待たせたな!(震え声)
ほんへの方です
ところで皆さん、マスターデュエルは順調ですか?
ちゅーに病魔とか、ちゅーに菌とかいう奴ももちろんやっているのでプラチナ帯で見掛けたらぼこぼこにしてやってください。ちなみに作者の主力はエルドリッチ、LL戦線、電脳堺、召喚シャドール、アンティーク・ギアです。対戦よろしくお願いします!(デュエルで皆を笑顔に)
ノーフェイス攻略5日目の昼下がり。
「まるで終わらないわね……」
オベリスク女子寮のデュエル場にて天上院明日香はノーフェイスと他の女性生徒がデュエルする様を眺めていた。
一度は心をへし折られた彼女自身も改めて何度かノーフェイスに挑んだが、結果は未だ彼女ではない者とデュエルが続いている事が証明しているであろう。
「明日香さま……ジュンコさんがいませんの……ずっとずっと……」
(この娘もそろそろ限界ね……)
明日香の取り巻きと他者から認識されている浜口ももえは、片割れの枕田ジュンコが約5日も姿を現さないため、気が気ではない様子である。
とは言え、明日香やその他の女性生徒は現在審判をしているメデューサ教諭が"ジュンコさんは借りました。後で返します"等と公言していたため、あまり心配はしていない。
しかし、一番の友人であるももえはそうではないらしく、また心配が度を越したのか、目に光がなくやや濁り始めているため、ダークネスを経験した明日香からしても若干怖いレベルであった。
「今回は勝てるかも知れないわ」
「そうなのですか……?」
ももえの意識を反らすため、明日香は現在行われているデュエルに意識を向ける。
ノーフェイス
LP1800
手札2
モンスター1
魔法・罠0
藤原雪乃
LP700
手札2
モンスター2
魔法・罠1
そこでは女子生徒――明日香の友人でもある藤原雪乃がノーフェイスとデュエルをしていた。更に互いのデッキ枚数は半分以下に落ち込んでおり、それだけ長く交戦していた事も伺える。
星7/闇属性/水族/攻1600/守2800
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のネッシー」以外だった場合、さらに手札から「未界域のネッシー」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。デッキから「未界域のネッシー」以外の「未界域」カード1枚を手札に加える。
『■■■……!』
ノーフェイスの場には巨体と長い首を持つ未確認生物が、その首で己を守るように身を固めるばかりである。
DEF2800
それに対する雪乃のフィールドには2体のエース級融合モンスターと1枚の伏せカードがある。
「うふふ……! もちろん、まだ……楽しませてくれるでしょう?」
未だ交戦する姿勢に一切の曇り無い彼女の盤面はそれ相応のモンスターが並んでいた。
エルシャドール・ネフィリム
融合
星8/光属性/天使族/攻2800/守2500
「シャドール」モンスター+光属性モンスター このカードは融合召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。
(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「シャドール」カード1枚を墓地へ送る。
(2):このカードが特殊召喚されたモンスターと 戦闘を行うダメージステップ開始時に発動する。そのモンスターを破壊する。
(3):このカードが墓地へ送られた場合、自分の墓地の「シャドール」魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。
融合
星9/光属性/機械族/攻2500/守2100
「召喚師アレイスター」+光属性モンスター
(1):1ターンに1度、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、そのカードと同じ種類(モンスター・魔法・罠)の手札を1枚墓地へ送って発動できる。その発動を無効にし除外する。
そこにいたのは闇色の光を纏う女神に似た巨大な傀儡と、チャリオットと半ば一体化した白銀の騎兵である。
エルシャドール・ネフィリム
ATK2800
ATK2500
局面はライフポイント以外で完全に雪乃が優勢。また、エルシャドール・ネフィリムと、
「いひひっ……!」
ノーフェイス
手札2→3
そして、ターンはノーフェイスに回り、彼女はそのまま魔法カードを発動した。
「手札から"ライトニング・ボルテックス"を発動します。手札を1枚捨てて発動され、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊します」
審判兼翻訳のメデューサ教諭の声に従い、手札が捨てられると共に雪乃のモンスターらの頭上に眩い雷光が輝き、全てを貫く落雷と化す。
「ダ・メ。"
それに呼応するようにメルカバーがその武具を振り上げると、その切っ先に淡い緑の光が灯った。
「私は速攻魔法"
そして、振り抜かれると共に迸った光はライトニング・ボルテックスの雷光を切り払うと共に、この場から跡形もなく消滅させる。
『ノコッ!』
かと思えばノーフェイスの場には、どこか愛嬌のある寸胴な蛇に似た未確認生物が姿を現した。
星3/闇属性/爬虫類族/攻1300/守 0
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のツチノコ」以外だった場合、さらに手札から「未界域のツチノコ」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。
ATK1300
「いひっ」
「"ライトニング・ボルテックス"のコストとして墓地に捨てられたカード、"
(そう言えばなんで暗黒界と未界域が捨てられた時に発動したりしなかったりするのかしら? まあ、任意効果――)
「それは暗黒界は"カードの効果で墓地に捨てられた時"、 未界域は"手札から捨てられた時" だからですよ、明日香さん」
その言葉と共にいつの間にかメデューサは今まで居た位置から明日香の隣に居た。そのまま、メデューサは明日香の背を押して審判が立つ位置まで戻り、明日香の隣に据え置く。
「…………えっ……」
「つまりコストは効果ではないため、コストで捨てた場合の暗黒界は発動できず、コストなど関係なく捨てた場合のため未界域は発動できます。要は未界域カードはコストでもハンデスでも発動でき、暗黒界カードはハンデスのときのみ発動できます」
「なるほど……それよりもメデューサ先生? 今私声に出していまし――」
「更ァにっ! ノーフェイスさんドローした魔法カードを発動です!」
明日香にしかわからない超能力のような何かを発揮しつつ明らかに話を反らすメデューサ。そんな彼女に眉を顰めつつも明日香は盤面に目を向ける。
ノーフェイス
手札0→1
「いひひっ……!」
そして、ノーフェイスは引いたカードの1枚をそのまま発動する。
「通常魔法、"
ノーフェイス
手札0→3
更にノーフェイスは1枚のカードを雪乃へと見せた。
効果モンスター 星8/闇属性/獣族/攻3000/守 0
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):手札のこのカードを相手に見せて発動できる。 自分の全ての手札の中から、相手がランダムに1枚選び、自分はそのカードを捨てる。それが「未界域のビッグフット」以外だった場合、さらに手札から「未界域のビッグフット」1体を特殊召喚し、自分はデッキから1枚ドローする。
(2):このカードが手札から捨てられた場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。
「んー………右から二番目にするわ」
「いっひっひっ」
その言葉に従い捨てられたカードは、
「あら……大当たりね」
そのまま、人間の数十倍はあろうかという巨体の猿人である
ATK3000
「選ばれたカードは"
「くっ!?」
"暗黒界の龍神 グラファ"による闇色の爆炎が直撃し、"エルシャドール・ネフィリム"が崩れ落ちる。
「ネフィリムの効果で"
「では手札から"
星4/闇属性/悪魔族/攻1700/守 0
このカードがカードの効果によって手札から墓地へ捨てられた場合、自分のデッキから「暗黒界」と名のついたカード1枚を手札に加える。相手のカードの効果によって捨てられた場合、さらに相手の墓地に存在するモンスター1体を選択し、自分フィールド上に表側守備表示で特殊召喚する事ができる。
ATK1700
「そして、"
ATK2700
「いひっ」
「このカードは"
ノーフェイスの2体のモンスターは、共に
「私はトラップカード、"ドラグマ・パニッシュメント"を発動! 相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として、そのモンスターの攻撃力以上の攻撃力を持つモンスター1体を自分の融合デッキから墓地へ送り、対象のモンスターを破壊するわね。"
その発動と共に突如として地面から生えてきた赤熱する巨大なゴーレムに
残る
「うっ……」
藤原雪乃
LP700→200
怯んだ雪乃が再び相手フィールドを見ると、そこには身体をくの字に曲げて助走を付けるように踏ん張っている妙な生き物の姿があった。
その直後、それは跳ね飛ぶと共に身体を車輪のように丸めて凄まじい速度で雪乃へと突き進む。
「いひひっ……」
「では最後に"
『ツチッ!』
「はうっ!?」
ぺちんと雪乃の額に小さなツチノコがぶつかり、その割には地味に1300も攻撃力のあるそれがライフポイントを削りきった。
藤原雪乃
LP200→0
「うーん……いい線行っていたのですが私の
デュエル終了直後に小声で不穏な事をメデューサが呟いたのを明日香は確かに耳にした。
それと共に少し残念そうでありながら楽しげな笑みも浮かべた雪乃がメデューサの元に戻ってくる。
「負けてしまったわ。いいデッキだったのに残念ね」
「敗因はデッキの
小さく溜め息を吐きながらそんなことを言うと共に、まるで魔法のように掌からカードを湯水の如く生成して見せるメデューサ。明日香から見れば位の高いデュエルモンスターズの神が全く隠すことなくその権能を発揮しているだけなのだが、常人から見ればただの手品であり、それをわかってそのようにしている彼女は余りに人間という生き物を知り過ぎていると畏敬を抱く程であろう。
「ねぇ先生? このデッキ私にくれない? 気に入っちゃったわ」
何でもないように雪乃から呟かれたその言葉に明日香は少なからず驚く。
「おやぁ? 負けておきながら大きく出ましたねぇ?」
メデューサが笑みと共に細く歪めたその目と嘲笑と悦楽が同居した舐め回すような視線を前に明日香は、無意識にぞわりと背筋が凍らされるような感覚を覚える。
基本的に丁寧な口調だが、その態度は極めて慇懃無礼。礼儀があるように見えて、その実自身の意思をほぼ曲げず、酷く尊大で傲慢。己の行いで相手がどうなるのかということを余り判断材料として捉えていない。何かに尽くすように見えると同時に何かを奪うことにまるで躊躇がない。
概ね"神話の神"と言えるだけの傍若無人さを持つ彼女――真の名をヴェノミナーガは、言われてみれば確かに人間のそれとは掛け離れたものであり、知るからこそ恐れというものを確かに明日香は認識している数少ない人間なのだ。
「でも……まあ、構いませんよ。信奉者に賜はすのも主神の甲斐というものです。まあ、初めてにも拘らず、あれだけそのデッキを使いこなせるということはそういうことなのでしょう。慎んで持っていきなさい」
「ええ、ありがとう。大切にするわ」
(二人とも凄いわねぇ……)
けっして、目の前の教員の形をしたものが人間などではない事を知っている明日香としては、神らしく傲慢な彼女と同時に、そんな彼女に対等ではなくともまるで恐れずに接する事の出来る雪乃も逸脱した存在だと考えていた。
まあ、雪乃に関してはスリル中毒な気がある変わり者なためという認識もあるが、それでも明日香から見ても異様な精神構造をしているナイトメア並みに彼女と平常に接する事が出来る点は特筆に値すると言える。
また、半日ほどこのデュエルモンスターズの一柱に同化されていた明日香は、彼女の趣向の一部をやんわりと理解しており、彼女は"かなり雑に面白いモノが好き"であり、雪乃や自分自身が明らかに該当している事を認識していることも始末に負えないだろう。
「んー?」
すると彼女はデュエル場の所定の位置を見つめ、楽しげに頬を綻ばせた。
「ああ、真打ちの登場ですね」
「真打ち?」
「はい、マ――リックさんが用意した方の秘策です。私の方は私が少々本気でチューンナップしたデッキを使ったゆきのんさんでした」
最早、取り繕う必要があるのかと思いつつ、ナイトメアの秘策だという挑戦者を明日香は眺め――。
「デュエルなノーネ!」
「いひひっ!」
(――………………?)
しかし、そこにはノーフェイスとデュエルをし始めた実技担当最高責任者ことクロノス・デ・メディチしかおらず、明日香は首を傾げた。
世界の裏そのものであるダークネスを特に苦もなく打倒し、明日香にとって恩人であり、レジェンドデュエリストという認識になっているナイトメアことリック・ベネットが用意した秘策ともなれば、高位の精霊でも連れてきたのかと考え、辺りを見回して空を見上げるが、特にそのような影はない。
ちなみにオベリスクブルー女子寮で男性教員がデュエルしている理由は、教師陣としても明らかに差のある実力を認識しており、教員総出で攻略に乗り出したからだ。まあ、結果の程は未だにノーフェイスが立っている事から然るべきだろう。
『……? どうしましたか、明日香さま?』
(かわいいわ……)
自身の隣を見れば、後ろに手を組んで顔を突き出すようにこちらを見上げるサイバー・チュチュと目が合うため、明日香が精霊を見る力を行使していない訳でも失った訳でもないらしい。
「いや、今デュエルしているではありませんか? 明日香さんもよく知る人でしょう?」
「あなたに先攻は譲りまスーノ!」
「いひっ」
彼女の視線の先にはやはりクロノス・デ・メディチの姿があり、ノーフェイスがデュエルに応じ、流れるようにデュエルに行われる様子はこの5日間で最早見慣れた光景と化していた。斯く言う明日香もそのように考えており、仮にもノーフェイスがクロノスに倒されるビジョンなどまるで浮かばない。
ちなみにこれまでの生徒たちの評価からか、特にクロノスがデュエルを行うため、生徒が見に集まるような様子はなく、明日香の評価が決して間違っている訳ではない事を意味していた。
「えっ……? 本当にクロノス先生が……?」
しかし、どうやら秘策とやらはクロノスの事らしく、他に特別なデュエリストや精霊は見る影もない。
「本当に……? 私をオモチャにしているわけではなく?」
「明日香さんはオモチャにしていますが、本当です」
「本当の本当……?」
「本当の本当です。このカシオミニを掛けてもいいですよ」
とても年期の入った電卓らしきものを掲げつつ念押ししてくるメデューサ。恐らくはデュエルディスクを使わない時のライフポイント計算用――かと明日香は一瞬考えたが、彼女はそういった場合にはメモ帳とペンを使って計算しているため、全く意味のわからない品であった。
「うしっ! 間に合ったぜ!」
すると本来ならばラーイエロー寮のノーフェイスと戦っている筈の遊城十代が彼女らの前に姿を現し、意外な人物の登場に明日香は目を丸くした。
「あらボウヤ? 珍しいわね」
「リックに"クロノス先生が全力でデュエルするから見て来いよ"って言われたんだ!」
「リックが? クロノス先生を……?」
その上、ナイトメアはクロノスが勝つと言うことをまるで疑っていないらしい。
自身の評価と彼の評価が余りに解離する事を強く感じ、明日香は益々大きく首を傾げて疑問符を浮かべていると、十代はさも当たり前のような表情で口を開く。
「えっ? だって強いだろ? クロノス先生。ほら――」
融合
星9/地属性/機械族/攻 2800/守 2000
「古代の機械参頭猟犬」+「古代の機械」モンスター1体
(1):このカードが融合召喚に成功した場合、相手のLPを半分にする。
(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に3回まで攻撃できる。
(3):このカードが攻撃する場合のダメージステップ終了時まで、相手は魔法・罠カードを発動できない。
クロノスのフィールドには歯車と鉄で構成され、赤紫色の体躯をした荒々しい三つ首の猟犬の姿があった。
ATK2800
「すっげーわくわくするじゃんか!」
「わくわくアーゼウス」
明日香は見覚えのない【
事の発端は4日目の正午まで遡る。
◇◆◇◆◇◆
ノーフェイス攻略週間4日目の昼休憩の時間。2日目と3日目は全く状況が変わっておらず、4日目も既に半日が終わっていた。
カイザー先輩はノーフェイス攻略をしつつ、半ば籠りながら新しいサイバー・ドラゴンのカードをデッキに組み込みつつ、サイバー流以外のカードをサイバー流に組み込む可能性を模索している様子である。
籠る直前に"プロデュエリストになれば、ノーフェイスともいつでもデュエル出来るな"等と本気に聞こえる不穏な冗談を言っていた。また、食事もロクに取らずに、心底楽しそうな笑い声が部屋の外まで響いているので、数日はあの調子であろう。新しい超高額カードを落札した俺もたまにあんな感じになっているので気持ちはよく分かるために責められはしない。
そのため、現在のカイザー先輩はどちらかと言えばデッキ構築と探求に対して多めに意識を割いているので、あまり戦力にはならないかも知れない。原因は新しいカードを渡した俺である。
その上、最初から期待はしていなかったが、ノーフェイスが加減をする気も、容赦をする気も更々ないことが4日間でよくわかった。アイツのデッキ、揃いも揃って構成に殺意しかない。申し訳程度に仮面カードが刺されているが、しっかりとデッキに噛み合ったものを選んで入れており、デッキのパーツのひとつと化している。
「どうすんだよこれ……」
流石に俺のせいで七星門の鍵が全て奪われることになれば洒落にならないため、食堂で頭を抱えていた。
当たり前のように片手をメデューサ先生に変えて審判をしており、本体はこちらにいるヴェノミナーガさんに煽られても仕方のない事だろう。
『プギャー――あばばばば!?』
それはそれとして、大成仏は投げ付けた。銭湯にある電気風呂ぐらいの効果はあるかも知れない。
『でも実際、ヤバいですよねー。事実上のデュエルアカデミアトップスリーを出禁にしてのデュエルなんて流石に思いませんでしたもの』
まあ、ノーフェイスが来ても俺がぶち転がせばいいと思い、特に対策をしていなかった節は多分にある。
まさか、良心の塊のような奴が、真っ正面からあんな姑息な手段を取るなどまるで予想していなかったのだ。
『え……? いやいやいや、今の環境に満足しているだけで、精霊界でのあの方はかなり狡猾で残虐寄りの精霊ですからね? 拠点周辺が多種族から禁域に指定されている程度には――』
いつものヴェノミナーガさんの戯言は聞き流し、本格的にどうするか考える。
まず、ラーイエローにいるデストーイデッキのノーフェイスは恐らく期間内に十代が倒してくれるだろう。始まってからずっと楽しそうにしてるし、主人公だし。
とすると残るノーフェイスはオベリスクブルー女子と、デュエルアカデミア本館の2体だが、オベリスクブルー女子の方のデッキが余りにも凶悪過ぎる。
【未界域暗黒界】――。
リンク召喚全盛期にも関わらず、3期【カオス】に帰ったようなレベルのとんでもなく単純なカードパワーによるゴリ押しと大量展開で、環境まで伸し上がったカテゴリーである。
また、手札から捨てられた時に効果が発動する性質上、夢幻泡影などのポピュラーな手札誘発では一切止められないと言うことも拍車を掛けただろう。後、ぶっ壊れてる方のチラ見魔王様こと暗黒の魔王ディアボロスとも割りと相性が良かったため、隣の芝刈り対策を兼ねて60枚にして強引に捩じ込まれたり、はたまたサイドデッキをフル活用したりすると、型は似ている全く別のデッキになる点も凶悪であった。
まあ、要は並大抵のデッキが相手では、カードパワーが違い過ぎるのである。手札抹殺、相手は死ぬ。
『どうするんですかアレ? 私かラーさんを場に出すか、マスターとか十代さんのインチキドロー相手じゃないと1年やったって負けませんよ?』
"精霊たちも生き生きしてますし"と更にヴェノミナーガさんは続ける。
そうなのだ。【未界域暗黒界】及び【未界域魔轟神】はそれまでのデッキに比べるとソリティアの性質が違うと言ってもいい。また、ノーフェイスの構成の場合、極論、捨てて殴る――ただそれだけである。
故にノーフェイスが手札事故を起こす事はまずないと言っていいだろう。
『で? 誰が倒すんですかアレ?』
仕方がないため、俺は【征竜】を貰った頃に沢山はっちゃけて以来、カードの過度な生産は封印していたが、事情が事情なため、色々な意味での最終手段を使うことにした。
「ここに俺の"
『ありますねぇ』
星8/地属性/機械族/攻3000/守3000
このカードは特殊召喚できない。
(1):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
デュエルアカデミア本校では言わずと知れたパワーカードである。表示形式の変更にも強いのがえらい。
俺は
「そして、これが俺の手持ちには4枚あります」
『社長なら1枚破り捨ててそう』
ブルーアイズのカードを持つ者は、世界で社長ひとりだけだからね、仕方ないね。ちなみに4枚ある理由は、3枚目を入手した時にそれまでのモノより遥かに安い4枚目を見つけてしまったため、腹が立って買ったものである。
「これに他の最上級の
『本体よりつよそう』
ヴェノミナーガさんは自分の親のような存在をなんだと思っているのか疑問に思ったが、よく考えたら煽られてボコボコにしているので、大した扱いはしていないのかも知れない。
数多の
『じゃあ、ついでに私の毒も振り掛けときますね。言いたいことも言えないこんな世の中じゃ――』
蛇の片腕の舌からパウダー状の
それと共に倍プッシュでダークネスの力を流し込む事で、カードたちは暗黒に包まれながら紫電を放ち始める。
チクショウ、どう足掻いても分かり易過ぎるこの時代のパワーカードを4枚や他の
『普段使わないですし、いいじゃないですか』
俺の恨み節をヴェノミナーガさんが宥めつつ、カードたちは1枚のカードへと収束して行く。
これと後は幾らかカードを見繕えばいいだろう。俺の知る限り、それらをそれとなくあの人に渡しておけば実力的にも人間性的にもきっと打倒してくれるだろうと思い馳せた。
◇◆◇◆◇◆
オベリスクブルー女子寮――。
この離島にあるデュエルアカデミア本校にて、本来ならば男子禁制の園である。
しかし、現在そんな場所はセブンスターズのノーフェイスの襲来により、珍しく開放され、男女問わず出入りがなされていた。
「マズいノーネ……」
そんなオベリスクブルー女子寮にて、よく整えられた中庭のベンチに座り、ひとり頭を抱えている教員にして実技担当最高責任者――クロノス・デ・メディチの姿がある。
以前、下らない上に後ろ暗い理由で
既に5日目に突入したノーフェイスのデュエルは現在、本館、ラーイエロー寮、オベリスクブルー女子寮のデュエル場の三ヶ所にて、どのような力か同時にデュエルを行っているが、その中でも圧倒的な展開力と破壊で押し潰してくるデッキが女子寮の【未界域暗黒界】である。
その強さは他のノーフェイスのデッキとは頭ひとつ以上抜き出ていると言っても過言ではなく、オベリスクブルー女子の女王と呼ばれる天上院明日香が瞬殺されて寝込む程であり、それ故に女子生徒の多くは遠巻きに見るばかりで、ノーフェイスを恐れてあまりデュエルをしたがらなかったのだ。
そう言った事情で少数を除いた女子生徒は積極的にノーフェイスへ挑まず、元々このノーフェイスに挑んでいた丸藤亮は諸事情で頻度が低下しており、元々の格式の高さと隔絶感からあまり他の寮生は来ず、結果的に教員が総出でオベリスクブルー女子寮のノーフェイス攻略に乗り出す羽目になったのである。
まあ、そもそもオベリスクブルーの女学生は平均的にあまりデュエル自体の実力は高くはない。尤もそれはピンキリであり、デュエリストの女性人口が多くはないという事実もあるが、男子生徒のみオシリスレッドからオベリスクブルーまで事実上の階級で別れており、女子はオベリスクブルーのみというところからも来ている。また、デュエルアカデミア本校そのものがエスカレーター式の名門校であり、学歴のために在籍しているという者も少なからず居ることも理由に挙げられるであろう。
(教員総出でまるで歯が立たないノーネ……)
尤もクロノスが頭を抱えている理由はそんな女子生徒の事ではなく、教師陣が束になっても全く歯が立たない現状に対して向けられていた。
(カミューラに七星門の鍵を奪われてしまった以上ハ。今だけが力になれるチャンスナノーネ! だというのに……なんと不甲斐ないノーネ……!)
抱えていた頭を離したクロノスの手には1枚の融合モンスターが握られていた。
融合
星10/地属性/機械族/攻4400/守3400
「古代の機械巨人」+「アンティーク・ギア」
モンスター×2 このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。
(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。
(3):このカードが破壊された場合、自分の墓地の「古代の機械巨人」1体を対象として発動できる。そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。
クロノスが生徒に対しては使った事の無いレア中のレアカードであるが、これを用いてもノーフェイスにはまるで歯が立たなかった。その事実に彼は憂いているのであろう。
(……なぬ? あれはシニョールリックとシニョーラメデューサでスーノ)
するとクロノスの視界の端に昼食時だからか審判をしていないリックとメデューサの姿が映る。
彼らはクロノスには気付いていないらしく、歩きながらメデューサがリックに対して捲し立てるように語る姿があった。
「今期のイチオシアニメはもちろん、"その
「キャラメルマキアートより訳のわからない話ですね」
「皆バニーが大好きだから!!」
「目が怖い。後、オタク特有の自分にしかわからないし、前提知識の必要な話題を他人に突然振るのは止めてください」
「実は私、コスには一家言ありましてねっ!」
「その姿、そもそもコスプレですものね」
(相変わらず、二人は姉弟かと思うぐらい仲が良さそうナノーネ)
二人は教師と生徒を超えた仲――悪友のようなものだということは学校中の公然の秘密である。よく非常に下らない内容で仲良く喧嘩している姿も目にするため、犬も食わないアレなのであろう。
ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる二人は、中庭の隅のベンチに陣取り、片方は肉巻きおにぎりを取り出し、もう片方は茶色い中身の普通の手作り弁当を取り出す。どちらがどちらなのかは語るまでもない。
「そもそも最初にまりんちゃんが希望してコスプレするのが、聖♡ヌルヌル女学園 お嬢様は恥辱倶楽部 ハレンチミラクルライフ2の黒江 雫たんです!」
「明らかにタイトルが抜きゲーじゃねーか」
「ちょっと興味沸いてきました?」
「………………1巻だけですよ?」
「シャオラァッ!!」
(な、なんの話しているのでスーノ……? アプリコット……?)
ちなみにメデューサが授業中に内容がとんでもない方向に脱線しまくり、鮫島校長にお叱りを受けた回数は1度や2度ではない事も生徒によく知られた事実である。
まあ、それでも全く降格されず、生徒からの人気はトップクラスの教諭なため、その実力とカリスマ性は確かなのであろう。"まず、デュエルの教科書を鞄にしまってください"と初授業で言い放ち、それ以来一度も教材を生徒に触らせていない事が生徒にとって好印象なのかも知れない。
「あー……アニメ3話のまりんちゃんの付き合っちゃう?発言を一ヶ月後のまりんちゃんに叩き付けてぇー……」
「そもそもギャルのオタクなんて存在するんですか?」
「ファンタジーやメルヘン――と思いきや現実にもいるんだなぁ……これが……。私行きつけのコンカフェとかにも滅茶苦茶いますよ? キャラとかじゃなくて」
「ウッソだぁ」
「だから週3で貢いでんだよ言わせんな恥ずかしい」
「それが己の給料の使い途か……」
「女の子が女の子とお酒飲んだらダメですか? 嫁のキャバク――コンカフェ通いぐらいは認めてください」
「その姿でとんでもないこと言わないでください。よく知らないですけど、酒飲んで帰って来ますもんね。ちなみに次点は?」
「TS百合マシマシという作者の性癖も透けて見える"怪人開発部の黒井津さん"ですねー」
「また、ニッチな……」
「失礼な! TS百合からしか摂取できない栄養素は間違いなく存在して――」
5分程で食事を終えた二人は、ベンチから立ち上がるとまた何処かへと歩いて行く。
その際、クロノスは二人が座っていたベンチの隣にポツンとアタッシュケースが残されている事に気づいた。インダストリアル・イリュージョン社のロゴと"あまびえさん"のカードのデカールがデカデカと貼ってあり、校内の人間ならば一発で誰の持ち物か理解出来る代物である。
「――! シニョールリッ――」
それ故にクロノスはアタッシュケースに駆け寄り、二人が去って行った方法に目を向けたが、そこには既に彼らの姿はなかった。
その直後、何故かいつも付けている筈のダイヤル錠が付いていないアタッシュケースの留め具が外れ、中身のカードが辺りに散らばる。
「ペペロンチーノ!?」
慌ててカードを拾い上げるクロノス。見た事の無いカードからよく知られた汎用カードまで、様々なカードがそこにはあり、回収している内にふとそれを目にした。
「
数にしてアタッシュケースの中にあったカードの幾らかが、【
(これだけでいったい幾らか掛かるノーネ……)
世界でも有数のカード収集家として名の通ったナイトメアというプロデュエリストの財力にクロノスは気負されつつ、彼の中で別の感情が膨れ上がった。
(これは生徒のカード……しかし……!)
してはならないことだとわかりつつもクロノスがカードを拾いつつ【
「――ぬ!?」
そうしている内にクロノスは1枚の【
(シニョールリック……今だけ借りるノーネ!)
クロノスはカードたちを使い、自らのデッキを構築し直し始めたのだった。
~皆大好きアーゼウス集~
・わくわくアーゼウス
・百合の間に割り込みアーゼウス
・アーゼウスが寿司を握るのはダメですか?
※感想に似たようなアーゼウス構文を書くと増えるゾミ☆
~QAコーナー~
Q:明日香さんのヴェノミナーガさんに対する評価悪くない?
A:~明日香が見ている時にじゃしんさまが言ったり言わなかったりしたかもしれない発言集~
じゃしん「これよりパック開封デスマッチを行います!!(悦楽の極地)」
じゃしん「オラッ!
じゃしん「明日香さん、胸でっかいですね(ダイレクトセクハラ)」
じゃしん「どうしてデュエルモンスターズの授業でデュエルしないんだ……?(教員にあるまじき発言)」
じゃしん「大事なことは全部バニーが教えてくれました(召命の神弓-アポロウーサ)」
じゃしん「悔しいでしょうねぇ?(ソリティア先行制圧)」
じゃしん「マスター、今日のご飯は何ですか?(失われた野生)」
じゃしん「あ゛~、やっぱりこたつが私のハウスです。むしろ、住んでます(神の居城-ヴァルハラ)」
じゃしん「マスター、ドローパン買ってきてください(逆転の女神)」
じゃしん「マスター、お昼ご飯はまだですか? えっ? さっき食べた……あれじゃ足りません。おやつください(時の女神の悪戯)」
じゃしん「は……? 私、餓死しますよ?(神の警告)」
じゃしん「いいですか、マスター。養えないならペットは飼うべきではないんです(神の忠告)」
じゃしん「はやくおやつを出さないと……なんかこう……デュエルアカデミアがすごいことになりますよっ!(神の通告)」
じゃしん「ちくわはおやつではない(神の摂理)」