じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です(小声)

よし、まだ一年経ってないからそっと更新してもバレない……バレない(忍び足)




デュエルキング 前

 

 

 

 

 冬休みが終わって少し経った頃の休日。俺はこたつでお茶を楽しみつつ、机に広げたカード達を眺めていた。

 

 しかし、そんな平穏は俺には滅多にない。

 

『マスター! フルーツバスケットが再アニメ化しましたよ!?』

 

「そうか」

 

『いやー、素晴らしいですね! 前のアニメでは原作で慊人さんが――(ピー)だったことが判明していなかったので、正直微妙でしたが、やっぱりそれでも原作の空気はきちんと再現されていたので良作だと思いましたし、やっぱり何よりも堀江由衣さんが歌うオープニングテーマで主題歌の"For フルーツバスケット"が神曲で今での私の中に残り――』

 

「そうなのか」

 

 オタク特有の相手に興味があまりないにも関わらず、早口で話題を振り続ける口撃(こうげき)をしてくるのアレな方。悲しいかな、俺の象徴たるカードの精霊であるヴェノミナーガさんである。さっきからこたつの対面におり、ハイテンションで話し掛けて来るため非常に鬱陶しい。

 

 また、こういう時に限って藤原も、砂の魔女さんも、ラーちゃんも、天音ちゃんもいない。おのれ。

 

 っていうか再アニメ化って前に放送したのいつだよ? …………2001年じゃねーか、うっそだろお前!? どうりでヴェノミナーガさんが食い付くわけだよ!?

 

『あ、からくりサーカスもオススメですよ。原作は結構古い(22年前に連載開始)ので知らなくても仕方ありませんが、愛と勇気を与えてくれる素晴らしいアニメです。主人公がカンフーアクションで悪い奴をやっつけるんですよ!』

 

「へぇ、面白そう」

 

『はい、藤田作品は面白いですよ……愛と勇気を与えてくれるんです……』

 

 BOOKOFFで見掛けたことは結構ある奴だな。絵が独特で買おうとは思わなかった。なんか、珍しくヴェノミナーガさんにしては普通――。

 

『一生残る恐怖と衝撃で、一生残る愛と勇気をね!!』

 

 そう言いながらヴェノミナーガさんは、こたつの中で尻尾で俺の足を縛り付けると、どこからか取り出した全部で43巻のからくりサーカスと題名のある漫画を机に置き、1巻を目の前に置いてきた。

 

 その時のヴェノミナーガさんはまさに蛇神というより、邪神みたいなものすごい顔をしていたと後の俺は語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ええ! ですので、この世の果てで恋を唄う少女YU-NOは、

今は無きアーベルの菅野ひろゆき様の最高傑作でして、エロゲ史に燦々と輝く太陽のような存在なのです! それが実に23年もの時を経てアニメ化するなんて……くぅー! しかも2クール! これがどれほど嬉しいことかわかりますか!?』

 

「そうか」

 

 た す け て。

 

 ヴェノミナーガさんが、最近のアニメが楽しみ過ぎて、いつもの数十倍絡み付いてくるの。え? ひょっとしてあれなの? ヴェノミナーガさん、アニメ終わるまでずっとこの調子なの? てか早く職員室行けや。え? 職員室には切り離した左手が擬態してもう行った? JENOVA(ジェノバ)かよお前はよぉ!?

 

「おーい、リック~!」

 

 休日が終わり、他愛もない会話をしつつヴェノミナーガさんと本館を歩いていると、十代に声を掛けられた。隣には金魚のフンの如く十代の側にいる丸藤翔もいる。

 

 これを天の助けとばかりに応対すると、何でも義務教育レベルで誰でも知っている決闘王(デュエルキング)こと、武藤遊戯のデッキが公開されるらしい。

 

 まあ、紙束レベルのハイランダーデッキだが、やはりデュエリスト全ての憧れというものだな。

 

『いや、ドロー(りょく)に頼ったデッキの構成に関してはマスターも全く他人のこと全然言えな――』

 

「しゃらっぷ」

 

 何やらヴェノミナーガさんが言いたげだが、知らないったら知らない。

 

「それでな! ヘヘッ――」

 

 何でも十代曰く、整理券で見に行くと上野動物園のパンダが来たときやら、いつぞやの翠玉白菜の如くチラッとしか見えないのではないかと思い、深夜の展示場に忍び込もうという算段らしい。

 

 まあ、正しい人間としては叱るべきだが、一人のデュエルアカデミアの学生としては妥当なところだろう。ネームバリューだけで全校生徒が見に行くのは決まったようなものな上、いざ展示となればどうせ、オベリスクブルーの生徒が独占やら優待やらを始めるに決まってるしな。むしろ、勤勉なモノだ。

 

「だからリックも行こうぜー!」

 

「アニキ……流石にリックさんを誘うのは――」

 

「いいぞ」

 

 ふたつ返事で受けると、十代は当然のように喜び、丸藤は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしていた。

 

「なんだ? 俺が優等生に見えたか?」

 

「え!? いや、だって学内試験でも常に最上位じゃないッスか!?」

 

 それとこれとは話が別である。単純な話、見つかったら最悪の場合にまた退学デュエルとかになったら洒落にならないであろう。そうなっても俺が居れば、庇えるので大事には至るまい。万が一、制裁デュエルになっても俺が出張れば、社長でも出て来ない限りは勝てるだろうしな。

 

「リック……」

 

「リックさん……」

 

 何やらとても感動した様子で見つめて来る二人。とてもむずむずして大変、居心地が悪い気分である。さっさと教室に行きたい。

 

『マスター……友達少ないから必死なんで――うわらば!?』

 

黙れ(cut it out)

 

 とりあえず、ヴェノミナーガさんに"成仏"のカードを投げ付けた。

 

 ちなみに、俺から出たネイティブな英語を初めて聞いた十代と丸藤には本当にアメリカ人だったんだと大変失礼な感想を抱かれた。解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで決行日の深夜。既に展示場の近くにある広間の隅で俺は待っていた。"光学迷彩アーマー"を装備しているので誰も俺には気がつかない。ちなみに知り合いには見えるように設定してあるので便利なものである。

 

『マスターは何の自動人形(オートマータ)が好きでした?』

 

「ブリゲッラかな。敗北の一撃のタイトルが自身のことなのがいい。ヴェノミナーガさんは?」

 

『私はディアマンティーナちゃんですね。やっぱり女の子はあれぐらい積極的じゃないとダメですよ!』

 

「愛で空が落ちてくるってか?」

 

 まあ、漫画で落ちてきたのは宇宙ステーションだったがな。

 

「うふふ……楽しみね……」

 

 ちなみにどこかから嗅ぎ付けてきたのか、誰にも言っていないにも関わらず、天音ちゃんが背中に引っ付いている。まあ、いつものことなので特に思うことはない。

 

 それよりも光学迷彩アーマーの効果が天音ちゃんにも及んでいるようなので、この状態の天音ちゃんは装備カード扱いのようだ。ユニオンモンスターかな?

 

「ふふ、仲好さげで妬けちゃうわね」

 

 同じく教えていない藤原もいるのが疑問である。その上、俺と同じようにカードの力で身を隠していたりもする。人が来るときだけ、"ミストボディ"で消えているのだ。洒落てるなぁ。

 

『こんなの普通じゃ考えられない……!』

 

 条件反射のように呟かれたヴェノミナーガさんのやや分かりにくいギャグは放っておくに限る。本人もツッコミを望んでいるわけではないのである。

 

『ところで、いつも疑問なんですが、なんで雪乃さんの方が他の女性陣より微妙に扱いが悪いんですか?』

 

 藤原がお花を摘みに行ったところでヴェノミナーガさんがそんなことを聞いて来た。

 

「ほら、藤原はさ……本気で真っ直ぐに好意寄せて来るじゃん? だからその……照れる」

 

『そう言えばリックさんって男のツンデレでしたねぇ……』

 

「………………」

 

 何故か天音ちゃんが背中を掴む力が強まる。しかし、デュエルで鍛え抜いたこの体はその程度ではびくともしないのであった。

 

『ダメですよ天音さん! リックさんは憑かれることには覚者レベルで慣れてるんですから!』

 

「あなたのせい……」

 

『ちょ!? デュエルディスク開かないでください! 笑ってないで止めてくださいよマスター!?』

 

「リック~!」

 

 面白いので放っておこうとしたが、先に聞き覚えのある声が聞こえた。そちらを見れば十代と丸藤、それとラーイエローの三沢大地に、トイレから戻る途中で遭遇したのか藤原の姿もある。

 

「なんだ、三沢じゃないか。お前も来たのか」

 

「ああ、デュエルキングのデッキを是非じっくりと見学したくてな」

 

 熱心なデュエリストなことだ。ちなみに三沢は十代や丸藤亮と同じぐらい俺に嬉々としてデュエルを挑んでくる生徒なのでとても印象深い。デュエルアカデミアでの態度は俺よりよっぽど優等生なので、ここにいるのが不思議だと感じるほどだが、デュエル熱心なのだからそれも当然か。

 

 ちなみに三沢はデュエルアカデミアに俺が入学してから、十代の次にデュエルした回数の多い生徒だったりもする。三沢は俺と同じようにデュエリストにしては珍しく、デッキを大量に保有しているため、スタンスの近さからなんとなく話が合うのだ。

 

 すると展示会場の方からガラスが割れた音と共に、男性の声で奇っ怪な悲鳴が聞こえた。

 

『あら、クロノス教諭の悲鳴ですね。また、何かあったのでしょうか?』

 

「クロノス先生が!?」

 

 あれだけ色々とされたにも関わらず、普通に心配をした様子の十代を戦闘に展示会場へと全員で向かう。するとそこには頭を抱えているクロノス教諭と、その前にガラスを割られた空の展示ケースがあった。

 

 うーん、状況だけだとなんとも言えないが、とりあえず、先生に話を聞くことにしよう。

 

「先生。どうかしましたか?」

 

「し、シニョールリック!? こ、これは違うノーネ!? 私はやって――」

 

「ええ、わかってますよそんなこと。こんな大胆で馬鹿なことするのは、外部の人間か、自暴自棄になった阿呆ぐらいのものでしょう。探すぞお前ら、まだ遠くまでは行っていない筈だ」

 

 その言葉に皆は強く頷き、手分けをして探すことになったため、バラバラに散って行った。残ったのは先生と俺とヴェノミナーガさんだけだ。

 

「せ、先生は教員想いの生徒を持てて幸せなノーネ!」

 

「それはよかったですね」

 

 だったらもう少し、オシリスレッドにも優しくしてやればいいのにと思ったが、先生なりに考えがあるのだろうと思い、それ以上は何も言わなかった。

 

「それより今回のことは穏便にお願いしますよ? こちらもこんな時間にここにいることはそれなりの理由があったのです。もちろん、カード泥棒と比べれば可愛いものですが……」

 

「もちろんなノーネ! 先生も今回のことは内緒にしたいですーノ!」

 

 それだけ確認してから俺も捜索に向かうことにした。まあ、こんなことがバレたところで、俺には痛くも痒くもないし、また制裁デュエルが十代らに向けて行われようものなら今度は最初から俺が出てやるので、特に問題はあるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆さんに出遅れちゃいましたねー』

 

 展示会場を後にして、外の森に出た時にヴェノミナーガさんはそんなことを呟いた。口調から冗談で言っていることがわかったため、俺は小さく笑うと懐から2枚のカードを取り出した。

 

 それと同時に俺の目の前に暗い緑色の服装で固め、暗視ゴーグルと小型の通信機を装備したゴブリンが1体姿を現した。

 

 他にも暗い森には似た服装をしたゴブリンがところどころに見え、小さな気球も浮いている。

 

「もちろん、もう見つけてありますよ」

 

 懐から取り出したカードは、"ゴブリン偵察部隊"と"最終突撃命令"であった。割れたケースの前で佇むクロノス教諭を見つけた時点で発動していたのである。

 

『うわぁ……ブラック上司。それより、本当にマスターは素直じゃないですね。お友逹のために、まずひとりで』

 

「……うるさい」

 

 この世界がデュエル脳なのは百も承知だが、万が一、泥棒が武装しており、デュエルアカデミアの誰かに危害を加えてみろ。そんな寝覚めの悪いことは絶対にさせん。

 

『マスターって自分が思ってるよりこの学校生活を楽しんでますよね?』

 

「…………そうかも知れませんね」

 

 まあ、少なくとも嫌いじゃないし、退屈はしていない。それだけは確かだろう。

 

 俺とヴェノミナーガさんはゴブリン偵察部隊に先導されて犯人の元へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 崖の上で盗んだデッキを眺めながらギラギラと目を輝かせているデュエルアカデミアの生徒の姿を見つつ、俺はなんとも言えない気分になった。

 

「誰だアイツ……?」

 

『ラーイエローの神楽坂さんですね』

 

 どうやら犯人は外部犯ではなく、自暴自棄になった阿呆の方だったらしい。喜ぶべきか、悲しむべきかは微妙なところだ。

 

「うーん、デッキを見れば持ち主の顔ぐらいは思い出せるんだけどなぁ……」

 

『マスターどんだけデュエルお化けなんですか!?』

 

 失敬な。デュエルアカデミアでは手当たり次第に戦い過ぎて、人と名前が全く一致しないだけである。なので、途中からデッキの中身に関連つけて覚えることにしたのだ。

 

『違う、そうじゃない』

 

 何か違うらしいヴェノミナーガさんは放置し、俺は跳躍して、神楽坂の背後に音もなく降り立った。

 

『さらっと20mぐらい跳ばないでくれません? デュエリストってそういうものじゃないでしょう』

 

 デュエルをしていれば出来るようになる。大山(たいざん)だってドローを磨き続けた結果、あんな体になっていただろう。

 

「やあ、神楽坂。随分楽しそうだな」

 

「――!? ナ、ナイトメア!?」

 

 神楽坂は声を掛けてようやく気づいたようで、とても驚いた様子を見せている。その表情には何故か、同級生だというのに若干の怯えが見え隠れしていた。

 

『月夜にドーマのデュエルディスクを携えて、不敵に笑うマスター。そんな奴が背後に立たれて、怖がらないデュエリストなんていないと思うんですけど……?』

 

「まあまあ、そんな目をするな。別に取って喰おうというわけじゃない。見たところ、そのデッキ……君は中々お気に召していたようじゃないか」

 

「あ、ああ……これは紛れもなく最強のデッキだ!」

 

 デュエルキングとまで言われた人間のデッキだ。この世界のデュエリストなら誰に聞いてもそう言うだろう。

 

 しかし、それは前にも言ったように高レアカードを詰め込みまくったハイランダーデッキに等しい。そのため、仮に回せたのなら……ソイツは素晴らしい才能を持ったデュエリストだということだ。

 

 最強になれるポテンシャルのある人間にしか使えないデッキ。要するに常人にはただの紙束だ。神楽坂を見る限り、そのデッキを回せる自信があるのか……それならとんでもないダークホースだ。

 

『マスターの主力デッキも遊戯デッキより、多少マシなレベルの紙束ですもんね』

 

 ヴェノミナーガさんの言う通り、俺の主力(デスガーディウス)デッキははっきり言って、構成だけで言えば紙束だ。回るわけがない、回せる訳がない。そんなデッキだ。

 

 だが、この世界では構成などあまり役には立たない。デッキを信じる心、ドローの力、精霊の力など数々のモノが組み合わさり、この世界ではデッキとして成立しているのだ。故に事故が起こらないように保険を掛けてデッキを構成するようでは、それら全てを信じていないと言っているようなものだ。それではデッキは応えてくれない。

 

「折角だ。俺が相手になろう」

 

「え……?」

 

「デュエリストがふたり……後はわかるな?」

 

 神楽坂は狐に抓まれたような顔をしているが、俺は関係なく神楽坂から歩いて少し離れると、ドーマのデュエルディスクを構えた。

 少々、神楽坂は葛藤した様子だったが、やがて決心したように立ち上がるとデュエルディスクにデュエルキングのデッキを挿入して、デュエルディスクを構える。

 

 ああ、それでいい。デッキを盗んでしまうほどのデュエルへの情熱。俺は大好きだよ、そういう奴はさ。

 

 俺はデスガーディウスのデッキを取り出し、デュエルディスクに挿入する。ドーマのデュエルディスクは透き通るような金属音を響かせながら左右に開いた。

 

 

「さあ、始めようか」

 

 

 内輪揉めな上、真のデュエルをする必要もない。じゃあ、純粋にデュエルを楽しませて貰うとしようか。

 

 

 

 


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