アルカナフォース
定期試験。その言葉を聞いただけで竦み上がる者もいるであろうが、当然デュエルアカデミアでもそれはある。とは言え、基本的にはデュエルの学校のため、定期試験もデュエルの内容となっている。
午前中は筆記試験。しかし、これはコンマイ語の勉強というより、"このカードのカード名を選べ"といった五択問題や、"デッキが0枚の時、貪欲な壺は発動できる"といった丸バツ問題、"互いのプレイヤーにダメージを与えるカードを4つ答えよ"といった筆記問題等、デュエルモンスターズの一般問題なので、正直そんなに難しくはない気がする。
ふむふむ、特殊勝利条件はどのようなものがあるか4つ答えよ……か。封印されしエクゾディア、ウィジャ盤、終焉のカウントダウン、No.88 ギミック・パペット-デステニー・ レオ……はまだないカードだろうからラストバトル!辺りを書けばいいか。
『"毒蛇神ヴェノミナーガ"……っと』
教員が勝手に生徒の答案を書き換えないでください。
◇◇◇
そして、午後の実技試験は原則無作為に同じ寮、オベリスクブルーは女子と男子混合で同じ学年の生徒とデュエルをして、その経過や結果が点数になるのだが――。
オベリスクブルー女子生徒
LP700
手札0
モンスター3
魔法・罠0
DEF1000
素早いマンタ
DEF100
素早いマンタ
DEF100
デュアルモンスター
星4/水属性/魚族/攻1500/守1000
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●このカードの元々の攻撃力は2300になる。このカードは攻撃した場合、バトルフェイズ終了時に守備表示になる。次の自分のターン終了時までこのカードは表示形式を変更できない。
素早いマンタ
星2/水属性/魚族/攻 800/守 100 フィールド上のこのカードが カードの効果によって墓地へ送られた時、 デッキから「素早いマンタ」を任意の数だけ特殊召喚できる。
リック
LP4000
手札4
モンスター5
魔法・罠3
ガーディアン・エアトス
ATK2500
仮面魔獣デス・ガーディウス
ATK3300
デスペラード・リボルバー・ドラゴン
ATK2800
ヘル・エンプレス・デーモン
ATK2900
ATK2400
ヘル・エンプレス・デーモン
星8/闇属性/悪魔族/攻2900/守2100
このカード以外のフィールド上で表側表示で存在する悪魔族・闇属性モンスター1体が破壊される場合、代わりに自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性モンスター1体を ゲームから除外する事ができる。また、フィールド上に存在するこのカードが破壊され墓地へ送られた時、「ヘル・エンプレス・デーモン」以外の 自分の墓地に存在する悪魔族・闇属性・レベル6以上のモンスター1体を選択して特殊召喚する事ができる。
デュアルモンスター
星6/闇属性/魔法使い族/攻2400/守2000
このカードは墓地またはフィールド上に表側表示で存在する場合、通常モンスターとして扱う。フィールド上に表側表示で存在するこのカードを通常召喚扱いとして再度召喚する事で、このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。
●1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。手札または自分・相手の墓地から悪魔族モンスター1体を選んで特殊召喚する。このカードがフィールド上から離れた時、この効果で特殊召喚した悪魔族モンスターを全て破壊する。
「ひ、酷いわ……こんなの酷過ぎる!?」
「さあ、バトルフェイズ……そして、コイントスだ。"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果発動、ロシアン・ルーレット」
その瞬間、デスペラード・リボルバー・ドラゴンの頭部と両手、合わせて3つのシリンダーに3つずつ弾が出現する。そして、全てが同時に勢いよく回転し始めた。
「ストップ……よし。フルバースト・ガン・キャノンショット!」
「わぁぁぁぁ!?」
全てが表だったため、対戦相手の3体の表側守備表示モンスターがデスペラード・リボルバー・ドラゴンの銃撃によって体に風穴を開けられて破壊され、フィールドはがら空きになった。
それが終わるとデスペラード・リボルバー・ドラゴンから、どこか調子外れで場にそぐわないほど明るく、寂れたゲームセンターで耳にしたような音楽が響き渡る。
すると、デスペラード・リボルバー・ドラゴンがこちらに振り返り、頭部の拳銃で俺の手札を銃撃した。それによって、俺の手札から煙が上がりつつも、1枚カードが増える。
手札
4→5
「3回とも表だった場合、"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"の効果発動。俺はカードを1枚ドローする。コイントス効果を発動したターン、"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"は攻撃できない……が、他のモンスターは問題なく攻撃可能だ。"デスペラード・リボルバー・ドラゴン"を除く、全てのモンスターでダイレクトアタック」
『ゲッゲッゲ……!』
『ぶっ飛べ!』
「うわぁぁあぁぁぁぁぁ!!!?」
オベリスクブルー女子生徒
LP700→0
『こんなことするから、試験前はあからさまにオベリスクブルーの生徒の様子が可笑しくなるんですよ……』
「生徒対生徒で行う実技試験の試験内容が悪い。更に言えば対戦相手をドローし損ねた相手が悪い」
事故る奴は……
◇◇◇
いつものように定期試験を終え、他で試験デュエルをしている生徒の様子を眺めたところ、十代の姿が見えたので、そちらに目を向ける。
「まーた、クロノス教諭が地味な嫌がらせをしてるよ……」
『懲りませんねぇ……あの方も』
「悪い人ではないんだけどなぁ……」
むしろ、教員としてはかなり、いい人の部類に入るのだが、クロノス教諭は何故かオシリスレッドを目の敵にしているため、時々妙な行動に走るのである。
現在も、十代がどういうわけかオベリスクブルーの男子生徒と戦わされているようだ。というか、十代は定期試験の度に、オベリスクブルーの生徒と戦わされているような気がする。その上、恐らくは3年生。
でも、結果的に十代を楽しませてるだけなんだなぁ。
オベリスクブルー男子生徒
LP4000
手札1
モンスター3
魔法・罠0
ブラッド・ヴォルス
ATK1900
ジェネティック・ワーウルフ
ATK2000
バルキリー・ナイト
ATK1900
ブラッド・ヴォルス
星4/闇属性/獣戦士族/攻1900/守1200
悪行の限りを尽くし、それを喜びとしている魔獣人。手にした斧は常に血塗られている。
ジェネティック・ワーウルフ
星4/地属性/獣戦士族/攻2000/守 100
遺伝子操作により強化された人狼。 本来の優しき心は完全に破壊され、闘う事でしか生きる事ができない体になってしまった。その破壊力は計り知れない。
バルキリー・ナイト
星4/炎属性/戦士族/攻1900/守1200
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手は「バルキリー・ナイト」以外の戦士族モンスターを攻撃対象に選択できない。
(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時、自分の墓地から戦士族モンスター1体とこのカードを除外し、自分の墓地のレベル5以上の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを特殊召喚する。
十代
LP200
手札0
モンスター0
魔法・罠0
「へっ……これで終わりだろ。なんだ、やっぱりオシリスレッドごとき、大したことな――」
「へへへ、わくわくしてきた! 俺のターンドロー! よし、俺は"E・HERO バブルマン"を召喚! 効果で自分のフィールド上に他にカードがないとき、カードを2枚ドローするぜ!」
手札
0→2
「更に手札から"死者蘇生"発動! 墓地から"ゴッドオーガス"を攻撃表示で特殊召喚だ! そして、"ゴッドオーガス"の効果を発動! ダイスロール! うし! 4・4・6だから俺はカードを2枚ドローし、"ゴッドオーガス"の攻撃力は1400ポイントアップ!」
ゴッドオーガス
ATK2500→3900
手札
1→3
「こ、攻撃力3900だと……!?」
「まだだぜ! "E・HERO フェザーマン"と、"E・HERO バーストレディ"を墓地に送り、"E・HERO フレイム・ウィングマン"を融合召喚!」
E・HERO フレイム・ウィングマン
ATK2100
「な……!?」
「行くぜ! "E・HERO フレイム・ウィングマン"で"ブラッド・ヴォルス"を攻撃! フレイム・シュート! 効果で戦闘によって破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与えるぜ!」
オベリスクブルー男子生徒
LP4000→3800→1900
「"ゴッドオーガス"で"ジェネティック・ワーウルフ"に攻撃だ! ゴッド・ソード・スラッシュ! ガッチャ! 楽しいデュエルだったぜ!」
「う……嘘だ……オベリスクブルーの俺がオシリスレッドごときに負けるだなんて……」
オベリスクブルー男子生徒
LP1900→0
『わー……"ゴッドオーガス"のサイコロで増加した攻撃力で丁度ピッタリ……というか、十代さんっていつも、3・4を揃えるか、ゾロ目ですよね。いつから"ゴッドオーガス"はバブルマンの親戚になったんです?』
「E・HERO バブルマン・ゴッドじゃないですかね。色似てますし」
『殺意の波動に目覚めたバブルマンかぁ……』
こんな感じにゴッドオーガスは十代のデッキで非常に生き生きしている。
そんなこんなで、特に語ることのない定期試験はいつもこのように過ぎているのである。ちなみに俺の成績は学内トップだが、前世の知識を持ちつつ、プロデュエリストの俺がそうでなかったら逆にマズいので、その辺りは最早義務のようなものである。
◆◇◆◇◆◇
『毎年恒例 、北にある姉妹校。デュエルアカデミアノース校との友好デュエルが近づいております。昨年は2年生だった丸藤亮くんが、ノース校代表を倒し、本校の面目躍如となりました』
遊戯デッキの盗難から、神楽坂が教員からの罰を終えた程度の日にちが過ぎた頃。
デュエルアカデミアでは講堂にて週の最初に学校らしく、校長先生の朝礼がある。その習慣だけでげんなりする気分になるかも知れないが、鮫島校長の話は俺の知る校長の中でも簡潔な上ダントツに短いため、特に苦ではなかった。
『今年の本校代表は、まだ決まっていませんが、誰が選ばれてもいいように皆さん日々努力を怠らないように』
それだけ言って鮫島校長の朝礼は終わった。考えるまでもなく、俺には全く関係のない話だと思いつつも、自然と口から言葉が漏れる。
「ノース校との友好デュエルねぇ……」
「なら今年はリックがいるから余裕そうね」
俺の呟きに対して、隣に立っている頭にリボンを乗せたピンク髪の女子生徒こと、ツァン・ディレが答えた。心なしか、何故かとても誇らしげな表情であり、手を腰に当てながら言っている。
それに対して少し考え直してみたが、やはりよくはないという結論になったため、口を開く。
「いや、流石にデュエリストの養成校同士の親善試合で、現役4位のプロデュエリストを出すのは反則というか、趣旨的にどうなんだ……?」
例えるならヒヨコの大きさを決める大会で、雄鶏を出すようなものである。畑違いというか、そもそも場違いであろう。
「た、確かにダメそうね……」
「そう言うツァンはどうなんだ? お前なら問題ない気が俺はするんだが?」
「ぼ、ボク!? だ、ダメよ……別に頭もよくないし……強くないし……」
『嘘をつけ淫ピ。少なくとも成績は最上位な上、アカデミアでの公式対戦記録では勝率9割超えですよコイツ。かっー! これだからピンク頭は信用なりませんねぇ!』
ヴェノミナーガさんはピンク髪の女性に親でも殺されたのだろうか……? なぜ、いつもいつもツァンにだけ妙に風当たりが強いんだ……。
「まあ、順当に行けばカイザー。彼が辞退すれば他の奴がやるだろう」
男子だとオベリスクブルーでは……特に思い当たらないが、ラーイエローでは三沢、オシリスレッドでは十代。オベリスクブルー女子では、天上院……はあまりこういう注目を集めるような性格ではなく、ツァンは変なところで引っ込み思案なのでまず名乗りを上げそうにない。
藤原はこういうことに一番向いているだろうが、俺がでなければ、頭の隅にすら置かないだろうからまず出ない。そして、最後の候補は――。
「貴方……今日も広い背中ね……うふ……うふふ……うふふふふふ!」
正直、この娘。オベリスクブルー女子ではトップクラスに強いんだが……出るわけもないか。
「そう言えばツァンも最初は天音ちゃんにとても驚いて、"俺が迷惑しているから人前で張りつかないで!"って言って、天音ちゃんにデュエルを仕掛けていたのに、今では随分慣れたな」
「…………そりゃあ、毎日毎日飽きもせず、背中に引っ付くのを見せつけられたらなれるでしょう……でっかいオナモミみたいなものよ」
ちなみにデュエルでどちらが勝ったか、ということは天音ちゃんが、今日もデカいオナモミ化しているところから押して知るべし。本当に天音ちゃんはデュエルが、強いのである。
「あっ! 天音ったらまた寝癖つけたままで来て……ダメじゃない」
「むー……」
そんなやり取りをしつつ、ツァンは櫛を取り出すと天音ちゃんの髪に櫛を通し始めた。天音ちゃんは口ではぼやいているが、動かずにされるがままにしており、ツァンもぼやいているが、優しく丁寧に櫛を通している。
お母さんかな? いや、それ以前に天音ちゃんの獏良とほとんど変わらない髪型のどれが寝癖なんだ……?
◇◆◇◆◇◆
鮫島校長のノース校についての朝礼から少し経った頃。結局、学校代表は三沢か十代となり、代表決めのデュエルの末に十代へと決まった。実に喜ばしいことだろう。
しかし、オベリスクブルーの生徒の一部は、決まった後でも、オシリスレッドの生徒が代表になるなど言語道断だと言っている奴がちらほらと見られたが、1人ずつデュエルを交えて誠意を込めて話した結果納得して貰い、今では十代の学校代表に異議を唱える生徒はいないだろう。
『私はその誠意を込めたデュエルを見て、敵兵を無造作に地面に並べて、1人ずつ頭に銃口を押し当てて銃殺する紛争地帯の処刑風景が思い浮かんだんですけど……?』
まあ、そうやって燻らせた奴が、友好デュエル日の前日に十代のデッキを奪って焼き捨てるような真似をしないとも限らないので、一応の対応だ。そんなの誰も望まないからな。
「ん……?」
『どうかしましたか?』
丁度、授業が終わった直後、どこかで覚えのある精霊の力を感じた。気のせいかとも考えたが、依然として感じ続けるそれは明らかに知ったものだ。
『…………ああ、漂うこの力ですか』
「どこかで覚えがあるんだが……」
『まあ、もう何年か前に一度会ったきりですからね。忘れるのも無理はないです』
既に特定している辺り、やはりヴェノミナーガさんは神様なんだなと再確認する。本当に喋らなければ素敵な方なんだけどな。
『本館の屋上、いつも十代さんがサボっている場所におりますので会いに行ってもいいのではないでしょうか?』
その言葉を信じて、俺は1人でそこに向かうことにした。
◇◇◇
屋上に出ると、真っ先に都会よりも鮮やかに思える青空が広がっている姿が見え、その中に幾つか雲が浮かぶ様がある。空に目をやればいつもある光景ではあるが、建物の屋上から見上げるというだけで少し特別なものに変わるかもしれない。
「やぁ」
すると、声を掛けられ、そちらの方向に目が行く。そこには屋上で寝そべりながら片手を軽く上げ、首を半分だけ起こす者がいた。その人物は着崩している上、所々が破れたオベリスクブルーの男子生徒の制服を纏っており、辛うじてデュエルアカデミアの生徒だということがわかる。
「ひさしぶりー、リックくん」
「…………ああ! "茂木もけ夫"……先輩ですか! I2ジュニアカップ以来ですね」
驚きと共に途中で、歳上だったということを思い出し、言葉遣いを変えた。5年振り程になるのだろう。茂木先輩の背格好はあまり変わってないように見えるが、前よりも脱力感が上がっているような気がしてならない。
「生徒として見掛けたことはありませんでしたが、どうしてここに?」
「お天気がいいからねー。ここだとお日様がぽかぽか……雲がぷかぷか……なーんにもしたくなくなるよねぇ……」
「ん……?」
『彼も変わりませんねぇ……』
「わあ、リックくんの精霊さんだぁ。懐かしいなぁ」
ヴェノミナーガさんを目の前に当たり前のようにこの反応なのだから彼は大物なのだろう。
「あのね、僕は精霊をデュエルから解放したいんだ」
突然彼はそう言うと、彼の回りに星1~2のバニラモンスター達が現れ、声を上げで寝転びながら嬉しそうにぷかぷかと漂い始める。
「ほら、こんな感じでだらっとしているとみんな嬉しそう。だからデュエルなんかよりもこうしてたいんだ。君もそうしない?」
その上、彼は同じ抑揚でヴェノミナーガさんに向かってそんなことを言い放った。あまりにも命知らずだが、その辺りが彼の良さともいえるかもしれない。
『はぁ……』
ヴェノミナーガさんは小さく溜め息を吐いてから、何を今更とでも言いたげな表情で言葉を吐いた。
『突然何を言い出すかと思えば一考にすら値しないことを……少なくともマスターに具現化している精霊は1体として首を縦に振りませんよ』
「えぇ、そうなの?」
『特にデス・ガーディウスさんなんて、本来は人や精霊を欺き、獲って喰らうことを生き甲斐にするような生粋の怪物ですよ。現実では使い手の心を黒く染め、闇の道に引きずり込み、それをただ嘲笑う悪魔らしい悪魔です』
ちょっとまて、そんなの一度も聞いていないんだが……?
その呟きにヴェノミナーガさんが反応し、片手の口から俺にだけ聞こえるような小声で話した。
『マスターは最初から暗黒面にカンストしてるので、これ以上落ちることはありえませんから、デス・ガーディウスさん的には落とす意味がなく、居心地がいいのでオッケーらしいですよ。なので、マスターは三邪神の寄生先にもこれ以上ないぐらい適しています。というか、そうじゃなかったらそもそも私が寄生先に選びません。あ、でも外道と悪人はもちろん、違いますからね? マスターは後者です』
えぇ……なんてったって俺は、この人生で半生を共にしていると言ってもいい精霊たちの真実と、邪神との無茶苦茶な適性を今さら聞かされているんだ……ん? ってことはやっぱりヴェノミナーガさんって邪神の仲間じゃないか!
「ええ!? そうなの……? 戦った時は優しそうな精霊に見えたんだけどなぁ……」
『それは接し方と性質の問題です。マスターはそういった戦うことに生きる意味を求める精霊を抱え込み、懐柔し、よき方に向かせることに長けています。茂木さんには争いを好まない温和な精霊が集まる。マスターには常に闘争と勝利を求める過激な精霊が集まる。だから、互いにひとつの側面しか見えない』
「…………そういうものかなぁ?」
そう言われると、精霊はデュエルをするものと自然に解釈していたため、これまでは全く気にしていなかったが、血の気が多かったり、デュエル好きの精霊がほとんどだということに改めて気づく。砂の魔女さんも今はあんな感じだが、使われていた頃は全く違う性格だったらしいしな。
『平行線は決して交わりませんが、いつも隣にいます。どちらも決して間違ってはいなく、どちらかだけということもない。そんなものですよ』
「そっかぁ……うーん、難しいなぁ。リックくんの精霊は好きで戦ってるんだね――」
そう言いながら茂木先輩は服のポケットの中身をまさぐると、体を半分だけ起こして座ったまま、俺にデッキケースを差し出した。
「ならこれをあげる」
また、唐突なことだったが、俺はくれるというのなら貰う派なので、茂木先輩の前に立ち、デッキケースを受け取った。持つと重みと音から中にデッキがはいっていることがわかる。
「中を確認しても?」
「うん、もちろんいいよー」
了解を取ってからデッキケースを開け、デッキを抜き出すと、一番裏にあったカードが見え――。
星8/光属性/天使族/攻2800/守2400
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、フィールド上に表側表示で存在する天使族以外の全てのモンスターの攻撃力と守備力は500ポイントダウンする。また、自分がコントロールする魔法・罠カードの発動と効果は無効化されない。
「これは……」
真っ先に目に入ったカードに俺は固まった。だが、少し眺めてから放心したまま、とりあえず更に捲ってみる。
神秘の代行者アース
チューナー
星2/光属性/天使族/攻1000/守 800
このカードが召喚に成功した時、自分のデッキから「神秘の代行者アース」以外の「代行者」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、代わりに「マスター・ヒュペリオン」1体を手札に加える事ができる。
マスター・ヒュペリオン
星8/光属性/天使族/攻2700/守2100
このカードは、自分の手札・フィールド上・墓地に存在する「代行者」と名のついたモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる。1ターンに1度、自分の墓地に存在する天使族・光属性モンスター1体をゲームから除外する事で、フィールド上に存在するカード1枚を選択して破壊する。フィールド上に「天空の聖域」が表側表示で存在する場合、この効果は1ターンに2度まで使用できる。
これは……間違いない。彼がI2ジュニアカップで俺と対戦したときに使っていた代行天使デッキそのものだ。
「なぜこれを俺に……?」
「君の話を聞いたらそのデッキはまだ戦いたそうかなって思ったからだよー。僕はもう全然使わないからね。使う人のところに行った方が精霊のためだよ」
だからと言って自分が使っていたデッキをポンと渡せるものなのかと考え、返そうかと考えていると、更に茂木先輩が口を開いた。
「んー、他に理由があるなら、初めて精霊がちゃんと見える友達だからかな」
笑顔でそう言う茂木先輩。精霊の見える友達、そう言われてしまえばこれを受け取らないことは失礼になるだろう。
それを言われて少し考えると、自分も同じなことに気づき、これまで全く気にしていなかったにも関わらず、なんとも言えない気分になった。
「そうですか……そう言えば俺も初めてでしたよ」
「そっかぁ、なんか嬉しいなぁ。それじゃあ、いい夢見れそうだからちょっと寝るね。お休みー」
「ええ、お休みなさい茂木先輩」
そのやり取りを最後に茂木先輩は、丸くなってすぐにイビキを立てて眠ってしまった。なんというか、独特で優しげなのに雲のように掴みどころのない人だ。
『不思議な人ですねぇ……彼』
「そうですね。けれど、精霊に対して、自分なりの答えを見つけて、折り合いをつけて生きているのですから……中々出来ることではないと思いますよ」
『ですね。今度だらけるのが好きそうな精霊に彼のことを紹介してみますよ』
俺は受け取ったデッキをしまってから講堂に戻ることにした。
◆◇◆◇◆◇
「うーん……どうしよう」
もけ夫とのデュエルの後、既に人がほとんど居なくなった講堂に戻ると、十代が自身のデッキを広げて、にらめっこをしていた。見れば天上院を含め、すっかり馴染んだいつもの面子に囲まれているようである。
「コイツを入れたら、コイツはいらないし……コイツを入れたら、もちろんコイツはいらない……あ゛あぁぁぁ……」
「いやいや、ここは"ウォーター・ドラゴン"を入れよう。炎属性には圧倒的に有利だ」
「"エトワール・サイバー"も入れるべきよ。直接攻撃の破壊力が違うわ」
「"デス・コアラ"もいいんだナ」
「あの……僕の"パワー・ボンド"も……」
「ああ! うるさい! 邪魔すんなよ!」
どうやら、この前に三沢とのデュエルで勝利し、学校代表になったため、皆で十代のデッキの構築を和気藹々と応援している――とは百歩譲ろうが、色眼鏡を掛けようが見えそうにないな。明らかに邪魔になっているように見えるのだが……。
「何も邪魔をしているわけじゃない。今度のデュエルは学園の名誉を賭けた戦いだ。だから俺たちも一緒に戦うつもりで――」
「そうよ。学園の為なんだから――」
「冗談じゃない! 学園の為になんかデュエルするかよ! 俺は俺のデュエルなんだ。俺は楽しむためにやってるんだよ……」
「わかるぜ、その気持ち。デュエルは人の為じゃない、自分のためにやるもんだものな」
「うん!」
「だが、十代……俺の"ウォーター・ドラゴン"も入れてくれないか……?」
「"パワー・ボンド"も!」
「"ブレード・スケーター"も!」
「"デス・コアラ"もいいんだナ!」
うん、じゃねーだろ天上院の奴。百歩譲って、さっきはエトワール・サイバーって言ってたじゃねーかというところは置いておき、馴染み方が男子生徒のそれでしかないところに笑うしかない。
というか他の奴らも全員だ。ヒーローデッキに何でもかんでも詰め込むんじゃない。あれか? 皆で考え過ぎて、全員頭がパンクしたのか? それなら流石に休憩のひとつぐらい入れた方がいいだろう。
「むー、いいッスよねリックさんは……"ゴッドオーガス"がアニキのデッキに入ってるッスもの!」
「は?」
流石に一言もの申そうと、十代たちに近づいたのだが、丸藤な俺を見るなり、妙にトゲのあることを言い、なんとも言えない気分になった。
デュエルで目を覚まさせてやろうかと思ったが、流石にそれはあんまりなので自重しよう。彼は冷静な判断が出来なくなっているんだ、たぶん。
「そうね、だから同じ地属性・戦士族の"エトワール・サイバー"も入れるべきよ」
「はぁ……?」
「いや、やはり"ウォーター・ドラゴン"をだな――」
「"パワー・ボンド"もッスね」
「"デス・コアラ"なんだナ」
「いやいや、百歩譲って"エトワール・サイバー"と、"デス・コアラ"はまだ入れれなくもないが、流石に"ウォーター・ドラゴン"と"パワー・ボンド"はシナジーが皆無過ぎるんじゃ――」
「うわぁ!? うるさいうるさい! これじゃ、落ち着いてデッキも組めないよ!」
「あっ! 逃げた!」
「あっ! 待て! 俺の"ウォーター・ドラゴン"も!」
えぇ……なにこれぇ……?
まさか……アイツら……是が非でも自分のカードをデッキに入れさせて、十代に友好デュエルで使わせようとしてるの……?
『草』
「…………ふんっ」
『あばばばば!? 私何も悪くない!?』
なんとなく、ヴェノミナーガさんの額に成仏を投げつけた。ちなみにビリビリして痛痒いらしい。要するに大したダメージにもならない。
『むがー! そんなんだから、神楽坂さんとのデュエルの時もさりげなく、最後にコイントス失敗するんで――ぎゃー!?』
俺は言葉を吐き終える前にヴェノミナーガさんに大成仏を投げつけた。
『びーりーびーりーしーまーすー!?』
"八つ当たり反対ですー!"と言ってぷりぷり怒るヴェノミナーガさんを視界から外し、一応十代たちの様子を見に行こうとした――が、どうせ十代はいつもサボっている時にいる本館の屋上にいるだろうし、そこにはもけ夫がいるだけだ。特に何も起こらないだろう。
なにより、デュエルもしていないのに凄まじく疲れた気分だ……。
「寮に帰りましょうか、ヴェノミナーガさん」
『アッハイ』
◇◆◇◆◇◆
「ん……?」
寮の部屋に戻ると、何故か部屋の扉の前に腕を組んだネグリジェ姿の金髪の女性がいた。まあ、女性といっても俺と同じか少し上ほどに見える。
そして、その女性は何故かとても怒っていますといった表情をしており、明らかに何かを待っているように見える。まあ、男子寮で他の生徒に彼女が見えていたら既に軽い事件になっていると思うので、恐らくはデスサイスであろう。
『相変わらず、デスサイスさんは寝巻き姿だとまるで原型無くなりますよね』
「そうだな」
『あっ……!』
「おう……?」
するとこちらの会話に気づいたデスサイスと目が合い、すぐにビシッとこちらに指を指しながらズカズカとした足取りで俺の前までやって来る。
『部屋の中のアイツなんなのよ!? 今まで気持ちよく昼寝してたら急に現れてベッドを奪われたのよ!』
「アイツ……?」
『ベッドを奪われた……? あれ……というか、デスサイスさんったら、私たちがいないうちにマスターのベッドで寝ていたんですか?』
『………………ぴわぁ!? ち、違うわよ! 寝てない! そんなことしてないわ! 兎に角、アイツはどうにかしなさいよね!』
何故か急に顔を真っ赤にして言ったことを否定し始めたデスサイスは、それだけ言い残すと逃げるようにその場から消え去った。
『いい子ですよねあの娘』
「ヴェノミナーガさんと違って部屋の片付けや、掃除もぶつぶつ言いながら自主的にしてくれるしな」
『デス・ガーディウスさんもやらないじゃないですか!?』
「お前……比べられる対象がデス・ガーディウスでいいのか……?」
そんなどうでもいい会話をしながら自分の部屋にヴェノミナーガさんと入ると――。
『うぇへへぇー……新しいお部屋のベッドふかふかだぁ……』
そこにいたのは――
そして、何故か部屋の中央に置かれた俺のベッドに、うつ伏せで上半身を無理矢理の乗せながら、蕩けるようにだらけ切っている。
えっ……なにこれは……。
『た、たぶん、貰ったデッキについていたカードの精霊だと思いますよ……』
「いや、それは見ればわかるが……いったいこれは……」
ヴィーナスは巨体だが、デス・ガーディウスとは違い、人型のため、無理矢理部屋に収まっているのが却って妙な光景を生み出しているのだろう。頭は俺の枕に乗っているが、足はテレビ台の前にある。
なんだこの光景は……。
『あぁ……? 新しいマスタァ? こんにちわぁ~』
「お、おう……」
急に首だけグリンとこちらに向けて、目を半開きにして挨拶をしてくるヴィーナス。正直、見た目は翼の生えた女神像なのでかなり怖い。
『これからお世話になりますねぇ~、デュエル楽しみにしてまぁす…………ぐぅ……』
そして、それだけ言い残してそのまま眠ってしまった。いや……どうするんだよコイツ……部屋の一角が完全に占領されているんだが?
『い、いや……確かデュエルしたとき、その後でちょっとお話を聞いたときは、もっと凛としていて、厳格で骨の髄までお堅そうな天使という感じだったんですけど……』
それが一体全体、何がどうしてこうなったんだ。欠片もその要素がないぞ……。
『ひょっとすると、茂木さんといた期間が長過ぎて、性格そのものが変わってしまったのでは……?』
「えぇ……」
『SCPかな?』
今日はもう寝て全てを忘れたい衝動に襲われた。しかし、ベッドはテレビ台との間の通路ごとヴィーナスに占領されている。
ああ、クソ……売り飛ばしてやろうかコイツ……。
そんなことを少しだけ本気で考えた気もするが、今後の学生生活に不安を覚えつつ、ソファーでふて寝を始めるのだった。
もうちょい……もうちょいでセブンスターズ編だというのに……そこをどけ万丈目ェェェェ!(次回は友好デュエルになります)