じゃしんに愛され過ぎて夜しか眠れない   作:ちゅーに菌

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やっとさらりと入手していたサイバー流の裏デッキのフラグを回収するので初投稿です。

ポケモン技など花拳繍腿なる小説を前は匿名投稿で書いていた(発動していた)ので、そちらの方もよろしくお願いします。暇潰しになれれば幸いです。





サイバー・ダーク

 

 

 

「これよりノーフェイス対策会議を始める!!」

 

 ノーフェイス攻略2日目の午前中。デュエルアカデミア本館、オベリスクブルー女子寮、ラーイエロー寮の凡そ中間にあり、ノーフェイスも居ないため、オベリスクブルー男子寮にある一室を貸し切ってそれは行われた。

 

「議長は俺、万丈目サンダーだ!」

 

 ホワイトボードの前に立つ万丈目が司会をしつつ、彼が見渡せば室内にある長い机を繋げて大きな四角を作った机には――オベリスクブルー男子の丸藤亮。オベリスクブルー女子の天上院明日香とその取り巻きの浜口ももえ、ツァン・ディレ、藤原雪乃。オシリスレッドの遊城十代、丸藤翔、前田隼人がいる。

 

 要するにいつものメンバーが集まっていた。

 

「あの明日香さん。ジュンコさんを知りませんか?」

 

「あら? そういえば居ないわね。どうしたの?」

 

「昨日の朝礼からジュンコさんを見掛けませんの……」

 

 ももえは周りから見れば、片割れなどと言われる程度には仲のいい友人が見当たらないことに不安げな様子であった。そのために珍しく、明日香が男子生徒の元に出向いている場にいるのであろう。

 

「あれ? そういえば三沢の奴はどうしたんだ?」

 

「探しに行ったんスけど、ラーイエロー寮にいないみたいなんスよね」

 

「どこにも見当たらないんだナ」

 

「言われてみれば、三沢の奴も昨日から見掛けてないよなー」

 

「昨日の朝礼には出席していましたわ」

 

 そう呟いたのはももえ。彼女は三沢がいたことを確認していたらしい。ちなみに理由はイケメンだかららしい。

 

「なら枕田ジュンコと、三沢が行方不明なのか……まあ、そのうちポロっと現れるだろう」

 

「三沢だもんな」

 

「三沢くんだものね」

 

「また、どこかでデュエルの特訓やデッキ作りでもしてるかも知れないんだナ」

 

「ジュンコさんを殿方と一緒にしないで欲しいですわ……」

 

「あら? 天音はどうしたのかしら?」

 

「闇のデュエルじゃないからパスだそうよ……全くあの子ったらもう……!」

 

「うふふっ、彼女らしいわね」

 

「会議中だ! 私語は慎みたまえ!」

 

 万丈目がそう言うと、ひとまず話していた者たちは黙る。そして、万丈目はホワイトボードにマジックで、"デュエルアカデミア本館"、"オベリスクブルー女子寮"、"ラーイエロー寮"と書き出して丸で囲った。

 

「まず、現状の確認だが、意味のわからないことにノーフェイスはデュエルアカデミア本館、オベリスクブルー女子寮、そしてラーイエロー寮の3ヶ所にいる」

 

 そして、それぞれのデッキを書き出した。

 

「デュエルアカデミア本館のノーフェイスのデッキは【蟲惑魔】。オベリスクブルー女子寮のノーフェイスのデッキは【未界域暗黒界】。ラーイエロー寮のノーフェイスのデッキは【ファーニマル】だ」

 

 更に万丈目は【蟲惑魔】の特性を書き出す。

 

「【蟲惑魔】は基本的に非常にシンプルなデッキだ。蟲惑魔を展開して蟲惑魔モンスターと罠カードをデッキから補充・墓地から回収しつつ、蟲惑魔によって発動と効果を無効化されない罠カードで、徹底的に相手の展開・召喚を潰しに掛かり、アドバンテージを意地でも確保してくる長期戦向けの非常に小賢しいデッキと言える。トドメは手札枚数に差が付いたところで、手札を2枚消費するだけで"仮面魔獣(かめんまじゅう)デス・ガーディウス"を出すか、"ローンファイア・ブロッサム"から"ギガプラント"をデッキから特殊召喚してひたすら蟲惑魔を蘇生して、場と手札だけで対処しきれなくなった奴を簡単に倒してくる。呆れるほど有効な戦術だ……!」

 

 最後に"じり貧で圧死"と万丈目は書いて、握り拳を震わせながら【蟲惑魔】デッキの説明を終えた。

 

「次にカイザー先輩。【未界域暗黒界】デッキの説明を頼みます」

 

「ああ……!」

 

 万丈目からホワイトボード用マーカーを受け取った亮は【未界域暗黒界】について書き出す。

 

「【未界域暗黒界】デッキは未界域の効果で手札をランダムに選んで貰って、捨てられたときの効果から展開するのが基本のデッキとなる。そのため、【暗黒界】とは特に相性がよく、複合したデッキになっているのだろう……」

 

「私のときは初手で"手札抹殺"をされたわ……うふふっ……」

 

 明日香は遠い目をして乾いた声を漏らしながら、亮の話の途中でそう呟いていた。

 

「…………全ての【未界域】及び【暗黒界】には捨てられた時に発動する効果があるため、手札が多いときに"手札抹殺"をされるととんでもないことになる。本当にとんでもないことになるんだ……!」

 

 亮も明日香の言っていることがよくわかるのか、握り拳を強く作り、そんなことを言う。

 

「そして、魔法・罠はドローカード、手札交換カード、魔法・罠の一斉除去カード、相手ターンになった瞬間に発動出来る攻撃宣言を停止させる・戦闘ダメージを防ぐカード、例外として"生け贄封じの仮面"しか入れていない。よって(ことごと)く"サイバー・エンド・ドラゴン"による攻撃が止められ、"生け贄封じの仮面"の存在からフィールドにセットされている"パワー・ボンド"を使うことさえ難しい……! あれは正しく悪魔のようなデッキだ……!」

 

 亮の言葉だけでは伝わりにくいが、【未界域暗黒界】の最大の恐ろしさは手札を消費しながらの極めて高い爆発力を持つにも関わらず、結果的に手札消費によるディスアドバンテージはそれほど多くなく、消費しても"終わりの始まり"などの大量ドローカードですぐに立て直せる上、下級暗黒界モンスターを通常召喚し、バウンスすることで"暗黒界の龍神 グラファ"をひたすら墓地から蘇生させることも可能な極めて高い場持ちのよさと、これまでの手札を捨てるデッキカテゴリーにあるまじき高さの継続戦闘能力が売りのデッキである。

 

 そのため、ワンショットキルの十八番であるサイバー流が相手にすると、大量展開される関係で"サイバー・ツイン・ドラゴン"とは相性が悪く、希望の"サイバー・エンド・ドラゴン"も、亮とデュエルのときにはデッキのカードを変えているのか、"威嚇(いかく)する咆哮(ほうこう)"や、和睦(わぼく)使者(ししゃ)などを積んでいるため、高確率で止められる。

 

 生け贄封じの仮面が入っている理由は不明であるが、【未界域暗黒界】自体が生け贄をほとんど使用するデッキではないため、入れられないカードでもない。

 

「よしっ! 次は俺の番だな!」

 

 亮からホワイトボード用マーカーを受け取った十代が最後のデッキの説明を始める。

 

「【ファーニマル】デッキはファーニマルとエッジインプモンスターを融合素材にして、デストーイモンスターを融合召喚するデッキだぜ! 俺のHEROデッキにそっくりだ!」

 

 すると十代は他の色のマーカーも使い、胴と手がハサミで繋がり、(ほつ)れた狼のぬいぐるみのようなモンスターの絵を最初に描く。

 

 次に眉間に口があり、その口の中で赤い目が覗き、足の先と頭の先にギロチンの刃のようなものがついた紫色のイカのオモチャのような絵を描いた。

 

 両方とも元の絵よりも若干、可愛らしく描かれているように見える。

 

「へへっ! こっちの狼が"デストーイ・シザー・ウルフ"で、こっちのイカが"デストーイ・ハーケン・クラーケン"」

 

(上手いな……)

 

(十代にしてはよく描けているな……)

 

(上手いわね……)

 

(ボウヤの意外な才能ね……)

 

(私より全然上手い……)

 

(お上手ですわ……)

 

(アニキって絵上手かったんスか!?)

 

(温かみのある絵なんだナ……)

 

 その場にいる全員が十代の描いた絵に対してそんなことを思っていたが、特に口には出さず、十代も特に気にしていないため、そのまま説明は進んだ。

 

「"デストーイ・シザー・ウルフ"は融合召喚に使用した素材の数だけ攻撃出来て、"デストーイ・ハーケン・クラーケン"は2回攻撃出来るんだ! これが【ファーニマル】の主力みたいだぜ!」

 

 ちなみにハーケンとは登山道具で、壁岸の割れ目に打ち込んで使われるあの道具のことだが、デストーイ・ハーケン・クラーケンのそれはどう見てもギロチンの刃である。

 

「"凶暴化の仮面"を装備させて攻撃力1000ポイント上げて、攻撃してきたりもするから、コイツらの攻撃でライフを削り取られないようにな!」

 

 そうは言うが、基本的にこう言ったカードはワンショットキルが成立する場面でしか出されず、ノーフェイスは明らかにそれを心掛けているため、ハッキリ言って攻撃を通した時点で即終了である。

 

 しかし、当の十代は感覚でデュエルをしているためか、それについて言及することはない――というよりも気づいていないようにすら見えた。故に現状を誰よりも楽しめているのかも知れない。

 

 ちなみになぜ凶暴化の仮面という、デーモンの斧のほぼ完全な下位交換の装備魔法カードをわざわざノーフェイスが使用しているのかは謎だ。

 

「総括するとだ……馬鹿正直に真っ正面から掛かっても絶対に勝てないような相手だということだ! 何かしらの対策をするか、新しいカードを入手するかでもしない限り、現状ではどうすることもできん!」

 

 説明を終えた十代からホワイトボード用マーカーを受け取った万丈目は"結論――全部別方面にやたらめったら強い"と書いてからそう言った。

 

「って言っても新しいカードの宛なんてないぜ万丈目?」

 

「万丈目議長! 後者は仮だ! 故に前者を全力で執り行い戦う必要がある!」

 

「そうかぁ? 俺は別に負けていいなら後6日もあるから、当たってればいつか勝てると思うし、ノーフェイスもデュエルを楽しむために来ているように見えるからそれでいいと思うけどなー」

 

(たる)んどる! 七星門の鍵を守る自覚はあるのかお前は!?」

 

(新しいカードか……)

 

 万丈目と十代の議論が一方的に白熱するいつもの光景が繰り広げられる中で、亮はそんなことを考えていた。

 

 デュエルディスクについた自身のデッキをチラリと見る。

 

 そこにあるデッキはモンスターのほとんどがサイバー流のカードで作られたデッキであり、そのために限界という壁があることを亮は、ノーフェイスとのデュエルで痛いほど認識していた。

 

 故に亮の場合、それ以上の強化を望むというのならデッキそのものを変えるのでなければ、新たなサイバー流のカードが必須と言える。

 

(サイバー流の裏デッキ……)

 

 そう考えた場合、サイバー流の使い手である亮に真っ先に浮かんできた答えはそれであった。リスペクトが出来ないという理由で、使用を封じられている裏のカードがあるとのことである。

 

 しかし、亮はナイトメアと戦ったことで一切容赦のない彼の強さの本質を理解し、ノーフェイスとの戦いで心の底から勝ちを渇望する感覚を覚えた。

 

 場合によっては相手のカードの展開すら許さないという本当の意味で一切容赦のないノーフェイスは、ある意味で彼が生業にしているリスペクトデュエルと対極にいるようなデュエリストだった。今回は闇のデュエルをしていないが、闇のデュエリストということは間違いではないと亮は考える。

 

 何せ、あそこまで非情に、あそこまであらゆる方法を用い、あそこまで勝つというただ一点のみを追求した戦い方をしているデュエリストを彼は彼女を除いて知らない。恐らくは、闇の中で殺すか殺されるかのデュエルをし続け、その果てにそれさえも楽しめるような実力を身に付けた生え抜きの獣のようなモノがノーフェイスなのではないかと半ば確信していた。

 

 そして、彼の中でもう一人の強者であるナイトメアは相手のエースモンスターを展開させ、それを遥かに凌駕して上から押し潰している。

 

 リスペクトデュエルとは、相手がやりたいことを感じ取り、そのルートを出来るだけさせて敬意をしながらデュエルをすること。ならば常にそれを行い、勝とうが負けようが全力で楽しみつつ、常に勝っているナイトメアに関しても、リスペクトデュエルをしているデュエリストの定義に当てはまってしまうだろう。

 

 尤も、リスペクトデュエルを生業にするものからすれば、全力で否定されることは間違いない。そもそもナイトメア自身、自分がリスペクトデュエルをしているかと問われれば、笑いつつ否定も肯定もしないであろう。

 

(なら俺はリスペクトデュエルを続け……リスペクトデュエルのせいで負けるのか……? デュエリストとして……勝ちにこだわるのは悪なのか……?)

 

 それは矛盾を孕んだ問いであろう。どれだけ考えようともその先の答えは出ない。リスペクトデュエルに近いものを続けながら勝ち続けるナイトメアと、勝ちだけを是が非でも奪い取るノーフェイスは両方とも異常なのだ。

 

(俺の求める強さとは……勝利とはなんだ……?)

 

 他の全員が方向性は多々あれ、ノーフェイスに対してそれぞれの方法で戦い方を模索し、挑戦的な光を目に宿す中、亮の疑問と葛藤は心に浮かんだ暗雲のように晴れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 2日目の昼時。亮は鮫島校長の校長室の前にいた。

 

 理由は鮫島校長がサイバー流の師範代であり、自身はその門下生のため、彼と話すためだ。とは言ってもそれは自身が一桁の年齢の頃の話であり、約3年前に入学してからは一生徒として接しており、サイバー流の師範代として接することはなかったが、今日は数年振りに門下生として話すことにしたのである。

 

(鬼にならねば……見えぬ地平がある! ノーフェイスのように非情な強さを! ナイトメアのような鬼に俺自身を! それが俺の目指すべき最強のはずだ……!)

 

 尤も、既に彼の腹の中はある程度決まっていたようで、今回来た理由は相談というより、絶縁にも近いであろう。最早、後戻りの出来ぬ覚悟が亮の表情には見て取れた。

 

 しかし、それでもあえて師範代の元に来たのは、彼自身の最後の良心と、未だに葛藤を続ける心を完全に断ち切るためなのかも知れない。

 

「失礼します」

 

 そして、亮は意を決して校長室の扉を開き、談話室代わりの向き合わされたソファーに座る鮫島校長の背を見つけ――。

 

 

「いや……鮫島校長……。その……ノーフェイスは私の仲間みたいなものです。なので、そもそもマッチポンプというか、今回の件は元を正せばノーフェイスをセブンスターズに送り込んだ私の責任ですので、気を落とさずにどうか頭を上げてください!」

 

「いえっ! そもそもの話、コブラ先生にセブンスターズについて調査を依頼したのは私で、十代くんたちの制裁デュエルにどうにか介入出来ないかとコブラ先生に相談したのも私です! 遡れば全て私が撒いた種です……! 私が昨日の朝にノーフェイスさんにデュエルで勝てさえすればそれで全てが丸く収まった筈でした……!」

 

「いえいえいえいえ! そんなことおっしゃらずに気持ちを楽にして、私を責めてください! まさか、ノーフェイスが私をマッチポンプにすらさせてくれないだなんて予想外どころの話ではなかったですから!?」

 

「そんな!? 我が学舎の生徒を学校長が責めれよう筈もありません! 有り得ませんが、仮にリックくんが間違っているとしても、それを許容し、尊重しつつも正し、導けなかった私は教職員としてあるまじき不徳者です!」

 

「いえいえいえいえ! こちらが――」

 

「そんなことはありません! こちらが――」

 

 

 何故か、ナイトメアと鮫島校長が互いに頭を深々と下げ合いながら、非常に低姿勢な謝罪合戦を繰り広げていた。既に会話は平行線に達しており、2人とも妙な方向に全く折れないため、最早中身がない上、まるで終わる気配がない。

 

 そんな気の抜けた光景を目にした亮は、それまでの覚悟がやや腑抜けさせられてしまったことを感じ、思わず顔を歪める。

 

 しかし、決意は変わらず、そのまま鮫島校長の元まで向かうと真剣な表情で亮は口を開いた。

 

「お話ししておきたいことがあります」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 亮は自身がナイトメアとノーフェイスというデュエリストとデュエルをし、それから自身がデュエリストとして考えた思いの丈を全て語った。

 

「亮くん……あなたは……」

 

「強さとはなんですか師範!! デュエリストとして勝ちたいことは悪ですか……! 最強を求めないことが善なのですか……!」

 

「それは……」

 

 それは血を吐くような叫びであった。

 

 そして、ノーフェイスに負け、この調子外れな茶番劇のようにも関わらず、世界の命運が掛かった一週間が始まってしまったことをつい先程まで悔いていた鮫島校長は、咄嗟に言い返すことが出来ず、言葉を詰まらせる。

 

 しかし、リスペクトデュエルはそもそも闇のデュエルに相対することを想定していない。互いに全力を出し切り、勝っても負けても悔いなく楽しめるようにという心持ちこそが本質である。

 

 しかし、そのようなことは百も承知で、全てを捨て去る覚悟を終えてこの場に来た亮にとっては最早関係のないことであろう。

 

「俺はリック……いえ、ナイトメアとデュエルをし、鬼にならねば見えぬ地平があることを知りました! そして、ノーフェイスとのデュエルで、勝利への渇望を得ました! ならば俺は俺のやり方で最強を目指したい!」

 

 きっと彼が独りで堕ちきったのなら、このような想いを誰かに告げることはなかっただろう。しかし、未だ鬼と人の中間に立つ亮は師範にだけは話すことを選んだ。

 

 そして、この場において、師範以外に一部始終を聞いている者――ナイトメアが口を開く。

 

「カイザー先輩。あなたはふたつ思い違いをしています」

 

「なに……?」

 

「まず、私は一度たりともカード……いえ、精霊を蔑ろにしたことはなく、自身が強くなるための踏み台にしたこともありません。あなたと最初にデュエルをしたときも言った通りです」

 

 そう言われ、デュエルのときに自身のカードや精霊を愛していると言っていたことを亮は思い出した。

 

「そして、私が思うにデュエリストの強さとは2通りあります。ひとつはカイザー先輩が考えるように孤高の強さ。誰も信用せず、誰も求めず、勝ちだけを得ようとする故の強さ」

 

 ナイトメアは言葉を区切ってから告げる。

 

「もうひとつは全てを信じる故の強さです」

 

「全てを信じる故の強さ……?」

 

 まさか、ナイトメアの口からそのような温かい思想が語られたことに亮だけでなく、鮫島校長も目を大きく見開いて驚いていた。

 

「私がどちらかはカイザー先輩自身に決めていただきたいですが……」

 

 そう言うとナイトメアは制服の片側に手を掛け、その片側の内側が見えるように開く。

 

 そこには三沢以上に大量のデッキがズラリと並んでおり、これだけのデッキを常に肌身離さずに持ち歩く、ナイトメアの異常とも言える信念が垣間見えた。

 

 そして、そのうちのひとつを手に取り、デッキごと裏側のカードを亮にも鮫島校長にも見えるように前へと掲げた。

 

サイバー・ダーク・キール

星4/闇属性/機械族/攻 800/守 800

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、自分または相手の墓地のレベル4以下のドラゴン族モンスター1体を対象として発動する。そのドラゴン族モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する。

(2):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

(3):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。相手に300ダメージを与える。

(4):このカードが戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードの効果で装備したモンスターを破壊する。

 

「そ、それは……!? 紛失したサイバー流の裏デッキのカード!?」

 

「サイバー流の裏デッキだと……!?」

 

 余りにもリスペクトに欠けるためと、初代サイバー流が封印した裏サイバー流の存在は亮も知るところだった。尤も、紛失していたということは初耳であったが。

 

「本堂を留守にしているときに盗まれたのです。サイバー流の門下生だった元プロデュエリストの子が、"修羅になる"とそれだけ書き置きを残して……。そういえば、あの子がプロデュエリストとして最後に対戦した相手は――まさか!?」

 

「ええ、私に敗れた果てに"キメラテック"を使用し、それでも勝てなかった。その約1ヶ月後にこの"サイバー・ダーク"を使って闇討ちしてきました。まあ、俺が持っている辺りから勝敗は察してください」

 

「なん……だと……?」

 

 つまりそれは、ナイトメアを打倒するためだけに亮と全く同じ思考に至り、禁を破って鬼――最早復讐の修羅と化し、裏サイバー流――サイバー・ダークのデッキを手にした同門の誰かが、それでもナイトメアに勝てなかったということを意味している。

 

 つまり亮が目指した最強は、ナイトメアの中では所詮取るに足らない程度のことだったというわけだ。

 

「まさかとは思いましたが、そのようなことが……」

 

「ええ、貰えるものは全て貰っておく主義ですから……。しかし、裏サイバー流という響きで、そこまで大切なデッキだと思っていなかったのでお返ししますよ。ただ、その前に――」

 

 ナイトメアはソファーに立て掛けていた自身のドーマのデュエルディスクを取ると、サイバー・ダークデッキを差し込んで亮へと向き合った。

 

「あなたを変えてしまった者の務めとして、一戦だけこのデッキを使った私とデュエルを致しませんか?」

 

「全てを信じる強さとやらがわかるのか……?」

 

「ええ、もちろん」

 

 そう言った直後のナイトメアの視線は、亮の背後にある何もない空間を一瞥したが、それに亮が気づくことはなかった。

 

「それなら見せましょう。全てを信じ、カードの精霊と心を通わせる闇のデュエリストのデュエルを」

 

 その言葉に亮は少し考えてから首を縦に振り、鮫島校長も一度亮を変えた彼ならば、もう一度変えられるのではないかと考え、ひとまずは静観することにした。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 場所はデュエルアカデミア本館の屋上に移された。

 

 今は昼休憩の時間であり、この場所はそれなりのスペースがあり、あまり生徒が集まらない上、他の場所から見られることも少ないため、静かにデュエルをするには向いている場所なのだ。また、十代が授業をサボっているときは基本的にここにいる。

 

 そして、その場でナイトメアとカイザー亮は対峙し、鮫島校長は息を呑んでデュエルを見守った。

 

『デュエル!』

 

ナイトメア

LP4000

 

カイザー

LP4000

 

 

「私のターンドロー」

 

手札

5→6

 

 先攻はナイトメア。そして、彼は引いたカードに目を落とすと、笑みを浮かべて1枚の魔法カードを発動する。

 

「私は手札から永続魔法、"守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)"を発動。発動時に手札を5枚捨てます」

 

「"守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)"だと!?」

 

「あのカードは……!?」

 

 それは亮や鮫島校長も知る。コストと効果が明らかに釣り合っていないドローカードであった。

 

「その代わり、自分はデッキから2枚ドローし、このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、 自分ドローフェイズの通常のドローは2枚になります」

 

「たったそれだけのアドバンテージの魔法を……!」

 

「ええ、そうですね」

 

 その上、カードに何らかの耐性が付いているわけでもない。破壊されればそれで終わりであるため、あまりにも割りに合わないと言えるであろう。

 

 舐めているのではないかと考えた亮を誰が責めれようか。しかし、残り全ての手札を墓地へと送ったナイトメアの様子は真剣そのものであった。

 

「私はカードを2枚ドロー」

 

手札

0→2

 

 そう言って、ナイトメアは守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)の効果でカードを2枚ドローし――再び口の端をつり上げて笑みを浮かべた。

 

「私はたった今墓地へ送った"ギミック・パペット-ビスク・ドール"をゲームから除外し、同じく墓地へ送った"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を墓地から特殊召喚します」

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

星8/闇属性/機械族/攻 0/守 0

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地からこのカード以外の「ギミック・パペット」モンスター1体を除外して発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

ギミック・パペット-ネクロ・ドール

ATK0

 

「あれは……」

 

 ギミック・パペット-ネクロ・ドール。ナイトメアが十代、万丈目、明日香の3人を相手にしたボスデュエルで用いていたモンスターカードである。

 

 試合中は、そのステータスの低さからヴェノム・スワンプを逃れ、また高レベルの闇属性モンスターということを利用し、ヴェノムと名のつくドラゴンの融合召喚に用いられていた。

 

 それは本当にサイバー・ダークデッキなのかと疑問を覚えた亮だったがそれは直ぐに杞憂となる。

 

『マスター! 呼んだー?』

 

「ああ、頼むよ。ネクロ」

 

『うんっ! 任せて!』

 

「私は手札から魔法カード、"突然変異(メタモルフォーゼ)"を発動。自分フィールド上モンスター1体を生け贄に捧げ、生け贄に捧げたモンスターのレベルと同じレベルの 融合モンスター1体を融合デッキから特殊召喚する。私はレベル8の"ギミック・パペット-ネクロ・ドール"を生け贄に捧げ――同じくレベル8の"サイバー・ツイン・ドラゴン"を攻撃表示で特殊召喚」

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

星8/光属性/機械族/攻2800/守2100

「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」

このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。

(1):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。

 

 ナイトメアの背後に見慣れた双頭の機械龍が姿を表し、亮へと視線を向ける。

 

サイバー・ツイン・ドラゴン

ATK2800

 

『がおー! おっきくなった!』

『ぐおー! 強いぞー!』

 

「融合なしでサイバーのカードを全く使わずに"サイバー・ツイン・ドラゴン"を出すとは……!」

 

「これは――」

 

 鮫島校長も驚いてはいるが、それ以上に亮にとっては衝撃だった。

 

 そもそも彼にとってのデュエルの中心はサイバー・ドラゴンそのものである。そこだけは彼がどれほど身を堕としても変わらないことだろう。

 

 それ故、サイバー流でサイバーのカードを使わず、全く新しい方法を当然のように取り入れているナイトメアの姿勢は、そもそもデッキを組み直すのではなく、新たなサイバーのカードを求めた亮にとっては衝撃以外の何物でもなかった。

 

 そして、何よりも凄まじいことはそれを守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)から当然のようにそのコンボを繰り出したことであろう。

 

 初手の手札に守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)及びギミック・パペット-ネクロ・ドールとギミック・パペットモンスターが来ることと、たった2枚のドローで突然変異(メタモルフォーゼ)が引けることを信じていなければ、守護神(しゅごしん)宝札(ほうさつ)をデッキに入れることは出来ない。

 

 これが決して博打ではない何かであるということを亮はありありと見せつけられたのだ。

 

「精霊、デッキ、自分自身、勝利……あらゆる全てを信じて戦えれば、負けても何も悔いはないでしょう?」

 

 驚く亮を見てか、ナイトメアは口を開く。

 

「全てを疑って賢く生きるよりも、全てを信じた末に死ぬ馬鹿の方が私はいい。だから私は仮に闇のデュエルで今死のうと何も後悔はないのですよ。デュエリストとして、最期の一瞬まで私は笑ってみせましょう」

 

 それは信じるという言葉だけでは決して説明のつかない狂気の域にまで達した何かだった。

 

 そして、亮は遂に気づく――。

 

 ナイトメアが抱いているものは、立っている境地は、鬼など遥かに生温いデュエルの極地だと。リスペクトやアンチリスペクト以前に、決してマトモな人間ならば至ろうとはしない、至ってはいけない"理想のデュエリスト"そのものであると。

 

「最後に手札からフィールド魔法、"ブラック・ガーデン"を発動します」

 

 その瞬間、フィールドは屋上の景色から、(いばら)に閉ざされた深い暗黒の庭へと姿を変える。鬱蒼としつつも異様な生命力に溢れたそのフィールドは恐怖を孕んでいた。

 

「さあさあ、愉しいデュエルを致しましょう! ドローの1枚、戦闘のひとつ、魔法・罠のひとつにさえも全てを信じて己の魂を賭ける――それが私の愛したデュエルの形です」

 

 そう言って笑うナイトメアの様子は、無邪気にさえ思えてしまった。本当に心の底から信じ、愉しんでいるのだろう。

 

ナイトメア

LP4000

手札0

モンスター1

魔法・罠2

 

 

「…………そうか……クククッ」

 

 ナイトメアの本質を理解した亮は小さく声を漏らす。

 

(なんて……なんて簡単なことだったんだ……何も失う必要なんて最初からなかった……)

 

 そして、鬼の地平以上のモノを見た亮はゆっくりと自らのデッキに手を掛ける。

 

「いいだろう……俺も全てを信じてみよう……!」

 

 そして、亮はカードをドローし、目の前の怪物と同じ境地に立つことを理想に対峙した。

 

 

 

 







\【サイバー・ダーク(ガーデン軸)】/

暇潰しでしか使わない(魔改造されていないとは言っていない)

!鎧黒竜《がいこくりゅう》-サイバー・ダーク・ドラゴン

!鎧獄竜《がいごくりゅう》-サイバー・ダークネス・ドラゴン
※リックくんの裏サイバー流デッキで一番酷い点(まだ戻ってない)

サイバー・ダーク・インパクト!「ファッ!?」



~QAコーナー~
Q:十代って絵上手いの?

A:そんな描写は特にないですが、明らかに自作の寝るときに使っている自分の顔のお面が、やたら可愛いデザインで十代の顔の特徴をわりと捉えていて上手いなと作者が思ったからですね。可愛い絵とか得意そうな気がします。

Q:全てを信じる故の強さとか言ってるクセにリックくんが超邪悪なのはなんで?

A:信じているレベルがフェイスレス並みだから。





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