それはさておき追試が終了しました。やったぜ。
とあるカードショップの中古のカードの棚。
そこには中古ではあるがレアカードや、様々なカードがショーケースの中に並んでいた。
だが、そことは一切関係ない、店の隅のブース。
そこでは世間一般に雑魚などと称される中古のカードが山のように積み上げられていた。
普通は異様な光景だが、圧倒的にカードの供給量の多いこの世界では別段珍しくもない光景だ。
その最も下の方にとあるカードが1枚ある。
それは"砂の魔女"というカードだった。
さらにそのカードの山の陰に隠れるような場所に1体の精霊が体育座りしている。
そしてその精霊は"砂の魔女"のカードの精霊だった。
彼女はずっとここにいるわけではない。
彼女はかつてはペガサスが開催した王国や、海馬が開催したバトルシティでも使われていた経歴を持つ。
その頃の彼女は自分の使い手を探しながら転々とする充実した日々を送っていた。
だが、時代の流れというものは恐ろしい。
彼女より後に強力な効果や、攻撃力を持った彼女と次元が違うといっても差し支えないようなカードが次々と登場していったのだ。
少なくともそれらは効果を持たず、低い火力の上、融合モンスターである彼女を舞台から引き摺り下ろすには十分過ぎた。
彼女は雑魚や、クズカードといった烙印を押され、殆ど使われる事が無くなってしまったのだ。
そして、このカードショップに安値で売られて以来、数年間彼女はずっとこの店で、誰に必要とされる事もなくただそこにいる。
この店には彼女ほど強い力を持つ精霊は少なくともいない。だが、それに気づく者もいなかった。
彼女は全て諦め、嘗ての栄光を思い出しながら膝を抱え続けていた。
「おっ…!」
カードの山から掘り出した彼女のカードを掲げる少年を見るこの時までは。
◆◇◆◇◆◇
『………………』
何やらこちらをじーっと眺めてくる砂の魔女さん。
現在、炬燵で砂の魔女と向かい合う形になっている。
相変わらず口数が少ないせいで、ヴェノミナーガさんや、デス・ガーディウスとは違う意味で何考えてるかわからない。
まあ、とりあえず…。
『……!?』
実体化してる砂の魔女の帽子を取った。
「実体化してるなら室内でまで帽子被ってるんじゃない」
『…………はい…』
砂の魔女は黒衣の端を掴み、俯きながら頷いた。
うーん、もうちょっといい反応をしてくれるといいんだけどな。
ヴェノミナーガさんが言うには砂の魔女という精霊は本来、活発な性格のカードのハズらしい。
『……捨てないで…』
「捨てねえよ」
なぜ、そうなるし。というか君が抜けたら岩石族デッキが壊滅するわ。
…………テレビでも見るか…。
俺はリモコンのボタンを押した。
俺はそれを聞き流しながら手元に目を移した。
えーと…コスモクイーン、マジシャンズ・ヴァルキリア、マジシャンズ・ヴァルキリア、マジシャンズ・ヴァルキリア、黒魔導士クラ…。
《今日は天気予報を繰り上げてお送りします。昨日、世界的カード犯罪者"ドクター・コレクター"が、プロデュエリスト"リック・ベネット"にデュエルで敗北し、逮捕されたとの事です。"ドクター・コレクター"は罪を全面的に認め、内容についても詳しく話しているようですが、"私は善人になる…善人になるんだ…"等の内容の話を口々に繰り返しており、精神状態が不安定なようで》
「………………」
『ちなみにですが、いつも通り、プチマインド・クラッシュで精神をBANしたので私のデッキについては何も話さないでしょう。向こうのデュエルディスクはあのデュエルの事故で粉々に砕け散ってしまったのでデータを取るのも不可能です』
炬燵の中からヴェノミナーガさんがぬーっと生えてきて俺に絡み付いてきた。
その手にはスマホが握られており、視線もそこへ向いている。
事故ねえ……。
「真相は俺とヴェノミナーガさんだけか…」
『まあ、そうなりますね』
そんな話をしていると突然、ヴェノミナーガさんがガッツポーズをした。
『よし! やっと完成しましたルシフェル暗黒ハーレムSレジェパーティー! 見てくださいよ!』
ヴェノミナーガさんがやり遂げた顔でスマホをしているので、それを見た。
[堕天使長]ルシフェル スキルLV14
[富欲]マンモン スキルLV14
[死冥神]プルート スキルLV14
[炎獄爵]ベリアル スキルLV14
[嵐凶神]バアル スキルLV14
『ねっ? 凄いでしょう?』
「黙れ廃課金」
『重課金ゲーで課金するなとは酷なことをいいますねぇ…』
「だいたい、それならプルートじゃなくてベルフェゴールの方がよりそれっぽいだろ」
『だってプルートの方が強いんですもの』
俺はヴェノミナーガさんへ溜め息を付いた。
「あ」
そういえば父さんに聞きたいことがあったのでスマホの電話帳を開いた。
《あ》
ヴェノミナーガさん
エックスさん
オブライエン
《さ》
斎王 琢磨
《た》
ツァン・ディレ
父さん
《は》
フランツさん
藤原 雪乃
ペガサス会長
我ながら少ねぇ…まあ、歳が近い奴が4人いるだけマシっちゃマシか。
『少ないですねぇ…』
「友達の少なそうなヴェノミナーガさんだけには言われたくはない」
『私、精霊の友達とかの含めれば電話帳に1000はありますけど? ほら、この通り』
「なん…だと…?」
俺がヴェノミナーガさんとの
宛先を見ると"ペガサス会長"と出ている。
「………………」
俺は手元の元デッキを見てからTVに目を移し、最後にヴェノミナーガさんを見た。
『だいたいそれで合ってるかと』
ですよねー。
◆◇◆◇◆◇
結論から言うとペガサス会長の呼び出しは例の件ではなかった。
そして現在、なぜか……。
『ほら、見てくださいよマスター。ここからまだ微妙に奴隷の血と汗と涙の結晶が見えますよ』
「だいたい合ってるが、ピラミッドを妙な呼び方をするな」
エジプトにいた。
なんでもヴェノミナーガさんは数千年前のデュエルモンスターズの遺跡の場所を多数知っており、時々、それをペガサス会長に教えているらしい。
あの電話はヴェノミナーガさんの指定した場所をいくら掘っても出て来なかったので、その場所の再確認の電話だったのだ。
流石に発見チームまで組まれているのを無下に出来るわけも無いので、エジプトまで急行した。
…………遺跡自体に強力な人払いの結界が張ってあったせいでそこに剥き出しで出土しているのにも関わらず、誰も気づけないというシュールな事になっていたのは流石にビビったが…。
まあ、何だかんだで結界をヴェノミナーガさんが素手でぶち破ったため、見つかったから良いだろう。
そう言えば遺跡に潜るペガサス会長達を尻目にヴェノミナーガさんが"三邪…おっと! どんなカードの石板があるか楽しみですねぇ…"とか言っていたが最初のは俺の聞き間違いだろう。そう願いたい。
そして、今は帰宅中である。
といってもヴェノミナーガさん式帰宅法で直ぐに帰れるので寄り道だ。
『着きましたね』
おお、ここが……。
俺は現代の石造りの巨大な建造物を下から見上げた。
『童実野美術館で一時期開催されていた古代エジプト展のですね』
出来れば童実野美術館に展示されていた時に見たかったんだが、あの頃はまだデッキすら無い頃だったしなぁ…。それ以前に国が違ったし。
特に理由もないけど見たかったんだよな。
『行きましょー!』
そんなわけで入場料を払ってから中に進んでいった。
『ねぇねぇ今どんな気持ち? 未だにカード化されず石版に埋まってるってどんな気持ち? 私なんてマスターが出来ちゃったんですよ! 勝ち組ですよ! あはは! ははは……』
なんかヴェノミナーガさんが石版を叩きながら煽ってる…。
あそこまで心が荒むほど千~万年単位でマスターが出来なかったのかと思うと、憐れみの気持ちすら沸き上がってくるな……。
そんなことを考えながら回っているとヴェノミナーガさんが鉄扉の前で止まった。
そこには特別展示室というプレートが付いており、特に立ち入り禁止などは書かれていないが鍵が掛かっているようだった。
『ほうほう…』
ヴェノミナーガさんが顎に手を当ててから鉄扉の向こうへ消えていった。
直後、鍵がガチャリと空く音が聞こえた。
『マスター! ここ鍵開いてますよー! 』
驚きの白々しさ…。
しかし、あそこには確かブルーアイズの石版とかあったな…。
俺は少し、考えた。
アニメ知識からの好奇心>自制心
注意書とか無いし、偶々開いてたなら仕方ないね。
『私、マスターのそういうところ大好きです』
「よせや、褒めるなや」
俺は鉄扉の先に進んで行った。
「これがブルーアイズの…」
目の前にあるのは一際、巨大な石版だ。
威圧感というか、存在感があるな…。
写メりたいが流石にそれはダメだ。入り口に書いてあったし、中のそこら中に撮影禁止マークあるしな。
しかし、ずっと見ていると動き出しそうだ。
『うーん?』
なぜかヴェノミナーガさんが首を傾げているがそんなことはどうでもいいから暫く見ていよう。
フランダースのネロの気持ちが何と無くわかるなぁ…。
「誰かそこにいるのかい…?」
後ろから声を掛けられた。
だが、それ以上に俺は衝撃を受けた。
まさか……。
俺はゆっくりと振り返る。
「ああ、鍵が開いてたから入ってきちゃったのかな。ゴメンね。ここは立ち入り禁止なんだ」
俺はその人物を見た瞬間、電撃を受けたような感覚に陥った。
鞄からあるものを2つ取り出すとそれを手に持ち一直線にその人物へ駆け出す。
そして、それをその人物へ差し出した。
「サインください! マリクさん!」
「え? あ? い、いいよ?」
やったぜ。
◆◇◆◇◆◇
マリクさんとは遊戯王における "顔芸"の開祖である。
アニメ版のバトルシティ編決勝戦・闇遊戯VS闇マリクにおける、そのインパクトのある"顔芸"の数々は多くの視聴者を魅了し、虜にしたという………。原作ではそれほど顔芸している訳ではないのだが、アニメ版ではやたらと感情の起伏が激しく、その域がもはや"顔芸"と呼ぶに相応しいものであった事から、いつしかこの名がつき、親しまれる様になったのだ。
そして、俺はTVの生中継を見ていたのだ! シリアスなシーンにも関わらずニヤニヤしながら時々声を漏らしている俺を何度父さんが心配したことか!
そして目の前にいるのは本人! これが興奮せずにいられるか!
もっともそんなことは一切顔に出さず、マリクさんと会話していた。
「ボクのファンだなんて珍しいね」
「そりゃ、もうデュエルキングなんて目じゃないですよ」
「ほ、本当に変わってるね」
まあ、あれはあれで……ATMとか、俺ルールとか、HA☆NA☆SE!!とかな。
「ところであの人は君の精霊かい?」
『うんー?』
マリクさんの視線の先には尚もブルーアイズの石版の前で唸っているヴェノミナーガさんがいた。
「ええ、見た目より…」
「へー、優しそうな精霊だね」
…………目腐ってませんか?
あ、この人もペガサス会長の仲間(デッキの中身)だったな。
「彼女はなにをしているんだい?」
「さあ? 俺にもさっぱり」
ヴェノミナーガさんの行動原理がわかったら苦労しないぜ…。
「ふーん…」
そう言うとマリクさんはヴェノミナーガさんに近付いて行った。
「何をしているんだい?」
『あら? あなたは見える人ですか』
マリクさんすげぇ…。
『いえ、ちょっとこの石版普通じゃない…というよりもおかしいと思って』
「なんだって?」
『これではまるで……』
ヴェノミナーガさんは言葉を区切ってからまた呟いた。
『恋する一人の娘の魂が、この中でずっと閉じ込められているように感じます』
キサラさん入ってるのバレてーら…流石はデュエルモンスターズの神様か。
「……!?」
『その上、閉じ込められているのにも関わらず出ようと足掻くわけでもなく静かに誰かを想い続けているようですね。全く……』
ヴェノミナーガさんは下らないと一別した。
『悲劇のヒロイン気取りですか…実に腹立たしい。こういうのを見てると虫酸が走るんですよ』
ヴェノミナーガさんは石版に向けて片腕を構え、そして厚いアクリル版を超えて石版の中に腕を突っ込んだ。
「なっ!?」
『そんな間接的な愛であなたの大切な人をいつまでも思っているぐらいなら……』
ヴェノミナーガさんが石版から腕を抜くと、青白く淡い光の球体が握られていた。
さらにそれを床に叩き付けるように投げた。
そして、ヴェノミナーガさんの両腕を黒紫色のオーラが包んだ。
『いい加減、その想いを直接本人に伝えなさい』
その刹那、床の上の光の球体がヴェノミナーガさんの腕から放たれた黒紫色のオーラに包まれ、爆発的に輝いた。
そして光が晴れるとそこには……。
『シリアスで救いの無いクソムービーよりも、激甘なラブストーリーの方が絶対、楽しいに決まってますもの!』
銀髪で青い瞳をした女性が、驚いた表情でヴェノミナーガさんを見上げながら床に座っていた。
そして、ヴェノミナーガさんは手の鼻先で器用に1枚のカードをくるくると回している。
そのカードには絵もテキストも何一つ描かれていなかった。色から察するに効果モンスターではあるようだ。
『名前は"青き眼の乙女"で良いですね』
カードの回転が止まると、微笑むキサラさんの絵と、カードテキストが浮き出た。
青き眼の乙女
チューナー
星1/光属性/魔法使い族/攻 0/守 0
このカードが攻撃対象に選択された時に発動できる。その攻撃を無効にし、このカードの表示形式を変更する。その後、自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚できる。また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードがカードの効果の対象になった時に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「青眼の白龍」1体を選んで特殊召喚する。「青き眼の乙女」の効果は1ターンに1度しか使用できない。
『あなたの身体は70%人で30%カード精霊ってところにしておきましたので人と差し支えない生活が送れるでしょう』
「キミはいったい…」
ポツリとマリクさんが呟くと、ヴェノミナーガさんはマリクさんの方へと向き、ウィンクした。
『私はごく普通のデュエルモンスターズの神様ですよ。人間一人程度の生死ぐらい思いのままです』
俺はいつもは平常運転のヴェノミナーガさんに呆れていることが多いが、今回はヴェノミナーガさんの足元にいるキサラさんを見ながら小さくガッツポーズしていた。
昨日はスマブラ3DSの発売日!
と、言うわけで……。
スーパーファミコンとロマサガ2買ってきました。