの1人。

 

 

彼と戦った事のあるデュエリストによる証言抜粋。

『ダイレクトアタックを決めたと思ったらデッキと墓地のモンスターを全て消された』

『気がついたら最上級モンスターで相手の場が埋まっていた』

『ワンターンスリーキルされた』

『デス・ガーディウスの攻撃力が6600になってどうしたら勝てるの? と思っていたら直ぐに10000越えた』

『寝ても覚めても彼の事が忘れられない』

『俺のエースモンスターがハンバーガーにされた』

などとかなりの逸話がある。

 

 

 

 

「…………………………なにこれ?」

 

『だいたいあってる』

 

いや……確かにあってるけどさ…。

 

俺は溜め息を付くと手を額に置いた。

 

 

 

 




ちなみになんでヴェノミナーガさんが使われないかですが…もちろん最大の理由があります。

原作効果のヴェノミナーガさんを見てくれコイツをどう思う?


《毒蛇神ヴェノミナーガ》
効果モンスター
星10/闇属性/爬虫類族/攻 0/守 0
このカードは通常召喚できない。「蛇神降臨」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚できる。このカードの攻撃力は、自分の墓地の爬虫類族モンスターの数×500ポイントアップする。このカードはフィールド上で表側表示で存在する限り、このカード以外のカードの効果の対象にならず、効果も受けない。このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地の爬虫類族モンスター1体をゲームから除外する事で、このカードを特殊召喚する。このカードが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時から3ターン後、このカードのコントローラーはデュエルに勝利する。


(最後の効果が)すごく………チート………です…。

こんな神より化け物カード普通に使えるか!?

リック君の引きと合わせたら三國無双になるわ!

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