遊戯王なのに今回もデュエル無いんだぜ?
「はあ……」
ヴェノミナーガさんが来てから数日後。
俺は自分の持つカードの群れの中で溜め息をついていた。
「足りねぇ……」
『カードがですね』
「うん……」
どれだけパックを買ってもGB版の遊戯王ゲーム程度のデッキを作るカードしか揃わない……。
この世界のパック、貧相過ぎんだろ……。平均相場が凄まじいわけだよ……。
『ほへー。1000枚以上あって最高打点の4レベモンスターが魔法剣士ネオですか…ていっ』
あ、こら投げるな。
魔法剣士ネオとか……GBA版の初期遊戯王ゲームじゃ、よく使ってたなー。エキスパートⅠだったか。
……ってマジで笑えねぇよ……。
『で? 一番のレアモンスターってコレですか?』
ヴェノミナーガさんはヒラヒラと俺のネオを振っていた。
ちなみにこの世界の遊戯王カードは恐らく素材が紙ではない。
だって水没しても大丈夫だし、上手く投げると壁に刺さるし、そもそもよく飛ぶしな。
「いや、コレ」
俺は懐から1枚のカードを取り出した。
このカードは確かに強い。レアリティも凄い。だが……使えない。
何を言ってるかって………まあ、こういうことだ。
ガーディアン・デスサイス
星8/闇属性/悪魔族/攻2500/守2000
このカードは通常召喚できず、このカードの効果でのみ特殊召喚できる。「ガーディアン・エアトス」が戦闘・効果で破壊され自分の墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。このカードが特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから「死神の大鎌-デスサイス」1枚をこのカードに装備する。このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分は召喚・特殊召喚できない。このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。手札を1枚墓地へ送り、このカードを墓地から特殊召喚する。
「………………出せねぇんだよ!」
『プギャーm9』
「その指…いや、舌は止めろ」
ただ、俺の知っているデスサイスは蘇生効果ではなく、破壊耐性だったような…。それに絵がなんかちょっと違う気がする。
まあ、遊戯王じゃ、よくあることか。
マジでこんなのどうすればいいんだ……。奇跡的に当たったレアカードだから思い入れはあるし、使いたいとも思う。
だが、ガーディアン・エアトスなんていくらすると思ってやがる……。
ガーディアン・デスサイスは市場に出回らない超レアカードだが、それはガーディアン・エアトスも同様。
市場に出回ってるのを過去から現在にかけて見たことがないから値段なんか知らんが、過去に女神の聖剣ーエアトスが日本サイトに出たのを見つけ、値段を見てみるとあらビックリ。
在庫切れ(※入荷未定) 女神の聖剣ーエアトス 9000万円。
高ェー!
ちなみにおおよそレアな専用サポートカードは大体、サポートを受けるモンスターの4分の1の価格と言う謎の法則がある。
それから考えるとガーディアン・エアトスは……3億6000万円になりますね。合わせて4億5000万円だー。
………………バカじゃねぇの?って言いたいところだが、重要なことはデュエルで解決するこの世界ではデュエルの強さ=人の価値、あるいは実行力になるわけだ。
そりゃ、高いわ……。
その点、HEROは凄いね! 融合モンスターと融合以外は打点が低すぎるせいか、1万以内にHEROのバニラは揃っちゃうよ!
融合モンスターの出す条件のキツさから融合モンスターも結構、お得だし。
主人公と被るのにも関わらず、鞍替えしそうに何度なったか……。
『それなら、ここは私が一肌脱ぎましょう!』
「脱皮なら外でやってくれ」
『ちょ……ひでぇ!? とりあえず近くのショップに行きましょうよー』
ヴェノミナーガさんが手を絡めながらグイグイ引っ張って来るので俺は仕方なく外へ行くことにした。
どうでもいいが精霊って回りの人からあんまり見えないから、今の俺は他の人から見えない何かに引っ張られてる少年になるわけだ。
こわっ……。
『お出かけれすかー♪ お出かけれすよー♪』
……やっぱり俺視点だと怖くないわ。
◇◆◇◆◇◆
ほんでホームセンター並の大きさのカードショップ。
子供から老人まで様々な人が真剣な、あるいは純粋な眼差しでカードを吟味したりしている。
ちなみに屋上は駐車場ではなく地域解放されているデュエルディスクを使ったデュエル場になっているのだ。
まあ、突然道路のど真ん中でデュエルされても困るからだろう。結構こういったブースがどこにでも必ずある。
まあ、今回はそこではなくパック売り場にいる。
そこには十数列、全ての列の両面でパックの穴を通して吊るすアレがところ狭しと並んでいた。
そして、その全てに1色で同じ柄のパックが吊るされている。
全て最新のパックだ。何万枚あるんだか。
突然だが、この世界のパックは前世のパックと大きく違う点がひとつある。
価格? いや、約150円。
枚数? いや、5枚。
正解は……。
"最新のパックからは全ての種類のカードが出ることだ"
つまり、最新のパックからは追加カードを含めた現存する全てのカードの中から5枚選出して1つのパックになっているのだ。
…………パックが150円なのにピンのカードが高いわけだよ。これだと何かしらの新カードが出る確率すら1%未満だ。
これはひどい。
なぜなら新カードがパックに入る度に古参のレアカードの入手率が下がるからだ。
つまり古参レアカードはレア度がさらに上昇し、価格がさらに高騰するのである。
そして最新のパックが出た時点で古いパックの製造は止められるのである。
結果、有り得ないレベルの価格インフレが起こるわけだ。
シリーズデッキをただの一般的な家庭の子が作るだって?寝言いってんじゃねェ。
これなら、昔テレビ特集で見たデュエルアカデミアの試験日当日に新パックが入荷してあれだけ人が雪崩れ込むような光景も合点がいく、恐らくアカデミア限定のカードがある程度、厳選され、レアが多少出やすいパックだったりするのだろう。ああ、早く入学してぇ……。
ちなみに価格が上がり続けるにはもうひとつ理由がある。
これは公式発表されているのだが…ちょっとサイトに繋ごう。よし、来た。
適当なレアは……コレでいいか。
天界王 シナト 枚数140枚。
おわかり頂けただろう。レアカードは現存枚数が公式ホームページで確認できるのだ。
即ち、この世界にシナトさんは140枚しか存在していないのである。
それが全て所有されているか、まだパックに残っているかなどは流石にわからん。
これが第2のインフレの原因、異常なほど低い、レアカード封入確率だ。
全世界にパックがあるのにも関わらず……いや、全世界でパックが売られているからこそ、シナトさんですらロトくじの1等の以上の価値があるのだ。
これから考えると数億だなんて低い方だろう。だって年末ジャンボ当てる方がまだ現実的だもん。
そもそも新旧含め、推定数十万枚のパックがあるこの店ですらレアカードが出るかどうすら怪しい。全て開封して数枚高額レアカードがあれば御の字だろう。
まあ、例えば10万枚買ったとしても約150×100000=約1500万円。うわー安い(白目)。
遊戯王カードのピンはこれからさらに高騰するんだろうな……。
それでもパックを買ってしまう……ビクンビクン。なんてボロい商売だ。
だってねぇ……レアカードが出たらとか考えるとねぇ……前世より遥かに1パックからの夢が広がるぜ……。
こうして子供は少ないお小遣いを溶かしていくのである。俺のようにな!
数年買い続けた結果がガーディアン・デスサイスだよ!
いや……レアカードが出てるだけマシなんだろうな……。
ちなみにサーチ対策は完璧なようでそんなことする人は一人もいない。そもそもサーチの概念が無いのだろう。
ガーディアン・デスサイス出した時にも癖で裏をスリスリしたが感触が他のパックと全く同じだった。対策は完璧だったようで、ざんねん。
ちなみに、この店で最も安いウルトラレアカードはこれだ。
トーチゴーレム (日本円にするとおよそ)11万円。
なんでや! トーチゴーレム関係ないやろ!(錯乱)
まあ……実際、この世界でコイツの利用法考えてる暇があったら他のことするわな。 ぶっちゃけ金のムダだ。
ああ、そうそうこの世界でも前世でも全く、変わらないことがあるぞ。
それはな……。
"女子キャラは高い"
喜べ、お前らの思考は結局、どこでも同じらしい。
ダメだ人類……早くなんとかしないと……。
そのせいでエアトスが高いんだ。訴訟。
『マスター! マスター!』
「ん?」
ヴェノミナーガさんが2段ぐらい前のパックを1つ持っていた。
たぶん、ワゴンに残ってたヤツだろう。
『はい』
「はいって……買えってこと?」
『精霊の力が一番強いヤツを選んでみました』
え? なにそれ新手のサーチ?
『とりあえず買ってみましょうよ。きっといいのがでますよ』
そこまで言うなら仕方ない。俺は適当に選んだ新パック1つと、ヴェノミナーガさんが持ってきたパックを購入した。
『開封ー、開封ー』
こちとらこれだけが楽しみで……。
ゴキボール
星4/地属性/昆虫族/攻1200/守1400
丸いゴキブリ。ゴロゴロ転がって攻撃。守備が意外と高いぞ。
「………………」
『そんな謀ったな、シャア! みたいな顔は止めてくださいよ! まだ、一枚目でしょう!?』
4枚目までは普通のカードだ……ん? 後ろ光ってるな! 当たりか!
トライホーン・ドラゴン
星8/闇属性/ドラゴン族/攻2850/守2350
頭に生えている3本のツノが特徴的な悪魔竜。
「……………」
『考えていることを当てましょうか?パッとしないカードが出たなとか思ってるでしょう? 顔に出てますよ?』
トライホーンって……トライホーンってお前……。
『でも強い精霊の力を宿しています。きっと土壇場で引けますよ!』
「ピンチの時に手札に来られても寧ろ事故だろ」
『ぐぬぬ……』
まあ、売れるか。うん、売れるな。高値で。
ん? ヴェノミナーガさんどこ行った?
『イジイジ……イジイジ……』
……ヴェノミナーガさんが視界の隅っこでイジイジしていた。いや、イジイジ言っている。
手の鼻先という非常に形容しがたい部分で、ぐるぐると円を書き続けているようだ……。
相変わらず何なんだこの神様は……。
『そもそもデッキなら私があるじゃないですか……イジイジ……』
ぶっちゃけヴェノミナーガさんのデッキは強すぎるんだよ……。
俺の今の年齢の子供なんて普通、高い攻撃力のモンスターが出たら勝ちみたいなデュエルしてんだぞ。ヴェノム・スワンプがチートに近い。
………………はあ……。
「ありがとうヴェノミナーガさん」
『!!? やっぱり嬉しいですよねー! ひゃっほー!』
飛び跳ね始めたヴェノミナーガさんを尻目に俺は新パックを開封した。
どらどら、はは相変わらずのバニラ率……ん? ……ん!?
「は?」
『どうかしましたか? ほうほうそれはまた…』
竜騎士ブラック・マジシャン・ガール
星7/闇属性/ドラゴン族/攻2600/守1700
「ブラック・マジシャン・ガール」+ドラゴン族モンスター。このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚でのみ特殊召喚できる。1ターンに1度、手札を1枚墓地へ送り、フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。その表側表示のカードを破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。
そこには騎士の鎧を着てキリッとした表情のブラック・マジシャン・ガールがなぜか社長の嫁に乗っていた。
俺は無言でトライホーン・ドラゴンを見た。
"ほら、俺を使えよ上級ドラゴンだぞ?"と煽られている気がする。
『で? ブラック・マジシャン・ガールは?』
「張っ倒すぞ……!」
『バッチ来いや! さあ! さあ!』
こうして俺のデッキ作りは順調に進んでいった。と、願いたい。
ちなみに竜騎士BMGは遊戯王の世界でのカード化に伴い、ティマイオスのところのテキストが削除され、ティマイオスじゃなくて社長の嫁に乗っているという設定です。ついでに強化されてますけどね。
さあ、楽しいデッキ作りの始まりだ!