小説を書く上での最大の敵は磨かなければ光りようもない文才でも、小説を書く中で身に付けるべきセンスでも無く、作者自身のモチベーションだと思います(遠い目)。
ビルとマンションに囲まれ、光も余り射さない裏路地。
そこで一人のデュエルディスクを付けた男性が空を仰ぎながら佇んでいた。
だが、その男性は小刻みに震え出すと口から泡を吹き始め、終いには地面に倒れ込んでしまった。
『あーあー、コイツもダメか…』
どこからともなく中年程の男性のような声が響き、男性のデュエルディスクにセットされていたデッキから1枚のカードが浮き上がる。
それは人の胸程の高さで静止するとぼんやりと何かの精霊の輪郭を形作った。
『いい加減
そう呟きながら精霊は何か閃いたのか軽く手を上げると誰に話すわけでもなく、喋り出した。
『アイツは極上の宿主。オレは路上で宿無し。アハハハッ! 上手い!』
精霊は自分の冗談で一頻り笑うとガックリと肩を落とした。
『って洒落になってねぇよ…』
だが、精霊は直ぐに項垂れた様子から立ち直ると足元の男性に向けて言葉を吐いた。
『ま、足代わりにはなったわけだし、お疲れさん。アハハハ! じゃあねー』
精霊がピクリとも動かない男性に軽く挨拶した直後、その場からカードごと完全に消滅していた。
後に残るのは既に事切れた骸とデッキを失ったデュエルディスクだけだった。
◇◆◇◆◇◆
『お、懐かしいね~。外見は5000年ぐらい前となーんも変わってないな』
とあるビルの屋上からさっきと同じ精霊が見下ろして何かを見ていた。
その視線は道路を挟んだ建物の中でシュークリームにかぶり付いている青年に注がれている。
『旨そうに食いやがって…だが…』
精霊は値踏みするような目で暫く青年を見つめた。
そして1分ほどたった頃、両手を上にあげ降参するようなポーズを取った。
『やっぱ無駄足か、ありゃもう抜け殻だ…。それに今思えば流石にアレ使うのは蛇女どころかアイツらにも叱られちゃうわな』
精霊はポツリと呟く。その背に見えるのは哀愁かはたまた別の何かか。
『まーた振り出しか…』
今度は肩を落とし、暫くそのままの体勢でぶつぶつと独り言を呟いている。
『別に気にしてねぇし…オレの主人様は美人の女って決めてるし…大体、あの蛇女人使いが荒すぎるだろ。アリアハンの王様だって情報とつまらないものぐらいくれるぞ』
独り言は徐々に愚痴へとシフトしている。
『どっかに埋まってねぇかなー、可愛い娘ちゃん………………ん?』
その時、精霊の頭に電撃走る。
『あ、そっか! 別に生きてなくても良いんじゃん! アハハハ! そうと決まれば…』
次の瞬間、再びその精霊はその場から跡形もなく姿を消した。
◇◆◇◆◇◆
明るい町並みが見え、小高い場所にある墓地。
背面に金網があり、そこから見下ろせば登下校時に明るい生徒の声が響き渡る場所にポツンと1つの墓が佇んでいた。
だが、佇んでいるのは冷たい墓石だけではない。
その金網の前で佇みながら、下校途中の学生の楽しげな姿を見つめる、精霊のように半透明な少女がそこにいるのだ。
無機質な目をしている少女は下校途中の学生を見る度に自分の手の掌に爪を突き立てるように強く握る。
しかし、強く強く握られた拳からは血が流れる様子は無かった。
『よう、お嬢ちゃん。元気してる?』
突如として後ろから声を掛けられた事により、少女は少し驚いた表情で後ろへ振り向いた。
するとそこには墓石に尻尾を巻き付けながら、天辺に腰掛けるように座る半透明の何かが存在している。
自分以上に得体の知れないそれに少女は大きく目を見開いた。
『まあまあ、そんなに驚かないでよ。オジさんちょっとショックだな』
そう言いながらもその化け物は舐めるような視線を少女に送っている。
それに対して少女は何をするわけでもなくただ珍しそうに目の前の精霊を見つめていた。
『死んでも霊体のままこっちに留まり続けるあたりかなりの精霊の力を持ってるな……オレを扱うのに十分…いや二十分かな? アハハハ! いい! 凄くいいよ!』
値踏みと高笑いを終えた精霊がこれまでの様子と違い、瞳を閉じながら静かに静止した。
そしてゆっくりと精霊の目が開かれた。
『物は相談なんだけどさ。お嬢ちゃん。えーと……』
精霊は墓石をひと撫でしながらそこに刻まれた文字を読んだ次の瞬間、少女の目の前に移動していた。
『生き返ってオレと一緒に世界のために働いてみる気はないかな?』
さらに精霊は少女の頬に神話の悪魔のような腕を当てると、口の端を三日月のように吊り上げ、最後に言葉を続けた。
『"
◆◇◆◇◆◇
『おーい、朝だぞー。寝坊助ー』
中年程の男性のような声に叩き起こされる形で彼女は目覚めた。
精霊と出会った時の夢……だが、彼女にとっては思い出す価値もない悪夢に等しいモノだった。
と言うのも夢の中でまでこの精霊といるのがイヤと言うただそれだけの理由である。
「………………」
彼女は自分の精霊を冷めた目で見つめた。
その姿はまるで悪魔と竜と鰻の良いところを足して3で割ったような容姿をした黒い精霊である。
精霊は彼女の視線に気付くと口を開いた。
『ん? どったの? そんなマジマジと見つめちゃって…オジさん照れちゃうなー、アハハハハ!』
そんなことを言うと精霊は気味の悪い笑い声を上げた。
それに彼女は若干冷めた目を送った。
彼女が自分の精霊を嫌う理由。
それは単純にどうでもいいことをいつもよく喋り、その癖に口がとんでもなく強いからである。
人とは何かしら繋がっていたい割に、口下手で根暗で一人が好きな彼女にとって不快感極まりない相手なのだ。
「黙れ…」
『アハハハ! こりゃ手厳しいねー』
彼女は精霊を無視してベッドから起き上がると枕元に飾ってある写真を抱き寄せ、暫くそうしていた。
「……はぁはぁ……」
『お嬢ちゃん、本当にそのプロデュエリストの事好きだねー。なんでさ?』
それを聞いた彼女は口の端を吊り上げながら答える。
「ずっと見てたから……
『ああ』
精霊は墓石から見える距離に大型カードショップがあり、店頭に巨大なテレビが設置されていた事を思い出す。死んでいた間はそれを見るぐらいしかやることが無かったわけで、その中で憧れた存在に今も信仰に近い感情を抱いているわけだろう。
『なーるほどねぇ…』
部屋を見渡せばそれはもう確実だろう。元は角部屋で日当たりの良好なオベリスクブルー女子寮の部屋だったわけだが……。
今はポスターからマグカップ、抱えているプロマイドに至るまで何でもござれ。完全に一人のプロデュエリスト博物館と言えるような状態だ。無論、博物館が本来人の住むのに適した環境であるわけもない。
ちなみに彼女の身体は死んだ年齢よりもかなり成長している。そのため、中々のプロポーションを持っているのだが、現在は完全に無駄……いや、持て余しているだろう。
それと勉強の方は完全に精霊に頼り切りである。長生きしてんだから高校の授業ぐらい楽勝楽勝とは本人談だ。
「……ァハ……"ベネット"様……」
『あの蛇女のマスターには霊に好かれる体質でもあんだかな? で? あの男のどこが好きなのよ?』
「昔の兄さんみたいなところ……」
『ああ……』
精霊はそう言えばあの男、どっかの裏人格の大泥棒と同じぐらい性格がねじ曲がっているなと感心していた。
「行くよ……"イレイザー"」
『へいへい、
◇◆◇◆◇◆
『イヤッッホォォォオオォオウ!』
「…………なんかセルケトさんが荒ぶってるんだけど?」
『荒ぶってますねぇ』
現在、遊城から借りた釣り道具で魚を釣っている最中。突如としてセルケトさんが実体化してその辺で荒ぶり始めたのだ。まあ、こちらに被害は何もないのだが…。
「……逝ったか?」
『好きにさせておいて上げてください。とても良いことがあったんですよきっと』
そう言うとヴェノミナーガさんはどこか遠いところを見つめた。
『どこか別の世界線でね…』
「……?」
『それより早く魚釣っちゃって下さいよ。早く!早く早く!!早く早く早く!!!』
「ハリーハリーうるさい」
『ぶーぶー』
もう焚き火し始めてんじゃねぇよ。まだ、5分も経ってねえだろうが。
「それにしても早く来すぎたな…」
『そりゃあ、試合の3日前に来ちゃいましたからね。折角だからマスターのお披露目は試合当日にサプライズを兼ねてデュエルする予定になりましたからまだ授業などに出るわけに行きませんし』
「解せぬ」
『ところでマスター?』
「ん?」
『デュエルはタックデュエルらしいですけどマスターの相方は誰がやるんですか?』
「え?」
『え?』
その次の瞬間から空白のような時間が出来上がった。
数秒か数十秒か会話が止まり、それに耐えきれなかった俺は目を瞑って暫く考えてから目を見開いた。
「全く考えてなかった」
『駄目だコイツ…早くなんとかしないと…』
獏良天音
原作で既に死亡しているキャラ。闇サトシの妹だが回想すら無し。設定だけあるが使われないまま終わった悲しき少女。まあ、兄があれなら妹も良い感じに力があるであろう。
イレイザー
この星、最後の希望の内の一柱。原作効果だと中々に強い神のカード。が、攻撃力が相手に依存するため、キースには"相手によって左右される不甲斐ないモンスター"と言われ、海馬には"人頼みの神"と評されており、神らしからぬ扱いをされている。結局、火力なのか……。どうでも良いが誰もいない場所でひとりで喋るキャラを書くのはやはりどうにも違和感がある。
全くの余談だが、アーノルド・ シュワルツェネッガー主演で"イレイサー"と言う映画がある。中々スカッとするので見たことのないコマンドー好きは見ると良いと思う。