じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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㌔㍉コン

 

 

朝。

 

「ん……」

 

女性のか細い声が響き、ベッドから緑のパジャマとファンシーな緑に白の水玉の帽子を被った女性がむくりと起き上がった。

 

彼女の名は"砂の魔女"、昔懐かしい効果の無い融合モンスターの精霊である。

 

時計を見ると6時前。まだまだ早朝に当たるが彼女は2度ほど目を擦ってからベッドから立ち上がった。

 

彼の引きの力と彼女の精霊の力を持ってしてもガチと言えない性能の彼女にとって、家の家事などを引き受ける事が最近のアイデンティティーになっているのである。

 

要はシャッターを開けたり、朝食を作ったり、掃除したりするために起きるのだ。

 

「んっ……」

 

彼女は朝は強い方ではないが自分を使ってくれる彼を想えばこれぐらいまさに朝飯前である。

 

彼女は部屋から立ち去ろうとするが、ドアに手を掛けたところで足を止め、枕元に戻るとそこに置いてある銀のロケットを首に掛けた。

 

さらにロケットを開くとそこには珍しく純粋な笑顔を浮かべている彼と、縮こまりながらも彼にピッタリとくっついている彼女が写っていた。いろんな意味で珍しい写真である。

 

それを見た彼女は微笑みを浮かべると言葉を吐いた。

 

「おはようございます。リックさま」

 

本人に面と向かって言えない彼女の最大限の努力であろう。

 

それを終えると今度こそドアを開け、下へ降りていった。

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「なっはっはっはー! びゃーはっはっはっはー!」

 

階段を降りる途中で幼げで、下品な笑い声が聞こえてきた。

 

それを聞き流しながらドアを開けると、炬燵の上の辺りにランプでも置いてあるのかピカピカと輝いているようだ。

 

彼女が炬燵に近づくとそこには下らないバラエティー番組で爆笑している幼女が炬燵の天板の上に胡座をかいて乗っていた。

 

容姿は長い銀髪に金の瞳に褐色の肌をし、際どい水着並みの露出度の服を着た少女……いや幼女だ。

 

信じがたい話だがこの幼女が彼が欲したラーのコピーカードなのである。

 

よく見れば眼の赤い隼の頭のような金の被り物や、所々の金の装飾品により一応、ラーなのだと確認できる。

 

ちなみにこんなになっているわけだが、実に単純だ。

 

オシリスの天空竜ですら社長ビルに巻き付ける大きさだというのにそれに準じる大きさの精霊であるラーが家に入れるわけも無かったからである。

 

初めのうちの1週間ぐらいは家の上に浮いていたりしたのだが、冬場の外でリビングの窓からいろんな意味で暖かそうな団欒を眺め続けるという拷問に神のパチモンの彼女は堪え切れなかったらしい。

泣きながらあたしも入れてー!と人の姿になってドアを叩いて以来今に至るのだ。

 

現在のラーは冬場の暖房器具兼抱き枕として活躍している。少々眩しいのと犯罪臭がするのがたまに傷だが。

 

彼女はラーの後ろに立つと馴れた手付きで持ち上げ、一言呟いた。

 

「乗っちゃ…めっ…」

 

「なう!?」

 

持ち上げられたラーは声を上げたが、そのまま座布団の上に置かれた。

 

彼女が次にリビングのシャッターを開けていると後ろから抗議の声が上がった。

 

「なんだ! 少しばかりあたしより胸と身長が大きいからって調子にノリおって!」

 

少しとは偉大な言葉である。例え、月とスッポンであろうがワイトと青眼の白龍であろうが人の捉え方によっては少しに収まるからだ。

 

片や無口系グラマラスお姉さん。

 

片や光源系褐色ロリ。

 

カードの世界でも現実は非情なのだろう。

 

彼女は振り向くと中腰になり、ラーと目線を合わせながら頭に手を置いた。

 

「よし…よし…」

 

「撫でるな!」

 

彼女はラーの頭を子供をあやすように優しく、丁寧に撫で始めた。

 

「ラーちゃん良い子…私より偉い…可愛い…綺麗…」

 

それを聞いたラーの表情は真剣なものになり、彼女へ問い掛けを始めた。

 

「ほんとうか?」

 

「うん…」

 

「ほんとうにほんとうか?」

 

「うん…」

 

そういいながらもラーなでなでするのを止めない彼女。

 

ラーも止めない辺り、照れくさいだけで嫌では無いのだろう。

 

「そうかならばよい…むぅ、なんであろう…この違和感は…」

 

「朝ご飯は何がいい…?」

 

そう彼女が言うとラーはしいたけみたいな目になり元気に叫んだ。

 

「目玉焼きがいいのだ!」

 

黄金の装飾品とか付けており、全身金ピカのわりに実に金の掛からない神のカードである。

 

『マスター、おはようのキスをー』

 

「まずお前の正しい口はいったいどこだ?」

 

『ゲッゲッゲッ……』

 

そんな光景を繰り広げているとリビングのドアが開き、1人の青年とそれに絡み付く1体の精霊とその後ろに頭だけ地面から出して追従する精霊が入ってきた。

 

だが、1つかなり変わった事がある。

 

それは彼女らのマスターである青年…リック・べネット。そう青年だ。

 

彼の見た目の年齢は既に青年と呼べる程まで成長していたのだ。

 

それはラーがメンバーに加わってから3年程の月日が流れた事に他ならない。

 

彼に向かって一目散に向かうラーを見ながら彼女も彼の元へ移動して行った。

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うとペガサス会長からラーの翼神竜を貰えました。

 

やったぜ。

 

だだ、ひとつ問題があった。

 

それはコピーカードは犯罪だということである。

 

まあ、カードの末端価格考えたら妥当なところだろう。

 

信じられるか? この世界の南米とかではコカインじゃなくてレアカード密造してるんだぜ?

 

まあ、そっちの方が全然稼げるって事なんだよな…。

 

麻薬の王<<(越えられない壁)<<レアカード

 

この世界もうダメかもわからんね。

 

だが、何事にも例外というものはある。

 

それというのも研究用のラーのコピーカードと言うのは殆ど肩書きだけだったからだ。

 

何せ使い手がいなかったらしい。

 

一応、制御が可能になる神縛りの塚なるものが生み出されたらしいが、神縛りの塚が切れた瞬間にいつもの4割増しぐらいの天罰を喰らうので誰もやりたがらなかったのだとか。

 

そんな時、自前の神のカードを普通に使っている少年がそんな問題児を引き取りたいと来たわけだ。

 

向こうとしても願ったり叶ったりだったのだろう。

 

まあ、要するに俺はI2社での三幻神のカードの研究という大義名分を盾に公式で普通にラーのコピーカードを使っているという認識で構わない。

 

実際、研究は捗ってるらしいから間違っては無いしな。うんうん。

 

ただ、古代神官文字の読み上げとかがあった気がするのだが、家のヲーさんは寛大にも必要ないようだ。

 

まあ……ひとつ問題があるとすれば…。

 

「おはよう(あるじ)! いい朝だな!」

 

「おう」

 

ラーがロリったことである。

 

ロリるという単語を初めて実用出来た瞬間だったりするが度肝を抜かれていたため、特に感動なんて無かった。無かったんや。

 

なんだが凄く石を防衛できそうなラーだがそれは放って置こう。

 

どうでもいいがヴェノミナーガさん曰く、本物だと金髪赤目でグラマラスな褐色お姉さんになるらしい…………ちょっと見たい気もする。

 

『㌔㍉コン』

 

「黙れ年増」

 

『スタァァァップ!』

 

最近、ヴェノミナーガさんに悪口を言えるぐらい慣れたと思う。悲しき成長である。

 

『ぐすん…だから身を固めようとしてるのに……ヒドイです』

 

歳の話はスンナってか? ><こんな目しやがって…。

 

………………だめだコイツ…暴言すらネタに変えやがる…早急にこの前注文した対精霊用アイテムの到着が待たれる。

 

……そう言えばヴェノミナーガさんはリアル独神か。ふっ…。

 

『マスター? なんかスゴく酷いこと考えた上で鼻で笑いませんでした?』

 

ヴェノミナーガさんは放置してそろそろ俺の最近の話をしよう。

 

中卒はヤバイので一応、デュエルアカデミア本校(なんでも父さん曰く、空気と水と飯が一番ウマイらしい)に席は置いている。

 

高等部からの編入なのだが今のところ1日も学校に行けていない。酷い不良もいたもんである。

 

真面目に話すとプロデュエリストが無駄に多忙なのがいけない。

 

特に季節の変わり目は何かしらのカップやイベントが開催されることが多く、かなりの確率で上位、或いは人気のプロデュエリストが強制参加させられるのである。

特に新たなプロデュエリストの参入が特に期待できる春……もとい今の時季は最も酷い。

 

まあ、それを語るならまずプロデュエリスト……もとい世界ランカーの仕組みから話そう。

 

プロデュエリストと呼ばれているが、これ自体の呼称は別に正式なモノではない。

 

プロデュエリストといっても1度でもアマチュアのプロで戦った事しかない者の事もプロデュエリストと言えなくもないし、逆にDDのような奴をプロデュエリストと言っておくのも過小評価な気もするし、アカデミアで最優秀だが新米でまだプロでのデュエル経験の無い者もスポンサー付きの者をプロデュエリストと言うこともある。

 

つまりは幅が非常にデカイのだ。

 

正式には俺やエックスさんのように世界で1~100番の番号が与えられている者をプロランカー。101~50000の番号が与えられているものをランカーと言うのだ。

 

ランカーは自分よりある程度上の相手にデュエルを仕掛けれるため、日夜激戦が繰り広げられている。ちなみに下に仕掛けるのは原則ダメである。

 

勝てば昇格、負ければ降格と実にわかりやすい。

 

そのため、目まぐるしいほどランカーの順位は日々変動する。ぶっちゃけ変動し過ぎてランカーの順位なんて実力を測る物差しになり得ない。

 

それに比べてプロランカーの方は順位が安定しているので順位=実力と考えても大概の場合は問題ない……例外も何人かいるがな。

 

つまりランカーとは挑戦者、プロランカーとは挑戦者にとっての最大のボスだ。

 

ちなみに勝てば番号がなり変われるのはランカーまでの話でプロランカーの順位が変動することはプロランカー同士で順位を掛けての対戦や、ランカーで規定数の連続勝利を上げた者がプロランカーに勝負を申し込み勝つ場合、 引退する場合などぐらいしか無いためあまり劇的な変動は見せないし、ランカーと違いプロランカーは中々消えないのだ。

 

まあ……例えば推しプロがランカーのように1週間で居なくなったらファンもガッカリだろう。グッズもスポンサーからすれば立派な収益だしな。

 

そのため、プロランカーになってからも相当酷い負けの連続でもしない限りは半年~1年ぐらいはプロランカーにいられるようになっているのである。

 

まあ、スポンサーに切られた場合はその限りではないがな。

 

ん? 俺のグッズ? スポンサーがI2社だから作る必要もないでしょ。というか誰が買いたがるんだ誰が……多少、作られていると聞いたこともあるが例えば自分の顔写真に値札付いたりしている光景を見たくはないので詳しくは知らん。

 

ちなみにプロリーグと言うのは精々、1000番ぐらいまでの人間が参加するものを指す。確固たる実力者100名に、多くは実力不明の900名。賭け事とは勝敗が不鮮明なほど多くの金が動くわけで挑戦者の実力が定まらないのならこれほど理想的な博打環境は無いだろう。

 

数多のプロデュエリストを生み出したプロリーグは同時に世界最大の博打場なのだ。

 

結局、プロも金だ。金、金、金、金。世界を回すのはカードではなく金だ。カードはその手段でしかない。

 

結果、勝てん馬はいらんと言うわけだ。クフフ……競走馬と違いプロを目指すデュエリストは掃いて棄てるほどいる分、馬の方がまだマシな待遇かもな。

 

俺が未だにプロランカーで4位という場所に拘る理由は希望に満ちた輩を俺がデュエルで潰し、そしてプロの現実を目の当たりにし、光を失い勝手に潰れて行く姿を眺めるのが堪らなく好きだからだ。それ以上に行けばルーキーがあまり挑戦して来なくなるからな。1位や2位なんかは強そうだが、銅メダルすら貰えない4位ならまだひと欠片ぐらいは勝てそうな気がするだろう?

 

とまあ、そこまで説明したところでこの春先にいつも行われるイベントがあるのだ。

 

それは単純に説明すると……この時季に入ったまだランカーとしての経験は少ないが、人気のあるランカーがプロランカーを自由に指定してデュエル出来るという非常に太っ腹で視聴率とお金も稼げる風物詩的なイベントである。

 

無論、公式戦ではあるが新米ランカーからすれば負けて当たり前の試合であり、雲の上のデュエリストに負けたからといって何が減るわけでもない。イベントだし。

 

だが、こっちの大多数のプロランカーからすれば堪ったモノではない。

 

向こうにとっては腕試しでも、こっちからすれば敗北でもしたら最悪スポンサーに切られる可能性だってあるのだ。

 

新参のランカーからすればそれに呼ばれることは誉れであるがな。

 

俺とかエックスさんなどの長年同じランクに居座り続ける者からすれば最早、生け贄だ。

 

なんというか……大衆というものは大判狂わせ(ジャイアント・キリング)を望むものだ。

 

例えば今のところ数年ぶっ続けで全勝中のDD。未だ不戦敗以外全勝の俺、ほぼ初見不敗神話を築いているエックスさん。

 

上からランク1位、4位、5位に留まり続ける怪物たち。

 

こいつらをまだプロデュエリストとして産毛が生えた連中が倒せたらどれだけ爽快か、そして倍率的な事で儲けられるか。そんな淡い夢を抱いて金を注ぎ込む愚…人達は非常に多い。

 

まあ、そんなもの奇跡の親戚に過ぎんとばかりに一切の躊躇も情けも無くルーキーを踏み潰すのが俺らの仕事である。

 

上位ランカーは勝ち続ける事が仕事。新参は1勝することが仕事。

 

まさに魔王と勇者の関係だな。

 

まあ、スポンサー企業を自前で付けてやってる他のプロデュエリストと違って余計な宣伝や広告を一切する必要がないのでこれでも楽な方なんだろうけどな。I2社様様だ。

 

問題はそのイベント中の対戦数が俺だけ異様に多い事である。

 

何故か知らんが俺は対戦相手として新米ランカーに大人気らしく、応募用紙の第1~第3希望までのどこかにほぼ必ず名前があるらしい。

 

よってイベント中に対戦する数はいつもの10倍近くに跳ね上がるのだ。

 

そのせいでイベント終了まで全く、スケジュールが空かなかった。

 

無論、4月を越えても学校に行けるハズもないため、ツァンちゃんにネチネチ、ネチネチと言われたりしているのである。

 

うん…なんでも彼女。その昔、デュエルアカデミア本校に俺が入学するって言ったせいで中等部から入学したらしい。天然だ…。

 

………………俺は一言も中等部に入るとは言っていないのだが…まあ、高等部から編入するとも言ってないがな。

 

それを電話で話した時に彼女は既に試験合格後だったらしく…せ、責任取りなさいよ!? とか言っていた。

 

責任……まさか…学費!? と肝を冷やしたが特に請求したりしてくることは無かった。やっぱり普通に良い娘である。

 

昨日やっとクソイベントも終わり、自宅で一息付いているのである。

 

まあ、今日明日中にデュエルアカデミア本校に向かうがな。

 

そんなことを考えつつ、スリスリ寄ってくるラーを昔飼っていた小鳥みたいだと懐かしみ撫でていると奇っ怪で中毒性のありそうなひと昔前のエロゲの曲が鳴り響いた。

 

音源を目で辿るとどこからともなくスマホを取り出したヴェノミナーガさんにその場の全員の目が注がれている。

 

『あ、どうもヴェノミナーガです』

 

どうやら知り合いからの電話のようだ。どう見てもバケモンのヴェノミナーガさんが普通に電話に応対しているというシュールな光景が目の前で繰り広げられている。

 

『え? はい、今一緒にいますよ。代わりましょうか?』

 

なんだ? 俺とかにでも用の電話か?

 

そう思いふと自分のスマホを取り出すと数分前に父さんからの不在着信が入っていた。

 

あ、サイレントにしっぱなしだったか。

 

『あ、はい。ではそう伝えておきますね』

 

俺が少しいたたまれない気持ちになっているとヴェノミナーガさんの通話が丁度、終わったようだ。

 

『お父様からでしたよ』

 

「そうか、要件は?」

 

『えーと……』

 

ヴェノミナーガさんは指ではなく蛇を立てながら呟いた。

 

『全校生徒の前でとあるオシリスレッドの生徒2名相手にデュエルしてくれると嬉しい、だそうです』

 

「ほう…」

 

その言葉を聞き入れた俺はデッキケースから5つのデッキを取り出した。

 

デッキの表のカードはそれぞれ、ハングリーバーガー、毒蛇神ヴェノミナーガ、仮面魔獣デスガーディウス、砂の魔女、竜騎士ブラック・マジシャン・ガールである。

 

デュエルでしかも父さんの頼みと聞いてはデュエルアカデミアだろうと、地球の反対側だろうと、精霊界だろうと行かなければならないな。

 

だとすればどのデッキを使うか……。

 

よし!

 

俺は真っ先にヴェノミナーガさんのデッキをケースにしまった。

 

『ちょ…!? そんな躊躇もなく!?』

 

そんなこんなで俺の高校生活が幕を開けようとしていた。

 

 

 




注意:この小説のラーはラーではなく、ラーのコピーなのでヲーいや、それどころかフーちゃんぐらいの精霊です。

ラーちゃんの画像見たい人は"LOV3 ラー"って検索すれば幸せになるんじゃないかな? きっとロリコンなら歓喜する。

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